赤外線センサ素子
【課題】
支持脚によって支えられた赤外線吸収膜を持つ赤外線センサ素子の赤外線吸収膜を薄膜化した際に、赤外線吸収膜の支持脚間に発生するクラックを防止することを目的とする。
【解決手段】
少なくとも二以上の支持脚のある赤外線吸収膜において、支持脚間にスリットを設けることで、犠牲層除去工程で赤外線吸収膜の支持脚間に発生する応力は緩和されクラックの発生は抑制されるため、赤外線吸収膜を薄膜化することが可能となり、より高感度の赤外線センサ素子を提供することができる。
支持脚によって支えられた赤外線吸収膜を持つ赤外線センサ素子の赤外線吸収膜を薄膜化した際に、赤外線吸収膜の支持脚間に発生するクラックを防止することを目的とする。
【解決手段】
少なくとも二以上の支持脚のある赤外線吸収膜において、支持脚間にスリットを設けることで、犠牲層除去工程で赤外線吸収膜の支持脚間に発生する応力は緩和されクラックの発生は抑制されるため、赤外線吸収膜を薄膜化することが可能となり、より高感度の赤外線センサ素子を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収膜のクラック耐性を向上させた熱型赤外線センサ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、例えば、物体や人物から放出される微弱な赤外線を検出するのに用いられ、監視用又は車載用など様々な分野において利用されている。赤外線センサには様々な赤外線の検出方式があるが、よく利用されている主流の方式として量子型赤外線センサと熱型赤外線センサがある。量子型赤外線センサは、固体材料の光電効果を利用し、吸収した赤外線を直接電気信号に変換して検出する。また、熱型赤外線センサは、受光した赤外線を一度熱に変換し、温度による物性の変化が大きい材料を用いて、前述の変換した熱による温度変化を検出する。このような赤外線センサは、現在では、半導体基板を用いた半導体チップとして実現されている。半導体基板を用いて構成された赤外線センサは、以下において“赤外線センサ素子”と称する。
【0003】
前述の熱型赤外線センサの構造としては、特許文献1のような、熱検出構造部上に所定の底面積を有する支持脚で赤外線吸収膜を支える構造や、赤外線吸収膜の一部を凸状にして形成した支持脚が複数形成された構造が開示されている。
【0004】
ここで、熱型赤外線センサの性能を表すための指標の1つとして応答速度がある。応答速度とは、赤外線吸収膜で吸収した赤外線が熱検出構造部に伝わるまでの時間の概念を示す。前述のように熱型赤外線センサは、赤外線の量を熱に変換して検出していることから、反応速度を速くするためには熱検出構造部においての応答速度を高速化すればよい。そのためには、赤外線吸収膜を含めた熱検出構造部の熱容量を小さくすることが好ましい。特許文献2では、熱型赤外線センサにおいて、熱時定数を小さくし、反応速度を速くするために、赤外線吸収膜の厚さを薄くすることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−156277号公報
【特許文献2】特開2006−170937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外線吸収膜の熱容量を小さくするために、特許文献1に開示される構造の赤外線センサに対しても特許文献2のように赤外線吸収膜を薄膜化することが考えられる。特許文献1の実施の形態3のように赤外線吸収膜に支持脚が複数本形成された赤外線センサ素子を利用し、赤外線吸収膜を薄膜化した場合、次のような問題が起こりうる。
【0006】
図20は、赤外線吸収膜に支持脚が2本形成された従来技術による赤外線センサ素子の平面図である。図20の赤外線センサ素子では、1画素ごとに分離された赤外線吸収膜2の赤外線吸収部3には支持脚4が2箇所に形成されており、支持脚4の外側(赤外線吸収膜の外周領域)にガス注入用の開口5が設けられている。
【0007】
特許文献1における犠牲層除去工程においてレジストからなる犠牲層を除去した際に、犠牲層と赤外線吸収膜の熱膨張係数の差に起因した応力が赤外線吸収膜に発生するため、赤外線吸収膜は変形する。赤外線吸収膜は1画素ごとに分離されているため、赤外線吸収膜の外周領域は応力による変形が可能となり、外周領域が変形することで、赤外線吸収膜の外周領域に発生した応力は緩和される。一方、赤外線吸収膜の支持脚4に挟まれた領域(以下、支持脚間領域という)は支持脚4によって赤外線吸収膜の伸縮が固定されているため、赤外線吸収膜の外周領域に比べて赤外線吸収膜が変形しにくい。よって、支持脚間領域に発生した応力は緩和されず、支持脚間に応力が集中し、図20に示されたような支持脚4の間においてクラックが発生してしまう。クラックが発生した状態で赤外線センサ素子を使用すると、使用による振動等によって支持脚間のクラックが赤外線吸収膜の外周部へと広がり、そのクラックに沿って赤外線吸収膜が分断されてしまう恐れがある。そのため、2本以上の支持脚が形成された赤外線吸収膜の薄膜化は困難となる。性能を上げるために赤外線吸収膜を薄膜化し、赤外線吸収膜の熱容量を小さくした赤外線センサ素子は信頼性を保つことができなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、熱検出構造部の熱容量を小さく保ったまま、赤外線吸収膜におけるクラックの発生を抑制できる構造を備えた高感度の赤外線センサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本願発明の赤外線センサ素子は、凹部を有する半導体基板と、前記半導体基板の外縁近傍にて該半導体基板と接続され、外縁近傍から前記凹部の上方に延在して配置された梁部と、前記梁部に接続されて前記凹部の上部に保持された熱検知部と、前記凹部、前記梁部及び前記熱検知部を覆い、かつ、少なくとも二以上の支持脚を介して前記熱検知部に接続される赤外線吸収部と、を備え、前記赤外線吸収部の前記支持脚間領域にスリットが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の赤外線センサ素子の構造及び製造方法によれば、赤外線吸収膜の支持脚間にスリットを設けることによってクラックの発生を抑える構造となり、赤外線センサ素子の信頼性を向上させることができる。また、クラックの発生が抑えられた構造とすることで赤外線吸収膜を薄膜化することが可能となり、熱検出構造部の熱容量を小さくすることができる。そのため、反応速度の速い高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の断面図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す平面図である。
【図7】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図8】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図9】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図10】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図11】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図12】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図13】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図14】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す平面図である。
【図15】本発明の第1実施例の一変形例に係る赤外線センサ素子を示す平面図である。
【図16】本発明の第1実施例の他の変形例に係る赤外線センサ素子を示す平面図である。
【図17】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の断面図である。
【図18】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図19】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図20】従来技術による赤外線センサ素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1乃至図3を参照しつつ、本発明の赤外線センサ素子の構造について詳細に説明する。
【0014】
図1は赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造を示す断面図である。赤外線センサ素子では、凹部を有するシリコン基板1と、シリコン基板1内に埋め込まれたエッチングストッパ壁13と、シリコン基板1の上に配置された埋め込み酸化膜14によって囲まれた空間を空隙12とする。埋め込み酸化膜14の上には熱検出構造部9が設けられており、熱検出構造部9は梁部8と熱検知部7から構成され、梁部8は埋め込み酸化膜14に配線10及び絶縁膜11が積層されている。エッチングストッパ壁13の上部周辺に設けられた埋め込み酸化膜14の上には絶縁膜11が形成されており、絶縁膜11の上面に設けられた周辺回路配線16と絶縁膜11の下部に位置する埋め込み酸化膜14を電気的に接続するために、絶縁膜11を貫通して埋め込み金属15が形成されている。熱検知部7の上には絶縁膜11が設けられており、絶縁膜11に接して赤外線吸収膜2の支持脚4が配置されている。赤外線吸収膜2は赤外線吸収部3と支持脚4から構成される一枚の吸収膜であり、複数の支持脚4は凹部状とすることで赤外線吸収部3を支持する構造となっている。また、赤外線吸収部3にはガス流入用開口5及びスリット6が形成されている。
