説明

走査型プローブ顕微鏡、試料表面形状の計測方法、及びプローブ装置

【解決課題】 軽装備な検出機構とすることにより、高精度に3次元的な形状を計測することができるようにする。
【解決手段】 走査型プローブ顕微鏡10は、XY試料ステージ14と、一端が走査機構22に片持ち支持され、開放された他端には探針24が固設されているカンチレバー16と、カンチレバー16をX方向、Y方向、Z方向の各々へ移動させる圧電素子18X、圧電素子18Y、圧電素子18Zを備えた走査機構22と、走査制御回路20とを備えている。また、カンチレバー16の片持ち支持されている側には、発振器26からの高周波信号により駆動されてカンチレバー16を加振する加振用圧電素子28が固設され、また、カンチレバー16には、自己検知型のセンサである歪み抵抗素子30が埋め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の3次元的な表面構造を計測する走査型プローブ顕微鏡、試料表面形状の計測方法、及びプローブ装置に係り、特に、片持ち張り(カンチレバー)を用いて試料の3次元的な表面構造を計測する走査型プローブ顕微鏡、試料表面形状の計測方法、及びプローブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の素子および配線の微細化技術においては、絶えず技術革新がなされ、その最小加工寸法は、100nm以下にまで進展しており、その微細加工を支える技術は、エッチング技術である。エッチング技術により、半導体集積回路には、無数のトレンチ(深い溝)が形成され、また、アスペクト比(深さ/開口径)が大きなコンタクトホールが形成される。このようなトレンチやコンタクトホールの側壁は、ほとんど垂直に近い形状となる。
【0003】
このような垂直な側壁が過剰エッチングされた場合には、側壁は、アンダカットやオーバハング構造になる。過剰エッチングは、アンダカットやオーバハング構造を素子構造として積極的に利用する場合を除き、エッチング工程の不良または不安定性の目安となる。そこで、アンダカットやオーバハング構造の有無または程度を観察すれば、エッチング工程の安定性をモニタすることができる。
【0004】
ところが、アンダカットやオーバハング構造の断面構造は、試料の上方から探針を差し込む従来の走査型プローブ顕微鏡では、観察することができなかった。もし、観察しようとする場合には、例えば、FIB(Focused Ion Beam)装置により断面を切り出した上で、走査型電子顕微鏡でその断面を観察する必要があった。しかし、この方法は、試料を破壊して観察する方法であるため、製造工程をモニタする目的には適用できなかった。そこで、走査型プローブ顕微鏡を、アンダカット構造部分の計測を可能なものとする必要があった。
【0005】
試料のアンダカット構造部分を観察可能にした走査型プローブ顕微鏡として、探針または試料を傾斜させて、相対的に傾斜を緩くし、探針を試料表面に接触またはほとんど接触した状態で、試料表面に平行な方向に走査しながら、試料表面の位置を計測する走査型プローブ顕微鏡が知られている(特許文献1、2)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の走査型プローブ顕微鏡では、探針を試料表面に接触またはほとんど接触した状態で試料表面を走査した場合、走査方向に対して急峻な山や溝の登り斜面があると、探針と試料表面の間に大きな摩擦が生じ、その摩擦のために探針の先端が撓んだり、滑ったりする現象が見られた。そのため、そのとき計測された試料表面の位置情報は、誤差が大きいものにならざるを得なかった。また、摩擦の撓みのため、探針が折損するようなこともしばしばあった。
【0007】
そこで、計測誤差が大きくなったり、探針が折損したりする欠点を改善した走査型プローブ顕微鏡として、試料の表面に沿った平面内での探針の走査は試料の表面から離れた位置で行い、その位置から探針を試料表面に接近させ、カンチレバーにレーザビームを射出し、反射されたレーザビームを検出することにより、試料の表面位置を計測する走査型プローブ顕微鏡が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2000−97840
【特許文献2】特開2000−275260
【特許文献3】特開2003−227788
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3に記載の走査型プローブ顕微鏡では、光てこ方式検出法が使用されており、半導体レーザや位置検出器を備えているため、装置が大きくなり、また、装置が重くなるため、探針又は試料を傾斜させる場合に、探針と試料とのなす角を制御することが難しい、という問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、軽装備な検出機構とすることにより、高精度に3次元的な形状を計測することができる走査型プローブ顕微鏡、試料表面形状の計測方法、及びプローブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために第1の発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、計測対象の試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能であり、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なXYZ方向移動部材と、前記探針を前記試料の表面に対して傾斜させる傾斜手段と、前記XYZ方向移動部材又は該XYZ方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、前記カンチレバーの偏位を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、前記センサで検出された偏位に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段とを含んで構成されている。
【0011】
なお、XYZ方向移動部材は、X方向に移動可能な部材と、Y方向に移動可能な部材と、Z方向に移動可能な部材とによって構成されていてもよく、また、隣接して設置されていなくてもよい。
【0012】
第1の発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、傾斜手段によって、カンチレバーの探針を試料の表面に対して傾斜させ、XYZ方向移動部材が試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動することにより、カンチレバーの探針を試料ステージの上面に対して接近させる。そして、カンチレバーに設けられたセンサによって、カンチレバーの偏位を検出し、検出された偏位に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出する。
