説明

誘電体磁器およびその製造方法

【課題】 直径10mm、厚み5mmのサイズの成形体を焼成して得られた焼結体からなる試料において、誘電体磁器のサイズが大きい場合でも、優れた誘電特性を有する誘電体磁器が要求されており、この要求を満たすことができるか不明であった。
【解決手段】 誘電体磁器4内部のAlをAl換算で0.007質量%以下(ゼロを含まず。)含有し、内部におけるAlの濃度を1としたとき、誘電体磁器4の表面近傍におけるAlの濃度の比が0.5〜2であり、かつ平均気孔径が8μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において高い比誘電率及び高いQ値を有する新規の誘電体磁器に関し、特に、誘電体共振器、フィルタ、コンデンサ等の高周波用の電子部品やMIC用誘電体基板、ミリ波用導波路に適する誘電体磁器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体磁器はマイクロ波、ミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器やMIC用誘電体基板等に広く利用されている。また、最近では、ミリ波用導波路に誘電体線路が応用されている。その要求される特性としては、(1)誘電体中では伝搬する電磁波の波長が(1/εr)1/2に短縮されるので、小型化の要求に対して比誘電率が大きいこと、(2)高周波領域での誘電損失が小さいこと、すなわち高Qであること、(3)共振周波数の温度に対する変化が小さいこと、すなわち比誘電率εrの温度依存性が小さく且つ安定であること、以上の3特性が主として挙げられる。
【0003】
特許文献1には、これらの3特性を満たすものとして、BaO、SrO、MgO、WOおよびRE(希土類元素)からなる複合酸化物からなる誘電体磁器組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平12−87881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の実施例に記載されている誘電体磁器の特性は、直径10mm、厚み5mmのサイズの成形体を焼成して得られた焼結体からなる試料において、比誘電率εrが20.1〜25.3、Qfが101000〜231000、共振周波数の温度特性τfが−11.2〜41.3ppm/℃であった。特許文献1では、直径10mm、厚み5mmのサイズの成形体において、この特性を満たすことが記載されている。特許文献1に記載された誘電体磁器では、直径10mm、厚み5mmよりも大きなサイズの成形体において、この特性を満たすことは困難である。
【0005】
本発明の目的は、誘電体磁器のサイズを比較的大きくした場合でも、比較的優れた誘電特性を有する誘電体磁器およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器であって、前記誘電体磁器内部のAlをAl換算で0.007質量%以下含有し、前記誘電体磁器の内部における前記Alの質量%を1とした場合、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの質量%の比が0.5〜2であることを特徴とする誘電体磁器を提供する。
【0007】
本発明は、また、成形体を焼成用治具に載置して焼成し、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器を製造するための製造方法であって、前記焼成用治具中のAl含有量がAl換算で0.9質量%以下であることを特徴とする誘電体磁器の製造方法を、併せて提供する。
【0008】
また、本発明は、一対の入出力端子間に上述の誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動するようにしたことを特徴とする誘電体共振器も、併せて提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体磁器は、比較的大きな焼結体サイズであるとともに、比較的高い誘電特性を有する。
【0010】
本発明の誘電体磁器は、また、比較的高いQfの値を有する。
【0011】
本発明の誘電体磁器の製造方法は、誘電体特性が比較的良好な、比較的大きなサイズの誘電体磁器を製造することができる。
【0012】
本発明の誘電体共振器は、また、誘電特性の優れた誘電体共振器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明の誘電体磁器は、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器であって、Alを0.007質量%以下(ゼロを含まず。)含有し、前記誘電体磁器の内部における前記Alの濃度を1としたとき、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの濃度の比が0.5〜2である。
