説明

誘電体磁器組成物、電子部品およびその製造方法

【課題】 他の電気特性(たとえば、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、絶縁抵抗の加速寿命、誘電損失)を悪化させることなく、比誘電率の向上が可能な誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 組成式BaTiO2+m中のmが、0.990<m<1.010であるチタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを予め反応させ、反応済み原料を得る工程を有することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物およびその製造方法と、この誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートに、所定パターンの内部電極を印刷し、それらを複数枚交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要がある。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
また、近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進んでいる。積層セラミックコンデンサを小型、大容量化するためには、一般に誘電体層を薄層化する方法や、誘電体層に含有される誘電体磁器組成物の比誘電率を増加させる方法などがとられている。しかしながら、誘電体層を薄くすると、直流電圧を印加したときに誘電体層にかかる電界が強くなるため、比誘電率の経時変化、すなわち容量の経時変化が著しく大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
直流電界下での容量の経時変化を改良するために、誘電体層に含有される誘電体粒子として、小さな平均結晶粒径を有する誘電体粒子を使用する方法が提案されている(たとえば、特許文献1)。この特許文献1には、特定組成を有し、誘電体粒子の平均結晶粒径が0.45μm以下である誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、この文献記載の誘電体磁器組成物では、比誘電率が低すぎるため、小型化、大容量化に対応することは困難であった。
【特許文献1】特開平8−124785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、他の電気特性(たとえば、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、絶縁抵抗の加速寿命、誘電損失)を悪化させることなく、比誘電率の向上が可能な誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、
組成式BaTiO2+mで表され、前記組成式中のmが0.990<m<1.010の関係にあるチタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを予め反応させ、反応済み原料を用いることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを、予め反応させることにより、少なくとも、前記主成分の粒子の内部に前記第4副成分を存在させることができる。なお、反応後に、少なくとも、第4副成分が主成分の粒子の内部に存在していれば良い。つまり、主成分の粒子の内部において、第4副成分が偏在していても良いし、均一に存在していても良いし、また、その含有割合が徐々に変化する態様であっても良い。そのため、他の電気特性(たとえば、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、絶縁抵抗の加速寿命、誘電損失)を悪化させることなく、比誘電率の向上が可能となる。
【0009】
さらには、前記組成式BaTiO2+m中のmの値を上記の範囲とすることで、特に、比誘電率を高く保ちつつ、かつ、静電容量の温度特性や絶縁抵抗の加速寿命を良好とすることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、前記主成分の原料と前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを、予め固溶させる。固溶させることにより、前記主成分に前記第4副成分を均一に固溶させることも可能となり、上記の電気特性をさらに向上させることができる。
【0011】
本発明において、反応とは、固溶、コーティングなどを含めた概念で用い、主成分の粒子の内部に第4副成分が存在するような状態を作り出すための方法を含む。
【0012】
本発明において、好ましくは、前記主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる前記第4副成分の原料の一部とを予め反応させた反応済み原料を準備する工程と、
前記反応済み原料に、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる残りの前記第4副成分の原料を添加する工程とを有する。
【0013】
本発明においては、前記主成分の原料と、予め反応させる前記第4副成分の原料は、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の全部ではなく、一部とすることが好ましい。そして、得られた反応済み原料に、残りの第4副成分の原料を添加して、必要に応じて仮焼きして、その後、焼成することが好ましい。このようにすることにより、本発明の作用効果を高めることができる。
【0014】
本発明においては、最終的に得られる前記誘電体磁器組成物中における前記第4副成分の含有量を、前記主成分100モルに対して、R換算で、好ましくは0.1〜10モル、より好ましくは0.2〜6モルとする。
【0015】
本発明においては、誘電体磁器組成物に含有される第4副成分の含有量を上記範囲とすることにより、静電容量の温度特性を向上させることができる。第4副成分の含有量が少なすぎると、第4副成分の添加効果が得られなくなり、静電容量の温度特性が悪化してしまう傾向にあり、一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。
【0016】
本発明において、前記主成分の原料と予め反応させておく前記第4副成分を、前記主成分100モルに対して、R換算で、0〜0.5モル(ただし、0は含まない)とすることが好ましい。
