説明

走査型回折格子分光器

【課題】 高次回折光を取り除いた分光測定を行うに際し、手間がかからず、走査高速化に対応でき、データの不連続性も生じないようにする。
【解決手段】 被測定光は、走査機構2により回転される回折格子1により分光され、受光器3に入射する。回折格子1と受光器3との間の光軸上には、測定波長の高次回折光を遮断するカットフィルター7が配置されている。カットフィルター7は干渉フィルターであり、カットフィルター7の配置角度はフィルター駆動機構71により変化する。フィルター駆動機構71は、カットフィルター7の回転軸を、走査機構2が備える回折格子1の回転軸に連結して連動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、分散素子として回折格子を使用した分光器(回折格子分光器)に関するものであり、回折格子を走査して各波長の光の強度を順次測定する走査型回折格子分光器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の波長毎の強度を測定する分光測定においては、回折格子分光器がしばしば使用される。図5は、従来の回折格子分光器を使用した分光測定について示した概略図である。
回折格子分光器では、入射光に対する回折格子1の姿勢(光軸に対する角度)を漸次変化させ、出射スリット52から各波長の光を漸次出射させる。そして、出射スリット52からの光を光電変換素子より成る受光器3で受光し、被測定光の分光強度を得る。このように回折格子の角度を漸次変化させることは、「波長掃引」と呼ばれることもあるが、本明細書では、以下、「走査」と呼び、この種の分光器を走査型回折格子分光器と呼ぶ。
【0003】
走査型回折格子分光器において、回折格子1の姿勢を特定波長λを測定する角度に設定した場合、受光器3で得られる出力は、設定したλの波長以外に、その波長の整数分の1の波長の光が得られる。これは、回折格子において発生する高次回折光によるものである。従って、λの波長のみ測定する場合には、λ/2よりも短い波長を透過しないカットフィルター7を併用する必要がある。
【0004】
上記の点について、試料の成分測定等でしばしば行われる近赤外域の分光測定を例について説明する。例えば、特開2009−115669号公報に開示されているように、食肉に700〜1000nmの近赤外の光を分光しながら照射し、その反射光等の強度を知ることで食肉中の含有脂肪酸の成分量を測定する技術が知られている。また、最近特に重要視されている環境技術の分野でも、例えばエコフィード(食品廃棄物から作られた飼料、食品残渣飼料とも呼ばれる)の成分分析においても、試料に近赤外域の光を照射してその分光反射率又は分光吸収率を測定することで成分量を知ることが行われている。
このような試料の成分量測定においては、回折格子の配置角度に応じて本来入射すべきである波長の光以外の波長の光が受光器に入射すると、その分はノイズであり測定精度の低下に直結する。上述した高次回折光も、このノイズの典型的なものである。特に、試料中の成分量を測定する分光測定の場合、僅かなノイズの混入によって測定値の信頼性が大きく損なわれる場合が多く、極力ノイズを除去することが求められる。
【0005】
このようなことから、近赤外域の光を分光しながら照射して行う試料の成分量測定においても、カットフィルター7を使用し、高次回折光を除去しながら測定が行われる。より具体的に説明すると、例えば、400nm〜800nmを測定する場合には、400nm未満を透過しないカットフィルター7を使用することにより、すべての高次光を遮断することができる。しかし、測定波長範囲がそれよりも広く、例えば400nm〜1200nmを測定波長範囲とする場合には、400nm未満の波長をカットフィルター7で遮断しても、800nm以上の波長を測定する際、400nm以上の波長が二次回折光となって被測定光に混入しまうこととなる。それを防ぐためには、800nm〜1200nmを測定する際には、カットフィルター7を例えば700nm以下を遮断するものに交換する必要がある。そうすれば、例えば1200nmの測定においても、二次回折光である600nmの光は混入しないことになる。
【0006】
このように、従来の走査型回折格子分光器を使用して広い波長範囲に亘って分光測定しようとする場合、複数枚のカットフィルター7を波長帯により切り換えて使用する必要がある。別の具体的な一例を示すと、近赤外域の分光測定では、しばしば1200nm〜2500nm程度を対象波長域として測定が行われる。この場合、途中でカットフィルター7を切り換えて測定する必要がある。例えば、下記の表1に示すように、二つの波長帯において、下記のようなフィルターを切り換えて使用する。
