説明

誘電体磁器および積層セラミックコンデンサ

【課題】 印加する電圧が低い場合にも高い絶縁抵抗が得られるとともに、電圧を増加させた際の絶縁抵抗の低下が小さい誘電体磁器と、このような誘電体磁器を誘電体層として備え、高温負荷試験での寿命特性に優れる積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 チタン酸バリウムを主成分とし、カルシウムおよびバナジウムを含有する結晶粒子と、該結晶粒子間に存在する粒界相とを有する誘電体磁器であって、前記チタン酸バリウムを構成するバリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対して、バナジウムをV換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度がチタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成される誘電体磁器と、それを誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などモバイル機器の普及や、パソコンなどの主要部品である半導体素子の高速、高周波化に伴い、このような電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサは、電源用途として、小型、高容量化の要求がますます高まっており、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層は薄層化と高積層化が求められている。
【0003】
ところで、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層用の誘電体磁器として、従来より、チタン酸バリウムを主成分とする誘電率材料が用いられている。近年、チタン酸バリウム粉末に、マグネシウム、希土類元素およびバナジウム等の酸化物粉末を添加して、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子の表面付近にマグネシウムや希土類元素を固溶させた誘電体磁器が開発され、積層セラミックコンデンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1では、上述のように、誘電体層を構成する結晶粒子の主成分であるチタン酸バリウムにマグネシウム、希土類元素およびバナジウムなどを含有させ、X線回折チャートにおいて、(200)面の回折線と(002)面の回折線とが一部重なって幅広の回折線となる結晶構造(いわゆるコアシェル構造)とすることで、絶縁破壊電圧やIR加速寿命などの特性の改善が図られている。
【0005】
また、特許文献2では、チタン酸バリウムに固溶させるバナジウムの価数を4価に近い範囲になるように調整することで、結晶粒子中に存在する電子の移動を抑制しつつ、チタン酸バリウムへのバナジウムの過剰な拡散やバナジウム化合物の析出を抑え、結晶粒子中にバナジウムの適度な濃度勾配があるシェル相を持ったコアシェル構造を形成することにより、この場合も、寿命特性の向上が図られている。
【0006】
ここで、結晶粒子のコアシェル構造とは、結晶粒子の中心部であるコア部と外殻部であるシェル部とが物理的、化学的に異なる相を形成している構造をいい、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子については、コア部は正方晶系の結晶構造を有するチタン酸バリウムで占められており、シェル部は立方晶系の結晶構造を有するチタン酸バリウムにより占められている状態をいう。
【特許文献1】特開平8−124785号公報
【特許文献2】特開2006−347799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1、2のように、誘電体層を構成する結晶粒子がコアシェル構造を有するものは、印加する電圧が低い場合には高い絶縁抵抗が得られるものの、印加する電圧を増加させたときに絶縁抵抗の低下が大きくなるという問題があった。
【0008】
また、上述した特許文献1、2のように、結晶粒子がコアシェル構造を有する誘電体磁器を誘電体層として備える積層セラミックコンデンサでは、誘電体磁器の絶縁抵抗の低下に起因して、誘電体層が薄層化された場合に高温負荷試験での寿命特性を満足させることが困難であった。
【0009】
従って、本発明は、印加する電圧が低い場合にも高い絶縁抵抗が得られるとともに、電圧を増加させた際の絶縁抵抗の低下が小さい誘電体磁器と、このような誘電体磁器を誘電体層として備え、高温負荷試験での寿命特性に優れる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とし、カルシウムおよびバナジウムを含有する結晶粒子と、該結晶粒子間に存在する粒界相とを有する誘電体磁器であって、前記チタン酸バリウムを構成するバリウムおよび前記カルシウムの合計量1モルに対して、前記バナジウムをV換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、X線回折チャートにおいて、前記チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度が前記チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の誘電体磁器は、前記カルシウムの濃度が0.4原子%以上であることが望ましい。
【0012】
また、本発明の誘電体磁器は、前記結晶粒子中にマグネシウムを含有することが望ましい。
【0013】