【0017】
あるいは、本発明において、前記主成分の原料と予め反応させておく前記第4副成分の比率を、R換算で、前記誘電体磁器組成物に最終的に含有されることとなる前記第4副成分の総量100モル%に対して、0〜50モル%(ただし、0および50は含まない)とすることが好ましく、0〜25モル%(ただし、0は含まない)とすることがより好ましい。
【0018】
前記主成分の原料と、予め反応させる前記第4副成分の原料の量が多すぎると、焼成後に得られる焼結体の結晶粒径が大きくなり過ぎてしまい、温度特性が悪化したり、絶縁抵抗(IR)が低下してしまう傾向にある。
【0019】
本発明において、好ましくは、前記誘電体磁器組成物は、
MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、をさらに含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率を、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
とする。
【0020】
本発明において、好ましくは、前記誘電体磁器組成物は、MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分を、さらに含有し、前記主成分100モルに対する第5副成分の比率を、0.05〜1.0モルとする。
【0021】
本発明においては、前記第4副成分とともに、前記第1〜第3副成分(より好ましくは、さらに第5副成分)を含有させることにより、静電容量の温度特性を向上させることができ、特に、EIA規格のX7R特性(−55〜125℃、ΔC=±15%以内)を満足させることができる。なお、前記第1〜第3、第5副成分の添加時期については、特に限定されないが、前記第1〜第3、第5副成分は、前記主成分の原料と前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを、予め反応させた後の反応済み原料に添加することが好ましい。
【0022】
本発明においては、前記主成分の原料として、平均粒径が好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.4μmである原料を使用する。平均粒径が上記範囲である主成分の原料を使用することにより、焼結後の誘電体粒子の平均結晶粒径を、好ましくは0.1〜0.3μmと微細化することができるため、比誘電率の経時変化を低減することができる。
【0023】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、上記のいずれかに記載の方法で製造される誘電体磁器組成物である。
【0024】
本発明に係る電子部品は、上記記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを予め反応させるため、他の電気特性(たとえば、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、絶縁抵抗の加速寿命、誘電損失)を悪化させることなく、比誘電率の向上が可能な誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することができる。さらには、前記組成式BaTiO2+m中のmの値を特定の範囲とすることで、特に、比誘電率を高く保ちつつ、かつ、静電容量の温度特性や絶縁抵抗の加速寿命を良好とすることができる。また、本発明によると、このような誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0027】
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0028】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0029】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0030】
誘電体層2
誘電体層2は、誘電体磁器組成物を含有する。
【0031】
本実施形態においては、上記誘電体磁器組成物は、組成式BaTiO2+m で表され、前記組成式中のmが0.990<m<1.010であるチタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、その他の副成分とを含有する。
【0032】
主成分としては、組成式BaTiO2+m で表され、前記組成式中のmが0.990<m<1.010であるチタン酸バリウムが含有される。mは、BaとTiとのモル比Ba/Tiを示しており、好ましくは、0.995≦m≦1.005である。mの値を上記の範囲とすることで、比誘電率を高く保ちつつ、かつ、静電容量の温度特性やIR加速寿命を良好とすることができる。mの値が小さすぎると、誘電体粒子が粒成長し、IR加速寿命が悪化する傾向にあり、大きすぎると、焼結性が悪化し、誘電率やIR加速寿命が悪化する傾向にある。
【0033】
第4副成分は、Rの酸化物を含有する副成分である。Rの酸化物のR元素は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種の元素であり、これらのなかでも、Y,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが好ましく、さらに好ましくは、Y,Tb,Ybである。
【0034】
第4副成分は、IR加速寿命特性を向上させる効果がある。第4副成分の含有量は、R換算で0.1〜10モルであることが好ましく、より好ましくは0.2〜6モルである。含有量が少なすぎると、第4副成分の添加効果が得られなくなり、容量温度特性が悪くなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。なお、後に詳述するように、本実施形態の製造方法においては、上記第4副成分の原料のうち少なくとも一部を、主成分の原料と予め反応させる工程を採用している。
【0035】
本実施形態においては、上記Rの酸化物を含む第4副成分以外の副成分として、以下の第1〜第3、第5副成分を、さらに含有することが好ましい。
【0036】
すなわち、MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分と、をさらに含有することが好ましい。
【0037】
