説明

走行作業機のホイールベース変更装置

【課題】 走行機体1の下面に取り付けられ且つ前車軸14が回転可能に軸支されたフロントアクスルケース62と、アクスルケース62の左右各端部に配置した前輪2との間に、歯車列機構65を内装した縦長の中継ケース64と、前輪2のかじ取り角度を変更するキングピン機構66とを備えた走行作業機において、圃場、道路等の路面状態や作業内容に応じて、前後の車輪2,3間のホイールベースを変更調節できるようにする。
【解決手段】 中継ケース64を、フロントアクスルケース62に対して、その取付け位相が前車軸14回りの前後方向に変更可能となるように取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の農作業機やホイールローダ等の特殊作業用車両のような走行作業機において、前後の車輪間のホイールベースを変更調節するホイールベース変更装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トラクタやホイールローダ等の走行作業機においては、走行機体の下面前部に取り付けられた前車軸支持用のフロントアクスルケースと左右の前輪との間に、フロントアクスルケースの左右各端部から下向きに延びるかじ取り用のキングピン機構が介設されている。そして、このキングピン機構の外側下部から横向きに突出する前輪回転軸が前輪の回転中心部に着脱可能に取り付けられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−54277号公報(図2及び図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1の構成では、フロントアクスルケースの対地高さ(路面に対するフロントアクスルケースの高さ)がキングピン機構の鉛直方向の長さ成分と前輪の半径との和となり、フロントアクスルケースが路面から離れた高い位置に存在することになるから、その上方に搭載されるエンジンの位置が高くなり、その結果、走行機体の重心位置が高くなる。このような走行作業機を用いて果樹園、傾斜地又は不整地等で農作業するのは、走行時の安定性の観点からあまり好ましくないという問題があった。
【0004】
この点、走行作業機の前後輪間のホイールベースを長くすれば、作業時や路上走行時の安定性は向上するが、前記特許文献1の構成では、前後輪間のホイールベースが所定の長さに固定されているため、作業時や路上走行時の安定性を重視してホイールベースを長くした走行作業機では、旋回性能が低下し、小回りが効かなくて使いづらいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の問題を改善し、走行作業機の重心位置を低くした上で、圃場、道路等の路面状態や作業内容等に応じて簡単にホイールベースを変更調節できるようにすることを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を達成するため、請求項1の発明に係る走行作業機のホイールベース変更装置は、走行機体の下面に取り付けられ且つ横長の車軸が回転可能に軸支されたアクスルケースと、このアクスルケースの左右各端部に配置された車輪との間に、前記車軸と前記車輪とを連動させるための連動機構が内装された縦長の中継ケースを備え、当該中継ケースは、前記アクスルケースに対して、その取付け位相が前記車軸回りの前後方向に変更可能となるように取り付けられているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した走行作業機のホイールベース変更装置において、前記アクスルケースは、前記走行機体の下面前部に配置されたフロントアクスルケースであり、当該フロントアクスルケースと各前輪との間には、前記中継ケースと、前記前輪のかじ取り角度を変更するための縦長筒状のキングピン機構とを備え、前記中継ケースは、前記フロントアクスルケースの左右各端部から上向きに延びるように取り付けられている一方、前記キングピン機構は、前記中継ケースの外側上部から下向きに延びるように取り付けられ、前車軸と前記前輪の回転軸とは、同一軸心上に位置しないように、上下にずらして配置されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載した走行作業機のホイールベース変更装置において、前記フロントアクスルケースにおける左右各端部の外周に形成されたフランジ部と前記中継ケースとには、前記取付け位相ごとの互いの対応箇所にボルト孔が形成され、前記中継ケースを前記フランジ部に対して所定の取付け位相となるように配置した状態で、互いに合致するボルト孔にボルトをねじ込むことにより、前記中継ケースが前記フロントアクスルケースに対して着脱可能に固定されているというものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るホイールベース変更装置によるホイールベース変更作業の手順は、例えば以下のようになる。すなわち、左右両車輪をジャッキアップして地面から浮かせ、この状態で中継ケースのアクスルケースに対する固定を解除してから、前記中継ケースの前記アクスルケースに対する取付け位相を、前記アクスルケースに回転可能に軸支された車軸回りの前後方向に変更調節する。そして、変更調節後の取付け位相において、前記中継ケースを前記アクスルケースに固定する。これにより、前記左右両前輪を走行機体に対して前後に移動調節することができる。
【0010】
従って、本発明の構成によると、走行機体の重心位置を低くした上で、圃場、道路等の路面状態や作業内容等の必要に応じて、左右両方の前後輪間のホイールベースを所定の長さに変更調節することができ、このような走行作業機を用いて果樹園、傾斜地又は不整地等で農作業する場合であっても、安全性を確保できるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明を具体化したものである。この構成によると、前記走行機体のかじ取りをする左右両前輪を前後に移動調節することができるから、前記走行機体を小半径で旋回させることができ(小回りが効き)、農作業をする際の作業性の向上に寄与することができるという効果を奏する。
【0012】
請求項3のように、フロントアクスルケース及び中継ケース間の連結をボルトのねじ込みにより行う構成を採用すると、前後輪間のホイールベースの変更調節を至極簡単に行うことができ、ユーザの使い勝手が向上するという効果を奏する。
【0013】
また、請求項3の構成を採用すると、ホイールベースの長さを変更するに際して、前記前車軸から前記前輪の回転軸までの長さが短いために、前記中継ケースを前記前車軸回りに大きく回動させる必要があるから、前記フロントアクスルケースのフランジ部において、取付け位相の異なるボルト孔の隣接間隔を広く取ることができ、更にボルト孔を形成する場合でも、その形成スペースを簡単に確保できる。
【0014】
これにより、前記フランジ部のボルト孔の形成位置についての制約が少なくなり、ボルト孔位置設計の自由度、ひいてはホイールベース長さの変更の自由度を確保することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を具体化した実施形態を、走行作業機としての農作業用トラクタに適用した場合の図面(図1〜図6)に基づいて説明する。図1はトラクタの全体側面図、図2は走行機体の概略平面図、図3はトラクタの動力伝達系統を示す平面図、図4は前車軸から左右の前輪に至る動力伝達系統の要部拡大正断面図、図5は図4のV−V視側断面図、図6はホイールベースを変更する態様の説明図である。
【0016】
はじめに、図1及び図2を参照しながら、トラクタの概要について説明する。図1及び図2に示すように、トラクタの走行機体1は、その左右両側の前後に配置した前後四輪2,2,3,3で支持されている。
【0017】
走行機体1の上面前部には、動力源としてのエンジン4と、操向丸ハンドル6を有する操縦コラム5とが設けられている。操向丸ハンドル6の後方には、運転座席7が配置されている。この運転座席7に座ったオペレータが操向丸ハンドル6を回動操作することにより、その操作量(回動量)に応じて左右両前輪2,2のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。
【0018】
走行機体1の後部には、エンジン4からの動力を適宜変速して前後四輪2,2,3,3に伝達するための油圧・機械式(HMT式)変速装置9を有するミッションケース8が搭載されている。走行機体1の後端部には、スクレーパやレーキ、耕耘機等(図示せず)を装着可能なリンク機構10が設けられている。