また、本発明の誘電体磁器は、マグネシウム、希土類元素およびマンガンをさらに含み、その一部または全部を前記結晶粒子中に含有するとともに、前記チタン酸バリウムを構成する前記バリウムおよび前記カルシウムの合計量1モルに対して、前記マグネシウムをMgO換算で0.01〜0.02モル、前記希土類元素をRE換算で0.03〜0.06モル、前記マンガンをMnO換算で0.003〜0.007モル含有するとともに、前記バナジウムをV換算で0.001〜0.003モル含有することが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の積層セラミックコンデンサは、上記の誘電体磁器からなる誘電体層と内部電極層との積層体から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体磁器によれば、チタン酸バリウムを主成分とし、カルシウムおよびバナジウムを所定の割合で含む結晶粒子と、該結晶粒子間に存在する粒界相とを有し、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度がチタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きいものとしたことにより、印加する電圧が低い場合にも高い絶縁抵抗が得られるとともに、電圧を増加させた際の絶縁抵抗の低下が小さい(絶縁抵抗の電圧依存性が小さい)誘電体磁器を得ることができる。
【0016】
また、前記結晶粒子をカルシウム濃度が0.4原子%以上含む結晶粒子としたときには、高絶縁性に加えて、高誘電率の誘電体磁器を得ることができる。
【0017】
また、前記結晶粒子中にマグネシウムを含有させたときは、マグネシウムの含有量によって、誘電体磁器のキュリー温度を128℃以下の温度範囲で任意の温度に容易に変化させることが可能となり、これにより所望とする温度付近で最大の比誘電率を有する誘電体磁器を得ることができる。
【0018】
また、マグネシウム、希土類元素およびマンガンをさらに含み、その一部または全部を前記結晶粒子中に含有するとともに、チタン酸バリウムを構成するバリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対して、バナジウムをV換算で0.001〜0.003モル、マグネシウムをMgO換算で0.01〜0.02モル、希土類元素をRE換算で0.03〜0.06モル、マンガンをMnO換算で0.003〜0.007モル含有させたときには、印加する電圧が低い場合にもさらに高い絶縁抵抗が得られ、かつ絶縁抵抗の電圧依存性が小さく、高誘電率の誘電体磁器を得ることができる。
【0019】
また、本発明の積層セラミックコンデンサによれば、誘電体層として、上記の誘電体磁器を適用することにより、誘電体層を薄層化しても高い絶縁性を確保できることから高温負荷試験における寿命特性に優れる積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とし、カルシウムおよびバナジウムを含有する結晶粒子と、該結晶粒子間に存在する粒界相とを有するものであり、そのバナジウムの大部分は結晶粒子中に固溶している。
【0021】
誘電体磁器中におけるバナジウムの含有量は、チタン酸バリウムを構成するバリウム、およびカルシウムの合計量1モルに対して、V換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度がチタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きいものである。
【0022】
本発明によれば、誘電体磁器を上記組成とし、この誘電体磁器を構成する結晶粒子の結晶構造が上述したX線回折チャートの回折強度の関係になるように調製することにより、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの高温(85℃)での絶縁抵抗をそれぞれ1×10Ω以上にでき、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率を30%以下にでき、さらに、比誘電率を2000以上にできるという利点がある。
【0023】
なお、絶縁抵抗を高温(85℃)で測定するのは、室温では電圧を印加したときに誘電体磁器への吸収電流により測定値にぶれが生じて値が安定しないためである。
【0024】
また、単位厚み当たりの絶縁抵抗が85℃において1×10Ω以上であれば誘電体磁器として、高い絶縁性を有することから比誘電率などの誘電特性を適正に発現できる。逆に、単位厚み当たりの絶縁抵抗が85℃において1×10Ωよりも低くなると、絶縁破壊により誘電特性が適正に得られなくなる。
【0025】
さらに、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%以下であると、誘電体磁器の絶縁破壊電圧を高められるという利点がある。一方、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%よりも大きくなると誘電体磁器の絶縁破壊電圧が低く、印加する電圧の変化に対して誘電特性の変動が大きくなる。
【0026】
ここで、本発明の誘電体磁器の結晶構造についてさらに詳細に説明すると、本発明の誘電体磁器は、誘電体磁器の比誘電率を高められるという点で結晶粒子中にカルシウムを含有するものである。そのカルシウム(Ca)濃度は0.4原子%以上であることが好ましい。結晶粒子中のCa濃度が0.4原子%よりも低い場合には比誘電率を高める効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0027】
なお、結晶粒子中のCa濃度については、研磨した誘電体磁器中に存在する結晶粒子に対して、透過電子顕微鏡およびエネルギー分散分析器(EDS)を用いて、結晶粒子の中心部近傍の任意の場所を分析して求める。このとき、結晶粒子から検出されるBa、Ti、Ca、V、Mg、希土類元素およびMnの全量を100%として、その含有量を求めた。評価した結晶粒子は各試料について10点とし平均値を求める。
【0028】