前記主成分に対する上記各副成分の比率は、各酸化物換算で、前記主成分100モルに対し、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
第5副成分:0.05〜1.0モル
であり、好ましくは、
第1副成分:0.2〜4モル、
第2副成分:1〜6モル、
第3副成分:0〜0.25モル(ただし、0は含まない)、
第5副成分:0.05〜0.4モル
である。
【0038】
本実施形態においては、誘電体磁器組成物に、Rの酸化物を含有する第4副成分以外に、上記第1〜第3、第5副成分を含有させることにより、静電容量の温度特性を向上させることができ、好ましくはEIA規格のX7R特性(−55〜125℃、ΔC=±15%以内)を満足させることができる。
【0039】
なお、本明細書では、主成分および各副成分を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各副成分の上記比率は、各副成分を構成する酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物に換算して求める。
【0040】
上記各副成分の含有量の限定理由は以下のとおりである。
【0041】
第1副成分(MgO、CaO、BaOおよびSrO)の含有量が少なすぎると、容量温度変化率が大きくなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化すると共に、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。なお、第1副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0042】
第2副成分は、主成分としてSiOを含み、かつ、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む。この第2副成分は、主として焼結助剤として作用する。MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)は、第1副成分にも含まれるが、SiOとの複合酸化物とし、組成式MSiO2+x で表される化合物とすることにより、融点を低くすることができる。そして、融点を低くすることができるため、主成分に対する反応性を向上させることができる。なお、上記MOとして、たとえば、BaOおよびCaOを使用した場合には、上記複合酸化物は、組成式(Ba,Ca)SiO2+x で表される化合物とすることが好ましい。組成式(Ba,Ca)SiO2+x におけるxは、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1である。xが小さすぎると、すなわちSiOが多すぎると、主成分のBaTiO2+m と反応して誘電体特性を悪化させてしまう。一方、xが大きすぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるため、好ましくない。
【0043】
第3副成分(V、MoOおよびWO)は、キュリー温度以上での容量温度特性を平坦化する効果と、高温負荷寿命を向上させる効果とを示す。第3副成分の含有量が少なすぎると、このような効果が不十分となる。一方、含有量が多すぎると、IRが著しく低下する。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0044】
第5副成分(MnOおよびCr)は、キュリー温度を高温側にシフトさせるほか、容量温度特性の平坦化、絶縁抵抗(IR)の向上、破壊電圧の向上、焼成温度を低下させる、などの効果を有する。
【0045】
誘電体磁器組成物に含まれる誘電体粒子の平均結晶粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜0.3μmである。平均結晶粒径が、小さすぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にあり、大きすぎると、比誘電率の経時変化が大きくなってしまう傾向にある。誘電体粒子の平均結晶粒径は、たとえば、誘電体粒子のSEM像より、誘電体粒子の形状を球と仮定して平均粒子径を測定するコード法により測定することができる。
【0046】
誘電体層2の厚みは、特に限定されないが、一層あたり4.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。厚さの下限は、特に限定されないが、たとえば0.5μm程度である。
【0047】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上、特に好ましくは、100以上である。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0048】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜3μm、特に0.2〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0049】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0050】
積層セラミックコンデンサの製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0051】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体磁器組成物粉末を調製する。
【0052】
本実施形態においては、上記誘電体磁器組成物粉末の調製は、次のように行う。まず、上記主成分の原料と、上記第4副成分の原料の一部(誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分のうち一部に相当する原料)とを、予め反応、好ましくは固溶させ、反応済み原料を得る。次いで、この反応済み原料に、残りの第4副成分の原料(誘電体磁器組成物を構成することとなる第4副成分のうち残りの原料)と、上記第1〜第3、第5副成分の原料とを添加し、必要に応じて仮焼きすることにより、誘電体磁器組成物粉末は調製される。
【0053】
