説明

赤外線固体撮像素子

【課題】信号の読み出し時のノイズを可及的に少なくすることのできる赤外線固体撮像素子を提供することを可能にする。
【解決手段】入射赤外線を検出する複数の赤外線検出画素がマトリクス状に配列された有感度画素領域と、複数の参照画素が設けられる参照画素領域と、を備えている。各赤外線検出画素は前記入射赤外線を吸収して熱に変換する赤外線吸収膜と、この赤外線吸収膜によって変換された熱を電気信号に変換する第1熱電変換素子と、を有する熱電変換部を有し、各参照画素は、第2熱電変換素子を有し、参照画素のそれぞれの一端が共通の参照電位線に接続され、赤外線検出画素からの信号線を介して読み出された信号電位と、参照電位線からの参照電位との差を増幅して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線は、可視光よりも煙、霧に対して透過性が高いという特長を有するので、赤外線撮像は、昼夜にかかわらず可能である。また、赤外線撮像は、被写体の温度情報をも得ることができるので、防衛分野をはじめ監視カメラや火災検知カメラのように広い応用範囲を有する。
【0003】
近年、冷却機構を必要としない「非冷却型赤外線固体撮像素子」の開発が盛んになってきている。非冷却型すなわち熱型の赤外線固体撮像装置は、波長10μ程度の入射赤外線を吸収構造により熱に変換した上で、この微弱な熱により生じる感熱部の温度変化をなんらかの熱電変換素子により電気信号に変換する。非冷却型赤外線固体撮像装置は、この電気信号を読み出すことで赤外線画像情報を得る。
【0004】
例えば、一定の順方向電流を与えることにより温度変化を電圧変化に変換するシリコンpn接合を用いた赤外線センサ(赤外線固体撮像素子)が知られている(特許文献1)。この赤外線センサは、半導体基板としてSOI(Silicon on Insulator)基板を用いることによって、シリコンのLSI製造プロセスを用いて量産することができるという特長がある。また、熱電変換素子であるシリコンpn接合(ダイオード)の整流特性を利用して、行選択の機能を実現しているので画素構造が極めてシンプルに構成できるという特長もある。
【0005】
赤外線センサの性能を表す指標の一つは、赤外線センサの温度分解能を表現するNETD(Noise Equivalent Temperature Difference(等価雑音温度差))である。NETDを小さくすること、すなわち、雑音に相当する検出温度差を小さくすることが重要である。そのためには信号の感度を高くすること、および雑音を低減することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−300475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、増幅トランジスタの閾値ばらつきの影響を低減するための閾値電圧クランプ処理が記載されている。この閾値電圧クランプ処理は、サンプリングトランジスタがオンになると、信号線と容量結合された増幅トランジスタのゲートに負電荷が蓄積される。このとき、信号線と増幅トランジスタとの間の結合容量の電圧は、(Vdd−Vref)−Vthに収束させることが好ましい。ここで、Vddは行選択回路が画素に与えるバイアス電圧であり、Vrefは定負荷トランジスタから信号線に与えられる電圧であり、Vthは画素の閾値電圧である。この閾値電圧クランプ処理では、各列の増幅トランジスタの閾値電圧のばらつきを補償することができるが、各列において、閾値電圧クランプを行った瞬間に信号線に存在するノイズ成分がホールドされてしまい、以降、行選択時に常にその情報を参照するため、縦スジノイズが現れるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、信号の読み出し時のノイズを可及的に少なくすることのできる赤外線固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による赤外線固体撮像素子は、半導体基板と、前記半導体基板上に、入射赤外線を検出する複数の赤外線検出画素がマトリクス状に配列された有感度画素領域と、複数の参照画素が設けられる参照画素領域と、を備える撮像領域であって、各赤外線検出画素は前記入射赤外線を吸収して熱に変換する赤外線吸収膜と、この赤外線吸収膜によって変換された熱を電気信号に変換する第1熱電変換素子と、を有する熱電変換部を有し、各参照画素は、第2熱電変換素子を有している、撮像領域と、前記撮像領域内に、前記赤外線検出画素の各行に対応して設けられ、それぞれが対応する行の赤外線検出画素の前記第1熱電変換素子の一端に接続されて前記対応する行の赤外線検出画素を選択する、複数の行選択線と、前記撮像領域内に、前