【0013】
この検出された原子間力に基づいて、探針と試料の表面との距離が求められ、XY方向移動部材が試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動することにより、試料の表面形状が計測される。
【0014】
従って、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられたセンサで検出された偏位に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0015】
第2の発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、計測対象の試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能なXY方向移動部材と、前記XY方向移動部材に対して傾斜可能に取り付けられ、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なZ方向移動部材と、前記Z方向移動部材又は該Z方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、前記カンチレバーを加振する加振手段と、前記カンチレバーの偏位又は振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、前記センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段とを含んで構成されている。
【0016】
第2の発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、Z方向移動部材がXY方向移動部材に対して傾斜することにより、カンチレバーの探針を傾斜させ、Z方向移動部材が試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動することにより、カンチレバーの探針を試料ステージの上面に対して接近させる。そして、カンチレバーに設けられたセンサによってカンチレバーの偏位又は振動状態を検出し、検出手段によって、センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出する。
【0017】
この検出された原子間力に基づいて、探針と試料の表面との距離が求められ、XY方向移動部材が試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動することにより、試料の表面形状が計測される。
【0018】
従って、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられたセンサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0019】
第2の発明に係るZ方向移動部材の基端を、XY方向移動部材と探針との間に想定した仮想点を中心とする円弧に沿って移動可能にXY方向移動部材に取り付けることにより、Z方向移動部材をXY方向移動部材に対して傾斜可能とすることができる。これにより、Z方向移動部材をXY方向移動部材に対して傾斜して、Z方向を傾斜させ、Z方向移動部材が移動することにより、傾斜したZ方向への探針の走査を容易に行うことができる。
【0020】
また、探針の長さ方向とZ方向とを一致させるか又は平行にさせると、Z方向移動部材を独立に移動させ易くなる。
【0021】
また、第3の発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、計測対象の試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能なXY方向移動部材と、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能に、前記XY方向移動部材に取り付けられたZ方向移動部材と、前記Z方向移動部材に対して傾斜可能に取り付けられた傾斜部材と、前記傾斜部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、前記カンチレバーを加振する加振手段と、前記カンチレバーの偏位又は振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、前記センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段とを含んで構成されている。
【0022】
第3の発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、傾斜部材がXY方向移動部材に対して傾斜することにより、カンチレバーの探針を傾斜させ、Z方向移動部材が試料ステージの上面に対して接近するZ方向に移動することにより、カンチレバーの探針を試料ステージの上面に対して接近させる。そして、カンチレバーに設けられたセンサによってカンチレバーの偏位又は振動状態を検出し、検出手段によって、センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出する。
【0023】
この検出された原子間力に基づいて、探針と試料の表面との距離が求められ、XY方向移動部材が試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動することにより、試料の表面形状が計測される。
【0024】
従って、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられたセンサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0025】
また、第3の発明に係る傾斜部材の基端を、Z方向移動部材と探針との間に想定した仮想点を中心とする円弧に沿って移動可能にZ方向移動部材に取り付けることにより、傾斜部材をZ方向移動部材に対して傾斜可能とすることができる。
【0026】
また、上記の仮想点を、前記探針の先端に想定することができる。これにより、Z方向移動部材がXY方向移動部材に対して傾斜しても、探針の先端の位置が変化しないため、探針の位置あわせが容易かつ正確に行うことができる。
【0027】
また、上記のセンサを、カンチレバーの偏位又は振動に応じて抵抗が変化する歪み抵抗素子、カンチレバーの偏位又は振動に応じて静電容量が変換する静電容量素子、又はカンチレバーの偏位又は振動に応じて電圧を発生する圧電素子あるいは電磁誘導素子を含んで構成することができる。これにより、カンチレバーの偏位又は振動状態を検出するための機構を軽装備とすることができる。