【0019】
次に、図3〜図5を参照しながら、トラクタの動力伝達系統について説明する。
【0020】
この実施形態のトラクタは、エンジン4からミッションケース8内の油圧・機械式変速装置9に伝達された動力を、差動制限機構付きの前輪終減速装置12に左右外向きに突設した前車軸14から左右の前輪2,2に出力すると共に、差動制限機構付きの後輪終減速装置13に左右外向きに突設した後車軸15から左右の後輪3,3に出力するように構成した四輪駆動式のものである。
【0021】
エンジン4の後面に取り付けられたギヤケース16内には、エンジン4からの出力軸17が突出している。ギヤケース16の下部には、当該ギヤケース16の後面から後ろ向きに突出する駆動軸18が出力軸17と平行状に取り付けられている。なお、ギヤケース16の後面に設けられた作業用油圧ポンプ19は出力軸17に同心状に連結されている。
【0022】
ギヤケース16内では、出力軸17に固着された出力歯車21がアイドラ歯車22と噛み合っている。当該アイドラ歯車22は駆動軸18に固着された駆動歯車23と噛み合っている。出力軸17から駆動軸18へ同じ回転数で動力伝達されるように、出力歯車21、アイドラ歯車22及び駆動歯車23の歯数が設定されている。駆動軸18に伝わった動力は、前後両端に自在継手を有する伝動軸24を介してミッションケース8の前面から前向きに突出する入力軸25に伝達される。
【0023】
ミッションケース8に設けられた油圧・機械式(HMT式)変速装置9は、油圧ポンプ33及び油圧モータ34からなる静油圧式(HST式)変速機構31と遊星歯車機構32とにより構成されている。この実施形態の油圧・機械式変速装置9は、入力軸25に伝わった動力を、遊星歯車機構32のサンギヤ軸35(詳細は後述する)と油圧ポンプ33への入力用ポンプ軸53とに分割する一方、サンギヤ軸35への分割動力と油圧モータ34からの出力用モータ軸54を経由した動力とを合成して、前後四輪2,2,3,3を回転駆動させるように構成されている。すなわち、この油圧・機械式変速装置9は入力分割型のものである。
【0024】
静油圧式変速機構31は、油圧ポンプ33の回転斜板(図示せず)の傾斜角度を調節して油圧モータ34への圧油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、出力用モータ軸54の回転方向及び回転数を調節し得るように構成されている。
【0025】
遊星歯車機構32のサンギヤ軸35は、ミッションケース8内のうち入力軸25よりも上方の箇所に、当該入力軸25と平行状で且つミッションケース8内の軸受を介して回転可能に軸支されている。入力軸25に固着された歯車26がサンギヤ軸35の前端部にベアリングを介して遊嵌された伝動歯車36と噛み合っている。
【0026】
この伝動歯車36の片面に固着されたキャリア37には、複数の遊星歯車38が各々回転可能に軸支されている。サンギヤ軸35の外周に設けられた太陽歯車39は、前述した全ての遊星歯車38と噛み合っている。
【0027】
内周面の内歯と外周面の外歯とを有するリングギヤ40は、その内歯が複数の遊星歯車38とそれぞれ噛み合うように、サンギヤ軸35に軸受を介して回転可能に被嵌されている。リングギヤ40における外周面の外歯は、油圧ポンプ33からミッションケース8内に突出する入力用ポンプ軸53に固着されたポンプ歯車55と噛み合っている。サンギヤ軸35におけるリングギヤ40よりも後方の箇所に固着された伝達歯車41は、油圧モータ34からミッションケース8内に突出する入力用モータ軸54に固着されたモータ歯車56と噛み合っている。
【0028】
サンギヤ軸35における伝達歯車41を挟んで両側の箇所には、変速歯車42が取り付けられている。一方、サンギヤ軸35の下方には、ミッションケース8内でサンギヤ軸35と平行状に延びる後輪推進軸43が軸受を介して回転可能に軸支されている。この後輪推進軸43の長手中途部に、サンギヤ軸35の各変速歯車42と常時噛み合う一対の従動歯車44が遊嵌されている。後輪推進軸43のうち両従動歯車44,44の間には、サンギヤ軸35から後輪推進軸43への動力伝達を継断する副変速クラッチ45が、後輪推進軸43に沿って往復動可能に被嵌されている。
【0029】
