説明

走行路面形状測定データの処理方法

【課題】同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法を提供する。
【解決手段】地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)を求め、この測定波形f(x)に波長λの正弦波が繰り返し現れる場合、その繰り返しを検出するために、次式(A)を用いてF(x)を算出し(Mは想定する繰り返し数であるが、処理後、前記波形F(x)の直流分を残すために、Mは偶数とする。α(N)は、ユーザーが定める係数である。)、この結果に基づいて繰り返しを考慮した、走行路形状の管理値を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路のような搬送機の走行路面に不陸(軌道変位)があると、搬送機に振動が生じて、場合によっては搬送機が走行路から逸脱する可能性が生じるなど、安全上の問題が生じる。したがって、走行路面の管理者は、この走行路面形状を定期的に測定し、必要により保全するようにしている。例えば、JRグループの在来線では、表1の値で軌道の不陸を管理するようにしている。ここで、走行路面とは、鉄道線路・軌道、モノレールの軌道桁あるいは道路・滑走路のように、車輪を持つ搬送機を支持及び/又は案内する機能を持つ路面をいう。
【0003】
なお、鉄道線路の軌道変位には、表1に示すように、(1)軌間変位:左右レール間隔の設計値からの差、(2)水準変位:左右レールの高さの差、(3)高低変位:レールの上下方向の変位、(4)通り変位:レールの左右方向の変位、(5)平面性変位:一定距離を隔てた2点の水準変位の差という5種類の変位がある。
【0004】
【表1】

【0005】
ここで、()内の数値は手検測等による静的値、()のない数値は、軌道検測車による動的値、高低・通りは10m弦正矢の値である。
図9はシミュレーションによる通り変位の繰り返しと車両の応答との関係を示す図であり、図9(a)は入力通り変位、図9(b)は車両の左右動を示す図である。
図9に示すように、同一波長の路面変位が繰り返し連続する区間を搬送機が走行すると、共振現象によりその動的応答が大きくなり、走行安全性や乗り心地を損なうことがある。これに対し、例えばJRグループでは、下記式(1)で定義される「複合変位」が、表2に示すように、貨物列車走行線区に限定して国鉄時代の昭和57年から管理されている(下記非特許文献1参照)。
【0006】
複合変位=|通り変位−1.5水準変位| …(1)
【0007】
【表2】

【0008】
上記式(1)に示すとおり、複合変位は波形の絶対値で定義しているので、一般的な正弦1波の場合、表2の「2ケ所以上」を適用する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】滝野幸雄,「複合狂いの整備」,鉄道線路,vol.30,No.6,1982.6,pp.309−313
【非特許文献2】真田弘,「マヤ車における要注複合狂い摘出処理」,鉄道技術研究資料,40−9,pp.345−346
【非特許文献3】元好茂,古川敦,神山雅子,「周期的な軌道狂いの検出方法」,日本鉄道施設協会誌,2005.8.pp.580−583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した表2を実際の管理に適用する場合、ある区間における波数を数える必要が生じる。表2の場合、これらの値が定められた昭和50年代の計算機処理能力の制約から、汎用性のある処理方法となっていない(上記非特許文献2参照)。その後、最近になって、波形の周波数特性の変化点を統計的に求める方法が考案されている(上記非特許文献3参照)が、複雑な信号処理技術が必要なため一般的には用いられていない。
【0011】
本発明は、上記した状況に鑑みて、同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法において、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)を求め、この測定波形f(x)に波長λの正弦波が繰り返し現れる場合、その繰り返しを検出するために、前記地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)に次式(A)を用いてF(x)を算出し(ここで、Mは想定する繰り返し数であるが、処理後、前記波形F(x)の直流分を残すために、Mは偶数とする)、この結果に基づいて繰り返しを考慮した、走行路形状の管理値を判定することを特徴とする。
【0013】
【数1】

【0014】
なお、α(N)は、ユーザーが定める係数である。
〔2〕上記〔1〕記載の走行路面形状測定データの処理方法において、前記式(A)を離散化した次式(C)を電子回路により実現することを特徴とする。
【0015】
【数2】

