説明

超広帯域パルス・センサ及びその干渉回避方法

【課題】複数のUWBパルス・センサが混在する場合、近接するUWBパルス・センサのパルスの影響を除去し、目標物までの距離検出精度の高いUWBパルス・センサの提供。
【解決手段】局部発振器3は、周波数fminからfmaxの間を等分したN個の周波数点を任意ステップ・パターン信号生成器4が出力する出力パターン系列に従って並べた、離散周波数系列に従い一定の時間幅τPRFでステップ状に変化するRF信号を出力する。このRF信号をコヒーレント発振器2が出力するIF信号と混合し発射し、その反射波を受信し復調・位相検波し、N個の離散スペクトル・データを得る。離散スペクトル・データ生成部11は、この離散スペクトル・データを周波数の小さい順に並べ替え、逆離散フーリエ変換部12は並べ替えた離散スペクトル・データを逆離散フーリエ変換しそのピークの位相値から目標物までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超広帯域(UWB)パルス・センサに関し、特に、ステップドFM方式を改良した方式を用いるUWBパルス・センサ及びその干渉回避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内セキュレィティ・センサ、見守りセンサ、車載用衝突防止センサ等のような近距離マイクロ波センサとして、超広帯域インパルス無線(UWB−IR)方式が注目されている。かかるUWB−IR方式のセンサとして、ステップドFMパルス・レーダ方式のセンサが知られている(非特許文献1参照)。この方式では、送信部は500MHz以上の周波数領域にわたり周波数を段階的に変化させた狭帯域パルス列を送信し、受信部は各パルスの反射波を位相検波した後に、逆離散フーリエ変換(IDFT)によって時間領域での超短パルス化を図り、距離方向の距離分解能を向上させる。
【0003】
図5は、従来のステップドFMパルス・レーダ方式を用いたUWBパルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図5において、UWBパルス・センサ100は、コヒーレント発振器101、局部発振器102、ステップ信号生成器103、周波数混合器104、パルス変調器105、サーキュレータ106、アンテナ107、フロントエンド部108、位相検波器109、及び逆離散フーリエ変換器110を備えている。
【0004】
コヒーレント発振器101は、次式(1)で表される中間周波数fCOHOの連続波信号であるIF信号s(t)を出力する。ここで、tは時間である。
【0005】
【数1】

一方、局部発振器102は、次式(2)で表される無線周波数fSTALOの連続波信号であるRF信号s(t)を出力する。
【0006】
【数2】

【0007】
ここで、局部発振器102は電圧制御発振器が使用されており、局部発振器102が発信するRF信号s(t)の周波数fSTALOは、ステップ信号生成器103が出力する周波数制御電圧によって制御されている。
【0008】
ステップ信号生成器103は、図6に示したような階段状に時間変化する周波数制御電圧を出力する。ここで、図6に示したように、周波数制御電圧の1ステップ幅をτPRF、全ステップ数をNとすると、周波数制御電圧はNτPRFの周期で反復変化する。従って、局部発振器102が発信するRF信号s(t)の周波数fSTALOは次式(3)で表される。ここで、fは開始周波数、Δfは周波数ステップ幅、floor(x)は床関数(実数xの小数点以下を切り捨てる関数)である。
【0009】
【数3】

【0010】
周波数混合器104は、コヒーレント発振器101が出力するIF信号s(t)と局部発振器102が出力するRF信号s(t)が入力され、これらの信号の混合信号である連続発信信号s(t)を生成し出力する。連続発信信号s(t)は、次式(4)で表され、図7(a)に示したような信号となる。
【0011】
【数4】

【0012】
パルス変調器105は、上記連続発信信号s(t)を次式(5)のようにパルス変調し、サーキュレータ106に対しパルス発信信号s(t)を出力する。このパルス発信信号s(t)は、図7(b)のような信号となる。ここで、τ(<τPRF)はパルス幅である。
【0013】
【数5】

【0014】
尚、上式においてrect(x)は矩形関数(rectangular function)を表し、|x|<1/2のときにrect(x)=1,|x|=1/2のときにrect(x)=1/2となり、それ以外の場合はrect(x)=0となる関数として定義されている。
【0015】
サーキュレータ106に入力されたパルス発信信号s(t)は、アンテナ107から発射され、目標物で反射され、その反射波s(t)がアンテナ107で受信される。反射波s(t)は、アンテナ107から目標物までの往復旅行時間tにより位相遅れを生じ、また、アンテナ107と目標物との相対速度によりドップラー効果による周波数シフトfを生じている。従って、反射波s(t)は次式(6a)のように表され、図7(c)のような信号となる。ここで、dはアンテナ107から目標物までの距離、vは目標物とアンテナ107との相対速度、cは光速、f=f+fCOHOは基本周波数である。
【0016】
【数6】

