説明

赤色蛍光体の製造方法

【課題】高パワーでの駆動時でも色ずれの少ない発光装置を実現できる赤色蛍光体の製造方法の提供。
【解決手段】斜方晶系に属し、下記一般式(1):
(M1−xEC (1)
で表わされる組成を有するSrAlSiON13属結晶を含む蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、および前記発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を原料として用い、これらの原料を混合してから焼成することを含んでなることを特徴とする、蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードを用いたLEDランプは、携帯機器、PC周辺機器、OA機器、各種スイッチ、バックライト用光源、および表示板などの各種表示装置に用いられている。これらLEDランプは高効率化が強く望まれており、加えて一般照明用途には高演色化、バックライト用途には高色域化の要請がある。高効率化には、蛍光体の高効率化が必要であり、高演色化あるいは高色域化には、青色の励起光と青色で励起され緑色の発光を示す蛍光体および青色で励起され赤色の発光を示す蛍光体を組み合わせた白色光源が望ましい。
【0003】
また、高負荷LEDは駆動により発熱し、蛍光体の温度が100〜200℃程度まで上昇することが一般的である。このような温度上昇が起こると蛍光体の発光強度は一般に低下する。このため蛍光体は、温度が上昇した場合であっても発光強度の低下(温度消光)が少ないことが望まれている。
【0004】
かかるLEDランプに用いるのに適当な、青色光で励起された場合に緑色の発光を示す蛍光体の例として、Eu付活アルカリ土類正ケイ酸塩蛍光体、赤色の発光を示す蛍光体の例として、Eu付活アルカリ土類正ケイ酸塩蛍光体が挙げられる。この緑色蛍光体は460nm励起では、吸収率73%、内部量子効率85%、発光効率62%、赤色蛍光体は460nm励起では、吸収率82%、内部量子効率66%、発光効率54%程度の性能を有するものである。これらの蛍光体を組み合わせて用いて白色光を形成させた場合、励起光当り186lm/W、平均演色評価数Ra=86の高効率かつ高演色な白色光が得られる。
【0005】
しかしながら、これらのEu付活アルカリ土類正ケイ酸塩蛍光体を高負荷LEDに用いた場合、前記したような発光強度の低下が起こる。このとき、青色LEDの温度上昇に伴う発光強度の低下は僅かであるのに対し、これらの蛍光体は温度消光が顕著であるために、LEDによる発光と、蛍光体による発光とのバランスが崩れやすい。さらには、緑色蛍光体と赤色蛍光体の温度消光の挙動が異なる為、負荷の増加に伴い、緑色と赤色とのバランスも崩れやすい。この結果、青色発光、緑色発光、および赤色発光のバランスが崩れ、顕著な「色ずれ」を引き起こされるという問題が有った。
【特許文献1】特開2004−115633号公報
【特許文献2】特開2002−531955号公報
【特許文献3】特開2005−520916号公報
【特許文献4】特開2004−516688号公報
【非特許文献1】International Tables for Crystallography, Volume A: Space−group symmetry, T. Hahn編,Springer(オランダ国)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような従来の問題点に鑑みて、高パワーでの駆動時でも色ずれの少ない発光装置を実現できる蛍光体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態である蛍光体の製造方法は、斜方晶系に属し、下記一般式(1):
(M1−xEC (1)
(式中、MはSrであり、
ECはEuであり、
は、Alであり、
は、Siであり、
0<x<0.4,
0.65<a<0.70、
2<b<3、
0.3<c<0.6、
4<d<5)
で表わされる組成を有するSrAlSiON13属結晶を含む蛍光体であって、前記SrAlSiON13属結晶は、その結晶構造における格子定数および原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さが、SrAlSiON13の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内である蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、および前記発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を原料として用い、これらの原料を混合してから焼成することを含んでなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の一実施形態である発光装置は、
斜方晶系に属し、下記一般式(1):
(M1−xEC (1)
(式中、MはSrであり、
ECはEuであり、
は、Alであり、
は、Siであり、
0<x<0.4,
0.65<a<0.70、
2<b<3、
0.3<c<0.6、
4<d<5)
で表わされる組成を有するSrAlSiON13属結晶を含む蛍光体であって、前記SrAlSiON13属結晶は、そのXRDプロファイルの回折ピークのうちの回折強度の強い10本のピーク位置が、SrAlSiON13のXRDプロファイルの回折ピークのピーク位置と一致する蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、および前記発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を原料として用い、これらの原料を混合してから焼成することを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、量子効率が高く、発光強度の高い赤色蛍光体の製造方法が提供される。この赤色蛍光体は、温度が上昇した場合であっても発光強度の低下が小さい。また、本発明の製造方法により製造された蛍光体によれば、高パワーでの駆動時でも色ずれの少ない発光装置が提供される。このような発光装置は、色ずれ、すなわち発光の色変化が小さいために実用性がきわめて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、結晶構造および組成を限定した酸窒化物化合物に発光中心元素を添加することによって、量子効率が高く温度特性の良好な赤色蛍光体が得られることを見出した。さらに本発明者らは、この赤色蛍光体に、特定の緑色蛍光体を組み合わせることによって、高パワーでの駆動時でも色ずれの少ない発光装置が得られることを見出した。
【0011】
以下に本発明による赤色蛍光体と、それを用いた発光装置について説明する。
【0012】
赤色蛍光体