【0028】
上記の検出手段は、探針と試料の表面との間に引力が作用する引力領域における原子間力を検出することができる。引力領域における原子間力を検出することにより、探針と試料の表面とが接触しないため、探針が破損したり、試料に当接して滑ったりすることを防止することができる。
【0029】
また、第4の発明に係る試料表面形状の計測方法は、第2の発明に係る走査型プローブ顕微鏡における試料表面形状の計測方法であって、前記XY方向移動部材がX方向及びY方向に所定の初期位置から所定の微小距離ずつ移動しては停止し、そのX方向及びY方向への移動が停止する各位置において、そのX方向及びY方向への移動を停止したまま、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して接近する方向に移動することにより前記試料の表面の形状の計測を行い、前記計測が終了すると、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して後退する方向に移動することを特徴としている。
【0030】
また、第4の発明に係る試料表面形状の計測方法は、XY方向移動部材に対して、Z方向移動部材が所定の角度だけ傾斜して、試料の表面の形状の計測を行って表面形状データを生成し、所定の角度毎に生成された表面形状データを合成することにより、合成形状データを生成することができる。これにより、所定の角度毎に生成された表面形状データを合成するので、試料の表面形状をより正確に計測することができる。
【0031】
また、第5の発明に係る試料表面形状の計測方法は、第3の発明に係る走査型プローブ顕微鏡における試料表面形状の計測方法であって、前記XY方向移動部材がX方向及びY方向に所定の初期位置から所定の微小距離ずつ移動しては停止し、前記傾斜部材が前記Z方向移動部材に対して傾斜している場合に、そのX方向及びY方向への移動が停止する各位置において、前記XY方向移動部材がX方向及びY方向へ移動しながら、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して接近する方向に移動することにより前記試料の表面の形状の計測を行い、前記計測が終了すると、前記XY方向移動部材をX方向及びY方向へ移動しながら、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して後退する方向に移動することを特徴としている。
【0032】
また、第5の発明に係る試料表面形状の計測方法は、Z方向移動部材に対して、傾斜部材が所定の角度だけ傾斜して、試料の表面の形状の計測を行って表面形状データを生成し、所定の角度毎に生成された表面形状データを合成することにより、合成形状データを生成することができる。これにより、所定の角度毎に生成された表面形状データを合成するので、試料の表面形状をより正確に計測することができる。
【0033】
第6の発明に係るプローブ装置は、先鋭化した探針を用いたプローブ装置であって、計測対象の試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能であり、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なXYZ方向移動部材と、前記探針を前記試料の表面に対して傾斜させる傾斜手段と、前記XYZ方向移動部材又は該XYZ方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、 前記カンチレバーの偏位を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、前記センサで検出された偏位に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段とを含んで構成されている。
【0034】
なお、プローブ装置とは、走査型プローブ顕微鏡以外で、探針を応用した装置である。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明の走査型プローブ顕微鏡、試料表面形状の計測方法、及びプローブ装置によれば、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられたセンサで検出された偏位に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0037】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡10は、計測対象の試料12を上面に載置するための載置台であり、XY方向に粗く移動するXY試料ステージ14と、一端が後述する走査機構22に片持ち支持され、開放された他端には探針24が固設されているカンチレバー16と、カンチレバー16をX方向、Y方向、Z方向の各々へ移動させる圧電素子18X、圧電素子18Y、圧電素子18Zを備えた走査機構22と、XY試料ステージ14の粗移動を制御するとともに、圧電素子18X及び圧電素子18Yを駆動する走査制御回路20とを備えている。ここで、X方向及びY方向は、XY試料ステージ14の上面(試料12の表面)に対して平行なXY平面内の方向であり、Z方向は、探針24をXY試料ステージ14の上面に対して接近又は後退する方向である。
【0038】
また、カンチレバー16の片持ち支持されている側には、図2に示すように、発振器26からの高周波信号により駆動されてカンチレバー16を加振する加振用圧電素子28が固設されている。また、カンチレバー16には、自己検知型のセンサである歪み抵抗素子30が埋め込まれている。加振用圧電素子28によりカンチレバー16を厚み方向に振動させることにより、歪み抵抗素子30の抵抗値が変化するため、この抵抗値の変化からカンチレバー16の偏位又は振動状態を検出することができる。
【0039】
歪み抵抗素子30は、カンチレバー16の所定の領域に半導体技術で一対の電極が形成されており、ボロン等の不純物原子を電極間にイオン打ち込みすることにより歪み抵抗が形成されて作成される。歪み抵抗の抵抗値は、2kΩ以下が望ましい。なお、カンチレバー16は、シリコン基板で形成することが好ましいが、イオン打ち込みすることなく、電極を形成して歪み抵抗素子30を貼着するようにしてもよい。
【0040】
歪み抵抗素子30の電極には、歪み抵抗素子30の抵抗値の変化を検出するための検出回路32が接続されている。検出回路32は、歪み抵抗素子30の電極が接続されたホイートストンブリッジを構成するブリッジ回路、及びブリッジ回路に電圧を印加する電源とを備えており、歪み抵抗素子30の抵抗変化を電圧変化として検出し、検出した信号を出力する。また、図1に示すように、検出回路32の出力および発振器26の出力が入力され、後述するように、探針24の振動状態に基づいて所定の周波数の振動振幅を検出するロックイン増幅器34が検出回路32に接続されている。