【0017】
アンテナ107で受信された反射波s(t)は、サーキュレータ106を経てフロントエンド部108へ入力される。
【0018】
フロントエンド部108は、局部発振器102が出力するRF信号s(t)と反射波s(t)とを混合する。信号s(t)及び反射波s(t)の実数部をとって掛け合わせると、混合信号s(t)は次式(7)のようになる。
【0019】
【数7】

【0020】
さらに、フロントエンド部108は、中心周波数fCOHOのバンドパス・フィルタにより混合信号s(t)の上側波帯成分(式(7)の第2項)を除去し、次式(8)のダウン・コンバート信号s(t)を位相検波器109に出力する。
【0021】
【数8】

【0022】
位相検波器109は、コヒーレント発振器101が出力するIF信号s(t)の同相信号s1I(t)及びIF信号s(t)の位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、フロントエンド部108の出力信号s(t)とを混合し、フィルタにより上側波帯成分を除去することにより、次式(9a),(9b)のような2つのI/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)を出力する。I/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)は逆離散フーリエ変換器110に入力される。ここで、Cは定数である。
【0023】
【数9】

【0024】
逆離散フーリエ変換器110は、I/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)をA/D変換した後、それぞれのパルス毎にs8I(t)−js8Q(t)の高速フーリエ変換を行い、次式(10)のスペクトルS(f)を算出する。ここで、Aは定数である。
【0025】
【数10】

【0026】
式(10)より、目標物の速度はスペクトルの位置からドップラー効果による周波数シフトfを求めれば、式(6c)より算出される。また、n番目(n=1,2,…,N)の受信パルスの位相検波出力R及び位相φは、式(10)及び式(3)より、次式のように表される。
【0027】
【数11】

【0028】
次に、逆離散フーリエ変換器110は、位相検波出力R及び位相φを次式(12a)のようなIDFT処理により時間領域に変換し、そのレンジスペクトルR(φ)を合成する。
【0029】
【数12】

【0030】
式(12a)から、φ=2NΔfd/cにおいてR(φ)の鋭いピークが現れるので、逆離散フーリエ変換器110は、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを次式(13)により推定する。
【0031】
【数13】