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−55733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、走査型回折格子分光器においては、被測定光から高次回折光を取り除くためにカットフィルターを使用することが必要であり、波長範囲が広くなると、カットフィルターを適宜切り替えて光路上に配置することが必要となっている。しかしながら、このようなカットフィルターの切り替えは面倒であり、測定に手間がかかる要因となっている。特に、近赤外域の光を分光測定する分光器においては、後述するように走査速度の高速化が必要とされているが、上記フィルターの切り換えが大きな問題となる。即ち、回折格子の走査(姿勢変化)の高速化が可能となったとしても、フィルターの切り替えがこれに追従できず、高速化の大きな障害となる。また、フィルタ切り換えに際して、データが不連続となる。これも大きな問題である。
本願発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高次回折光を取り除いた分光測定を行うに際し、手間がかからず、走査高速化に対応でき、データの不連続性も生じないようにするという意義を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、回折格子と、被測定光の入射方向に対する回折格子の配置角度を変化させることで被測定光を分光する走査機構と、回折格子で分光された測定波長の光を受光する受光器とを備えた走査型回折格子分光器であって、
被測定光の光路上にはカットフィルターが配置されており、
カットフィルターは、測定結果を得ようとする波長の光よりも短い所定の遮断波長以下の波長の光を遮断するものであり、
このカットフィルターは干渉フィルターであって、被測定光の入射方向に対するカットフィルターの配置角度を変化させるフィルター駆動機構とが設けられており、
フィルター駆動機構は、走査機構に連動して制御されるものであり、走査機構が回折格子の配置角度を特定波長の光が受光器に入射する角度にした際、干渉フィルターの配置角度を、その特定波長より短い波長が遮断波長となる角度にするものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記フィルター駆動機構は、前記カットフィルターの回転軸と走査機構が備える前記回折格子の回転軸とを連結して連動させる機構であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、前記フィルター駆動機構は、前記カットフィルターの回転軸と走査機構が備える前記回折格子の回転軸とをギヤにより連結して連動させる機構であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1乃至3いずれかの構成において、前記カットフィルターは、回折格子の出射側の光路上に配置されているという構成を有する。
【発明の効果】
【0010】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、カットフィルターとして干渉フィルターを用い、干渉フィルターの配置角度を変更することで遮断波長を変更するので、測定が簡便で短時間に済み、また高速走査にも対応が十分に対応が可能であり、また測定データの不連続化の恐れもない。さらに、カットフィルターを一枚だけ備えれば良いので、その分だけ従来に比べてコストを安くできる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、回折格子の回転軸にカットフィルターの回転軸を機構的に連結させてカットフィルターを連動回転させることでカットフィルターの配置角度を変更させるので、測定条件がさらに一様になり、また回折格子を途中で停止させる必要もない。このため、測定データの信頼性がさらに高くなり、高速走査による測定時間短縮化により十分に対応が可能なものとなる。
また、請求項4記載の発明によれば、上記効果に加え、カットフィルターの遮断性能によって高次回折光を十分に除去できなくなる問題が無いという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る走査型回折格子分光器の概略図である。
【図2】カットフィルター7として用いた干渉フィルターの分光特性について示した概略図である。
【図3】図1に示す実施形態におけるフィルター駆動機構71の設定例について示した図である。
【図4】別の実施形態に係る走査型回折格子分光器の概略図である。
【図5】従来の回折格子分光器を使用した分光測定について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、実施形態に係る走査型回折格子分光器の概略図である。図1に示す分光器は、回折格子1と、被測定光の入射方向に対する回折格子1の配置角度を変化させることで被測定光を分光する走査機構2と、回折格子1で分光された測定波長の光を受光する受光器3とを備えている。
