説明

走行環境認識装置、自動車、及び走行環境認識方法

【課題】運転者の感覚に合った警報レベルを設定する。
【解決手段】走行環境を撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出し、算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断する。例えば、セルの拡大を検知したときには警報レベルを“中”に設定し、セルの数量pが変化していないときには警報レベルを“小”に設定し、セルの凝集傾向を検知したときには警報レベルを“大”に設定する。また、セルの拡散傾向を検知したときには警報を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行環境認識装置、これを備えた自動車、及び走行環境認識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両周辺の環境を撮像した画像からエッジ抽出を行い、そのエッジパターンから自車両に近接した他車両を検出したときに、それを運転者に知らせるものがあった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−44196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来例にあっては、単に自車両に近接した他車両の有無を判断しているに過ぎないので、運転者への警報が画一的になってしまい、運転者に違和感を与える可能性がある。
本発明の課題は、運転者の感覚に合った警報レベルを設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る走行環境認識装置は、走行環境を撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出し、算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断することを特徴とする。
フラクタル次元とは、画像の複雑さを表す特徴量である。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係る走行環境認識装置によれば、フラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断するので、この要注意度合に従って運転者の感覚に合った警報レベルを設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
《一実施形態》
《構成》
図1は、本発明の概略構成である。自動車1には、車両前方の環境を動画像として撮像するカメラ2が搭載されおり、撮像された動画像は例えばマイクロコンピュータで構成されたコントローラ3に入力される。コントローラ3は、図2の走行環境認識処理を実行して、走行環境に対して運転者の注意を喚起するときに、警報装置4を駆動する。
【0007】
次に、コントローラ3で実行する走行環境処理を、図2のフローチャートに従って説明する。
先ずステップS1では、動画像から所定のサンプリング周期で画像を読込む。サンプリング周期は、例えば車速に応じて決定する。
続くステップS2では、画像をm×nのセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元Dを算出し、これをマップ化する。フラクタル次元Dとは、画像の複雑さを表す特徴量である。図3は、画像を10×10のセルに分割し、各セルのフラクタル次元Dをグレースケールで表示した様子である。また、図4は、フラクタル次元Dのコンター図である。
【0008】
なお、画像内の領域ごとに重み係数Wを算出し、これに対応してフラクタル次元Dをマップ化してもよい。重み係数Wは、画像中央を最大とし、画像中央から離れるほど小さくなるように設定する。
続くステップS3では、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルの数量をpとして、下記(1)式に示すように、走行環境に対して運転者が注意すべき度合(以下、要注意度合と称す)Lを算出する。
L={p/(m×n)}×100[%] ………(1)
【0009】
続くステップS4では、要注意度合Lが所定値Lt以上であるか否かを判定する。この判定結果が『L<Lt』であるときには、警報は不要であると判断してそのまま所定のメインプログラムに復帰する。一方、判定結果が『L≧Lt』であるときには、警報が必要であると判断してステップS5に移行する。
ステップS5では、今回のフラクタル次元D(n)と例えば前回のフラクタル次元D(n-1)との比較によって、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルの分布変化を検出する。
【0010】
続くステップS6では、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルの数量p(面積)が増加しているか否かを判定する。数量pが拡大しているときにはステップS7に移行する。一方、数量pが減少していないときにはステップS8に移行する。
ステップS7では、走行環境に対する警報レベルを“中”に設定し、これに応じて警報装置4を駆動してから所定のメインプログラムに復帰する。
ステップS8では、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルが、画像中央への凝集傾向にあるか否かを判定する。凝集傾向にあるときにはステップS9に移行する。一方、凝集傾向にないときにはステップS10に移行する。
【0011】
ステップS9では、走行環境に対する警報レベルを“大”に設定し、これに応じて警報装置4を駆動してから所定のメインプログラムに復帰する。
ステップS10では、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルが、画像中央からの拡散傾向にあるか否かを判定する。拡散傾向にないときにはステップS11に移行する。一方、拡散傾向にあるときには注意すべき要素が解消されたと判断してステップS12に移行する。
【0012】
ステップS11では、走行環境に対する警報レベルを“小”に設定し、これに応じて警報装置4を駆動してから所定のメインプログラムに復帰する。
ステップS12では、警報装置4の駆動停止によって警報を解除してから所定のメインプログラムに復帰する。
なお、警報レベルが『小→中→大』となるほど、例えば警報音を大きくしたり、警報内容を強調したりする。
【0013】
《作用》
本発明では、フラクタル次元Dと走行環境に対する要注意度合Lとの相関に着目し、フラクタル次元Dが所定値Dt以上となるセルの数量pと分布変化に応じて警報レベルを設定している。
先ず、セルの総数(m×n)に対して、『D≧Dt』となるセルの数量pの割合から要注意度合Lを算出し(ステップS3)、要注意度合Lが所定値Lt以上となるときに(ステップS4の判定が“Yes”)、警報を要すると判断する。