【0015】
図2は赤外線センサ素子を上から見たときの平面図であり、図2中のA−A´線断面図が図1である。赤外線吸収部3には2つのガス流入用開口5と1つのスリット6が設けられている。このガス流入用開口5は支持脚4が配置されている位置よりも赤外線吸収部3の端部方向である外周領域に設けられており、後述する製造工程において埋め込み酸化膜14の下部にエッチングガスを流入する際のガス流入口として用いられる。スリット6は、赤外線吸収部3を支持するために凹部状に形成されている2つの支持脚4の間に挟まれた領域に設けられている。スリット6の形状は、矩形又は円形でもよく、それらのスリットが複数並んだレイアウトにしてもよい。なお、図2におけるスリット6の形状は矩形状(長方形状)のものを例として示している。
【0016】
図3(a)は図1中の赤外線吸収膜2、絶縁膜11、埋め込み金属15及び周辺回路配線16を省略し、熱検知部7、梁部8の配線10、及びエッチングストッパ壁13の配置を示す平面図であり、図3(a)中のB−B´線断面図が図1である。
【0017】
図3(a)では、エッチングストッパ壁13によって囲まれた領域内部において、配線10が熱検知部7と接続されて折れ曲がった形状であるクランク状に形成される。配線10のエッチングストッパ壁側の端部には、埋め込み金属形成領域26があり、上層の埋め込み金属15(図1参照)に接続されている。埋め込み金属15は、絶縁膜11に形成される貫通孔内に充填されて、絶縁膜11上に設けられる周辺回路との接続用の周辺回路配線16に接続される。外部回路を周辺回路配線16に接続することで、周辺回路から熱検知部7までは埋め込み金属15及び配線10を経由して電気的に接続される。
【0018】
また、図3(a)では配線10に接続された熱検知部7が詳細に示されている。熱検知部7はダイオード23及び接続電極24からなり、ダイオード23は高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22からなる。本実施例においては、2つのダイオード23は接続電極24を介して直列に接続されており、2つのダイオード23及び接続電極24によって矩形状の熱検知部7が構成される。また、熱検知部7は上述したような2つのダイオード23及び接続電極24からなる構造に限られず、図3(b)に示すように1つのダイオードで構成してもよく、図3(c)に示すように3つ以上のダイオードから構成してもよい。
【0019】
次に、赤外線センサ素子の動作及び各部分の機能について説明する。
【0020】
外部から入射される赤外線は赤外線吸収部3の上面から吸収する。赤外線吸収部3により吸収された赤外線は、赤外線吸収膜2の内部において熱に変換される。その変換された熱は支持脚4に伝わり、第1シリコン酸化膜11を介して、温度を検知する為の熱検知部7に伝わる。熱検知部7で検出した電気信号は、梁部8の配線10及び埋め込み金属15を介して、周辺回路配線16に伝送され、外部回路まで伝送できる。
【0021】
赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3と支持脚4から構成される。赤外線吸収部3は、外部から入射される赤外線をより多く吸収する為に表面積が広くなっており、同一構成の膜から形成されている支持脚4は、その赤外線吸収部3を支える構造となっている。なお、支持脚4は、二本以上形成する方が一本に比べて赤外線吸収部3を安定して支えることが可能となる。赤外線吸収膜2の内部で赤外線から変換された熱を、熱検知部7へ効率よく伝えるためには、支持脚4の長さは短い方が好ましい。また、赤外線吸収膜2は、絶縁膜とかかる絶縁膜上に形成される金属膜とから構成される積層構造である。
【0022】
熱検知部7は、第1シリコン酸化膜11を介して支持脚4から伝えられる熱を検知しており、ダイオード23及び接続電極24によって構成されている。熱検知部7の性能を上げるには、ダイオードの数を増やせばよく、特に直列に接続するのが好ましい。
【0023】
梁部8は、熱検知部7で検知した熱の温度を電気信号として外部回路へ伝送する経路であり、埋め込み酸化膜14上に配線10を形成した構成となっている。赤外線センサ素子を高感度化するためには、赤外線吸収部3により変換した熱が、支持脚4、熱検知部7及び梁部8を経由してシリコン基板1に逃げないようにする必要があり、そのためには梁部8の断熱特性を高くすればよい。この断熱特性を高くするために、梁部8の断面積を小さくし、熱検知部7からシリコン基板との接点までの距離を長くすればよく、本願発明の梁部8は、クランク状の細く長い構造に形成している。
【0024】
シリコン基板1は、埋め込み酸化膜14を介して熱検知部7及び梁部8の下部に配置されている。また、シリコン基板1とエッチングストッパ壁13と埋め込み酸化膜14によって囲まれた空間を空隙12とし、空隙12は、シリコン基板1の上面である凹部の形状に応じて広がっており、ガス流入用開口5の直下付近が最も深く、赤外線センサ素子の周囲へ向かうにつれて浅くなり、凹部の内壁となるエッチングストッパ壁13付近では最も浅い形状となる。なお、エッチングストッパ壁13は、赤外線センサ素子の単位素子を取り囲むように、シリコン基板1の外周領域に形成されている。
【0025】
次に、本発明の実施例としての赤外線センサの製造方法について、図4乃至図13を参照しつつ詳細に説明する。なお、本実施例では赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造の製造方法を示す。
【0026】
図4は、エッチングストッパ壁を形成したSOI基板を示している。半導体基板としてシリコン基板1上に埋め込み酸化膜14及びSOI層31を順次積層したSOI基板を準備する。SOI基板は、例えば、張り合わせ法またはSIMOX(Silicon Implanted
Oxide)法等の方法で形成することができる。次に、単位素子構造の外周領域にエッチングストッパ壁13を設けるために、準備したSOI基板上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングする。さらに、パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングを行い、赤外線センサ素子の一つの画素を囲うように、SOI基板にエッチングストッパ壁用のトレンチ(開口溝とも称する)を形成する。かかるレジストを除去した後に、例えば、CVD法によってかかる開口溝を酸化シリコンで埋め込む。この時、酸化シリコンは開口溝以外にも堆積するので、開口溝以外に堆積した酸化シリコンをドライエッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing)法によって除去し、SOI基板内にエッチングストッパ壁13を形成する。なお、トレンチ内部に埋め込まれた酸化シリコンは、酸化シリコンと多結晶シリコン膜等の積層構造としてもよい。
【0027】
続いて、図5では、熱検知部7及び配線10を埋め込み酸化膜14上に形成されている。SOI層31上に、熱検知部7及び配線10として用いるための各々の領域をエッチングし、熱検知部7にはボロン及びリンをイオン注入しダイオードを形成し、配線部10にはチタン又はコバルト等の金属を堆積する。
【0028】
図6は図5に示される工程までを終えた構造の平面図に相当し、図6中のC−C´線断面図が図5である。中央部を矩形状にエッチングされたSOI層31は、かかる矩形状のシリコン部にボロン及びリンをイオン注入することによって、高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22が形成される。これらの高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22からダイオード23が構成される。さらに、熱検知部7の高濃度P型領域20側もしくは高濃度N型領域22側からエッチングストッパ壁13まで接続されるような矩形形状部にチタン又はコバルト等の金属を堆積し熱処理を施すことで、熱検知部7から電気信号を取り出すための配線10を形成する。同様にチタン又はコバルト等の金属を堆積し熱処理を施して、二つのダイオード23を接続するための接続電極24をダイオード23間に形成する。このようにして、ダイオード23及び接続電極24によって、入射する赤外線に応じた熱を検出する熱検知部7が構成される。
【0029】
続いて、図7では、熱検知部7及び配線10を覆うように絶縁膜11を堆積する。例えば、シリコン酸化膜をCVD法によって堆積させる。形成される絶縁膜11は、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜からなる2層の積層構造としてもよく、更に、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜/第二シリコン酸化膜からなる3層の積層構造としてもよい。2層もしくは3層の積層構造とすることで、後の工程で行う絶縁膜11を薄膜化するエッチングの際に、膜厚を制御することが容易となる。
