説明

走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法及び走行作業車搭載用排気ガス浄化システム

【課題】ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法を提供する。
【解決手段】排気ガス浄化システム100が、枕地旋回可能な走行装置20及びエンジン12を制御するコントローラ4を備えており、コントローラが実行する工程として、走行装置が枕地旋回するように制御されている間、エンジンにディーゼルパーティキュレートフィルター6を再生する再生運転の実行を保留させる、保留工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法及び該走行作業車搭載用排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルパーティキュレートフィルター(以下、DPF)を具備する排気ガス浄化システムにおいて、DPFを再生する再生運転に関する技術が、公知である。DPFの再生は、例えば、DPFに燃料及び高温の排気ガスを供給することによって行われる。DPFには酸化触媒が設けられており、高温の排気ガスによる高温環境で燃焼が行われることによって、DPFに付着した粒子状物質が燃焼する。例えば、特許文献1には、DPFの再生時に排気ガス温度制御の乱れ等により不完全なDPFの再生が起こるのを防止することを可能にする手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−014157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DPFを再生するために、エンジンの運転を、通常運転から高温の排気ガスが排出される再生運転に変更する必要がある。通常運転モードから再生運転モードに移行するときに、負荷変動により回転数が一時的に低下する。この結果、走行作業車が枕地旋回を適切に実行できない場合がある。枕地旋回は、例えば、走行作業車が一の畝から別の畝に移動する際に、Uターンのために行われる。Uターンのための枕地旋回は、一定の走行速度(例えば4km/s)で所定時間だけ実行される。ところが、負荷変動によって走行速度が変化すると、適切にUターンできない場合がある。Uターンが不完全に行われた場合、圃場に平行に畝を形成することができない。また、枕地旋回の実行中に再生運転が実行されると、制御装置に負荷が掛かることによって、走行作業車の制御に誤作動が発生する可能性もある。
【0005】
そこで、本発明は、枕地旋回の実行中に再生運転の実行を禁止できる走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法及び走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明は、ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法であって、排気ガス浄化システムが、枕地旋回可能な走行装置及びエンジンを制御する制御装置を備えており、制御装置が実行する工程として、走行装置が枕地旋回するように制御されている間、エンジンにディーゼルパーティキュレートフィルターを再生する再生運転の実行を保留させる、保留工程を備えている。
【0007】
第1発明は、好ましくは、構成(a)を採用できる。
【0008】
(a)制御装置が実行する工程として、保留工程において再生運転が保留された場合、保留工程の終了後に再生運転を実行させる、実行工程を備えている。
【0009】
第2発明は、ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用の排気ガス浄化システムであって、枕地旋回可能な走行装置及びエンジンを制御する制御装置を備えており、制御装置が、走行装置が枕地旋回するように制御されている間、エンジンにディーゼルパーティキュレートフィルターを再生する再生運転の実行を保留させる、保留手段を備えている。
【0010】
第2発明は、好ましくは、構成(b)を採用できる。
【0011】
(b)保留手段において再生運転が保留された場合、保留手段の作動終了後に再生運転を実行させる、実行手段を備えている。
【発明の効果】
【0012】
第1発明及び第2発明によれば、枕地旋回の実行中に、再生運転の実行が保留される。したがって、コントローラに負荷が掛かることによって、走行作業車の制御に誤作動が発生することを防止できる。
【0013】
構成(a)及び(b)によれば、枕地旋回によって再生運転の実行が保留されていても、枕地旋回が終了すると、再生運転が確実に実行される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】走行作業車を示す側面図である。
【図2】排気ガス浄化システムを示すブロック図である。
【図3】枕地旋回を実行しているトラクタを示す図である。
【図4】排気ガス浄化システムの制御方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、走行作業車を示す側面図である。走行作業車は、トラクタ1及び耕耘機2によって構成されている。