後輪推進軸43のうちミッションケース8から後ろ向きに突出した後端部は、差動制限機構付きの後輪終減速装置13に連結されている。後輪終減速装置13はミッションケース8内に収容されている。後輪終減速装置13に左右外向きに突設した後車軸15は、ミッションケース8から左右外向きに突出する筒状のリヤアクスルケース63にそれぞれ回転可能に軸支されている。
【0030】
リヤアクスルケース63の左右各端部に取り付けられたリヤ中継ケース77内には後車軸15の先端部が突出している一方、リヤ中継ケース77の外側後部には、当該リヤ中継ケース77から横向きに突出する後輪回転軸78が後車軸15と平行状で且つ回転可能に軸支されている。リヤ中継ケース77内では、後車軸15の突端部に固着された歯車79が後輪回転軸78の基端部に固着された歯車80と噛み合っている。後輪回転軸78の先端外周に形成されたフランジ部は後輪3の回転中心部にボルト締結されている。
【0031】
一方、後輪推進軸43の前端部に固着された歯車46は、後輪推進軸43の下方にこれと平行状に配置された前輪推進軸47に取り付けられたクラッチ付き歯車48と噛み合っている。前輪推進軸47のうちミッションケース8から前向きに突出した前端部は、前後両端に自在継手を有する連結軸49を介して差動制限機構付きの前輪終減速装置12に連動連結されている。
【0032】
前輪終減速装置12は、走行機体1の下面前部に取り付けられた横長筒状のフロントアクスルケース62の中央部に収容されている。前輪終減速装置12から左右外向きに突出する前車軸14はフロントアクスルケース62に回転可能に軸支されている。
【0033】
次に、フロントアクスルケース62内の前車軸14から各前輪2に至る動力伝達系統の詳細構造について説明する。
【0034】
前車軸14に伝わった動力は、フロントアクスルケース62の左右各端部に取り付けられた縦長のフロント中継ケース64内の歯車列機構65と、操向丸ハンドル6の操作量に応じて前輪2のかじ取り角度を変更する縦長筒状のキングピン機構66とを介して、前輪2の回転中心部に着脱可能に取り付けられた前輪回転軸67に伝達される。
【0035】
図4に示すように、フロント中継ケース64は、フロントアクスルケース62の左右各端部から上向きに延びるように取り付けられている。フロント中継ケース64に内装された歯車列機構65は特許請求の範囲に記載した連動機構に相当する。この実施形態の歯車列機構65は3つの平歯車65a,65b,65cを組み合わせたものである。
【0036】
フロント中継ケース64内の下部には前車軸14の先端部が突出している一方、フロント中継ケース64の上部には、当該フロント中継ケース64の外側面から横向きに突出する中間軸68が前車軸14と平行状で且つ回転可能に軸支されている。
【0037】
フロント中継ケース64内では、前車軸14の突端部にスプライン嵌合された下部平歯車65aが中央平歯車65bと噛み合っている。当該中央平歯車65bは、中間軸68の基端部にスプライン嵌合された上部平歯車65cと噛み合っている。
【0038】
図4に示すように、キングピン機構66は、フロント中継ケース64の外側上部から下向きに延びるように取り付けられている。当該キングピン機構66は、フロント中継ケース64の外側上部に取り付けられた略L字筒状の固定ケース69と、当該固定ケース69の縦筒部69bに軸受を介して回転可能に軸支された縦長のアイドラ軸70と、固定ケース69の縦筒部69bに回動可能に連結された操向回動ケース71とを備えている。
【0039】
固定ケース69の横筒部69a内には、中間軸68の先端部が突出している。固定ケース69内では、中間軸68の先端部にスプライン嵌合された中間ベベルギヤ72がアイドラ軸70の上端部にスプライン嵌合された上部ベベルギヤ73と噛み合っている。アイドラ軸70の下端部は操向回動ケース71内に突出している。この下端部にスプライン嵌合された下部ベベルギヤ74は、前輪回転軸67の基端部に固着された最終ベベルギヤ75と噛み合っている。
【0040】
前輪回転軸67は、操向回動ケース71の外側面に取り付けられた支持ケース76に軸受を介して回転可能に軸支されている。この実施形態では、前輪回転軸67は、前車軸14と同一軸心上に位置しないように、上下にずらして配置されている(図4参照)。支持ケース76内には最終ベベルギヤ75も収容されている。前輪回転軸67における先端外周のフランジ部67aは前輪2の回転中心部にボルト締結されている。
【0041】