【0032】
尚、式(13)より、ステップドFMパルス・レーダ方式における距離分解能ΔRは、次式(14)で表される。
【0033】
【数14】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】梶原博昭,「自動車衝突警告用ステップドFMパルス・レーダ」,信学論(B),Vol. J89-B-II, No.3, pp.234-239, 1998年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
ところで、上述のステップドFMパルス・レーダ方式のUWBパルス・センサを車載用のセンサ(衝突防止センサ等)や屋内セキュレィティ・センサとして用いる場合、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサが混在することになる。この場合、近接するUWBパルス・センサが発射するパルスがノイズとなり目標物までの距離dの推定値に誤差が生じたり、目標物を誤検出してしまうという問題があった。
【0036】
そこで、本発明の目的は、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサが混在する場合にも、近接するUWBパルス・センサが発射するパルスの影響を除去することができ、目標物までの距離の検出精度の高いUWBパルス・センサ及びそれを用いた干渉回避方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の超広帯域パルス・センサは、最小周波数fminから最大周波数fmaxまでの周波数バンドを一定の周波数間隔Δfで等分したN個(N>2)の離散周波数系列(fmin,fmin+Δf,…,fmin+(N−1)Δf(=fmax))を任意に順序置換して得られる離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)の周波数順序を表す出力パターン系列(α,α,…,α)を記憶する書き換え自在なパターン・メモリと、
前記パターン・メモリに記憶された前記出力パターン系列(α,α,…,α)に従って一定の時間ステップ幅τPRFでステップ状に変化する周波数制御電圧VVCOを生成する任意ステップ・パターン信号生成器と、
前記周波数制御電圧VVCOに従って、前記時間ステップ幅τPRFで前記離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)の順にステップ状に周波数が変化する前記RF信号を出力する局部発振器と、を備えたRF信号生成手段を備えるとともに、
中間周波数の連続波であるIF信号を出力するコヒーレント発振器と、
前記RF信号と前記IF信号とを混合し連続発信信号を生成する周波数混合器と、
前記連続発信信号を、前記連続発信信号の周波数がステップ状に変化した時点から一定のパルス幅τ(τ<τPRF)だけ出力することによりパルス変調し、パルス発信信号を生成するパルス変調手段と、
前記パルス変調手段が生成するパルス発信信号を発射するとともに、前記パルス発信信号が目標物で反射された反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された前記反射波を、前記RF信号と混合しダウン・コンバートすることによりダウン・コンバート信号を生成するダウン・コンバート手段と、
前記ダウン・コンバート信号を前記IF信号により位相検波することにより直交する2つのI/Qビデオ信号を生成する位相検波器と、
前記I/Qビデオ信号を、それぞれのパルス毎にフーリエ変換しN個の離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を生成し、前記離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)に基づいて前記離散スペクトル・データを周波数の小さい順に並べ替えた離散スペクトル・ベクトル・データ(R,R,…,R)を生成する離散スペクトル・データ生成手段と、
前記離散スペクトル・ベクトル・データ(R,R,…,R)を逆離散フーリエ変換することでレンジスペクトルR(φ)を生成し、前記レンジスペクトルR(φ)がピークをとる位相値φpeakから前記アンテナから前記目標物までの距離dを算出する逆離散フーリエ変換手段と、を備えたことを特徴とする。
【0038】
この構成により、複数の超広帯域パルス・センサが同一の空間内に近接して存在する場合、パターン・メモリに記憶する出力パターン系列(α,α,…,α)を他の超広帯域パルス・センサと異なるように設定することで、各超広帯域パルス・センサ間でのパルスの干渉を防止することができる。
【0039】
ここで、「順序置換」とは順序を入れ替えることをいう。「出力パターン系列」とは、離散周波数系列の周波数の出力順序を符号化した数値系列をいい、例えば、次の例のように定めることができる。
【0040】
(例) N=10として、例えば、離散周波数系列(fmin+3Δf, fmin+Δf, fmin+7Δf, fmin+9Δf, fmin+5Δf, fmin, fmin+4Δf, fmin+2Δf, fmin+8Δf, fmin+6Δf)に対応する出力パターン系列は(α,α,…,α10)=(3, 1, 7, 9, 5, 0, 4, 2, 8, 6)とすればよい。
(例終わり)
【0041】
また、本発明に係る超広帯域パルス・センサの干渉回避方法は、複数の上記本発明の超広帯域パルス・センサ(S,…,S)(Mは2以上の整数)が同一の空間内に近接して存在するときに、前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間での電波干渉を回避するための干渉回避方法であって、
それぞれの前記超広帯域パルス・センサSの前記パターン・メモリに記憶させる前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi)を、他の前記超広帯域パルス・センサS(j≠i)の前記出力パターン系列(α1j,α2j,…,αNj)とは異なる系列とすることを特徴とする。