本発明の一実施態様である赤色蛍光体(R)は、波長250〜500nmの光で励起した際に波長580〜650nmの間にピークを有する発光を示すものである。そしてその構造は、金属元素Mと、前記金属元素Mとは異なる3価の元素群から選ばれる元素Mと、前記金属元素Mとは異なる4価の元素群から選ばれる元素Mと、OおよびNの一方または両方を含む組成を有し、前記金属元素Mの一部が発光中心元素ECにより置換された無機化合物を含む蛍光体であって、前記蛍光体の結晶構造における格子定数および原子座標から計算されたM−NおよびM−Nの化学結合の長さが、SrAlSiON13の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内であることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、金属元素Mは、Li、Na、およびK等のIA族(アルカリ金属)元素、Mg、Ca、Sr、およびBa等のIIA族(アルカリ土類金属)元素、B、Ga、およびIn等のIIIA族元素、Y、およびSc等のIIIB族元素、Gd、La、およびLu等の希土類元素、ならびにGe等のIVA族元素から選ばれるものが好ましい。金属元素Mは、一種類の元素であっても、または2種類以上の元素が組み合わされていてもよい。
【0014】
元素Mは、元素Mとは異なるものであり、3価の元素群から選択される。3価の元素は、IIIA族およびIIIB族から選ばれるものが好ましく、具体的には、Al、B、Ga、In、Sc、Y、La、Gd、およびLu等が挙げられる。元素Mは、一種類の元素であっても、または2種類以上の元素が組み合わされていてもよい。
【0015】
元素Mは、元素Mとは異なるものであり、4価の元素群から選択される。4価の元素は、IVA族およびIVB族から選ばれるものが好ましく、具体的には、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、およびHf等が挙げられる。元素M2は、一種類の元素であっても、または2種類以上の元素が組み合わされていてもよい。
ここで、金属元素Mと元素MまたはMには、同一の元素が包含されているが、本発明における蛍光体においては、MおよびMは、Mとは異なる元素が選択される。
本発明における蛍光体は、これらの元素M、M、M、ならびにO、および/またはNを基本とする結晶構造を有するが、Mの一部が発光中心元素ECに置換されていることが必要である。
発光中心元素ECとしては、例えば、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeなどが挙げられる。発光波長の可変性等を考慮すると、これらのうち、EuおよびMnの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0016】
発光中心元素ECは、元素Mの少なくとも0.1モル%を置換することが望まれる。置換量が0.1モル%未満の場合には、十分な発光効果を得ることが困難となる。発光中心元素Rは、元素Mの全量を置き換えてもよいが、置換量が50モル%未満の場合には、発光確率の低下(濃度消光)を極力抑制することができる。 そして、本発明による赤色蛍光体(R)は、波長250〜500nmの光で励起した際、黄色から赤色にわたる領域の発光、すなわち波長580〜650nmの間にピークを有する発光を示すものである。
【0017】
本発明による発光装置に用いられる赤色蛍光体は、SrAlSiON13をベースとして、その構成元素であるSr、Si、Al、O、またはNが他の元素で置き換わったり、Euなどのほかの金属元素が固溶したものであるということもできる。このような置き換え等によって、結晶構造が若干変化することがある。しかし、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることは少ない。そして本発明の赤色蛍光体の基本的な結晶構造が変化しない範囲で本発明の効果を奏することができる、このような基本的な結晶構造が変化しない範囲は以下のように定義することができる。すなわち、本発明においては、X線回折や中性子線回折により求めた格子定数および原子座標から計算されたM−NおよびM−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すSrAlSiON13の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内であるときに結晶構造が変化していないと定義する。本発明による蛍光体はこのような結晶構造を有することを必須とする。この範囲を超えて化学結合の長さが変化すると、その化学結合が切れて別の結晶となり、本発明による効果を得ることができなくなる。
【0018】
【表1】

【0019】
このような、本発明による赤色蛍光体のひとつは、下記組成式(1)で示されるものが好ましい。
(M1−xECSiAlO (1)
(1)中、MおよびECは前記した通りであり、
0<x<0.4、好ましくは0.02≦x≦0.2、
0.65<a<0.70、好ましくは0.66≦a≦0.69、
2<b<3、好ましくは2.2≦b≦2.4、
0.3<c<0.6、好ましくは0.43≦c≦0.51、
4<d<5、好ましくは4.2≦d≦4.3である。
【0020】
本発明による赤色蛍光体は、SrAlSiON13と実質的に同一の結晶構造を有する無機化合物を基本とし、その構成元素の一部が発光元素に置換されたものであり、各元素の組成が所定の範囲内に規定されている。このときに良好な量子効率を示し、発光素子に用いられたときに温度消光が小さいという好ましい温度特性を示す。
【0021】
SrAlSiON13結晶は斜方晶系で、格子定数は、a=11.8033(13)Å、b=21.589(2)Å、c=5.0131(6)Åであり、図2に示すXRDプロファイルを呈する。この結晶は空間群Pna21(非特許文献1に示された空間群のうちの164番目)に属する。なお、結晶の空間群は単結晶XRDにより決定することができる。SrAlSiON13結晶の結晶構造は図3に示す通りである。
【0022】
本発明による蛍光体は、X線回折や中性子回折により同定することができる。すなわち、ここで示されるSrAlSiON13のXRDプロファイルと同一のプロファイルを示す物質の他に、構成元素が他の元素と入れ替わることにより格子定数が一定範囲で変化したものも、本発明による蛍光体に包含されるものである。ここで、構成元素が他の元素で置き換わるものとは、SrAlSiON13結晶中のSrが元素Mおよび/または発光中心元素ECで、元素Siの位置が4価の元素からなる群、例えばGe、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で、Alの位置が3価の元素からなる群、例えばB、Ga、In、Sc、Y、La、Gd、Luからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で、OまたはNの位置がO、N、Cからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で置換された結晶のことである。また、AlがSiに互いに置き換わると同時に、OとNが置き換わった、例えばSrAlSi14、SrAlSi12、Srl5Si11、SrAlSi10等もSrAlSiON13属結晶である。
