説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】PbおよびBiを含まず、広周波数領域において誘電損失を低減し、容量温度特性および誘電率に優れる誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】組成式(SrBa1−xTiO(0.159≦x≦0.238、0.997≦m≦1.011)で表される化合物を含む主成分と、副成分として、CaTiOを11〜25重量%、Fe、Co、Ni、CuおよびZnから選ばれる1つ以上の酸化物を、FeO3/2、CoO4/3、NiO、CuO、ZnO換算で、0.10〜0.50重量%、A元素の酸化物(AはMnおよび/またはCr)を元素換算で0.590〜1.940モル%、およびD元素の酸化物(DはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYから選ばれる1つ以上)を有し、D元素とA元素とのモル比(A/D)が2.250〜7.450である誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の誘電体層などに用いられる誘電体磁器組成物に係り、さらに詳しくは、環境負荷物質である鉛(Pb)および資源価格が高騰しているビスマス(Bi)を含むことなく、広い周波数領域において誘電損失を低くすることができ、さらに比較的高誘電率でありながら温度特性が比較的良好であり、しかも安価に提供できる誘電体磁器組成物およびそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の環境保護運動がいっそう高まりをみせており、電子部品の分野においても鉛(Pb)等の環境負荷物質の低減が要望されている。そのため、鉛(Pb)を含まず、かつ同程度以上の特性を持つ誘電体磁器組成物の開発が望まれている。
【0003】
また、電子機器などを構成する電気回路の小型化、複雑化により、電気回路に搭載される電子部品についても、より一層の小型化に加えて、誤作動を防止するため等の理由により、自己発熱が少ないことが求められている。そのため、電子部品の一例としてのセラミックコンデンサについても、良好な温度特性を維持しつつ、小型化に対応するために誘電率を高くするとともに、しかも自己発熱低減のために誘電損失が低いことが求められている。
【0004】
一方、近年、急激な資源価格の高騰により、レアアースを含有する電子部品の製造コストが上昇しているが、電子部品は、電子機器内に多量に使用されるため、高性能を維持しつつ低価格であることが求められる。
【0005】
特に、ビスマス(Bi)は、近年、価格が高騰しているレアアースの一つであり、電子部品の低価格化の障害となっていた。また、ビスマスは、焼成中に蒸発しやすく、特性のバラツキや焼成炉内の炉材劣化の原因となっていた。
【0006】
そのため、地球環境保護と低価格化とを両立しつつ、高特性の電子部品を得るためには、鉛だけではなく、ビスマスを含有しない誘電体磁器組成物が求められている。
【0007】
たとえば、特許文献1において、温度特性が良好であり、かつ高周波領域において誘電損失が小さい誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら本組成はPbを含むものであり、地球環境保護の要求に応えられるものではなかった。
【0008】
鉛(Pb)を含まない誘電体磁器組成物として、たとえば特許文献2には、BaCO、BiおよびTiOからなる主成分に、La、Nd、Ce、Sn、Zr、Ta、Nbのうち1種以上を添加することにより得られる誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、かかる誘電体磁器組成物では1MHzにおける誘電損失が最も良好なものでも0.1(10%)程度と高く、自己発熱の抑制が十分ではないため、中高圧用として電気回路の小型化、複雑化に有効に対応できるものではなかった。
【0009】
しかも、この誘電体磁器組成物はビスマスを含有しており、低価格化の要求に応えられるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3767377号公報
【特許文献2】特開2003−238240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いられ、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を含むことなく、広い周波数領域において誘電損失を低くすることができ、しかも容量温度特性および比誘電率に優れる誘電体磁器組成物を確実に提供することである。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物を用いて得られる電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、PbおよびBiを含有させなくとも、誘電体磁器組成物の組成を特定の成分とし、これらの比率を所定範囲とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、
組成式(SrBa1−xTiOで表され、前記組成式中のxが、0.159≦x≦0.238、前記組成式中のmが、0.997≦m≦1.011である関係を満足する化合物を含む主成分と、
副成分として、
CaTiOと、
Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物と、
A元素(Acceptor)の酸化物(ただし、AはMnおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、
D元素(Donor)の酸化物(ただし、Dは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、を有し、
前記主成分100重量%に対して、
CaTiOを11〜25重量%、
Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物を、FeO3/2、CoO4/3、NiO、CuOおよびZnO換算で、0.10〜0.50重量%、
前記主成分100モル%に対して、
A元素の酸化物を、Mn元素およびCr元素換算で、0.590〜1.940モル%含有し、
前記D元素に対する前記A元素の比(A/D)が、モル比で、2.250〜7.450であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を実質的に含有しない。しかしながら、鉛およびビスマスを含有せずとも、主成分および副成分を上記の組成および含有量とすることにより、比誘電率および温度特性を維持しつつ、広い周波数領域において、誘電損失の少ない誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0015】
