誘電特性を利用した凍結被検体の脆化温度の決定方法
【課題】 凍結被検体の加工に最適な脆化温度を非破壊的に決定する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、静電容量緩和終了温度と緩和時間との関係および脆化温度と歪み時間との関係がアレニウス型の式に従うことに基づいて、静電容量の測定結果を、数式(1)および数式(2)にしたがって脆化温度に換算する。
【解決手段】 本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、静電容量緩和終了温度と緩和時間との関係および脆化温度と歪み時間との関係がアレニウス型の式に従うことに基づいて、静電容量の測定結果を、数式(1)および数式(2)にしたがって脆化温度に換算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性を利用した凍結被検体の脆化温度の決定方法に関するものであり、特に、凍結被検体の静電容量を測定し、上記静電容量と力学的特性との相関関係を見出して、凍結被検体の加工に最適な脆化温度を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚体を凍結すると、魚体の力学物性は凍結温度とともに変化する。この力学物性の変化は魚体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。一般に、脆性が発現する温度を脆化温度という。従来、魚体組織の脆化温度の違いを利用し、魚体の輪切りや三枚おろしを行う切断加工および凍結粉砕を利用した魚体の組織分離について検討が行われている(非特許文献1〜3)。
【0003】
魚体を低温加工する場合、脆化温度付近で切断加工や凍結粉砕が行われる。このため、脆化温度が予め明らかになっていないと、精度の高い切断や効率の良い分離を行うことができない。これまで、脆化温度は力学的な材料試験を行うことにより求められており(非特許文献4)、凍結状態の魚肉については、その強度が比較的高く、しかも塑性が少ないことや、三点曲げ試験の結果からその強度に異方性があることなどが報告されている(非特許文献5)。
【非特許文献1】羽倉義雄:「食品とガラス化・結晶化技術」、 (村瀬則郎、 佐藤清隆編)、サイエンスフォーラム、pp.215-220.(2000)
【非特許文献2】Y.Hagura、H.Watanabe、 M.Ishikawa and Y.Sakai :An application of cryo-shattering to low-fat meat separation from whole fish of mackerel and sardine、 Nippon Suisan Gakkaishi、55、 2119-2122(1989)
【非特許文献3】羽倉義雄 :冷凍、68 (787)、pp.57-62(1993)
【非特許文献4】羽倉義雄、 渡辺尚彦:シャルピー衝撃試験機を用いた最適凍結粉砕分離温度の決定、日本冷凍協会論文集、 9(3)、pp. 277-282、 (1992)
【非特許文献5】岡本清、羽倉義雄、鈴木寛一、久保田清:曲げ荷重により切断した凍結魚肉の切断面角度に及ぼす筋繊維配向角度の影響、日本食品科学工学会誌、43(9)、1035-1041、(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の力学的材料試験による脆化温度の決定方法では、少量の試験片から得た測定値を確定値とみなすことは危険であることから、一般的には、大量の試験片を作成して破壊試験が行われ、統計処理が行われている。そのため非常に手間がかかり、大きな労働力を必要とするという問題がある。さらに、材料試験により得られた結果はばらつきが大きいという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、非破壊的な測定によって求めることができる静電容量と、破壊試験によって求められる力学的特性との相関関係を見出し、凍結被検体の加工に最適な脆化温度を非破壊的に決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、静電容量の測定によって得られる緩和時間と力学的特性の測定によって得られる歪み時間との間には比例関係が成立することを見出し、このことから、静電容量緩和終了温度と緩和時間との関係および脆化温度と歪み時間との関係はアレニウス型の式に従うことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0009】
【数5】
【0010】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0011】
【数6】
【0012】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、静電容量を測定し、当該測定結果から緩和終了温度を求めれば、上記緩和終了温度を与える緩和時間が決まり、上記数式(1)に基づいて力学的特性である歪み時間を算出することができる。さらに、上記数式(1)に基づいて算出された上記歪み時間の値を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を求めることができる。したがって、誘電特性の測定結果である静電容量を力学的測定結果である脆化温度に換算でき、手間のかかる破壊試験を行うことなく、効率的に脆化温度を求めることができる。
【0014】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、
【0015】
【数7】
【0016】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整することが好ましい。
【0017】
上記数式(3)より、被検体の変形速度を変化させることによって上記歪み時間を変化させることができ、上記歪み時間を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を変化させることができる。したがって、脆化温度を被検体の変形速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。
【0018】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、
【0019】
【数8】
【0020】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整することが好ましい。
【0021】
上記数式(4)は、歪み時間を凍結被検体の加工に用いる粉砕機の運転条件から求めるものであり、粉砕機の粉砕手段の回転速度を変化させることによって歪み時間を変化させることができる。したがって、脆化温度を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。
【0022】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法では、上記被検体は動物であることが好ましい。さらに、上記動物は魚類または家畜であることが好ましい。上記構成によれば、食用に供される被検体動物の脆化温度を、静電容量を測定するだけで非破壊的に決定することができる。したがって、凍結水産物や凍結畜産物等の加工を省力化することができる。
【0023】
また、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画することを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、設定温度よりも脆化温度が高い試料は、脆化温度以下の温度で粉砕されるため微細粒子となり、設定温度よりも脆化温度が低い試料は、脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。したがって、混合物の温度の設定と、混合物を適切な目開きの篩を用いて分級することを繰り返せば、上記混合物に含まれる試料を効率的に分画することができる。
【0025】
また、本発明に係る混合物の分画方法では、上記混合物は魚体であることが好ましい。上記構成によれば、魚体に含まれる試料(成分)を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、魚体の頭部、中落ちなどに含まれるDHA等の未利用資源の再資源化を図ることができるとともに、廃棄物量を低減することができる。
【0026】
また、本発明に係る混合物の分画方法では、上記混合物はゴム製品であることが好ましい。上記構成によれば、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、ゴム製品のリサイクルを効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、以上のように、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備える構成である。
【0028】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0029】
【数9】
【0030】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0031】
【数10】
【0032】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備える構成である。
【0033】
それゆえ、静電容量を測定すれば、非破壊的に、静電容量の測定結果を力学的測定結果である脆化温度に換算できるので、効率的に被検体の脆化温度を求めることができ、その結果、凍結被検体の加工を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0034】
また、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、上記温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画する構成である。
【0035】
それゆえ、上記混合物に含まれる試料を効率的に分画することができ、廃棄物のリサイクル等を有効に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の位置実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法、および本発明に係る混合物の分画方法について詳述する。
【0037】
(1)本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法
一実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えている。上記静電容量測定ステップは、平行平板電極間に被検体を入れ、交流電場を加えることにより、被検体の静電容量を測定するステップである。
【0038】
ここで、「静電容量」とは、単位電位差あたりに貯えられる電気量のことであり、静電容量(誘電特性)の測定では、平行平板電極間に誘電体(試料)を入れることで、その誘電体内の電子、イオン、分子等の分極を捉えることができる。このため、静電容量を測定することにより、高分子材料等では、冷却(凍結)に伴う分子の運動性の変化も比較的容易に捉えることができる。
【0039】
一方、破壊検査には非常に手間がかかるため、凍結被検体の物性を非破壊で測定することは重要である。静電容量の測定は、試料に交流電場を加えるだけなので、試料を破壊せずに迅速に行うことができ、試料の物性の経時的変化も連続測定が可能である。また、静電容量は、分子運動を反映しているので、その測定周波数を変化させることで、多成分系の食品等の凍結被検体において個々の成分に対応した測定を行うことが可能である。
【0040】
ここで、「脆化温度」とは、脆性が発現する温度をいう。魚体等の被検体を凍結すると、被検体の力学特性は凍結温度とともに変化する。この力学特性の変化は被検体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。一般に、魚体等を低温加工する場合は、脆化温度付近で切断加工や凍結粉砕が行われるため、脆化温度が予め明らかになっていないと、精度の高い切断や、効率のよい分離を行うことができない。したがって、脆化温度は、凍結被検体の加工を行う上で非常に重要な意味を持つといえる。通常、脆化温度は力学的な破壊試験を大量に行うことにより測定される。
【0041】
上述のように、静電容量の測定は非常に簡便であるとともに、被検体の物性を測定する上で有利な点が多いため、これまで力学的な破壊試験を行うことにより測定されてきた脆化温度を、静電容量の測定値から換算して求めることができれば凍結被検体の加工に要する労力を大幅に低減することができる。
【0042】
上記被検体は特に限定されるものではなく、凍結粉砕による加工を行う必要性のあるものであればよい。例えば、被検体は動物であっても植物であってもよい。また、被検体は生物体に限定されるものではなく、工業製品またはその原料であってもよい。
【0043】
上記動物としては、特に限定されるものではないが、凍結粉砕による加工を行うという観点からは食用に供されるものであることが好ましい。例えば、魚類、エビ、カニ等の甲殻類、貝、イカ等の軟体動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜等を挙げることができる。上記動物の形態は特に限定されるものではない。例えば、動物体を構成する一部分であってもよいし、動物体全体であってもよい。また、魚類としては特に限定されるものではなく、脊椎動物の無顎類、板皮類、軟骨魚類、棘魚類、硬骨魚類のいずれかに分類されるものであればよい。
【0044】
さらに、上記植物としては特に限定されるものではなく、被子植物であっても裸子植物であってもよい。また、被子植物としては双子葉植物であっても単子葉植物であってもよい。上記植物の形態は特に限定されるものではない。例えば、植物体を構成する一部分であってもよいし、植物体全体であってもよい。
【0045】
上記工業製品またはその原料とは、特に限定されるものではなく、上記工業製品またはその原料の温度を低下させることによって脆性が生じるものであればよい。例えば、プラスチック製品、皮革製品、セラミック製品、ゴム製品等およびこれらの原料を挙げることができる。
【0046】
他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0047】
【数11】
【0048】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0049】
【数12】
【0050】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えている。
【0051】
上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップは、被検体の凍結過程における静電容量の凍結温度依存性を調べ、緩和終了温度を算出するステップである。具体的には、図1に示すように、被検体の凍結温度を横軸に、静電容量を縦軸にプロットしたグラフを作成し、緩和終了温度を算出する。ここで、「緩和終了温度」とは、被検体の凍結温度を低下させた場合に最初に現れる静電容量の変極点を与える温度をいい、図1においては、接線の交点に対応する凍結温度で表されている。