【0015】
ここで、誘電体磁器の表面とは誘電体磁器の表面およびその近傍をいう。好ましくは誘電体磁器の表面とは、誘電体磁器の表面および表面から2mm未満の近傍をいう。
【0016】
誘電体磁器の内部とは、好ましくは誘電体磁器表面から2mm以上離れている部分の領域をいう。誘電体磁器の形状が円盤の場合には、いずれか一方の主面の中央部から深さ方向に2mm以上離れている領域が、誘電体磁器の内部である。誘電体磁器の形状が円柱の場合には、円柱のいずれか一方の端面(平面)の中央部から深さ方向に2mm以上離れている領域が、誘電体磁器の内部である。誘電体磁器の形状が円筒の場合には、内周面と外周面の間の厚み方向の中央部であって、いずれか一方の端面から深さ方向に2mm以上離れている領域が、誘電体磁器の内部である。誘電体磁器の形状が略立方体または略直方体の場合には、いずれか一の面から深さ方向に2mm以上離れている領域が、誘電体磁器の内部である。
【0017】
Alの含有量を0.007質量%以下とすることで、焼結の際の温度を比較的低くし、Qfを比較的高くすることができる。また、Alを含むので、εrを比較的大きくすることができる。
【0018】
また、誘電体磁器の内部におけるAlの濃度を1とした場合、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの濃度の比が0.5〜2とすることで、焼結温度を比較的低くして、焼結性を比較的高くすることができる。また、焼結体のサイズを比較的大きくすることで、Qfを比較的向上させることができる。
【0019】
Alの含有量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。具体的には次の方法で測定することができる。誘電体磁器を超硬製の乳鉢で粉砕し、分析試料とする。この試料0.1gにホウ酸2gと炭酸ナトリウム3gを加えて融解し、塩酸溶液に溶解する。得られた溶液をICP発光分光分析装置、例えば島津製作所製ICPS−800にて定量分析しAl含有量を測定する。Al含有量をAl含有量に換算する。
【0020】
誘電体磁器の内部における前記Alの濃度を1としたとき、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの濃度の比は、ICP発光分光分析法により次のように測定することができる。
【0021】
誘電体磁器の表面のAlの含有量を測定する場合は、表面の領域を切り出したものを分析試料とする。誘電体磁器の形状が円盤、円柱、円筒の場合は、外周面を分析試料とすることが好ましい。
【0022】
誘電体磁器の内部のAlの含有量を測定する場合は、誘電体磁器の内部を切り出したものを分析試料とする。誘電体磁器の形状が円盤、円柱、円筒の場合は、主平面から2mm以上内部を分析試料とすることが好ましい。
【0023】
誘電体磁器は、平均気孔径が8μm以下であることが好ましい。誘電体磁器の気孔率は8μm以下であることが好ましい理由は次の通りである。
【0024】
気孔率の増加は誘電率の低下をもたらす。本実施形態の誘電体磁器では、平均気孔径を8μm以下とすることで、比誘電率εrを比較的高くすることができる。
【0025】
本発明の誘電体磁器は、平均気孔径が5μm以下であることがさらに好ましい。これによりさらに焼成温度が変化してもεrが変動することが抑制されるためである。
【0026】
平均気孔径の測定は次の方法で行うことができる。誘電体磁器を鏡面研磨して得られたものを分析試料とする。この分析試料を倍率100倍程度で金属顕微鏡にて観測して得られた画像をCCDカメラで取り込む。この画像に写っている気孔の平均気孔径を画像解析装置により測定する。画像解析装置としては、例えば株式会社ニレコ製のLUZEX FS、LUZEX SEなどを用いることができる。画像解析装置を用いた場合の測定条件は、分析試料表面の測定面積9×10−2mm、測定回数10回、測定総面積9×10−1mmである。LUZEX FSを用いた場合、ランプ電圧は5Vが好ましい。なお、本発明における平均気孔径とは、誘電体磁器の内部の平均気孔径をいう。
【0027】
本発明の誘電体磁器は、Qfを特に向上させるためには平均結晶粒径3〜4.5μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径3〜4.5μm以下とすることで、焼結性を比較的高くし、かつQfを比較的向上させることができる。
【0028】
平均結晶粒径の測定は次の方法で行うことができる。誘電体磁器を鏡面研磨して得られたものを分析試料とする。この分析試料を倍率400倍程度で金属顕微鏡にて観測して得られた画像をCCDカメラで取り込む。この画像に写っている気孔の平均気孔径を画像解析装置により測定する。画像解析装置としては、例えば株式会社ニレコ製のLUZEX FS、LUZEX SEなどを用いることができる。画像解析装置を用いた場合の測定条件は概ね次の通りである。すなわち、分析試料表面の測定面積は5.6×10−3mm、測定回数は3回、測定総面積は1.68×10−2mmである。LUZEX FSを用いた場合、ランプ電圧は5Vが好ましい。なお、本発明における平均結晶粒径とは、誘電体磁器の内部の平均結晶粒径をいう。
