説明

赤外線センサの信号処理装置、赤外線センサ

【課題】赤外線センサのシステム全体を小型化にし、さらに、より高い精度の赤外線センサを提供する。
【解決手段】赤外線を感知するセンサ素子11と、センサ素子11によって赤外線が感知されたことによって出力される赤外線感知信号aを処理する信号処理装置101と、信号処理装置101で同じく処理されるセンサ素子11の抵抗値に応じて出力される温度測定信号bから温度を換算して赤外線感知信号aの温度補正をする補正演算部56と、を備える。切替部21の制御により、センサ素子11にゼロ電圧が与えられると、センサ素子11から赤外線感知信号が出力され、信号処理部41で増幅される。また、センサ素子11にバイアス電圧が与えられると、センサ素子11からセンサ素子11の抵抗値に応じた温度測定信号が出力され、信号処理部41で増幅される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外センサにおいて赤外線信号を処理する赤外線センサの信号処理装置、赤外線センサに係り、特に量子型のセンサ素子を含む赤外線センサの信号処理装置、赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、被測定対象物から放射される赤外線エネルギーを赤外線センサ素子(以降、単にセンサ素子と記す)で感知し、感知されたエネルギーの大きさに対応した電圧、あるいは電流を信号として出力するセンサである。センサ素子は、一般的に、被測定対象物から放射される赤外線エネルギーが変わらない場合であっても、センサ素子自身の温度が変わると、出力される信号の値が変化する。このようなセンサ素子の出力信号の温度特性は、被測定対象物の赤外線放射エネルギーが変化したと誤って判断されてしまい、赤外線センサの測定精度を低下させる一因となる。
【0003】
これを解決するために、センサ素子の近傍に温度測定用の部品を配置し、その部品の抵抗値を測定して温度に換算し、センサ素子の出力信号の温度特性を補正する赤外線センサがある。温度測定用部品には、サーミスタや白金抵抗等が用いられる。サーミスタや白金抵抗は、温度によってその抵抗値が大きく変化することから、温度測定に用いられる。こうした赤外線センサは、温度を測定し、センサ素子の出力信号の温度特性を補正するので、誤った判断が無くなり、赤外線センサの測定精度を向上させる。
【0004】
特許文献1に記載された赤外線センサでは、センサ素子の抵抗値が温度に対して大きく変化することを活かし、センサ素子自身が温度を測定する部品として利用されている。このような特許文献1に記載された赤外線センサでは、サーミスタや白金抵抗等の温度測定に用いられる専用部品が不要となり、システムの小型化ができ、赤外線センサのコストの低廉化ができる。また、温度測定部品を介さずに、センサ素子自身の温度を直接に測定することができるため、温度の読み取り誤差が小さくなり、精度良くセンサ素子の出力信号の温度特性を補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO/2007/125873号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1では、センサ素子から赤外線を感知した信号(以降、赤外線感知信号と記す)を増幅する信号処理装置(以降、赤外線信号増幅処理装置と記す)と、センサ素子の温度で変化するセンサ素子の抵抗値に応じた信号(以降、温度測定信号と記す)を増幅する信号処理装置(以降、抵抗信号増幅処理装置と記す)とが、別個に設けられている。赤外線信号増幅処理装置と抵抗信号増幅処理装置とは、切り替えられながら各々信号の増幅処理を行っている。
【0007】
このような特許文献1に記載された従来技術では、センサ素子が温度測定用部品を兼ねてシステムの小型化に寄与するものの、赤外線信号増幅処理装置、抵抗信号増幅処理装置の規模が大きいままである。このため、特許文献1に記載されている従来技術は、赤外線センサのいっそうの小型化について、課題を残すものであった。
なお、本明細書では、上記した赤外線信号増幅処理装置、抵抗信号増幅処理装置を一括して信号処理装置と記すものとする。
【0008】
また、特許文献1に記載されている従来技術では、信号処理がそれぞれの装置で独立に行われるため、それぞれの処理に独立の誤差が生じる。生じた誤差を残したままでセンサ素子の赤外線感知信号の温度特性を補正することは、赤外線センサの精度を損なう一因になる。
