説明

誘電体磁器組成物

【課題】比誘電率εr及びQ×f値が大きく共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、Ag−Pdからなる内部導体材料と同時焼成しても焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を含む誘電体磁器組成物。
a・CaO−b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2・・・(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、4≦a≦26、10≦b≦23、0<c<8、2.5≦d≦25、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、b/d≧0.90、(a+b+d)/e<1.0、0≦c/d≦a×0.06、a+b+c+d+e=100なる関係を満たす。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器においては、使用周波数帯域が高周波に移行してきており、電子機器に用いられる誘電体フィルタには、高周波帯域で優れた誘電特性を有する誘電体材料を用いることが求められる。このような誘電特性として、主として、Q×f値(Q:品質係数、f:共振周波数)や共振周波数fの温度変化係数τfがある。ここで、品質係数Qは誘電正接tanδの逆数である。Q×f値は、誘電体材料の損失特性を表し、Q×f値が大きいほど損失が低い誘電体材料となる。また、τfは共振周波数fの温度安定性を表し、τfの絶対値が小さいほど温度変化に対する誘電特性の変化が小さい誘電体材料となる。従って、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度変化係数τfの絶対値が小さい誘電体材料を用いると、損失が小さく温度安定性に優れた誘電体フィルタを実現できる。
【0003】
一方、近年、携帯電話等の電子機器には小型化が求められ、それに伴い、誘電体フィルタにも小型化が求められている。そのためには一般に、誘電体中を伝わる電磁波の波長が比誘電率εrに応じて1/√εr倍に短縮されることから、高い比誘電率εrを有する誘電体材料を用いることが有効とされている。
【0004】
しかしながら、Q×f値と比誘電率εrとの間にはトレードオフの関係があり、Q×f値が大きくなると、比誘電率εrが小さくなり、逆にQ×f値が小さくなると比誘電率εrが大きくなる。そのため、上述したQ×f値、温度変化係数τf及び比誘電率εrの全てをバランスよく有する誘電体材料の開発が進められている。
【0005】
例えば下記特許文献1では、下記組成式:
a・CaO −b・LiO1/2−c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 ・・・(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、10≦a≦25、10≦b≦20、8≦c≦15、2≦d≦10、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、a+b+c+d+e=100なる関係を満たす。〕で表される基本組成物を含む誘電体磁器組成物を焼成することにより、Q×f値及び比誘電率εrが大きく共振周波数の温度変化係数τfが小さい誘電体磁器を実現することが提案されている。
【特許文献1】特開2006−273703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、内部導体材料との同時焼成が必要な積層部品、例えば積層誘電体フィルタなどでは、誘電体材料の焼結温度よりも融点が高い内部導体材料が使用されている。そのような内部導体材料の代表的なものにPt(融点1774℃:比抵抗10.6μΩ・cm)やPd(1555℃:比抵抗10.4μΩ・cm)があるが、これらは貴金属であり高価なものである。
【0007】
一方、積層部品の特性は内部導体材料の比抵抗にも大きく影響され、比抵抗が高い内部導体材料を使用すると製品の損失が大きくなる問題があり、できるだけ比抵抗の小さい内部導体材料を使用することが望まれている。
【0008】
比抵抗の小さい導体材料にはAg(比抵抗1.6μΩ・cm)があり、単位重量あたりの価格もPdに比べて約30分の1と非常に安価であるが、融点が960℃と低すぎる。
【0009】
以上のことから、内部導体材料として、Pdと固溶するAgを併用したAg−Pd合金(例えば、Ag(70)−Pd(30)合金(融点約1230℃)、Ag(80)−Pd(20)合金(融点約1160℃)、Ag(90)−Pd(10)合金(融点約1070℃)など)が、コスト及び特性の観点から望ましい。
【0010】
しかしながら、積層部品の内部導体材料として、上述したAg−Pd合金を使用した場合には、これと、上記特許文献1に記載の誘電体磁器組成物と同時焼成しても、誘電体磁器組成物の焼結性が十分でなく、Q×f値及び比誘電率εrが大きく共振周波数fの温度変化係数τfが小さい誘電体磁器を実現することが困難であった。
【0011】
そこで、本発明は、比誘電率εr及びQ×f値が大きく、共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、Ag−Pd合金からなる内部導体材料と同時焼成しても焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため上記組成式(1)中のBi量に着目するとともに、Biと、Ca、REとの量的関係、LiとREとの量的関係及び、Biを除く他の元素間の量的関係に着目して鋭意研究を重ねた結果、下記発明により上記課題を解決しうることを見出したものである。
【0013】
