説明

誘電体被覆物の製造方法

【課題】均質な金属酸化物で硫化亜鉛を被覆すること。
【解決手段】カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる第1群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物と、チタンおよびジルコニウムよりなる第2群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物とからなる誘電体で、硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物の製造方法であって、第1群と第2群の金属のアルコキシドおよび配位性アルコール溶媒を含む混合物に硫化亜鉛の存在下0℃以下で水を添加し、0℃以上に昇温して前記アルコキシドを加水分解して第1群と第2群の金属の酸化物を生成するとともに非プロトン性溶媒の存在下で前記酸化物を前記硫化亜鉛の表面に堆積させることを特徴とする誘電体被覆物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化亜鉛に誘電体を被覆することにより得られる誘電体被覆物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化亜鉛を主たる構成材料とする無機組成物は、蛍光、リン光などの発光材料、蓄光材料などの分野で用いられている。これらには、電気エネルギーによって光を発する特性を有するものもあり、光源として用いられ、表示など用途で一部用いられている。このEL素子発光体においては、10〜20の誘電率を有するバインダに蛍光体を分散させることにより、バインダが絶縁破壊を起こさない程度に発光体に印加する電界を高めているが、より高輝度の発光をさせるために発光体に印加する電界を高くしても、従来のバインダのみでは対応しきれず、与えた電界ほどには発光しない。
そこで、より誘電率の高い物質を硫化亜鉛上に被覆することにより、より電界を高め、発光強度を上げることが考えられる。
【0003】
チタン酸バリウム(BaTiO3)などのセラミックス誘電体は、一般に、チタン酸バリウム等の粉末を成型機で所望の形状に成形した後、結晶化させるため1000℃以上の温度下で焼成することにより製造される。このようなセラミック誘電体は、誘電率が大きいという特性を有しているのであるが、硫化亜鉛からなる蛍光体は、高温下では不安定であるため、高温下における焼結プロセスによらずに、その誘電体の結晶をより常温に近い温度下で容易に成長させることができれば、有効な被覆手段になるものと考えられる。
【0004】
蛍光体をチタン酸バリウムで被覆処理することによる保護膜としての有効性が教示されている(特許文献1参照)。即ち、一般に、蛍光体は化学的安定性、特に耐湿性に劣るため、EL素子発光体を大気に長時間さらしておくと、蛍光体の表面が次第に劣化して、発せられる光の輝度が低下する。従って、蛍光体を緻密で化学的に安定な皮膜で被覆することにより、蛍光体の耐湿性が改善され、長寿命化が図られる。
更に、金属アルコキシドを用い、ゾルゲル反応により、溶液下にチタン酸バリウムによる保護膜を形成する方法も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−150294号公報
【特許文献2】特開平6−200245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、チタン酸バリウムの結晶性およびその被覆方法については何等記載されておらず、単に保護膜としての有効性に触れ、蛍光体の長寿命化の可能性を示唆したに過ぎない。
【0007】
特許文献2においては、溶液下に、金属アルコキシドの加水分解−重縮合によりチタン酸バリウムを被覆する方法に関し、開示している。しかしながら、バリウムエトキシドとチタンテトライソプロポキシドの混合溶液を比較的高い温度である50℃で攪拌し、しかる後に水を加えて加水分解する方法では、バリウムエトキシドの加水分解速度が速く、水の添加と共に分解が先に起こるため、得られるチタン酸バリウムの均質性が乏しいばかりでなく、水の添加からの時間が示されておらず、膜圧も十分な厚みとは言い難い。更に、膜の緻密性が低いために被膜強度が得られない。そのため、漏れ電流を十分に抑制することが出来ず、エネルギー効率が向上しないなどの課題がある。この課題は、特に、誘電体で硫化亜鉛を被覆する際に顕在化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術に存在する上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ね、金属アルコキシド混合物に配位性アルコール溶媒を加え、金属アルコキシド混合物の錯形成を促し、低温で金属アルコキシドを加水分解し、非プロトン性溶媒下に被覆処理することにより、安定的に、均質な金属酸化物で硫化亜鉛を被覆できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の製造方法が提供される。
【0010】
[1] カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる第1群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物と、チタンおよびジルコニウムよりなる第2群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物とからなる誘電体で、硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物の製造方法であって、第1群と第2群の金属のアルコキシドおよび配位性アルコール溶媒を含む混合物に硫化亜鉛の存在下0℃以下で水を添加し、0℃以上に昇温して前記アルコキシドを加水分解して第1群と第2群の金属の酸化物を生成するとともに、非プロトン性溶媒の存在下で前記酸化物を前記硫化亜鉛の表面に堆積させることを特徴とする誘電体被覆物の製造方法。