装置の各部は、筐体4内に納められている。筐体4内には、被測定光が入射する入射スリット51と、回折格子1で分光された光が出射する出射スリット52と、入射スリット51からの光を回折格子1に投影する第一の光学系61と、回折格子1からの光を出射スリット52に結像させる第二の光学系62等が設けられている。第一第二の光学系61,62としては、チェルニー・ターナー型、エバート型、ファスティー・エバート型等、任意のものを採用し得る。特開2000−55733号公報所載の光学系を採用すると、収差が小さく分解能が高くなるので好適である。
【0013】
回折格子1としては、反射型が使用されている。走査機構2は、光軸に対して垂直に交差する回転軸の周りに回折格子1を回転させることで配置角度を変化させる機構である。回折格子1は方形の板状であり、回転軸は、回折格子1の重心を通る位置に設定されている。詳細な図示は省略するが、走査機構2は、回転軸に連結されたモータと、モータを制御するモータ制御部等から構成されている。モータとしてはパルスモータやサーボモータが使用されることが多い。パルスまたはサーボ回路によってモータの回転角度を制御し、回折格子1の配置角度が光軸に対して所定の角度になるよう制御されるようモータ制御部が構成される。
【0014】
受光器3は、出射スリット52から出射された光が入射する位置に配置されている。受光器3としては、フォトトランジスタ、フォトダイオード等の半導体素子を用いたものや光電管等が使用される。
分光器は、受光器3からの信号を処理して測定結果を得る信号処理部31を備えている。信号処理部31は、検出素子3からの出力信号(検出信号)を処理する信号処理部31を備えている。信号処理部31は、受光器3からの信号を増幅し、所定の基準値と比較して光の強度(分光強度)を求めるものであり、基準値の設定や校正を行う回路を含んでいる。検出信号から被測定光による信号強度を求める演算処理等を行うようになっている。
【0015】
本実施形態の走査型回折格子分光器においても、カットフィルター7が設けられている。カットフィルター7は、図1に示すように、出射スリット52と受光器3との間の光路上に配置されている。
また、図1に示す分光器は、試料Sの反射率を測定するものとなっている。筐体4には、試料Sを収容するための試料室41が設けられている。カットフィルター7の出射側には、試料Sに光を照射し、試料Sからの反射光を受光器3に入射させるための試料用光学系63が設けられている。
そして、試料3を経ない光を参照光として別の不図示の受光器(参照用受光器)に入射させるための光学系(不図示)が設けられている。信号処理部31は、受光器3の出力と参照用受光器の出力とを比較することで試料Sの表面における分光反射率を測定するようになっている。
【0016】
本実施形態の分光器の大きな特徴点は、カットフィルター7として干渉フィルターが用いられており、被測定光の入射方向に対するカットフィルター7の配置角度を変化させるフィルター駆動機構71が設けられている点である。
干渉フィルターは、フィルター内部における光の干渉を利用して光を選択的に遮断したり透過したりするものである。干渉フィルターは、多くの場合、光学膜を積層した多層膜構造を有し、膜の界面で反射した光の干渉を利用する。
干渉フィルターは、求められるフィルターの特性に応じて各種のものが製作されて販売されている。本願の発明者は、分光器のカットフィルター用に干渉フィルターが使用でき、且つ干渉フィルターは入射光に対する配置角度が変化すると分光特性が変化する場合が多いことに着目した。この点について、図2を使用して説明する。図2は、カットフィルター7として用いた干渉フィルターの分光特性について示した概略図である。
【0017】
図2は、カットフィルター7として用いられる干渉フィルターについて、光軸に対する角度(図1にθで示す)を変えながら分光透過特性を測定した実験の結果を示した図となっている。図2中、「0度」とあるのは、θが0度であるから、光軸に対して干渉フィルターを垂直に配置した状態における結果である。
この実験では、干渉フィルターとして日本真空光学(株)製のものを用いた。この干渉フィルターは、カタログ値では、1280nmが遮断波長とされている。実験結果を見ても、角度0度では、1310nmあたりから急激に透過率が低下し、1280nm付近で透過率ゼロとなっている。尚、この程度の波長域に遮断波長が設定されている干渉フィルターを用いたのは、近赤外域の分光測定を行うことを念頭に置いたためである。
【0018】
そして、図2に示すように、配置角度θを変化させると、分光透過特性が変化する。この例では、角度θを漸増させると、遮断波長は漸次短波長側にシフトするのがわかる。例えば透過率が5%程度以下になる波長を測定遮断波長と呼ぶと、図2に示す実験結果では、角度10度では測定遮断波長は1280nm程度、角度20度では1260nm程度、角度30度では1220nm程度、角度40度では1170nm程度、角度50度では1115nm程度であった。