記赤外線検出画素の各列に対応して設けられ、それぞれが対応する列の赤外線検出画素の前記第1熱電変換素子の他端に接続されて前記対応する列の赤外線検出画素からの電気信号を信号電位として読み出すための複数の信号線と、前記複数の参照画素のそれぞれの前記第2熱電変換素子の一端が接続される参照電位線と、前記複数の参照画素のそれぞれに対応して設けられた複数の定電流源であって、各定電流源は、対応する参照画素の前記第2熱電変換素子の他端に接続される、複数の定電流源と、各信号線に対応して設けられた複数の増幅器であって、各増幅器は対応する信号線から読み出された前記信号電位と、前記参照電位線からの参照電位との差を増幅する複数の増幅器と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信号の読み出し時のノイズを可及的に少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態による赤外線固体撮像素子の構成を示す回路図。
【図2】第1実施形態に用いられる有感度画素の平面図。
【図3】第1実施形態に用いられる有感度画素の断面図。
【図4】第1実施形態に用いられる無感度画素の一具体例の平面図。
【図5】第1実施形態に用いられる無感度画素の一具体例の断面図。
【図6】第1実施形態に用いられる無感度画素の他の具体例の平面図。
【図7】第1実施形態に用いられる無感度画素の他の具体例の断面図。
【図8】第1実施形態による赤外線固体撮像素子における無感度画素の配置示す図。
【図9】第2実施形態による赤外線固体撮像素子における無感度画素の配置示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による赤外線固体撮像素子の構成を図1に示す。本実施形態の赤外線固体撮像素子1は半導体基板(図示せず)上に形成され、マトリクス状に配列された画素を含む撮像領域10と、読み出し回路30と、行選択回路40と、列選択回路42と、を備えている。
【0014】
撮像領域10は、有感度画素領域300と、無感度画素領域(参照画素領域)500とを有している。有感度画素領域300には、4行2列に配列された8個の画素1211、1212、1221、1222、1231、1232、1241、1242を有している。また、無感度画素領域500には、4行1列に配列された8個の画素11、11、11、11を有している。一般に撮像領域は、通常、より多くの画素を備えているが、本実施形態では、便宜的に12画素とする。無感度画素領域500に1列に配列された画素11、11、11、11は赤外線に対する感度を有しない無感度画素(参照画素ともいう)であり、図中では、TB(Thermal Black Pixel)と表している。また、有感度画素領域300の第1列および第2列に配列された画素1211、1212、1221、1222、1231、1232、1241、1242は赤外線を検出することの可能な有感度画素(赤外線検出画素ともいう)であり、図中ではIR(Infrared Radiation Detection Pixel)と表している。無感度画素11、11、11、11は、熱的無感度画素(TB)または光学的無感度画素(OB(Optical Black Pixel))のいずれかでよい。熱的無感度画素または光学的無感度画素の構造は後述する。各画素11、11、11、114、1211、1212、1221、1222、1231、1232、1241、1242は、熱電変換素子、例えばpn接合からなるダイオード14を少なくとも1個備えている。
【0015】
第1行の有感度画素1211、1212のそれぞれのダイオード14のアノードは、行選択線16に接続され、第2行の有感度画素1221、1222のそれぞれのダイオード14のアノードは、行選択線16に接続され、第3行の有感度画素1231、1232のそれぞれのダイオード14のアノードは、行選択線16に接続され、第4行の有感度画素1241、1242のそれぞれのダイオード14のアノードは、行選択線16に接続されている。行選択線16、16、16、16のそれぞれは、行選択回路40によって1行ずつ順次選択され、選択された行選択線にはバイアス電圧Vdが印加される。
【0016】
第1列の有感度画素1211、1221、1231、1241のそれぞれのダイオード14のカソードは、第1列の垂直信号線(以下、単に信号線ともいう)18に接続され、第2列の有感度画素1212、1222、1232、1242のそれぞれのダイオード14のカソードは、第2列の垂直信号線18に接続されている。
【0017】