[2] 前記誘電体はチタン酸バリウムであることを特徴とする[1]記載の誘電体被覆物の製造方法。
[3]前記硫化亜鉛が蛍光体であることを特徴とする[1]または[2]記載の誘電体被覆物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば硫化亜鉛の表面を均一かつ厚く誘電体で被覆した誘電体被覆物が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた誘電体被覆物の断面写真である(倍率20000倍)。
【図2】実施例1で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率2000倍)。
【図3】実施例2で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率3000倍)。
【図4】比較例1で得られた誘電体被覆物の断面写真である(倍率20000倍)。
【図5】比較例1で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率3000倍)。
【図6】比較例2で得られた誘電体被覆物の断面写真である(倍率10000倍)。
【図7】比較例2で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率10000倍)。
【図8】比較例3で得られた誘電体被覆物の断面写真である(倍率10000倍)。
【図9】比較例3で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率10000倍)。
【図10】比較例4で得られた誘電体被覆物の断面写真である(倍率10000倍)。
【図11】比較例4で得られた誘電体被覆物表面のSEM写真である(倍率10000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る誘電体被覆物は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる第1群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物と、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)よりなる第2群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物とからなる複合酸化物の誘電体で、硫化亜鉛を被覆したものである。
【0014】
上記誘電体は、強誘電体であるチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)と高誘電体であるジルコン酸バリウム(BaZrO3)などである。誘電体が、例えばバリウム、ストロンチウムおよびチタンを含む複合酸化物(BaTiO3・SrTiO3)のように、3種以上の金属元素を含む酸化物であってもよい。これらは単独で用いても、混合して用いても構わない。
【0015】
また、硫化亜鉛には、銅、銀、金、マンガンなどの遷移金属、セリウム、テルビウム、ユーロピウムなどの稀少金属などで付活したものなど、公知の蛍光体が含まれる。
【0016】
本発明では、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムよりなる第1群から選ばれた金属のアルコキシドとしては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、またはバリウムの、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシドまたはブトキシドなどの炭素数1〜8の低級アルコールのアルコキシドが挙げられる。本発明では、加水分解の容易さ、配位性アルコール溶媒の配位阻害を避けるなどの理由から炭素数1〜4の低級アルコールのアルコキシドが好ましい。これらアルコキシドは単独で用いても、複数を混合して使用しても構わない。
【0017】
また、第2群から選ばれた金属のアルコキシドとしては、例えば、チタンまたはジルコニウムの、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシドまたはブトキシドなどの炭素数1〜8の低級アルコールのアルコキシドが挙げられる。本発明では、加水分解の容易さ、配位性アルコール溶媒の配位阻害を避けるなどの理由から炭素数1〜4の低級アルコールのアルコキシドが好ましい。これらアルコキシドは単独で用いても、複数を混合して使用しても構わない。
【0018】
第1群の金属のアルコキシドと第2群の金属のアルコキシドとの使用比率は、生成する複合金属酸化物の誘電率が高ければ高いほど好ましいため、1:1のモル比率で使用することが好ましい。
【0019】