【0042】
これにより、各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間でのパルスの干渉を防止することができる。
【0043】
また、上記超広帯域パルス・センサの干渉回避方法において、前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)のうちの2つの前記超広帯域パルス・センサS,S(j≠i)の前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi),(α1j,α2j,…,αNj)の距離Li,jを、それぞれの前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi),(α1j,α2j,…,αNj)に対応する前記離散周波数系列(fα1i,fα2i,…,fαNi),(fα1j,fα2j,…,fαNj)の間の距離としたとき、前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間のハミング距離hi,jの最小値min(hi,j)が最大となるように前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)の出力パターン系列を設定することができる。
【0044】
これにより、各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)のパルス発信信号間の距離の最小値が最大となるため、各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間での電波干渉を最小限に抑制することができる。
【発明の効果】
【0045】
以上のように、本発明の超広帯域パルス・センサによれば、パターン・メモリに記憶する出力パターン系列(α,α,…,α)をそれぞれの超広帯域パルス・センサ毎に任意に設定することができるようにしたことで、同じ空間内に複数の超広帯域パルス・センサが混在する場合にも、近接する超広帯域パルス・センサが発射するパルスの影響を除去することが可能となり、目標物までの距離の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。
【図2】周波数制御電圧VVCOの時間変化の一例を示す図である。
【図3】(a)連続発信信号s’(t)の波形の一例、(b)パルス発信信号s’(t)の波形の一例、(c)反射波s’(t)の波形の一例、及び(d)離散スペクトル・データRαkを表す図である。
【図4】本発明の実施例2に係る超広帯域パルス・センサ・システムの構成図である。
【図5】従来のステップドFMパルス・レーダ方式を用いたUWBパルス・センサの基本構成を表すブロック図である。
【図6】ステップ信号生成器103が出力する周波数制御電圧の階段状の時間変化を表す図である。
【図7】(a)連続発信信号s(t)の波形の一例、(b)パルス発信信号s(t)の波形の一例、及び(c)反射波s(t)の波形の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0048】
図1は、本発明の実施例1に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。本実施例のUWBパルス・センサ1は、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、周波数混合器5、パルス変調器6、サーキュレータ7、アンテナ8、フロントエンド部9、位相検波器10、離散スペクトル・データ生成部11、及び逆離散フーリエ変換器12を備えている。尚、図1において、表示装置13は、UWBパルス・センサ1の出力を表示する装置である。
【0049】
コヒーレント発振器2は、上述の式(1)で表される中間周波数fCOHOの連続波信号であるIF信号s(t)を出力する発振器である。局部発振器3は、局部発信周波数fSTALOの連続波信号であるRF信号s’(t)を出力する電圧制御発振器である。
【0050】
任意ステップ・パターン信号生成器4は、パターン・メモリ4aに設定された所定のパターンに従って、局部発振器3の発信周波数fSTALOを制御する周波数制御電圧VVCOを出力する。パターン・メモリ4aは、RAM、EPROM、EEPROM等の書き換え自在なメモリによって構成されている。パターン・メモリ4aには、周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列がデジタル値として記憶されている。任意ステップ・パターン信号生成器4は、パターン・メモリ4aに記憶された周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列に従って、周波数制御電圧VVCOのデジタル値を順次出力するパターン出力手段と、パターン出力手段が出力するデジタル値をデジタル・アナログ変換するD/A変換器とから構成されている。各出力パターンに対する局部発信周波数fSTALOは、所定の周波数f〜f+(N−1)Δfの帯域を周波数ステップ間隔ΔfでN個に離散化したときの各離散値の何れかの値をとる。ここで、一連の出力パターン系列に含まれる出力パターンの全数はN個である。
【0051】
周波数混合器5は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s(t)と局部発振器3が出力するRF信号s’(t)が入力され、これらの信号の混合信号である連続発信信号s’(t)(式(4)参照)を生成し出力する混合器(mixer)である。
【0052】
パルス変調器6は、上記連続発信信号s’(t)を式(5)のようにパルス変調し、サーキュレータ7に対しパルス発信信号s’(t)を出力する。
【0053】