この実験結果に示されたように、カットフィルター7として用いることができる干渉フィルターの配置角度を変えることにより、遮断波長を変化させることができる。本実施形態では、このような知見に基づき、干渉フィルターをカットフィルター7として用いるとともにカットフィルター7に駆動機構(以下、フィルター駆動機構)71を設けている。
【0019】
フィルター駆動機構71は、走査機構2とほぼ同様の機構であり、光軸に垂直な回転軸の周りにカットフィルター7を回転させることで配置角度を変化させる機構である。同様に、パルスモータまたはサーボモータ等のモータとモータ制御部とから成る機構を採用することができる。
フィルター駆動機構71がどのようにカットフィルター7の配置角度を変化させれば良いかについて、以下に説明する。
【0020】
前述したように、高次回折光は、正常な回折光の波長の整数分の1の波長の光であるから、正常な波長の光をλとすると、λ/2,λ/3,λ/4,……が高次回折光である。高次回折光を除去した測定を行うには、原理的には、ある波長λを測定するよう回折格子1を配置した場合、λ/2,λ/3,λ/4,……がすべて透過しないようにすれば良いから、結局、λ/2以下を遮断するようにすれば良いことになる。λ/2以下さえ遮断すれば良いる訳であるから、λ/2よりも少し長波長側の光までも遮断してしまっても問題はない。即ち、λ/2よりも少し長波長側の波長を遮断波長とするフィルタであっても良い。しかしながら、遮断波長がλ/2より長くても良いとはいっても、測定波長λよりも長くなってしまうと、測定波長自体を遮断してしまうことになるので、使用不可である。このように考えると、カットフィルター7の配置角度は、測定波長λについて以下の二つの条件を満足する必要があることが解る。
A)λ/2以下を遮断すること。
B)λは遮断しないこと。
【0021】
このうち、Bの条件については、カットフィルターとして考えると、λ及びλより長い波長の光を透過することと同義であるから、結局、A及びBの条件は、「遮断波長(λc)がλよりも短くてλ/2以上である」(λ/2≦λc<λ)という条件に集約することができる。とはいえ、図2にも示すように、カットフィルターの特性は、遮断波長において垂直に透過率が減衰して0になるというものではないので、λ/2と測定波長λと間の波長域で、λやλ/2からある程度離れた波長を遮断波長とするものが好ましいことが解る。
【0022】
このようにカットフィルター1について必要な特定を理解した上で、改めてフィルター駆動機構71の設定について説明する。
フィルター駆動機構71については、幾つかの異なる構成が考えられる。例えば、従来のフィルターの切り替えの代替的な手段として考えると、測定波長域を幾つかの群に分け、それぞれの群についてカットフィルター7の配置角度を設定するやり方が考えられる。前述した例で言うと、400nm〜800nmを測定する場合には、遮断波長が400nmよりも少し短い波長(例えば300nm)が遮断波長になるようにし、800nm〜1200nmを測定する場合には遮断波長が800nmよりも少し短い波長(例えば700nm)になるようにする。カットフィルター7の遮断波長が二段階に切り替わるということは、カットフィルター7の配置角度が二段階に切り替わるようフィルター駆動機構71を構成することになる。
【0023】
このような構成でも良いのであるが、測定条件の一様性や測定時間の短縮化の要請を考えると、工夫が必要になる。というのは、カットフィルター7の配置角度を多段階に切り替える構成では、カットフィルター7をある角度で配置した状態である範囲で回折格子1を走査して測定を行った後、回折格子1の走査を止め、カットフィルター7を別の配置角度にした後、別の範囲で回折格子1を走査することになる。このような構成では、途中で回折格子1の走査を止めてしまうため、測定データの連続性という点で信頼性が低くなってしまう。例えば、最初の走査と後の走査とで測定条件が微妙に変わってしまう場合があり、その点で測定データの信頼性が低くなってしまう。
【0024】
また、回折格子1の走査を途中で止めるため、測定時間が長くなり、この点も測定データの信頼性が低くなる原因となり易い。即ち、走査型回折格子による分光測定においては、走査中に光源の出力変動のような外的測定条件の変動(回折格子の配置角度以外の条件変動という意味)があると、測定データの信頼性低下に直結する。外的測定条件の変動が避けられないとすれば、なるべく短時間に走査を完了させてしまい、外的測定条件の変動の影響をなるべく受けないようにして測定を行うことが望ましい。このような観点から、最近の走査型回折格子による分光測定では、回折格子の走査速度は非常に速くなってきており、例えば1200nm〜2500nmの走査であれば0.5〜0.7秒程度の短い時間に走査が完了する速度とされる。
【0025】
回折格子の走査を途中で止める測定方法では、上記のような測定の短時間化に反するし、上記のように非常に短い時間内において回折格子をいったん停止させることは精度や再現性の点で難しい。