即ち本発明は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を含有する誘電体磁器組成物である。
a・CaO−b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 …(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0<c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
b/d≧0.90
(a+b+d)/e<1.0
0≦c/d≦a×0.06
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【0014】
本発明の誘電体磁器組成物によれば、比誘電率εr及びQ×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、Ag−Pd合金からなる内部導体材料と同時焼成しても焼結性が良好となる。
【0015】
なお、上記組成式(1)における各元素の組成は、酸化物誘電体についてそれ単独で誘導結合プラズマ発光分光分析及び蛍光X線分析により分析した分析値として表している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比誘電率εr及びQ×f値が大きく、共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、Ag−Pd合金からなる内部導体材料と同時焼成しても焼結性が良好な誘電体磁器組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
〔誘電体磁器組成物〕
本発明は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を含有する誘電体磁器組成物である。
a・CaO−b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2…(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0<c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
b/d≧0.82
(a+b+d)/e<1.0
0≦c/d≦a×0.06
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【0019】
上記酸化物誘電体中のCaには、比誘電率εrを向上させる効果と、共振周波数の温度変化係数τfをプラス側に大きくする効果がある。95を超える高い比誘電率εrを実現するためには、CaO換算で4モル以上のCaが含有されていることが必要であり、4モル%未満では、比誘電率εrが低下しすぎてしまう。一方、絶対値で250ppm/Kより小さい温度変化係数|τf|を実現するためには、CaはCaO換算で26モル%以下である必要がある。26モル%を超えると、比誘電率εrは高くできるが、共振周波数の温度変化係数τfがプラス側に大きくなり温度安定性が悪くなる。したがって、CaのCaO換算による含有量aは、4モル%以上26モル%以下となる。
【0020】
さらに、高い比誘電率εrと、安定した温度特性とを両立させるためには、CaのCaO換算による含有量aは、10モル%以上21モル%以下であることが好ましい。
【0021】
前記酸化物誘電体においては、成分CaOのCaの一部がアルカリ土類金属元素(Sr,Ba,Mgから選択される1種又は2種以上)により置換されてもよい。Caの一部をSr、Ba等のイオン半径がCaより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高めることができる。また、Caの一部を、Mg等のイオン半径がCaより小さな元素で置換すると、Q×f値を高めることができる。
【0022】
前記酸化物誘電体中のLiは、比誘電率εrと共振周波数の温度変化係数τfに作用を及ぼす。LiのLiO1/2換算による含有量bは、10モル%以上23モル%以下とする。10モル%未満では、共振周波数の温度変化係数τfは、プラス側に大きくなりすぎる。一方、23モル%を超えると、比誘電率εrが低くなりすぎる。
【0023】
前記酸化物誘電体中のBiは、比誘電率εrを高める効果を有する一方で、Q×f値を低下させてしまう。また、多くなりすぎると反対に比誘電率εrは低下し、さらにQ×f値も低下する。そのため、εrとQ×f値のバランスから適量範囲を決める必要がある。上記酸化物誘電体を高温焼成材料として使用する場合には通常は、Bi量を8モル%以上15モル%以下とすることが適切であるとされている。これは、15モル%を超えるとQ×f値が悪化し、8モル%未満であると比誘電率εrの低下や温度不安定性が大きくなる懸念があるからである。しかし、内部導体材料として、Ag−Pd合金を使用した場合には、Bi量を上記範囲にすると、Q×f値が大きく低下してしまうことが本発明者らの実験により明らかとなった。そこで、本発明者らは、Biの量、及びBiと、RE及びCaとの量的関係に着目して鋭意研究を重ねた結果、Bi量を減少させるとともに、BiとREとの比(Bi/RE)をCaの量に応じて定まる範囲内とすることによって、高いQ×f値を実現できることがわかった。そこで、BiのBiO3/2換算による含有量cは、0モル%より大きく且つ8モル%未満とし、かつ、0≦c/d≦a×0.06を満たす必要がある。
【0024】
Biの量は、高いQ×f値と高い比誘電率εrのバランスという点から、0.5モル%以上8モル%未満が好ましく、1〜5モル%であることがより好ましい。
【0025】
前記酸化物誘電体中の希土類元素REは、共振周波数の温度変化係数τfの制御に寄与し、RE量が増加するとτfはマイナス方向での絶対値が大きくなる。一方、RE量が減少しすぎると、Q×f値が低下する。従って、REO3/2の量(d)は、2.5≦d≦25とする必要がある。