【0016】
なお、αN は、ユーザーが定める係数である。
〔3〕上記〔1〕記載の走行路面形状測定データの処理方法において、前記式(A)をプログラム化したソフトウェアを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
従来用いられている走行路面形状測定データの処理方法においては、波形の繰り返しの検出法は、上記した表2に示すように特定の波長及び波数に対応したものであり、汎用的なものではない。これに対し、本発明によれば、任意の波長及び波数の繰り返しについて、これを強調して検出することが可能となり、さまざまな固有振動数の搬送機に対応した走行路面形状の管理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる、M=2とした場合の正弦2波の測定データに対する処理前後の波形を示す図である。ただし、ここでは、α(N)はすべて1とする。
【図2】M=4又はM=6とした場合の正弦2波の測定データに対する処理前後の波形を示す図である。ただし、ここでは、α(N)はすべて1とする。
【図3】M=4又はM=6とした場合の正弦2.5波の測定データに対する処理前後の波形を示す図である。ただし、ここでは、α(N)はすべて1とする。
【図4】M=4とした場合の正弦2.5波の測定データに対する、{α(0),α(1),α(2),α(3),α(4)}={1,1,1,0.5,0.5}の場合の処理前後の波形を示す図である。
【図5】実変位の波長と処理に用いる波長λとの比と、検出倍率との関係を示す図である。
【図6】本発明の第1実施例を示すシステムブロック図である。
【図7】図6において式(4)を実現するための回路図である。
【図8】本発明の第2実施例を示すシステムブロック図である。
【図9】シミュレーションによる通り変位の繰り返しと車両の応答との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法は、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)を求め、この測定波形f(x)に波長λの正弦波が繰り返し現れる場合、その繰り返しを検出するために、前記地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)に次式(A)を用いてF(x)を算出し(ここで、Mは想定する繰り返し数であるが、処理後、前記波形F(x)の直流分を残すために、Mは偶数とする)、この結果に基づいて繰り返しを考慮した、走行路形状の管理値を判定する。
【0020】
【数3】

【0021】
なお、α(N)は、ユーザーが定める係数である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、従来の方法、つまり、路面形状測定装置により、軌道変位データを収集し、時系列解析を行い、周波数特性変化点検出を行う。
そこで、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)を求め、この測定波形f(x)に搬送機の波長λの正弦波が繰り返し現れる場合を想定する。その繰り返しを検出するために、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)に次式(2)を用いて波形F(x)を算出する。ここで、Mは想定する繰り返し数であるが、処理後、波形F(x)の直流分を残すために、Mは偶数とする。
【0023】
【数4】

【0024】
以下、本発明の走行路面形状測定データの処理方法について詳細に説明する。
図1は本発明にかかる式(2)による処理前後の波形を示す図である。
この図において、M=2とし、波長λの正弦波が2波連続する波形に対し、上記式(2)の処理を行うと、図1のようになる。上記した式(2)の処理によって、繰り返しがある場合は、振幅が3倍(一般的にはM+1倍又は「実際の繰り返し波数×2」の小さい方)にまで増加するのがわかる。
【0025】
図2はM=4又はM=6とした場合の正弦2波の測定データに対する処理前後の波形を示す図、図3はM=4又はM=6とした場合の正弦2.5波の測定データに対する処理前後の波形を示す図である。
比較のため、正弦2波の処理前後の波形を図2に、正弦2.5波の処理前後の図形を図3に示す。それぞれ、(a)はM=4、(b)はM=6の場合を示している。各図において、M=4の場合とM=6の場合で波形に違いはあるものの、最大値は等しい。これは、上述したように、処理後の最大振幅が、M+1倍又は「繰り返し波数×2」の小さい方となるためである。
【0026】
このように、Mを大きめに設定しておけば、処理後に得られるF(x)の最大振幅は、元の波形f(x)に含まれる波長λの正弦波の繰り返し数にしたがって大きくなる。したがって、表2とは異なり、繰り返し数に関わらず、同一の基準値での管理が可能となる。
なお、一般には、走行路面変位の繰り返し数が多くなると、搬送機の応答は頭打ちとなるため、上記式(A)または式(C)のN番目の項にあたる係数α(N)またはαN を乗じてもよい。すなわち、上記式(2)を一般化すると、次式(3)となる。
【0027】
【数5】

