説明

負荷駆動装置

【課題】電流センサを用いずにリアクトル電流を導出可能な負荷駆動装置を提供すること。
【解決手段】負荷駆動装置は、直電電源の出力電圧を異なるレベルの直流電圧に変換するコンバータと、コンバータの出力電圧を交流電圧に変換して回転型誘導性負荷に印加するインバータと、回転型誘導性負荷に関連するパラメータ及びコンバータに関連するパラメータに基づいて、コンバータとインバータの間を流れる負荷電流を算出する負荷電流算出部と、負荷電流及びコンバータに関連するパラメータに基づいて、コンバータに含まれるリアクトルを流れるリアクトル電流を算出するリアクトル電流算出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源からの電力供給によって回転型誘導性負荷を駆動する負荷駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図14は、特許文献1に記載されたモータ駆動装置の構成を示す図である。図14に示すモータ駆動装置100では、制御装置30が、直流電源Bから昇圧コンバータ12へ流れるリアクトル電流ILの絶対値を当該リアクトル電流ILのリップル電流の絶対値と比較し、その比較結果に応じて、昇圧コンバータ12のNPNトランジスタQ1,Q2をオン/オフするキャリア周波数を変更して昇圧コンバータ12を制御する。例えば、リアクトル電流ILの絶対値がリップル電流の絶対値以下のとき、制御装置30は、低下させたキャリア周波数により昇圧コンバータ12のNPNトランジスタQ1,Q2をオン/オフする。したがって、昇圧コンバータ12のNPNトランジスタQ1,Q2が共にオフ制御される時間であるデッドタイムの影響を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−112904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記説明したモータ駆動装置100には、リアクトル電流ILを検出するための電流センサ11が設けられている必要がある。なお、リアクトル電流ILの値は、上記説明した昇圧コンバータ12の制御以外に、直流電源Bの保護等を目的とした過電流検知のためにも必要とされる。このように、モータ駆動装置100にとって電流センサ11は必要な構成要素であるが、装置の小型化及びコスト低減の点からは、電流センサ11を用いずにリアクトル電流ILの値が得られた方が好ましい。
【0005】
本発明の目的は、電流センサを用いずにリアクトル電流を導出可能な負荷駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の負荷駆動装置は、直電電源(例えば、実施の形態での直流電源123)の出力電圧を異なるレベルの直流電圧に変換するコンバータ(例えば、実施の形態での昇圧コンバータ101)と、前記コンバータの出力電圧を交流電圧に変換して回転型誘導性負荷(例えば、実施の形態での電動機121)に印加するインバータ(例えば、実施の形態でのインバータ103)と、前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータ及び前記コンバータに関連するパラメータに基づいて、前記コンバータと前記インバータの間を流れる負荷電流を算出する負荷電流算出部(例えば、実施の形態での負荷電力演算部175及び負荷電流演算部177)と、前記負荷電流及び前記コンバータに関連するパラメータに基づいて、前記コンバータに含まれるリアクトル(例えば、実施の形態でのリアクトルL)を流れるリアクトル電流を算出するリアクトル電流算出部(例えば、実施の形態でのリアクトル電流算出部179)と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
さらに、請求項2に記載の発明の負荷駆動装置では、前記リアクトル電流算出部で用いられる前記コンバータに関連するパラメータは、前記コンバータの出力電圧値又は前記コンバータに対する出力電圧の指令値、及び前記直流電源の出力電圧値であることを特徴としている。
【0008】
さらに、請求項3に記載の発明の負荷駆動装置では、前記コンバータの出力電圧の状態に応じて、前記コンバータの出力電圧値、前記コンバータに対する出力電圧の指令値、及び前記コンバータの出力電圧の補正値のいずれかを選択し、前記コンバータに関連するパラメータの1つとして前記負荷電流算出部及び前記リアクトル電流算出部に入力するパラメータ切替部(例えば、実施の形態での信号切替部271)を備えたことを特徴としている。
【0009】
さらに、請求項4に記載の発明の負荷駆動装置では、前記パラメータ切替部は、前記コンバータの出力電圧値と前記コンバータに対する出力電圧の指令値の差分が第1所定値未満のときは、前記コンバータに対する出力電圧の指令値を選択することを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項5に記載の発明の負荷駆動装置では、前記パラメータ切替部は、前記コンバータの出力電圧値と前記コンバータに対する出力電圧の指令値の偏差が前記第1所定値以上であって、前記コンバータの出力電圧の時間微分値が第2所定値以上のときは、前記コンバータの出力電圧の補正値を選択することを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項6に記載の発明の負荷駆動装置では、前記コンバータの出力電圧の補正値は、前記コンバータの出力電圧値と、前記コンバータの出力電圧の時間微分値に電圧補正係数を乗算した値との和であることを特徴としている。