上記主成分の原料としては、上述のBaTiO2+m の粉末あるいは、焼成によりBaTiO2+m となる化合物の粉末が使用でき、主成分の原料の平均粒径は、好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.4μmである。主成分の原料の平均粒径が大きすぎると、焼結後の誘電体粒子の平均結晶粒径が大きくなりすぎてしまい、温度特性が悪化したり、絶縁抵抗(IR)が低下してしまう傾向にある。一方、平均粒径が小さすぎると、主成分原料と、Rの酸化物との反応が不均一となる傾向にある。なお、本実施形態において、平均粒径は、体積基準累積50%径(D50径)を意味し、レーザー回折法などの光散乱を利用した方法により測定することができる。
【0054】
上記主成分の原料と、予め反応させる第4副成分の原料としては、上述のRの酸化物や、焼成によりRの酸化物となる種々の化合物を使用することができる。Rの酸化物や、焼成によりRの酸化物となる化合物としては、平均粒径が0.01〜0.1μm程度の粉末状の原料あるいは、以下に例示するゾル状の原料などが使用できる。
【0055】
ゾル状の原料としては、特に限定されず、たとえば、水酸化物ゾルや酸化物ゾルなどが挙げられる。また、ゾル状の原料のゾル粒径は、通常1〜100nm程度であり、溶媒としては、水、あるいは、メタノールやエタノールなどのアルコール類、キシレンやトルエンなどの芳香族溶媒、メチルエチルケトンなどのケトン類などの有機系溶媒が例示される。
【0056】
上記焼成によりRの酸化物となる化合物としては特に限定されないが、Rのアルコキシド、Rの無機酸塩などが例示される。
【0057】
上記Rのアルコキシドとは、アルコールとR元素との化合物であり、具体的には、アルコールの水酸基の水素をR元素で置換した化合物をいう。Rのアルコキシドとしては、特に限定されないが、一般式C2n+1 OR(nは、1〜9の整数)で表される各種化合物が使用でき、たとえば、CHOR、COR、n−COR、i−CORなどが挙げられる。
【0058】
また、上記Rの無機酸塩としては、特に限定されないが、たとえば、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられる。なお、Rの無機酸塩は、水和した状態のものが多く、通常は、水、あるいは水溶性の有機溶剤などに溶けた状態で使用される。
【0059】
主成分の原料と予め反応させる第4副成分の原料は、前記主成分100モルに対して、R換算で、0〜0.5モル(ただし、0は含まない)とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2モルとする。
【0060】
あるいは、予め反応させる第4副成分の原料の比率を、R換算で、誘電体磁器組成物に最終的に含有されることとなる第4副成分の総量100モル%に対して、0〜50モル%(ただし、0および50は含まない)とすることが好ましく、より好ましくは0〜25モル%(ただし、0は含まない)、さらに好ましくは0〜15モル%(ただし、0は含まない)とする。
【0061】
主成分の原料と予め反応させる第4副成分の原料の量が多すぎると、焼成後に得られる焼結体の結晶粒径が大きくなり過ぎてしまい、温度特性が悪化したり、絶縁抵抗(IR)が低下してしまう傾向にある。
【0062】
上記主成分の原料と上記第4副成分の原料の一部とを、予め反応させて反応済み原料を得る方法としては、主成分の原料と第4副成分の原料とを、溶媒などを使用して混合し、溶媒を蒸発させて、仮焼きする方法や、混合溶液に沈殿剤などを加え、第4副成分を主成分上に析出させ、仮焼きする方法などが挙げられる。なお、仮焼きする際の温度は、好ましくは500〜700℃程度である。
【0063】
次いで、得られた反応済み原料に、残りの第4副成分の原料(誘電体磁器組成物を構成することとなる第4副成分のうち残りの原料)と、上記第1〜第3、第5副成分の原料とを添加して、その後、混合して、必要に応じて仮焼きすることにより、誘電体磁器組成物粉末を得る。残りの第4副成分の原料、第1〜第3、第5副成分の原料としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物や、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物が使用できる。
【0064】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末を用いて誘電体層用ペーストを製造する。誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0065】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0066】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0067】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0068】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0069】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0070】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0071】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0072】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜300℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは5〜20時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気中とすることが好ましい。
【0073】
次いで、脱バインダ処理を施したグリーンチップを焼成する。グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−4Paとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0074】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1350℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0075】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは100〜900℃/時間、より好ましくは200〜900℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0076】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0077】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−3Pa以上、特に10−2〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0078】