また、読み出し回路30は、差動増幅回路31、31と、列選択トランジスタ34、34と、を備えている。差動増幅回路31(i=1,2)の出力は、列選択トランジスタ34を通して水平信号線38に出力される。列選択トランジスタ34(i=1,2)のゲートは列選択回路42によって接続され、この列選択回路42によって選択されることにより、選択された列選択トランジスタ34がオンする。
【0018】
各垂直信号線18(i=1,2)の一端は、負荷トランジスタ41のドレインに接続され、他端は差動増幅回路31の正側入力端子に接続されている。各負荷トランジスタ41(i=1,2)は、飽和領域で動作し、そのゲートに印加されるゲート電圧に応じて、垂直信号線に定電流を供給する。すなわち、負荷トランジスタ41(i=1,2)は、定電流源として機能する。
【0019】
一方、各無感度画素11(i=1,2,3,4)のダイオード14のアノードは、バイアス電圧Vdが印加され、カソードは、参照電位線19に接続されている。また、参照電位線19は、負荷トランジスタ51、51、51、51のドレインが接続されるとともに、差動増幅回路31、31の負側入力端子に接続される。各負荷トランジスタ51(i=1,2,3,4)は、飽和領域で動作し、そのゲートに印加されるゲート電圧に応じて、垂直信号線に定電流を供給する。すなわち、負荷トランジスタ51(i=1,2,3,4)は、定電流源として機能する。
【0020】
行選択回路40が選択した行選択線、例えば、行選択線16にバイアス電圧Vdを印加すると、選択された行選択線16の有感度画素1211、1212のダイオード14に、直列電圧Vd―Vd0が印加されることになる。一方、非選択の行選択線16、16、16に接続されている有感画素1221、1222、1231、1232、1241、1242のダイオード14は、すべて逆バイアスされているので、非選択の行選択線16、16、16と信号線18、18とは分離されている。即ち、ダイオード14は、画素選択機能を担っているといってもよい。
【0021】
赤外線を受光していない時の垂直信号線18、18の電位をVsl0と定義する。有感度画素12ij(i=1,2,3,4、j=1,2)は、赤外線を受光すると、画素温度が上昇する。それにより、垂直信号線18、18の電位Vslは高くなる。例えば、被写体温度が1K(ケルビン)変化すると、有感度画素12ij(i=1,2,3,4、j=1,2)の温度は約5mK変化する。熱電変換効率を10mV/Kとすると、垂直信号線18、18の電位は約50μVだけ上昇する。これは、バイアス電圧Vdに比べて非常に小さい。
【0022】
また、有感度画素12ij(i=1,2,3,4、j=1,2)は、半導体基板の温度を反映して特性が変化するため、信号と基板温度とを区別することができない。すなわち、例えば環境温度が1K変化しただけでも赤外線検出信号の200倍程度に値する出力変化が生じてしまうことになる。
【0023】
無感度画素11(i=1,2,3,4)は、赤外線に対して不感であるため、半導体基板の温度情報のみを反映している。したがって、有感度画素の出力信号と、無感度画素の出力信号の差分をとれば、赤外線情報のみを検出することができることになる。
【0024】
無感度画素が半導体基板に1個しかなく、その出力信号を参照信号とする場合、無感度画素に生じた電気ノイズをも参照信号としてしまうため、結果的にベースとなる電位が揺らいでしまうことになる。これは動画としてみたばあいにフリッカ(ゆらぎ)として見えることになる。
【0025】
本実施形態では、無感度画素11〜11を複数個(図1では4個)並列に接続し、それらの出力を平均化することでノイズ成分を抑圧する。具体的には、無感度画素11〜11の各ダイオード14のアノード側に共通電位となる電源電圧Vddを与え、カソード側は共通出力電位となる参照電位線19に接続する。この参照電位線19に、無感度画素と同数設置された負荷トランジスタ51〜51のドレインを接続して定電流を流す。ここで、負荷トランジスタ51〜51を4個配置することと、負荷トランジスタ51〜51に対しゲート幅が4倍のトランジスタを1個配置することは等価である。しかし、本実施形態においては、負荷トランジスタ51(i=1,2,3,4)は、有感度画素に接続された負荷トランジスタ41(j=1,2)に対し製造ばらつきが同等であることを考慮して、無感度画素と同数設置としている。負荷トランジスタ51(i=1,2,3,4)のゲート電位は有感度画素に接続された負荷トランジスタ41(j=1,2)のゲート電位と同電位のGL1とし、同じ電流が流れるようにする。
【0026】
このとき、参照電位線19の電位(参照電位)は、無感度画素11〜11にばらつき及び時間変動ノイズが無い場合、Vdd−Vrefとなる。ここでVrefは無感度画素11〜11の順方向電圧である。無感度画素11(i=1,・・・,n)の順方向電圧にδVref(i)のばらつきがある場合、参照電位線19の電位は、
Vdd−Vref+ΔVref