【0030】
次に、埋め込み金属15を形成するためのコンタクトホール25を、絶縁膜11の外周領域に形成する。コンタクトホール25を用いて形成される埋め込み金属15は、配線10の端部と接続させるため、コンタクトホール25は配線10に届くように形成する。コンタクトホール25を形成する詳細な位置は、図6に示すエッチングストッパ壁13に接する配線10の端部である埋め込み金属形成領域26の上部である。
【0031】
続いて、図8では、埋め込み金属15及び周辺回路との接続用の周辺回路配線16を形成する。コンタクトホール25内と絶縁膜11の上に、例えば、スパッタ法によってチタン/窒化チタン/タングステンの積層膜を堆積する。その後、コンタクトホール25以外の部分で絶縁膜11の上に堆積したチタン/窒化チタン/タングステンの積層膜をドライエッチングもしくはCMP法によって除去し、チタン/窒化チタン/タングステンの積層膜をコンタクトホール25内に残存させることで、コンタクトホール25内に埋め込み金属15を形成する。次に、絶縁膜11及び埋め込み金属15の上に、例えば、スパッタ法によって周辺回路との接続用の周辺回路配線16となる金属膜を堆積させる。その後、かかる金属膜の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストを、埋め込み金属15上に金属膜を残存させる形状にパターニングする。パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングを行い、埋め込み金属15上とその周辺に金属膜を残存させることにより、埋め込み金属15と接続した周辺回路配線16を形成する。
【0032】
続いて、図9では、熱検知部7及び配線10の熱容量を低減するために絶縁膜11を薄膜化する。絶縁膜11及び周辺回路配線16上にレジストを塗布し、レジストをマスクとしてエッチングを行い、絶縁膜11の熱検知部7及び配線10の上に対応する領域を所望の厚さまで薄膜化する。ここで、絶縁膜11を、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜/第二シリコン酸化膜の3層の積層構造とした場合、シリコン窒化膜をエッチングストッパとして機能させることが可能なため、上層に位置する第二シリコン酸化膜のみエッチングすることができ、薄膜化する際の制御が容易となる。さらに、絶縁膜11を積層構造とすることで、薄膜化された絶縁膜11の平坦化が可能となる。
【0033】
続いて、図10では、絶縁膜11を薄膜化した領域である熱検知部7及び配線10部において、梁部8を形成する。梁部8を形成するために、薄膜化した絶縁膜11上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングする。パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングし、エッチングによって絶縁膜11、配線10及び埋め込み酸化膜14を貫通する開口を形成する。かかる開口を形成することによって、図3(a)に示されるような細く長い構造であるクランク状の梁部8を形成する。図3(a)は、図10に示される構造からエッチングストッパ壁13の上方にある絶縁膜11、埋め込み金属15、及び周辺回路配線16を除いた構造を上面から示した図である。このようにして、熱検知部7と、配線10からなる梁部8によって熱検出構造部9が構成される。
【0034】
続いて、図11では、絶縁膜11の上に開口部18を備えた犠牲層17を形成する。絶縁膜11の上層全面に、犠牲層17としてレジストを塗布し、犠牲層17に赤外線吸収膜の支持脚用開口部18を、フォトリソグラフィによって二ヵ所に形成する。犠牲層17は例えば、ポリイミド等であってもよい。支持脚用開口部18は、熱検知部7上層の絶縁膜11に届く領域に開口する。
【0035】
続いて、図12では、犠牲層17の上に赤外線吸収膜2を形成する。犠牲層17の表面上及び支持脚用開口部18の内部に例えば、CVD法によって絶縁膜を堆積し、さらに、スパッタ法によって堆積した絶縁膜上に金属膜を堆積する。これらの絶縁膜と金属膜からなる堆積層によって赤外線吸収膜2が構成される。例えば、絶縁膜は、酸化シリコン又は窒化シリコンで構成される。また、金属膜は、チタン、クロム若しくはバナジウム、又は、チタン、クロム若しくはバナジウムの窒化物、酸化物若しくは炭化物で構成される。なお、赤外線吸収膜2は、かかる金属膜上に更に絶縁膜を堆積し、絶縁膜/金属膜/絶縁膜の3層構造としてもよい。ここで形成された赤外線吸収膜2は、犠牲膜17の上部に形成された赤外線吸収部3と、支持脚用開口部18の内部に形成された支持脚4とから構成される。
【0036】
続いて、図13では、赤外線吸収部3の画素間を分離するための溝部19、ガス流入用開口5及びスリット6を形成する。赤外線吸収部3の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングした後に、パターニングしたレジストをマスクとして赤外線吸収部3のエッチングを行う。かかるエッチングによって隣接する画素間で赤外線吸収膜2を分離するための溝部19と、支持脚4の外側(赤外線吸収膜2の外周領域)にガス注入用の開口5を二ヶ所に形成し、同時に、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に所定の形状のスリット6を形成する。ガス流入用の二つの開口5は、SOI基板のシリコン基板まで貫通する貫通孔となっており、その貫通孔を介してXeF2ガスを流入する。XeF2ガスを流入することでシリコン基板1にエッチングを行い、埋め込み酸化膜14の下層が、図13に示されるような空隙12となる。かかるエッチングでは、シリコン基板1に対して等方的に進む性質を有するので、ガス流入用開口5である貫通孔が画素の中央付近にあれば、中央付近が最も深くなるようにエッチングが進行する。シリコンに対して等方的なエッチングを実現するガスとして、XeF4、XeF6、KrF4、KrF6、ClF3、BrF3、BrF5、IF5などが挙げられる。
【0037】
図14は、図13の赤外線吸収膜3を上面から示した図である。溝部19を形成することで、画素間を分離し、複画素構造であった赤外線センサ素子の赤外線吸収膜2を単画素構造に分ける。また、スリット6は、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に各支持脚5と平行となるように矩形状に形成されている。
【0038】
図15及び図16は、図13の赤外線吸収膜3を上面から示した図であり、スリット6の形状を例示している。スリットは、後の工程である犠牲層除去工程において犠牲層を除去する際に支持脚5に挟まれた領域に生じる応力を緩和するために設けるため、犠牲層除去工程よりも前の工程で形成すること及び支持脚5に挟まれた領域に形成することが必須となる。なお、スリット6の形状は、矩形や円形であってもよく、各形状を複数設けてもよい。例えば、図15では、矩形状のスリットを2列形成した場合を示しており、図16では、分断した矩形状のスリットを2列形成した場合を示している。支持脚5間の応力をより効率よく緩和するためには、スリットは支持脚5間領域内の長辺方向全体にかかる連続的な形状が好ましい。また、支持脚が三以上の複数存在する場合であっても、支持脚が二つの場合と同様に、赤外線吸収部3上で複数の支持脚それぞれに挟まれた領域にスリットを設ければよい。
【0039】
最後に、ガス流入用開口5、スリット6及び溝部19を介して酸素プラズマ処理を行い、犠牲層17を除去する。かかる除去によって、赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3が支持脚4によって支えられる中空構造となり、図1に示されるような赤外線センサ素子が完成する。
【0040】
従来のようにスリットを設けず犠牲層除去工程を行うと、支持脚5間に応力が集中しクラックとなり、そのクラックを起点として亀裂が広がっていく。それに比べ本願発明は、スリットを設けて犠牲膜除去工程を行うことで、支持脚5間に集中する応力がスリットによって緩和されるため、スリットから亀裂が生じることはない。つまり、本願発明にかかる赤外線センサ素子では、赤外線吸収膜2の支持脚4間にスリット6を設けることで、犠牲層17を除去する際に発生しうる赤外線吸収膜2のクラックを抑制することができる。その結果、信頼性の高い赤外線センサ素子を得ることができる。さらに、クラックの抑制が可能となった赤外線吸収膜2では、赤外線吸収部3の膜厚の薄膜化が可能となり、赤外線吸収膜2を含めた熱検知部7の熱容量を小さくすることができる。その結果、高速な反応速度を維持でき、高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【実施例2】
【0041】
図17を参照しつつ、本実施例における赤外線センサ素子の構造について詳細に説明する。
【0042】