アニールの際の保持温度は、1200℃以下、特に500〜1200℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。
【0079】
これ以外のアニール条件としては、昇温速度を好ましくは100〜900℃/時間、より好ましくは200〜900℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜600℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0080】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0081】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0082】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0083】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0085】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0087】
実施例1
まず、主成分の原料として、平均粒径が0.35μmであり、組成式BaTiO2+m 中のmの値が0.991である原料粉末を準備した。また、第4副成分の原料として、Y粉末を準備した。次いで、準備したBaTiO2+m 粉末(m=0.991)とY粉末とをボールミルにより湿式混合粉砕してスラリー化し、このスラリーを乾燥後、仮焼・粉砕して、反応済み原料を得た。なお、仮焼き条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:500℃、温度保持時間:2時間、雰囲気:空気中とした。また、Yの添加量は、主成分100モルに対して、Y原子換算(本願明細書の実施例、比較例および参考例において、以下同じ)で、0.05モルとした。すなわち、Y換算では、0.025モルとした。
【0088】
次いで、得られた反応済み原料に対して、以下に示す第1〜第5副成分を、添加して、ボールミルにより湿式混合粉砕してスラリー化し、このスラリーを乾燥後、仮焼・粉砕することにより誘電体磁器組成物粉末を得た。なお、各副成分の添加量は、主成分100モルに対する、各酸化物換算での添加量である(ただし、Yは、Y原子換算の添加量とした)。
MgO (第1副成分):1.2モル
(Ba,Ca)SiO
(第2副成分):0.75モル
(第3副成分):0.03モル
(第4副成分):0.35モル
MnO (第5副成分):0.2モル
【0089】
上記にて得られた誘電体磁器組成物粉末100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と、酢酸エチル100重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、トルエン4重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0090】
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを得た。
【0091】
これらのペーストを用い、以下のようにして、図1に示される積層セラミックチップコンデンサ1を製造した。
【0092】
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極用ペーストを印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着して、グリーン積層体を得た。
【0093】
次いで、グリーン積層体を所定のサイズに切断してグリーンチップとし、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0094】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:32.5℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0095】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1260〜1280℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−7Pa)とした。
【0096】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:1.01Pa)とした。
【0097】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウエッターを用いた。
【0098】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga合金を塗布し、図1に示す実施例1の積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0099】
得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とし、1層あたりの誘電体層の厚み(層間厚み)は4.5μm、内部電極層の厚みは1.2μmとした。次いで、得られたコンデンサ試料について、以下に示す方法により、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。また、上記反応済み原料については、XPS測定により、Y元素の分布度を測定した。
【0100】
誘電体粒子の平均結晶粒径
誘電体粒子の平均粒径の測定方法としては、まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨した。そして、その研磨面にケミカルエッチングを施し、その後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行い、コード法により誘電体粒子の形状を球と仮定して算出した。結果を表1に示す。
【0101】