そして、セルの分布変化を検出し(ステップS5)、図5の出現と消失、図6の拡大と縮小、図7の凝集、及び図8の拡散の何れであるかを判定し、最終的な警報レベルを設定する。
【0014】
すなわち、図5の出現や図6の拡大を検知したときには(ステップS6の判定が“Yes”)、セルの数量pが増加していることを意味するので、このときは警報レベルを“中”に設定する(ステップS7)。また、セルの数量pが変化していないときには(ステップS6、S8、S10の判定が全て“No”)、警報レベルを“小”に設定する(ステップS11)。また、図7の凝集傾向を検知したときには(ステップS8の判定が“Yes”)、注意を要する対象物が自車進路に対して接近傾向にあることを意味するので、このときは警報レベルを“大”に設定する(ステップS9)。
【0015】
但し、図8の拡散傾向を検知したときには(ステップS10の判定が“Yes”)、注意を要する対象物が自車進路からの離間傾向にあることを意味するので、このときは警報を解除する(ステップS12)。
図9は、先行車両に接近した状態から徐々に車間距離が広くなるにつれて、フラクタル次元Dが低下してゆく様子である。図10は、右後方から他車両が自車両を追越していくときに、フラクタル次元Dの高いセルが画面中央に集中してから、徐々に拡散し減少してゆく様子である。
【0016】
なお、上記の一実施形態では、警報レベルを単に『小、中、大』の3段階に設定しているが、勿論、無段階に設定してもよい。すなわち、要注意度合Lが所定値Lt以上となったときに、この要注意度合Lをセルの分布変化に応じて連続的無段階に補正し、補正した要注意度合Lに応じて警報レベルを設定してもよい。これによれば、より細かな(滑らかな)警報を行うことができる。
【0017】
《効果》
以上より、カメラ2が「撮像手段」に対応し、ステップS2の処理が「算出手段」に対応し、ステップS3〜S5、S6、S8、S10の処理が「判断手段」に対応し、ステップS7、S9、S11、S12の処理が「警報手段」に対応する。
(1)走行環境を撮像する撮像手段と、撮像手段が撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出する算出手段と、算出手段が算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断する判断手段とを備える。
このように、フラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断するので、この要注意度合に従って運転者の感覚に合った警報レベルを設定することができる。
【0018】
(2)判断手段は、フラクタル次元が所定値以上となるセルの数量が多いほど、要注意度合が高いと判断する。
これにより、運転者の感覚に合った要注意度合を、容易に且つ正確に判断することができる。
(3)判断手段は、フラクタル次元が所定値以上となるセルの凝集傾向を検知したときに、要注意度合が高いと判断する。
これにより、運転者の感覚に合った要注意度合を、容易に且つ正確に判断することができる。
【0019】
(4)判断手段は、フラクタル次元が所定値以上となるセルの拡散傾向を検知したときに、要注意度合が低いと判断する。
これにより、運転者の感覚に合った要注意度合を、容易に且つ正確に判断することができる。
(5)判断手段が判断した要注意度合に応じて警報を発する警報手段を備える。
これにより、運転者の感覚に合った警報で注意を喚起することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の概略構成である。
【図2】走行環境認識処理のフローチャートである。
【図3】フラクタル次元をマップ化した一例である。
【図4】フラクタル次元をコンター図にした一例である。
【図5】セルの出現と消失である。
【図6】セルの拡大と縮小である。
【図7】セルの凝集である。
【図8】セルの拡散である。
【図9】実際の走行シーンでフラクタル次元を算出した一例である。
【図10】実際の走行シーンでフラクタル次元を算出した一例である。
【符号の説明】
【0021】
1 自動車
2 カメラ
3 コントローラ
4 警報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行環境を撮像する撮像手段と、該撮像手段が撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出する算出手段と、該算出手段が算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断する判断手段と、を備えることを特徴とする走行環境認識装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記フラクタル次元が所定値以上となるセルの数量が多いほど、前記要注意度合が高いと判断することを特徴とする請求項1に記載の走行環境認識装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記フラクタル次元が所定値以上となるセルの凝集傾向を検知したときに、前記要注意度合が高いと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の走行環境認識装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記フラクタル次元が所定値以上となるセルの拡散傾向を検知したときに、前記要注意度合が低いと判断することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の走行環境認識装置。
【請求項5】
前記判断手段が判断した要注意度合に応じて警報を発する警報手段を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の走行環境認識装置。
【請求項6】
走行環境認識装置を備えた自動車において、
前記走行環境認識装置は、
走行環境を撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出し、算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断することを特徴とする自動車。
【請求項7】
走行環境を撮像した画像を複数のセルに分割し、分割したセルごとにフラクタル次元を算出し、算出したフラクタル次元が所定値以上となるセルの数量及び分布変化に応じて、走行環境に対する要注意度合を判断することを特徴とする走行環境認識方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−9752(P2008−9752A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180066(P2006−180066)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】