図17は本発明の実施例2による赤外線センサ素子を示す断面図である。各図において同一番号の構成要素は同じ物であることを示す。本実施例の構造の特徴は、支持脚4間に空隙12まで貫通する開口27を形成している点である。開口27は、実施例1(図1)で赤外線吸収膜2に設けられていたスリット6とガス流入用開口5の役割を兼ねた開口である。実施例1においては、ガス流入用開口を支持脚4の外側(赤外線吸収膜2の外周領域)に、スリットを赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域にと、それぞれ異なる位置に形成していた。しかし、支持脚4間のスリットをシリコン基板1まで到達する貫通孔にすることによって、赤外線吸収膜2に設けたスリットをXeF2ガスの流入用開口部として用いることが可能となる。
【0043】
次に、本実施例における赤外線センサの製造方法について、図18乃至図19を参照しつつ詳細に説明する。なお、本実施例では赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造の製造方法を示す。また、図4から図12までに対応するSOI基板の準備から赤外線吸収膜2を形成する工程までは同一の工程であるため省略する。
【0044】
図18は、図12の後の工程であり、赤外線吸収部3の画素間を分離するための溝部19、開口27を形成している。赤外線吸収部3の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングした後に、パターニングしたレジストをマスクとして赤外線吸収部3のエッチングを行う。かかるエッチングによって隣接する画素間で赤外線吸収膜2が分離するための溝部19と、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に開口27を形成する。開口27は、SOI基板のシリコン基板まで貫通する貫通孔となっており、その貫通孔を介してXeF2ガスを流入する。XeF2ガスを流入することでシリコン基板1にエッチングを行い、埋め込み酸化膜14の下層が、図17に示されるような空隙12となる。かかるエッチングでは、シリコン基板1に対して等方的に進む性質を有するので、開口27である貫通孔が画素の中央付近にあれば、中央付近が最も深くなるようにエッチングが進行する。シリコンに対して等方的なエッチングを実現するガスとして、XeF4、XeF6、KrF4、KrF6、ClF3、BrF3、BrF5、IF5などが挙げられる。
【0045】
なお、開口27の形状は、矩形や円形であってもよく、各形状を複数設けてもよい。また、支持脚が三以上の複数存在する場合であっても、支持脚が二つの場合と同様に、赤外線吸収部3上で複数の支持脚それぞれに挟まれた領域に開口27を設ければよい。
【0046】
ここで、図19を用いて、開口27を形成した際の上面図について説明する。図19は、図17中の赤外線吸収膜2、絶縁膜11、埋め込み金属15及び周辺回路配線16を省略し、熱検知部7、梁部8の配線10、及びエッチングストッパ壁13の配置を示す平面図であり、図19中のD−D´線断面図が図19に対応する。開口27をシリコン基板1まで達する貫通孔を設けるにあたり、図17に示されるとおり熱検知部7も貫通させる必要がある。その際は、熱検知部7のダイオード23及び接続電極24の配置を、真ん中に貫通孔を設けることができるようにすればよい。例えば、図19のように、ダイオードを2列に配置すると、赤外線吸収部3の中央部分に貫通孔である開口27を設けることができる。
【0047】
最後に、開口27、溝部19を介して酸素プラズマ処理を行い、犠牲層17を除去する。かかる除去によって、赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3が支持脚4によって支えられる中空構造となり、図17に示されるような赤外線センサ素子が完成する。
【0048】
以上の説明から明らかなように、本願発明にかかる赤外線センサ素子では、赤外線吸収膜2の支持脚4間に開口27を設けることで、犠牲層17を除去する際に発生しうる赤外線吸収膜2のクラックを抑制することができる。その結果、信頼性の高い赤外線センサ素子を得ることができる。さらに、クラックの抑制が可能となった赤外線吸収膜2では、赤外線吸収部3の膜厚の薄膜化が可能となり、赤外線吸収膜2を含めた熱検知部7の熱容量を小さく保つことができる。その結果、高速な反応速度を維持でき、高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【0049】
また、開口27は、実施例1のガス流入用開口5とスリット6の役割を兼ねているため、実施例1と比較して赤外線吸収膜の除去面積が減少することになる。このため、赤外線吸収膜の実質的な表面積を拡大することができ、赤外線を効率よく吸収することが可能となる。すなわち、赤外線吸収膜の面積の拡大及び赤外線吸収膜の膜厚の薄膜化により、信頼性が高く、より高感度な赤外線センサ素子を得ることができる。
【0050】
さらに、ガス流入用開口部が画素の中央付近に近づくことで、等方エッチングを行うとエッチングストッパ壁近傍ではエッチングが浅くなり、深いエッチングストッパ壁を形成しなくてもよくなることから、エッチングストッパ壁を形成する際のトレンチを浅くすることが可能となる。すなわち、高アスペクト比のエッチングや深いトレンチの埋め込みを回避することが可能となり、トレンチ形成に要するエッチング時間の短縮を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 シリコン基板、2 赤外線吸収膜、3 赤外線吸収部、4 支持脚、
5 ガス流入用開口、6 スリット、7 熱検知部、8 梁部、9 熱検出構造部、
10 配線、11 絶縁膜、12 空隙、13 エッチングストッパ壁、
14 埋め込み酸化膜、15 埋め込み金属、16 周辺回路配線、17 犠牲層、
18 支持脚用開口、19 溝部、20 高濃度P型領域、21 低濃度N型領域、
22 高濃度N型領域、23 ダイオード、24 接続電極、25 コンタクトホール、27 開口、31 SOI層
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収膜のクラック耐性を向上させた熱型赤外線センサ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、例えば、物体や人物から放出される微弱な赤外線を検出するのに用いられ、監視用又は車載用など様々な分野において利用されている。赤外線センサには様々な赤外線の検出方式があるが、よく利用されている主流の方式として量子型赤外線センサと熱型赤外線センサがある。量子型赤外線センサは、固体材料の光電効果を利用し、吸収した赤外線を直接電気信号に変換して検出する。また、熱型赤外線センサは、受光した赤外線を一度熱に変換し、温度による物性の変化が大きい材料を用いて、前述の変換した熱による温度変化を検出する。このような赤外線センサは、現在では、半導体基板を用いた半導体チップとして実現されている。半導体基板を用いて構成された赤外線センサは、以下において“赤外線センサ素子”と称する。
【0003】
前述の熱型赤外線センサの構造としては、特許文献1のような、熱検出構造部上に所定の底面積を有する支持脚で赤外線吸収膜を支える構造や、赤外線吸収膜の一部を凸状にして形成した支持脚が複数形成された構造が開示されている。
【0004】
ここで、熱型赤外線センサの性能を表すための指標の1つとして応答速度がある。応答速度とは、赤外線吸収膜で吸収した赤外線が熱検出構造部に伝わるまでの時間の概念を示す。前述のように熱型赤外線センサは、赤外線の量を熱に変換して検出していることから、反応速度を速くするためには熱検出構造部においての応答速度を高速化すればよい。そのためには、赤外線吸収膜を含めた熱検出構造部の熱容量を小さくすることが好ましい。特許文献2では、熱型赤外線センサにおいて、熱時定数を小さくし、反応速度を速くするために、赤外線吸収膜の厚さを薄くすることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−156277号公報
【特許文献2】特開2006−170937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外線吸収膜の熱容量を小さくするために、特許文献1に開示される構造の赤外線センサに対しても特許文献2のように赤外線吸収膜を薄膜化することが考えられる。特許文献1の実施の形態3のように赤外線吸収膜に支持脚が複数本形成された赤外線センサ素子を利用し、赤外線吸収膜を薄膜化した場合、次のような問題が起こりうる。
【0006】
図20は、赤外線吸収膜に支持脚が2本形成された従来技術による赤外線センサ素子の平面図である。図20の赤外線センサ素子では、1画素ごとに分離された赤外線吸収膜2の赤外線吸収部3には支持脚4が2箇所に形成されており、支持脚4の外側(赤外線吸収膜の外周領域)にガス注入用の開口5が設けられている。
【0007】