【0052】
上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップは、後述する実施例に示すように、上記静電容量測定時の周波数を変化させると、周波数が小さくなるとともに上記緩和終了温度が低温側に移動し、上記緩和終了温度と周波数とが比例関係を示すことに基づき、上記緩和終了温度と対応する周波数を求め、当該周波数を緩和時間に換算するステップである。ここで、「緩和時間」とは、上記周波数の1/2周期あたりの時間をいう。すなわち、緩和時間をτ、周波数をfとすると、緩和時間τは次の式で表される。
【0053】
【数13】
【0054】
上記数式(1)に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップとは、後述する実施例に示すように、上記緩和時間と歪み時間との間に比例関係が認められたことから、当該比例関係に基づいて上記数式(1)を求め、上記数式(1)に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出するステップである。
【0055】
ここで、「歪み時間」とは、試験片サイズから1歪むための時間をいう「歪み時間」とは、試験片がその試験片の厚み分(100%)歪むために要する時間をいう。例えば、厚さ20mmの試験片の場合、試験片の厚さ方向に20mm変形させることを、「1歪む」といい、20mm変形させる(1歪む)のに必要な時間を「歪み時間」という。
【0056】
上記歪み時間を上記数式(2)に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップとは、上記歪み時間と、被検体の脆化温度との関係を表す上記数式(2)に、上記数式(1)によって求められた上記歪み時間を代入することにより上記脆化温度を算出するステップである。
【0057】
以下に、上記数式(1)および数式(2)の導出について詳細に説明する。
【0058】
上記歪み時間は、
【0059】
【数14】
【0060】
で表される。そこで、まず上記数式(3)に基づき、力学特性測定の変形速度vから、歪み時間νを求めた。次に、図2に示すように、logνを絶対温度で表した脆化温度の逆数(1/T)に対してプロットした。脆化温度は、三点曲げ試験(破壊試験)によって求める。ここで脆化温度の測定を行うのは、静電容量の測定結果から脆化温度を算出する関係式を導くためである。ある被検体について脆化温度の測定を行って静電容量と脆化温度との関係式を導いておけば、他の被検体については、静電容量のみ測定すれば導出した関係式によって脆化温度を求めることができ、三点曲げ試験(破壊試験)を省略することができる。三点曲げ試験(破壊試験)の詳細については実施例にて後述する。
【0061】
図2において横軸は脆化温度の逆数、縦軸は歪み時間である。図2より歪み時間と脆化温度との間には比例関係が認められた。つまり、歪み時間と脆化温度との関係はアレニウス型の式に従う。ところで、歪み時間と脆化温度との関係は、
【0062】
【数15】
【0063】
に表すことができる。
【0064】
そこで、図2の歪み時間と脆化温度との関係を用いて上記数式(6)のパラメータを求めたのが上記数式(2)である。上記数式(2)および上記数式(6)を用いて見かけの活性化エネルギーを求めたところ225kJ/molであった。
【0065】
また、上記数式(5)から求めた緩和時間τの対数logτを絶対温度で表した緩和終了温度の逆数(1/T)に対してプロットすると、図3に示すように、緩和時間と緩和終了温度との間には比例関係が認められ、緩和時間と緩和終了温度との関係はアレニウス型の式に従うことが明らかとなった。つまり、図3から緩和時間と緩和終了温度との関係は、
【0066】
【数16】
【0067】
で表すことができる。
【0068】
そこで、図3の緩和時間と緩和終了温度との関係を用いて上記数式(7)のパラメータを求めると、上記数式(8)が導出される。
【0069】
【数17】
【0070】
なお、上記数式(7)および上記数式(8)を用いて見かけの活性化エネルギーを求めたところ225kJ/molであった。
【0071】
次に、上記数式(7)および上記数式(8)により、緩和時間と歪み時間との関係について検討した。横軸に緩和時間、縦軸に歪み時間をとり、脆化温度と緩和終了温度が一致する緩和時間と歪み時間との交点を両対数グラフにプロットし、図4を得た。図4に示した両対数グラフのプロットは直線となり、緩和時間と歪み時間との間には比例関係が認められた。緩和時間と歪み時間との関係は数式(9)で表すことができる。
【0072】
【数18】
【0073】
図4に示した静電容量測定結果から求められた緩和時間と後述する実施例に示す三点曲げ試験によって求められた歪み時間を上記数式(9)に代入し、上記数式(9)の定数A、Bを求めたところA=1、B=5となった。図4に示した静電容量測定結果から求められた緩和時間と三点曲げ試験によって求められた歪み時間との関係を表したのが上記数式(1)である。
【0074】
さらに、静電容量測定により得られた上記数式(8)および三点曲げ試験により得られた上記数式(2)から求めた静電容量と三点曲げ試験の見かけの活性化エネルギーはほぼ等しく、225kJ/molであることも確認できた。すなわち、静電容量測定と三点曲げ試験とは、同一の現象を捕捉している可能性が示唆された。
【0075】
以上説示した本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により、予想された緩和時間を用いて静電容量の測定を行い、緩和終了温度を決定することで、力学的特性である歪み時間に対応した脆化温度を決定することができる。
【0076】
他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、上記数式(3)に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整する。ここで、上記「変形速度」とは、「三点曲げ試験」において用いる三点曲げ試験機本体に設けられた下部ステージの上昇および下降速度をいう。ここで、上記三点曲げ試験機は、後述する実施例に示すように、下部ステージの三点曲げ試験用治具に被検体を固定し、当該下部ステージを上方に動かして上部ステージの三点曲げ試験用治具に押し当てることにより、被検体に曲げ荷重を作用させる構造となっている。
【0077】
上記数式(3)より、被検体の変形速度を変化させることにより、上記歪み時間を変化させることができるので、上記歪み時間を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を変化させることができる。したがって、脆化温度を被検体の変形速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。また、脆化温度を高くすることができれば、被検体の凍結加工温度を高くすることができるので、被検体を凍結するために必要な液体窒素等の冷媒の使用量を低減することができ、省エネルギーの観点からも有用である。
【0078】
また、他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、上記数式(4)に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整する。
【0079】
上記数式(4)は、歪み時間を凍結被検体の加工に用いる粉砕機の運転条件から求めるものである。粉砕機としては、特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕機を用いることができる。また、粉砕手段も特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕手段を用いることができる。例えば、ハンマー、回転刃、二軸噛、ミル等を挙げることができる。粉砕手段の大きさ、材質、数等は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0080】
本実施形態に係る被検体の脆化温度の決定方法では、粉砕機の粉砕手段の回転速度を変化させることによって歪み時間を変化させることができる。したがって、脆化温度を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。また、脆化温度を高くすることは、上述のように省エネルギーの観点からも有用である。
【0081】
(2)本発明に係る混合物の分画方法
一実施形態において、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、上記温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画する。
被検体を凍結すると、被検体の力学物性は凍結温度とともに変化する。この力学物性の変化は被検体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。脆化温度より低い温度で物質を粉砕した場合、物質は脆性状態にあるため、粉砕粒子を微細にできる。一方、脆化温度より高い温度で物質を粉砕した場合、物質は延性状態を示し、破壊されにくいため、粉砕粒子を粗大にすることができる。
【0082】
例として、物性の異なる2種類の試料A、Bから成る混合体から試料Aと試料Bをそれぞれ分離する方法を考える。この試料Aと試料Bの脆化温度の関係は試料Aが試料Bより脆化温度が低いとする。そこで、試料Aの脆化温度と試料Bの脆化温度との間の温度で両試料の粉砕を行うと、試料Aと試料Bをそれぞれ分離できる可能性が考えられる。つまり、両試料の破壊頻度が同じであるとすれば、試料Aは脆化温度以下の温度、つまり脆性状態で粉砕されるため、微細粒子となる。一方で試料Bは脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。この混合粉砕物を適切な目開きの篩を用いて分級することで、試料Aと試料Bとの分離が可能となる。
【0083】
図5に試料Aおよび試料Bの変形速度から求めた歪み時間と試料の脆化温度との関係をモデル図で示した。図5では、歪み時間の変化に対する両試料の脆化温度の変化が同一ではなく、両試料の脆化温度の差も歪み時間に依存する。この場合、粉砕手段の回転速度をFに設定し、試料Aおよび試料Bの温度をf’〜h’の間に設定して凍結粉砕を行うよりも、回転速度をGに設定し、試料Aおよび試料Bの温度をg’〜i’の間に設定して凍結粉砕を行う方が、試料Aおよび試料Bの脆化温度の差が大きくなる。つまり、脆化温度の差が大きいことにより、粉砕後の粒子径の差も大きくなると考えられ、この差を利用して精密な分画が可能になる。このような条件設定により、脆化温度の差を考慮し、適切な歪み時間を選択することで、効率的に粒子径の差を最も大きくすることが可能となると考えられる。
【0084】
以上の説明では、簡単のために二種類の試料を含む混合物を例に挙げたが、試料は混合物中に3種類以上含まれていてもよく、特に限定されるものではない。試料が3種類以上含まれている場合でも、その中から任意の二種類の試料を選択し、混合物の温度を、上記二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、設定温度よりも脆化温度が高い試料は、脆化温度以下の温度で粉砕されるため微細粒子となり、設定温度よりも脆化温度が低い試料は、脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。
【0085】
したがって、混合物の温度の設定と、混合物を適切な目開きの篩を用いて分級することを繰り返せば、試料が混合物中に3種類以上含まれていても、上記試料を効率的に分画することができる。なお、混合物に含まれる試料の脆化温度は、既に説明した本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法を用いて決定すればよい。
【0086】
他の実施形態において、上記混合物は魚体であることが好ましい。「魚体」は、既に説明した魚類の体を意味するが、「体」の範囲や大きさ等は特に限定されるものではない。例えば、魚体は頭部および内臓を保持したものであってもよいし、頭部および内臓を除去したいわゆるドレス状魚体のような体の一部であってもよい。また、ドレス状魚体から骨、皮、うろこを除去した魚肉であってもよい。
【0087】
本実施形態では、魚体に含まれる試料(成分)を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、魚体の頭部、中落ちなどに含まれるDHA等の未利用資源の再資源化を図ることができるとともに、廃棄物量を低減することができ、有用である。
【0088】
他の実施形態において、上記混合物はゴム製品であることが好ましい。ゴム製品としては特に限定されるものではなく、ゴムを原料として用い、製造された製品であればよい。例えば、自動車用タイヤ、ゴムベルト、ゴムホース、パッキン類等が挙げられる。
【0089】
本実施形態では、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物、例えばポリエチレンやポリプロピレン等を効率的に分離し、ゴム製品のリサイクルを効果的に行うことができ、有用である。
【0090】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
以下、本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0092】
(1)被検体の静電容量の測定
(1−a)被検体
被検体には、モデル魚肉として、魚肉すり身(SA級 日本水産株式会社)を使用した。冷凍庫(−40℃)内で凍結保存しておいた魚肉すり身をポリエチレン製の袋に入れ、これを5℃に保った冷蔵庫内に約24時間静置して解凍した。解凍後の魚肉すり身を室温で型(寸法:150mm×150mm×10mm)に入れ、プラスチック製の円柱状ののし棒を用いて、厚さ10mmの平板状に成型した。重量が200gになるように、包丁を用いて成型した魚肉すり身を切断し、切り出した魚肉すり身を、静電容量の測定に用いた。
【0093】
(1−b)静電容量の測定方法
図6は、静電容量の測定に用いた静電容量測定装置の概略を示す構成図である。冷凍庫内にシールドおよび試料、平行平板電極を設置した。冷凍庫外に設置したLCRメータと平行平板電極とをケーブルで接続した。静電容量測定装置の各部分の特徴と機能を以下に示す。
【0094】
LCRメータ(HIOKI 3532-80 ケミカルインピーダンスメータ、日置電機株式会社製)の測定可能周波数は4Hz〜1MHzであり、インピーダンス、位相角など電気的特性を含め15項目の測定が可能である。LCRメータを測定用コンピュータに接続し、プログラム(HIOKI LCR サンプルプログラム、日置電機株式会社製)を用いて演算することにより静電容量を測定、出力した。
【0095】