【0016】
トラクタ1は、車台11、エンジン12、2つの前輪13、2つの後輪14、運転台15、シート16、平行リンク機構17、及びPTO軸18を備えている。2つの前輪13及び2つの後輪14は、車台11に回転自在に支持されている。エンジン12、運転台15、シート16、平行リンク機構17、及びPTO軸18は、車台11に支持されている。
【0017】
トラクタ1の平行リンク機構17には耕耘機2が連結されている。耕耘機2は圃場を耕す作業機である。トラクタ1は、耕耘機2を牽引しながら走行する。また、トラクタ1は、PTO軸18から出力される動力により、耕耘機2を駆動する。
【0018】
図2は、排気ガス浄化システム100を示すブロック図である。排気ガス浄化システム100は、走行作業車用のシステムであり、トラクタ1内に設けられている。図2において、排気ガス浄化システム100は、エンジン12、コントローラ(制御装置)4、排気管5、DPF(ディーゼルパーティキュレートフィルター)6、走行装置20、ハンドル25、操作レバー群26、枕地旋回設定スイッチ31、及び枕地旋回速度ダイアル32を備えている。
【0019】
コントローラ4は、エンジン12及び走行装置20を制御する。
【0020】
排気管5は、エンジン12に接続されており、エンジン12からの排気ガスを大気中に排出する。排気管5内には、DPF6が配置されている。
【0021】
排気管5内に、排気管5内のガス圧を検出するための上流圧力センサ111及び下流圧力センサ112が設けられている。上流圧力センサ111はDPF6の上流側に設けられており、下流圧力センサ112はDPF6の下流側に設けられている。上流側及び下流側は、排気ガスの流れる方向を基準としている。
【0022】
走行装置20は、ステアリング機構21及び変速装置22を備えている。ステアリング機構21は、2つの前輪13、13の向きを変更することによって、トラクタ1の進行方向を変更する。変速装置22は、トラクタ1の走行速度及びPTO軸18の回転速度を変更する。
【0023】
ハンドル25及び操作レバー群26は、走行装置20の操作手段である。ハンドル25及び操作レバー群26は、運転台15に設けられている。操作レバー群26は、変速レバーやクラッチレバー等を含んでいる。ハンドル25及び操作レバー群26による操作量は、コントローラ4に伝達される。このため、コントローラ4は、ハンドル25の操作量に基づいて、ステアリング機構21を制御する。コントローラ4は、操作レバー群26の操作量に基づいて、変速装置22を制御する。
【0024】
枕地旋回設定スイッチ31は、コントローラ4に、旋回動作を枕地旋回に設定するための入力手段である。旋回動作には、通常の旋回における旋回動作と、枕地旋回における旋回動作とがある。ここで、通常の旋回動作と、枕地旋回における旋回動作との間において、左右における車輪(前輪13及び後輪14)間の速度差が異なっている。枕地旋回における前記速度差は、通常の旋回における前記速度差よりも、大きく設定されている。このため、枕地旋回では、通常の旋回よりも、小さな旋回半径でトラクタ1が旋回できる。なお、平行リンク機構17を駆動することによって、耕耘機2を地面より浮かせることができる。旋回動作中に耕耘機2は地面から離れており、耕耘機2はトラクタ1の旋回に干渉しない。
【0025】
枕地旋回設定スイッチ31は、ON又はOFF状態を取りうる。枕地旋回設定スイッチ31がON状態にあるとき、コントローラ4は、旋回動作が枕地旋回に設定されたと認識する。枕地旋回設定スイッチ31がOFF状態にあるとき、コントローラ4は、旋回動作が枕地旋回に設定されていないと認識する。
【0026】
枕地旋回速度ダイアル32は、コントローラ4に、枕地旋回における走行速度を設定するための入力手段である。旋回動作が枕地旋回に設定されているとき、トラクタ1の走行速度(旋回速度)は、操作レバー群26の操作量に関係なく、枕地旋回速度ダイアル32によって指定された走行速度に設定される。
【0027】
図3は、枕地旋回を実行しているトラクタ1を示す図である。例えば、トラクタ1は、圃場内で2つの畝間を移動するときに、枕地旋回を行う。図3において、トラクタ1はUターンするために、枕地旋回を行っている。この例では、枕地旋回速度ダイアル32によって、旋回速度が4km/hに設定されている。このため、枕地旋回設定スイッチ31がON状態に設定されているときに、ハンドル25が操作されると、トラクタ1は4km/hで旋回する。
【0028】
図4は、排気ガス浄化システム100の制御方法を示すフロー図である。コントローラ4は、DPF6の目詰まりの具合に応じて、DPF6を再生する再生運転の実行を決定する。DPF6の目詰まりの具合は、DPF6の上流側と下流側との間のガス圧差に応じて特定される。前記ガス圧差は、上流圧力センサ111によって得られたガス圧の情報と下流圧力センサ112によって得られたガス圧の情報とに基づいて、算出される。目詰まりの程度が進行するにつれて、ガス圧差が大きくなる。
【0029】
ステップS1(決定工程)は、コントローラ4が再生運転の実行を決定したときを指している。再生運転の実行が決定されると、排気ガス浄化システム100の制御が開始される。
【0030】