また、本発明の誘電体磁器は、上述のカルシウムの他にバナジウムを含有するものであるが、結晶粒子中にバナジウムが固溶しても、ほとんど正方晶系を示す単相に近い結晶相により占められている。
【0029】
図1の(a)は、後述の実施例の表1〜3における本発明の誘電体磁器である試料No.4のX線回折チャートを示すものであり、(b)は、同表1〜3において比較例の誘電体磁器である試料No.37のX線回折チャートである。
【0030】
ここで、特許文献1および特許文献2にそれぞれ記載するような従来の誘電体磁器は、その結晶構造がコアシェル構造であり、図1の(b)のX線回折チャートに相当するものである。
【0031】
即ち、チタン酸バリウムを主成分とし、コアシェル構造を有する結晶粒子により構成される誘電体磁器では、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面および(400)面の間に現れるチタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面((040)面、(400)面が重なっている。)の回折強度がチタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きくなっている。
【0032】
また、コアシェル構造を示す結晶粒子により構成される誘電体磁器は、正方晶系の結晶相に対して立方晶系の結晶相の割合が多いために、結晶の異方性が小さくなる。そのために、X線回折チャートは(400)面の回折線が低角度側にシフトするとともに(004)面の回折線が高角度側にシフトし、両回折線は互いに少なくとも一部が重なるようになり、幅広の回折線となる。
【0033】
このような誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とする粉末に、マグネシウムや希土類元素などの酸化物粉末を添加混合したものを成形した後、還元焼成することによって形成されるものであるが、この場合、コアシェル構造を有する結晶粒子は、コア部におけるマグネシウムや希土類元素などの成分の固溶量が少ないことから、結晶粒子の内部において、酸素空孔などの欠陥を多く含んだ状態であり、このため直流電圧を印加した場合に、結晶粒子の内部において酸素空孔などが電荷を運ぶキャリアになりやすく誘電体磁器の絶縁性を低下させると考えられる。
【0034】
これに対して、本発明の誘電体磁器は、図1の(a)に示すように、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度が、チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きい。
【0035】
即ち、本発明の誘電体磁器は、図1の(a)に見られるように、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面(2θ=100°付近)と(400)面(2θ=101°付近)のX線回折ピークが明確に現れるものであり、チタン酸バリウムの正方晶系を示すこれら(004)面および(400)面の間に現れるチタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面((040)面、(400)面が重なっている。)の回折強度が、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度よりも小さくなっている。
【0036】
特に、本発明の誘電体磁器では、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度をIxt、チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度をIxcとしたときに、Ixt/Ixc比が1.6〜3.1、特に、2.2〜3.1であることが望ましい。Ixt/Ixc比が1.6〜3.1、特に、2.2〜3.1であると、正方晶系の結晶相の割合が多くなり、絶縁抵抗の変化率をより小さくできる。
【0037】
このような本発明の誘電体磁器は、カルシウムとともにバナジウムを含有しても、正方晶系のほぼ均一な結晶相となっていることから、そのような結晶粒子は全体にわたって少なくともバナジウムが固溶している。そのため結晶粒子の内部において酸素空孔などの欠陥の生成が抑制され電荷を運ぶキャリアが少ないことから、直流電圧を印加した際の誘電体磁器の絶縁性の低下を抑えることが可能になると考えられる。
【0038】
ただし、本発明の誘電体磁器に含まれるバリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対するバナジウムの含有量がV換算で0.0005モルよりも少ない場合には、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%よりも大きくなり、また、バリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対するバナジウムの含有量がV換算で0.03モルよりも多い場合には、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vとして測定したときの絶縁抵抗が1×10Ωよりも低くなる。そのため、バリウム1モルに対してバナジウムをV換算で0.001〜0.03モル含有させてある。
【0039】
また、本発明の誘電体磁器では、結晶粒子中にマグネシウムを含有することが望ましい。結晶粒子中にマグネシウムを含有させると、マグネシウムの含有量によって誘電体磁器のキュリー温度を128℃以下の温度範囲で任意の温度に変化させることが可能となり、これにより所望とする温度付近で最大の比誘電率を有する誘電体磁器を得ることができる。例えば、誘電体磁器中に含まれるマグネシウムの含有量をバリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対してMgO換算で0.01〜0.03モルとすると、キュリー温度を33〜123℃の範囲で任意に調整することができる。