平行平板電極にはステンレス製の板 (寸法:2.00mm×2.00mm 厚さ2.0mm) を使用し、平行平板電極間のスペーサー (直径10.5mm 長さ15mm) にはPTFE製の円柱状ナットを4個使用した。平行平板電極と試料が接触し通電が起こることを防ぐために、平行平板電極と試料との間にPTFEシート (寸法:210mm×210mm 厚さ0.05mm)を挟み静電容量の測定を行った。平行平板電極は、自作のシールド(寸法:270mm×370mm×150mm ステンレス製)で覆い、接地した。
【0096】
LCRメータおよび平行平板電極を接続するケーブルとして、4端子ケーブル(長さ1.2m)を使用した。ケーブルのLCRメータ側の接続部分には同軸コネクタを、平行平板電極側の接続部分にはバナナチップを用いた。静電容量測定装置を設置する前に、ケーブルのみをLCRメータと接続し、LCRメータのプログラムによりオープン補正およびショート補正を行った。
【0097】
測定に使用した冷凍庫は設定温度が可変であり、設定温度範囲は‐20℃〜‐85℃であった。測定では、冷凍庫内の温度分布および試料の凍結状態を考慮し、静電容量測定用に作製した試料と同一寸法:の温度測定用試料を作製した。温度測定用試料の幾何学的中心にK型熱電対を挿入し温度を測定した。
【0098】
次に、静電容量測定の手順を説明する。
【0099】
まず、(1−a)で説明した被検体(魚肉すり身200g)をPTFEシート(寸法:310mm×500mm 厚さ0.05mm)で包装した。この試料を、電極板間隔15mmの平行平板電極間に設置した。次に、平行平板電極、試料、シールドおよび温度測定用試料を‐20℃に設定した冷凍庫内に静置し、冷凍庫の設定温度(‐20℃〜‐85℃)を各測定温度に設定した。続いて、熱電対に接続した温度記録計の電源を入れ、図6に示した温度測定用試料の温度変化を記録した。
【0100】
続いて、冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、さらに温度記録装置の記録から上記温度測定用試料の温度が安定したことを確認し、LCRメータによって被検体の静電容量を測定した。
【0101】
(1−c)静電容量の測定結果
<静電容量に及ぼす凍結温度の影響>
モデル魚肉である魚肉すり身の静電容量に及ぼす凍結温度の影響を調べるため、図7に周波数1kHzで測定した魚肉すり身の静電容量と凍結温度との関係を示した。横軸は凍結温度、縦軸は静電容量である。
【0102】
試料の凍結過程において、静電容量は‐10℃以下で減少し、‐40℃付近で緩やかな減少へと変わり、再び‐60℃付近から急激に減少した。つまり、図7において変極点は‐40℃付近および‐60℃付近に観察され、‐40℃付近の緩和を第一緩和、‐60℃付近の緩和を第二緩和として表している。以下では、これらの変極点を与える変化を「静電容量緩和」として説明する。なお、図7に示すように、緩和終了温度(被検体の凍結温度を低下させた場合に最初に現れる静電容量の変極点を与える温度)は‐40℃付近に検出された。
【0103】
高周波数領域における静電容量の測定では、分子量の小さな分子や巨大な分子の比較的分子量の小さな側鎖のみの変化が捉えられる。それに対して、低周波数領域における静電容量の測定では、分子量の大きな物質(タンパク質やデンプンなど)の変化が捉えられる。本実施例で測定に用いた周波数は1kHzであり、低周波数域に分類できることから、本実施例で測定した静電容量は高分子の運動の様子を捕捉していると考えられた。また、水の緩和が現れる周波数はおよそ10GHzであることが知られているが、上記周波数(1kHz)は水の緩和が現れる周波数よりも非常に小さい。
【0104】
つまり、本実施例で観察された緩和は水分子よりも大きな高分子の運動によるものと考えられるため、試料の主成分であるタンパク質の分子運動の様子を静電容量の測定により捕捉したものと考えられた。
【0105】
<静電容量の測定周波数と緩和終了温度との関係>
図7では、静電容量の測定周波数が1kHzの場合について説明したが、周波数によって静電容量緩和の出現態様がどのように変化するかを検討するため、静電容量の測定周波数を0.5kHz、1kHz、5kHz、10kHzとし、各周波数における魚肉すり身の静電容量の変化を測定した。結果を図8に示す。横軸は凍結温度、縦軸は静電容量である。
【0106】
図8に示すように、周波数が小さくなるとともに静電容量緩和は低温側に移動した。そこで、周波数と静電容量緩和との関係を検討するため、図8に示した測定結果より緩和終了温度を求めた。緩和終了温度の求め方は上述の図1に示すとおりである。緩和終了温度の周波数依存性を図9に示した。横軸は緩和終了温度、縦軸は周波数である。図9より、周波数と緩和終了温度との間には比例関係が認められた。
【0107】
すなわち、周波数が小さくなるに従い緩和終了温度は低下した。高周波では電場の変化に対応できない分子(完全な分極をすることができない分子)も、周波数が小さくなることで対応できるようになる。温度についても同様に、低温側では運動が制限されるため電場の変化に対応できない分子も、温度が高くなることで対応できるようになる。図9においても、周波数が小さくなるに従い緩和終了温度が低下したことから、同様の現象が起きたと考えられた。
【0108】
(2)被検体の三点曲げ試験(破壊試験)
本実施例においては、被検体の三点曲げ試験(破壊試験)を行うことにより、被検体の脆化温度を測定した。すなわち、上記静電容量測定結果から脆化温度を算出するための関係式を導くにあたり、上記静電容量測定結果と三点曲げ試験の結果との相関関係を求めておく必要があるため、上記試験を行った。
【0109】
(2−a)被検体
被検体には、上記(1−a)と同様に、モデル魚肉として魚肉すり身(SA級 日本水産株式会社)を使用した。被検体の凍結、解凍、成形の方法は上記(1−a)と同様である。
【0110】
成形後の被検体は、ポリエチレン製の袋に入れて‐5℃の冷凍庫内で6時間静置し再凍結させた。その後、冷凍庫から取り出し、直ちに常温中で包丁を用いて直方体(寸法:20mm×20mm×100mm)に切り分け、当該直方体状の被検体を三点曲げ試験の試験片とした。三点曲げ試験を行うまでは、上記試験片をポリエチレン製の袋に入れ、‐35℃の冷凍庫内で保存した。
【0111】
(2−b)三点曲げ試験
図10は、三点曲げ材料試験機(TENSILON UTM‐4‐2.00、TOYO BALDWIN製)の概略を示す構成図である。三点曲げ材料試験機は特殊なものである必要はなく、一般的な万能試験機(例えば,インストロン社製,島津製作所社製)でよい。三点曲げ材料試験機の各部分の機能と特徴を以下に示す。
【0112】
三点曲げ材料試験機の本体中央には低温槽を固定した。上記低音槽は、三点曲げ材料試験機の本体中央のステージ周辺を低温に保つため、箱型の発泡スチロール(寸法:40mm×32.8mm×25mm)で作成したものである。上記低温槽内には、三点曲げ試験用治具、ステージ、プロペラ、熱電対、液体窒素噴霧装置と接続したノズルを設置した。上記低温槽の正面中央には、試験片の出し入れを容易にするために試験片取り出し口(寸法:100mm×63mm×20mm)を設置した。さらに、試験片取り出し口の蓋として発泡スチロール(寸法:100mm×63mm×35mm)の小片を用い、低温槽内部の冷気の漏れを防止した。
【0113】
試験片が受ける荷重の変化を測定するために、ロードセル(500kgf)が試験機本体の上部に固定されている。さらに、ロードセルをロードセル用アンプを介して記録計と接続することで、試験片が受ける荷重の変化を記録した。
【0114】
三点曲げ試験機本体の中央に上部ステージ(寸法:100mm×150mm×10mm)および下部ステージ(寸法:100mm×40mm×10mm)を設置した。上部および下部ステージに三点曲げ試験用治具を取り付けた。モーター部分に組み込まれた大歯車と小歯車の歯数を変え、下部ステージの上昇および下降速度 (0.4〜100 cm/min) を変化させ、上記三点曲げ試験用治具に試験片を荷重点用治具と支点用治具で挟んだ状態で、下部ステージを上方に動かすことにより、試験片に曲げ荷重を作用させた。
【0115】
上記三点曲げ試験用治具の上部および下部、その周囲に熱電対を設置した。実験中に熱電対の温度を温度記録計で確認し、低温槽内の温度を液体窒素噴霧装置で調節した。また、低温槽内の冷気を攪拌して、低温槽内の温度を均一にするためアジテーターを設置した。低温槽外部にモーター(AC 100V)を取りつけ、その回転軸を介して、ストッカー内の3枚羽のプロペラを駆動した。実験中は常にアジテーターによる冷気の攪拌を行った。低温槽内の冷却は、液体窒素噴霧装置から噴霧される液体窒素の蒸発潜熱を低温槽に伝えることによって行った。液体窒素噴霧装置に設置した液体窒素タンク(20L)内に窒素ガス(約0.5kg/cm2)を流入させ、液体窒素を蒸発させた。液体窒素噴霧装置と低温槽は、断熱材を巻きつけたパイプ(直径12.1mm 長さ900mm)で接続した。
【0116】
次に、上記三点曲げ試験の手順を説明する。
【0117】
まず、20×20×100mm3の直方体状に成型した試験片および温度測定用試験片を‐20℃に設定した冷凍庫内またはストッカー内に静置した。次に、冷凍庫内の設定温度を各測定温度に設定し、熱電対に接続した温度記録計によって温度測定用試料の温度変化を記録した。冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、温度記録計の記録から温度測定用試験片の温度が安定したことを確認した。
【0118】
冷凍庫の下限温度である‐85℃以下の測定を行う場合には、ストッカーを使用した。ストッカーは、内蔵するデュワー瓶内の液体窒素をヒーターで加熱し、液体窒素の蒸発潜熱を利用することにより、液体窒素の沸点(約‐196℃)程度まで冷却することが可能である。
【0119】
次に、液体窒素を低温槽内に噴霧し、低温槽内に設置した液体窒素噴霧装置の熱電対および低温槽内に設置した温度記録装置の熱電対の温度を確認しながら、低温槽内を各測定温度まで冷却した。続いて、三点曲げ試験用治具の上に試験片を設置し、下部ステージの上昇速度を0.4cm/min〜100cm/minに設定して、下部ステージを上昇させた。測定は試験片が破断するまで行い、その間の破断荷重を測定した。試験片が破断した後、直ちに下部ステージの上昇を止め、記録計を停止した。低温槽から破断した試験片を取り出し、ノギスを用いて破断した試験片の幅、厚さを測定した。
【0120】
(2−c)三点曲げ試験の結果
<破断応力に与える試料凍結温度の影響>
魚肉の力学特性に与える凍結温度の影響を検討した。具体的には、モデル魚肉である魚肉すり身の破断応力におよぼす試料凍結温度の影響を調べた。
【0121】
本実施例で測定した三点曲げ試験における典型的な荷重−変位曲線のモデル図を図11に示した。変位の増加に伴い荷重は増加した。しかし、ある変位において、荷重の急激な減少がみられ、この時点で試験片は破断していた。そこで、本実施例では、この荷重の急激な減少がおこる直前の最大荷重(ピーク荷重)を破断荷重fと定義した。また、試験片個々の寸法:を考慮するために、試料の寸法:およびスパン長を用いて、数式(10)から破断応力を求めた。
【0122】
【数19】
【0123】
図12に変形速度10cm/minで測定した魚肉すり身の破断応力の凍結温度依存性を示した。横軸は温度、縦軸は破断応力である。図12のプロットは測定値の平均値を表し、また、ばらつきの幅は±1σ(σ=標準偏差)である。破断応力は‐20℃付近でピークを示したが、‐30℃以下では大きな変化が見られずほぼ一定となった。図12より、‐20℃付近で力学特性に影響を及ぼす物理的な状態変化が起きていると考えられる。
【0124】
すなわち、試料の凍結過程では、‐20℃付近までは試料が延性状態であり、‐20℃以下の温度では試料に脆性が発現し、試料が僅かな外力で壊れやすい状態になっていると考えられる。なお、最終破断までに著しい伸びや絞りを伴う破壊を延性破壊、伸びや絞りを伴わない破壊を脆性破壊という。
【0125】
<変形速度が脆化温度に与える影響>
破壊過程では、物質にかかる荷重の速度により脆化温度は変化する。そこで、本項では、変形速度が、脆化温度に与える影響について検討した。図13に変形速度0.4cm/min、1.0cm/min、10cm/min、100cm/minで測定した凍結過程に伴う変形速度と破断応力との関係を示した。横軸は温度、縦軸は破断応力である。
【0126】
図13では、変形速度の低下とともに、破断応力のピークが現れる温度は低下した。そこで、変形速度と破断応力のピークが現れる温度との関係を検討するため、図13に示した測定結果より脆化温度を求めた。脆化温度の求め方を表したモデル図を図14に示した。図13より求めた脆化温度の変形速度依存性を図15に示した。横軸は脆化温度、縦軸は変形速度である。図15は、変形速度が低下するに従って、脆化温度は低下することを示している。
【0127】
ところで、延性破壊から脆性破壊への遷移の条件としては、絶対温度Tと歪み速度εの間に数式(11)のような関係が実験的に確かめられている(横堀武夫:「材料強度学」、技報堂出版株式会社、pp115‐116、(1955))。
【0128】
【数20】
【0129】
これは、歪み速度を低下させることは、絶対温度を低下させることを意味している。すなわち、変形速度を低下することにより、脆化温度を低温側にシフトできると考えられる。このことから、図15でも同様の現象が起きていると考えられた。
【0130】
(3)本発明の実際の魚体への応用
本研究の最終的な目的は、被検体の低温加工における最適加工温度を決定することである。そこで、実際に低温加工(凍結粉砕)を行い、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法が実用的に利用可能であることを実証した。
【0131】
(3−a)被検体
被検体としては、上述の静電容量の測定および三点曲げ試験に用いた魚肉すり身の原料であるタラと同様に白身魚であるフィレー状カレイ(Righteye Flounder、Pleuronectidae)を使用した。
【0132】
まず、冷凍庫(‐40℃)内で凍結保存しておいたフィレー状カレイをポリエチレン製の袋に入れ、これを5℃に保った冷蔵庫内に約24時間静置して解凍した。次に、解凍後の試料を、30mm×30mm×5mm程度の大きさに包丁を用いて室温で切断し、切断した試料(被検体)を、ポリ塩化ビニリデン製のラップ(寸法:300mm×300mm 厚さ11μm)を敷いたアルミ製のバット(寸法:373mm×309mm×43mm)に重ならないように並べた。
【0133】
続いて、上記試料を並べたバットをポリエチレン製の袋に入れ、約‐40℃の冷凍庫内で6時間保存し再凍結させた。その後、冷凍庫から取り出し、直ちに常温中で50gごとにポリエチレン製の袋に入れた。凍結粉砕を行うまでポリエチレン製の袋に入れた試料を、‐35℃の冷凍庫内で保存した。
【0134】
(3−b)フィレー状カレイの凍結粉砕
図16は、フィレー状カレイの凍結粉砕に用いた粉砕機の概略を示す構成図である。粉砕室の出口には、穴のないスクリーンを設置することで、粉砕中の試料を排出しないようにした。試料投入口および粉砕室入口には、粉砕試料の逆流を防止する目的で木製の蓋をそれぞれ挿入した。粉砕室入口の蓋を挿入した状態で試料投入口より試料を投入し逆流を防止した。続いて試料投入口用蓋を挿入し、逆流防止蓋を試料投入口の下部の高さよりも上部に引き上げることで粉砕室中に試料を投入した。ハンマー回転数は2408rpmであった。