さらに、特許文献1に記載された従来技術では、赤外線感知信号が、センサ素子の端子間に生じる電圧値を示している。この電圧は、赤外線感知によって生じる電流が、センサ素子自身の抵抗に流れて生じるもので、この電流と抵抗の積から成るものである。このように、赤外線感知信号に不要な抵抗成分が含まれるため、センサ素子の抵抗値のばらつきや抵抗の温度特性等が赤外線感知信号に影響し、赤外線センサの精度を低下させることになる。
【0009】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、センサ素子と信号処理装置と補正演算部からなる赤外線センサのシステム全体を小型化にし、さらに、より高い精度で赤外線を感知することができる赤外線センサの信号処理装置、赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の赤外線センサの信号処理装置は、赤外線センサ素子の一方の端子に接続され、該一方の端子に印加する電圧を切り替える切替部と、前記赤外線センサ素子の他方の端子に接続され、該他方の端子から出力される信号を増幅する増幅部と、を有し、前記増幅部が、前記赤外線センサ素子の一方の端子にゼロ電圧を与えて、赤外線を感知することにより前記赤外線センサ素子から出力される第一の信号と、前記赤外線センサ素子の一方の端子にバイアス電圧を与えて、前記赤外線センサ素子の抵抗値に応じた第二の信号のいずれか一方と、を、前記切替部で選択して増幅することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に記載の赤外線センサの信号処理装置は、請求項1において、前記センサ素子が、量子型のセンサ素子であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の赤外線センサの信号処理装置は、請求項1または請求項2において、非反転入力端子に基準電圧が与えられ、出力端子と反転入力端子との間に抵抗が接続された演算増幅器と、前記基準電圧と、前記基準電圧にバイアス電圧が付加された電圧と切替可能な切替部と、を有し、前記赤外線センサ素子の一方の端子が、前記切替部に接続され、前記赤外線センサ素子の他方の端子が、前記演算増幅器の反転入力端子に接続されることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に記載の赤外線センサは、赤外線センサ素子と、前記請求項1から3のいずれか1項に記載の赤外線センサの信号処理装置と、前記第一の信号の増幅値および前記第二の信号の増幅値および前記赤外線センサ素子の内部の抵抗の温度特性値に基づいて、前記赤外線センサ素子の温度特性を補正する補正演算部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の赤外線センサの信号処理装置は、赤外線センサ素子の一方の端子に接続され、その一方の端子に印加する電圧を切り替える切替部と、前記赤外線センサ素子の他方の端子に接続され、その他方の端子から出力される信号を増幅する増幅部を有する。切替部の制御により、センサ素子にゼロ電圧が与えられると、センサ素子から赤外線を感知した第一の信号、即ち、赤外線感知信号が出力され、増幅部で増幅される。また、センサ素子にバイアス電圧が与えられると、センサ素子からセンサ素子の抵抗値に応じた第二の信号、即ち、温度測定信号が出力され、増幅部で増幅される。このように、センサ素子単独で、赤外線感知と温度測定の信号が得られるので、専用温測部品が不要となり、部品点数の増加を効果的に抑えることができる。また、信号処理装置は、入力される信号として、赤外線感知信号、温度測定信号のいずれか一方を選択する切替部を備えている。このため、赤外線感知信号、温度測定信号の両方を交互に信号処理装置に入力させることができる。また、信号処理装置の増幅部が、赤外線感知信号、温度測定信号の両方を増幅することから、唯一の信号処理装置を使って赤外線感知信号、温度測定信号の両方を処理することができる。このため、センサ素子と信号処理装置と演算増幅部からなる赤外線センサのシステム全体を小型化にすることができる。さらに、赤外線感知信号、温度測定信号の演算誤差が同一の要素に起因するものとなり、同一の誤差要因を除去することによって演算誤差を修正することができるので、効率的に誤差要因を排除することができ、かつ高い精度の赤外線センサを提供することができる。