【0012】
さらに、請求項7に記載の発明の負荷駆動装置では、前記負荷電流算出部に入力する前記補正値の導出時に用いられる電圧補正係数と、前記リアクトル電流算出部に入力する前記補正値の導出時に用いられる電圧補正係数は異なることを特徴としている。
【0013】
さらに、請求項8に記載の発明の負荷駆動装置では、前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータは、前記回転型誘導性負荷を駆動するためのd軸電流及びq軸電流、並びに、d軸電圧及びq軸電圧の各値であることを特徴としている。
【0014】
さらに、請求項9に記載の発明の負荷駆動装置では、前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータは、前記回転型誘導性負荷の回転子の角速度、及び前記回転型誘導性負荷に対するトルク指令値であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜9に記載の発明の負荷駆動装置によれば、電流センサを用いずにリアクトル電流を導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態の負荷駆動装置を含むシステムを示す図
【図2】第1の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部105の内部構成の一例を示すブロック図
【図3】第1の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部105の内部構成の他の例を示すブロック図
【図4】コンバータ101の昇圧率及び負荷電力P2に応じたコンバータ101の損失特性の一例を示すグラフ
【図5】リアクトル電流ILに応じて異なるリアクトルLのインダクタンスLを示すグラフ
【図6】2つの負荷が設けられた場合の第1の実施形態のシステム構成を示す図
【図7】2つの負荷が設けられた場合の第1の実施形態のコンバータ制御部105Cの内部構成の一例を示すブロック図
【図8】2つの負荷が設けられた場合の第1の実施形態のコンバータ制御部105Cの内部構成の他の例を示すブロック図
【図9】第2の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部205の内部構成の一例を示すブロック図
【図10】第2の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部205の内部構成の他の例を示すブロック図
【図11】信号切替部271が行う動作を示すフローチャート
【図12】出力電圧V2の取得タイミングと他のパラメータの取得タイミングの差分に対する電圧補正係数Ka,Kbの一例を示すグラフ
【図13】昇降圧コンバータを含むシステムを示す図
【図14】特許文献1に記載されたモータ駆動装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の負荷駆動装置を含むシステムを示す図である。第1の実施形態の負荷駆動装置は、力行駆動時には電動機として動作し、回生動作時には発電機として動作する回転型誘導性負荷(以下「電動機」という)121の運転を制御する装置である。
【0019】
図1に示すように、第1の実施形態の負荷駆動装置は、昇圧コンバータ(以下、単に「コンバータ」という)101と、平滑コンデンサ(以下、単に「コンデンサ」という)Cと、インバータ103と、制御部105と、電圧センサ107,109と、相電流センサ111u,111wと、レゾルバ113とを備える。コンバータ101、コンデンサC及びインバータ103は、蓄電器等の直流電源123と電動機121の間に設けられている。なお、コンバータ101とインバータ103の間には、平滑のためのコンデンサCが並列に設けられている。
【0020】
コンバータ101は、上下2段に直列接続された2つのトランジスタと、各トランジスタと並列に接続された還流ダイオードと、直流電源123側(一次側)に設けられたリアクトルLとを有する。コンバータ101は、トランジスタのスイッチング動作によって、直流電源123の出力電圧を昇圧する。また、電動機121が回生動作した際、コンバータ101は、トランジスタのスイッチング動作によってインバータ103の出力電圧を降圧する。
【0021】
コンデンサCは、コンバータ101の出力電圧を平滑化する。また、電動機121が回生動作した際、コンデンサCは、インバータ103の出力電圧を平滑化する。
【0022】