【0135】
フィレー状カレイの凍結粉砕は以下の手順によって行った。
【0136】
まず、試料および温度測定用試料を‐20℃に設定した冷凍庫内に静置した後、冷凍庫内の設定温度(‐20℃〜‐85℃)を各測定温度に設定した。続いて、熱電対に接続した温度記録計によって温度測定用試料の温度変化を記録した。冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、さらに温度記録計の記録から温度測定用試料の温度が安定したことを確認した。
【0137】
次に、ハンマーを回転させた。粉砕室およびハンマーは、試料投入口から液体窒素を粉砕室に注ぎ入れることによって十分に冷却した。ハンマーを回転させながら冷却することにより、冷却中にハンマーの回転軸が凍結することを防止した。また、試料投入口蓋および逆流防止蓋を液体窒素中に浸漬し、十分に冷却した。
【0138】
粉砕室が十分に冷却されたことを確認した後、逆流防止蓋を挿入した。次に、試料を試料投入口に入れ、試料投入口に蓋を挿入した。その後、逆流防止の蓋を引き上げ、試料を粉砕室に投入した。粉砕時間は5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、粉砕を行った。粉砕粒子は、粒子間の固着を防ぎつつ液体窒素を蒸発させるため、約4時間‐40℃の冷凍庫内に放置し、液体窒素が完全に蒸発したことを確認した後、‐15℃の低温室に移した。
【0139】
(3−c)分級操作
分級操作に使用したステンレス製のJIS標準篩および振動式分級装置の概略を図17に示した。篩を重ね、最下段にはJIS標準篩専用の受け皿を、最上段にはJIS標準篩専用の蓋を取り付けた。振動式分級装置に、重ねた篩を設置し、篩の蓋の上部に振動式分級装置の蓋を重ね、振動式分級装置の止め具で固定し、分級操作を行った。分級操作を行う時間を30分間と設定したので、試料の解凍を避けるために、振動式分級装置を‐15℃に保った低温室に設置し、分級操作を行った。
【0140】
標準篩の目開きは8種類(0.25mm、0.355mm、0.5mm、0.71mm、1.0mm、1.41mm、2.00mm、2.83mm)であった。重ねた標準篩の最上段に、冷却したハケを用いて粉砕試料を移し入れ、標準篩専用の蓋をした。重ねた標準篩、受け皿および蓋を低温室内の振動式分級装置に固定した。続いて、振動式分級装置の電源を入れ30分間、分級操作を行った。
【0141】
分級操作終了後、‐15℃の低温室内で、目開き2.83mmの標準篩に残った試料を1粒ごとに、ノギスを用いて粒子径を測定した。目開き2.83mmの標準篩に残った試料を2.83mm〜4.5mm、4.5mm〜10mm、10mm以上の3種類に分画した。その後、冷却したハケを用いて、標準篩の各段に分画された試料(フラクション)をそれぞれ予冷したポリエチレン製の袋に移し入れた。続いて、低温室から取り出し、直ちに常温中で各フラクションの重量を測定した。
【0142】
(3−d)凍結粉砕後の粒子径分布に与える試料凍結温度の影響の検討
物質の破壊挙動に与える温度の影響を検討するため、実際の凍結粉砕操作において、フィレー状のカレイの粉砕性に及ぼす試料凍結温度の影響を調べた。
【0143】
図18は、粉砕時間を15秒に設定しフィレー状カレイを凍結粉砕したときの粉砕試料の粒子径分布の凍結温度依存性を示すものである。横軸は粒子径、縦軸は積算ふるい下を表す。図18における「粒子径」とは、分級操作に用いた篩の目開きを表す。例えば、目開き2.83mm、2.00mmの篩を用いて分級操作を行った場合、分級操作後に目開き2.00mmの篩に残った試料の実際の粒子径は2.00mm〜2.83mmであるが、横軸の粒子径のプロットでは2.00mmと表した。また、「積算ふるい下」とは、全試料重量に対するフラクション重量の割合を、粒子径が小さなフラクションから足し合わせた値である。図18では、試料凍結温度の低下に従い、粒子径分布は小粒子径側にシフトしていることが分かる。つまり、粒子径分布を制御するためには、試料凍結温度が重要な要素であることが明らかとなった。
【0144】
(3−e)凍結粉砕後の粒子径分布に与える粉砕時間の影響の検討
粉砕操作において、粉砕時間が長い場合は、粉砕時間が短い場合と比較して、粒子が破壊される頻度が高くなるため、粉砕後の試料の粒子径は小さくなる。そこで、本項では、粉砕時間が粉砕後の粒子径分布に与える影響について検討した。
【0145】
図19は試料凍結温度を‐40℃、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、フィレー状カレイを凍結粉砕した場合における粉砕試料の粒子径分布の粉砕時間依存性を示すものである。横軸は粒子径、縦軸は積算ふるい下を表す。図19では、粉砕時間の経過とともに、粒子径分布は小粒子径側にシフトしていることが分かる。粉砕時間が0秒から15秒の間で粒子径は急激に小さくなった。しかし、粉砕時間15秒以降では粒子径分布の小粒子径側へのシフトは緩やかであった。
【0146】
そこで、粒子径と粉砕時間との関係をさらに詳しく検討するため、図19に示した測定結果より平均粒子径を求めた。本研究では、積算ふるい下が50%となる粒子径を平均粒子径と定義した。図19より求めた平均粒子径の粉砕時間依存性を図20に示した。横軸は粉砕時間、縦軸は平均粒子径である。図20より、粉砕時間15秒以降では平均粒子径に大きな変化がなく、効率的な粉砕を行うためには、粉砕時間も重要な要素であることが明らかとなった。
【0147】
(3−f)粉砕時間および試料凍結温度が粒子径変化速度に及ぼす影響の検討
本項では、前項と同様に試料凍結温度を変化させてフィレー状カレイを粉砕し、粉砕時間に伴う平均粒子径の変化について検討した。
【0148】
図21は、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し凍結粉砕したときの平均粒子径の粉砕時間依存性を試料凍結温度毎に示したものである。図21から、粉砕時間5秒から15秒の間で、平均粒子径が急激に小さくなっていることが分かる。粉砕時間30秒では、試料凍結温度に関わらず、平均粒子径にほとんど差は見られなかった。そこで、粉砕時間と平均粒子径との関係を詳しく検討した。本実施例では、粉砕時間に伴う平均粒子径の変化を粒子径変化速度Vと定義した。粒子径変化速度Vは、以下の数式(12)で表すことができる。
【0149】
【数21】
【0150】
次に、図21に示した測定結果と上記数式(12)を用いて粒子径変化速度Vを求めた。粉砕時間0秒の平均粒子径は粉砕前試料サイズを用い30mmとした。粉砕時間が0秒〜5秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を図22に示した。図23には粉砕時間が5秒〜60秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示した。図22、図23の横軸は温度、縦軸は粒子径変化速度である。
【0151】
図22では、試料凍結温度の低下に伴い、粒子径変化速度は増加した。‐7℃から‐20℃で粒子径変化速度は顕著に大きくなる傾向を示したが、‐20℃以下では粒子径変化速度は緩やかに大きくなった。一方、図23では、試料凍結温度の低下に伴い粉砕時間5秒〜15秒における粒子径変化速度は小さくなった。また、粉砕時間15秒以降では粒子径変化速度に大きな変化は見られなかった。
【0152】
図21に示した測定結果では、粉砕時間30秒では試料凍結温度に拘らず平均粒子径に差が見られなかったこと、また、図22より試料凍結温度の低下に従い、粉砕時間0〜5秒の粉砕初期で粒子径変化速度は増加したことから、試料凍結温度の低下に伴い、粉砕初期に粒子が細かく粉砕されていると考えられる。さらに、図22では‐20℃以下の低温側で、粒子径変化速度の増加が緩やかになったことから、‐20℃を境にフィレー状カレイの力学特性(粉砕されやすさ)が異なると考えられる。つまり、‐20℃以下では、フィレー状カレイは粉砕されやすい(脆性)状態であり、‐7℃から‐20℃では延性もしくは延性‐脆性遷移状態であると考えられる。
【0153】
(3−g)魚肉すり身の誘電特性と実際の魚肉の力学特性との関係
次に、実際の魚肉であるフィレー状カレイの凍結粉砕より得た脆化温度の結果と、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により求めた脆化温度との相関性を調べた。
【0154】
まず、上記数式(2)に必要な歪み時間νを粉砕機の運転条件から求めた。まず、回転するハンマーの速度からハンマーの回転速度を求めた。さらに、試料の最初の破壊を想定し、粉砕前試料サイズを用いて歪み時間νを定義すると、歪み時間νは上記数式(4)で表される。
【0155】
ハンマーの回転速度(2408rpm)から、歪み時間νを数式(4)より求めた。求めた歪み時間を用いて、モデル魚肉である魚肉すり身の脆化温度と歪み時間との関係を示した数式(2)に代入し、脆化温度Tを求めた。その結果、凍結粉砕による脆化温度は約‐17℃となった。この結果は、実際の凍結粉砕の脆化温度が‐7℃から‐20℃の間にあることを示した上記(3−f)の実験結果とほぼ一致した。すなわち、魚肉のモデルとして使用した魚肉すり身の力学特性測定の歪み時間と脆化温度との関係を示した上記数式(2)は、実際の魚体にも応用できることが明らかとなった。
【0156】
このことから、魚肉のモデルとして使用した魚肉すり身の静電容量測定および三点曲げ試験から得られた結果は、実際の魚肉にも応用できることが明らかとなった。すなわち、静電容量測定および三点曲げ試験から得られた上記数式(1)が、実際の魚体の低温加工にも応用できることが明らかとなり、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により求めた脆化温度は実際の魚肉であるフィレー状カレイの凍結粉砕より得た脆化温度と高い相関性を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上のように、本発明では、非破壊的な測定方法である誘電特性の測定により求めた静電容量と、破壊試験によって求められる力学的特性との相関関係を見出すことができるため、比較的簡便に求めることができる被検体の静電容量の測定結果を、本来破壊試験によって求めなければならない脆化温度に換算することができる。そのため、本発明は、食品加工分野や工業製品のリサイクル分野等に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】緩和終了温度の求め方を表したモデル図である。
【図2】歪み時間と脆化温度との間の比例関係を表す図である。
【図3】緩和時間と緩和終了温度との間の比例関係を表す図である。
【図4】歪み時間と緩和時間との間の比例関係を表す図である。
【図5】混合物に含まれる試料Aおよび試料Bの変形速度から求めた歪み時間と試料の脆化温度との関係を表すモデル図である。
【図6】静電容量の測定に用いた静電容量測定装置の概略を示す構成図である。
【図7】周波数1kHzで測定した魚肉すり身の静電容量と凍結温度との関係を示す図である。
【図8】静電容量の測定周波数を0.5kHz、1kHz、5kHz、10kHzとし、各周波数における魚肉すり身の静電容量の変化を測定した結果を表す図である。
【図9】緩和終了温度の周波数依存性を表す図である。
【図10】三点曲げ材料試験機の概略を示す構成図である。
【図11】本実施例で測定した三点曲げ試験における典型的な荷重−変位曲線のモデル図である。
【図12】変形速度10cm/minで測定した魚肉すり身の破断応力の凍結温度依存性を示す図である。
【図13】変形速度0.4cm/min、1.0cm/min、10cm/min、100cm/minで測定した凍結過程に伴う変形速度と破断応力との関係を示す図である。
【図14】脆化温度の求め方を表したモデル図である。
【図15】脆化温度の変形速度依存性を表す図である。
【図16】粉砕機の概略を示す構成図である。
【図17】分級操作に使用したステンレス製のJIS標準篩および振動式分級装置の概略を示す図である。
【図18】粉砕試料の粒子径分布の凍結温度依存性を示す図である。
【図19】試料凍結温度を‐40℃、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、フィレー状カレイを凍結粉砕した場合における粉砕試料の粒子径分布の粉砕時間依存性を示す図である。
【図20】平均粒子径の粉砕時間依存性を示す図である。
【図21】粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し凍結粉砕したときの平均粒子径の粉砕時間依存性を試料凍結温度毎に示した図である。
【図22】粉砕時間が0秒〜5秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示す図である。
【図23】粉砕時間が5秒〜60秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性を利用した凍結被検体の脆化温度の決定方法に関するものであり、特に、凍結被検体の静電容量を測定し、上記静電容量と力学的特性との相関関係を見出して、凍結被検体の加工に最適な脆化温度を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚体を凍結すると、魚体の力学物性は凍結温度とともに変化する。この力学物性の変化は魚体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。一般に、脆性が発現する温度を脆化温度という。従来、魚体組織の脆化温度の違いを利用し、魚体の輪切りや三枚おろしを行う切断加工および凍結粉砕を利用した魚体の組織分離について検討が行われている(非特許文献1〜3)。
【0003】
魚体を低温加工する場合、脆化温度付近で切断加工や凍結粉砕が行われる。このため、脆化温度が予め明らかになっていないと、精度の高い切断や効率の良い分離を行うことができない。これまで、脆化温度は力学的な材料試験を行うことにより求められており(非特許文献4)、凍結状態の魚肉については、その強度が比較的高く、しかも塑性が少ないことや、三点曲げ試験の結果からその強度に異方性があることなどが報告されている(非特許文献5)。
【非特許文献1】羽倉義雄:「食品とガラス化・結晶化技術」、 (村瀬則郎、 佐藤清隆編)、サイエンスフォーラム、pp.215-220.(2000)
【非特許文献2】Y.Hagura、H.Watanabe、 M.Ishikawa and Y.Sakai :An application of cryo-shattering to low-fat meat separation from whole fish of mackerel and sardine、 Nippon Suisan Gakkaishi、55、 2119-2122(1989)
【非特許文献3】羽倉義雄 :冷凍、68 (787)、pp.57-62(1993)
【非特許文献4】羽倉義雄、 渡辺尚彦:シャルピー衝撃試験機を用いた最適凍結粉砕分離温度の決定、日本冷凍協会論文集、 9(3)、pp. 277-282、 (1992)