で与えられ、ΔVrefは、
(δVref(1)+δVref(2)+…+δVref(n)1/2/n
と表される。ここでnは無感度画素の総数である。例えば、各無感度画素に対してばらつき及び時間変動ノイズδVref(i)が同等の10μVであるとすると、n=1の場合は、ΔVref=10μVとなり、n=100の場合は、ΔVref=1μVとなって、nの平方根に逆比例してノイズ電圧が下がっていく。すなわち、無感度画素を多数接続すればするほど、参照電位のSN比、または安定性が向上していく。
【0027】
こうして得られた参照電位は、差動増幅回路31、31の負側入力端子に入力され、垂直信号線18、18に現れた信号電位との差分信号が差動増幅回路31、31から出力される。各列の差分信号は、列選択トランジスタ34、34を介して水平信号線33に接続されており、水平選択トランジスタ24のゲートには列選択回路42からのパルス電圧が列ごとに印加される。こうして、1列ごとの差分信号が水平信号線38に順番に掃きだされ、出力される。
【0028】
以上説明したように、行選択回路40に行選択線を交互に選択し、選択された行選択線に接続されている有感度画素によって被写体の温度変化が電気信号として取り出されて、この電気信号が信号電位として信号線に読み出され、参照電位との差分信号が差動増幅回路によって増幅され、この増幅された差分信号は、列選択トランジスタ34、34によって順番に水平信号線38に読み出される。
【0029】
解決しようとする課題の項に述べたように、従来の閾値電圧クランプ処理では、閾値電圧クランプを行った瞬間に信号線に存在するノイズ成分がホールドされてしまい、以降、行選択線の選択時に常にその情報を参照するため、縦スジノイズが現れるという問題があった。
【0030】
これに対して、本実施形態の赤外線固体撮像素子においては、全ての有感度画素に対して、無感度画素との差分信号が常に比較出力されるため、原理的にノイズがホールドされず、縦スジノイズを発生しない。
【0031】
次に、本実施形態による赤外線固体撮像素子の有感度画素の構造を図2および図3を参照して説明する。図2は本実施形態による赤外線固体撮像素子の有感度画素12の平面図であり、図3は図2示す切断線A−Aで切断したときの断面図である。有感度画素12は、SOI基板上に形成される。このSOI基板は、支持基板101と、埋め込み絶縁層(BOX層)102と、シリコン単結晶からなるSOI(Silicon-On-Insulator)層と、を有し、表面部分に凹部110が形成されている。そして有感度画素12は、上記SOI層に形成された熱電変換部13と、熱電変換部13を凹部110の上方に支持する支持構造部130a、130bと、を備えている。熱電変換部13は、直列に接続された複数(図2および図3では2個)のダイオード14と、これらのダイオード14を接続する配線120と、これらのダイオード14および配線120を覆うように形成された赤外線吸収膜124とを備えている。支持構造部130aは、一端が対応する行選択線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の一端に接続される接続配線132aと、この接続配線132aを覆う絶縁膜134aとを備えている。他方の支持構造部130bは、一端が対応する垂直信号線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の他端に接続される接続配線132bと、この接続配線132bを覆う絶縁膜134bとを備えている。
【0032】
赤外線吸収膜124は入射された赤外線によって発熱する。ダイオード14は、赤外線吸収膜124で発生した熱を電気信号に変換する。支持構造部130a、130bは、熱電変換部13の周囲を取り巻くように細長く形成されている。これにより、熱電変換部13は、SOI基板からほぼ断熱された状態でSOI基板上に支持される。
【0033】
このような構造を有することにより、有感度画素12は、入射された赤外線に応じて発生した熱を蓄熱し、この熱に基づいた電圧を信号線に出力することができる。
【0034】
行選択線からのバイアス電圧Vdは、配線132aを介してダイオード14へ伝達される。ダイオード14のカソード側電圧、すなわち信号電圧は、配線132bを介して垂直信号線に伝達される。
【0035】