サーキュレータ7は、一般的な3ポートのサーキュレータであり、ポート1にはパルス変調器6、ポート2にはアンテナ8、ポート3にはフロントエンド部9がそれぞれ接続されている。ポート1に入力された信号はポート2へ、ポート2に入力された信号はポート3へ出力される。
【0054】
アンテナ8は、通常のUWBアンテナが用いられる。サーキュレータ7を介してパルス変調器6から出力されるパルス発信信号s’(t)はアンテナ8から発射され、目標物で反射されたパルス発信信号s’(t)の反射波s’(t)は、アンテナ8で受信され、サーキュレータ7を介してフロントエンド部9に入力される。
【0055】
フロントエンド部9は、局部発振器102が出力するRF信号s’(t)と反射波s’(t)とを混合し、ローパス・フィルタ又はバンドパス・フィルタにより上側波帯成分を除去してダウン・コンバート信号s’(t)を位相検波器10に出力する。
【0056】
位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s(t)を同期信号として、ダウン・コンバート信号s’(t)を位相検波し、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)を離散スペクトル・データ生成部11へ出力する。
【0057】
離散スペクトル・データ生成部11は、時系列で入力されるN個のI/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)の組のそれぞれに対して、s8I’(t)−js8Q’(t)の高速フーリエ変換を行いN個の離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を算出するとともに、出力パターン系列(α,α,…,α)に基づいて、N個の離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を周波数の小さい順に並べ替えた離散スペクトル・データ(R,R,…,R)を出力する。
【0058】
逆離散フーリエ変換器12は、N個の離散スペクトル・データ(R,R,…,R)を逆離散フーリエ変換することにより時間領域に変換し、そのレンジスペクトルR(φ)を合成し、レンジスペクトルR(φ)のピーク位置φpeakから目標物までの距離dの推定値を算出し、表示装置13へ出力する。
【0059】
表示装置13は、逆離散フーリエ変換器12から入力される目標物までの距離dを表示する。
【0060】
以上のように構成された本実施例に係るUWBパルス・センサ1について、以下その詳細動作について説明する。
【0061】
(1)送信側
コヒーレント発振器2は、中間周波数fCOHOのコサイン波のIF信号s(t)を連続的に出力する。コヒーレント発振器2が出力するIF信号s(t)は、前記式(1)により表される。
【0062】
一方、任意ステップ・パターン信号生成器4は、一定の周期τPRFでパターン・メモリ4aに記憶された周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列(α,α,…,α)を順次読み出し、読み出した出力パターンαk(k∈{1,2,…,N})をD/A変換し、周波数制御電圧VVCOを出力する。局部発振器3は、周波数制御電圧VVCOに従って設定される局部発信周波数fSTALOのコサイン波のRF信号s’(t)を連続的に出力する。
【0063】
図2は、周波数制御電圧VVCOの時間変化の一例を示す図である。N個の出力パターン系列(α,α,…,α)は任意の系列であるため、従来のステップドFMパルス・レーダ方式の場合(図6参照)と異なり、周波数制御電圧VVCOのパターンは出力パターン系列(α,α,…,α)に従ったステップ・パターンとなる。1ステップの時間幅はτPRFであり、出力パターン系列(α,α,…,α)のステップ・パターンの出力される周期はNτPRFである。
【0064】
ここで、局部発信周波数fSTALOの最小値をf、最大値をf+(N−1)Δfとする。局部発信周波数fSTALOは、周波数f〜f+(N−1)Δfの区間を等間隔のN点に離散化した値{f,f+Δf,f+2Δf,…,f+(N−1)Δf}の何れかをとる。従って、各出力パターンαk(k∈{1,2,…,N})のとり得る値は、前記離散周波数値{f,f+Δf,f+2Δf,…,f+(N−1)Δf}に対応する値の何れかになる。
【0065】
尚、離散周波数値f+(k−1)Δfに対応する出力パターンαの値の取り方は任意であるが、最も簡単な値の取り方として、f+(k−1)Δf→α=kのように整数値を対応させるのがよい。
【0066】
周波数混合器5は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s(t)と局部発振器3が出力するRF信号s’(t)とを混合し、連続発信信号s’(t)を出力する。連続発信信号s’(t)は前記式(4)と同様に表され、連続発信信号s’(t)は周波数fSTALO+fCOHO=fαk+fCOHO(k∈{1,2,…,N})のコサイン波となる。ここで、fαkは出力パターンαkに対応する局部発信周波数である。
【0067】
パルス変調器6は、連続発信信号s’(t)をパルス変調したパルス発信信号s’(t)を、サーキュレータ7に出力する。パルス変調したパルス発信信号s’(t)は、前記式(5)と同様に表される。このパルス発信信号s’(t)は、サーキュレータ7を介してアンテナ8に伝送され、アンテナ8から前方空間に発射される。発射されたパルス発信信号s’(t)は目標物で反射され、この反射波s’(t)はアンテナ8で受信されて、サーキュレータ7を介してフロントエンド部9に入力される。
【0068】
発射された各パルス発信信号s’(t)は、パルス内は一定の周波数であり、N個のパルス発信信号s’(t)系列の周波数(fα1,fα2,…,fαN)は、出力パターン系列(α,α,…,α)により任意のパターンに設定することができる。
【0069】