【0041】
後述するサーボ回路36及び走査制御回路20を制御する制御部38がロックイン増幅器34に接続されており、また、制御部38からの指示データに従って、圧電素子18Zを駆動して探針24のZ方向の位置を制御するサーボ回路36が設けられている。
【0042】
制御部38は、図示しない演算処理装置と、半導体メモリおよびディスク装置からなる記憶装置と、キーボードや液晶表示装置等の入出力装置とを備えたコンピュータであり、さらに、サーボ回路36や走査制御回路20とのインターフェースを備えている。そして、その記憶装置に記憶されたプログラムに従って、適宜、サーボ回路36や走査制御回路20を制御して、圧電素子18X、18Y、18Zを駆動させ、また、XY試料ステージ14を走査させる。従って、制御部38から探針24の位置を遠隔走査することができる。また、ロックイン増幅器34よって検出される信号を適宜ディジタルデータに変換して取り込み、記憶装置に記憶する。なお、制御部38が他のコンピュータと接続され、他のコンピュータとの間でデータを送受信できるようにしてもよい。
【0043】
次に、試料12の表面を検出する原理について説明する。
【0044】
本実施形態では、試料12の表面の原子間力の勾配を計測することによって、試料12の表面位置を検出する方法を利用する。原子間力の勾配によって試料12の表面を検出する方法は、原子間力そのものによって試料12の表面を検出する方法よりも、数桁小さな力で表面を検出することができるため、探針24の負担が小さくなり、探針24が撓んだり、滑ったりする現象を回避することができる。
【0045】
図3に示すように、原子間力とカンチレバー16の共振周波数の振幅とが関係していることから、原子間力の勾配は、カンチレバー16の共振周波数の振幅が変化する現象を利用して求められる。そこで、発振器26によってカンチレバー16の共振周波数付近の周波の加振信号を出力し、その加振信号によって加振用圧電素子28を駆動する。加振用圧電素子28によりカンチレバー16が加振され、Z方向へ数nm〜数10nm程度の振幅で振動する。なお、本実施の形態では、探針24と試料12の表面との間に引力が作用する引力領域における原子間力の勾配を求める。
【0046】
このように、カンチレバー16が振動している状態で、探針24を試料12の表面に接近させると、原子間力の勾配のために共振周波数の振幅が変化する。そのため、カンチレバー16の振動振幅は、変化し、その変化した振動振幅はロックイン増幅器34の出力から検出され、ロックイン増幅器34の出力変化は、探針24が受ける原子間力の勾配に相当している。そこで、この原子間力の勾配が所定の値に達したとき、探針24が試料12の表面から所定距離の位置に到達したと判断することができる。
【0047】
図1において、ロックイン増幅器34の出力は、制御部38に入力される。制御部38は、ロックイン増幅器34から入力された信号が示す値と前回入力された信号との差をとり、その差を示す信号をサーボ回路36へ入力する。そして、サーボ回路36は、制御部38からの入力と、制御部38によって予め定められた値との差が0になるまで、圧電素子18Zを駆動する。探針24は、サーボ回路36の出力が0になるまで、試料12の表面に接近し、サーボ回路36の出力が0になったとき、接近を停止し、探針24から所定距離の位置を試料12の表面位置と判定する。
【0048】
なお、本実施の形態では、ロックイン増幅器34から入力された値の変化量が所望の値、例えば0になったときに、接近を停止し、図3に示す振幅の変化量が0となる点に対応する距離(図3ではD1)を、探針24からの試料12までの距離とし、試料12の表面位置を判定する。
【0049】
次に、ロックイン増幅器を用いない検出方法について図9を用いて説明する。走査型プローブ顕微鏡400は、検出回路32から出力される偏位信号に基づいた制御方式、自励発振回路での共振周波数シフト信号に基づいた制御方式、及び共振周波数での振幅変動に基づいた制御方式を有する検出系となっている。
【0050】
偏位信号に基づいた制御方式は、スイッチSW1によって、加振用圧電素子28に信号が入力されない状態に切り替え、スイッチSW2によって、検出器32からの偏位信号が制御回路38及びサーボ回路36に入力される状態に切り替え、原子間力制御を行う。この場合、原子間力については斥力領域の原子間力が用いられる。
【0051】
共振周波数シフト信号に基づいた制御方式は、カンチレバー16の共振周波数の変化による原子間力(あるいは原子間力の勾配)を検出する方式であり、スイッチSW1によって、正帰還回路402から増幅信号が入力される状態に切り替え、スイッチSW2によってF−V変換器404からの変換信号が制御回路38及びサーボ回路36に入力される状態に切り替える。これによって、カンチレバー16は自励発振し、共振周波数の信号をF−V変換器404に入力し、その変換信号が制御回路38及びサーボ回路36に入力され、原子間力あるいは原子間力の力勾配が一定になるように制御される。この方式の場合、原子間力については引力領域の原子間力が用いられる。
【0052】
振幅変動に基づいた制御方式では、スイッチSW1によって、正帰還回路402から増幅信号が入力される状態に切り替え、スイッチSW2によって整流回路406から振幅信号が制御回路38及びサーボ回路36に入力される状態に切り替える。正帰還回路402からの自励発振信号を整流して、振幅信号を出力し、制御回路38及びサーボ回路36によって原子間力が一定になるように制御される。この方式の場合、原子間力については斥力領域の原子間力が用いられる。このように、走査型プローブ顕微鏡400によれば、色々な信号を利用することができる。
【0053】
次に、探針24を試料12表面に接近または後退する方向を傾斜させる構成について図4を用いて説明する。
【0054】
本実施形態においては、X方向軸およびY方向軸は、XY試料ステージ14の上面(試料12の表面)に対して平行なXY平面内の方向に設定されるが、Z方向軸は、探針24がXY試料ステージ14の上面に接近又は後退する方向に設定される。従って、本実施形態における座標系は、必ずしも直交座標系であるわけではなく、また、試料12の表面形状の計測を行うたびにZ方向軸の方向が変わることもある。なお、ここでは、設定可能なZ方向軸のうち特に探針24の長さ方向に平行であり、かつ、探針24の先端を通るZ方向軸を探針移動Z方向軸と呼ぶ。
【0055】
走査機構22には、探針24のX方向およびY方向への走査を行う構造体で、図示しない走査型プローブ顕微鏡10の筐体に吊設されたXY走査体42が設けられており、圧電素子18X及び圧電素子18YによりそれぞれX方向およびY方向へ移動させられ、また、XY走査体42の下面断面は、XY走査体42の下側に想定した仮想点を中心とする円弧になっている。また、走査機構22には、XY走査体42の下面断面の円弧に滑合するような円弧状断面の上面を有し、XY走査体42の下面断面の円弧に沿ってスライド自在に吊設されているZ走査支持体44が設けられており、Z走査支持体44は、XY走査体42の下面断面の円弧の中心である仮想点を不動点として傾斜させられる。