インバータ103は、上下2段に直列接続された各相に対応するトランジスタと、各トランジスタと並列に接続された還流ダイオードとを有する。インバータ103は、トランジスタのスイッチング動作によって、コンバータ101の出力電圧を3相(U,V,W)交流に変換する。また、電動機121が回生動作した際、インバータ103は、トランジスタのスイッチング動作によって、電動機121が発生した3相の交流電圧を直流に変換する。
【0023】
制御部105は、コンバータ101及びインバータ103を構成する各トランジスタのスイッチング動作を制御する。電圧センサ107は、直流電源123の出力電圧V1を検出する。電圧センサ109は、コンバータ101の出力電圧V2を検出する。相電流センサ111u,111wは、インバータ103から出力されるu相電流Iu及びw相電流Iwをそれぞれ検出する。レゾルバ113は、電動機121の回転子の電気角度を検出する。電圧センサ107,109、相電流センサ111u,111w及びレゾルバ113によって検出された値を示す信号は制御部105に送られる。また、コンバータ101に対する電圧指令値V2c及びトルク指令値Tも、外部から制御部105に入力される。
【0024】
図2は、第1の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部105の内部構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、制御部105は、インバータ制御部105I及びコンバータ制御部105Cを有する。インバータ制御部105Iは、インバータ103を構成するトランジスタのスイッチングをPWM制御する。また、コンバータ制御部105Cは、コンバータ101を構成するトランジスタのスイッチングをPWM制御する。
【0025】
インバータ制御部105Iは、角速度算出部151と、電流指令算出部153と、3相−dq変換部155と、電流FB制御部157と、dq−3相変換部159と、PWM制御部161とを含む。インバータ制御部105Iには、トルク指令値T、電動機121の回転子の電気角度θの検出値、相電流センサ111u,111wが検出したu相電流Iu及びw相電流Iwの各値、及び電圧センサ109が検出したコンバータ101の出力電圧V2の値が入力される。
【0026】
角速度算出部151は、電動機121の回転子の電気角度θの検出値を時間微分することによって、電動機121の回転子の角速度ωを算出する。角速度算出部151によって算出された角速度ωは、電流指令算出部153に入力される。電流指令算出部153は、トルク指令値Tと、電動機121の回転子の角速度ωとに基づいて、d軸側の電機子(以下「d軸電機子」という。)に流す電流(以下「d軸電流」という。)の指令値Id_c及びq軸側の電機子(以下「q軸電機子」という。)に流す電流(以下「q軸電流」という。)の指令値Iq_cを算出する。
【0027】
3相−dq変換部155は、相電流センサ111u,111wが検出したu相電流Iu及びw相電流Iwの各値と、電動機121の回転子の電気角度θの検出値とに基づいて3相−dq変換を行って、d軸電流の検出値Id_s及びq軸電流の検出値Iq_sを算出する。電流FB制御部157は、d軸電流の指令値Id_cと検出値Id_sの偏差ΔId及びq軸電流の指令値Iq_cと検出値Iq_sの偏差ΔIqが減少するよう、d軸電機子の端子間電圧(以下「d軸電圧」という。)の指令値Vd_c及びq軸電機子の端子間電圧(以下「q軸電圧」という。)の指令値Vq_cを決定する。
【0028】
dq−3相変換部159は、電流FB制御部157によって決定されたd軸電圧の指令値Vd_c及びq軸電圧の指令値Vq_cと、電動機121の回転子の電気角度θの検出値とに基づいてdq−3相変換を行って、3相電圧Vu,Vv,Vwの各指令値を導出する。PWM制御部161は、dq−3相変換部159が導出した3相電圧Vu,Vv,Vwの各指令値に基づいて、インバータ103を構成するトランジスタのスイッチングをPWM制御する。
【0029】
コンバータ制御部105Cは、FF制御部171と、FB制御部173と、負荷電力演算部175と、負荷電流演算部177と、リアクトル電流算出部179と、リップル電流算出部181と、デューティ補償部183と、PWM制御部185と、過電流検知部187とを有する。コンバータ制御部105Cには、電圧センサ107が検出した直流電源123の出力電圧V1の値、電圧センサ109が検出したコンバータ101の出力電圧V2の値、及びコンバータ101に対する電圧指令値V2cが入力される。
【0030】
FF制御部171には、電圧指令値V2c及び直流電源123の出力電圧V1の検出値が入力される。FF制御部171は、コンバータ101が出力電圧V1を電圧指令値V2cに昇圧するためのデューティ(Duty_FF)を導出する。FB制御部173には、電圧指令値V2cと出力電圧V2の偏差(V2c−V2)ΔV2を示す値、直流電源123の出力電圧V1の検出値、及びFF制御部171が導出したデューティ(Duty_FF)が入力される。FB制御部173は、偏差ΔV2及び直流電源123の出力電圧V1に基づいて、FF制御部171が導出したデューティ(Duty_FF)を補正するための値(Duty_FB)を導出する。
【0031】