【0028】

【0029】
なお、α(N),αN は、ユーザーが定める係数である。つまり、式(B)、式(D)を満足する正の数であれば何でも構わないが、一般には1.0とする。ただし、この場合、波形の繰り返し数が大きくなった場合に、処理後の波形F(x),fn の振幅が大きくなりすぎることがあるので、後述するように、Nが大きくなるにつれてα(N),αN の値が小さくなるように定めておくことにより、より車両の挙動に近い処理結果が得られる。
【0030】
図4は正弦2.5波の測定データに対する処理前後の波形を示す図である。
図4は、図3(a)と同じ正弦2.5波,M=4で、{α(0),α(1),α(2),α(3),α(4)}={1,1,1,0.5,0.5}とした場合の処理波形を示している。図3(a)と比較すると、処理後波形F(x)の最大振幅は処理前波形f(x)の4倍に抑えられており、図9に示したシミュレーション波形に近くなることがわかる。ただし、α(N)を全て1にするのは安全側の管理となるため、実務上は1でも良い。
【0031】
図5は実変位の波長と処理に用いる波長λとの比と、検出倍率との関係を示す図であり、図5(a)は0.1倍〜2倍の範囲を示す図、図5(b)は0.1倍〜100倍の範囲を示す図である。
波長λは、搬送機の応答が最も大きくなる値、すなわち搬送機の固有振動数に相当する値を用いればよい。例えば、一般的な鉄道車両の場合、固有振動数は1Hz前後にあることから、この車両が108km/h(=30m/s)で走行する場合、波長λ=30とする。現実に存在する変位の波長が、λと完全に一致することはないが、図5に示すように、実変位の波長がλの0.8倍〜1.3倍であれば、処理後波形の最大振幅がもとの振幅の2.5倍以上で検出できるので(M=2の場合)、実用上の問題はない。

【0032】
次に、本発明の具体例について説明する。
図6は本発明の第1実施例を示すシステムブロック図、図7は図6において式(4)を実現するための回路図である。
図6において、まず、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)において、搬送機の波長λの正弦波が繰り返し現れるかを走行路面形状測定装置1で測定し、搬送機の波長λの正弦波が繰り返し現れる場合には、本発明の方法を実行する電子回路2によって上記式(2)の処理を行い、整備基準値として判定して、判定結果を出力装置4により出力する。
【0033】
図6の電子回路2は、具体的には式(2)を離散化した次式(4)となる。
【0034】
【数6】

【0035】
なお、αN は、ユーザーが定める係数である。
すなわち、半波長毎の距離遅れを持って振幅の和または差が繰り返される。これを回路図で表現すると、図7のようになる。
図8は本発明の第2実施例を示すシステムブロック図である。
この図において、まず、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)において、搬送機の波長λの正弦波が繰り返し現れるかを走行路面形状測定装置11で測定し、搬送機の波長λの正弦波が繰り返し現れる場合には、上記式(2)をプログラム化したソフトウェア12を用いて上記式(2)の処理を行い、整備基準値判定処理装置13で判定し、出力装置14より出力する。
【0036】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、走行路面形状測定データの処理方法は、同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間の走行路面形状の効率的な管理に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1,11 走行路面形状測定装置
2 電子回路
3,13 整備基準値判定処理装置
4,14 出力装置
12 式(2)をプログラム化したソフトウェア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一波長の走行路面変位が繰り返し連続する区間を効率的に管理するための、走行路面形状測定データの処理方法において、地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)を求め、該測定波形f(x)に波長λの正弦波が繰り返し現れる場合、その繰り返しを検出するために、前記地点xにおける走行路面変位の測定波形f(x)に次式(A)を用いてF(x)を算出し(ここで、Mは想定する繰り返し数であるが、処理後、前記波形F(x)の直流分を残すために、Mは偶数とする)、この結果に基づいて繰り返しを考慮した、走行路形状の管理値を判定することを特徴とする走行路面形状測定データの処理方法。
【数7】

なお、α(N)は、ユーザーが定める係数である。
【請求項2】
請求項1記載の走行路面形状測定データの処理方法において、前記式(A)を離散化した次式(C)を電子回路により実現することを特徴とする走行路面形状測定データの処理方法。
【数8】

なお、αN は、ユーザーが定める係数である。
【請求項3】
請求項1記載の走行路面形状測定データの処理方法において、前記式(A)をプログラム化したソフトウェアを用いることを特徴とする走行路面形状測定データの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−252745(P2011−252745A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125656(P2010−125656)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】