ステップS1に続くステップS2において、コントローラ4は、枕地旋回設定スイッチ31によって枕地旋回が設定されているか否かを確認する。旋回動作が枕地旋回に設定されている場合、ステップS3の処理が実行される。旋回動作が枕地旋回に設定されていない場合、ステップS4の処理が実行される。
【0031】
ステップS3において、コントローラ4は、ハンドル25の操作によって旋回動作が指令されているか否かを確認する。旋回動作が指令されている場合、ステップS2の処理が再度実行される。旋回動作が指令されていない場合、ステップS4の処理が実行される。
【0032】
ステップS4(実行工程)において、コントローラ4は再生運転を実行する。コントローラ4は、再生運転において、エンジン12の回転数を所定の高速回転数に高めると共に、燃焼工程後に追加の燃料を噴射する。DPF6に、高温の排気ガス及び燃料が供給されるので、DPF6において高温で燃焼反応が発生する。この結果、DPF6が再生される。
【0033】
ステップS2、S3の処理は、枕地旋回が実行されているか否かを確認するための処理である。旋回動作が枕地旋回に設定されており、且つ、ハンドル25によって旋回操作が行われた場合のみ、枕地旋回が実行される。旋回動作が枕地旋回に設定されていない場合、ハンドル25の旋回操作によって、枕地旋回ではない通常の旋回が実行される。
【0034】
枕地旋回が実行されている場合、ステップS3に続いてステップS2が実行される。枕地旋回が実行されている間、ステップS3、S2が繰り返し実行され、ステップS4は実行されない。このように、制御フローには、枕地旋回が実行されている場合、再生運転の実行を保留させる保留工程が設けられている。保留工程は、ステップS3、S2のループ処理である。
【0035】
本実施形態は、次の構成により、次の作用、効果を奏する。
【0036】
走行作業車用排気ガス浄化システム100が、コントローラ4を備えている。コントローラ4が実行する工程として、走行装置20が枕地旋回するように制御されている間、再生運転の実行を保留させる保留工程(ステップS3、S2のループ)を備えている。コントローラ4は、保留工程を実行するための保留手段を備えている。
【0037】
このため、枕地旋回の実行中に、再生運転の実行が保留される。したがって、コントローラ4に負荷が掛かることによって、走行作業車の制御に誤作動が発生することを防止できる。
【0038】
更に、コントローラ4が実行する工程として、保留工程において再生運転が保留された場合、保留工程の終了後に再生運転を実行させる、実行工程(ステップS4)を備えている。コントローラ4は、実行工程を実行するための実行手段を備えている。
【0039】
このため、枕地旋回によって再生運転の実行が保留されていても、枕地旋回が終了すると、再生運転が確実に実行される。
【0040】
本実施形態は、次の変形構成を適用できる。
【0041】
再生運転の実行の決定は、本実施形態では、DPF6の目詰まりの具合を示す前記ガス圧差の検出に基づいて、行われている。ガス圧差の検出に代えて、エンジン12の運転時間が所定時間を過ぎる度に、再生運転の実行が決定されてもよい。ここで所定時間は、例えば100時間である。
【符号の説明】
【0042】
4 コントローラ(制御装置)
6 ディーゼルパーティキュレートフィルター
12 エンジン
20 走行装置
100 排気ガス浄化システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法であって、
排気ガス浄化システムが、枕地旋回可能な走行装置及びエンジンを制御する制御装置を備えており、
制御装置が実行する工程として、
走行装置が枕地旋回するように制御されている間、エンジンにディーゼルパーティキュレートフィルターを再生する再生運転の実行を保留させる、保留工程を備えている、
走行作業車搭載用排気ガス浄化システムの制御方法。
【請求項2】
制御装置が実行する工程として、
保留工程において再生運転が保留された場合、保留工程の終了後に再生運転を実行させる、実行工程を備えている、
請求項1に記載の走行作業車搭載用の排気ガス浄化システムの制御方法。
【請求項3】
ディーゼルパーティキュレートフィルターを具備する走行作業車搭載用の排気ガス浄化システムであって、
枕地旋回可能な走行装置及びエンジンを制御する制御装置を備えており、
制御装置が、走行装置が枕地旋回するように制御されている間、エンジンにディーゼルパーティキュレートフィルターを再生する再生運転の実行を保留させる、保留手段を備えている、
走行作業車搭載用の排気ガス浄化システム。
【請求項4】
保留手段において再生運転が保留された場合、保留手段の作動終了後に再生運転を実行させる、実行手段を備えている、
請求項3に記載の走行作業車搭載用の排気ガス浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−106417(P2011−106417A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264640(P2009−264640)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】