【0014】
本発明の請求項2に記載の赤外線センサの信号処理装置は、センサ素子に量子型のセンサ素子を用いることができる。量子型センサ素子の抵抗値は温度に対して大きく変化するので、温度測定として利用できる。専用温測部品が不要となり、部品点数の増加を効果的に抑えることができる。また、温度測定部品を介さずに、センサ素子自身の温度を直接に測定することができるため、温度の読み取り誤差が小さくなり、精度良くセンサ素子の赤外線感知信号の温度特性を補正することができる。
【0015】
本発明の請求項3に記載の赤外線センサの信号処理装置は、非反転入力端子に基準電圧が与えられ、出力端子と反転入力端子との間に抵抗が接続された演算増幅器を備え、赤外線センサ素子の他方の端子がこの演算増幅器の反転入力端子に接続されている。この接続により、センサ素子から流れ来る電流を電圧に変換する電流−電圧変換器を構成することができる。また、センサ素子の一方の端子に、切替部により前記基準電圧が接続されたとき、センサ素子にはゼロ電圧が与えられ、センサ素子から赤外線に感知した電流のみが取り出せる。この赤外線感知信号は、電流以外の不要な成分を含まないため、赤外線センサの精度を向上させる。また、前記赤外線センサ素子の一方の端子に、切替部により前記基準電圧にバイアス電圧が付加された電圧が接続されたとき、センサ素子にはバイアス電圧が与えられ、センサ素子からバイアス電圧値をセンサ素子の抵抗値で割った電流が取り出せる。センサ素子の抵抗値が温度によって変化することから、この信号は温度で変化し、温度測定信号として利用できる。赤外線感知信号、温度測定信号ともに電流であるので、同一の電流−電圧変換器で信号増幅することができる。このため、センサ素子と信号処理装置と演算増幅部からなる赤外線センサのシステム全体を小型化にすることができる。さらに、赤外線感知信号、温度測定信号の信号処理上の誤差が同一の要因によって生じることになるので、一つの誤差要因を排除することで、赤外線感知信号、温度測定信号の信号処理上の誤差を同時に排除することができる。これより、効率的に誤差要因を排除することができ、高い精度の赤外線センサを提供することができる。
本発明の請求項4に記載の赤外線センサは、センサ素子の赤外線感知信号、温度測定信号の入力、増幅から、温度に基づく赤外線感知信号の補正までを一括して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1の赤外線センサを説明するための回路図である。
【図2】本発明の実施形態1のセンサ素子の抵抗の温度特性を例示した図である。
【図3】本発明の実施形態2の赤外線センサを説明するための回路図である。
【図4】本発明の実施形態1の従来技術に相当する回路を示した図である。
【図5】本発明の実施形態2の従来技術に相当する回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照して本発明に係る赤外線センサの信号処理装置、赤外線センサの実施形態1、実施形態2を説明する。
実施形態1
(赤外線センサ)
図1は、本発明の実施形態1の赤外線センサを説明するための回路図である。図示した赤外線センサは、量子型のセンサ素子11と、センサ素子11によって感知された赤外線に応じて出力される信号(以降、赤外線感知信号aと記す)を処理する信号処理装置101と、信号処理装置101で同じく処理されるセンサ素子11の抵抗値に応じて出力される信号(以降、温度測定信号b)から温度を換算して赤外線感知信号aの温度特性を補正する補正演算部56と、を備えている。
【0018】
(赤外線センサ素子)
量子型のセンサ素子は、光エネルギーによって起こる電気現象を検知することによって赤外線を感知するセンサ素子である。量子型センサ素子としては、例えば、フォトダイオード等がある。センサ素子11にゼロ電圧が与えられると、センサ素子11から赤外線感知に応じた電流のみが生じて、赤外線感知信号aが得られる。
【0019】
また、センサ素子11は所定の内部抵抗値を有し、その抵抗値の温度変化が大きいものとする。ここで、図2に、量子型のセンサ素子11の抵抗値が温度によって変化する特性を例示する。図2に示したグラフの横軸は、センサ素子自身の温度である。縦軸は、センサ素子11の抵抗値を示している。図2から明らかなように、量子型のセンサ素子11の抵抗値は、温度に対して指数関数的に大きく変化する。このため、センサ素子11は、温度を計測する素子としても適している。センサ素子11に所定の電圧が印加されると、センサ素子11からセンサ素子11の抵抗値に応じた信号が得られる。この信号は、所定の電圧値をセンサの抵抗値で割った電流として取り出せる。所定の電圧を一定にすれば、センサ素子11の抵抗値が温度によって変化することから、この信号は温度で変化し、温度測定信号bとして利用できる。