比誘電率ε
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数120Hz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量、積層セラミックコンデンサの誘電体厚みおよび内部電極同士の重なり面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。比誘電率は、高いほど好ましい。結果を表1に示す。
【0102】
誘電損失tanδ
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数120Hz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、誘電損失tanδを測定した。誘電損失は、小さいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0103】
絶縁抵抗IR
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃において4V/μmの直流電圧を、コンデンササンプルに1分間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。絶縁抵抗IRは、大きいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0104】
CR積
CR積は、上記にて測定した静電容量C(単位はμF)と、絶縁抵抗IR(単位はMΩ)との積を求めることにより測定した。CR積は、大きいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0105】
静電容量の温度特性
コンデンサ試料に対し、−55〜125℃における静電容量を測定し、静電容量の変化率ΔCを算出し、EIA規格のX7R特性を満足するか否かについて評価した。すなわち、−55〜125℃において、変化率ΔCが、±15%以内であるか否かを評価した。結果を表1に示す。なお、表1中、X7R特性を満足した試料は「○」とし、満足しなかった試料は「×」とした。
【0106】
IR加速寿命
コンデンサ試料に対し、180℃にて20V/μmの電界下で加速試験を行い、絶縁抵抗IRが10Ω以下になるまでの時間(単位は時間)を算出した。IR加速寿命は、長いほうが好ましい。結果を表1に示す。
【0107】
反応済み原料のY原子の分布度の測定
BaTiO2+m 粉末(m=0.991)とY粉末とを予め反応させることにより得られた反応済み原料について、XPS測定により、表面深さ方向のBa、Ti、Yの各元素の分布状態を測定した。XPS測定の結果、Ba、Ti、Yの各元素は、反応済み原料の表面近傍付近から内部に至るまで、ほぼ同じ濃度で分布しており、固溶反応が均一に進行していることが確認できた。
【0108】
実施例2〜4
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例1と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、実施例2〜5のコンデンサ試料を得た。
【0109】
すなわち、実施例2〜5では、主成分の原料として組成式BaTiO2+m 中のmの値が、それぞれ0.995(実施例2)、1.000(実施例3)、1.005(実施例4)、1.007(実施例4a)、1.009(実施例5)である原料を用いて、反応済み原料を得た。
【0110】
得られた各コンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
比較例1および2
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例1と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、比較例1および2のコンデンサ試料を得た。
【0112】
すなわち、比較例1および2では、主成分の原料として組成式BaTiO2+m中のmの値が、0.990(比較例1)、1.010(比較例2)である原料を用いて、反応済み原料を得た。
【0113】
得られたコンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
評価1
表1に、実施例1〜5、比較例1および2の誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命を示す。なお、表1中、絶縁抵抗IRの「aE+b」は「a×10+b」を意味する。
【0116】
表1より、組成式BaTiO2+mで表され、前記組成式中のmの値が0.991〜1.009である実施例1〜5のコンデンサ試料においては、いずれも比誘電率を3500以上と高くすることができ、かつ、その他の電気特性(誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命)も良好となることが確認できた。
【0117】
一方、mの値が0.990である比較例1では、焼結後の誘電体粒子の平均結晶粒径が0.40μmと大きくなってしまい、さらには、静電容量の温度特性に劣る結果となってしまった。
【0118】
また、mの値が1.010である比較例2では、比誘電率が3400と低くなってしまい、小型・大容量化への対応が困難であることが確認できた。
【0119】
以上の結果より、実施例1〜5と比較例1および2とを比較した場合、組成式BaTiO2+m中のmの値を、0.990<m<1.010の範囲とすることにより、その他の電気特性(誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命)を良好に保ちつつ、比誘電率を高くできることが確認できた。
【0120】
実施例6〜8
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例3と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、実施例6〜8のコンデンサ試料を得た。
【0121】
すなわち、実施例6〜8では、まず、主成分の原料として、実施例3と同じm=1.000であるBaTiO2+mを準備した。この主成分の原料と、予め反応させるYの量を、実施例3とは異なり、それぞれ0.02モル(実施例6)、0.10モル(実施例7)、0.15モル(実施例8)として反応済み原料を得た。そして、得られた反応済み原料に対して添加する(後添加の)Yの量を、実施例3とは異なり、それぞれ、0.38モル(実施例6)、0.30モル(実施例7)、0.25モル(実施例8)とした。