負荷電力演算部175は、負荷電力P2を演算によって導出する。なお、負荷電力P2とは、電動機121に供給される又は電動機121から出力される電力である。負荷電力演算部175には、インバータ制御部105Iの電流FB制御部157が決定したd軸電圧の指令値Vd_c及びq軸電圧の指令値Vq_cと、3相−dq変換部155が算出したd軸電流の検出値Id_s及びq軸電流の検出値Iq_sとが入力される。負荷電力演算部175は、以下に示す式(1)より負荷電力P2を算出する。
P2=Vd_c×Id_s+Vq_c×Iq_s …(1)
【0032】
なお、d軸電流の検出値Id_s及びq軸電流の検出値Iq_sの代わりに、電流指令算出部153が算出したd軸電流の指令値Id_c及びq軸電流の指令値Iq_cを負荷電力演算部175に入力しても良い。この場合、負荷電力演算部175が負荷電力P2を算出する際に用いる式は以下の式(2)である。
P2=Vd_c×Id_c+Vq_c×Iq_c …(2)
【0033】
また、負荷電力演算部175は、図3に示すように、トルク指令値T、インバータ制御部105Iの角速度算出部151が算出した電動機121の回転子の角速度ω、及び電動機121の極対数Ppに基づいて、以下に示す式(3)より負荷電力P2を算出しても良い。
P2=ω×T/Pp …(3)
【0034】
負荷電流演算部177には、コンバータ101に対する電圧指令値V2c、及び負荷電力演算部175が算出した負荷電力P2の値が入力される。負荷電流演算部177は、以下に示す式(4)より負荷電流I2を算出する。
I2=P2/V2c …(4)
【0035】
なお、電圧指令値V2cの代わりに、コンバータ101の出力電圧V2の検出値を負荷電流演算部177に入力しても良い。この場合、負荷電流演算部177は、以下に示す式(5)により負荷電流I2を算出する。
I2=P2/V2 …(5)
【0036】
このようにして算出された負荷電流I2の値は、コンバータ制御部105Cのリアクトル電流算出部179に入力される。
【0037】
リアクトル電流算出部179には、負荷電流演算部177が算出した負荷電流I2の値、コンバータ101の出力電圧V2の検出値及び直流電源123の出力電圧V1の検出値が入力される。リアクトル電流算出部179は、コンバータ101のリアクトルLを流れるリアクトル電流ILの平均値(以下、単に「リアクトル電流」という)を、以下に示す式(6)より算出する。
【0038】
【数1】

【0039】
上式(6)において、ηは、コンバータ101の効率を示すパラメータである。リアクトル電流算出部179は、コンバータ101の昇圧率(V2/V1)及び負荷電力P2(=I2×V2)をインデックスとしたマップを用いてコンバータ101の効率ηを導出する。図4は、コンバータ101の昇圧率及び負荷電力P2に応じたコンバータ101の損失特性の一例を示すグラフである。リアクトル電流算出部179は、コンバータ101の効率ηを導出する際には、図4に示したグラフから生成されたマップを用いる。
【0040】
リップル電流算出部181には、直流電源123の出力電圧V1の検出値が入力される。リップル電流算出部181は、リアクトル電流ILに含まれるリップル電流Irを、以下に示す式(7)より算出する。
【0041】
【数2】

【0042】
上式(7)において、Lは、コンバータ101のリアクトルLのインダクタンスを示す。なお、リップル電流算出部181は、図5に示すように、リアクトル電流ILに応じてインダクタンスLを補正しても良い。TLoは、図1に示したコンバータ101を構成する2つのトランジスタの内、コレクタがリアクトルLに接続されたトランジスタがオン状態とされる時間である。
【0043】
デューティ補償部183には、リアクトル電流算出部179が算出したリアクトル電流IL及びリップル電流算出部181が算出したリップル電流Irが入力される。デューティ補償部183は、リアクトル電流ILの絶対値とリップル電流Irの絶対値の比較結果に応じて、FB制御部173が導出したデューティ(Duty_FB)によってFF制御部171が導出したデューティ(Duty_FF)を補正することによって得られたデューティuを補償するための補償項uを導出する。
【0044】
PWM制御部185は、補償前のデューティuをデューティ補償部183が導出した補償項uによって補償したデューティ(Duty)に基づいて、コンバータ101を構成するトランジスタのスイッチングをPWM制御する。
【0045】
過電流検知部187には、リアクトル電流算出部179が算出したリアクトル電流ILが入力される。過電流検知部187は、リアクトル電流ILに基づいて、過電流を検知する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のシステムによれば、コンバータ101におけるデッドタイムの影響を低減するためのデューティ補償や過電流検知等のために用いられるリアクトル電流ILが、電流センサの検出によってではなく演算によって導出される。したがって、当該システムにおける電流センサの数を減らすことができるため、当該システムに含まれる負荷駆動装置の小型化及びコスト低減を実現できる。また、デューティ補償や過電流検知等を従来と同様に行える。
【0047】