【0020】
このような実施形態1によれば、温度を測定する専用の部品を設ける必要がなく、赤外線センサの部品点数を低減すると共に、コストの低廉化を図ることができる。また、温度測定部品を介さずに、センサ素子自身の温度を直接に測定することができるため、温度の読み取り誤差が小さくなり、精度良くセンサ素子の赤外線感知信号の温度特性を補正することができる。
【0021】
(信号処理装置)
信号処理装置101は、赤外線感知信号a及び温度測定信号bに共通に設けられ、これら信号のうち、いずれか一方を選択して入力する切替部21、切替部21によって選択された信号に、増幅を含む処理を実行する信号処理部41を備えている。信号処理部41は、切替部21によって赤外線感知信号aが選択された場合、入力された赤外線感知信号aに増幅を含む処理を実行する。また、信号処理部41は、切替部21によって温度測定信号bが選択された場合には、温度測定信号bに対しても、増幅を含む処理を実行する。
【0022】
また、信号処理装置101は、信号処理部41によって増幅を含む処理がされ、出力されたアナログ信号cをデジタル信号に変換するA/Dコンバータ51を備えている。A/Dコンバータ51から出力されたデジタル信号は、補正演算部56によって補正処理された後、出力端子61から外部に出力される。
実施形態1が従来と異なるのは、赤外線感知信号a、温度測定信号bが、切替部21で切り替えられながら共通の信号処理部41に入力される点である。このような実施形態1によれば、センサ素子11から出力される赤外線感知信号a、温度測定信号bを1つの信号処理部41によって処理することができるので、センサ素子11と信号処理装置101とを含めた赤外線センサのシステム全体をより小型化することができる。また、部品点数を低減したことにより、赤外線センサのコストをより効果的に低減することができる。
【0023】
また、赤外線感知信号a、温度測定信号bを同一の信号処理部41によって処理するため、赤外線感知信号a、温度測定信号bの信号処理上の誤差が同一の要因によって生じることになる。このため、一つの誤差要因を排除することにより、赤外線感知信号aに対する処理、温度測定信号bに対する処理上で生じる誤差を同時に排除することができる。このことにより、実施形態1は、効率的に誤差要因を排除することができ、かつ高い精度の赤外線センサを提供することができる。
【0024】
(補正演算部)
A/Dコンバータ51は、信号処理部41によって処理された赤外線感知信号aと、温度測定信号bとを交互にデジタル信号に変換する。デジタル変換された信号は、補正演算部56に出力される。補正演算部56により、温度測定信号bから温度が読み取られ、赤外線感知信号aが補正される。補正された赤外線感知信号は、出力端子61から外部に出力される。
【0025】
なお、補正演算部56における補正は、例えば、次のように行われる。補正演算部56には、赤外線感知信号aと温度測定信号bとが交互に入力される。そして、赤外線感知信号aの直前、または直後に入力された温度測定信号bより温度を求めて、入力された赤外線感知信号aに対して温度補正を施し、被測定対象物の正確な赤外線放射エネルギーを求める。
【0026】
このような補正をするため、補正演算部56には記憶装置をもっていて、基準となるべくセンサ素子の温度が室温のときの被測定対象物の赤外線放射エネルギーに対する赤外線感知信号aが記憶されている。また、センサ素子の温度と温度測定信号bの関係を示す温度データも記憶されており、これによりセンサ素子の温度が算出される。さらに、センサ素子の温度が変化しても、基準となる赤外線感知信号aが出力されるように温度補正データも記憶されており、この温度補正データを使って入力された赤外線感知信号aに対して温度補正がなされる。
【0027】
実施形態2
図3は、本発明の実施形態2の赤外線センサを説明するための回路図である。図3に示した構成のうち、図1に示した構成と同様の構成については同様の符号を付し、説明を一部略すものとする。