【0122】
得られた各コンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表2に示す。
【0123】
比較例3
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例3と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、比較例3のコンデンサ試料を得た。
【0124】
すなわち、比較例3では、まず、主成分の原料として、実施例3と同じm=1.000であるBaTiO2+mを準備した。この主成分の原料と、Yとを予め反応させることなく、直接、主成分原料と第1〜第5副成分の原料とを混合し、仮焼・粉砕することにより誘電体磁器組成物粉末を得た。なお、比較例3では、Yの添加量を、0.40モルとした。
【0125】
得られたコンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表2に示す。
【0126】
参考例1
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例3と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、参考例1のコンデンサ試料を得た。
【0127】
すなわち、参考例1では、まず、主成分の原料として、実施例3と同じm=1.000であるBaTiO2+mを準備した。この主成分の原料と、予め反応させるYの量を、実施例3とは異なり、0.25モルとして反応済み原料を得た。そして、得られた反応済み原料に対して添加する(後添加の)Yの量を、実施例3とは異なり、0.15モルとした。
【0128】
得られたコンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
参考例2
誘電体磁器組成物粉末を作製する際に、以下のようにした以外は、実施例3と同様にして、誘電体磁器組成物粉末を得て、参考例2のコンデンサ試料を得た。
【0130】
すなわち、参考例2では、まず、主成分の原料として、実施例3と同じm=1.000であるBaTiO2+mを準備した。この主成分の原料と、予め反応させるYの量を、実施例3とは異なり、0.40モルとして反応済み原料を得た。そして、参考例2では、実施例3とは異なり、得られた反応済み原料に対して、第4副成分であるYを添加することなく誘電体磁器組成物粉末を得た。
【0131】
得られたコンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表2に示す。
【0132】
【表2】

【0133】
評価2
表2に、実施例3,6〜8、比較例3および参考例1,2の誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命を示す。なお、表2中、絶縁抵抗IRの「aE+b」は「a×10+b」を意味する。
【0134】
表2より、主成分とYの一部とを予め反応させて、反応済み原料を得て、その後、この反応済み原料に残りのYを添加した実施例6〜8のコンデンサ試料においては、いずれも比誘電率を4000以上と高くすることができ、かつ、その他の電気特性(誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命)も良好となることが確認できた。
【0135】
一方、主成分とYとを予め反応させなかった比較例3では、比誘電率が3400と低くなってしまい、小型・大容量化への対応が困難であることが確認できた。
【0136】
また、主成分と予め反応させるYの量を0.25モルとし、その後、得られた反応済み原料に対して添加するYの量を0.15モルとした参考例1では、比誘電率は比較的に高いものの、静電容量の温度特性およびIR加速寿命に劣る結果となってしまった。
【0137】
また、主成分と予め反応させるYの量を0.40モルとし、その後、得られた反応済み原料には、Yを添加しなかった参考例2では、焼結後の誘電体粒子の平均結晶粒径が0.78μmと大きくなってしまい、誘電損失、絶縁抵抗、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命に劣る結果となってしまった。
【0138】
以上の結果より、実施例6〜8と比較例3とを比較した場合、主成分と第4副成分(Y)の一部とを予め反応させることにより、その他の電気特性(誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命)を良好に保ちつつ、比誘電率を高くできることが確認できた。また、実施例6〜8と参考例1および2とを比較することにより、主成分と第4副成分(Y)の一部とを予め反応させ、反応済み原料を製造する際には、第4副成分(Y)の量を、上述した本発明の好ましい範囲内とすることが好ましいこと、および、得られた反応済み原料には、さらに、残りの第4副成分(Y)を添加することが好ましいことが確認できた。
【0139】
実施例9〜12、参考例3および4
主成分原料と予め反応させる第4副成分の原料として、Yの代わりにTb3.5 を使用した以外は、実施例6,3,7,8、参考例1および2と同様にして、実施例9〜12、参考例3および4のコンデンサ試料を製造した。すなわち、実施例9〜12、参考例3および4においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてTb3.5 を使用し、反応済み原料に添加する(後添加)第4副成分としてYを使用した。得られた各コンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表3に示す。
【0140】
【表3】

【0141】
評価3
表3に、実施例9〜12、参考例3および4の誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命を示す。なお、Tb3.5 の添加量は、Yと同様に、Tb原子換算で表した。また、表3中、絶縁抵抗IRの「aE+b」は「a×10+b」を意味する。
【0142】
表3より、主成分原料と予め反応させる第4副成分としてYの代わりにTb3.5 を使用した場合においても、同様の傾向が得られることが確認できた。
【0143】
実施例13〜16、参考例5および6