なお、図1に示したシステムでは、コンバータ101にとっての負荷が一組のインバータ103及び電動機121であるが、図6に示すように、複数の負荷が設けられたシステムであっても本発明を適用可能である。例えば2つの負荷が設けられた場合、制御部105には、図6に示すように、負荷の数と同数の2つのインバータ制御部105Iが設けられる。また、コンバータ制御部105Cには、図7及び図8に示すように、負荷の数と同数の2つの負荷電力演算部175が設けられる。
【0048】
(第2の実施形態)
図9及び図10は、第2の実施形態の負荷駆動装置が備える制御部205の内部構成の例を示すブロック図である。なお、図9及び図10において、図2及び図3と共通する構成要素には同じ参照符号が付されている。図9及び図10に示すように、第2の実施形態では、制御部205を構成するコンバータ制御部205Cが信号切替部271を備えた点が第1の実施形態とは異なる。
【0049】
信号切替部271には、コンバータ101に対する電圧指令値V2c及びコンバータ101の出力電圧V2の検出値が入力される。信号切替部271は、出力電圧V2の状態に応じて、電圧指令値V2c、出力電圧V2の検出値及び後述する出力電圧V2の補正値のいずれかを、負荷電流演算部177及びリアクトル電流算出部179に入力する。
【0050】
図11は、信号切替部271が行う動作を示すフローチャートである。図11に示すように、信号切替部271は、電圧指令値V2cと出力電圧V2の値の差分の絶対値(|V2c−V2|)と所定のしきい値V2shを比較する(ステップS101)。当該絶対値がしきい値V2sh未満のときは、電圧指令値V2cに対して誤差の小さな出力電圧V2が出力されているため、信号切替部271は、負荷電流演算部177及びリアクトル電流算出部179に電圧指令値V2cを入力する(ステップS103)。電圧指令値V2cと出力電圧V2を比較すると電圧指令値V2cの方がノイズは小さいため、ステップS103が行われた場合、負荷電流演算部177及びリアクトル電流算出部179は、ノイズの小さい値を算出できる。
【0051】
一方、前記絶対値がしきい値V2sh以上のときは、電圧指令値V2cに対する誤差が小さくない出力電圧V2が出力されている。このときはステップS105に進み、信号切替部271は、出力電圧V2の時間微分値(dV2/dt)と所定のしきい値dV2shを比較する。当該時間微分値がしきい値dV2sh未満のときは出力電圧V2の変動量が小さいため、信号切替部271は、負荷電流演算部177及びリアクトル電流算出部179に出力電圧V2の値を入力する(ステップS107)。
【0052】
一方、前記時間微分値がしきい値dV2sh以上のときは出力電圧V2の変動量が小さくない。このとき、信号切替部271は、出力電圧V2の補正値V2aを出力する(ステップS109)。なお、出力電圧V2の補正値V2kは、以下に示す式(8)によって表される。
【0053】
【数3】

【0054】
なお、上式(8)において、Kは、電圧補正係数を示すパラメータである。但し、負荷電流演算部177が行う演算で用いられる出力電圧V2以外のパラメータは、リアクトル電流算出部179が行う演算で用いられる出力電圧V2以外のパラメータと異なる。したがって、負荷電流演算部177に出力する補正値の算出に用いられる電圧補正係数Ka及びリアクトル電流算出部179に出力する補正値の算出に用いられる電圧補正係数Kbはそれぞれ異なる。
【0055】
電圧補正係数Kaは、出力電圧V2の取得タイミングと、負荷電力P2の導出に根本的に必要なu相電流Iu及びw相電流Iw、並びに、電動機121の回転子の電気角度θの取得タイミングとを合わせるための係数である。また、電圧補正係数Kbは、出力電圧V2の取得タイミングと、出力電圧V1の取得タイミングとを合わせるための係数である。図12は、出力電圧V2の取得タイミングと他のパラメータの取得タイミングの差分に対する電圧補正係数Ka,Kbの一例を示すグラフである。図12の横軸は、他のパラメータの取得タイミングに対する出力電圧V2の取得タイミングの時間差を示す。当該時間差の符号が正であれば、出力電圧V2の取得タイミングの方が遅いことを示す。
【0056】
このように、電圧指令値V2cに対する出力電圧V2の誤差が大きく、かつ、出力電圧V2の変動量が大きいときには、出力電圧V2の取得タイミングと、負荷電流演算部177及びリアクトル電流算出部179で用いられる出力電圧以外の各パラメータの取得タイミングとを合わせているため、実際に近いリアクトル電流Lを算出できる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態のシステムによれば、リアクトル電流ILの算出に必要とされる負荷電流I2の演算及びリアクトル電流ILの演算を行う際に用いられるパラメータの1つである出力電圧V2の状態に応じて、実際に近いリアクトル電流Lを算出できる。
【0058】
なお、本実施形態も、第1の実施形態と同様に、図6に示した複数の負荷が設けられたシステムに適用可能である。また、上記第1及び第2の実施形態では昇圧コンバータ101を例に説明したが、図13に示す昇降圧コンバータ201又は降圧コンバータであっても良い。