次に、本実施形態による赤外線固体撮像素子の無感度画素の一具体例の構成を図4乃至図5を参照して説明する。図4はこの具体例の無感度画素11の平面図であり、図5は図4に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。この無感度画素11は、熱的無感度画素(TB)であって、有感度画素12と同様に、SOI基板上に形成される。しかし、無感度画素11が形成されるSOI基板の領域には、有感度画素12の場合と異なり、凹部110は形成されていない。そして無感度画素11は、上記SOI基板のSOI層に形成され直列に接続された複数(図4および図5では2個)のダイオード14と、これらのダイオード14を接続する配線120と、一端が一定の電位Vddの電源線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の一端に接続される接続配線142aと、一端が対応する参照電位線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の他端に接続される接続配線142bと、これらのダイオード14、配線120、接続配線142a、142bを覆うように形成された絶縁膜125と、を備えている。
【0036】
このように構成された無感度画素11においては、ダイオード14で発生した熱は、その周囲の絶縁膜125、埋め込み絶縁層102およびバルク基板(図示せず)へ拡散する。即ち、ダイオード14とその周囲の構造との熱コンダクタンスは、有感度画素12のそれよりも高い。この具体例の無感度画素11は、凹部110を有しないため、蓄熱機能を有しない。したがって、この具体例の無感度画素11は、SOI基板の温度を反映する。このような無感度画素は基板温度測定画素とも呼ばれる。
【0037】
次に、本実施形態による赤外線固体撮像素子の無感度画素の他の具体例の構成を、図6乃至図7を参照して説明する。図6はこの具体例の無感度画素11Aの平面図であり、図7は図6に示す切断線C−Cで切断したときの断面図である。この具体例の無感度画素11Aは、光学的無感度画素(OB)であって、有感度画素12と同様に、表面部分に凹部110が形成されたSOI基板に形成される。そして無感度画素11Aは、上記SOI層に形成された反射部13Aと、反射部13Aを凹部110の上方に支持する支持構造部140a、140bと、を備えている。反射部13Aは、直列に接続された複数(図6および図7では2個)のダイオード14と、これらのダイオード14を接続する配線120と、これらのダイオード14および配線120を覆うように形成された赤外線反射膜150と、これらのダイオード14、配線120、および赤外線反射膜150を覆うように形成された赤外線吸収膜124とを備えている。支持構造部140aは、一端が一定の電位Vddの電源線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の一端に接続される接続配線142aと、この接続配線142aを覆う絶縁膜144aとを備えている。他方の支持構造部140bは、一端が対応する参照電位線に接続され他端が直列に接続されたダイオードからなる直列回路の他端に接続される接続配線142bと、この接続配線142bを覆う絶縁膜144bとを備えている。なお、赤外線反射膜150としては、赤外線を十分に反射するために、アルミニウム膜を用いることが望ましい。
【0038】
このような構成の無感度画素11Aは、赤外線吸収膜124内に赤外線反射膜150を有している点で、有感度画素12と異なっている。この光学的無感度画素11Aは、赤外線を反射するため、赤外線に対し不感である。それ以外の点は、有感度画素12と構造が同じであるため、参照画素としては基板温度測定画素(熱的無感度画素)11よりも適している。例えば、有感度画素(赤外線検出画素)12の温度は、半導体基板101の温度に、熱電変換部12を選択した際に発生したジュール熱が加わり、さらに赤外線信号に対応する温度成分が加わっている。半導体基板101の温度が25℃であるとすると、ジュール熱はおよそ0.1℃程度、赤外線信号に対応する温度成分は、被写体の温度が1℃変化した際におよそ0.01℃程度のオーダーとなる。光学的無感度画素(OB)11Aは、赤外線検出画素と同じく、半導体基板101の温度およびジュール熱による温度成分を持っており、温度成分を再現している点で忠実な無感度画素であるといえる。
【0039】
なお、熱的無感度画素(TB)11は、ジュール熱による温度成分を持たないが、空洞部110を有していないため、空洞部110の形成に起因して発生する画素間I−V特性ばらつきが少ない。したがって、熱的無感度画素(TB)を用いることにより、素子間の参照電圧値ばらつきが抑えられるという利点がある。
【0040】
ダイオード14に通電を行った際に生じるジュール熱成分は、熱的無感度画素11には存在せず、この点で有感度画素12と差異があったが、光学的無感度画素11Aでは赤外線による温度変化以外は同じ温度成分を持つ。赤外線反射膜124は、差動増幅回路31、31等を構成する配線層と同層に構成してもよい。この場合、製造プロセスを短縮することができ、コスト低減が可能である。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、無感度画素と有感度効画素の差分を出力するにあたって原理的に発生するノイズを低減することが可能となり、高S/N化を達成することができる。