【0056】
Z走査支持体44の下面が、XY走査体42の下面断面の円弧が形成する円の直径方向に垂直な面になるように形成され、その下面に圧電素子18Zおよびカンチレバー支持体46が設けられ、圧電素子18Zは、カンチレバー支持体46をZ走査支持体44の下面に垂直な方向に移動させる。従って、このカンチレバー支持体46が移動させられる方向がZ方向となる。
【0057】
カンチレバー16の基端は、カンチレバー支持体46に固設され、他端は開放端とされる。また、探針24は、カンチレバー16の開放端の試料12表面に対向する面に固設される。このとき、カンチレバー16は、探針24の先端がXY走査体42の下面断面の円弧が形成する円の中心である仮想点に位置するような位置において、カンチレバー支持体46に固設される。
【0058】
以上のようにXY走査体42及びZ走査支持体44を構成し、さらに、Z走査支持体44に対しカンチレバー16およびカンチレバー支持体46を配置構成することにより、探針24がZ方向へ移動する方向、すなわち、探針移動Z方向軸(図4で符号50を付した一点鎖線)を、試料表面の法線方向(図4で符号52を付した一点鎖線)に対し、角度θをもって傾斜させることができる。従って、探針24を試料12の斜め上方から試料12表面へ接近させることができるので、アンダカット構造部分の表面形状の計測が可能となる。また、探針24の先端を、探針移動Z方向軸を傾斜させる中心点としているので、
傾斜角θを変えてもその先端の位置は変わらない。
【0059】
また、XY走査体42には、XY方向の平面内で少なくとも180度回転自在に吊設されているXY走査回転体(図示省略)が設けられており、そのXY走査回転体部分を自在に回転させることができる。また、Z走査支持体44がXY走査回転体に吊設されていおり、カンチレバー支持体46及びカンチレバー16は、XY走査回転体の回転に伴って同時に回転され、カンチレバー16を180度反転することができるようになっている。
【0060】
次に、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡10を用いた試料12の表面形状の計測方法について説明する。
【0061】
まず、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向にした場合の試料12の表面形状の計測方法について図5(A)を用いて説明する。まず、探針24を、試料12表面から所定に距離離間した初期位置に設定し、探針移動Z方向軸をXY面の法線方向に設定する。そして、初期位置から探針移動Z方向軸に沿って探針24を試料12の表面に接近させる(S1)。この探針24の移動は、サーボ回路36によって駆動された圧電素子18Zによって行われ、このとき、圧電素子18Xおよび圧電素子18Yは休止している。
【0062】
ここで、発振器26から加振信号が加振用圧電素子28へ入力されると、カンチレバー16が加振され、カンチレバー16がカンチレバー16の厚み方向に加振される。探針24と試料12の表面との間の原子間力の影響によって、カンチレバー16の振動振幅が変化し、また、種々の振動モードが発生する。このときに歪み抵抗素子30に引張り及び圧縮応力が発生し、歪み抵抗素子30の抵抗が変化するため、歪み抵抗素子30に一定電圧を印加していると電流がカンチレバー16の振動に応じて変化する。この電流変化を検出回路32のブリッジ回路で電圧変化として検出する。検出回路32で検出された電圧変化は、ロックイン増幅器34によって、発振器26から入力される加振信号の周波数成分が増幅されて、位相が揃えられ、ロックイン増幅器34でカンチレバー16の共振周波数の振幅の変化が検出され、制御部38へ入力される。
【0063】
制御部38では、ロックイン増幅器34からの出力の変化量を算出し、サーボ回路36へ出力する。そして、サーボ回路36は、制御部38からの出力を取りこみ、取りこんだ出力の値と制御部38によって予め定められた値である0とを比較し、取りこんだ出力の値が0になると、探針24と試料12の表面との距離が所定の距離になったと判断し、圧電素子18Zの駆動を停止する。
【0064】
このサーボ回路36による圧電素子18Zの駆動が停止されたところで、探針24が試料12の表面との距離が所定距離の位置に達したと判定される。その表面位置は、そのときの探針24の移動距離ΔZによって求めることができる。図6に示すように、初期位置Pの座標が(X0,Z0)で、試料12の表面位置計測時の移動距離がΔZであった場合には、表面位置Sの座標は、(X0,Z0−ΔZ)となる。
【0065】
試料12の表面位置の計測が終わると、探針24を所定の距離後退させて(S2)、探針24を圧電素子18XによりX方向へΔXだけ移動させる(S3)。そして、その移動後の位置を初期位置としてステップS1〜S3を所定の回数繰り返し行う。このようにして、X方向に走査された断面についての表面形状データを取得する。
【0066】
次に、探針24を最初の初期位置へ戻し、図5(B)に示すように、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向に対し所定の角度θ傾ける。そして、初期位置から探針24を試料12表面へ接近させて(S11)、試料表面位置を計測する。このとき、初期位置Pの座標を(X0,Z0)、探針24の移動距離をΔZ'とすると、表面位置S'の座標は、(X0+ΔZ'sinθ,Z0−ΔZ'+cosθ)となる。
【0067】
試料12の表面位置の計測が終わると、探針24を所定の距離後退させて(S12)、探針を圧電素子18XによりX方向へΔXだけ移動させる(S13)。そして、その移動後の位置を初期位置としてステップS11〜S13を所定の回数繰り返し行う。このようにして、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向に対し所定の角度θ傾けた場合について、X方向に走査された断面についての表面形状データを取得する。この場合、探針24を斜め上方から試料12表面へ接近させるので、図5(B)で、右側に開いた側壁のアンダカット構造部分の計測が可能となる。
【0068】
さらに、カンチレバー16の方向を反転させて、図5(B)と同様にして、表面形状データを取得する。この場合、探針移動Z方向軸は、XY面の法線に対し、対称に反転した方向となる。従って、この場合には、左側に開いた側壁のアンダカット構造部分の計測が可能となる。
【0069】