本発明で使用する金属アルコキシドの錯形成を促す配位性アルコール溶媒とは、金属アルコキシドと反応し、アルコール置換反応を起こす一方で、もう一方の群の金属に配位して、2種の金属の錯体を形成する溶媒であれば、特に限定されるものではないが、金属に配位する一方で、金属アルコキシドが加水分解される際に、重縮合を抑制しないことが好ましい。従って、水酸基の他に配位性をもたらす官能基としては、エーテル基または3置換アミノ基であることが好ましく、炭素数1〜8、特に炭素数1〜4のアルキル基に結合したエーテル基または3置換アミノ基であることがより好ましい。従って、使用される配位性アルコール溶媒としては、特に限定されるものではなく、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、3−メトキシプロパノール、3−エトキシプロパノール、2−メトキシ−1−ブタノール、2−エトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−エトキシ−1−ブタノール、4−メトキシ−1−ブタノール、4−エトキシ−1−ブタノールなどのモノエーテルアルコール類、o−メトキシフェノール、o−エトキシフェノールなどのモノエーテルフェノール類、N,N−ジメチルアミノ−2−エタノール、N,N−ジエチルアミノ−2−エタノール、N,N−ジメチルアミノ−2−プロパノール、N,N−ジエチルアミノ−2−プロパノール、N,N−ジメチルアミノ−3−プロパノール、N,N−ジエチルアミノ−3−プロパノール、N,N−ジメチルアミノ−2−ブタノール、N,N−ジエチルアミノ−2−ブタノール、N,N−ジメチルアミノ−3−ブタノール、N,N−ジエチルアミノ−3−ブタノール、N,N−ジメチルアミノ−4−ブタノール、N,N−ジエチルアミノ−4−ブタノールなどのアミノアルコール類、o−N,N−ジメチルアミノフェノール、o−N,N−ジエチルアミノフェノールなどのアミノフェノール類、エチレングルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類を使用することが出来る。本発明では、加水分解の容易さ、配位性アルコール溶媒の配位阻害を避けるなどの理由から炭素数1〜4のアルキル基に結合したエーテル基または3置換アミノ基を有するものを採用することが好ましい。入手性、経済性、反応後の除去性などを考慮して、モノエーテルアルコール類の使用が好ましく、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノールの使用がより好ましい。これら配位性アルコール溶媒は単独で用いても、複数を混合して使用しても構わない。
【0020】
金属アルコキシドを溶解する溶媒はモノアルコール類であり、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノールなどの炭素数1〜10、好ましくは、1〜8の低級モノアルコールなどが挙げられる。本発明では、加水分解の容易さ、配位性アルコール溶媒の配位阻害を避けるなどの理由から炭素数1〜4の低級モノアルコールが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノールが好ましい。これらは単独で用いても、複数を混合して使用しても構わない。
金属アルコキシドを溶解する溶媒の使用量としては、特に制限されるものではないが、通常、金属アルコキシドの濃度が0.1Mから2.5Mとなる範囲で使用し、溶解度、経済性を考慮して、0.2から2Mとなる範囲で使用することがより好ましい。金属アルコキシドを溶解する溶媒と配位性アルコール溶媒との使用比率としては、特に制限されるものではないが、配位溶媒の特性が失われない程度であればよく、通常、全溶媒(即ち、水以外の全ての溶媒)中の配位性アルコール溶媒の重量占有率としては、1〜80重量%の範囲、添加効果、経済性、除去性を考慮し、5〜75重量%の範囲、より好ましくは、10〜70重量%の範囲で使用される。
【0021】
第1群の金属のアルコキシドと第2群の金属のアルコキシドは、上記アルコール類中で、溶解し、第1群の金属と第2群の金属が1:1の錯体を形成することが好ましい。そこで、第1群の金属のアルコキシドと第2群の金属のアルコキシドを混合し、少なくとも10分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上48時間以下の時間、混合、攪拌することが好ましい。
【0022】
第1群の金属のアルコキシドと第2群の金属のアルコキシドおよび配位性アルコール溶媒を含む混合物は、水を加えて加水分解に付される。その際、高すぎる温度では、第1群の金属のアルコキシドが先ず優先的に分解し、重縮合を開始するため、水が、溶液中に完全に拡散するまでは、加水分解が開始しない温度、すなわち、0℃以下の温度で添加する。
【0023】
添加する水の量は、特に限定されるものではなく、加水分解し、重縮合により金属酸化物が出来る量であれば、特に限定されないが、加水分解をより均質且つ、速やかに実施できる量、すなわち、第1群の金属のアルコキシドおよび第2群の金属のアルコキシドを各々1モルずつから、1モルの複合酸化物を生成する場合には、化学量論上は3モル必要であるが、3〜30モル倍、好ましくは、4〜20モル倍の範囲を使用する。なお、第1群から選ばれた金属の炭酸塩(何れも水に対して難溶性である。)の生成を防ぐため、脱イオン処理を施した高純度の蒸留水を使用するのが好ましい。
【0024】
加水分解のために水を添加するときに、水を溶媒に希釈して添加することも出来る。添加する溶媒としては特に限定されるものではなく、水が完全に相溶していればよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、2―ブタノールなどのモノアルコール類、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノールなどのモノエーテル類を使用することができる。水との混合比は、特に限定されるものではないが、通常、水1に対して、溶媒を0.1〜50重量倍、好ましくは、0.2〜20重量倍の範囲で使用する。