【0026】
また、前記酸化物誘電体を構成する成分のうち、REO3/2において、REはNdであることが好ましく、さらにはその一部がランタニド族元素(La,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選択される1種又は2種以上)によって置換されていてもよい。REをNdとすることで、比誘電率εr、Q×f値と温度特性(温度安定性)の各特性のバランスが良いうえ、特性と材料コストのバランスも良好なものとなる。また、Ndの一部を、La,Ce,Pr等、イオン半径がNdより大きな元素で置換することで、比誘電率εrをより一層高くすることができる。Ndの一部を、Sm,Y,Yb,Dy等、イオン半径がNdよりも小さな元素で置換することで、Q×f値をより高くすることができる。
【0027】
Tiが多すぎると、ペロブスカイト結晶相の形成に必要以上の過剰なTiにより、TiOなどのTiを多く含む異相が生成しやすい。逆にTiが少なすぎると、ペロブスカイトのAサイトに入るはずの他の金属元素を多く含む異相が発生しやすい。何れの場合にも、異相の発生により特性が大幅に低下するおそれがある。そのため、TiのTiO換算による含有量eは50モル%以上、60モル%以下とする必要がある。
【0028】
前述の酸化物誘電体においては、1価元素Liと、3価元素であるBi及び希土類元素REの総和とのモル比b/(c+d)を、適正範囲に制御する必要がある。b/(c+d)<1とすることで、ほぼ単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体が得られる。b/(c+d)≧1であると、LiO・TiOからなる異相の生成により比誘電率εrが低下する。逆に、Liが少なくなりすぎる、すなわちb/(c+d)<0.65であると、BiTiやBiTi等の異相が生成し、これにより比誘電率εr及びQ×f値が低下し、温度変化係数τfはプラス方向での絶対値が大きくなる。したがって、0.65≦b/(c+d)<1とすることで、高特性の酸化物誘電体が実現される。
【0029】
また、前述の酸化物誘電体においては、上記式(1)中、b、dが下記式:
b/d≧0.90
を満たすものである。
b及びdがb/d≧0.90を満たす関係である場合、Biと反応できるだけの余剰のLiを酸化物誘電体が含有することになり、誘電体磁器組成物の焼成時に、LiとBiの低融点化合物、例えばLiBiO(融点が約700℃)等を生成しながら焼結が進むため、低温焼成化を図ることができる。したがって、この要件を満たすことで、例えば、1200℃未満の焼成温度とした場合でも、焼結体の密度を向上させて比誘電率εrを高めることができる。
【0030】
また、前述の酸化物誘電体においては、上記式(1)中、a、b、d、eが下記式:
(a+b+d)/e<1.0
を満たすものである。
【0031】
a,b,d,eが下記式:
(a(Ca)+b(Li)+d(RE))/e(Ti)<1.0
を満たす場合、Biを添加した場合に比誘電率εrを高めやすくなる。また、ペロブスカイト構造をもつ酸化物誘電体では、Aサイト原子とBサイト原子のモル比A/Bが誘電特性に大きく関係する。本発明の誘電体磁器組成物に含まれる酸化物誘電体では、A/Bが1よりも小さいことが異相の発生低減や特性の向上に好適である。そして、Aサイトは主として、Ca、Li及びREからなり、Bサイトは主としてTiからなり、Biは主にAサイトに配位する。しかし、本酸化物誘電体では、Bi添加による比誘電率εrの向上の前提として、Biを除いた組成においても異相の発生が少ない組成で、誘電特性が良好であることが必要という理由から、Biを除いて考えた組成においてもA/B<1.0であることが特性向上には必要である。よって、上記の通り、式(1)中のa,b,d,eが、下記式:
(a(Ca)+b(Li)+d(RE))/e(Ti)<1.0
を満たす必要があるのである。
【0032】
また、前述の酸化物誘電体においては、異相の析出量を低減し、特性を高める観点で、ペロブスカイト構造におけるAサイトの原子とBサイトの原子とのモル比A/B、すなわち、(a+b+c+d)/eを適正範囲内にする必要がある。前記酸化物誘電体において、Aサイトに一部空孔ができると考えられるため、後述するように、A/Bが1より小さいことが異相の低減や特性の向上に好適である。つまり、(a+b+c+d)/e≧1であると、異相が生成し、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。また、Bサイトの原子のモル量Bに比べAサイトの原子のモル量Aが少なすぎる場合にも異相の発生により、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。そこで、本発明者らが各元素の配合を様々に変化させ、得られた誘電体についての特性評価及び構造分析の結果を詳細に解析した結果、(a+b+c+d)/eの望ましい範囲は、(a+b+c+d)/e<1.0であることが確認されている。なお、Bサイト原子のTiが多すぎると、TiOなどのTiを多く含む異相が生成しやすく、誘電特性が低下するという理由から、(a+b+c+d)/eは0.93以上であることが好ましい。
【0033】
誘電体磁器が高いQ×f値を有するためには、単にBi量を減じたり、RE量を増加させるだけでなく、Bi量とRE量のモル比(c/d)をCa量に応じて制御することが必要である。すなわち、このc/dをCaのモル比(a)に0.06を乗じた値を上限とする範囲内にする。この上限値を超えると、Q×f値が著しく低下してしまう。なお、Caのモル比に0.04を乗じた値を上限とすると、より高いQ×f値を有する誘電体磁器組成物を実現できるという理由から、より好ましい。
【0034】
〔誘電体磁器の製造方法〕