【非特許文献5】岡本清、羽倉義雄、鈴木寛一、久保田清:曲げ荷重により切断した凍結魚肉の切断面角度に及ぼす筋繊維配向角度の影響、日本食品科学工学会誌、43(9)、1035-1041、(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の力学的材料試験による脆化温度の決定方法では、少量の試験片から得た測定値を確定値とみなすことは危険であることから、一般的には、大量の試験片を作成して破壊試験が行われ、統計処理が行われている。そのため非常に手間がかかり、大きな労働力を必要とするという問題がある。さらに、材料試験により得られた結果はばらつきが大きいという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、非破壊的な測定によって求めることができる静電容量と、破壊試験によって求められる力学的特性との相関関係を見出し、凍結被検体の加工に最適な脆化温度を非破壊的に決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、静電容量の測定によって得られる緩和時間と力学的特性の測定によって得られる歪み時間との間には比例関係が成立することを見出し、このことから、静電容量緩和終了温度と緩和時間との関係および脆化温度と歪み時間との関係はアレニウス型の式に従うことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0009】
【数5】
【0010】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0011】
【数6】
【0012】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、静電容量を測定し、当該測定結果から緩和終了温度を求めれば、上記緩和終了温度を与える緩和時間が決まり、上記数式(1)に基づいて力学的特性である歪み時間を算出することができる。さらに、上記数式(1)に基づいて算出された上記歪み時間の値を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を求めることができる。したがって、誘電特性の測定結果である静電容量を力学的測定結果である脆化温度に換算でき、手間のかかる破壊試験を行うことなく、効率的に脆化温度を求めることができる。
【0014】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、
【0015】
【数7】
【0016】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整することが好ましい。
【0017】
上記数式(3)より、被検体の変形速度を変化させることによって上記歪み時間を変化させることができ、上記歪み時間を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を変化させることができる。したがって、脆化温度を被検体の変形速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。
【0018】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、
【0019】
【数8】
【0020】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整することが好ましい。
【0021】
上記数式(4)は、歪み時間を凍結被検体の加工に用いる粉砕機の運転条件から求めるものであり、粉砕機の粉砕手段の回転速度を変化させることによって歪み時間を変化させることができる。したがって、脆化温度を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。
【0022】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法では、上記被検体は動物であることが好ましい。さらに、上記動物は魚類または家畜であることが好ましい。上記構成によれば、食用に供される被検体動物の脆化温度を、静電容量を測定するだけで非破壊的に決定することができる。したがって、凍結水産物や凍結畜産物等の加工を省力化することができる。
【0023】
また、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画することを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、設定温度よりも脆化温度が高い試料は、脆化温度以下の温度で粉砕されるため微細粒子となり、設定温度よりも脆化温度が低い試料は、脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。したがって、混合物の温度の設定と、混合物を適切な目開きの篩を用いて分級することを繰り返せば、上記混合物に含まれる試料を効率的に分画することができる。
【0025】
また、本発明に係る混合物の分画方法では、上記混合物は魚体であることが好ましい。上記構成によれば、魚体に含まれる試料(成分)を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、魚体の頭部、中落ちなどに含まれるDHA等の未利用資源の再資源化を図ることができるとともに、廃棄物量を低減することができる。
【0026】
また、本発明に係る混合物の分画方法では、上記混合物はゴム製品であることが好ましい。上記構成によれば、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、ゴム製品のリサイクルを効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、以上のように、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備える構成である。
【0028】
また、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0029】
【数9】
【0030】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0031】
【数10】
【0032】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備える構成である。
【0033】
それゆえ、静電容量を測定すれば、非破壊的に、静電容量の測定結果を力学的測定結果である脆化温度に換算できるので、効率的に被検体の脆化温度を求めることができ、その結果、凍結被検体の加工を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0034】
また、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、上記温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画する構成である。
【0035】
それゆえ、上記混合物に含まれる試料を効率的に分画することができ、廃棄物のリサイクル等を有効に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の位置実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法、および本発明に係る混合物の分画方法について詳述する。
【0037】
(1)本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法
一実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えている。上記静電容量測定ステップは、平行平板電極間に被検体を入れ、交流電場を加えることにより、被検体の静電容量を測定するステップである。
【0038】
ここで、「静電容量」とは、単位電位差あたりに貯えられる電気量のことであり、静電容量(誘電特性)の測定では、平行平板電極間に誘電体(試料)を入れることで、その誘電体内の電子、イオン、分子等の分極を捉えることができる。このため、静電容量を測定することにより、高分子材料等では、冷却(凍結)に伴う分子の運動性の変化も比較的容易に捉えることができる。
【0039】
一方、破壊検査には非常に手間がかかるため、凍結被検体の物性を非破壊で測定することは重要である。静電容量の測定は、試料に交流電場を加えるだけなので、試料を破壊せずに迅速に行うことができ、試料の物性の経時的変化も連続測定が可能である。また、静電容量は、分子運動を反映しているので、その測定周波数を変化させることで、多成分系の食品等の凍結被検体において個々の成分に対応した測定を行うことが可能である。
【0040】
ここで、「脆化温度」とは、脆性が発現する温度をいう。魚体等の被検体を凍結すると、被検体の力学特性は凍結温度とともに変化する。この力学特性の変化は被検体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。一般に、魚体等を低温加工する場合は、脆化温度付近で切断加工や凍結粉砕が行われるため、脆化温度が予め明らかになっていないと、精度の高い切断や、効率のよい分離を行うことができない。したがって、脆化温度は、凍結被検体の加工を行う上で非常に重要な意味を持つといえる。通常、脆化温度は力学的な破壊試験を大量に行うことにより測定される。
【0041】
上述のように、静電容量の測定は非常に簡便であるとともに、被検体の物性を測定する上で有利な点が多いため、これまで力学的な破壊試験を行うことにより測定されてきた脆化温度を、静電容量の測定値から換算して求めることができれば凍結被検体の加工に要する労力を大幅に低減することができる。
【0042】
上記被検体は特に限定されるものではなく、凍結粉砕による加工を行う必要性のあるものであればよい。例えば、被検体は動物であっても植物であってもよい。また、被検体は生物体に限定されるものではなく、工業製品またはその原料であってもよい。
【0043】
上記動物としては、特に限定されるものではないが、凍結粉砕による加工を行うという観点からは食用に供されるものであることが好ましい。例えば、魚類、エビ、カニ等の甲殻類、貝、イカ等の軟体動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜等を挙げることができる。上記動物の形態は特に限定されるものではない。例えば、動物体を構成する一部分であってもよいし、動物体全体であってもよい。また、魚類としては特に限定されるものではなく、脊椎動物の無顎類、板皮類、軟骨魚類、棘魚類、硬骨魚類のいずれかに分類されるものであればよい。
【0044】
さらに、上記植物としては特に限定されるものではなく、被子植物であっても裸子植物であってもよい。また、被子植物としては双子葉植物であっても単子葉植物であってもよい。上記植物の形態は特に限定されるものではない。例えば、植物体を構成する一部分であってもよいし、植物体全体であってもよい。
【0045】
上記工業製品またはその原料とは、特に限定されるものではなく、上記工業製品またはその原料の温度を低下させることによって脆性が生じるものであればよい。例えば、プラスチック製品、皮革製品、セラミック製品、ゴム製品等およびこれらの原料を挙げることができる。
【0046】
他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【0047】
【数11】
【0048】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、上記歪み時間を、
【0049】
【数12】
【0050】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えている。
【0051】
上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップは、被検体の凍結過程における静電容量の凍結温度依存性を調べ、緩和終了温度を算出するステップである。具体的には、図1に示すように、被検体の凍結温度を横軸に、静電容量を縦軸にプロットしたグラフを作成し、緩和終了温度を算出する。ここで、「緩和終了温度」とは、被検体の凍結温度を低下させた場合に最初に現れる静電容量の変極点を与える温度をいい、図1においては、接線の交点に対応する凍結温度で表されている。
【0052】
上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップは、後述する実施例に示すように、上記静電容量測定時の周波数を変化させると、周波数が小さくなるとともに上記緩和終了温度が低温側に移動し、上記緩和終了温度と周波数とが比例関係を示すことに基づき、上記緩和終了温度と対応する周波数を求め、当該周波数を緩和時間に換算するステップである。ここで、「緩和時間」とは、上記周波数の1/2周期あたりの時間をいう。すなわち、緩和時間をτ、周波数をfとすると、緩和時間τは次の式で表される。
【0053】
【数13】
【0054】
上記数式(1)に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップとは、後述する実施例に示すように、上記緩和時間と歪み時間との間に比例関係が認められたことから、当該比例関係に基づいて上記数式(1)を求め、上記数式(1)に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出するステップである。
【0055】
ここで、「歪み時間」とは、試験片サイズから1歪むための時間をいう「歪み時間」とは、試験片がその試験片の厚み分(100%)歪むために要する時間をいう。例えば、厚さ20mmの試験片の場合、試験片の厚さ方向に20mm変形させることを、「1歪む」といい、20mm変形させる(1歪む)のに必要な時間を「歪み時間」という。
【0056】
上記歪み時間を上記数式(2)に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップとは、上記歪み時間と、被検体の脆化温度との関係を表す上記数式(2)に、上記数式(1)によって求められた上記歪み時間を代入することにより上記脆化温度を算出するステップである。
【0057】
以下に、上記数式(1)および数式(2)の導出について詳細に説明する。
【0058】
上記歪み時間は、
【0059】
【数14】
【0060】
で表される。そこで、まず上記数式(3)に基づき、力学特性測定の変形速度vから、歪み時間νを求めた。次に、図2に示すように、logνを絶対温度で表した脆化温度の逆数(1/T)に対してプロットした。脆化温度は、三点曲げ試験(破壊試験)によって求める。ここで脆化温度の測定を行うのは、静電容量の測定結果から脆化温度を算出する関係式を導くためである。ある被検体について脆化温度の測定を行って静電容量と脆化温度との関係式を導いておけば、他の被検体については、静電容量のみ測定すれば導出した関係式によって脆化温度を求めることができ、三点曲げ試験(破壊試験)を省略することができる。三点曲げ試験(破壊試験)の詳細については実施例にて後述する。
【0061】