【0023】
さらに、固溶量が小さい場合には、SrAlSiON13属結晶の簡便な判定方法として次の方法がある。新たな物質について測定したXRDプロファイルの回折ピーク位置が主要ピークについて一致した時に、当該結晶構造が同じものと特定することができる。主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判断すると良い。
【0024】
緑色蛍光体
本発明において用いられる緑色蛍光体(G)は、基本とする結晶構造が異なるが、前記した赤色蛍光体と近似した定義をすることができる。
すなわち、本発明において用いられる緑色蛍光体(G)は、金属元素M’と、前記金属元素M’とは異なる3価の元素群から選ばれる元素M’と、前記金属元素M’とは異なる4価の元素群から選ばれる元素M’と、OおよびNの一方または両方を含む組成を有し、前記金属元素M’の一部が発光中心元素EC’により置換された無機化合物を含む蛍光体であって、前記蛍光体の結晶構造における格子定数および原子座標から計算されたM’−NおよびM’−Nの化学結合の長さが、SrAlSi1321の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内であるものである。
【0025】
ここで、金属元素M’、M’、M’、EC’は、前記した赤色蛍光体におけるM、M、M、およびECにおいて説明された元素から、それぞれ選ばれる。ここで、緑色蛍光体を構成する元素は、赤色蛍光体を構成する元素と同じである必要は無く、独立に選択される。
そして、本発明による緑色蛍光体(G)は、波長250〜500nmの光で励起した際、励起光よりも長波長であり、青緑色から黄緑色にわたる領域の発光、すなわち波長490〜580nmの間にピークを有する発光を示すものである。
【0026】
本発明に用いられる緑色蛍光体(G)は、SrAlSi1321をベースとするものである。そして、前記した赤色蛍光体と同様に元素の置き換え等によって、結晶構造が若干変化することがあるが、基本的な結晶構造が変化しない範囲で本発明の効果を奏することができる。このような基本的な結晶構造が変化しない範囲は、前記した赤色蛍光と同様である。すなわち、本発明においては、X線回折や中性子線回折により求めた格子定数および原子座標から計算されたM’−NおよびM’−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表2に示すSrAlSi1321の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内であるときに結晶構造が変化していないと定義する。本発明に用いられる緑色蛍光体はこのような結晶構造を有することを必須とする。この範囲を超えて化学結合の長さが変化すると、その化学結合が切れて別の結晶となり、本発明による効果を得ることができなくなる。
【0027】
【表2】

【0028】
このような、本発明による緑色蛍光体(G)のひとつは、下記組成式(2)で示されるものである。
(M’1−xEC’3−yAl3+zSi13−z2+u21−w
(2)
式中、Mは’IA族元素、IIA族元素、IIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびIVA族元素から選択される元素であり、
EC’は、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeから選ばれる元素であり、
0<x≦1、好ましくは0.001≦x≦0.5、
−0.1≦y≦0.15、好ましくは−0.09≦y≦0.07、
−1≦z≦1、好ましくは0.2≦z≦1、
−1<u−w≦1、好ましくは−0.1≦u−w≦0.3、である。
【0029】
本発明による緑色蛍光体(G)は、SrAlSi1321と実質的に同一の結晶構造を有する無機化合物を基本とし、その構成元素の一部が発光元素に置換されたものであり、各元素の組成が所定の範囲内に規定されていることによって、良好な量子効率を示す。
【0030】
SrAlSi1321結晶は斜方晶系である。
【0031】
本発明に用いることができる緑色蛍光体は、X線回折や中性子回折により同定することができる。すなわち、ここで示されるSrAlSi1321のXRDプロファイルと同一のプロファイルを示す物質の他に、構成元素が他の元素と入れ替わることにより格子定数が一定範囲で変化したものも、本発明による蛍光体に包含されるものである。
ここで、構成元素が他の元素で置き換わるものとは、SrAlSi1321結晶中のSrが元素M’および/または発光中心元素EC’で、元素Siの位置が4価の元素からなる群、例えばGe、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で、Alの位置が3価の元素からなる群、例えばB、Ga、In、Sc、Y、La、Gd、Luからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で、OまたはNの位置がO、N、Cからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素で置換された結晶のことである。また、AlがSiに互いに置き換わると同時に、OとNが置き換わった、例えばSrAlSi14ON22、SrAlSi1523、SrAlSi1220、SrAlSi1119、SrAlSi1018等もSrAlSi1321属結晶である。
【0032】
さらに、固溶量が小さい場合には、SrAlSi1321属結晶の簡便な判定方法として、前記した赤色蛍光体の場合と同じ方法を用いることができる。
【0033】
赤色蛍光体および緑色蛍光体の製造法
本発明の実施形態にかかる赤色蛍光体、および緑色蛍光体は、例えば、元素M(またはM’)の窒化物、またはその他シアナミド等の炭化物、Alなどの元素M(またはM’)やSiなどの元素M(またはM’)の、窒化物、酸化物、または炭化物、および発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を出発原料として用いて、合成することができる。より具体的には、元素M(またはM’)としてSrを含有し、発光中心元素EC(またはEC’)としてEuを含有する蛍光体を目的とする場合には、Sr、AlN、Si、AlおよびEuNを出発原料として用いることができる。Srの代わりにCa、Ba、SrNあるいはSrN等、もしくはこれらの混合物を用いてもよい。これらを所望の組成になるように秤量混合し、得られた混合粉末を焼成することによって、目的の蛍光体が得られる。混合に当たっては、例えば、グローブボックス中で乳鉢混合するといった手法が挙げられる。また、るつぼの材質は、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボン、窒化アルミニウム、サイアロン、酸化アルミ、モリブデンあるいはタングステン等としてもよい。