【0025】
硫化亜鉛は、非プロトン性溶媒の存在下で誘電体に被覆される。非プロトン性溶媒は、金属アルコキシドの加水分解開始の前から反応系に存在していてもよいし、金属アルコキシドの加水分解開始の後で反応系に存在させてもよい。加水分解反応の条件にもよるが、金属アルコキシドの加水分解開始後、加水分解反応と併行して生成した金属酸化物の堆積が起こり得ることを考慮すると、非プロトン性溶媒は加水分解開始の前から反応系に存在させておくことが好ましい。非プロトン性溶媒は特に限定されるものではなく、金属アルコキシドを溶解している溶媒と混合できる溶媒であれば良いが、特に、硫化亜鉛と親和性が無く、被覆に際して、硫化亜鉛を溶媒が被覆し、金属酸化物の沈着を抑制せず、金属酸化物と必要以上に親和性を持ち、硫化亜鉛上への沈着より、溶媒中への分散を促進させる性質を持たないものが好ましい。使用される非プロトン性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロオクタンのような飽和炭化水素、トルエン、キシレン、メシチレンのような芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチルのようなエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランのようなエーテル類などの有機溶媒が挙げられる。経済性や廃棄、焼却時などに問題となる環境負荷を考慮して、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンおよびシクロオクタンのような飽和炭化水素、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素の使用が好ましい。
【0026】
懸濁液の固形分濃度としては、特に制限されるものではなく、分散性、解砕性が確保されておれば特に限定されるものではないが、通常、攪拌力を考慮して、0.1〜30重量%の範囲、より好ましくは、1〜20重量%の範囲で調整される。
【0027】
懸濁液に、金属アルコキシド溶液を添加し、更に水を所定の温度で添加した後、金属アルコキシドの加水分解をより確実なものとし、金属アルコキシド部位を金属に残さず、更に、重縮合を進めるために、懸濁溶液を加温する。加温する温度に関しては、特に限定されるものではないが、系内の水が除去されない温度、すなわち、10〜90℃の範囲、好ましくは、30〜80℃の範囲で実施する。その際、更に水を加え、加水分解を促進することも可能である。
【0028】
加水分解を実施する時間としては、特に限定されるものではなく、重縮合に十分な時間をあたえることができれば、限定されるものではないが、通常、反応液に水を添加した後、反応液を0℃以上の温度に昇温した時点から10分〜5時間の範囲で実施され、操作性、反応効率を考慮して、好ましくは20分〜2時間の範囲で実施される。
【0029】
誘電体被覆物は、加水分解によって生成した金属酸化物が硫化亜鉛表面に堆積した後、メッシュを用いてまたは遠心分離などの方法によって分別され、硫化亜鉛上に誘電体が堆積しなかった微粒子を除いた後、120℃程度の温度で真空乾燥することにより得ることが出来る。
【実施例】
【0030】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明に係る誘電体被覆物およびその製造方法に付いて説明する。なお、本発明はこの実施例により何等限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
乾燥した100mL三口フラスコに、還流管、温度計を装着し、バリウムエトキシド[1.446g:6.357mmol]を取り、窒素で真空置換した。その後、体積比で1:1のメタノール/2−メトキシエタノール混合溶液6.4mLを加え、次いで1.757mL(6.357mmol)のテトライソプロポキシチタンを添加した。このまま8時間攪拌し、原子比1/1のBa/Tiアルコキシド1mol/L溶液を得た。
100mLフラスコに、GTP社製硫化亜鉛蛍光体813X191(2.5g)を加え、窒素で真空置換しトルエン(25mL)を加えた。冷媒を用いて−39.1℃まで冷却し、上記1mol/Lの Ba/Tiアルコキシド溶液(1mL)を加え15分攪拌したのち、イオン交換水0.2mLと2−メトキシエタノール0.8mLの混合溶液を滴下、その後−39.1℃で30分攪拌した。攪拌終了後、室温まで昇温攪拌した。その後、90℃まで加熱し、60分攪拌した。室温まで冷却し、その後メッシュ(目開き5μm)で濾過、イソプロパノール50gにて洗浄後、一晩風乾した後、80℃で2時間真空乾燥し、チタン酸バリウムで硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物を得た。
得られた誘電体被覆物の断面を図1に示す。
また誘電体被覆物の表面のSEM写真を図2に示す。
【0032】
<実施例2>
1mol/LのBa/Tiアルコキシド溶液の使用量を2mlとし、イオン交換水の使用量を0.4mLを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
得られた誘電体被覆物の表面のSEM写真を図3に示す。
【0033】
<比較例1>
1mol/Lの Ba/Tiアルコキシド溶液(0.2ml)を調製する際に2−メトキシエタノールを使用せず、水添加時にも2−メトキシエタノールを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