【0029】
本発明の誘電体磁器は、Ba、Sr、Mg、WおよびYbの各金属元素酸化物のモル比による組成式をaBaO・bSrO・cMgO・dWO・eYbと表した時、前記a、b、c、d、eが、0.35≦a≦0.55、0.01≦b≦0.25、0.10≦c≦0.30、0.15≦d≦0.35、0.01≦e≦0.20、a+b+c+d+e=1を満足することが好ましい。a、b、c、d、eが上記の範囲であることが好ましい理由は以下の通りである。
【0030】
0.35≦a≦0.55が好ましいのは、0.35≦a≦0.55の場合特に高いQf値が得られるからである。特に、0.40≦a≦0.50が好ましい。
【0031】
0.01≦b≦0.25が好ましいのは、0.01≦b≦0.25の場合、εrの温度依存性が小さいので、温度が変化してもεrが変化しにくいからである。特に、0.01≦b≦0.15が好ましい。
【0032】
0.10≦c≦0.30が好ましいのは、0.10≦c≦0.30の場合、高いQf値が得られるからである。特に、0.15≦c≦0.25が好ましい。
【0033】
0.15≦d≦0.35が好ましいのは、0.15≦d≦0.35の場合、高いQf値が得られるからである。特に、0.20≦d≦0.30が好ましい。
【0034】
0.01≦e≦0.20が好ましいのは、0.01≦e≦0.20の場合、εrの温度依存性が小さいからである。特に、0.01≦e≦0.10が好ましい。
【0035】
また、本発明の誘電体磁器は金属元素としてMnをMnO換算で0.01〜0.2質量%含有することが好ましい。金属元素としてMnをMnO換算で0.01〜0.2質量%含有することで、焼結性を比較的良好なものとし、かつ、Qf値を比較的向上させることができる。
【0036】
また、本発明の誘電体磁器は、BaWOの(112)面に帰属するX線回折ピ−ク強度をP1、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶の(220)面に帰属するX線回折ピーク強度をP2としたとき、比f=P1/P2が0.024以下であることが好ましい。これにより、高いQf値が得られる。特に、fが0.013以下であることが好ましい。前記BaWOの結晶構造については、例えばJCPDS−ICDDのNo.43−646等に説明が記載されている。Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶の結晶構造は例えばJCPDS−ICDDのNo.43−646に記載されている。ここで、JCPDS−ICDDとは、国際回析データセンター(International Centre for Diffraction Data、略してICDD)の粉末回折標準委員会(Joint Committee on Powder Diffraction Standards、略してJCPDS)が発行した粉末データファイル(Powder Data File)である。
【0037】
誘電体磁器のX線回折による分析は、X線回折装置を用いて行うことができる。X線回折装置の候補としては、スペクトリス株式会社のPW3050などがある。測定条件は、回折角2θ=10〜80°、X線出力;40Kv:50mA、scan speed:0.02、step:0.01、time:2.0、MASK:15mm、検出器:high、回転有り、である。X線回折を行うために用いるX線回折装置は、株式会社リガク製のRINTシリーズ、RINT−TTRIIIなどでも良い。
【0038】
本発明の誘電体磁器の製造方法について説明する。本発明の誘電体磁器の製造方法は、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主成分とする成形体を、焼成用治具に載置して焼成し、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器を製造するための製造方法であって、前記焼成用治具中のAl含有量がAl換算で0.9質量%以下である。これにより、誘電体磁器のサイズが大きい場合でも、Qfの高い誘電体磁器を得ることができる製造方法を提供することができる。
【0039】
前記成形体に含まれる金属元素のモル比による組成式をaBaO・bSrO・cMgO・dWO・eYbと表した時、前記a、b、c、d、eは、0.35≦a≦0.55、0.01≦b≦0.25、0.10≦c≦0.30、0.15≦d≦0.35、0.01≦e≦0.20、a+b+c+d+e=1を満足することが好ましい。
【0040】