この実施形態では、操向回動ケース71はナックルアーム及びリンク等(図示せず)を介して操向丸ハンドル6に連動連結されている。操向丸ハンドル6の操作量に応じて操向回動ケース71をアイドラ軸70と同一軸心回りに回動させることにより、左右両前輪2,2のかじ取り角(操向角度)が変更される。
【0042】
次に、フロント中継ケース64の取付け構造について説明する。
【0043】
図4に示すように、フロント中継ケース64は、互いに重なり合う左右対称形状の一対のケース体81,81を備えている。両ケース体81,81の合わせ面には、歯車列機構65を収容する収容用凹所82が形成されている。この収容用凹所82は3つの平歯車65a〜65cからなる歯車列機構65を収容可能な深さ及び面積に設定されている。
【0044】
収容用凹所82の外周を囲繞するフランジ部83には、複数個のボルト孔84,85が形成されている。フロント中継ケース64の下部に位置する下部ボルト孔84は、両ケース体81,81を重ね合わせた状態でフロントアクスルケース62側(左右内側)に開口している一方、上部に位置する上部ボルト孔85は、両ケース体81,81を重ね合わせた状態でキングピン機構66側(左右外側)に開口している。
【0045】
この実施形態の下部ボルト孔84は、下部平歯車65aの回転軸心(前車軸14)を中心とした周方向に沿って適宜間隔(実施形態では60°間隔)で並ぶようにして形成されている。また、詳細は図示していないが、上部ボルト孔85は、上部平歯車65cの回転軸心(中間軸68)を中心とした周方向に沿って適宜間隔で並ぶようにして形成されている。
【0046】
また、フロントアクスルケース62の左右各端部には、半径方向外向きに突出する固定フランジ部86が形成されている。固定フランジ部86には、横方向に貫通するボルト孔87a,87bが周方向に沿って適宜間隔で複数個形成されている。ボルト孔87a,87bは、固定フランジ部86のうち前車軸14回りの取付け位相ごとの対応箇所に形成されている。
【0047】
この実施形態では、図面において添字aを付したボルト孔87a同士が60°間隔で並んでいる。ボルト孔87aは、中継ケース64が後ろ斜め上向きに傾斜した第1取付け位相(図5の実線状態参照)にあるときに下部ボルト孔84に合致する5箇所に形成されている。図5では、ボルト孔87aは締付けボルト88がねじ込まれている位置にあることになる。また、添字bを付したボルト孔87b同士も同様にして60°間隔で並んでいる。ボルト孔87bは、フロント中継ケース64が前斜め上向きに傾斜した第2取付け位相(図5の二点鎖線状態参照)にあるときに下部ボルト孔84に合致する5箇所に形成されている。
【0048】
フロント中継ケース64をフロントアクスルケース62に対して所定の取付け位相となるように配置した状態で、互いに合致するボルト孔84,87a(又は87b)に締付けボルト88をねじ込むことにより、フロント中継ケース64は、フロントアクスルケース62に対して、その取付け位相が前車軸14回りの前後方向に変更可能で且つ着脱可能に固定されている。
【0049】
一方、固定ケース69の横筒部69aにも半径外向きに突出する連結フランジ部89が形成されている。連結フランジ部89にも、横方向に貫通するボルト孔90がそれぞれフロント中継ケース64の上部ボルト孔85に対応するように形成されている。
【0050】
なお、ボルト孔84,85,87a,87b,90の位置関係や形成個数は、前述の態様に制限されるものではなく、各ケース62,64,69のフランジ部83,86,89の剛性を損なわない範囲で任意に設定することができる。また、フロント中継ケース64の取付け位相を、3つ以上の複数段階に変更できるようにしてもよい。
【0051】
以上の構成において、図1、図5及び図6(a)に示すように、前後の車輪2,3間のホイールベースを例えば長さL1から長さL2に延長するには、まず、左右両前輪2,2をジャッキアップして地面から浮かせる。次いで、この状態でフロントアクスルケース62とフロント中継ケース64とを連結する複数箇所(実施形態では5箇所)の締付けボルト88を緩めて抜くことにより、フロント中継ケース64のフロントアクスルケース62に対する取付け位相を変更可能な状態とする。
【0052】