本実施形態では、このような点を考慮し、回折格子1の走査と機構的に連結することでカットフィルター7を連動させて回転させ、これによってカットフィルター7の配置角度の変更する構成を採用している。より具体的に説明すると、図1に模式的に示すように、走査機構1では、回折格子1の回転軸(不図示)に第一のギヤ22が設けられている。回折格子1の回転軸は、光軸に対して垂直な方向に延びており、図1では紙面に垂直な方向である。一方、フィルター駆動機構71では、カットフィルター7の回転軸(不図示)に第二のギヤ721が設けられており、第一のギヤ22と噛み合っている。カットフィルター7の回転軸も光軸に垂直な方向で図1では紙面に垂直な方向である。したがって、回折格子1の回転軸とカットフィルター7の回転軸は互いに平行である。
【0026】
図1から理解できるように、回折格子1が波長掃引のために回転すると、第一のギヤ22及び第二のギヤ721のギヤ比で決まる角度範囲においてカットフィルター7も連動して従動回転する。即ち、回折格子1の角度変化に応じてカットフィルター7の配置角度も変化する。この際、回折格子1の当初の(走査開始時の)配置角度に応じてカットフィルター7の当初の配置角度を適宜設定し、第一のギヤ22及び第二のギヤ721のギヤ比を適宜設定すれば、測定波長に応じてカットフィルター7の遮断波長が適宜の値となるようにすることができる。
【0027】
上記フィルター駆動機構71の設定例について、図3を使用して説明する。図3は、図1に示す実施形態におけるフィルター駆動機構71の設定例について示した図である。図3(1)(2)における横軸は、回折格子1の配置角度(θ)であり、光軸に垂直な角度を0度としている。縦軸は、カットフィルター7の配置角度(θ)であり、同様に0度は光軸に垂直な角度である。
1200nm〜2500nmの近赤外域の分光測定を行う場合、最も短波長である1200nmの測定の際には回折格子1は例えば15度程度の配置角度とされ、最も長波長である2500nmの測定の測定の際には例えば45度程度とされる。図3では、この場合の設定例が示されている。尚、図3に示す例は、図2に示す特性のカットフィルター7を使用することを想定している。
【0028】
この設定例において、長波長側から測定を行うとした場合、最も長波長の2500nmの測定の際(回折格子1の角度は45度)には、カットフィルター7の配置角度は図3に示すように例えば0度とされる。図2に示すように、配置角度0度では、カットフィルター7の遮断波長は1300nm付近である。2500nmの場合、λ/2は1250nmとなるが、このカットフィルター7は、図2に示すように、配置角度0度では1250nm以下を十分に遮断する。且つ、遮断波長が1300nmであるので、測定波長である2500nmは当然ながら十分に透過する。このため、高次回折光を除去した測定となる。
【0029】
そして、回折格子1の走査が開始され、2500nmから漸次短い波長を測定するよう回折格子1が回転すると、この回転に連動(従動)してカットフィルター7も回転する。例えば、1400nmの測定の際には、回折格子1の配置角度は25度程度になるが、この際のカットフィルター1の配置角度は図3に示すように30度程度になる。カットフィルター7の配置角度30度の場合には、図2に示すように、カットフィルター7は1210nm付近が遮断波長になる。測定波長1400nmにとってみると、λ/2(700nm)以下は十分に遮断された状態となり、且つ測定波長自身は十分に透過する状態となる。このため、高次回折光を除去した測定となる。
【0030】
さらに回折格子1の走査(回転)が進み、最も短い波長である1200nmの測定の際には回折格子1の配置角度は15度程度になる。この際、カットフィルター7も連動(従動)して回転が進んでおり、カットフィルター7の配置角度は50度程度となる。図2から解るように、50度の場合、カットフィルター7は1100nm付近が遮断波長になる。この状態でも、測定波長1200nmにとってみると、λ/2以下(600nm以下)は十分に遮断する状態となり、1200nm自身は十分に透過する状態となる。このため、高次回折光を除去した測定となる。
【0031】
上記説明から解るように、この設定例では、2500nm→1200nmの分光測定では、回折格子1が45度→15度に回転するので、これに連動してカットフィルター7を0度→50度に回転するようにする。これにより、2500nm→1200nmの各測定波長において、高次回折光の遮断と測定波長の透過の条件が常に満足される。即ち、図2から解るように、測定波長の漸減(回折格子1の配置角度の漸減)に伴って遮断波長を漸減させる(カットフィルター7の配置角度を漸増させる)ことで、高次回折光の遮断と測定波長の透過の条件が常に満足されるようにしている。尚、測定の順序が逆の場合(即ち、1200nm→2500nmの測定の場合)は、当然ながら、カットフィルター7の回転の向きも逆になる(50度→0度)。
【0032】