図示した赤外線センサは、センサ素子12と、センサ素子12によって出力された信号を処理する信号処理装置102と、補正演算部56を備えている。実施形態2のセンサ素子12は、赤外線を感知する量子型のセンサ素子である。なお、実施形態2においても、センサ素子12自身の抵抗値を使ってセンサ素子12の温度を測定するものとする。
【0028】
以下、実施形態2を、信号処理装置を中心に説明する。
信号処理装置102は、初段演算増幅器71、2段目演算増幅器72を備えている。初段演算増幅器71、2段目演算増幅器72は、いずれも反転入力端子、非反転入力端子を有している。初段演算増幅器71の非反転入力端子71aには、基準電圧VREFが与えられている。初段演算増幅器71の出力端子71cと反転入力端子71bとの間には抵抗値R2の抵抗素子201が接続されている。
【0029】
また、信号処理装置102は、切替部22、切替制御部91を備えている。切替部22は、切替制御部91によって制御され、端子A、端子Bのいずれか一方にセンサ素子12が接続される。切替制御部91は、切替部22を交互に切り替えるよう制御している。さらに、信号処理装置102は、A/Dコンバータ51を備えている。
初段演算増幅器71、2段目演算増幅器72が同一基板上に形成されるものであれば、両者のプロセスに起因する特性に生じるばらつきは同様のものになる。したがって、実施形態2のように、2つの演算増幅器によって増幅器を構成しても、共通の要素を除去することによって赤外線感知信号a、温度測定信号bの演算誤差を除去することができる。
【0030】
センサ素子12の出力端子12bは、初段演算増幅器71の反転入力端子71bに接続されている。この接続により、初段演算増幅器71は、センサ素子から流れ来る電流を電圧に変換する電流−電圧変換器を構成することができる。また、センサ素子12の入力端子12aは、切替部22に接続されている。切替部22には端子A、端子Bが設けられていて、センサ素子12の入力端子12aは、切替制御部91によって端子A、端子Bのいずれかに接続される。切替制御部91によって切替部22の端子Aが選択された場合、センサ素子12には基準電圧VREFに接続される。また、切替部22の端子Bが選択されたとき、センサ素子12は、基準電圧VREFにバイアス電圧VBIASが加えられた電圧に接続される。
【0031】
2段目演算増幅器72は、反転増幅器を構成する。2段目演算増幅器72の非反転入力端子72aには基準電圧VREFが与えられていて、2段目演算増幅器72の出力端子72cと反転入力端子72bの間には抵抗値がR4の抵抗素子203が接続されている。2段目演算増幅器72の反転入力端子72bには、抵抗値が変更可能な抵抗素子202が接続されている。可変抵抗素子202の抵抗値は、切替制御部91によって切替部22の端子Aが選択されたときはR3Aとなり、端子Bが選択されたときはR3Bとなる。
【0032】
切替部22の端子Aが選択されたとき、センサ素子12の端子12aが基準電圧VREFに接続され、センサ素子12にはゼロ電圧が与えられる。このとき、センサ素子12の端子12bからは、センサ素子12が赤外線を感知したことによって生じた電流Ioだけが取り出される。2段目演算増幅器72の出力VOUTAは、センサ素子12によって感知された赤外線に応じて出力される赤外線感知信号aを増幅したものになる。出力VOUTAは、以下の式(1)のように表される。
VOUTA=Io・R2・R4/R3A …式(1)
【0033】
切替部22の端子Bが選択されたとき、センサ素子12の端子12aに、基準電圧VREFにバイアス電圧VBIASが加えられた電圧が印加される。センサ素子12にはバイアス電圧VBIASが与えられる。このとき、センサ素子12bからは、バイアス電圧値をセンサ素子の抵抗値Rsで割った電流が取り出される。バイアス電圧VBIASは、センサ素子が発熱しない程度に与えるのが好ましい。2段目演算増幅器72の出力VOUTBは、センサ素子12の抵抗値に応じて出力される温度測定信号bを増幅したものになる。出力VOUTBは、以下の式(2)のように表される。
VOUTB=VBIAS・(R4/R3B)・(R2/Rs) …式(2)
【0034】
A/Dコンバータ51には、式(1)に示した赤外線感知信号a、式(2)に示した温度測定信号bが交互に入力される。A/Dコンバータ51は、赤外線感知信号a、温度測定信号bを交互にデジタル信号に変換する。出力端子62からは、赤外線感知信号a、温度測定信号bがデジタル信号として取り出される。実施形態2の赤外線センサでは、センサ素子12の抵抗値の温度特性によって出力VOUTBが決まるので、出力VOUTBから温度を換算して、赤外線感知信号aが温度補正される。