図3は、(a)連続発信信号s’(t)の波形の一例、(b)パルス発信信号s’(t)の波形の一例、(c)反射波s’(t)の波形の一例、及び(d)離散スペクトル・データRαkを表す図である。連続発信信号s’(t)は、局部発信周波数fSTALOの周波数変化に伴って、一定のパルス周期τPRFでステップ状に周波数が変化する。パルス発信信号s’(t)は、連続発信信号s’(t)の周波数がステップ変化する各時刻を起点として、一定のパルス幅τだけ周波数fSTALO+fCOHOのコサイン波を出力し、それ以外の期間は0となる(図4(b)参照)。パルス発信信号s’(t)がアンテナ8から発射されてから、目標物で反射されその反射波s’(t)がアンテナ8で受信されるまでの往復旅行時間をtとすると、t=2d/cである。ここで、dはアンテナ8から目標物までの距離、cは光速である。反射波s’(t)のパルスはパルス発信信号s’(t)よりも時間tだけ遅延するため、この時間分だけ位相遅延が生じる(図4(c)参照)。また、目標物がアンテナ8に対して相対的に移動している場合には、その相対速度vにより、反射波s’(t)にはドップラー効果による周波数シフトfが生じる。従って、反射波s’(t)は、前述の式(6a)と同様に表される。
【0070】
(2)受信側
アンテナ8で受信された反射波s’(t)は、サーキュレータ7を介してフロントエンド部9に入力される。ここで、反射波s’(t)は、前述の式(6a)と同様に表される。
【0071】
フロントエンド部9は、局部発振器3が出力するRF信号s’(t)と反射波s’(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s’(t)として位相検波器10へ出力する。このダウン・コンバート信号s’(t)は、前述の式(8)と同様に表される。
【0072】
位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s’(t)とを混合し、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)として離散スペクトル・データ生成部11へ出力する。I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)は、前述の式(9a)及び式(9b)と同様に表される。ここで、s8I’(t)は実部、s8Q’(t)は虚部を表す信号である。
【0073】
離散スペクトル・データ生成部11は、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)をA/D変換した後、N個のパルス列に対して、それぞれのパルス毎にs8I’(t)−js8Q’(t)の高速フーリエ変換を行い、N個のパルスのスペクトル強度R及び位相φの組である離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を算出する(図4(d)参照)。ここで、Rαkは、出力パターンαk(k∈{1,2,…,N})に対するスペクトル強度を表し、上述の式(11a)と同様に表される。次いで、離散スペクトル・データ生成部11は、任意ステップ・パターン信号生成器4から出力される出力パターン系列(α,α,…,α)に基づいて、(N)個の離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を、周波数の小さい順に並べ替え、昇順ソートされた離散スペクトル・データ(R,R,…,R)を逆離散フーリエ変換器12に出力する。ここで、R(k∈{1,2,…,N})は局部発信周波数fSTALO=f+(k−1)Δfに対応する離散スペクトルを表す。
【0074】
逆離散フーリエ変換器12は、昇順ソートされた離散スペクトル・データ(R,R,…,R)を上述の式(12)により逆離散フーリエ変換し、レンジスペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
【0075】
以上のように、本実施例のUWBパルス・センサ1では、任意ステップ・パターン信号生成器4により、各パルス発信信号s’(t)の周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)は、出力パターン系列(α,α,…,α)に従って任意のパターンに設定することができるので、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサ1が混在する場合には、それぞれのUWBパルス・センサ1で異なる出力パターン系列(α,α,…,α)を使用すればよい。これにより、近接するUWBパルス・センサ1が発射するパルスの影響を除去することができ、目標物までの距離の検出精度の低下や、目標物の誤検出を防止することができる。
【実施例2】
【0076】
図4は、本発明の実施例2に係る超広帯域パルス・センサ・システムの構成図である。図4の超広帯域パルス・センサ・システムは、室内に設置されたセキュリティ・センサであり、室内の天井CにM個(M>1)の超広帯域パルス・センサ(S,…,S)が設置されている。各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)は、実施例1に記載の超広帯域パルス・センサ1である。各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)は、天井Cから床Fに向けて室内空間Sに電磁波を発射し、その反射波を受信する。これにより、室内にいる人を検知する。
【0077】
この超広帯域パルス・センサ・システムでは、同一の空間内に近接して複数の超広帯域パルス・センサ(S,…,S)が存在しているので、各超広帯域パルス・センサS(i∈{1,…,M})には、自己が発射した電磁波の反射波以外に、他の超広帯域パルス・センサS(j≠i,j∈{1,…,M})から発射された電磁波の反射波もスプリアス電波として受信される。
【0078】