主成分原料と予め反応させる第4副成分の原料として、Yの代わりにYbを使用した以外は、実施例6,3,7,8、参考例1および2と同様にして、実施例13〜16、参考例5および6のコンデンサ試料を製造した。すなわち、実施例13〜16、参考例5および6においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてYbを使用し、反応済み原料に添加する(後添加)第4副成分としてYを使用した。得られた各コンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表4に示す。
【0144】
【表4】

【0145】
評価4
表4に、実施例13〜16、参考例5および6の誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命を示す。なお、Ybの添加量は、Yと同様に、Yb原子換算で表した。また、表4中、絶縁抵抗IRの「aE+b」は「a×10+b」を意味する。
【0146】
表4より、主成分原料と予め反応させる第4副成分としてYの代わりにYbを使用した場合においても、同様の傾向が得られることが確認できた。
【0147】
実施例17〜20
主成分原料と予め反応させる第4副成分の原料として、Yの代わりにDy,Ho,Gd,Eu を使用した以外は、実施例3と同様にして、実施例17〜20のコンデンサ試料を製造した。すなわち、実施例17においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてDyを使用し、実施例18においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてHoを使用し、実施例19においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてGdを使用し、実施例20においては、予め反応させる(前添加)第4副成分としてEuを使用した。実施例17〜20のすべての場合において、反応済み原料に添加する(後添加)第4副成分としてYを使用した。得られた各コンデンサ試料について、実施例1と同様にして、誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。結果を表5に示す。
【0148】
【表5】

【0149】
評価5
表5に、実施例17〜20の誘電体粒子の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命を示す。なお、Dy,Ho,Gd,Eu の添加量は、Yと同様に、それぞれの原子換算で表した。また、表5中、絶縁抵抗IRの「aE+b」は「a×10+b」を意味する。
【0150】
表5より、予め反応させる第4副成分として、Yの代わりに、上記の希土類酸化物を使用した場合においても、Yの場合と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【符号の説明】
【0152】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式BaTiO2+mで表され、前記組成式中のmが0.990<m<1.010の関係にあるチタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを予め反応させ、反応済み原料を用いることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部とを予め固溶させ、前記反応済み原料を用いる請求項1に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる前記第4副成分の原料の一部とを予め反応させた反応済み原料を準備する工程と、
前記反応済み原料に、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる残りの前記第4副成分の原料を添加する工程とを有する請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
最終的に得られる前記誘電体磁器組成物中における前記第4副成分の含有量を、前記主成分100モルに対して、R換算で、0.1〜10モルとする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
前記主成分の原料と予め反応させておく前記第4副成分を、前記主成分100モルに対して、R換算で、0〜0.5モル(ただし、0は含まない)とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
前記主成分の原料と予め反応させておく前記第4副成分の比率を、R換算で、前記誘電体磁器組成物に最終的に含有されることとなる前記第4副成分の総量100モル%に対して、0〜50モル%(ただし、0および50は含まない)とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
前記誘電体磁器組成物は、
MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、をさらに含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率を、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
とする請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体磁器組成物は、MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分を、さらに含有し、
前記主成分100モルに対する第5副成分の比率を、0.05〜1.0モルとする請求項7に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
前記主成分の原料として、平均粒径が0.05〜0.5μmである原料を使用する請求項1〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により製造される誘電体磁器組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−230819(P2007−230819A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53973(P2006−53973)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】