【0040】
また、本発明の誘電体磁器では、カルシウムおよびバナジウムを必須成分とし、その他の成分として、マグネシウム、希土類元素およびマンガンを含んでいてもよく、その場合、その一部または全部が結晶粒子中に含有したものが良い。特に、チタン酸バリウムを構成するバリウムおよびカルシウムの合計量1モルに対して、マグネシウムをMgO換算で0.01〜0.02モル、希土類元素をRE換算で0.03〜0.06モル、マンガンをMnO換算で0.003〜0.007モルの割合で含有するとともに、バナジウムをV換算で0.001〜0.003モル含有することが望ましい。
【0041】
これにより単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗を4.5×10Ω以上にでき、また、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率を18%以下に小さくできる。さらに、誘電体磁器が示すキュリー温度を53〜121℃となり、これにより、室温付近からそれ以上の高温までの温度範囲において比誘電率が最大となる温度を任意に調整することが可能となり、さらに高温(85℃)での比誘電率が3400以上を有する誘電体磁器を得ることができ、特に、使用時に高温に晒される電源用途の積層セラミックコンデンサの誘電体材料として好適に用いることができる。この場合、希土類元素としては、イットリウム、ディスプロシウム、エルビウムおよびホルミウムのうちの少なくとも1種が好ましく、特に、誘電体磁器の比誘電率を高められるという理由からイットリウムがより好ましい。なお、本発明におけるキュリー温度は比誘電率の温度特性を測定した範囲(−60〜150℃)において比誘電率が最大となる温度である。
【0042】
次に、本発明の誘電体磁器を製造する方法について説明する。
【0043】
まず、原料粉末として、それぞれ純度が99%以上のBaCO粉末、CaCO粉末、TiO粉末およびV粉末を用意する。
【0044】
そして、BaCO粉末、CaCO粉末およびTiO粉末は、BaCO粉末に含まれるBaおよびCaCO粉末に含まれるCaの合計量1モルに対してTiが0.98〜1モルの範囲の組成になるように調整する。また、V粉末は、BaCO粉末に含まれるBaおよびCaCO粉末に含まれるCaの合計量1モルに対して0.0005〜0.03モルの割合になるように配合する。
【0045】
また、添加剤として、MgO粉末、希土類元素の酸化物粉末およびMnCO粉末を加える場合、これらの添加剤の粉末は、BaCO粉末、CaCO粉末、TiO粉末およびV粉末とともに、BaCO粉末に含まれるBaおよびCaCO粉末に含まれるCaの合計量1モルに対して、MgO粉末を0.03モル以下、希土類元素の酸化物粉末を0.06モル以下、およびMnCO粉末を0.007モル以下の割合になるように混合する。
【0046】
次に、上記した原料粉末の混合物を湿式混合し、乾燥させた後、温度900〜1200℃で仮焼し、粉砕する。仮焼温度が900℃以上であると、チタン酸バリウムを主成分とする仮焼粉末へのカルシウムおよびバナジウムの固溶を高められるという利点があり、一方、仮焼温度が1200℃以下であると、仮焼粉末の異常粒成長が抑えられ、高い反応性を持った仮焼粉末が得られるという利点がある。
【0047】
この後、仮焼粉末をペレット状に成形し、常圧で1100℃〜1500℃の温度範囲で、還元雰囲気中にて焼成を行うことにより本発明の誘電体磁器を得ることができる。焼成温度が1100℃以上であると、誘電体磁器の緻密化が図れるという利点があり、一方、焼成温度が1500℃以下であると結晶粒子の異常粒成長が抑えられ、この場合にも緻密化が図れるという利点がある。
【0048】
図2は、本発明の積層セラミックコンデンサの例を示す断面模式図である。本発明の積層セラミックコンデンサは、コンデンサ本体10の両端部に外部電極3が設けられたものであり、また、コンデンサ本体10は誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層された積層体10Aから構成されている。そして、誘電体層5は上述した本発明の誘電体磁器によって形成されることが重要である。なお、図2では、誘電体層5と内部電極層7との積層の状態を単純化して示しているが、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5と内部電極層7とが数百層にも及ぶ積層体を形成している。
【0049】
このような本発明の積層セラミックコンデンサによれば、誘電体層5として、上記の誘電体磁器を適用することにより、誘電体層5を薄層化しても高い絶縁性を確保でき、高温負荷試験での寿命特性に優れ、且つ高温においても高誘電率の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0050】
ここで、本発明の誘電体磁器は、絶縁抵抗の電圧依存性が小さいことから、誘電体層5の厚みが2μm以下、特に、1μm以下であるような薄層の誘電体層を備えた積層セラミックコンデンサに好適なものとなる。
【0051】
内部電極層7は高積層化しても製造コストを抑制できるという点で、ニッケル(Ni)や銅(Cu)などの卑金属が望ましく、特に、本発明における誘電体層5との同時焼成が図れるという点でニッケル(Ni)がより望ましい。
【0052】
外部電極3は、例えば、CuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成される。
【0053】