【0042】
また、本実施形態においては、画素は、熱を電気信号に換える熱電変換素子とし、ダイオードを用いたが、抵抗体であってもよい。
【0043】
本実施形態で説明した無感度画素領域500は任意に位置に配置可能であるが、本実施形態では、例えば、図8に示すように、有感度画素(赤外線検出画素(IMG))12がマトリクス状に配置された有感度画素アレイの上辺および左辺に隣接するように無感度画素11を配置する。図中では赤外線検出画素12は5行5列のマトリクス状に配置されており、この場合、無感度画素数11は11個となる。実際には赤外線検出画素12は120行160列、あるいは240行320列、480行640列等に配置されることが一般的であり、その場合、無感度画素110の総数はそれぞれ、281個、561個、1121個となる。この場合、無感度画素110が1個の場合に比べて、参照電圧のSN比をそれぞれ16.8倍、23.7倍、33.7倍に向上することができる。
【0044】
このように、有感度画素アレイの上辺および左辺に配置することによって、面積を有効に使いながら無感度画素11の数を増やすことができ、また、無感度画素11と赤外線検出画素12からなる領域の温度分布をより正確に監視することができる。
【0045】
無感度画素11の配置位置は、有感度画素アレイの上辺および左辺に限らず、上辺および右辺に配置するか、または下辺および左辺に配置してもよい。あるいは、有感度画素アレイの4辺を取り囲むように無感度画素11を配置してよい。また、無感度画素11は有感度画素アレイの辺に対して2列または2行以上配置してもかまわない。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による赤外線固体撮像素子について図9を参照して説明する。本実施形態の赤外線固体撮像素子は、第1実施形態の赤外線固体撮像素子とは、無感度画素の配置のみが異なっている。
【0047】
本実施形態では、図9に示したように、無感度画素領域500は、各無感度画素毎に設けられるサブ領域501からなっており、サブ領域501の無感度画素11を、有感度画素(赤外線検出画素)12からなる有感度画素アレイの内部に配置する。この場合も、それぞれの無感度画素11は、図1に示す無感度画素領域500に対応するように配線連結されている。配線は、画素と画素の間隙に配置する。
【0048】
本実施形態の場合、無感度画素11、例えば図9に示す第2行第2列(X座標=2、Y座標=2)に位置する無感度画素11は、この部分では被写体を撮像することができない。そこで、当画素を取り囲んでいる8個の赤外線検出画素12を用いて、被写体信号を補間する処理を行う。補間処理は、半導体基板から出力された信号に対して、カメラ回路にておこなえばよい。図9に示す第2行第2列(X座標=2、Y座標=2)に位置する無感度画素11に被写体信号を補間する場合、信号値をAXYと表す(X、Yは図9中のX座標、Y座標を示す)と、この無感度画素11における補間信号A22は、
22=(A21+A12+A32+A23)÷6+(A11+A31+A13+A33)÷12
となるように計算を行えばよい。例えばA21=80、A12=84、A32=77、A23=88、A11=68、A31=76、A13=90、A33=76である場合は、A22=81となる。上記補間式は、縦方向および横方向に位置する有感度画素の信号値は、対角方向に位置する有感度画素の信号値の2倍の重みをつけて加重平均したものである。
【0049】
無感度画素11の配置周期は、上記補間式のような補間処理を行うためには、2行2列おきよりも疎であるように配置することが望ましい。
【0050】
本実施形態によれば、実際に赤外線を検出する画素の近傍にて参照信号を得ることが出来るために、より忠実に基板温度分布をモニターすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 赤外線固体撮像素子
11 無感度画素(熱的無感度画素)
11A 無感度画素(光学的無感度画素)
11、11 無感度画素
12 有感度画素
1211、1212、1221、1222 有感度画素
13 熱電変換部
13A 反射部
14 ダイオード
16、16 行選択線
18、18 垂直信号線(信号線)
19 参照電位線
30 読み出し回路
31、31 差動増幅回路
34、34 列選択トランジスタ
38 水平信号線
40 行選択回路
41、41 負荷トランジスタ
42 列選択回路
51〜51 負荷トランジスタ