本発明によれば、上記の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品が提供される。本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、たとえばスナバ回路で用いられる中高圧用コンデンサが例示される。
【0016】
本発明によれば、上記の電子部品を有する電源装置が提供される。本発明に係る電源装置としては、たとえば、スナバ回路を有する電源装置が例示される。本発明に係る電源装置は、上記の電子部品を有しているため、発熱が少ない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分および副成分を上記各成分とし、さらに各成分の比率を上記所定の範囲としており、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を含むことはない。その結果、環境への負荷を低減しつつ、広い周波数領域において誘電損失を低くすることができ、しかも、容量温度特性に優れ、比誘電率が高い誘電体磁器組成物を安価に得ることができる。
【0018】
このような本発明の誘電体磁器組成物を、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いることにより、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を含むことなく、広い周波数領域において誘電損失を低く抑えることが可能となり、しかも容量温度特性および比誘電率が良好である電子部品を提供することができる。したがって、本発明の電子部品を有する電源装置は低発熱を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの正面図、図1(B)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
セラミックコンデンサ2
図1(A)、図1(B)に示すように、本実施形態に係るセラミックコンデンサ2は、誘電体層10と、その対向表面に形成された一対の端子電極12,14と、この端子電極12,14に、それぞれ接続されたリード端子6,8とを有する構成となっており、これらは保護樹脂4に覆われている。セラミックコンデンサ2の形状は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、誘電体層10が円板形状となっている円板型のコンデンサであることが好ましい。また、そのサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、直径が5〜20mm程度、好ましくは5〜15mm程度である。
【0022】
誘電体層10
誘電体層10は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
本発明の誘電体磁器組成物は、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を実質的に含まず、組成式(SrBa1−xTiOで表される化合物を含む主成分と、副成分として、CaTiOと、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物と、A元素の酸化物(ただし、AはMnおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、D元素の酸化物(ただし、Dは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、を有する。
【0023】
本発明の誘電体磁器組成物は、上述したように環境および資源価格の観点から、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、不純物レベルの量であれば、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)が本発明の誘電体磁器組成物に含まれていてもよい旨の趣旨である。たとえば、不純物レベルの量としては、300ppm以下である。
【0024】
また、主成分に含まれる組成式(SrBa1−xTiOで表される化合物において、組成式中のxが、0.159≦x≦0.238、好ましくは0.170≦x≦0.233、より好ましくは0.175≦x≦0.220である。
【0025】
xは、Srの比率を表しており、xが小さすぎると、所定の温度域における容量変化率の最大値を示すεmaxが大きくなりすぎ、所望の容量温度特性を満足しない傾向にある。xが大きすぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0026】
また、上記組成式中のmが、0.997≦m≦1.011、好ましくは0.999≦m≦1.008である。
【0027】
mは、SrおよびBaと、Tiと、のモル比を表しており、mが小さすぎると、誘電損失が悪化する傾向にある。mが大きすぎると、εmaxが大きくなりすぎ、所望の容量温度特性を満足しない傾向にある。
【0028】
本発明の誘電体磁器組成物は、副成分として、A元素の酸化物と、D元素の酸化物と、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物と、CaTiOとを含有する。
【0029】
A元素の酸化物は、絶縁抵抗を向上させる効果を有している。A元素(Acceptor)は、MnおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、好ましくはMnである。上記の酸化物の含有量は、上記の主成分100モル%に対して、MnOおよびCrO3/2 換算で、0.590〜1.940モル%、好ましくは0.779〜1.753モル%、より好ましくは0.876〜1.460モル%である。含有量が少なすぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。一方、含有量が多すぎると、誘電損失およびεmaxが悪化する傾向がある。
【0030】
なお、たとえばMnの酸化物を含有させる場合には、原料として、MnOを用いてもよいし、MnCOを用いてもよい。焼成後の誘電体磁器組成物においては、MnOとして含まれることとなる。
【0031】
D元素の酸化物は、誘電損失を低減させる効果を有する。D元素(Donor)は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、好ましくはCe、La、Pr、Nd、Smであり、より好ましくはCe、La、Prである。