次に、積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。上記の原料粉末にポリビニルブチラールやトルエンを含む有機ビヒクルを加えてセラミックスラリを調製し、次いで、セラミックスラリをドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いてセラミックグリーンシートを形成する。この場合、セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で1〜4μmが好ましい。
【0054】
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストはNi、Cuもしくはこれらの合金粉末が好適である。
【0055】
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねてシート積層体を形成する。この場合、シート積層体中における内部電極パターンは、長寸方向に半パターンずつずらしてある。
【0056】
次に、シート積層体を格子状に切断して、内部電極パターンの端部が露出するようにコンデンサ本体成形体を形成する。このような積層工法により、切断後のコンデンサ本体成形体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
【0057】
次に、コンデンサ本体成形体を脱脂したのち、上述した誘電体磁器と同様の焼成条件および弱還元雰囲気での熱処理を行うことによりコンデンサ本体を作製する。
【0058】
次に、このコンデンサ本体の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極を形成する。また、この外部電極の表面には実装性を高めるためにメッキ膜を形成しても構わない。
【実施例】
【0059】
本発明の誘電体磁器を以下のように作製した。まず、いずれも純度が99.9%のBaCO粉末、CaCO粉末、TiO粉末、V粉末、MgO粉末、Y粉末、Dy粉末、Ho粉末、Er粉末、およびMnCO粉末を用意し、表1に示す割合で調合して混合粉末を調製した。表1、2に示す量は前記元素の酸化物換算量に相当する量である。
【0060】
次に、混合粉末を温度1000℃にて仮焼し、仮焼粉末を粉砕した。この後、混合粉末を造粒し、直径16.5mm、厚さ0.7mmの形状のペレット状に成形した。
【0061】
次に、各組成のペレットを、水素−窒素の雰囲気中にて、1300℃で焼成した。
【0062】
作製した試料について、以下の評価を行った。
【0063】
まず、X線回折(2θ=99〜102°、Cu−Kα)を用いて結晶相の同定を行い、次いで、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度(Ixt)と、立方晶系を示す(004)面の回折強度(Ixc)との比(Ixt/Ixc)を求めた。
【0064】
また、結晶粒子中のCa濃度については、研磨した誘電体磁器中に存在する結晶粒子に対して、透過電子顕微鏡およびエネルギー分散分析器(EDS)を用いて、結晶粒子の中心部近傍の任意の場所を分析して求めた。このとき、結晶粒子から検出されるBa、Ti、Ca、V、Mg、希土類元素およびMnの全量を100%として、その含有量を求めた。評価した結晶粒子は各試料について10点とし平均値を求めた。
【0065】
次に、焼成した試料について比誘電率、キュリー温度および絶縁抵抗を評価した。まず、焼成後のペレットの表面の全面にインジウム・ガリウムの導体層を印刷した。次いで、作製した誘電体磁器であるこれらの試料についてLCRメーター4284Aを用いて、85℃の温度にて、周波数1.0kHz、入力信号レベル1.0Vにて静電容量を測定し、試料の直径と厚みおよび導体層の面積から比誘電率を算出した。
【0066】
キュリー温度は、各試料を−60〜150℃の範囲で静電容量を測定し、静電容量が最大となる温度とした。
【0067】
絶縁抵抗は、温度85℃において、0.1V/μmおよび2.5V/μmの条件にて測定し、0.1V/μmの条件での測定値に対する2.5V/μmの条件での測定値の比から絶縁抵抗の変化率を求め、絶縁抵抗の電圧依存性を評価した。
【0068】
また、試料の組成分析はICP分析もしくは原子吸光分析により行った。この場合、得られた誘電体磁器を硼酸と炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される属に従った価数として酸素量を求めた。
【0069】
調合組成と焼成温度を表1に、焼結体中の各元素の酸化物換算での組成を表2に、および特性の結果を表3にそれぞれ示した。
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表1〜3の結果から明らかなように、Ca濃度が0.2原子%以上のチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成され、チタン酸バリウムを構成するバリウム、およびカルシウムの合計量1モルに対して、バナジウムをV換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度が、チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きい本発明の試料No.2〜6、8〜17、19〜22、24〜35および38では、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗が10Ω以上であり(表3では、仮数部と指数部の間にEを入れる指数表記で示した。例えば、試料No.1における印加電圧0.1V/μmでの絶縁抵抗として「1.82E+08」とは、1.82×10であることを意味する。)、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%以下であった。また、キュリー温度が33〜123℃であり、高温(85℃)での比誘電率が2050以上であった。
【0073】