特許文献1における犠牲層除去工程においてレジストからなる犠牲層を除去した際に、犠牲層と赤外線吸収膜の熱膨張係数の差に起因した応力が赤外線吸収膜に発生するため、赤外線吸収膜は変形する。赤外線吸収膜は1画素ごとに分離されているため、赤外線吸収膜の外周領域は応力による変形が可能となり、外周領域が変形することで、赤外線吸収膜の外周領域に発生した応力は緩和される。一方、赤外線吸収膜の支持脚4に挟まれた領域(以下、支持脚間領域という)は支持脚4によって赤外線吸収膜の伸縮が固定されているため、赤外線吸収膜の外周領域に比べて赤外線吸収膜が変形しにくい。よって、支持脚間領域に発生した応力は緩和されず、支持脚間に応力が集中し、図20に示されたような支持脚4の間においてクラックが発生してしまう。クラックが発生した状態で赤外線センサ素子を使用すると、使用による振動等によって支持脚間のクラックが赤外線吸収膜の外周部へと広がり、そのクラックに沿って赤外線吸収膜が分断されてしまう恐れがある。そのため、2本以上の支持脚が形成された赤外線吸収膜の薄膜化は困難となる。性能を上げるために赤外線吸収膜を薄膜化し、赤外線吸収膜の熱容量を小さくした赤外線センサ素子は信頼性を保つことができなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、熱検出構造部の熱容量を小さく保ったまま、赤外線吸収膜におけるクラックの発生を抑制できる構造を備えた高感度の赤外線センサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本願発明の赤外線センサ素子は、凹部を有する半導体基板と、前記半導体基板の外縁近傍にて該半導体基板と接続され、外縁近傍から前記凹部の上方に延在して配置された梁部と、前記梁部に接続されて前記凹部の上部に保持された熱検知部と、前記凹部、前記梁部及び前記熱検知部を覆い、かつ、少なくとも二以上の支持脚を介して前記熱検知部に接続される赤外線吸収部と、を備え、前記赤外線吸収部の前記支持脚間領域にスリットが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の赤外線センサ素子の構造及び製造方法によれば、赤外線吸収膜の支持脚間にスリットを設けることによってクラックの発生を抑える構造となり、赤外線センサ素子の信頼性を向上させることができる。また、クラックの発生が抑えられた構造とすることで赤外線吸収膜を薄膜化することが可能となり、熱検出構造部の熱容量を小さくすることができる。そのため、反応速度の速い高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の断面図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す平面図である。
【図7】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図8】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図9】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図10】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図11】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図12】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図13】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図14】本発明の第1実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す平面図である。
【図15】本発明の第1実施例の一変形例に係る赤外線センサ素子を示す平面図である。
【図16】本発明の第1実施例の他の変形例に係る赤外線センサ素子を示す平面図である。
【図17】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の断面図である。
【図18】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の製造工程の一部を示す断面図である。
【図19】本発明の第2実施例に係る赤外線センサ素子の平面図である。
【図20】従来技術による赤外線センサ素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1乃至図3を参照しつつ、本発明の赤外線センサ素子の構造について詳細に説明する。
【0014】
図1は赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造を示す断面図である。赤外線センサ素子では、凹部を有するシリコン基板1と、シリコン基板1内に埋め込まれたエッチングストッパ壁13と、シリコン基板1の上に配置された埋め込み酸化膜14によって囲まれた空間を空隙12とする。埋め込み酸化膜14の上には熱検出構造部9が設けられており、熱検出構造部9は梁部8と熱検知部7から構成され、梁部8は埋め込み酸化膜14に配線10及び絶縁膜11が積層されている。エッチングストッパ壁13の上部周辺に設けられた埋め込み酸化膜14の上には絶縁膜11が形成されており、絶縁膜11の上面に設けられた周辺回路配線16と絶縁膜11の下部に位置する埋め込み酸化膜14を電気的に接続するために、絶縁膜11を貫通して埋め込み金属15が形成されている。熱検知部7の上には絶縁膜11が設けられており、絶縁膜11に接して赤外線吸収膜2の支持脚4が配置されている。赤外線吸収膜2は赤外線吸収部3と支持脚4から構成される一枚の吸収膜であり、複数の支持脚4は凹部状とすることで赤外線吸収部3を支持する構造となっている。また、赤外線吸収部3にはガス流入用開口5及びスリット6が形成されている。
【0015】
図2は赤外線センサ素子を上から見たときの平面図であり、図2中のA−A´線断面図が図1である。赤外線吸収部3には2つのガス流入用開口5と1つのスリット6が設けられている。このガス流入用開口5は支持脚4が配置されている位置よりも赤外線吸収部3の端部方向である外周領域に設けられており、後述する製造工程において埋め込み酸化膜14の下部にエッチングガスを流入する際のガス流入口として用いられる。スリット6は、赤外線吸収部3を支持するために凹部状に形成されている2つの支持脚4の間に挟まれた領域に設けられている。スリット6の形状は、矩形又は円形でもよく、それらのスリットが複数並んだレイアウトにしてもよい。なお、図2におけるスリット6の形状は矩形状(長方形状)のものを例として示している。
【0016】
図3(a)は図1中の赤外線吸収膜2、絶縁膜11、埋め込み金属15及び周辺回路配線16を省略し、熱検知部7、梁部8の配線10、及びエッチングストッパ壁13の配置を示す平面図であり、図3(a)中のB−B´線断面図が図1である。
【0017】
図3(a)では、エッチングストッパ壁13によって囲まれた領域内部において、配線10が熱検知部7と接続されて折れ曲がった形状であるクランク状に形成される。配線10のエッチングストッパ壁側の端部には、埋め込み金属形成領域26があり、上層の埋め込み金属15(図1参照)に接続されている。埋め込み金属15は、絶縁膜11に形成される貫通孔内に充填されて、絶縁膜11上に設けられる周辺回路との接続用の周辺回路配線16に接続される。外部回路を周辺回路配線16に接続することで、周辺回路から熱検知部7までは埋め込み金属15及び配線10を経由して電気的に接続される。
【0018】
また、図3(a)では配線10に接続された熱検知部7が詳細に示されている。熱検知部7はダイオード23及び接続電極24からなり、ダイオード23は高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22からなる。本実施例においては、2つのダイオード23は接続電極24を介して直列に接続されており、2つのダイオード23及び接続電極24によって矩形状の熱検知部7が構成される。また、熱検知部7は上述したような2つのダイオード23及び接続電極24からなる構造に限られず、図3(b)に示すように1つのダイオードで構成してもよく、図3(c)に示すように3つ以上のダイオードから構成してもよい。
【0019】
次に、赤外線センサ素子の動作及び各部分の機能について説明する。
【0020】
外部から入射される赤外線は赤外線吸収部3の上面から吸収する。赤外線吸収部3により吸収された赤外線は、赤外線吸収膜2の内部において熱に変換される。その変換された熱は支持脚4に伝わり、第1シリコン酸化膜11を介して、温度を検知する為の熱検知部7に伝わる。熱検知部7で検出した電気信号は、梁部8の配線10及び埋め込み金属15を介して、周辺回路配線16に伝送され、外部回路まで伝送できる。
【0021】
赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3と支持脚4から構成される。赤外線吸収部3は、外部から入射される赤外線をより多く吸収する為に表面積が広くなっており、同一構成の膜から形成されている支持脚4は、その赤外線吸収部3を支える構造となっている。なお、支持脚4は、二本以上形成する方が一本に比べて赤外線吸収部3を安定して支えることが可能となる。赤外線吸収膜2の内部で赤外線から変換された熱を、熱検知部7へ効率よく伝えるためには、支持脚4の長さは短い方が好ましい。また、赤外線吸収膜2は、絶縁膜とかかる絶縁膜上に形成される金属膜とから構成される積層構造である。
【0022】
熱検知部7は、第1シリコン酸化膜11を介して支持脚4から伝えられる熱を検知しており、ダイオード23及び接続電極24によって構成されている。熱検知部7の性能を上げるには、ダイオードの数を増やせばよく、特に直列に接続するのが好ましい。
【0023】