それから、第1取付け位相(図5及び図6(a)の実線状態参照)に位置するフロント中継ケース64を、前車軸14回りの前方向に向けて第2取付け位相(図5及び図6(a)の二点鎖線状態参照)にまで、回動角度θaだけ回動移動させる。そして、フロント中継ケース64が第2取付け位相にあるときに合致する複数箇所のボルト孔84,87bに締付けボルト88をねじ込むことにより、フロント中継ケース64をフロントアクスルケース62に固定する。このようにして、左右両方の前後輪2,3間のホイールベースを当初のL1からL2にまで延長することができる(図1参照)。
【0053】
一方、前記とは逆の操作を行うことにより、左右両方の前後輪2,3間のホイールベースを短縮することができる。
【0054】
従って、本発明の構成によると、左右両前輪2,2を走行機体1に対して前後に移動調節することができるので、走行機体1の重心位置を低くした上で、圃場、道路等の路面状態や作業内容等に応じて、前後輪2,3間のホイールベースを段階的に変更することができ、このような走行作業機を用いて果樹園、傾斜地又は不整地等で農作業する場合であっても、安全性を確保することができる。
【0055】
すなわち、路上走行をするに際しては、前後輪2,3間のホイールベースを長め(長さL2)に変更調節することにより、作業時や路上走行時の走行安定性を確保して、安全性を向上させることができる。農作業をするに際しては、前後輪2,3間のホイールベースを短め(長さL1)に変更調節することにより、旋回性能を向上させることができ(小回りが効き)、作業性の向上に寄与することができる。この場合、走行機体1のかじ取りをする左右両前輪2,2を前後に移動調節する構成であるから、より小さい半径での旋回が可能となり、ユーザにとってさらに使い勝手のよいものとなる。
【0056】
また、フロントアクスルケース62、フロント中継ケース64及び固定ケース69の相互間の連結を締付けボルト88のねじ込みにより行う構成を採用しているので、前後輪2,3間のホイールベースの変更調節を至極簡単に行え、ユーザの使い勝手の向上に有効である。
【0057】
ところで、前述の実施形態では、フロント中継ケース64のフロントアクスルケース62に対する取付け位相を前車軸14回りの前後方向に変更可能に構成しているが、例えば図6(b)に示すように、前記特許文献1の走行作業機において、キングピン機構66′のフロントアクスルケース62′に対する取付け位相を前車軸14′回りの前後方向に変更可能に構成することも可能である。
【0058】
しかし、図6(b)の場合は、前車軸14′を回動中心とする回動半径Rbが前車軸14′から前輪2′の前輪回転軸67′までの長さで表され、図6(a)に示す本発明における回動半径Ra(前車軸14から前輪回転軸67までの長さ)よりも長いから、図6(a)の場合と同じ長さL(=L2−L1)だけホイールベースを変化させるときには、キングピン機構66′の回動角度θbが、フロント中継ケース64及びキングピン機構66の前車軸14回りの回動角度θaよりも格段に小さくなる。
【0059】
そうすると、特許文献1の走行作業機において、フロントアクスルケース62′とキングピン機構66′との相互間の連結を締付けボルトのねじ込みにより行う構成を採用した場合は、取付け位相の異なるボルト孔の隣接間隔は狭くなるから、前後輪2,3間のホイールベースを3以上の複数段階に変更したい場合であっても、ボルト孔を形成するスペースを確保するのが難しく、ボルト孔位置ひいてはホイールベース長さ等の設計的事項に多くの制約を受けると考えられる。
【0060】
これに対して、本発明ではホイールベースを長さL(=L2−L1)だけ変化させるときには、フロント中継ケース64及びキングピン機構66を前車軸14回りに大きな回動角度θaで回動させる必要があるから、図5に示すように、取付け位相の異なるボルト孔84a,84bの隣接間隔を広く取ることができ、更にボルト孔を形成する場合でもそのスペースを確保することができる。これにより、フロントアクスルケース62におけるフランジ部83のボルト孔84a,84bの形成位置についての制約が少なくなり、例えば前後輪2,3間のホイールベースを3以上の複数段階に変更したい場合に、ボルト孔位置設計の自由度ひいてはホイールベース長さの変更の自由度を確保することができるのである。
【0061】