また、図10に示すように、探針24を動作させてもよい。図5及び図6に示したように、探針24を接近又は後退させる際、X方向及びY方向の走査は停止状態であったが、この場合、測定時間が長くなる欠点がある。このため、図10に示すように、探針24を接近あるいは後退させながらX方向及びY方向の走査を行ってもよい。また、図10のように、カンチレバー16及び探針24を振動させながら探針24を接近又は後退させると、弱い原子間力で制御することができ、精度の高い計測が可能となる。このような探針24の動作も本発明の範疇である。
【0070】
以上のようにして、XY平面の法線方向に対する探針移動Z方向軸の傾斜角度について、所定の角度毎に表面形状データを取得し、図6に示すように、白丸の点列のデータと黒丸の点列のデータというように、異なった点列のデータとして得られるが、それらのデータは、互いに補完し合うデータであり、それらを併合すると、より精密な表面形状データが得られる。本実施形態においては、探針移動Z方向軸を傾けたり、カンチレバー16の方向を反転させたりしても、探針24の先端の位置は不動である。そのため、これらのデータの併合は、単に併合するだけでよい。
【0071】
なお、探針移動Z方向軸を傾けたり、カンチレバー16の方向を反転させたりしたときに、機械的誤差のために探針先端位置がずれた場合には、異なった点列のデータによりそれぞれ表面形状データを作成し、パターンマッチングさせた上で、それらのデータを併合するようにする。
【0072】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられた歪み抵抗素子で検出された振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0073】
圧電素子18Z及びカンチレバー支持体がXY方向走査体に対して傾斜して、Z方向を傾斜させ、圧電素子18Zが駆動し、カンチレバー支持体がZ方向へ移動することにより、傾斜したZ方向への探針の走査を容易に行うことができる。
【0074】
XY走査体の下面断面の円弧の中心である仮想点を、探針の先端とすることにより、圧電素子18Z及びカンチレバー支持体が傾斜しても、探針の先端の位置が変化しないため、探針の位置あわせが容易かつ正確に行うことができる。
【0075】
また、探針と試料の表面との間の引力領域における原子間力を検出することにより、探針と試料の表面とが接触しないため、探針が破損したり、試料に当接して滑ったりすることを防止することができる。
【0076】
なお、上記では、走査型プローブ顕微鏡に本発明を適用した場合を例に説明したが、探針を用いて計測する他の装置であってもよい。
【0077】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0078】
第2の実施の形態は、共振周波数の振幅の変化を検出するセンサとして第1の実施の形態の歪み抵抗素子に代えて、カンチレバーの振動に応じて静電容量が変化する静電容量素子を使用するものである。本実施の形態では、図7に示すように、カンチレバー16と対向して平行になるように対向電極202がカンチレバー支持体46に固定され、対向電極202によりカンチレバー16との間に静電容量素子が構成されている。そして、カンチレバー16及び対向電極202は、静電容量素子と共にホイーストンブリッジを構成するブリッジ回路を備えた検出回路32に接続されている。これにより、カンチレバー16が振動すると静電容量素子の静電容量が周期的に変化するため、検出回路32のブリッジ回路によってカンチレバーの振動を検出し、振動信号を出力することができる。
【0079】
第2の実施の形態によれば、検出回路から出力される振動信号から共振周波数の振幅の変化を検出し、この共振周波数の振幅の変化から第1の実施の形態と同様に、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することができ、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0080】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0081】
第3の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡310は、傾斜する部分として第1の実施の形態の圧電素子18Z及びカンチレバー16に代えて、カンチレバー16のみ傾斜するように構成したものである。本実施の形態では、図8に示すように、圧電素子18Zの駆動によって、探針24を移動させる方向であるZ方向と、探針24の長さ方向とが一致しない点が第1の実施の形態と異なる。
【0082】
第3の実施の形態に係る走査機構322には、探針24のX方向およびY方向への走査を行う構造体で、図示しない走査型プローブ顕微鏡310の筐体に吊設されたXY走査体342が設けられており、圧電素子18X及び圧電素子18YによりそれぞれX方向およびY方向へ移動させられる。また、XY走査体342の下面は、圧電素子18ZおよびZ走査体344が設けられ、圧電素子18Zは、Z走査体344をXY平面の法線方向に移動させる。Z走査体344が移動させられる方向がZ方向である。
【0083】
また、Z走査体344の下面断面は、Z走査体344の下側に想定された仮想点を中心とする円弧になっており、走査機構322には、Z走査体344の下面断面の円弧に滑合するような円弧状断面の上面を有し、Z走査体344の下面断面の円弧に沿ってスライド自在に吊設されているZ走査傾斜体346が設けられており、Z走査傾斜体346は、Z走査体344の下面断面の円弧が形成する円の中心である仮想点を不動点として傾斜させられる。
【0084】
Z走査傾斜体346の下面が、Z走査体344の下面断面の円弧が形成する円の直径方向に垂直な面になるように形成され、その下面にカンチレバー支持体46が設けられている。
【0085】
そして、カンチレバー16の基端は、カンチレバー支持体46に固設され、他端は開放端とされ、探針24は、カンチレバー16の開放端の試料12表面に対向する面に固設される。このとき、カンチレバー16は、探針24の先端がZ走査体344の下面断面の円弧が形成する円の中心である仮想点に位置するような位置において、カンチレバー支持体46に固設される。
【0086】
次に、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡310を用いた試料12の表面形状の計測方法について説明する。なお、探針24の長さ方向に平行であり、かつ、探針24の先端を通る方向軸を探針移動方向軸と呼ぶ。
【0087】
まず、XY平面の法線方向に試料12の表面形状を計測する場合は、上記の第1の実施の形態の計測方法と同様に計測する。
【0088】