焼成用治具中のAl含有量がAl換算で0.9質量%以下の場合には、焼成用治具から誘電体磁器へAlが拡散しにくい。このため、焼成後の誘電体磁器のAl含有量をAl換算で0.007質量%以下とし、かつ誘電体磁器の内部における前記Alの濃度を1としたとき、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの濃度の比が0.5〜2である誘電体磁器を製造することができる。特に、サイズが直径25mm以上、厚みが15mm以上の誘電体磁器であっても、誘電体磁器のAl含有量と、Alの濃度比を、本発明の誘電体磁器の範囲にすることができる。
【0041】
焼成治具中のAl含有量がAl換算で0.9質量%を越えると、誘電体磁器のサイズが大きい場合、Qfの高い誘電体磁器の製造方法を提供することが困難となる。
【0042】
焼成治具中のAl量の測定は以下の方法で行うことができる。焼成用治具を超硬乳鉢にて粉砕し、分析試料とする。この分析試料0.1gにホウ酸2gと炭酸ナトリウム3gを加えて融解し、塩酸溶液に溶解する。この溶液をICP発光分光分析装置(島津製作所製ICPS−800)にてAlの定量分析を行う。得られたAl含有量をAl量に換算する。
【0043】
本発明の誘電体磁器は具体的には、例えば以下のように製造される。Ba、Sr、Mg、WおよびYbの酸化物あるいは焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の金属塩を主原料として準備し、これらを前述の範囲になるように秤量した後、調合水を加え、混合原料をジルコニアボール等を使用したミルにより湿式混合・粉砕を行う。そして、混合物を所定の温度にて乾燥させた後、この混合物を1100〜1300℃で仮焼処理する。
【0044】
この得られた仮焼粉末に調合水を加え、混合原料のジルコニアボール等を使用したミルにより湿式混合し、平均粒径0.8〜1.2μmに粉砕する。さらに所定量、例えば3〜6質量%程度の成形用の有機バインダーを加えてからスラリーを作製し、得られたスラリーをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して造粒体を得る。さらに、得られた造粒体を所望の成形手段、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、押し出し成形等により任意の形状に成形して成形体を得る。その後、大気などの酸化性雰囲気中で脱バインダー処理し、この後、1600〜1700℃で2〜10時間保持した後、1200〜800℃迄を5〜100℃/時間で降温することにより誘電体磁器が得られる。
【0045】
成形体を載置するための焼成用治具として次の基板を用いることができる。すなわち、第1の候補は、高純度マグネシアであって、AlをAl換算で0.9質量%以下含む焼結体からなる基板であり、第2の候補は、高純度酸化イットリウムであって、AlをAl換算で0.9質量%以下含む焼結体からなる基板である。
【0046】
脱バインダー処理は、焼成と同一工程で行っても、別工程で行っても構わない。
【0047】
本発明の誘電体磁器は、一対の入出力端子間に上記からなる誘電体磁器を配置し、電磁界結合により作動する誘電体共振器を構成したものである。
【0048】
本発明の誘電体磁器は、特に誘電体共振器の誘電体磁器として最も好適に用いられる。図1にTEモード型の誘電体共振器の概略図を示した。図1の誘電体共振器は、金属ケース1内壁の相対する両側に入力端子2および出力端子3を設け、これらの入出力端子2、3の間に上記誘電体磁器組成物からなる誘電体磁器4を配置して構成される。このようなTEモード型の誘電体共振器は、入力端子2からマイクロ波が入力され、マイクロ波は誘電体磁器4と自由空間との境界の反射によって誘電体磁器4内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。この信号が出力端子3と電磁界結合して出力される。
【0049】
図示していないが、本発明の誘電体磁器をTEMモードを用いた同軸型共振器やストリップ線路共振器、TMモード誘電体磁器共振器、その他の共振器に適用して良いことは勿論である。更には、入力端子2および出力端子3を誘電体磁器4に直接設けても誘電体共振器が構成できる。
【0050】
上記誘電体磁器4は、本発明の誘電体磁器からなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱、その他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は1〜500GHz程度であり、共振周波数として2〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0051】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更は何等差し支えない。
【実施例】
【0052】