【0032】
本発明では、上記のA元素とD元素との比(A/D)を、モル比で、2.250〜7.450、好ましくは2.990〜6.740としている。A/Dを上記の範囲に制御することで、良好な比誘電率および誘電損失を維持しつつ、所望の容量温度特性を満足させることができる。A/Dが小さすぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。一方、大きすぎると、誘電損失およびεmaxが悪化する傾向がある。
【0033】
Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物は、容量温度特性を改善し、また焼結性を向上させる効果を有している。好ましくはZn、Fe、Niの酸化物であり、特に好ましくはZnの酸化物である。上記の酸化物の含有量は、主成分100重量%に対して、FeO3/2、CoO4/3、NiO、CuOおよびZnO換算で、0.10〜0.50重量%、好ましくは0.15〜0.50重量%、より好ましくは0.20〜0.45重量%である。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、誘電損失が悪化する傾向にある。逆に、これらの酸化物の含有量が多すぎると、比誘電率が大きく低下する傾向にある。
【0034】
CaTiOは、誘電率の温度変化を平坦化させるという効果を有している。CaTiOの含有量は、主成分100重量%に対して、11〜25重量%、好ましくは11〜20重量%、より好ましくは12〜17重量%である。CaTiOの含有量が少なすぎると、誘電損失が悪化する傾向にあるとともに、εmaxが大きくなりすぎ、所望の容量温度特性を満足しない傾向にある。CaTiOの含有量が多すぎると、比誘電率が低下する場合がある。
【0035】
誘電体層10の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すれば良いが、好ましくは0.3〜2mmである。誘電体層10の厚みを、このような範囲とすることにより、中高圧用途に好適に用いることができる。
【0036】
端子電極12,14
端子電極12,14は、導電材で構成される。端子電極12,14に用いられる導電材は、たとえば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、In−Ga合金等を主成分として含む。また、端子電極12,14は、これらの金属または合金の単層構造でもあってもよく、複層構造であってもよい。
【0037】
セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係るセラミックコンデンサの製造方法について説明する。
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を形成することとなる誘電体磁器組成物粉末を製造する。
【0038】
まず、主成分の原料および副成分の原料を準備する。主成分の原料としては、Sr、Ba、Tiの各酸化物および/または焼成によりこれらの酸化物となる原料や、これらの複合酸化物などが挙げられ、たとえば、SrCO 、BaCOなどの炭酸化物や、TiO などの酸化物を用いることができる。また、主成分の原料は、固相法により製造してもよいし、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により製造してもよいが、製造コストの面から、固相法により製造することが好ましい。
【0039】
副成分の原料としては、特に限定されず、上記した各副成分の酸化物や複合酸化物、または焼成によりこれら酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。
【0040】
次いで、主成分の原料を、上記した所定の組成となるように配合し、ボールミルなどを用いて、湿式混合する。そして、得られた混合物を、造粒し、成形して、得られた成形物を、空気雰囲気中にて仮焼きすることにより、主成分の原料の仮焼き粉を得ることができる。次いで、得られた仮焼き粉を粗粉砕し、さらに、所定量の副成分の原料を添加し、湿式混合して、誘電体磁器組成物粉末とする。仮焼き条件としては、たとえば、仮焼き温度を、好ましくは900〜1200℃、仮焼き時間を、好ましくは0.5〜4時間とすれば良い。なお、主成分の原料と、副成分の原料と、を同一条件で仮焼して誘電体磁器組成物粉末を得てもよいし、主成分の原料と、副成分の原料と、を異なる条件で仮焼した後、混合して誘電体磁器組成物粉末を得てもよい。上記のように、誘電体磁器組成物粉末を固相法により製造することで、所望の特性を実現しながら、製造コストの低減を図ることができる。
【0041】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末を、バインダなどを使用して造粒し、得られた造粒物を、所定の大きさを有する円板状に成形することにより、グリーン成形体とする。そして、得られたグリーン成形体を、焼成することにより、焼結体としての誘電体磁器組成物を得る。なお、焼成の条件としては、特に限定されないが、保持温度が、好ましくは1100〜1400℃、より好ましくは1150〜1350℃であり、焼成雰囲気を空気中とすることが好ましい。
【0042】
そして、得られた誘電体磁器組成物の焼結体の主表面に、端子電極を印刷し、必要に応じて焼き付けすることにより、端子電極12,14を形成する。その後、端子電極12,14に、ハンダ付等により、リード端子6,8を接合し、最後に、素子本体を保護樹脂4で覆うことにより、図1(A)、図1(B)に示すような単板型セラミックコンデンサを得る。
【0043】
このようにして製造された本発明のセラミックコンデンサは、リード端子6,8を介して、例えばスイッチング電源中のスナバ回路に組み込まれ、本発明の電源装置が得られる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0045】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として単板型セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、単板型セラミックコンデンサに限定されず、上記した誘電体磁器組成物粉末を含む誘電体ペーストおよび電極ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により作製される積層型セラミックコンデンサであっても良い。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0047】
実施例