誘電体磁器は、例えば図1に示す製造プロセスにしたがって作製することができる。図1は、酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すものであり、混合工程1、仮焼成工程2、粉砕工程3、造粒工程4、成形工程5、及び焼成工程6とから構成される。酸化物誘電体の粉末は、図1に示す製造プロセスのうち、混合工程1から粉砕工程3までの工程により作製される。
【0035】
酸化物誘電体の製造に際しては、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程1)。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、例えば0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0036】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、粉砕、篩いかけをし、仮焼成工程2を行う。仮焼成工程2では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1200℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、O、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、仮焼における前記保持時間は、例えば0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0037】
仮焼後、粉砕工程3において、仮焼体を例えば平均粒径0.1μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。
【0038】
なお、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、前記混合工程1のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合し、仮焼する。これを粉砕した後、他の成分の原料粉末を所定量添加し、混合するようにしてもよい。
【0039】
誘電体磁器を製造するには、上記のようにして得られた誘電体磁器組成物を、造粒工程4において造粒し、成型工程5において造粒した顆粒を成型して所望の形状の成型体を得た後、焼成工程6において成型体を焼成する。造粒に際しては、適当なバインダ、例えばポリビニルアルコール(PVA)あるいはアクリル系樹脂を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。
【0040】
成型工程5において、例えば100MPa〜300MPaの圧力で造粒した顆粒を加圧成型し、所望の形状の成型体を得る。焼成工程6においては、得られた成形体を所定の温度及び時間で加熱保持し、成形時に添加したバインダを除去して焼結体を得る。こうして誘電体磁器を得ることができる。
【0041】
焼成温度は、例えばAg(70)−Pd(30)合金の融点(1230℃)より低い温度である1000℃〜1200℃程度の温度条件で焼成を行うことが可能である。焼成工程6における焼成雰囲気は、例えばO、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。加熱保持時間は、例えば0.5〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0042】
本発明の誘電体磁器組成物は、比誘電率εrやQ×f値、共振周波数の温度変化係数τf(−40℃〜85℃)についてバランス良く優れた誘電特性を備える誘電体磁器を実現でき、Ag−Pd合金からなる内部導体材料と同時焼成しても焼結性が良好なものとなる。
【0043】
したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波、特にマイクロ波用の共振器を構成し、内部導体材料としてAg−Pd合金を用いた積層誘電体フィルタ(バンドパスフィルタやローパスフィルタ、ハイパスフィルタ)、さらには、誘電体フィルタとして機能する構成を有する多層回路基板などの積層部品の誘電体層を得るのに好適である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
誘電体磁器組成物の作製
原料粉末として、高純度のCaCO、LiCO、Bi、Nd(OH)、TiO、BaCO、SrCO、La[OH]などを用意した。原料粉末であるCaCO、LiCO、Bi、Nd(OH)、TiOの平均粒径はそれぞれ0.5μm、1.0μm、1.0μm、0.9μm、0.6μmであった。
【0046】
これら原料粉末を所定量秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中1000℃で4時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。得られた仮焼体を平均粒径が0.5〜1.5μmの範囲となるようにボールミルを使用してイオン交換水中で湿式粉砕を行い、乾燥して微粉砕された仮焼粉末を得た。なお、平均粒径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、MICROTRAC model 9320−X100)で行った。
【0047】
その後、この仮焼粉末にバインダとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を1150℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料(誘電体磁器)を得た。このとき、成型体表面に、Ag(70)−Pd(30)合金からなる導体ペーストを塗布し、同時に焼成することも行ったが、Ag−Pd合金が溶融することは、いずれの組成でも起こらなかった。
【0048】