【符号の説明】
【0059】
121 回転型誘導性負荷(電動機)
123 直流電源
101 昇圧コンバータ
C 平滑コンデンサ
103 インバータ
105,205 制御部
107,109 電圧センサ
111u,111w 相電流センサ
113 レゾルバ
L リアクトル
105I インバータ制御部
105C,205C コンバータ制御部
151 角速度算出部
153 電流指令算出部
155 3相−dq変換部
157 電流FB制御部
159 dq−3相変換部
161 PWM制御部
171 FF制御部
173 FB制御部
175 負荷電力演算部
177 負荷電流演算部
179 リアクトル電流算出部
181 リップル電流算出部
183 デューティ補償部
185 PWM制御部
187 過電流検知部
271 信号切替部
201 昇降圧コンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直電電源の出力電圧を異なるレベルの直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータの出力電圧を交流電圧に変換して回転型誘導性負荷に印加するインバータと、
前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータ及び前記コンバータに関連するパラメータに基づいて、前記コンバータと前記インバータの間を流れる負荷電流を算出する負荷電流算出部と、
前記負荷電流及び前記コンバータに関連するパラメータに基づいて、前記コンバータに含まれるリアクトルを流れるリアクトル電流を算出するリアクトル電流算出部と、
を備えたことを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負荷駆動装置であって、
前記リアクトル電流算出部で用いられる前記コンバータに関連するパラメータは、前記コンバータの出力電圧値又は前記コンバータに対する出力電圧の指令値、及び前記直流電源の出力電圧値であることを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の負荷駆動装置であって、
前記コンバータの出力電圧の状態に応じて、前記コンバータの出力電圧値、前記コンバータに対する出力電圧の指令値、及び前記コンバータの出力電圧の補正値のいずれかを選択し、前記コンバータに関連するパラメータの1つとして前記負荷電流算出部及び前記リアクトル電流算出部に入力するパラメータ切替部を備えたことを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の負荷駆動装置であって、
前記パラメータ切替部は、
前記コンバータの出力電圧値と前記コンバータに対する出力電圧の指令値の差分が第1所定値未満のときは、前記コンバータに対する出力電圧の指令値を選択することを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の負荷駆動装置であって、
前記パラメータ切替部は、
前記コンバータの出力電圧値と前記コンバータに対する出力電圧の指令値の偏差が前記第1所定値以上であって、前記コンバータの出力電圧の時間微分値が第2所定値以上のときは、前記コンバータの出力電圧の補正値を選択することを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項6】
請求項3又は5に記載の負荷駆動装置であって、
前記コンバータの出力電圧の補正値は、前記コンバータの出力電圧値と、前記コンバータの出力電圧の時間微分値に電圧補正係数を乗算した値との和であることを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項7】
請求項6に記載の負荷駆動装置であって、
前記負荷電流算出部に入力する前記補正値の導出時に用いられる電圧補正係数と、前記リアクトル電流算出部に入力する前記補正値の導出時に用いられる電圧補正係数は異なることを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の負荷駆動装置であって、
前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータは、前記回転型誘導性負荷を駆動するためのd軸電流及びq軸電流、並びに、d軸電圧及びq軸電圧の各値であることを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の負荷駆動装置であって、
前記回転型誘導性負荷に関連するパラメータは、前記回転型誘導性負荷の回転子の角速度、及び前記回転型誘導性負荷に対するトルク指令値であることを特徴とする負荷駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−5297(P2012−5297A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139606(P2010−139606)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】