図2において横軸は脆化温度の逆数、縦軸は歪み時間である。図2より歪み時間と脆化温度との間には比例関係が認められた。つまり、歪み時間と脆化温度との関係はアレニウス型の式に従う。ところで、歪み時間と脆化温度との関係は、
【0062】
【数15】
【0063】
に表すことができる。
【0064】
そこで、図2の歪み時間と脆化温度との関係を用いて上記数式(6)のパラメータを求めたのが上記数式(2)である。上記数式(2)および上記数式(6)を用いて見かけの活性化エネルギーを求めたところ225kJ/molであった。
【0065】
また、上記数式(5)から求めた緩和時間τの対数logτを絶対温度で表した緩和終了温度の逆数(1/T)に対してプロットすると、図3に示すように、緩和時間と緩和終了温度との間には比例関係が認められ、緩和時間と緩和終了温度との関係はアレニウス型の式に従うことが明らかとなった。つまり、図3から緩和時間と緩和終了温度との関係は、
【0066】
【数16】
【0067】
で表すことができる。
【0068】
そこで、図3の緩和時間と緩和終了温度との関係を用いて上記数式(7)のパラメータを求めると、上記数式(8)が導出される。
【0069】
【数17】
【0070】
なお、上記数式(7)および上記数式(8)を用いて見かけの活性化エネルギーを求めたところ225kJ/molであった。
【0071】
次に、上記数式(7)および上記数式(8)により、緩和時間と歪み時間との関係について検討した。横軸に緩和時間、縦軸に歪み時間をとり、脆化温度と緩和終了温度が一致する緩和時間と歪み時間との交点を両対数グラフにプロットし、図4を得た。図4に示した両対数グラフのプロットは直線となり、緩和時間と歪み時間との間には比例関係が認められた。緩和時間と歪み時間との関係は数式(9)で表すことができる。
【0072】
【数18】
【0073】
図4に示した静電容量測定結果から求められた緩和時間と後述する実施例に示す三点曲げ試験によって求められた歪み時間を上記数式(9)に代入し、上記数式(9)の定数A、Bを求めたところA=1、B=5となった。図4に示した静電容量測定結果から求められた緩和時間と三点曲げ試験によって求められた歪み時間との関係を表したのが上記数式(1)である。
【0074】
さらに、静電容量測定により得られた上記数式(8)および三点曲げ試験により得られた上記数式(2)から求めた静電容量と三点曲げ試験の見かけの活性化エネルギーはほぼ等しく、225kJ/molであることも確認できた。すなわち、静電容量測定と三点曲げ試験とは、同一の現象を捕捉している可能性が示唆された。
【0075】
以上説示した本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により、予想された緩和時間を用いて静電容量の測定を行い、緩和終了温度を決定することで、力学的特性である歪み時間に対応した脆化温度を決定することができる。
【0076】
他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、上記数式(3)に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整する。ここで、上記「変形速度」とは、「三点曲げ試験」において用いる三点曲げ試験機本体に設けられた下部ステージの上昇および下降速度をいう。ここで、上記三点曲げ試験機は、後述する実施例に示すように、下部ステージの三点曲げ試験用治具に被検体を固定し、当該下部ステージを上方に動かして上部ステージの三点曲げ試験用治具に押し当てることにより、被検体に曲げ荷重を作用させる構造となっている。
【0077】
上記数式(3)より、被検体の変形速度を変化させることにより、上記歪み時間を変化させることができるので、上記歪み時間を上記数式(2)に代入することにより、脆化温度を変化させることができる。したがって、脆化温度を被検体の変形速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。また、脆化温度を高くすることができれば、被検体の凍結加工温度を高くすることができるので、被検体を凍結するために必要な液体窒素等の冷媒の使用量を低減することができ、省エネルギーの観点からも有用である。
【0078】
また、他の実施形態において、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法は、上記歪み時間を、上記数式(4)に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整する。
【0079】
上記数式(4)は、歪み時間を凍結被検体の加工に用いる粉砕機の運転条件から求めるものである。粉砕機としては、特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕機を用いることができる。また、粉砕手段も特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕手段を用いることができる。例えば、ハンマー、回転刃、二軸噛、ミル等を挙げることができる。粉砕手段の大きさ、材質、数等は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0080】
本実施形態に係る被検体の脆化温度の決定方法では、粉砕機の粉砕手段の回転速度を変化させることによって歪み時間を変化させることができる。したがって、脆化温度を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって制御することができ、脆化温度を高くすることが可能となるので、凍結被検体の加工を容易にすることができる。また、脆化温度を高くすることは、上述のように省エネルギーの観点からも有用である。
【0081】
(2)本発明に係る混合物の分画方法
一実施形態において、本発明に係る混合物の分画方法は、脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、上記温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画する。
被検体を凍結すると、被検体の力学物性は凍結温度とともに変化する。この力学物性の変化は被検体の組織ごとに異なっており、それぞれの組織は異なった温度で脆性を示す。脆化温度より低い温度で物質を粉砕した場合、物質は脆性状態にあるため、粉砕粒子を微細にできる。一方、脆化温度より高い温度で物質を粉砕した場合、物質は延性状態を示し、破壊されにくいため、粉砕粒子を粗大にすることができる。
【0082】
例として、物性の異なる2種類の試料A、Bから成る混合体から試料Aと試料Bをそれぞれ分離する方法を考える。この試料Aと試料Bの脆化温度の関係は試料Aが試料Bより脆化温度が低いとする。そこで、試料Aの脆化温度と試料Bの脆化温度との間の温度で両試料の粉砕を行うと、試料Aと試料Bをそれぞれ分離できる可能性が考えられる。つまり、両試料の破壊頻度が同じであるとすれば、試料Aは脆化温度以下の温度、つまり脆性状態で粉砕されるため、微細粒子となる。一方で試料Bは脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。この混合粉砕物を適切な目開きの篩を用いて分級することで、試料Aと試料Bとの分離が可能となる。
【0083】
図5に試料Aおよび試料Bの変形速度から求めた歪み時間と試料の脆化温度との関係をモデル図で示した。図5では、歪み時間の変化に対する両試料の脆化温度の変化が同一ではなく、両試料の脆化温度の差も歪み時間に依存する。この場合、粉砕手段の回転速度をFに設定し、試料Aおよび試料Bの温度をf’〜h’の間に設定して凍結粉砕を行うよりも、回転速度をGに設定し、試料Aおよび試料Bの温度をg’〜i’の間に設定して凍結粉砕を行う方が、試料Aおよび試料Bの脆化温度の差が大きくなる。つまり、脆化温度の差が大きいことにより、粉砕後の粒子径の差も大きくなると考えられ、この差を利用して精密な分画が可能になる。このような条件設定により、脆化温度の差を考慮し、適切な歪み時間を選択することで、効率的に粒子径の差を最も大きくすることが可能となると考えられる。
【0084】
以上の説明では、簡単のために二種類の試料を含む混合物を例に挙げたが、試料は混合物中に3種類以上含まれていてもよく、特に限定されるものではない。試料が3種類以上含まれている場合でも、その中から任意の二種類の試料を選択し、混合物の温度を、上記二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、設定温度よりも脆化温度が高い試料は、脆化温度以下の温度で粉砕されるため微細粒子となり、設定温度よりも脆化温度が低い試料は、脆化温度より高い温度で粉砕されるため、粗大粒子となる。
【0085】
したがって、混合物の温度の設定と、混合物を適切な目開きの篩を用いて分級することを繰り返せば、試料が混合物中に3種類以上含まれていても、上記試料を効率的に分画することができる。なお、混合物に含まれる試料の脆化温度は、既に説明した本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法を用いて決定すればよい。
【0086】
他の実施形態において、上記混合物は魚体であることが好ましい。「魚体」は、既に説明した魚類の体を意味するが、「体」の範囲や大きさ等は特に限定されるものではない。例えば、魚体は頭部および内臓を保持したものであってもよいし、頭部および内臓を除去したいわゆるドレス状魚体のような体の一部であってもよい。また、ドレス状魚体から骨、皮、うろこを除去した魚肉であってもよい。
【0087】
本実施形態では、魚体に含まれる試料(成分)を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、魚体の頭部、中落ちなどに含まれるDHA等の未利用資源の再資源化を図ることができるとともに、廃棄物量を低減することができ、有用である。
【0088】
他の実施形態において、上記混合物はゴム製品であることが好ましい。ゴム製品としては特に限定されるものではなく、ゴムを原料として用い、製造された製品であればよい。例えば、自動車用タイヤ、ゴムベルト、ゴムホース、パッキン類等が挙げられる。
【0089】
本実施形態では、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物を脆化温度の違いを利用して分離することができる。したがって、タイヤ等のゴム製品に含まれる炭化水素等の化合物、例えばポリエチレンやポリプロピレン等を効率的に分離し、ゴム製品のリサイクルを効果的に行うことができ、有用である。
【0090】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
以下、本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0092】
(1)被検体の静電容量の測定
(1−a)被検体
被検体には、モデル魚肉として、魚肉すり身(SA級 日本水産株式会社)を使用した。冷凍庫(−40℃)内で凍結保存しておいた魚肉すり身をポリエチレン製の袋に入れ、これを5℃に保った冷蔵庫内に約24時間静置して解凍した。解凍後の魚肉すり身を室温で型(寸法:150mm×150mm×10mm)に入れ、プラスチック製の円柱状ののし棒を用いて、厚さ10mmの平板状に成型した。重量が200gになるように、包丁を用いて成型した魚肉すり身を切断し、切り出した魚肉すり身を、静電容量の測定に用いた。
【0093】
(1−b)静電容量の測定方法
図6は、静電容量の測定に用いた静電容量測定装置の概略を示す構成図である。冷凍庫内にシールドおよび試料、平行平板電極を設置した。冷凍庫外に設置したLCRメータと平行平板電極とをケーブルで接続した。静電容量測定装置の各部分の特徴と機能を以下に示す。
【0094】
LCRメータ(HIOKI 3532-80 ケミカルインピーダンスメータ、日置電機株式会社製)の測定可能周波数は4Hz〜1MHzであり、インピーダンス、位相角など電気的特性を含め15項目の測定が可能である。LCRメータを測定用コンピュータに接続し、プログラム(HIOKI LCR サンプルプログラム、日置電機株式会社製)を用いて演算することにより静電容量を測定、出力した。
【0095】
平行平板電極にはステンレス製の板 (寸法:2.00mm×2.00mm 厚さ2.0mm) を使用し、平行平板電極間のスペーサー (直径10.5mm 長さ15mm) にはPTFE製の円柱状ナットを4個使用した。平行平板電極と試料が接触し通電が起こることを防ぐために、平行平板電極と試料との間にPTFEシート (寸法:210mm×210mm 厚さ0.05mm)を挟み静電容量の測定を行った。平行平板電極は、自作のシールド(寸法:270mm×370mm×150mm ステンレス製)で覆い、接地した。
【0096】
LCRメータおよび平行平板電極を接続するケーブルとして、4端子ケーブル(長さ1.2m)を使用した。ケーブルのLCRメータ側の接続部分には同軸コネクタを、平行平板電極側の接続部分にはバナナチップを用いた。静電容量測定装置を設置する前に、ケーブルのみをLCRメータと接続し、LCRメータのプログラムによりオープン補正およびショート補正を行った。
【0097】
測定に使用した冷凍庫は設定温度が可変であり、設定温度範囲は‐20℃〜‐85℃であった。測定では、冷凍庫内の温度分布および試料の凍結状態を考慮し、静電容量測定用に作製した試料と同一寸法:の温度測定用試料を作製した。温度測定用試料の幾何学的中心にK型熱電対を挿入し温度を測定した。
【0098】
次に、静電容量測定の手順を説明する。
【0099】
まず、(1−a)で説明した被検体(魚肉すり身200g)をPTFEシート(寸法:310mm×500mm 厚さ0.05mm)で包装した。この試料を、電極板間隔15mmの平行平板電極間に設置した。次に、平行平板電極、試料、シールドおよび温度測定用試料を‐20℃に設定した冷凍庫内に静置し、冷凍庫の設定温度(‐20℃〜‐85℃)を各測定温度に設定した。続いて、熱電対に接続した温度記録計の電源を入れ、図6に示した温度測定用試料の温度変化を記録した。
【0100】
続いて、冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、さらに温度記録装置の記録から上記温度測定用試料の温度が安定したことを確認し、LCRメータによって被検体の静電容量を測定した。
【0101】
(1−c)静電容量の測定結果
<静電容量に及ぼす凍結温度の影響>
モデル魚肉である魚肉すり身の静電容量に及ぼす凍結温度の影響を調べるため、図7に周波数1kHzで測定した魚肉すり身の静電容量と凍結温度との関係を示した。横軸は凍結温度、縦軸は静電容量である。
【0102】
試料の凍結過程において、静電容量は‐10℃以下で減少し、‐40℃付近で緩やかな減少へと変わり、再び‐60℃付近から急激に減少した。つまり、図7において変極点は‐40℃付近および‐60℃付近に観察され、‐40℃付近の緩和を第一緩和、‐60℃付近の緩和を第二緩和として表している。以下では、これらの変極点を与える変化を「静電容量緩和」として説明する。なお、図7に示すように、緩和終了温度(被検体の凍結温度を低下させた場合に最初に現れる静電容量の変極点を与える温度)は‐40℃付近に検出された。
【0103】