梁部8は、熱検知部7で検知した熱の温度を電気信号として外部回路へ伝送する経路であり、埋め込み酸化膜14上に配線10を形成した構成となっている。赤外線センサ素子を高感度化するためには、赤外線吸収部3により変換した熱が、支持脚4、熱検知部7及び梁部8を経由してシリコン基板1に逃げないようにする必要があり、そのためには梁部8の断熱特性を高くすればよい。この断熱特性を高くするために、梁部8の断面積を小さくし、熱検知部7からシリコン基板との接点までの距離を長くすればよく、本願発明の梁部8は、クランク状の細く長い構造に形成している。
【0024】
シリコン基板1は、埋め込み酸化膜14を介して熱検知部7及び梁部8の下部に配置されている。また、シリコン基板1とエッチングストッパ壁13と埋め込み酸化膜14によって囲まれた空間を空隙12とし、空隙12は、シリコン基板1の上面である凹部の形状に応じて広がっており、ガス流入用開口5の直下付近が最も深く、赤外線センサ素子の周囲へ向かうにつれて浅くなり、凹部の内壁となるエッチングストッパ壁13付近では最も浅い形状となる。なお、エッチングストッパ壁13は、赤外線センサ素子の単位素子を取り囲むように、シリコン基板1の外周領域に形成されている。
【0025】
次に、本発明の実施例としての赤外線センサの製造方法について、図4乃至図13を参照しつつ詳細に説明する。なお、本実施例では赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造の製造方法を示す。
【0026】
図4は、エッチングストッパ壁を形成したSOI基板を示している。半導体基板としてシリコン基板1上に埋め込み酸化膜14及びSOI層31を順次積層したSOI基板を準備する。SOI基板は、例えば、張り合わせ法またはSIMOX(Silicon Implanted
Oxide)法等の方法で形成することができる。次に、単位素子構造の外周領域にエッチングストッパ壁13を設けるために、準備したSOI基板上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングする。さらに、パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングを行い、赤外線センサ素子の一つの画素を囲うように、SOI基板にエッチングストッパ壁用のトレンチ(開口溝とも称する)を形成する。かかるレジストを除去した後に、例えば、CVD法によってかかる開口溝を酸化シリコンで埋め込む。この時、酸化シリコンは開口溝以外にも堆積するので、開口溝以外に堆積した酸化シリコンをドライエッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing)法によって除去し、SOI基板内にエッチングストッパ壁13を形成する。なお、トレンチ内部に埋め込まれた酸化シリコンは、酸化シリコンと多結晶シリコン膜等の積層構造としてもよい。
【0027】
続いて、図5では、熱検知部7及び配線10を埋め込み酸化膜14上に形成されている。SOI層31上に、熱検知部7及び配線10として用いるための各々の領域をエッチングし、熱検知部7にはボロン及びリンをイオン注入しダイオードを形成し、配線部10にはチタン又はコバルト等の金属を堆積する。
【0028】
図6は図5に示される工程までを終えた構造の平面図に相当し、図6中のC−C´線断面図が図5である。中央部を矩形状にエッチングされたSOI層31は、かかる矩形状のシリコン部にボロン及びリンをイオン注入することによって、高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22が形成される。これらの高濃度P型領域20、低濃度N型領域21及び高濃度N型領域22からダイオード23が構成される。さらに、熱検知部7の高濃度P型領域20側もしくは高濃度N型領域22側からエッチングストッパ壁13まで接続されるような矩形形状部にチタン又はコバルト等の金属を堆積し熱処理を施すことで、熱検知部7から電気信号を取り出すための配線10を形成する。同様にチタン又はコバルト等の金属を堆積し熱処理を施して、二つのダイオード23を接続するための接続電極24をダイオード23間に形成する。このようにして、ダイオード23及び接続電極24によって、入射する赤外線に応じた熱を検出する熱検知部7が構成される。
【0029】
続いて、図7では、熱検知部7及び配線10を覆うように絶縁膜11を堆積する。例えば、シリコン酸化膜をCVD法によって堆積させる。形成される絶縁膜11は、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜からなる2層の積層構造としてもよく、更に、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜/第二シリコン酸化膜からなる3層の積層構造としてもよい。2層もしくは3層の積層構造とすることで、後の工程で行う絶縁膜11を薄膜化するエッチングの際に、膜厚を制御することが容易となる。
【0030】
次に、埋め込み金属15を形成するためのコンタクトホール25を、絶縁膜11の外周領域に形成する。コンタクトホール25を用いて形成される埋め込み金属15は、配線10の端部と接続させるため、コンタクトホール25は配線10に届くように形成する。コンタクトホール25を形成する詳細な位置は、図6に示すエッチングストッパ壁13に接する配線10の端部である埋め込み金属形成領域26の上部である。
【0031】
続いて、図8では、埋め込み金属15及び周辺回路との接続用の周辺回路配線16を形成する。コンタクトホール25内と絶縁膜11の上に、例えば、スパッタ法によってチタン/窒化チタン/タングステンの積層膜を堆積する。その後、コンタクトホール25以外の部分で絶縁膜11の上に堆積したチタン/窒化チタン/タングステンの積層膜をドライエッチングもしくはCMP法によって除去し、チタン/窒化チタン/タングステンの積層膜をコンタクトホール25内に残存させることで、コンタクトホール25内に埋め込み金属15を形成する。次に、絶縁膜11及び埋め込み金属15の上に、例えば、スパッタ法によって周辺回路との接続用の周辺回路配線16となる金属膜を堆積させる。その後、かかる金属膜の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストを、埋め込み金属15上に金属膜を残存させる形状にパターニングする。パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングを行い、埋め込み金属15上とその周辺に金属膜を残存させることにより、埋め込み金属15と接続した周辺回路配線16を形成する。
【0032】
続いて、図9では、熱検知部7及び配線10の熱容量を低減するために絶縁膜11を薄膜化する。絶縁膜11及び周辺回路配線16上にレジストを塗布し、レジストをマスクとしてエッチングを行い、絶縁膜11の熱検知部7及び配線10の上に対応する領域を所望の厚さまで薄膜化する。ここで、絶縁膜11を、第一シリコン酸化膜/シリコン窒化膜/第二シリコン酸化膜の3層の積層構造とした場合、シリコン窒化膜をエッチングストッパとして機能させることが可能なため、上層に位置する第二シリコン酸化膜のみエッチングすることができ、薄膜化する際の制御が容易となる。さらに、絶縁膜11を積層構造とすることで、薄膜化された絶縁膜11の平坦化が可能となる。
【0033】
続いて、図10では、絶縁膜11を薄膜化した領域である熱検知部7及び配線10部において、梁部8を形成する。梁部8を形成するために、薄膜化した絶縁膜11上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングする。パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングし、エッチングによって絶縁膜11、配線10及び埋め込み酸化膜14を貫通する開口を形成する。かかる開口を形成することによって、図3(a)に示されるような細く長い構造であるクランク状の梁部8を形成する。図3(a)は、図10に示される構造からエッチングストッパ壁13の上方にある絶縁膜11、埋め込み金属15、及び周辺回路配線16を除いた構造を上面から示した図である。このようにして、熱検知部7と、配線10からなる梁部8によって熱検出構造部9が構成される。
【0034】
続いて、図11では、絶縁膜11の上に開口部18を備えた犠牲層17を形成する。絶縁膜11の上層全面に、犠牲層17としてレジストを塗布し、犠牲層17に赤外線吸収膜の支持脚用開口部18を、フォトリソグラフィによって二ヵ所に形成する。犠牲層17は例えば、ポリイミド等であってもよい。支持脚用開口部18は、熱検知部7上層の絶縁膜11に届く領域に開口する。
【0035】
続いて、図12では、犠牲層17の上に赤外線吸収膜2を形成する。犠牲層17の表面上及び支持脚用開口部18の内部に例えば、CVD法によって絶縁膜を堆積し、さらに、スパッタ法によって堆積した絶縁膜上に金属膜を堆積する。これらの絶縁膜と金属膜からなる堆積層によって赤外線吸収膜2が構成される。例えば、絶縁膜は、酸化シリコン又は窒化シリコンで構成される。また、金属膜は、チタン、クロム若しくはバナジウム、又は、チタン、クロム若しくはバナジウムの窒化物、酸化物若しくは炭化物で構成される。なお、赤外線吸収膜2は、かかる金属膜上に更に絶縁膜を堆積し、絶縁膜/金属膜/絶縁膜の3層構造としてもよい。ここで形成された赤外線吸収膜2は、犠牲膜17の上部に形成された赤外線吸収部3と、支持脚用開口部18の内部に形成された支持脚4とから構成される。
【0036】