このような構成によれば、カットフィルター7は、回折格子1の回転とは角度範囲及び回転の向きが異なるのみであり、回折格子1と同様に一様に回転する。カットフィルター7の回転動作が、回折格子1の回転動作(走査)の最中に変化してしまうことはなく(即ち、回転速度や回転の向きが変化することはなく)、また回折格子1の回転動作が途中で停止させられることもない。このため、測定条件は一様であり、また測定の短時間化が可能である。したがって、上記構成によれば、高次回折光を除去しつつ、データの信頼性が低下することのない測定が行える。
この他、分光器は、各部を制御する制御部(図1中不図示)、測定結果を表示する表示部、測定条件等を入力する入力部等(いずれも不図示)が設けられている。表示部や入力部は、筐体4に取り付けられている。
【0033】
次に、分光器全体の動作について説明する。
入力部において測定波長範囲等の測定条件が入力され、入射スリット51に被測定光が入射する状態とされて測定が開始されると、制御部は、入力された測定波長範囲において走査を行うよう走査機構2に制御信号を送る。走査機構2は、測定波長範囲の下限値から上限値まで(又は上限値から下限値まで)所定の速度で回折格子1を回転させて回折格子1の配置角度を漸次変更する。回折格子1で分光された光は、出射スリット52を経て受光器3に入射し、受光器3の出力が信号処理部31に送られる。受光器3に入射する光の波長は、回折格子1の回転に従って順次変化する。信号処理部31は、受光器3及び参照用受光器(不図示)からの出力を回折格子1の回転に同期したサンプリング周期でサンプリングし、両者を比較して各波長の分光反射率とする。サンプリング周期は、回折格子1の分解能に依存する。得られた分光反射率は、表示部において表示され、必要に応じて接続されたプリンタ(不図示)によって印刷される。
上記測定の際、前述したように、回折格子1の回転に連動してカットフィルター7が回転し、回折格子1の配置角度に応じて予め設定された配置角度になるよう配置角度が変化する。このため、カットフィルター7における遮断波長が漸次変化し、走査中の各測定波長において高次回折光が遮断される。
【0034】
上記説明から解るように、本実施形態の走査型回折格子分光器によれば、カットフィルター7として干渉フィルターを用い、干渉フィルターの配置角度を変更することで遮断波長を変更するので、従来のようにカットフィルター7を複数種用意して切り替えて使用する必要が無い。このため、測定が簡便で短時間に済み、また高速走査にも十分に対応が可能である。
その上、一枚のカットフィルター7を、配置角度を変えることで遮断波長を変更させるので、測定データの不連続化の恐れもない。従来のように複数種のカットフィルター7を切り替えて使用した場合、測定データの不連続化が生じる恐れがある。例えば、遮断波長より十分に長い波長域であっても、カットフィルター7は100%の透過率という訳ではない。この場合、カットフィルター7が異なると、100%に近い透過率ではあっても微妙に異なる場合があり、この場合、この違いが測定結果に含まれてしまうことになる。上記実施形態の分光器では、このような問題はない。
【0035】
さらに、前述したように、本実施形態では、カットフィルター7の配置角度の変更を、回折格子1の回転に機構的に連動させてカットフィルター7を回転させることで行うので、測定条件がさらに一様になり、また回折格子1を途中で停止させる必要もない。このため、測定データの信頼性がさらに高くなり、高速走査による測定時間短縮化により十分に対応が可能なものとなる。尚、機構的な連動を行う構成の場合、上述したギヤ22,721の噛み合いの他、各回転軸にプーリを設け、その間にベルトを張架して連動させる構成や、一対のギヤをチェーンで連動させる構成等を採用し得る。
また、本実施形態の分光器では、カットフィルター7を一枚だけ備えれば良いので、その分だけ従来に比べてコストを安くできる。従来におけるカットフィルター7の切り替え機構のコストと実施形態におけるフィルター駆動機構71のコストがそれほど変わらない場合、全体のコストはカットフィルター7の分だけ節約できることになる。
【0036】
次に、別の実施形態に係る走査型回折格子分光器の構成について説明する。図4は、別の実施形態に係る走査型回折格子分光器の概略図である。
図4に示す分光器は、フィルター駆動機構71とその制御のための構成が異なるのみであり、他の部分は図1に示す実施形態とほぼ同様である。図4に示す分光器は、カットフィルター7の配置角度の変更を、機構的な連結によって回折格子1の回転(走査)と連動させることで行うのではなく、電気的な連動によって行っている。
【0037】
具体的に説明すると、図4に示すように、この実施形態の分光器は、全体を制御する制御部8(図1では不図示)を備えている。制御部8は、走査機構2やフィルター駆動機構71等の各部を制御するものである。