そして、X方向に走査された断面についての表面形状データを取得すると、探針24を最初の初期位置へ戻し、探針移動方向軸をXY平面の法線方向に対し所定の角度θ傾けて、初期位置から探針24を試料12表面へ接近させる。この探針24の移動は、サーボ回路36によって駆動された圧電素子18Zと、走査制御回路20によって駆動された圧電素子18Xおよび圧電素子18Yとによって行われる。従って、圧電素子18X、18Y、18Zが同時に駆動され、探針24の移動の方向が、探針移動方向軸と一致するように、XY走査体342、Z走査体344、Z走査傾斜体346、カンチレバー16が移動させられる。
【0089】
そして、このサーボ回路36による圧電素子18Zの駆動が停止されたところで、圧電素子18X、18Yの駆動も停止し、探針24が試料12の表面位置に達したと判定され、試料12の表面位置を計測する。試料12の表面位置の計測が終わると、圧電素子18X、18Y、18Zを駆動させて探針24を所定の距離後退させ、そして、探針を圧電素子18XによりX方向へΔXだけ移動させる。そして、その移動後の位置を初期位置として上記の処理を所定の回数繰り返し行う。このようにして、探針移動方向軸をXY平面の法線方向に対し所定の角度θ傾けた場合について、X方向に走査された断面についての表面形状データを取得する。
【0090】
さらに、カンチレバー16の方向を反転させて、上記の処理と同様にして、表面形状データを取得する。この場合、探針移動方向軸は、XY面の法線に対し、対称に反転した方向となる。
【0091】
以上のようにして、XY平面の法線方向に対する探針移動方向軸の傾斜角度について、所定の角度毎に表面形状データを取得し、それらの表面形状データを合成して、より精密な表面形状データを得る。
【0092】
以上説明したように、第3の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、カンチレバーの探針を傾斜させて、カンチレバーに設けられた歪み抵抗素子で検出された振動状態の変化に基づいて、探針と試料の表面との間の原子間力を検出することにより、軽装備な検出機構で、高精度に3次元的な試料の表面形状を計測することができる。
【0093】
なお、上記の実施の形態では、本発明にかかるセンサとして、歪み抵抗素子または静電容量素子を用いた例について説明したが、圧電素子または電磁誘導素子等を用いるようにしてもよい。
【0094】
また、探針を数mm以上離れた所から接近したり、その場所に退避したりすることが必要であり、この接近及び後退のための機構に関する説明は省略したが、通常使用されているモータ駆動、インチワーム駆動方式等を用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー、歪み圧電素子、検出回路、加振用圧電素子、及び発振器を示す概略図である。
【図3】原子間力と試料表面からの距離との関係を示すグラフと、カンチレバーの振動振幅と試料表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の走査機構の構成を示す概略図である。
【図5】試料表面形状計測時の探針の移動軌跡を示した図であり、(A)は、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向とした場合の探針の移動軌跡を示した図であり、(B)は、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向に対して傾斜させた場合の探針の移動軌跡を示した図である。
【図6】探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向とした場合、及び、探針移動Z方向軸をXY平面の法線方向に対して傾斜させた場合それぞれについて表面形状データの計算方法を説明するための図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るカンチレバー、対向電極、及び検出回路を示す概略図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の走査機構の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の原子間力あるいは原子間力勾配検出に関する検出形態を示す概略図である。
【図10】試料表面形状計測時の探針の移動軌跡に関して探針の接近又は後退と同時にXY走査を行う動作状態を示したイメージ図である。
【符号の説明】
【0096】
10、400 走査型プローブ顕微鏡
12 試料
14 XY試料ステージ
16 カンチレバー
18X、18Y、18Z 圧電素子
20 走査制御回路
22 走査機構
24 探針
26 発振器
28 加振用圧電素子
30 歪み抵抗素子
32 検出回路
34 ロックイン増幅器
36 サーボ回路
38 制御部
42 XY走査体
44 Z走査支持体
46 カンチレバー支持体
202 対向電極
310 走査型プローブ顕微鏡
322 走査機構
342 XY走査体
344 Z走査体
346 Z走査傾斜体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、
計測対象の試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能であり、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なXYZ方向移動部材と、
前記探針を前記試料の表面に対して傾斜させる傾斜手段と、
前記XYZ方向移動部材又は該XYZ方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、
前記カンチレバーの偏位を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、
前記センサで検出された偏位に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段と、
を含む走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、
計測対象の試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能なXY方向移動部材と、
前記XY方向移動部材に対して傾斜可能に取り付けられ、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なZ方向移動部材と、
前記Z方向移動部材又は該Z方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、
前記カンチレバーを加振する加振手段と、
前記カンチレバーの偏位又は振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、