また、Ca濃度が0.5原子%のチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成され、チタン酸バリウムを構成するバリウム、およびカルシウムの合計量1モルに対して、バナジウムをV換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度が、チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きい本発明の試料No.2〜6、8〜17、19〜22および24〜35では、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗が10Ω以上であり、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%以下であり、キュリー温度が33〜123℃であり、高温(85℃)での比誘電率が2110以上であった。
【0074】
また、前記結晶粒子中にマグネシウムを含有させた試料では、誘電体磁器のキュリー温度が33〜123℃の範囲となり、85℃における比誘電率を最高で7800まで高めることができた。このことからマグネシウムの含有量を調整することにより誘電体磁器のキュリー温度を128℃以下の範囲で容易に制御できることがわかる。
【0075】
また、バナジウムを必須成分とし、これにマグネシウム、希土類元素およびマンガンのを含み、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、バナジウムをV換算で0.001〜0.003モル、マグネシウムをMgO換算で0.01〜0.02モル、希土類元素をRE換算で0.03〜0.06モル、マンガンをMnO換算で0.003〜0.007モル含有する試料No.19、20、25、28および31では、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗が4.5×10Ω以上であり、また、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が18%よりも小さく、かつ高温(85℃)での比誘電率を3420以上に高めることができた。
【0076】
これに対して、本発明の範囲外の試料では、誘電体磁器の比誘電率が2050よりも低いか、単位厚み当りに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗が10Ωより低いか、または、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が30%よりも大きかった。特に、主成分として、予め合成されたカルシウムを含有するチタン酸バリウム粉末を用い、これにVなどの添加剤を加えて調製した試料No.37では、単位厚み(1μm)当たりに印加する直流電圧の値を0.1Vおよび2.5Vとして測定したときの絶縁抵抗の低下率が52%と本発明の試料に比較して絶縁抵抗の低下率が大きく、高温での比誘電率も1860と本発明の試料に比較して低かった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)は、実施例の表1〜3における本発明の誘電体磁器である試料No.4のX線回折チャートを示すものであり、(b)は、同表1〜3において比較例の誘電体磁器である試料No.37のX線回折チャートである。
【図2】本発明の積層セラミックコンデンサの例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0078】
3・・・・外部電極
5・・・・誘電体層
7・・・・内部電極層
10・・・コンデンサ本体
10A・・積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とし、カルシウムおよびバナジウムを含有する結晶粒子と、該結晶粒子間に存在する粒界相とを有する誘電体磁器であって、
前記チタン酸バリウムを構成するバリウムおよび前記カルシウムの合計量1モルに対して、前記バナジウムをV換算で0.0005〜0.03モル含有するとともに、X線回折チャートにおいて、前記チタン酸バリウムの正方晶系を示す(004)面の回折強度が前記チタン酸バリウムの立方晶系を示す(004)面の回折強度よりも大きいことを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
前記結晶粒子は前記カルシウムの濃度が0.4原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
前記結晶粒子中にマグネシウムを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
【請求項4】
マグネシウム、希土類元素およびマンガンをさらに含み、その一部または全部を前記結晶粒子中に含有するとともに、前記チタン酸バリウムを構成する前記バリウムおよび前記カルシウムの合計量1モルに対して、前記マグネシウムをMgO換算で0.01〜0.02モル、前記希土類元素をRE換算で0.03〜0.06モル、前記マンガンをMnO換算で0.003〜0.007モル含有するとともに、前記バナジウムをV換算で0.001〜0.003モル含有することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれかに記載の誘電体磁器からなる誘電体層と内部電極層との積層体から構成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155118(P2009−155118A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331640(P2007−331640)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】