【0034】
本発明に用いられる赤色および緑色蛍光体は、これらの出発原料の混合物を所定時間焼成することにより得ることができる。焼成は、大気圧以上の圧力で行なうことが望ましい。窒化ケイ素の高温での分解を抑制するためには、5気圧以上がより好ましい。焼成温度は1500〜2000℃の範囲が好ましく、より好ましくは1800〜2000℃である。焼成温度が1500℃未満の場合には、目的とする蛍光体の形成が困難となることがある。一方、2000℃を越えると、材料あるいは生成物の昇華のおそれがある。また、原料のAlNが酸化されやすいことから、N雰囲気中で焼成することが望まれるが、窒素および水素の混合雰囲気でもよい。
【0035】
焼成後の粉体に洗浄等の後処理を必要に応じて施して、実施形態にかかる蛍光体が得られる。洗浄を行う場合には、例えば純水洗浄、酸洗浄により行なうことができる。
青色蛍光体
本発明による発光装置は、後述するように前記した赤色蛍光体と緑色蛍光体とを組み合わせて用いるが、さらに青色蛍光体を組み合わせることもできる。このように用いられる青色蛍光体は、400〜490nmの間にピークを有する発光を示すものであれば、特に限定されない。
【0036】
しかしながら、青色蛍光体の温度特性が悪い場合には、投入電力の増加に伴う温度上昇により、放射光の色度が黄色側にシフトしてしまうことがある。これは白色光を目的としている場合には、特に問題となりやすい。したがって、色ずれの少ない発光装置を提供するという本発明の目的のためには、青色蛍光体はその温度特性が赤色蛍光体および緑色蛍光体と同等に良好であるものが好ましい。
【0037】
好ましい青色蛍光体の具体例としては、(Ba,Eu)MgAl1017、(Sr,Ca,Ba,Eu)10(POCl、(Sr,Eu)SiAl19ON31などが挙げられる。
【0038】
発光装置
本発明による発光装置は、前記した蛍光体と、それを励起することができる発光素子とを具備するものである。
【0039】
本発明による発光装置の一実施態様は、励起源であるLEDと、そのLEDから照射される光によって励起されて蛍光を発する、前記の赤色蛍光体(R)および前記の緑色蛍光体(G)との組み合わせを具備する。このとき、この発光装置は、LEDから照射される光と、赤色蛍光体からの発光と、緑色蛍光体からの発光とが合成された光を放射するものである。
【0040】
そして、本発明による発光装置のほかの実施態様は、励起源であるLEDと、そのLEDから照射される光によって励起されて蛍光を発する、前記の赤色蛍光体(R)、前記の緑色蛍光体(G)、および青色蛍光体(B)との組み合わせを具備するものである。
【0041】
これらの実施態様は、いずれも特定の赤色蛍光体(R)と特定の緑色蛍光体(G)との組み合わせを必須としている。これによって、発光装置から放射される赤色光成分と緑色光成分とのバランスが駆動時に崩れにくく、色ずれが抑制される。また、これらの特定の蛍光体は駆動時の温度消光が小さいために、発光素子からの発光や青色蛍光体から放射される青色光成分とのバランスも崩れにくく、色ずれが小さいものである。
【0042】
ここで本発明において赤色蛍光体と緑色蛍光体は共に温度消光が少ない。このため、高パワーで駆動したときに、赤色光成分および緑色光成分の変動が小さい発光装置が実現できる。さらには、二つの蛍光体の温度消光の挙動が、室温から200度程度の温度領域中の各温度において同程度であるために、高パワーで駆動しデバイス温度が上昇した場合にも、赤色光成分と緑色光成分との色ずれの少ない発光装置が達成される。なお、赤色蛍光体または緑色蛍光体に、本発明において特定された蛍光体とは異なる蛍光体を用いても発光装置を製造することは可能である。しかしながら、そのような場合には本発明のような色ずれを抑制する効果が充分得られないのが一般的である。
【0043】
青色蛍光体を用いた場合には、青色蛍光体の温度消光が赤色および緑色蛍光体と同程度であれば、色ずれがより少なくなるので好ましい。しかしながら、青色蛍光体による発光波長は、発光素子であるLEDによって補うことができるため、赤色蛍光体や緑色蛍光体のように厳密である必要はない。
【0044】
発光装置に用いられる発光素子は、用いる蛍光体によって適当なものが選択される。すなわち、発光素子から放射される光が、用いられる蛍光体を励起することができるものであることが必要である。さらには、発光装置が白色光を放射することが好ましい場合には、蛍光体から放射される光を補うような波長の光を放射する発光素子が好ましい。
このような観点から、蛍光体として赤色蛍光体と緑色蛍光体とを用いた蛍光装置においては、発光素子(S1)は、250〜500nmの波長の光を放射するものが選択され、蛍光体として赤色蛍光体と緑色蛍光体と青色蛍光体とを用いた蛍光装置においては、発光素子(S2)は、250〜430nmの波長の光を放射するものが選択さる。
【0045】
本発明による発光装置は、従来知られている任意の発光装置の形態とすることができる。図1は、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示すものである。
【0046】
図1に示された発光装置においては、樹脂ステム100はリードフレームを成形してなるリード101およびリード102と、これに一体成形されてなる樹脂部103とを有する。樹脂部103は、上部開口部が底面部より広い凹部105を有しており、この凹部の側面には反射面104が設けられる。
【0047】
凹部105の略円形底面中央部には、発光素子106がAgペースト等によりマウントされている。発光素子106としては、例えば発光ダイオード、レーザダイオード等を用いることができる。さらには、紫外発光を行なうものを用いることができ、特に限定されるものではない。紫外光以外にも、青色や青紫、近紫外光などの波長を発光可能な発光素子も使用可能である。例えば、GaN系等の半導体発光素子等を用いることができる。発光素子106の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤー107および108によって、リード101およびリード102にそれぞれ接続されている。なお、リード101および102の配置は、適宜変更することができる。
【0048】
蛍光層109は、本発明の実施形態にかかる蛍光体の混合物110を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層111中に5重量%から50重量%の割合で分散、もしくは沈降させることによって形成することができる。実施形態にかかる蛍光体には、共有結合性の高い酸窒化物が母体として用いられている。このため、本発明による蛍光体は一般に疎水性であり、樹脂との相容性が極めて良好である。したがって、樹脂と蛍光体との界面での散乱が著しく抑制されて、光取出し効率が向上する。
【0049】