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば走行作業機としては農作業用トラクタに限らず、土木作業用のトラクタや田植機、ホイールローダ等であってもよい。また、本発明は、走行作業機の前輪に適用するに限らず、後輪のみ又は前後両輪に適用できることはいうまでもない。
【0062】
本発明を走行作業機の後輪3に適用するに際しては、リヤアクスルケース63と後輪3との間に位置するリヤ中継ケース77を、リヤアクスルケース63に対して、その取付け位相位置が後車軸15回りの前後方向に変更可能となるように取り付ければよい。
【0063】
さらに、特許請求の範囲に記載した連動機構の構成は、前述のような歯車列機構に限らず、回転軸の両端にベベルギヤを固着してなる機構等、様々な機構を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】走行機体の概略平面図である。
【図3】トラクタの動力伝達系統を示す平面図である。
【図4】前車軸から左右の前輪に至る動力伝達系統の要部拡大正断面図である。
【図5】図4のV−V視側断面図である。
【図6】ホイールベースを変更する態様の説明図であり、(a)は本発明における作用説明図、(b)は特許文献1の走行作業機においてキングピン機構のフロントアクスルケースに対する取付け位相を前車軸回りの前後方向に変更可能に構成した場合の作用説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 走行機体
2 前輪
3 後輪
4 エンジン
8 ミッションケース
9 油圧・機械式変速装置
12 前輪終減速装置
13 後輪終減速装置
14 前車軸
15 後車軸
25 入力軸
31 遊星歯車機構
32 静油圧式変速機構
43 後輪推進軸
45 副変速クラッチ
47 前輪推進軸
62 フロントアクスルケース
63 リヤアクスルケース
64 中継ケース
65 連動機構としての歯車列機構
66 キングピン機構
67 回転軸
68 中間軸
69 固定ケース
70 アイドラ軸
71 操向回動ケース
81 ケース体
83 フランジ部
84 下部ボルト孔
85 上部ボルト孔
86 固定フランジ部
87 ボルト孔
88 締付けボルト
89 連結フランジ部
90 ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の下面に取り付けられ且つ横長の車軸が回転可能に軸支されたアクスルケースと、このアクスルケースの左右各端部に配置された車輪との間に、前記車軸と前記車輪とを連動させるための連動機構が内装された縦長の中継ケースを備え、
当該中継ケースは、前記アクスルケースに対して、その取付け位相が前記車軸回りの前後方向に変更可能となるように取り付けられていることを特徴とする走行作業機のホイールベース変更装置。
【請求項2】
前記アクスルケースは、前記走行機体の下面前部に配置されたフロントアクスルケースであり、当該フロントアクスルケースと各前輪との間には、前記中継ケースと、前記前輪のかじ取り角度を変更するための縦長筒状のキングピン機構とを備え、
前記中継ケースは、前記フロントアクスルケースの左右各端部から上向きに延びるように取り付けられている一方、前記キングピン機構は、前記中継ケースの外側上部から下向きに延びるように取り付けられ、前車軸と前記前輪の回転軸とは、同一軸心上に位置しないように、上下にずらして配置されていることを特徴とする請求項1に記載した走行作業機のホイールベース変更装置。
【請求項3】
前記フロントアクスルケースにおける左右各端部の外周に形成されたフランジ部と前記中継ケースとには、前記取付け位相ごとの互いの対応箇所にボルト孔が形成され、
前記中継ケースを前記フランジ部に対して所定の取付け位相となるように配置した状態で、互いに合致するボルト孔にボルトをねじ込むことにより、前記中継ケースが前記フロントアクスルケースに対して着脱可能に固定されていることを特徴とする請求項2に記載した走行作業機のホイールベース変更装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−7880(P2006−7880A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185435(P2004−185435)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】