得られた誘電体被覆物の断面を図4に示す。粒子表面に空隙があることが解る。
また得られた誘電体被覆物の表面のSEM写真を図5に示す。
【0034】
<比較例2>
乾燥した100mL三口フラスコに、還流管、温度計を装着し、バリウムエトキシド[1.446g:6.357mmol]を取り、窒素で真空置換した。その後、体積比で1:1のメタノール/2−メトキシエタノール混合溶液6.4mLを加え、次いで1.757mL(6.357mmol)のテトライソプロポキシチタンを添加した。このまま8時間攪拌し、原子比1/1のBa/Tiアルコキシド1mol/L溶液を得た。
100mLフラスコに、GTP社製硫化亜鉛蛍光体813X191(2.5g)を加え、窒素で真空置換しトルエン(25mL)を加えた。反応溶液を室温に保持し、上記1mol/Lの Ba/Tiアルコキシド溶液(1mL)を加え15分攪拌したのち、イオン交換水0.2mLと2−メトキシエタノール0.8mLの混合溶液を滴下、30分攪拌した。その後、90℃まで加熱し、60分攪拌した。室温まで冷却し、その後メッシュ(目開き5μm)で濾過、イソプロパノール50gにて洗浄後、一晩風乾した後、80℃で2時間真空乾燥し、チタン酸バリウムで硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物を得た。
得られた誘電体被覆物の断面を図6に示す。粒子表面に被膜の形成できていない部分があることが解る。
また得られた誘電体被覆物の表面のSEM写真を図7に示す。粒子表面に大きく沈着したものがあることが解る。
【0035】
<比較例3>
乾燥した100mL三口フラスコに、還流管、温度計を装着し、バリウムエトキシド[1.446g:6.357mmol]を取り、窒素で真空置換した。その後、体積比で1:1のメタノール/2−メトキシエタノール混合溶液6.4mLを加え、次いで1.757mL(6.357mmol)のテトライソプロポキシチタンを添加した。このまま8時間攪拌し、原子比1/1のBa/Tiアルコキシド1mol/L溶液を得た。
100mLフラスコに、GTP社製硫化亜鉛蛍光体813X191(2.5g)を加え、窒素で真空置換しトルエン(25mL)を加えた。反応溶液を冷媒を用いて5℃まで冷却し、上記1mol/Lの Ba/Tiアルコキシド溶液(1mL)を加え15分攪拌したのち、イオン交換水0.2mLと2−メトキシエタノール0.8mLの混合溶液を滴下、その後5℃で30分攪拌した。攪拌終了後、90℃まで加熱し、60分攪拌した。室温まで冷却し、その後メッシュ(目開き5μm)で濾過、イソプロパノール50gにて洗浄後、一晩風乾した後、80℃で2時間真空乾燥し、チタン酸バリウムで硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物を得た。
得られた誘電体被覆物の断面を図8に示す。粒子表面に被膜の形成できていない部分があることが解る。
また得られた誘電体被覆物の表面のSEM写真を図9に示す。粒子表面に大きく沈着したものがあることが解る。
【0036】
<比較例4>
実施例1において、トルエンを使用しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
得られた誘電体被覆物の断面を図10に示す。粒子表面に被膜の形成できていない部分があることが解る。
また得られた誘電体被覆物の表面のSEM写真を図11に示す。粒子表面に大きく沈着したものがあることが解る。
【0037】
<誘電体被覆物の評価試験>
1重量%の硝酸銀水溶液に実施例1及び2で作製した被覆された硫化亜鉛を浸漬したところ、粒子表面に硫化物が露出しておらず、また被膜の緻密性が高いために、硝酸銀水溶液の浸入を抑えることが確認できた。
比較例1〜4の被覆硫化亜鉛では、硝酸銀と硫黄乃至硫化物との反応により、着色剤を加えていないにもかかわらず、黒く着色してしまうことが確認できた。比較例の被膜では被膜の外部に硫黄分が露出しているので、十分な絶縁性が確保できないと評価できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる第1群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物と、チタンおよびジルコニウムよりなる第2群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物とからなる誘電体で、硫化亜鉛を被覆した誘電体被覆物の製造方法であって、第1群と第2群の金属のアルコキシドおよび配位性アルコール溶媒を含む混合物に硫化亜鉛の存在下0℃以下で水を添加し、0℃以上に昇温して前記アルコキシドを加水分解して第1群と第2群の金属の酸化物を生成するとともに非プロトン性溶媒の存在下で前記酸化物を前記硫化亜鉛の表面に堆積させることを特徴とする誘電体被覆物の製造方法。
【請求項2】
前記誘電体はチタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1記載の誘電体被覆物の製造方法。
【請求項3】
前記硫化亜鉛が蛍光体であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体被覆物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−126748(P2011−126748A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288088(P2009−288088)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】