続いて、図13では、赤外線吸収部3の画素間を分離するための溝部19、ガス流入用開口5及びスリット6を形成する。赤外線吸収部3の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングした後に、パターニングしたレジストをマスクとして赤外線吸収部3のエッチングを行う。かかるエッチングによって隣接する画素間で赤外線吸収膜2を分離するための溝部19と、支持脚4の外側(赤外線吸収膜2の外周領域)にガス注入用の開口5を二ヶ所に形成し、同時に、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に所定の形状のスリット6を形成する。ガス流入用の二つの開口5は、SOI基板のシリコン基板まで貫通する貫通孔となっており、その貫通孔を介してXeF2ガスを流入する。XeF2ガスを流入することでシリコン基板1にエッチングを行い、埋め込み酸化膜14の下層が、図13に示されるような空隙12となる。かかるエッチングでは、シリコン基板1に対して等方的に進む性質を有するので、ガス流入用開口5である貫通孔が画素の中央付近にあれば、中央付近が最も深くなるようにエッチングが進行する。シリコンに対して等方的なエッチングを実現するガスとして、XeF4、XeF6、KrF4、KrF6、ClF3、BrF3、BrF5、IF5などが挙げられる。
【0037】
図14は、図13の赤外線吸収膜3を上面から示した図である。溝部19を形成することで、画素間を分離し、複画素構造であった赤外線センサ素子の赤外線吸収膜2を単画素構造に分ける。また、スリット6は、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に各支持脚5と平行となるように矩形状に形成されている。
【0038】
図15及び図16は、図13の赤外線吸収膜3を上面から示した図であり、スリット6の形状を例示している。スリットは、後の工程である犠牲層除去工程において犠牲層を除去する際に支持脚5に挟まれた領域に生じる応力を緩和するために設けるため、犠牲層除去工程よりも前の工程で形成すること及び支持脚5に挟まれた領域に形成することが必須となる。なお、スリット6の形状は、矩形や円形であってもよく、各形状を複数設けてもよい。例えば、図15では、矩形状のスリットを2列形成した場合を示しており、図16では、分断した矩形状のスリットを2列形成した場合を示している。支持脚5間の応力をより効率よく緩和するためには、スリットは支持脚5間領域内の長辺方向全体にかかる連続的な形状が好ましい。また、支持脚が三以上の複数存在する場合であっても、支持脚が二つの場合と同様に、赤外線吸収部3上で複数の支持脚それぞれに挟まれた領域にスリットを設ければよい。
【0039】
最後に、ガス流入用開口5、スリット6及び溝部19を介して酸素プラズマ処理を行い、犠牲層17を除去する。かかる除去によって、赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3が支持脚4によって支えられる中空構造となり、図1に示されるような赤外線センサ素子が完成する。
【0040】
従来のようにスリットを設けず犠牲層除去工程を行うと、支持脚5間に応力が集中しクラックとなり、そのクラックを起点として亀裂が広がっていく。それに比べ本願発明は、スリットを設けて犠牲膜除去工程を行うことで、支持脚5間に集中する応力がスリットによって緩和されるため、スリットから亀裂が生じることはない。つまり、本願発明にかかる赤外線センサ素子では、赤外線吸収膜2の支持脚4間にスリット6を設けることで、犠牲層17を除去する際に発生しうる赤外線吸収膜2のクラックを抑制することができる。その結果、信頼性の高い赤外線センサ素子を得ることができる。さらに、クラックの抑制が可能となった赤外線吸収膜2では、赤外線吸収部3の膜厚の薄膜化が可能となり、赤外線吸収膜2を含めた熱検知部7の熱容量を小さくすることができる。その結果、高速な反応速度を維持でき、高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【実施例2】
【0041】
図17を参照しつつ、本実施例における赤外線センサ素子の構造について詳細に説明する。
【0042】
図17は本発明の実施例2による赤外線センサ素子を示す断面図である。各図において同一番号の構成要素は同じ物であることを示す。本実施例の構造の特徴は、支持脚4間に空隙12まで貫通する開口27を形成している点である。開口27は、実施例1(図1)で赤外線吸収膜2に設けられていたスリット6とガス流入用開口5の役割を兼ねた開口である。実施例1においては、ガス流入用開口を支持脚4の外側(赤外線吸収膜2の外周領域)に、スリットを赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域にと、それぞれ異なる位置に形成していた。しかし、支持脚4間のスリットをシリコン基板1まで到達する貫通孔にすることによって、赤外線吸収膜2に設けたスリットをXeF2ガスの流入用開口部として用いることが可能となる。
【0043】
次に、本実施例における赤外線センサの製造方法について、図18乃至図19を参照しつつ詳細に説明する。なお、本実施例では赤外線センサ素子の単位素子、すなわち1画素分に相当する赤外線センサ素子の構造の製造方法を示す。また、図4から図12までに対応するSOI基板の準備から赤外線吸収膜2を形成する工程までは同一の工程であるため省略する。
【0044】
図18は、図12の後の工程であり、赤外線吸収部3の画素間を分離するための溝部19、開口27を形成している。赤外線吸収部3の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによってかかるレジストをパターニングした後に、パターニングしたレジストをマスクとして赤外線吸収部3のエッチングを行う。かかるエッチングによって隣接する画素間で赤外線吸収膜2が分離するための溝部19と、赤外線吸収部3の支持脚4に挟まれた領域に開口27を形成する。開口27は、SOI基板のシリコン基板まで貫通する貫通孔となっており、その貫通孔を介してXeF2ガスを流入する。XeF2ガスを流入することでシリコン基板1にエッチングを行い、埋め込み酸化膜14の下層が、図17に示されるような空隙12となる。かかるエッチングでは、シリコン基板1に対して等方的に進む性質を有するので、開口27である貫通孔が画素の中央付近にあれば、中央付近が最も深くなるようにエッチングが進行する。シリコンに対して等方的なエッチングを実現するガスとして、XeF4、XeF6、KrF4、KrF6、ClF3、BrF3、BrF5、IF5などが挙げられる。
【0045】
なお、開口27の形状は、矩形や円形であってもよく、各形状を複数設けてもよい。また、支持脚が三以上の複数存在する場合であっても、支持脚が二つの場合と同様に、赤外線吸収部3上で複数の支持脚それぞれに挟まれた領域に開口27を設ければよい。
【0046】
ここで、図19を用いて、開口27を形成した際の上面図について説明する。図19は、図17中の赤外線吸収膜2、絶縁膜11、埋め込み金属15及び周辺回路配線16を省略し、熱検知部7、梁部8の配線10、及びエッチングストッパ壁13の配置を示す平面図であり、図19中のD−D´線断面図が図19に対応する。開口27をシリコン基板1まで達する貫通孔を設けるにあたり、図17に示されるとおり熱検知部7も貫通させる必要がある。その際は、熱検知部7のダイオード23及び接続電極24の配置を、真ん中に貫通孔を設けることができるようにすればよい。例えば、図19のように、ダイオードを2列に配置すると、赤外線吸収部3の中央部分に貫通孔である開口27を設けることができる。
【0047】
最後に、開口27、溝部19を介して酸素プラズマ処理を行い、犠牲層17を除去する。かかる除去によって、赤外線吸収膜2は、赤外線吸収部3が支持脚4によって支えられる中空構造となり、図17に示されるような赤外線センサ素子が完成する。
【0048】
以上の説明から明らかなように、本願発明にかかる赤外線センサ素子では、赤外線吸収膜2の支持脚4間に開口27を設けることで、犠牲層17を除去する際に発生しうる赤外線吸収膜2のクラックを抑制することができる。その結果、信頼性の高い赤外線センサ素子を得ることができる。さらに、クラックの抑制が可能となった赤外線吸収膜2では、赤外線吸収部3の膜厚の薄膜化が可能となり、赤外線吸収膜2を含めた熱検知部7の熱容量を小さく保つことができる。その結果、高速な反応速度を維持でき、高感度の赤外線センサ素子を得ることができる。
【0049】
また、開口27は、実施例1のガス流入用開口5とスリット6の役割を兼ねているため、実施例1と比較して赤外線吸収膜の除去面積が減少することになる。このため、赤外線吸収膜の実質的な表面積を拡大することができ、赤外線を効率よく吸収することが可能となる。すなわち、赤外線吸収膜の面積の拡大及び赤外線吸収膜の膜厚の薄膜化により、信頼性が高く、より高感度な赤外線センサ素子を得ることができる。
【0050】
さらに、ガス流入用開口部が画素の中央付近に近づくことで、等方エッチングを行うとエッチングストッパ壁近傍ではエッチングが浅くなり、深いエッチングストッパ壁を形成しなくてもよくなることから、エッチングストッパ壁を形成する際のトレンチを浅くすることが可能となる。すなわち、高アスペクト比のエッチングや深いトレンチの埋め込みを回避することが可能となり、トレンチ形成に要するエッチング時間の短縮を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 シリコン基板、2 赤外線吸収膜、3 赤外線吸収部、4 支持脚、