前記センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段と、
を含む走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記Z方向移動部材の基端を、前記XY方向移動部材と前記探針との間に想定した仮想点を中心とする円弧に沿って移動可能に前記XY方向移動部材に取り付けることにより、前記Z方向移動部材を前記XY方向移動部材に対して傾斜可能とした請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記探針の長さ方向と前記Z方向とを一致させるか又は平行にさせた請求項2又は請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
先鋭化した探針を用いた走査型プローブ顕微鏡であって、
計測対象の試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能なXY方向移動部材と、
前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能に、前記XY方向移動部材に取り付けられたZ方向移動部材と、
前記Z方向移動部材に対して傾斜可能に取り付けられた傾斜部材と、
前記傾斜部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、
前記カンチレバーを加振する加振手段と、
前記カンチレバーの偏位又は振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、
前記センサで検出された偏位又は振動状態の変化に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段と、
を含む走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記傾斜部材の基端を、前記Z方向移動部材と前記探針との間に想定した仮想点を中心とする円弧に沿って移動可能に前記Z方向移動部材に取り付けることにより、前記傾斜部材を前記Z方向移動部材に対して傾斜可能とした請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記仮想点を、前記探針の先端に想定した請求項3又は請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記センサを、前記カンチレバーの偏位又は振動に応じて抵抗が変化する歪み抵抗素子、前記カンチレバーの偏位又は振動に応じて静電容量が変換する静電容量素子、前記カンチレバーの偏位又は振動に応じて電圧を発生する圧電素子、又は前記カンチレバーの偏位又は振動に応じて電圧を発生する電磁誘導素子を含んで構成した請求項2〜請求項7の何れか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記検出手段は、前記探針と前記試料の表面との間に引力が作用する引力領域における原子間力を検出する請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡における試料表面形状の計測方法であって、
前記XY方向移動部材がX方向及びY方向に所定の初期位置から所定の微小距離ずつ移動しては停止し、
そのX方向及びY方向への移動が停止する各位置において、そのX方向及びY方向への移動を停止したまま、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して接近する方向に移動することにより前記試料の表面の形状の計測を行い、前記計測が終了すると、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して後退する方向に移動することを特徴とする試料表面形状の計測方法。
【請求項11】
前記XY方向移動部材に対して、Z方向移動部材が所定の角度だけ傾斜して、前記試料の表面の形状の計測を行って表面形状データを生成し、
所定の角度毎に生成された前記表面形状データを合成することにより、合成形状データを生成することを特徴とする請求項10に記載の試料表面形状の計測方法。
【請求項12】
請求項5又は請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡における試料表面形状の計測方法であって、
前記XY方向移動部材がX方向及びY方向に所定の初期位置から所定の微小距離ずつ移動しては停止し、
前記傾斜部材が前記Z方向移動部材に対して傾斜している場合に、そのX方向及びY方向への移動が停止する各位置において、前記XY方向移動部材がX方向及びY方向へ移動しながら、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して接近する方向に移動することにより前記試料の表面の形状の計測を行い、前記計測が終了すると、前記XY方向移動部材をX方向及びY方向へ移動しながら、前記Z方向移動部材を前記試料ステージの上面に対して後退する方向に移動することを特徴とする試料表面形状の計測方法。
【請求項13】
前記Z方向移動部材に対して、前記傾斜部材が所定の角度だけ傾斜して、前記試料の表面の形状の計測を行って表面形状データを生成し、
所定の角度毎に生成された前記表面形状データを合成することにより、合成形状データを生成することを特徴とする請求項11に記載の試料表面形状の計測方法。
【請求項14】
先鋭化した探針を用いたプローブ装置であって、
計測対象の試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージの上面に対して平行なXY平面内でX方向及びY方向に移動可能であり、かつ、前記試料ステージの上面に対して接近又は後退するZ方向に移動可能なXYZ方向移動部材と、
前記探針を前記試料の表面に対して傾斜させる傾斜手段と、
前記XYZ方向移動部材又は該XYZ方向移動部材に相対する固定部材に基端が固定され、かつ、先端部に前記探針が設けられたカンチレバーと、
前記カンチレバーの偏位を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、
前記センサで検出された偏位に基づいて、前記探針と前記試料の表面との間の原子間力を検出する検出手段と、
を含むプローブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−284392(P2006−284392A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105326(P2005−105326)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(596066574)株式会社ユニソク (8)
【Fターム(参考)】