<参考例1>
原料として純度99%以上のBaCO、SrCO、MgCO、WO、YbおよびMnOの各粉末を用いて、これらを表1に示す割合(a,b,c,d,eの比率に換算した値、およびMnO含有量)に秤量し、さらに純水を入れて、ジルコニアボールを用いたミルにより湿式混合・粉砕を行った。粉砕粒度の平均粒径は0.5〜1μmとした。
【0053】
その後、この混合物を脱水、乾燥した後、1200〜1300℃で2時間仮焼した。得られた仮焼物に純水を入れ、ジルコニアボールを用いたミルにより湿式混合・粉砕を行った。この粉砕は、平均粒径が0.8〜1.2μmとなるような湿式粉砕とした。
【0054】
その後、成形用の有機系結合材を加えた後、スプレードライヤーにて噴霧乾燥・造粒した。得られた粉末を粉末加圧成形機にて成形圧100MPaで、直径10mm、厚み5mmの成形体Aと、直径30mm、厚み15mmの成形体Bの2種類の大きさの円柱に、それぞれ複数個成形した。更にこれらの円柱を1670〜1700℃で2〜10時間保持した後、1200〜800℃を5〜100℃/時間で降温して焼成して誘電体磁器を得た。焼成用治具として、高純度マグネシアであって、AlをAl換算で0.1質量%含有する焼結体からなる基板を用いた。
【0055】
得られた誘電体磁器の両平面をそれぞれ0.3mm平面研磨し洗浄・乾燥して試料A(成形体Aを用いて作製した試料)、試料B(成形体Bを用いて作製した試料)を、表1、2に示したNo.についてそれぞれ複数作製した。
【0056】
その後、22℃において、円柱共振器法により試料A,Bの誘電率ε、Q値を測定した。εr、Q値を測定したときの測定周波数は、試料Aについては6〜9GHz、試料Bについては、1〜3GHzであった。Qfは、測定値Qと測定周波数fとをかけた値である。
【0057】
得られた試料A,Bの25〜85℃における共振周波数の温度係数τfを、式τf={[(f85−f25)/f25]/60}×10[ppm/℃]に基づいて計算した。ここで、f85は85℃における共振周波数であり、f25は25℃における共振周波数である。それらの結果を表1から5に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
試料Aを粉砕し、Ba,Sr,Mg,WおよびYb含有量をICP発光分光分析を用いて測定し、BaO、SrO、MgO、WO、YbおよびMnOの含有量に換算したところ、表1の通り調合組成と同じであった。同様に試料BのNo.23〜44のBa,Sr,Mg,WおよびYb含有量をそれぞれ測定したところ、表2に示す通り、試料No.1〜22とそれぞれ同じであった。
【0064】
試料Aを粉砕して得られた分析試料のAlの含有量をICP発光分光分析装置を用いて定量分析し、Al含有量に換算した。
【0065】
試料Bの内部のAl含有量は、表面から深さ2mm以上離れた領域から切り出した部分をICP発光分光分析装置を用いて測定しAl含有量に換算した。試料Bの表面のAl含有量は、試料Bの各平面部分(上部、下部)を切り出して同様に測定した。ここで、下部は焼成の際に、成形体Bを焼成用治具に載置した側の面である。上部は、焼成の際に、成形体Bが固体に接しないようにして焼成された面である。各内部のAl含有量を1とするとき、上部のAl含有量を内部のAl含有量で割った値、上部のAl含有量を内部のAl含有量で割った値をそれぞれ求めた。上部のAl含有量を内部のAl含有量で割った値、上部のAl含有量を内部のAl含有量で割った値を、それぞれのAl濃度比として計算した。
【0066】
平均気孔径の測定は次の方法で行った。試料A、B器鏡面研磨して得られたものを分析試料とした。この分析試料を倍率100倍で金属顕微鏡にて観測して得られた画像をCCDカメラで取り込んだ。この画像に写っている気孔の平均気孔径を画像解析装置により測定した。画像解析装置としては、株式会社ニレコ製のLUZEX SEを用いた。画像解析装置を用いた場合の測定条件は、分析試料表面の測定面積9×10−2mm、測定回数10回、測定総面積9×10−1mmとした。
【0067】
平均結晶粒径の測定は次の方法で行った。試料A,Bを鏡面研磨して得られたものを分析試料とした。この分析試料を倍率400倍程度で金属顕微鏡にて観測して得られた画像をCCDカメラで取り込んだ。この画像に写っている気孔の平均気孔径を画像解析装置により測定した。画像解析装置としては、株式会社ニレコ製のLUZEX SEを用いた。画像解析装置を用いた場合の測定条件は次の通りである。すなわち、分析試料表面の測定面積は5.6×10−3mm、測定回数は3回、測定総面積は1.68×10−2mmであった。ここで、平均気孔径は、各気孔の気孔径を円相当径に換算した値を用いて計算した。
【0068】