【0035】
以上述べた実施形態2では、センサ素子12を使って赤外線感知と温度測定の信号が得られるので、温度を測定する専用の部品を設ける必要がなく、赤外線センサの部品点数低減及びコストの低廉化に寄与することができる。また、赤外線感知信号a、温度測定信号bを同一の信号処理装置102で切り替えながら処理することができる。このため、センサ素子と信号処理装置と補正演算部からなる赤外線センサのシステム全体を小型化することができる。
【0036】
また、実施形態2では、赤外線感知信号a、温度測定信号bを同一の信号処理装置102で処理するので、赤外線感知信号a、温度測定信号bのそれぞれに同一の誤差が生じる。このため、一つの誤差要因を排除すれば、それぞれの信号に生じる誤差が排除できる。これにより、効率的に誤差要因を排除することができ、かつ高い精度の赤外線センサを提供することができる。
さらに、実施形態2では、赤外線の感知によって生じる電流Ioだけが信号として取り出せるので、赤外線感知信号に不要な成分による誤差が含まれず、赤外線センサの精度を向上させることができる。
【0037】
(変形例)
また、実施形態2では、2段目演算増幅器72が反転増幅器を構成する例を示したが、実施形態2はこのような構成に限定されるものではなく、非反転増幅器を構成するものであってもよい。また、実施形態2では、抵抗素子202において抵抗値をR3AとR3Bとに切り替える例を示している。しかし、実施形態2はこのような構成に限定されるものでなく、初段演算増幅器71の出力が、赤外線感知信号a、温度測定信号bに大きな差がなければ、切り替えの必要はなく、一定の抵抗値R3を持つ抵抗素子を用いても良い。
【0038】
さらに、実施形態2では、抵抗素子202の抵抗値を切り替えているが、赤外線感知信号a、温度測定信号bのそれぞれに適当な増幅率が与えられれば良いので、抵抗値の切替は抵抗素子201、抵抗素子203で行っても良い。
また、センサ素子12が信号処理装置102に接続する向きは、実施形態2とは逆であっても良い。
また、実施形態1、実施形態2では、赤外線感知信号a、温度測定信号bについてはA/Dコンバータ51でデジタル信号に変換しているが、これに限定されるものでなく、デジタル信号に変換せずにアナログ信号のまま温度補正を行っても良い。
以上のように、実施形態1、実施形態2は、さらに種々の形態で実現できることは明らかであり、上述した実施の形態に制約されるものではない。
【0039】
(従来技術との対比)
図4は、従来の赤外線センサの概略図であって、上記した実施形態1と比較するための構成を示している。なお、図4に示した構成のうち、図1に示した赤外線センサと同様の構成については同様の符号を付して示し、説明の一部を略す。
図4に示した赤外線センサにあっても、センサ素子11は赤外線感知信号aと共に温度測定信号bを出力している。切替部21は、赤外線感知信号aを信号処理部41に、温度測定信号bを信号処理部42に、交互に入力する。従来技術であっても、センサ素子11が温度の測定を兼用するので小型化できるが、信号処理部41、42を備えるため、システム全体の小型化には改善の余地がある。
【0040】
また、センサ素子11から出力される赤外線感知信号a、温度測定信号bは、別々の信号処理部41、42で処理される。このため、従来の赤外線センサでは、赤外線感知信号a、温度測定信号bのそれぞれ無相関な誤差が生じてしまう。このような誤差には、例えば、別々の信号処理部41、42における信号処理の増幅率のばらつき、増幅率の温度特性、増幅器のオフセットばらつき、オフセットの温度特性等の誤差である。
このような誤差を残したままで、センサ素子11の温度特性を補正すると、赤外線センサの精度を損なう一因になる。
【0041】
一方、図5は、従来の赤外線センサの概略図であって、上記した実施形態2と比較するための構成を示している。なお、図5に示した構成のうち、図2に示した赤外線センサと同様の構成については同様の符号を付して示し、説明の一部を略す。
センサ素子12は量子型のセンサ素子であって、入力端子が基準電圧VREFに固定されている。センサ素子12の出力端子は、切替部22に接続されている。切替部22は、赤外線感知信号aを電圧計46に、センサ素子12の抵抗値に相当する、温度測定信号bを、計測部47に入力するように、交互に接続を切り替えている。ここでいう赤外線感知信号aは、赤外線感知によって生じる電流が、センサ素子自身の抵抗に流れて生じるもので、この電流と抵抗の積から成る電圧である。このように、赤外線感知信号aは不要な抵抗成分が含まれるため、センサ素子の抵抗値のばらつきや抵抗の温度特性等が赤外線感知信号に影響し、赤外線センサの精度を低下させることになる。