5 ガス流入用開口、6 スリット、7 熱検知部、8 梁部、9 熱検出構造部、
10 配線、11 絶縁膜、12 空隙、13 エッチングストッパ壁、
14 埋め込み酸化膜、15 埋め込み金属、16 周辺回路配線、17 犠牲層、
18 支持脚用開口、19 溝部、20 高濃度P型領域、21 低濃度N型領域、
22 高濃度N型領域、23 ダイオード、24 接続電極、25 コンタクトホール、27 開口、31 SOI層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する半導体基板と、
前記半導体基板の外縁近傍にて該半導体基板と接続され、外縁近傍から前記凹部の上方に延在して配置された梁部と、
前記梁部に接続されて前記凹部の上部に保持された熱検知部と、
前記凹部、前記梁部及び前記熱検知部を覆い、かつ、少なくとも二以上の支持脚を介して前記熱検知部に接続される赤外線吸収部と、を備え、
前記赤外線吸収部の前記支持脚間領域にスリットが形成されていることを特徴とする赤外線センサ素子。
【請求項2】
前記支持脚の外周領域に開口が形成されている前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1記載の赤外線センサ素子。
【請求項3】
前記スリットの形状が矩形状で、且つ、一つである前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1または2記載の赤外線センサ素子。
【請求項4】
前記スリットが二以上で、前記各スリットの形状が矩形又は円形である前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1または2記載の赤外線センサ素子。
【請求項5】
前記支持脚を三以上有し、前記赤外線吸収部の前記支持脚間それぞれには前記スリットが設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の赤外線センサ素子。
【請求項6】
半導体基板上に熱検知部及び前記熱検知部と電気的に接続される配線を有する梁部を形成する熱検出構造形成工程と、
前記熱検知部及び前記梁部を覆う絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層上に少なくとも二以上の支持脚と、前記支持脚間領域にスリット及び前記支持脚の外周領域に開口を設けた赤外線吸収部と、を備えた赤外線吸収膜を形成する赤外線吸収膜形成工程と、
前記開口の下方に前記半導体基板に到達する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔を介してエッチングを施すことによって前記半導体基板に空隙を形成する空隙形成工程と、
前記空隙形成工程後、前記貫通孔を介して前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を有することを特徴とする赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層形成工程は、少なくとも酸化シリコン膜を含む複数の絶縁膜層を形成することを特徴とする請求項6記載の赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項8】
半導体基板上に熱検知部及び前記熱検知部と電気的に接続される配線を有する梁部を形成する熱検出構造形成工程と、
前記熱検知部及び前記梁部を覆う絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層上に少なくとも2つの支持脚と、前記支持脚間領域に開口を設けた赤外線吸収部と、を備えた赤外線吸収膜を形成する赤外線吸収膜形成工程と、
前記開口の下方に前記半導体基板に到達する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔を介してエッチングを施すことによって前記半導体基板に空隙を形成する空隙形成工程と、
前記空隙形成工程後、前記貫通孔を介して前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を有することを特徴とする赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層形成工程は、少なくとも酸化シリコン膜を含む複数の絶縁膜層を形成することを特徴とする請求項8記載の赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項1】
凹部を有する半導体基板と、
前記半導体基板の外縁近傍にて該半導体基板と接続され、外縁近傍から前記凹部の上方に延在して配置された梁部と、
前記梁部に接続されて前記凹部の上部に保持された熱検知部と、
前記凹部、前記梁部及び前記熱検知部を覆い、かつ、少なくとも二以上の支持脚を介して前記熱検知部に接続される赤外線吸収部と、を備え、
前記赤外線吸収部の前記支持脚間領域にスリットが形成されていることを特徴とする赤外線センサ素子。
【請求項2】
前記支持脚の外周領域に開口が形成されている前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1記載の赤外線センサ素子。
【請求項3】
前記スリットの形状が矩形状で、且つ、一つである前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1または2記載の赤外線センサ素子。
【請求項4】
前記スリットが二以上で、前記各スリットの形状が矩形又は円形である前記赤外線吸収部を有することを特徴とする請求項1または2記載の赤外線センサ素子。
【請求項5】
前記支持脚を三以上有し、前記赤外線吸収部の前記支持脚間それぞれには前記スリットが設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の赤外線センサ素子。
【請求項6】
半導体基板上に熱検知部及び前記熱検知部と電気的に接続される配線を有する梁部を形成する熱検出構造形成工程と、
前記熱検知部及び前記梁部を覆う絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層上に少なくとも二以上の支持脚と、前記支持脚間領域にスリット及び前記支持脚の外周領域に開口を設けた赤外線吸収部と、を備えた赤外線吸収膜を形成する赤外線吸収膜形成工程と、
前記開口の下方に前記半導体基板に到達する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔を介してエッチングを施すことによって前記半導体基板に空隙を形成する空隙形成工程と、
前記空隙形成工程後、前記貫通孔を介して前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を有することを特徴とする赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層形成工程は、少なくとも酸化シリコン膜を含む複数の絶縁膜層を形成することを特徴とする請求項6記載の赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項8】
半導体基板上に熱検知部及び前記熱検知部と電気的に接続される配線を有する梁部を形成する熱検出構造形成工程と、
前記熱検知部及び前記梁部を覆う絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層上に少なくとも2つの支持脚と、前記支持脚間領域に開口を設けた赤外線吸収部と、を備えた赤外線吸収膜を形成する赤外線吸収膜形成工程と、
前記開口の下方に前記半導体基板に到達する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔を介してエッチングを施すことによって前記半導体基板に空隙を形成する空隙形成工程と、
前記空隙形成工程後、前記貫通孔を介して前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、を有することを特徴とする赤外線センサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層形成工程は、少なくとも酸化シリコン膜を含む複数の絶縁膜層を形成することを特徴とする請求項8記載の赤外線センサ素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−214857(P2011−214857A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80565(P2010−80565)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(308033711)OKIセミコンダクタ株式会社 (898)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(308033711)OKIセミコンダクタ株式会社 (898)
【Fターム(参考)】
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