発光素子106としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、発光素子106にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤーにより他方のリードに接続することができる。発光素子106のサイズ、凹部105の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0050】
本発明の実施形態にかかる発光装置は、図1に示したようなパッケージカップ型に限定されず、適宜変更することができる。具体的には、砲弾型LEDや表面実装型LEDの場合も、実施形態の蛍光体を適用して同様の効果を得ることができる。
【0051】
以下、諸例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0052】
実施例1
出発原料としてSr、EuN、Si、AlおよびAlNを用意した。これら各々2.676g、0.398g、6.080g、0.680g、0.683gをバキュームグローブボックス中で秤量後、めのう乳鉢内で乾式混合したものを、BNるつぼに充填し、7.5気圧のN雰囲気中、1850℃で4時間焼成して、設計組成が(Sr0.92Eu0.08AlSi1321であるような蛍光体(G1)を合成した。
【0053】
焼成後の蛍光体(G1)は、体色が黄緑色の粉体であり、ブラックライトで励起した結果、緑色発光が観察された。
【0054】
また、出発原料としてSr、EuN、Si、AlおよびAlNを用意した。これら各々2.579g、0.232g、4.583g、0.476g、1.339gをバキュームグローブボックス中で秤量後、めのう乳鉢内で乾式混合したものを、BNるつぼに充填し、7.5気圧のN雰囲気中、1850℃で4時間焼成して、設計組成が(Sr0.95Eu0.05AlSiON13であるような蛍光体(R1)を合成した。
【0055】
焼成後の蛍光体(R1)は、体色が橙色の粉体であり、ブラックライトで励起した結果、赤色発光が観察された。この赤色蛍光体の457nm励起における発光スペクトルおよび組成分析結果(Al濃度で規格化したモル比)を図4および表3に各々示す。また緑色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度の温度依存性を、室温における発光強度を1として規格化して図5に示す。
【0056】
発光ピーク波長455nmの発光ダイオード602を、8mm角のAlNパッケージ601上に半田を用いて接合し、金ワイヤー603を介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂604を塗布し、その上にピーク波長598nmの赤色発光蛍光体(R1)を30重量%混入させた透明樹脂605を層状に塗布し、その上に蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂606を層状に塗布して、発光装置を製造した(図6)。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率67.9lm/W、Ra=86であった。この発光装置の発光スペクトルを図7に示す。
【0057】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図8に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率およびRaも240mA駆動において52.0lm/W、Ra=79、300mA駆動において48.3lm/W、Ra=77、350mA駆動において43.9lm/W、Ra=75と変動が少なかった。
【0058】
実施例2
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、Sr、EuNの秤量を各々2.660g、0.093gに変えた以外は実施例1と同様にして、設計組成が(Sr0.98Eu0.02AlSiON13であるような赤色蛍光体(R2)を合成した。この赤色蛍光体(R2)の457nm励起における発光スペクトルおよび組成分析結果(Al濃度で規格化したモル比)を図4および表3に各々示す。
【0059】
発光ピーク波長455nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長577nmの赤色発光蛍光体(R2)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した(図6)。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率73.8lm/W、Ra=79であった。この発光装置の発光スペクトルを図9に示す。
【0060】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図10に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なかった。光束効率およびRaも240mA駆動において56.8lm/W、Ra=78、300mA駆動において53.5lm/W、Ra=77、350mA駆動において49.1lm/W、Ra=76と変動が少なかった。
【0061】
実施例3
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、Sr、EuNの秤量を各々2.443g、0.465gに変えた以外は実施例1と同様にして、(Sr0.9Eu0.1AlSiON13赤色蛍光体(R3)を合成した。この赤色蛍光体(R3)の457nm励起における発光スペクトルおよび組成分析結果(Al濃度で規格化したモル比)を図4および表3に各々示す。
【0062】
発光ピーク波長455nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長607nmの赤色発光蛍光体(R3)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した(図6)。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率64.8lm/W、Ra=90であった。20mA駆動における発光スペクトルを図11に示す。
【0063】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図12に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率およびRaも240mA駆動において51.0lm/W、Ra=85、300mA駆動において48.0lm/W、Ra=84、350mA駆動において44.3lm/W、Ra=82と変動が少なかった。
【0064】
実施例4