試料Bを株式会社リガク製のRINTシリーズのX線回折を用いて分析した。X線回折におけるBaWOの(112)面に帰属する、2θ=26〜27°のピ−ク強度をP1、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶の(220)面に帰属する、2θ=30〜32°のピーク強度をP2としたとき、ピーク強度比f=P1/P2を求めた。X線回折により測定した結果、BaWOの結晶構造はJCPDS−ICDDのNo.43−646に記載された構造であった。Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶の構造はJCPDS−ICDDのNo.43−646に記載された構造であった。
【0069】
結果を表1,2に示す。試料Aについては、表1に示すように、No.1〜22のいずれの試料Qfが101000〜240000と比較的高く、εrは20.4〜26.3であった。試料BのNo.23〜36は、Qfが119000〜240000と比較的高かった。Qfが12000〜60000である、Al含有量が0.007質量%を越える試料BのNo.37〜38、40〜44に比べて、試料AのQfはより高い。
<参考例2>
粉砕粒度および焼成温度を変化させることによって平均結晶粒径3〜5μmの範囲内で変化させて試料を作製した以外は、参考例1の試料No.1と同様にして、試料Bを作製した。その結果、表3に示すように、平均結晶粒径が3〜4.5μmの範囲内のNo.45〜48はQfが214000〜240000と特に高かった。平均結晶粒径が3〜4.5μmの範囲外の試料であるNo.48および49は、Qfが179000および184000であった。
<参考例3>
MnO量の含有量を変化させた以外は、参考例1の試料No.1と同様にして、試料Bを作製した。その結果、表4に示すように、MnO量が0.01〜0.2質量%の範囲内のNo.50,52は、Qfが220000、210000と特に高かった。MnO量が0.01〜0.2質量%の範囲内のNo.51,53,54はQfが150000〜1750000であった。
<参考例4>
焼成用治具中のAl量を変化させて試料を作製した以外は、参考例1のNo.1と同様にして試料Bを作製し、参考例1と同様に評価した。その結果、試料BのAl量が表5に示す結果となった。Al量が0.001〜0.007質量%の範囲内であるNo.55〜58は、Qfが175000〜220000と比較的高かった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の誘電体共振器の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1:金属ケース
2:入力端子
3:出力端子
4:誘電体磁器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器であって、前記誘電体磁器内部のAlをAl換算で0.007質量%以下含有し、前記誘電体磁器内部における前記Alの質量%を1とした場合、前記誘電体磁器の表面近傍におけるAlの質量%の比が0.5〜2であり、かつ平均気孔径が8μm以下であることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
前記誘電体磁器を構成する結晶の平均結晶粒径が3〜4.5μmであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
金属元素としてMnをMnO換算で0.01〜0.2質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
【請求項4】
BaWOの(112)面に帰属するX線回折ピ−ク強度をP1、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶の(220)面に帰属するX線回折ピーク強度をP2としたとき、P1/P2が0.024以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体磁器。
【請求項5】
成形体を焼成用治具に載置して焼成し、Ba、Sr、Mg、WおよびYbを含有するペロブスカイト型結晶を主結晶相とする誘電体磁器を製造するための製造方法であって、前記焼成用治具中のAl含有量がAl換算で0.9質量%以下であることを特徴とする誘電体磁器の製造方法。
【請求項6】
一対の入出力端子間に請求項1乃至4のいずれかに記載の誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動するようにしたことを特徴とする誘電体共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263166(P2009−263166A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114904(P2008−114904)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】