まず、主成分原料として、SrCO 、BaCO およびTiOを、それぞれ準備した。さらに副成分原料として、CaTiO、A元素の酸化物または炭酸塩(MnCO、Cr)、CuO、Fe、Co、NiO、ZnO、D元素の酸化物(ただし、DはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびY)を準備した。なお、CaTiOは、以下のようにして作製した。まず、CaCO原料とTiO原料とを湿式混合し、乾燥後の原料を空気中、1000℃、2時間の条件で仮焼を行った。仮焼後の原料をさらに湿式粉砕して、CaTiOを得た。
【0048】
次に主成分の原料を、表1に示す組成となるように、それぞれ秤量し、溶媒として水を用いたボールミルにより湿式混合した。次いで、得られた混合物を乾燥した後、5重量%の水を加えて造粒し、成形した。そして、得られた成形物を、空気中、1150℃、2時間の条件で仮焼した。仮焼後の粉体を、らいかい機で粗粉砕した後、さらに、副成分の原料を表1に示す組成となるようにそれぞれ秤量・添加して、湿式粉砕を行った。これを乾燥することにより、表1に示す各組成(試料番号1〜43の各組成)を有する誘電体磁器組成物粉末を得た。なお、MnCOは、焼成後に、MnOとして誘電体磁器組成物に含まれることになる。
【0049】
【表1】

【0050】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末:100重量%に対して、ポリビニルアルコール水溶液:10重量%を添加し、次いで造粒して、メッシュパスを通した。その後、得られた造粒粉を3t/cm の圧力で成形することにより、直径16.5mm、厚さ約1.2mmの円板状のグリーン成形体を得た。
【0051】
次いで、得られたグリーン成形体を、空気中、1240℃、2時間の条件で焼成することにより、円板状の焼結体を得た。そして、得られた焼結体の主表面にAg電極を塗布し、さらに空気中、800℃で10分間焼付け処理を行うことによって、図1に示すような円板状のセラミックコンデンサの試料(試料番号1〜43)を得た。得られたコンデンサ試料の誘電体層10の厚みは約1mmであった。そして、得られた各コンデンサ試料について、以下の方法により、比誘電率、誘電損失、容量温度特性および絶縁抵抗をそれぞれ評価した。
【0052】
比誘電率ε
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、1800以上を良好とした。
【0053】
誘電損失(tanδ)
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHzおよび100kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では、周波数1kHzでは0.6%以下、周波数100kHzでは0.5%以下を良好とした。
【0054】
容量温度特性
コンデンサ試料に対し、−25〜140℃の温度範囲で静電容量を測定し、+25℃での静電容量に対する−25℃および125℃での静電容量の変化率(単位は%)を算出した。本実施例では、容量変化率が+15%〜−30%の範囲にあるものを良好とした。なお、下記に示す表2においては、−25℃での容量変化率をΔC(−25)/Cと、125℃での容量変化率をΔC(125)/Cと表記する。
【0055】
絶縁抵抗
コンデンサ試料に対し500Vの直流電圧をかけ、絶縁抵抗を測定した。絶縁抵抗IR(単位はΩ)は大きいほうが好ましく、本実施例では、1×10MΩ以上を良好とした。
【0056】
【表2】

【0057】
表1および2より、誘電体磁器組成物の組成が、本発明の範囲内である場合(試料番号2〜7、10〜12、15〜17、20〜21a、24〜27、29〜43)には、比誘電率1800以上、誘電損失(1kHz)0.6%以下、誘電損失(100kHz)0.5%以下、絶縁抵抗1×10MΩ以上、−25℃〜125℃の全範囲において25℃に対する容量変化率+15%〜−30%を満足していることが分かる。
【0058】
すなわち、誘電体磁器組成物の組成を、本発明の範囲内とすることにより、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)を含むことなく、容量温度特性および比誘電率を良好に保ちつつ、広い周波数領域における誘電損失(tanδ)の低減が可能となることが確認できた。
【0059】
これに対し、誘電体磁器組成物の組成が、本発明の範囲外である場合(試料番号1、8、9、13、14、18、19、22、23、28)には、比誘電率、誘電損失(1kHz、100kHz)、絶縁抵抗、容量温度特性の少なくとも1つが、悪化していることが確認できる。
【符号の説明】
【0060】
2… セラミックコンデンサ
4… 保護樹脂
6,8… リード端子
10… 誘電体層
12,14… 端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(SrBa1−xTiOで表され、前記組成式中のxが、0.159≦x≦0.238、前記組成式中のmが、0.997≦m≦1.011である関係を満足する化合物を含む主成分と、
副成分として、
CaTiOと、
Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物と、
A元素の酸化物(ただし、AはMnおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、
D元素の酸化物(ただし、Dは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、を有し、
前記主成分100重量%に対して、
CaTiOを11〜25重量%、
Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物を、FeO3/2、CoO4/3、NiO、CuOおよびZnO換算で、0.10〜0.50重量%、
前記主成分100モル%に対して、
A元素の酸化物を、Mn元素およびCr元素換算で、0.590〜1.940モル%含有し、
前記D元素に対する前記A元素の比(A/D)が、モル比で、2.250〜7.450であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の電子部品を有する電源装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−180116(P2010−180116A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27506(P2009−27506)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】