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、Sr、EuNの秤量を各々2.308g、0.697gに変えた以外は実施例1と同様にして、(Sr0.85Eu0.15AlSiON13赤色蛍光体(R4)を合成した。この赤色蛍光体(R4)の457nm励起における発光スペクトルおよび組成分析結果(Al濃度で規格化したモル比)を図4および表3に各々示す。
【0065】
発光ピーク波長455nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長615nmの赤色発光蛍光体(R4)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率57.2lm/W、Ra=92であった。20mA駆動における発光スペクトルを図13に示す。
【0066】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図14に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率およびRaも240mA駆動において45.4lm/W、Ra=88、300mA駆動において42.8lm/W、Ra=87、350mA駆動において39.5lm/W、Ra=85と変動が少なかった。
【0067】
実施例5
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、実施例1と焼成雰囲気のみ異なる方法で赤色蛍光体(R5)を合成した。発光ピーク波長390nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長598nmの赤色発光蛍光体(R5)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に青色蛍光体(Ba0.9Eu0.1)MgAl1017(B1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、発光装置を製造した。緑色蛍光体(G1)、赤色蛍光体(R5)および青色蛍光体(B1)の発光強度の温度依存性を、室温における発光強度を1として規格化して図15に示す。
この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率62.39lm/W、Ra=90であった。この発光装置の発光スペクトルを図18に示す。
【0068】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図19に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の昼白色の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率、Raおよび色度も240mA駆動において47.7lm/W、Ra=89および(x,y)=(0.341,0.348)、300mA駆動において44.7lm/W、Ra=88および(x,y)=(0.339,0.349)、350mA駆動において41.5lm/W、Ra=88および(x,y)=(0.336,0.347)と変動が少なかった。
【0069】
実施例6
実施例2と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、実施例2と焼成雰囲気のみ異なる方法で赤色蛍光体(R6)を合成した。発光ピーク波長390nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長577nmの赤色発光蛍光体(R6)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に青色蛍光体(B1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、発光装置を製造した。
【0070】
この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率70.49lm/W、Ra=81であった。この発光装置の発光スペクトルを図16に示す。
【0071】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図17に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の昼白色の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率、Raおよび色度は、240mA駆動において53.5lm/W、Ra=81および(x,y)=(0.341,0.348)、300mA駆動において50.2lm/W、Ra=81および(x,y)=(0.340,0.346)、350mA駆動において46.1lm/W、Ra=81および(x,y)=(0.337,0.343)と変動が少なかった。
【0072】
実施例7
実施例3と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、実施例3と焼成雰囲気のみ異なる方法で赤色蛍光体(R7)を合成した。発光ピーク波長390nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長607nmの赤色発光蛍光体(R7)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に青色蛍光体(B1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、発光装置を製造した。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率59.79lm/W、Ra=92であった。この発光装置の発光スペクトルを図20に示す。
【0073】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図21に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の昼白色の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率、Raおよび色度も240mA駆動において46.5lm/W、Ra=91および(x,y)=(0.34,0.351)、300mA駆動において43.5lm/W、Ra=81および(x,y)=(0.339,0.35)、350mA駆動において39.9lm/W、Ra=90および(x,y)=(0.336,0.348)と変動が少なかった。
【0074】
実施例8
実施例4と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、実施例4と焼成雰囲気のみ異なる方法でおよび赤色蛍光体(R4)を合成した。発光ピーク波長390nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長615nmの赤色発光蛍光体(R4)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に青色蛍光体(B1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、発光装置を製造した。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率53.14lm/W、Ra=94であった。この発光装置の発光スペクトルを図22に示す。