【0042】
図4、図5に示した構成に比べ、実施形態1、実施形態2は、センサ素子から出力される赤外線感知信号、温度測定信号を1つの信号処理部によって処理することができるので、センサ素子と信号処理装置と補正演算部からなる赤外線センサのシステム全体をより小型化することができる。また、部品点数を低減したことにより、赤外線センサのコストをより効果的に低減することができるという利点がある。
【0043】
また、実施形態1、実施形態2は、赤外線感知信号、温度測定信号を同一の信号処理部によって処理するため、赤外線感知信号、温度測定信号の信号処理上の誤差が同一の要因によって生じることになる。このため、一つの誤差要因を排除することにより、赤外線感知信号に対する処理、温度測定信号に対する処理上で生じる誤差を同時に排除することができる。即ち、効率的に誤差要因を排除することができ、かつ高い精度の赤外線センサを提供することができるという利点がある。
さらに、実施形態1、実施形態2は、赤外線の感知によって生じる電流だけが信号として取り出せるので、赤外線感知信号に不要な成分による誤差が含まれず、赤外線センサの精度を向上させることができる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、センサ素子と信号処理装置と補正演算部からなる赤外線センサのシステム全体の小型化と、センサ素子の赤外線感知信号の温度特性を補正し、高い精度の赤外線センサの応用分野において利用できる。
【符号の説明】
【0045】
11、12 センサ素子
21、22 切替部
41、42 信号処理部
51 A/Dコンバータ
56 補正演算部
71 初段演算増幅器
72 2段目演算増幅器
91 切替制御部
101、102 信号処理装置
201、202 抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサ素子の一方の端子に接続され、該一方の端子に印加する電圧を切り替える切替部と、
前記赤外線センサ素子の他方の端子に接続され、該他方の端子から出力される信号を増幅する増幅部と、
を有し、
前記増幅部が、
前記赤外線センサ素子の一方の端子にゼロ電圧を与えて、赤外線を感知することにより前記赤外線センサ素子から出力される第一の信号と、
前記赤外線センサ素子の一方の端子にバイアス電圧を与えて、前記赤外線センサ素子の抵抗値に応じた第二の信号のいずれか一方と、を、
前記切替部で選択して増幅することを特徴とする赤外線センサの信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサの信号処理装置であって、
前記赤外線センサ素子が、量子型赤外線センサ素子であることを特徴とする赤外線センサの信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の赤外線センサの信号処理装置であって、
非反転入力端子に基準電圧が与えられ、出力端子と反転入力端子との間に抵抗が接続された演算増幅器と、
前記基準電圧と、前記基準電圧にバイアス電圧が付加された電圧とを切替可能な切替部と、
を有し、
前記赤外線センサ素子の一方の端子が、前記切替部に接続され、
前記赤外線センサ素子の他方の端子が、前記演算増幅器の反転入力端子に接続されることを特徴とする赤外線センサの信号処理装置。
【請求項4】
赤外線センサ素子と、
前記請求項1から3のいずれかに記載の信号処理装置と、
前記第一の信号の増幅値および前記第二の信号の増幅値および前記赤外線センサ素子の内部の抵抗の温度特性値に基づいて、前記赤外線センサ素子の温度特性を補正する補正演算部と、
を備えることを特徴とする赤外線センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−119398(P2011−119398A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274624(P2009−274624)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】