得られた円柱状焼結体試料について、組成を確認し、相対密度ならびに誘電特性(比誘電率εr、Q×f値、共振周波数fの温度変化係数τf)を測定した。結果を表3と表4に示す。
【0049】
組成は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)と誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)で確認した。作製した酸化物誘電体磁器の一覧を表1と表2に示す。なお、表2において、D1〜D7については、CaOの右側の「置換」の欄が空欄となっているが、これは、Caの一部がBa、Sr、Mg等によって置換されていないことを表す。また、D8〜D10については、REO3/2の右側の欄が空欄となっているが、これは、REの全てがNdであり、REの一部がLa、Ce、Pr、Sm、Dy、Yb、Y等によって置換されていないことを表す。
【0050】
相対密度は、誘電体磁器組成物の焼結性の目安となるものであり、高いほど焼結性が高いことを示し、低いほど焼結性が低いことを示している。相対密度は、1000〜1400℃で2時間焼成した焼結体試料の密度のうち、最も高密度だった試料の密度を100%として算出した。
【0051】
誘電特性の測定は、Hakki−Coleman法により行った。使用した測定器は、ネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、8510C)及び恒温槽(デスパッチ社製、900シリーズ)である。なお、測定時の共振周波数は3〜5GHzであり、温度特性の測定は−40〜+85℃の範囲で行い、+20℃の共振周波数f(+20℃)を基準に下記式により算出した。
τf={[f0(+85℃)−f0(-40℃)]/[f0(+20℃)×(85+40)]}×10(ppm/K)
【0052】
表3及び表4において、相対密度が95%以上、かつ、誘電体磁器の比誘電率εrが95以上、Q×f値が1500GHz以上、且つτfの絶対値が250ppm/Kより小さい場合に、比誘電率及びQ×f値が大きく、共振周波数の温度安定性が良好であるとした。この基準を超えた誘電特性を有していれば、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものである。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
表3及び表4に示すように、実施例1〜39の誘電体磁器では、相対密度、比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていた。しかしながら、比較例1〜16では、相対密度、比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の少なくとも1つが上記基準を満たしていなかった。
【0058】
従って、実施例1〜39の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例1〜16の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0059】
以上より、本発明の誘電体磁器組成物によれば、Ag−Pd合金からなる内部導体と同時焼成可能な温度、例えば1200℃以下の温度で焼成しても、比誘電率εr及びQ×f値が大きく、共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る誘電体磁器の製造プロセスの一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0061】
1…混合工程、2…仮焼成工程、3…粉砕工程、4…造粒工程、5…成型工程、6…焼成工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を含む誘電体磁器組成物。
a・CaO−b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 …(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0<c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
b/d≧0.90
(a+b+d)/e<1.0
0≦c/d≦a×0.06
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【請求項2】
前記式(1)中、a、c、dが下記式:
0≦c/d≦a×0.04
を満たす、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記式(1)中、a〜eが下記式:
0.93≦(a+b+c+d)/e<1.0
を満たす、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記式(1)中、REが少なくともNdを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記REにおいて、前記Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種により置換されている、請求項4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記式(1)中、Caの一部がBa,Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161410(P2009−161410A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2455(P2008−2455)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】