【0075】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図23に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の昼白色の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率、Raおよび色度は、240mA駆動において41.7lm/W、Ra=94および(x,y)=(0.339,0.353)、300mA駆動において39.1lm/W、Ra=94および(x,y)=(0.338,0.352)、350mA駆動において36.2lm/W、Ra=94および(x,y)=(0.34,0.351)と変動が少なかった。
【0076】
実施例9
出発原料としてSrCO、Eu、SiおよびAlNを用意した。これら各々0.664g、0.792g、3.788g、7.009gを秤量後、めのう乳鉢内で乾式混合したものを、BNるつぼに充填し、7.5気圧のN雰囲気中、1800℃で4時間焼成して、設計組成が(Sr0.50Eu0.50Al19SiON31であるような蛍光体(B2)を合成した。
【0077】
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)および赤色蛍光体(R1)を合成した。発光ピーク波長390nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長598nmの赤色発光蛍光体(R1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に緑色蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した。緑色蛍光体、赤色蛍光体および青色蛍光体の発光強度の温度依存性を、室温における発光強度を1として規格化して図24に示す。
【0078】
この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率56.09lm/W、Ra=89であった。この発光装置の発光スペクトルを図25に示す。
【0079】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図26に示すように駆動電流が上昇しても、色度の変動は少なく、350mA駆動時においてもJIS規格の昼白色の色度範囲を逸脱することが無かった。光束効率およびRaも240mA駆動において43.9lm/W、Ra=85および(x,y)=(0.331,0.340)、300mA駆動において43.9lm/W、Ra=85および(x,y)=(0.329,0.339)、350mA駆動において38.0lm/W、Ra=84および(x,y)=(0.327,0.337)と変動が少なかった。
【0080】
比較例1
実施例1と同様にして緑色蛍光体(G1)を合成した。また、Sr、EuN、Si、AlおよびAlNを用意した。これら各々1.357g、2.324g、4.583g、0.476g、1.339gをバキュームグローブボックス内で秤量後、めのう乳鉢内で乾式混合したものを、BNるつぼに充填し、7.5気圧のN雰囲気中、1850℃で4時間焼成して、設計組成が(Sr0.50Eu0.50Al13SiON13であるような蛍光体(R9)を合成した。
【0081】
焼成後の蛍光体(R9)は、体色が橙色の粉体であり、ブラックライトで励起した結果、赤色発光が観察された。この赤色蛍光体の457nm励起における発光スペクトルを図27に示す。また緑色蛍光体(G1)と赤色蛍光体(R9)の発光強度の温度依存性を、室温における発光強度を1として規格化して図28に示す。また、この赤色蛍光体(R9)をCuKα特性X線(波長1.54056Å)を用いたX線回折に供した結果、この赤色蛍光体(R9)のXRDプロファイルには8.64°と11.18°および18.30°にピークを有することが判った。
【0082】
発光ピーク波長455nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長598nmの赤色発光蛍光体(R9)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に蛍光体(G1)を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率24.0lm/W、Ra=91であった。この発光装置の発光スペクトルを図29に示す。
【0083】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図30に示すように駆動電流が上昇により、色度が顕著に変化し、JIS規格の色度範囲を大きく逸脱した。光束効率およびRaも240mA駆動において15.5lm/W、Ra=72、300mA駆動において14.0lm/W、Ra=66、350mA駆動において12.2lm/W、Ra=53と著しく減少した。
【0084】
比較例2
発光ピーク波長455nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長585nmの赤色発光蛍光体(Ba0.1Sr0.8Ca0.1)SiO:Eu2+を40重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布し、その上に(Ba0.1Sr0.8SiO:Eu2+を30重量%混入させた透明樹脂を層状に塗布して、図6に示された構造を有する発光装置を製造した。この緑色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度の温度依存性を、室温における発光強度を1として規格化して図31に示す。この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.345,0.352)、色温度5000K、光束効率68.6lm/W、Ra=86であった。20mA駆動における発光スペクトルを図32に示す。
【0085】
この発光装置の駆動電流を350mAまで上昇させながら、前記した方法で発光特性を測定した。図33に示すように駆動電流の上昇により、色度が顕著に変化し、JIS規格の色度範囲を大きく逸脱した。光束効率およびRaも240mA駆動において43.9lm/W、Ra=76、300mA駆動において33.9lm/W、Ra=68、350mA駆動において26.9lm/W、Ra=57と著しく減少した。
【0086】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】一実施形態にかかる蛍光体を用いる発光装置の構成を表わす概略図。