制御部8による走査機構1の制御は、図1に示す実施形態と同様であり、入力された測定波長範囲において分光が行われるよう回折格子1を回転させる制御である。一方、フィルター駆動機構71については、入力された測定波長範囲に応じて制御シーケンスが予め決定され、それに基づいてフィルター駆動機構71が制御されるようになっている。
【0038】
制御部8には、測定波長範囲に応じてカットフィルター7の回転角度を決定して制御データとする角度決定手段が設けられている。例えば、前述した例と同様に1200nm〜2500nmが測定波長範囲である場合、角度決定手段は、カットフィルター7の配置角度を0度→50度に変化させるよう制御データを作成する。即ち、カットフィルター7を最初に0度の角度に配置した状態で、回折格子1の走査開始と同時に所定の速度で回転を始め、回折格子1が1200nmの波長を分光する位置まで回転した際には、50度の角度に位置するような制御シーケンスのデータである。
【0039】
上記説明から解るように、制御データは、カットフィルター7の配置角度の初期値(回転開始時の角度)、終期値(回転終了時の配置角度)、回転速度及び回転の向きの各情報を含んでいる。回転速度は、回折格子1の走査速度に依存する。走査速度はその分光器の性能に応じた一定の速度であり、したがってカットフィルター7の回転速度も初期設定の値で変更されないことが多い。また、回転の向きは、回折格子1の回転の向きやカットフィルター7の特性によるが、これも通常は変更されない。したがって、基本的には、測定波長範囲に応じて配置角度の初期値と終期値とを選択すれば良い。角度決定手段としては、測定波長範囲の境界値に対応してカットフィルター7の配置角度の初期値と終期値とを表データにして制御部8の記憶部(メモリ等)に保存し、それを読み出して角度を決定する構成が考えられる。前記の例で言えば、1200nmと2500nmが境界値になるが、1200nmに対応する角度として50度を記憶しておき、2500nmに対応する角度として0度を記憶しておく。角度決定手段は、MPU等のプロセッサであり、記憶部から角度を読み出し、0度→50度に変化させるよう制御データを作成するものとされる。
【0040】
制御部は、このようにして作成された制御データに従い、フィルター駆動機構71を制御し、回折格子1の走査に連動してカットフィルター7を回転させ、カットフィルター7の配置角度を漸次変化させる。この他の動作は、前述した実施形態と同様である。
尚、制御部8における角度決定手段は、純粋に回路的に(ハードウェアとして)構成することも可能である。例えばOPアンプ回路を使用し、入力された測定波長範囲の各境界値に応じて配置角度に相当する電圧を出力するよう回路を構成すれば良い。
【0041】
この実施形態の分光器においても、カットフィルター7の配置角度を変更することで遮断波長を変更するので、測定が簡便で短時間に済み、高速走査にも十分に対応が可能である。そして、測定が連続的で条件変化が一様なので、測定データの信頼性低下の問題もなく、高速測定にもより十分に対応が可能である。
また、この実施形態では、カットフィルター7の連動を電気的に(ソフトウェア的に又はハードウェア的に)行うので、制御条件の変更に柔軟に対応が可能である。図1に示す実施形態の場合、機械的な連結により連動させるので、例えばカットフィルター7を別の特性のものに変更した場合や回折格子1を別の特性のものに変更したような場合には、ギヤを別のものに変更する等、面倒な作業が必要になる可能性もある。一方、この図4の実施形態では、制御部8における設定値を変更するだけで良いので、制御条件の変更に対して柔軟に且つ容易に対応できる。
尚、この実施形態において、フィルター駆動機構71は、カットフィルター7の回転を位置精度良く開始し、また位置精度良く終了させるとともに、回転速度を走査速度に応じて制御することから、パルスモータやサーボモータ等の高性能モータにより回転を行う構成とすることが望ましい。また、カットフィルター7の回転開始時の角度や終了時の角度をモニタするため、ロータリエンコーダのような回転角度モニタが必要に応じて設けられる。
【0042】
上記各実施形態では、カットフィルター7の配置角度の変更は、回折格子1の走査に連動した一様なもの(所定角度範囲内の連続した回転)であったが、段階的に行うようにしても良い。段階的な配置角度の変更は、測定の連続性という点では前述したように劣るが、従来のようにカットフィルターを切り替えて使う構成に比べると、測定の簡便性や高速走査への対応性といった点で優れている。
【0043】
段階的な角度変更を行う場合、測定波長範囲を幾つかに分け、それぞれの範囲において適したカットフィルター7の配置角度を予め選定し、その角度になるようフィルター駆動機構71を制御する。前述したのと同様に、図2に特性を示したカットフィルター7を使用する場合、例えば、1200nm〜1300nmの測定では配置角度を50度とし、1300nm〜2500nmでは配置角度を10度とする。この場合、1200nm〜1300nmを測定した後、回折格子1を止め、カットフィルター7の配置角度を50度から10度に変更する。その後、1300nm〜2500nmの測定を行うようにする。場合によっては、回折格子1の回転(走査)を停止することなく行い、最適なタイミングでフィルター駆動機構71を動作させて配置角度を変更することもあり得る。但し、前述した各実施形態に比べて、回折格子1の回転速度(走査速度)はある程度遅くする必要があろう。尚、この段階的な配置角度変更を行う構成の場合、各段階でカットフィルター7が所定の配置角度になっているかを監視するため、カットフィルター7の回転軸に回転角度モニタを設けておくと好適である。