101 支持基板
102 埋め込み絶縁層
110 凹部
120 配線
124 赤外線吸収膜
130a、130b 支持構造部
132a、132b 接続配線
134a、134b 絶縁膜
140a、140b 支持構造部
142a、142b 接続配線
144a、144b 絶縁膜
150 赤外線反射膜
300 有感度画素領域
500 無感度画素領域(参照画素領域)
501 サブ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に、入射赤外線を検出する複数の赤外線検出画素がマトリクス状に配列された有感度画素領域と、複数の参照画素が設けられる参照画素領域と、を備える撮像領域であって、各赤外線検出画素は前記入射赤外線を吸収して熱に変換する赤外線吸収膜と、この赤外線吸収膜によって変換された熱を電気信号に変換する第1熱電変換素子と、を有する熱電変換部を有し、各参照画素は、第2熱電変換素子を有している、撮像領域と、
前記撮像領域内に、前記赤外線検出画素の各行に対応して設けられ、それぞれが対応する行の赤外線検出画素の前記第1熱電変換素子の一端に接続されて前記対応する行の赤外線検出画素を選択する、複数の行選択線と、
前記撮像領域内に、前記赤外線検出画素の各列に対応して設けられ、それぞれが対応する列の赤外線検出画素の前記第1熱電変換素子の他端に接続されて前記対応する列の赤外線検出画素からの電気信号を信号電位として読み出すための複数の信号線と、
前記複数の参照画素のそれぞれの前記第2熱電変換素子の一端が接続される参照電位線と、
前記複数の参照画素のそれぞれに対応して設けられた複数の定電流源であって、各定電流源は、対応する参照画素の前記第2熱電変換素子の他端に接続される、複数の定電流源と、
各信号線に対応して設けられた複数の増幅器であって、各増幅器は対応する信号線から読み出された前記信号電位と、前記参照電位線からの参照電位との差を増幅する複数の増幅器と、
を備えていることを特徴とする赤外線固体撮像素子。
【請求項2】
前記参照画素領域は、前記複数の赤外線検出画素がマトリクス状に配列された前記有感度画素領域の少なくとも2辺を取り囲むように配置されていることを特徴とする請求項1記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項3】
前記参照画素領域は、各参照画素毎に設けられたサブ領域を有しており、各サブ領域は、前記有感度画素領域内に、前記サブ領域の参照画素が1個の赤外線検出画素と置き換わるように設けられることを特徴とする請求項1記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項4】
前記半導体基板の表面部分には、前記複数の赤外線検出画素に対応してマトリクス状に配列された複数の凹部が形成され、前記赤外線検出画素のぞれぞれは、前記熱電変換部を対応する凹部の上方に支持する第1および第2支持構造部を更に有し、前記第1支持構造部は一端が対応する赤外線検出画素の熱電変換素子の一端に接続され、他端が対応する赤外線検出画素が接続する行選択線に接続される第1接続配線を有し、前記第2支持構造部は一端が対応する赤外線検出画素の熱電変換素子の他端に接続され、他端が対応する赤外線検出画素が接続する信号線に接続される第2接続配線を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項5】
前記参照画素は、前記入射赤外線の熱に感度を有しない熱的無感度画素であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項6】
前記参照画素は、前記第2熱電変換素子を覆うように形成され前記入射赤外線を反射する赤外線反射膜を有している光学的無感度画素であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項7】
前記第1および第2熱電変換素子は直列に接続されたダイオードであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項8】
前記第1および第2熱電変換素子は直列に接続された抵抗体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の赤外線固体撮像素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−216833(P2010−216833A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60843(P2009−60843)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】