【図2】SrAlSiON13のXRDプロファイル。
【図3】SrAlSiON13結晶構造を示す図。(a)はa軸方向への投影図、(b)はb軸方向への投影図、(c)はc軸方向への投影図をそれぞれ示す。
【図4】実施例1〜4の赤色蛍光体の460nm励起における発光スペクトル。
【図5】実施例1に用いた蛍光体の温度特性を表すグラフ。
【図6】実施例1の発光装置の構成を表す概略図。
【図7】実施例1の発光装置の発光スペクトル。
【図8】実施例1の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図9】実施例2の発光装置の発光スペクトル。
【図10】実施例2の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図11】実施例3の発光装置の発光スペクトル。
【図12】実施例3の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図13】実施例4の発光装置の発光スペクトル。
【図14】実施例4の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図15】実施例5に用いた蛍光体の温度特性を表すグラフ。
【図16】実施例6の発光装置の発光スペクトル。
【図17】実施例6の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図18】実施例5の発光装置の発光スペクトル。
【図19】実施例5の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図20】実施例7の発光装置の発光スペクトル。
【図21】実施例7の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図22】実施例8の発光装置の発光スペクトル。
【図23】実施例8の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図24】実施例9に用いた蛍光体の温度特性を表すグラフ。
【図25】実施例9の発光装置の発光スペクトル。
【図26】実施例9の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図27】比較例1の赤色蛍光体の460nm励起における発光スペクトル。
【図28】比較例1に用いた蛍光体の温度特性を表すグラフ。
【図29】比較例1の発光装置の発光スペクトル。
【図30】比較例1の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【図31】比較例2に用いた蛍光体の温度特性を表すグラフ。
【図32】比較例2の発光装置の発光スペクトル。
【図33】比較例2の発光装置の駆動電流と色度(2度視野)の関係。
【符号の説明】
【0088】
100 樹脂システム
101 リード
102 リード
103 樹脂部
104 反射面
105 凹部
106 発光チップ
107 ボンディングワイヤー
108 ボンディングワイヤー
109 蛍光層
110 蛍光体
111 樹脂層
301 Sr
302 SiまたはAl
303 OまたはN
601 AlNパッケージ
602 発光ダイオード
603 ボンディングワイヤー
604 透明樹脂層
605 赤色蛍光体層
606 緑色蛍光体層
801−JIS規格 昼光色の色度範囲
802−JIS規格 昼白色の色度範囲
803−JIS規格 白色の色度範囲
804−JIS規格 温白色の色度範囲
805−JIS規格 電球色の色度範囲
806−黒体輻射の色軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜方晶系に属し、下記一般式(1):
(M1−xEC (1)
(式中、MはSrであり、
ECはEuであり、
は、Alであり、
は、Siであり、
0<x<0.4,
0.65<a<0.70、
2<b<3、
0.3<c<0.6、
4<d<5)
で表わされる組成を有するSrAlSiON13属結晶を含む蛍光体であって、前記SrAlSiON13属結晶は、その結晶構造における格子定数および原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さが、SrAlSiON13の格子定数と原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内である蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、および前記発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を原料として用い、これらの原料を混合してから焼成することを含んでなることを特徴とする、蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体が、波長250〜500nmの光で励起した際に波長570〜650nmの間にピークを有する発光を示すものである、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
斜方晶系に属し、下記一般式(1):
(M1−xEC (1)
(式中、MはSrであり、
ECはEuであり、
は、Alであり、
は、Siであり、
0<x<0.4,
0.65<a<0.70、
2<b<3、
0.3<c<0.6、
4<d<5)
で表わされる組成を有するSrAlSiON13属結晶を含む蛍光体であって、前記SrAlSiON13属結晶は、そのXRDプロファイルの回折ピークのうちの回折強度の強い10本のピーク位置が、SrAlSiON13のXRDプロファイルの回折ピークのピーク位置と一致する蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、前記元素Mの窒化物、酸化物、または炭化物、および前記発光中心元素ECの酸化物、窒化物、または炭酸塩を原料として用い、これらの原料を混合してから焼成することを含んでなることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体が、波長250〜500nmの光で励起した際に波長570〜650nmの間にピークを有する発光を示すものである、請求項3に記載の蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−153320(P2011−153320A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103153(P2011−103153)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願2008−278642(P2008−278642)の分割
【原出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】