【0044】
上記各実施形態では、カットフィルター7は回折格子1の出射側に設けたが、回折格子1の入射側にカットフィルター7を設けても同様に測定が行える。但し、回折格子1の出射側では、遮断すべき高次回折光は、本来測定すべき回折光に比べて非常に小さい値であるのに対し、回折格子1の入射側では、まだ回折光となっていないので、遮断すべき高次回折光となる波長の光は大きな強度である場合が多い。したがって、カットフィルター7の遮断性能によっては、回折格子1の入射側にカットフィルター7を設けると問題が生じる場合がある(即ち、高次回折光を十分に除去できなくなる問題が起こり得る)。
【0045】
また、カットフィルター7は、出射スリット52の付近に配置されることが望ましい。図1や図4から解るように、被測定光は、第二の光学系62によって出射スリット52を透過する大きさの光芒に絞られる。出射スリット52から離れた位置にカットフィルター7を配置しておくと、被測定光がまだ十分に絞られていないため、カットフィルター7に入射する角度が場所によってまちまちとなる。この点は、上述したようにカットフィルター7の姿勢を変化させた場合により顕著となる。このため、より精度の高い測定を行おうとした場合、問題となり得る。したがって、カットフィルター7は出射スリット52の付近に配置することが望ましい。尚、出射スリット52の出射側に別の光学系を設けてもう一度被測定光を絞るようにし、その絞る箇所にカットフィルター7を配置しても良い。
【0046】
上記説明では、近赤外域の波長の光の測定を例にして説明したが、他の波長域の光の測定においても同様に実施することができる。また、上記各実施形態の分光器は、分光反射率の測定用であったが、各波長の強度(分光強度)の測定用であってもよく、また分光透過率等の測定用であっても良い。
カットフィルター7は一枚のみで足りると説明したが、二枚以上のカットフィルター7を切り替えて使用する場合もある。これは、測定波長範囲が広いなどの場合に一枚のカットフィルター7では対応しきれない場合があるからである。このような場合であっても、従来に比べると使用するカットフィルター7の枚数は少なくなり、切り替えの回数は少なくなるので、大きな効果がある。
【符号の説明】
【0047】
1 回折格子
2 走査機構
21 回転角度モニタ
3 分光器
31 信号処理部
4 筐体
51 入射スリット
52 出射スリット
61 第一の光学系
62 第二の光学系
7 カットフィルター
71 フィルター駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子と、被測定光の入射方向に対する回折格子の配置角度を変化させることで被測定光を分光する走査機構と、回折格子で分光された測定波長の光を受光する受光器とを備えた走査型回折格子分光器であって、
被測定光の光路上にはカットフィルターが配置されており、
カットフィルターは、測定結果を得ようとする波長の光よりも短い所定の遮断波長以下の波長の光を遮断するものであり、
このカットフィルターは干渉フィルターであって、被測定光の入射方向に対するカットフィルターの配置角度を変化させるフィルター駆動機構とが設けられており、
フィルター駆動機構は、走査機構に連動してフィルターの配置角度を変化させるものであり、走査機構が回折格子の配置角度を特定波長の光が受光器に入射する角度にした際、干渉フィルターの配置角度を、その特定波長より短い波長が遮断波長となる角度にするものであることを特徴とする走査型回折格子分光器。
【請求項2】
前記フィルター駆動機構は、前記カットフィルターの回転軸と走査機構が備える前記回折格子の回転軸とを連結して連動させる機構であることを特徴とする請求項1記載の走査型回折格子分光器。
【請求項3】
前記フィルター駆動機構は、前記カットフィルターの回転軸と走査機構が備える前記回折格子の回転軸とをギヤにより連結して連動させる機構であることを特徴とする請求項2記載の走査型回折格子分光器。
【請求項4】
前記カットフィルターは、回折格子の出射側の光路上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の走査型回折格子分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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