高周波数領域における静電容量の測定では、分子量の小さな分子や巨大な分子の比較的分子量の小さな側鎖のみの変化が捉えられる。それに対して、低周波数領域における静電容量の測定では、分子量の大きな物質(タンパク質やデンプンなど)の変化が捉えられる。本実施例で測定に用いた周波数は1kHzであり、低周波数域に分類できることから、本実施例で測定した静電容量は高分子の運動の様子を捕捉していると考えられた。また、水の緩和が現れる周波数はおよそ10GHzであることが知られているが、上記周波数(1kHz)は水の緩和が現れる周波数よりも非常に小さい。
【0104】
つまり、本実施例で観察された緩和は水分子よりも大きな高分子の運動によるものと考えられるため、試料の主成分であるタンパク質の分子運動の様子を静電容量の測定により捕捉したものと考えられた。
【0105】
<静電容量の測定周波数と緩和終了温度との関係>
図7では、静電容量の測定周波数が1kHzの場合について説明したが、周波数によって静電容量緩和の出現態様がどのように変化するかを検討するため、静電容量の測定周波数を0.5kHz、1kHz、5kHz、10kHzとし、各周波数における魚肉すり身の静電容量の変化を測定した。結果を図8に示す。横軸は凍結温度、縦軸は静電容量である。
【0106】
図8に示すように、周波数が小さくなるとともに静電容量緩和は低温側に移動した。そこで、周波数と静電容量緩和との関係を検討するため、図8に示した測定結果より緩和終了温度を求めた。緩和終了温度の求め方は上述の図1に示すとおりである。緩和終了温度の周波数依存性を図9に示した。横軸は緩和終了温度、縦軸は周波数である。図9より、周波数と緩和終了温度との間には比例関係が認められた。
【0107】
すなわち、周波数が小さくなるに従い緩和終了温度は低下した。高周波では電場の変化に対応できない分子(完全な分極をすることができない分子)も、周波数が小さくなることで対応できるようになる。温度についても同様に、低温側では運動が制限されるため電場の変化に対応できない分子も、温度が高くなることで対応できるようになる。図9においても、周波数が小さくなるに従い緩和終了温度が低下したことから、同様の現象が起きたと考えられた。
【0108】
(2)被検体の三点曲げ試験(破壊試験)
本実施例においては、被検体の三点曲げ試験(破壊試験)を行うことにより、被検体の脆化温度を測定した。すなわち、上記静電容量測定結果から脆化温度を算出するための関係式を導くにあたり、上記静電容量測定結果と三点曲げ試験の結果との相関関係を求めておく必要があるため、上記試験を行った。
【0109】
(2−a)被検体
被検体には、上記(1−a)と同様に、モデル魚肉として魚肉すり身(SA級 日本水産株式会社)を使用した。被検体の凍結、解凍、成形の方法は上記(1−a)と同様である。
【0110】
成形後の被検体は、ポリエチレン製の袋に入れて‐5℃の冷凍庫内で6時間静置し再凍結させた。その後、冷凍庫から取り出し、直ちに常温中で包丁を用いて直方体(寸法:20mm×20mm×100mm)に切り分け、当該直方体状の被検体を三点曲げ試験の試験片とした。三点曲げ試験を行うまでは、上記試験片をポリエチレン製の袋に入れ、‐35℃の冷凍庫内で保存した。
【0111】
(2−b)三点曲げ試験
図10は、三点曲げ材料試験機(TENSILON UTM‐4‐2.00、TOYO BALDWIN製)の概略を示す構成図である。三点曲げ材料試験機は特殊なものである必要はなく、一般的な万能試験機(例えば,インストロン社製,島津製作所社製)でよい。三点曲げ材料試験機の各部分の機能と特徴を以下に示す。
【0112】
三点曲げ材料試験機の本体中央には低温槽を固定した。上記低音槽は、三点曲げ材料試験機の本体中央のステージ周辺を低温に保つため、箱型の発泡スチロール(寸法:40mm×32.8mm×25mm)で作成したものである。上記低温槽内には、三点曲げ試験用治具、ステージ、プロペラ、熱電対、液体窒素噴霧装置と接続したノズルを設置した。上記低温槽の正面中央には、試験片の出し入れを容易にするために試験片取り出し口(寸法:100mm×63mm×20mm)を設置した。さらに、試験片取り出し口の蓋として発泡スチロール(寸法:100mm×63mm×35mm)の小片を用い、低温槽内部の冷気の漏れを防止した。
【0113】
試験片が受ける荷重の変化を測定するために、ロードセル(500kgf)が試験機本体の上部に固定されている。さらに、ロードセルをロードセル用アンプを介して記録計と接続することで、試験片が受ける荷重の変化を記録した。
【0114】
三点曲げ試験機本体の中央に上部ステージ(寸法:100mm×150mm×10mm)および下部ステージ(寸法:100mm×40mm×10mm)を設置した。上部および下部ステージに三点曲げ試験用治具を取り付けた。モーター部分に組み込まれた大歯車と小歯車の歯数を変え、下部ステージの上昇および下降速度 (0.4〜100 cm/min) を変化させ、上記三点曲げ試験用治具に試験片を荷重点用治具と支点用治具で挟んだ状態で、下部ステージを上方に動かすことにより、試験片に曲げ荷重を作用させた。
【0115】
上記三点曲げ試験用治具の上部および下部、その周囲に熱電対を設置した。実験中に熱電対の温度を温度記録計で確認し、低温槽内の温度を液体窒素噴霧装置で調節した。また、低温槽内の冷気を攪拌して、低温槽内の温度を均一にするためアジテーターを設置した。低温槽外部にモーター(AC 100V)を取りつけ、その回転軸を介して、ストッカー内の3枚羽のプロペラを駆動した。実験中は常にアジテーターによる冷気の攪拌を行った。低温槽内の冷却は、液体窒素噴霧装置から噴霧される液体窒素の蒸発潜熱を低温槽に伝えることによって行った。液体窒素噴霧装置に設置した液体窒素タンク(20L)内に窒素ガス(約0.5kg/cm2)を流入させ、液体窒素を蒸発させた。液体窒素噴霧装置と低温槽は、断熱材を巻きつけたパイプ(直径12.1mm 長さ900mm)で接続した。
【0116】
次に、上記三点曲げ試験の手順を説明する。
【0117】
まず、20×20×100mm3の直方体状に成型した試験片および温度測定用試験片を‐20℃に設定した冷凍庫内またはストッカー内に静置した。次に、冷凍庫内の設定温度を各測定温度に設定し、熱電対に接続した温度記録計によって温度測定用試料の温度変化を記録した。冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、温度記録計の記録から温度測定用試験片の温度が安定したことを確認した。
【0118】
冷凍庫の下限温度である‐85℃以下の測定を行う場合には、ストッカーを使用した。ストッカーは、内蔵するデュワー瓶内の液体窒素をヒーターで加熱し、液体窒素の蒸発潜熱を利用することにより、液体窒素の沸点(約‐196℃)程度まで冷却することが可能である。
【0119】
次に、液体窒素を低温槽内に噴霧し、低温槽内に設置した液体窒素噴霧装置の熱電対および低温槽内に設置した温度記録装置の熱電対の温度を確認しながら、低温槽内を各測定温度まで冷却した。続いて、三点曲げ試験用治具の上に試験片を設置し、下部ステージの上昇速度を0.4cm/min〜100cm/minに設定して、下部ステージを上昇させた。測定は試験片が破断するまで行い、その間の破断荷重を測定した。試験片が破断した後、直ちに下部ステージの上昇を止め、記録計を停止した。低温槽から破断した試験片を取り出し、ノギスを用いて破断した試験片の幅、厚さを測定した。
【0120】
(2−c)三点曲げ試験の結果
<破断応力に与える試料凍結温度の影響>
魚肉の力学特性に与える凍結温度の影響を検討した。具体的には、モデル魚肉である魚肉すり身の破断応力におよぼす試料凍結温度の影響を調べた。
【0121】
本実施例で測定した三点曲げ試験における典型的な荷重−変位曲線のモデル図を図11に示した。変位の増加に伴い荷重は増加した。しかし、ある変位において、荷重の急激な減少がみられ、この時点で試験片は破断していた。そこで、本実施例では、この荷重の急激な減少がおこる直前の最大荷重(ピーク荷重)を破断荷重fと定義した。また、試験片個々の寸法:を考慮するために、試料の寸法:およびスパン長を用いて、数式(10)から破断応力を求めた。
【0122】
【数19】
【0123】
図12に変形速度10cm/minで測定した魚肉すり身の破断応力の凍結温度依存性を示した。横軸は温度、縦軸は破断応力である。図12のプロットは測定値の平均値を表し、また、ばらつきの幅は±1σ(σ=標準偏差)である。破断応力は‐20℃付近でピークを示したが、‐30℃以下では大きな変化が見られずほぼ一定となった。図12より、‐20℃付近で力学特性に影響を及ぼす物理的な状態変化が起きていると考えられる。
【0124】
すなわち、試料の凍結過程では、‐20℃付近までは試料が延性状態であり、‐20℃以下の温度では試料に脆性が発現し、試料が僅かな外力で壊れやすい状態になっていると考えられる。なお、最終破断までに著しい伸びや絞りを伴う破壊を延性破壊、伸びや絞りを伴わない破壊を脆性破壊という。
【0125】
<変形速度が脆化温度に与える影響>
破壊過程では、物質にかかる荷重の速度により脆化温度は変化する。そこで、本項では、変形速度が、脆化温度に与える影響について検討した。図13に変形速度0.4cm/min、1.0cm/min、10cm/min、100cm/minで測定した凍結過程に伴う変形速度と破断応力との関係を示した。横軸は温度、縦軸は破断応力である。
【0126】
図13では、変形速度の低下とともに、破断応力のピークが現れる温度は低下した。そこで、変形速度と破断応力のピークが現れる温度との関係を検討するため、図13に示した測定結果より脆化温度を求めた。脆化温度の求め方を表したモデル図を図14に示した。図13より求めた脆化温度の変形速度依存性を図15に示した。横軸は脆化温度、縦軸は変形速度である。図15は、変形速度が低下するに従って、脆化温度は低下することを示している。
【0127】
ところで、延性破壊から脆性破壊への遷移の条件としては、絶対温度Tと歪み速度εの間に数式(11)のような関係が実験的に確かめられている(横堀武夫:「材料強度学」、技報堂出版株式会社、pp115‐116、(1955))。
【0128】
【数20】
【0129】
これは、歪み速度を低下させることは、絶対温度を低下させることを意味している。すなわち、変形速度を低下することにより、脆化温度を低温側にシフトできると考えられる。このことから、図15でも同様の現象が起きていると考えられた。
【0130】
(3)本発明の実際の魚体への応用
本研究の最終的な目的は、被検体の低温加工における最適加工温度を決定することである。そこで、実際に低温加工(凍結粉砕)を行い、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法が実用的に利用可能であることを実証した。
【0131】
(3−a)被検体
被検体としては、上述の静電容量の測定および三点曲げ試験に用いた魚肉すり身の原料であるタラと同様に白身魚であるフィレー状カレイ(Righteye Flounder、Pleuronectidae)を使用した。
【0132】
まず、冷凍庫(‐40℃)内で凍結保存しておいたフィレー状カレイをポリエチレン製の袋に入れ、これを5℃に保った冷蔵庫内に約24時間静置して解凍した。次に、解凍後の試料を、30mm×30mm×5mm程度の大きさに包丁を用いて室温で切断し、切断した試料(被検体)を、ポリ塩化ビニリデン製のラップ(寸法:300mm×300mm 厚さ11μm)を敷いたアルミ製のバット(寸法:373mm×309mm×43mm)に重ならないように並べた。
【0133】
続いて、上記試料を並べたバットをポリエチレン製の袋に入れ、約‐40℃の冷凍庫内で6時間保存し再凍結させた。その後、冷凍庫から取り出し、直ちに常温中で50gごとにポリエチレン製の袋に入れた。凍結粉砕を行うまでポリエチレン製の袋に入れた試料を、‐35℃の冷凍庫内で保存した。
【0134】
(3−b)フィレー状カレイの凍結粉砕
図16は、フィレー状カレイの凍結粉砕に用いた粉砕機の概略を示す構成図である。粉砕室の出口には、穴のないスクリーンを設置することで、粉砕中の試料を排出しないようにした。試料投入口および粉砕室入口には、粉砕試料の逆流を防止する目的で木製の蓋をそれぞれ挿入した。粉砕室入口の蓋を挿入した状態で試料投入口より試料を投入し逆流を防止した。続いて試料投入口用蓋を挿入し、逆流防止蓋を試料投入口の下部の高さよりも上部に引き上げることで粉砕室中に試料を投入した。ハンマー回転数は2408rpmであった。
【0135】
フィレー状カレイの凍結粉砕は以下の手順によって行った。
【0136】
まず、試料および温度測定用試料を‐20℃に設定した冷凍庫内に静置した後、冷凍庫内の設定温度(‐20℃〜‐85℃)を各測定温度に設定した。続いて、熱電対に接続した温度記録計によって温度測定用試料の温度変化を記録した。冷凍庫内の設定温度が各測定温度に達した後、さらに温度記録計の記録から温度測定用試料の温度が安定したことを確認した。
【0137】
次に、ハンマーを回転させた。粉砕室およびハンマーは、試料投入口から液体窒素を粉砕室に注ぎ入れることによって十分に冷却した。ハンマーを回転させながら冷却することにより、冷却中にハンマーの回転軸が凍結することを防止した。また、試料投入口蓋および逆流防止蓋を液体窒素中に浸漬し、十分に冷却した。
【0138】
粉砕室が十分に冷却されたことを確認した後、逆流防止蓋を挿入した。次に、試料を試料投入口に入れ、試料投入口に蓋を挿入した。その後、逆流防止の蓋を引き上げ、試料を粉砕室に投入した。粉砕時間は5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、粉砕を行った。粉砕粒子は、粒子間の固着を防ぎつつ液体窒素を蒸発させるため、約4時間‐40℃の冷凍庫内に放置し、液体窒素が完全に蒸発したことを確認した後、‐15℃の低温室に移した。
【0139】
(3−c)分級操作
分級操作に使用したステンレス製のJIS標準篩および振動式分級装置の概略を図17に示した。篩を重ね、最下段にはJIS標準篩専用の受け皿を、最上段にはJIS標準篩専用の蓋を取り付けた。振動式分級装置に、重ねた篩を設置し、篩の蓋の上部に振動式分級装置の蓋を重ね、振動式分級装置の止め具で固定し、分級操作を行った。分級操作を行う時間を30分間と設定したので、試料の解凍を避けるために、振動式分級装置を‐15℃に保った低温室に設置し、分級操作を行った。
【0140】
標準篩の目開きは8種類(0.25mm、0.355mm、0.5mm、0.71mm、1.0mm、1.41mm、2.00mm、2.83mm)であった。重ねた標準篩の最上段に、冷却したハケを用いて粉砕試料を移し入れ、標準篩専用の蓋をした。重ねた標準篩、受け皿および蓋を低温室内の振動式分級装置に固定した。続いて、振動式分級装置の電源を入れ30分間、分級操作を行った。
【0141】
分級操作終了後、‐15℃の低温室内で、目開き2.83mmの標準篩に残った試料を1粒ごとに、ノギスを用いて粒子径を測定した。目開き2.83mmの標準篩に残った試料を2.83mm〜4.5mm、4.5mm〜10mm、10mm以上の3種類に分画した。その後、冷却したハケを用いて、標準篩の各段に分画された試料(フラクション)をそれぞれ予冷したポリエチレン製の袋に移し入れた。続いて、低温室から取り出し、直ちに常温中で各フラクションの重量を測定した。
【0142】
(3−d)凍結粉砕後の粒子径分布に与える試料凍結温度の影響の検討
物質の破壊挙動に与える温度の影響を検討するため、実際の凍結粉砕操作において、フィレー状のカレイの粉砕性に及ぼす試料凍結温度の影響を調べた。
【0143】
図18は、粉砕時間を15秒に設定しフィレー状カレイを凍結粉砕したときの粉砕試料の粒子径分布の凍結温度依存性を示すものである。横軸は粒子径、縦軸は積算ふるい下を表す。図18における「粒子径」とは、分級操作に用いた篩の目開きを表す。例えば、目開き2.83mm、2.00mmの篩を用いて分級操作を行った場合、分級操作後に目開き2.00mmの篩に残った試料の実際の粒子径は2.00mm〜2.83mmであるが、横軸の粒子径のプロットでは2.00mmと表した。また、「積算ふるい下」とは、全試料重量に対するフラクション重量の割合を、粒子径が小さなフラクションから足し合わせた値である。図18では、試料凍結温度の低下に従い、粒子径分布は小粒子径側にシフトしていることが分かる。つまり、粒子径分布を制御するためには、試料凍結温度が重要な要素であることが明らかとなった。
【0144】
(3−e)凍結粉砕後の粒子径分布に与える粉砕時間の影響の検討
粉砕操作において、粉砕時間が長い場合は、粉砕時間が短い場合と比較して、粒子が破壊される頻度が高くなるため、粉砕後の試料の粒子径は小さくなる。そこで、本項では、粉砕時間が粉砕後の粒子径分布に与える影響について検討した。
【0145】
図19は試料凍結温度を‐40℃、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、フィレー状カレイを凍結粉砕した場合における粉砕試料の粒子径分布の粉砕時間依存性を示すものである。横軸は粒子径、縦軸は積算ふるい下を表す。図19では、粉砕時間の経過とともに、粒子径分布は小粒子径側にシフトしていることが分かる。粉砕時間が0秒から15秒の間で粒子径は急激に小さくなった。しかし、粉砕時間15秒以降では粒子径分布の小粒子径側へのシフトは緩やかであった。
【0146】
そこで、粒子径と粉砕時間との関係をさらに詳しく検討するため、図19に示した測定結果より平均粒子径を求めた。本研究では、積算ふるい下が50%となる粒子径を平均粒子径と定義した。図19より求めた平均粒子径の粉砕時間依存性を図20に示した。横軸は粉砕時間、縦軸は平均粒子径である。図20より、粉砕時間15秒以降では平均粒子径に大きな変化がなく、効率的な粉砕を行うためには、粉砕時間も重要な要素であることが明らかとなった。
【0147】
(3−f)粉砕時間および試料凍結温度が粒子径変化速度に及ぼす影響の検討
本項では、前項と同様に試料凍結温度を変化させてフィレー状カレイを粉砕し、粉砕時間に伴う平均粒子径の変化について検討した。
【0148】
図21は、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し凍結粉砕したときの平均粒子径の粉砕時間依存性を試料凍結温度毎に示したものである。図21から、粉砕時間5秒から15秒の間で、平均粒子径が急激に小さくなっていることが分かる。粉砕時間30秒では、試料凍結温度に関わらず、平均粒子径にほとんど差は見られなかった。そこで、粉砕時間と平均粒子径との関係を詳しく検討した。本実施例では、粉砕時間に伴う平均粒子径の変化を粒子径変化速度Vと定義した。粒子径変化速度Vは、以下の数式(12)で表すことができる。
【0149】
【数21】
【0150】
次に、図21に示した測定結果と上記数式(12)を用いて粒子径変化速度Vを求めた。粉砕時間0秒の平均粒子径は粉砕前試料サイズを用い30mmとした。粉砕時間が0秒〜5秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を図22に示した。図23には粉砕時間が5秒〜60秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示した。図22、図23の横軸は温度、縦軸は粒子径変化速度である。
【0151】
図22では、試料凍結温度の低下に伴い、粒子径変化速度は増加した。‐7℃から‐20℃で粒子径変化速度は顕著に大きくなる傾向を示したが、‐20℃以下では粒子径変化速度は緩やかに大きくなった。一方、図23では、試料凍結温度の低下に伴い粉砕時間5秒〜15秒における粒子径変化速度は小さくなった。また、粉砕時間15秒以降では粒子径変化速度に大きな変化は見られなかった。
【0152】
図21に示した測定結果では、粉砕時間30秒では試料凍結温度に拘らず平均粒子径に差が見られなかったこと、また、図22より試料凍結温度の低下に従い、粉砕時間0〜5秒の粉砕初期で粒子径変化速度は増加したことから、試料凍結温度の低下に伴い、粉砕初期に粒子が細かく粉砕されていると考えられる。さらに、図22では‐20℃以下の低温側で、粒子径変化速度の増加が緩やかになったことから、‐20℃を境にフィレー状カレイの力学特性(粉砕されやすさ)が異なると考えられる。つまり、‐20℃以下では、フィレー状カレイは粉砕されやすい(脆性)状態であり、‐7℃から‐20℃では延性もしくは延性‐脆性遷移状態であると考えられる。
【0153】
(3−g)魚肉すり身の誘電特性と実際の魚肉の力学特性との関係
次に、実際の魚肉であるフィレー状カレイの凍結粉砕より得た脆化温度の結果と、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により求めた脆化温度との相関性を調べた。
【0154】
まず、上記数式(2)に必要な歪み時間νを粉砕機の運転条件から求めた。まず、回転するハンマーの速度からハンマーの回転速度を求めた。さらに、試料の最初の破壊を想定し、粉砕前試料サイズを用いて歪み時間νを定義すると、歪み時間νは上記数式(4)で表される。
【0155】
ハンマーの回転速度(2408rpm)から、歪み時間νを数式(4)より求めた。求めた歪み時間を用いて、モデル魚肉である魚肉すり身の脆化温度と歪み時間との関係を示した数式(2)に代入し、脆化温度Tを求めた。その結果、凍結粉砕による脆化温度は約‐17℃となった。この結果は、実際の凍結粉砕の脆化温度が‐7℃から‐20℃の間にあることを示した上記(3−f)の実験結果とほぼ一致した。すなわち、魚肉のモデルとして使用した魚肉すり身の力学特性測定の歪み時間と脆化温度との関係を示した上記数式(2)は、実際の魚体にも応用できることが明らかとなった。
【0156】
このことから、魚肉のモデルとして使用した魚肉すり身の静電容量測定および三点曲げ試験から得られた結果は、実際の魚肉にも応用できることが明らかとなった。すなわち、静電容量測定および三点曲げ試験から得られた上記数式(1)が、実際の魚体の低温加工にも応用できることが明らかとなり、本発明に係る被検体の脆化温度の決定方法により求めた脆化温度は実際の魚肉であるフィレー状カレイの凍結粉砕より得た脆化温度と高い相関性を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上のように、本発明では、非破壊的な測定方法である誘電特性の測定により求めた静電容量と、破壊試験によって求められる力学的特性との相関関係を見出すことができるため、比較的簡便に求めることができる被検体の静電容量の測定結果を、本来破壊試験によって求めなければならない脆化温度に換算することができる。そのため、本発明は、食品加工分野や工業製品のリサイクル分野等に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】緩和終了温度の求め方を表したモデル図である。
【図2】歪み時間と脆化温度との間の比例関係を表す図である。
【図3】緩和時間と緩和終了温度との間の比例関係を表す図である。
【図4】歪み時間と緩和時間との間の比例関係を表す図である。
【図5】混合物に含まれる試料Aおよび試料Bの変形速度から求めた歪み時間と試料の脆化温度との関係を表すモデル図である。
【図6】静電容量の測定に用いた静電容量測定装置の概略を示す構成図である。
【図7】周波数1kHzで測定した魚肉すり身の静電容量と凍結温度との関係を示す図である。
【図8】静電容量の測定周波数を0.5kHz、1kHz、5kHz、10kHzとし、各周波数における魚肉すり身の静電容量の変化を測定した結果を表す図である。
【図9】緩和終了温度の周波数依存性を表す図である。
【図10】三点曲げ材料試験機の概略を示す構成図である。
【図11】本実施例で測定した三点曲げ試験における典型的な荷重−変位曲線のモデル図である。
【図12】変形速度10cm/minで測定した魚肉すり身の破断応力の凍結温度依存性を示す図である。
【図13】変形速度0.4cm/min、1.0cm/min、10cm/min、100cm/minで測定した凍結過程に伴う変形速度と破断応力との関係を示す図である。
【図14】脆化温度の求め方を表したモデル図である。
【図15】脆化温度の変形速度依存性を表す図である。
【図16】粉砕機の概略を示す構成図である。
【図17】分級操作に使用したステンレス製のJIS標準篩および振動式分級装置の概略を示す図である。
【図18】粉砕試料の粒子径分布の凍結温度依存性を示す図である。
【図19】試料凍結温度を‐40℃、粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し、フィレー状カレイを凍結粉砕した場合における粉砕試料の粒子径分布の粉砕時間依存性を示す図である。
【図20】平均粒子径の粉砕時間依存性を示す図である。
【図21】粉砕時間を5秒、15秒、30秒、60秒に設定し凍結粉砕したときの平均粒子径の粉砕時間依存性を試料凍結温度毎に示した図である。
【図22】粉砕時間が0秒〜5秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示す図である。
【図23】粉砕時間が5秒〜60秒の場合における粒子径変化速度の凍結温度依存性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えることを特徴とする被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項2】
被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、
上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、
上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【数1】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、
上記歪み時間を、
【数2】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えることを特徴とする被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項3】
上記歪み時間を、
【数3】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整することを特徴とする請求項2に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項4】
上記歪み時間を、
【数4】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整することを特徴とする請求項2に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項5】
上記被検体は動物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項6】
上記動物は魚類または家畜であることを特徴とする請求項5に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項7】
脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、
上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画することを特徴とする混合物の分画方法。
【請求項8】
上記混合物は魚体であることを特徴とする請求項7に記載の混合物の分画方法。
【請求項9】
上記混合物はゴム製品であることを特徴とする請求項7に記載の混合物の分画方法。
【請求項1】
被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップを備えることを特徴とする被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項2】
被検体の静電容量を測定する静電容量測定ステップと、
上記静電容量と被検体の凍結温度との関係に基づいて緩和終了温度を算出する緩和終了温度算出ステップと、
上記緩和終了温度と周波数との比例関係に基づいて緩和時間を算出する緩和時間算出ステップと、
【数1】
に基づいて上記緩和時間から歪み時間を算出する歪み時間算出ステップと、
上記歪み時間を、
【数2】
に代入することによって脆化温度を算出する脆化温度算出ステップと、を備えることを特徴とする被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項3】
上記歪み時間を、
【数3】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を被検体の変形速度によって調整することを特徴とする請求項2に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項4】
上記歪み時間を、
【数4】
に基づいて算出することにより、上記歪み時間を粉砕機の粉砕手段の回転速度によって調整することを特徴とする請求項2に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項5】
上記被検体は動物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項6】
上記動物は魚類または家畜であることを特徴とする請求項5に記載の被検体の脆化温度の決定方法。
【請求項7】
脆化温度の異なる二種類以上の試料を含む混合物から上記試料を分画する方法であって、
上記混合物の温度を、上記混合物に含まれる試料から選択される任意の二種類の試料がそれぞれ有する脆化温度の間の温度に設定し、当該温度において上記混合物を粉砕することにより、上記試料の脆化温度の差を利用して上記試料を分画することを特徴とする混合物の分画方法。
【請求項8】
上記混合物は魚体であることを特徴とする請求項7に記載の混合物の分画方法。
【請求項9】
上記混合物はゴム製品であることを特徴とする請求項7に記載の混合物の分画方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2006−226734(P2006−226734A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38470(P2005−38470)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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