そこで、各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)のパターン・メモリ4に記憶させる出力パターン系列A=(α11,α21,…,αN1),…,A=(α1M,α2M,…,αNM)は異なる系列(A≠A(i≠j))となるように設定する。これにより、スプリアス電波として受信される他の超広帯域パルス・センサから発射された電磁波の反射波の干渉による影響を抑制することが可能となる。
【0079】
さらに、超広帯域パルス・センサ(S,…,S)のうち、任意の2つの広帯域パルス・センサS,S(i≠j)のパターン・メモリ4に記憶させる出力パターン系列A=(α1i,α2i,…,αNi),A=(α1j,α2j,…,αNj)の間のハミング距離をhi,jとする。そして、すべての出力パターン系列の組み合わせ(A,A)についてのハミング距離hi,jの最小値をmin(hi,j)とする。このとき、ハミング距離の最小値min(hi,j)が最大となるように各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)の出力パターン系列(A,…,A)を設定すれば、相互の反射電波の干渉による影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0080】
この出力パターン系列の選択について、以下に簡単な例を示す。尚、以下の例では簡単のためにN=5としたが、実際に使用する場合、Nは一般的には数十〜数百程度のより大きな数に設定される。
【0081】
(例1)
N=5,M=5とすると、すべての出力パターン系列の組み合わせのハミング距離の最小値が最大となる出力パターン系列の組み合わせは、例えば、A=(3, 4, 5, 1, 2),A=(4, 2, 1, 5, 3),A=(2, 1, 3, 4, 5),A=(1, 5, 2, 3, 4),A=(5, 3, 4, 2, 1)となり、出力パターン系列間の最小ハミング距離は5となる。従って、この出力パターン系列(A,…,A)を各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)の出力パターン系列とすれば、相互の反射電波の干渉による影響は排除できることが分かる。
(例終り)
【0082】
(例2)
N=5,M=6とすると、すべての出力パターン系列の組み合わせのハミング距離の最小値が最大となる出力パターン系列の組み合わせは、例えば、A=(4, 3, 2, 1, 5),A=(5, 4, 1, 3, 2),A=(2, 1, 4, 5, 3),A=(3, 2, 5, 4, 1),A=(1, 5, 3, 2, 4),A=(3, 5, 4, 1, 2)となり、出力パターン系列間の最小ハミング距離は4となる。この場合、出力パターン系列A〜Aは出力パターン系列Aと1回ずつ干渉することになる。従って、この出力パターン系列(A,…,A)を各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)の出力パターン系列とし、超広帯域パルス・センサSを最も他と干渉しない端の位置に配置すれば、各超広帯域パルス・センサの発射パルスの周波数の干渉回数は最小限に抑えられる。
(例終り)
【符号の説明】
【0083】
1 UWBパルス・センサ
2 コヒーレント発振器
3 局部発振器
4 任意ステップ・パターン信号生成器
4a パターン・メモリ
5 周波数混合器
6 パルス変調器
7 サーキュレータ
8 アンテナ
9 フロントエンド部
10 位相検波器
11 離散スペクトル・データ生成部
12 逆離散フーリエ変換器
13 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小周波数fminから最大周波数fmaxまでの周波数バンドを一定の周波数間隔Δfで等分したN個(N>2)の離散周波数系列(fmin,fmin+Δf,…,fmin+(N−1)Δf(=fmax))を任意に順序置換して得られる離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)の周波数順序を表す出力パターン系列(α,α,…,α)を記憶する書き換え自在なパターン・メモリと、
前記パターン・メモリに記憶された前記出力パターン系列(α,α,…,α)に従って一定の時間ステップ幅τPRFでステップ状に変化する周波数制御電圧VVCOを生成する任意ステップ・パターン信号生成器と、
前記周波数制御電圧VVCOに従って、前記時間ステップ幅τPRFで前記離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)の順にステップ状に周波数が変化する前記RF信号を出力する局部発振器と、を備えたRF信号生成手段を備えるとともに、
中間周波数の連続波であるIF信号を出力するコヒーレント発振器と、
前記RF信号と前記IF信号とを混合し連続発信信号を生成する周波数混合器と、
前記連続発信信号を、前記連続発信信号の周波数がステップ状に変化した時点から一定のパルス幅τ(τ<τPRF)だけ出力することによりパルス変調し、パルス発信信号を生成するパルス変調手段と、
前記パルス変調手段が生成するパルス発信信号を発射するとともに、前記パルス発信信号が目標物で反射された反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された前記反射波を、前記RF信号と混合しダウン・コンバートすることによりダウン・コンバート信号を生成するダウン・コンバート手段と、
前記ダウン・コンバート信号を前記IF信号により位相検波することにより直交する2つのI/Qビデオ信号を生成する位相検波器と、
前記I/Qビデオ信号を、それぞれのパルス毎にフーリエ変換しN個の離散スペクトル・データ{Rα1,Rα2,…,RαN}を生成し、前記離散周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)に基づいて前記離散スペクトル・データを周波数の小さい順に並べ替えた離散スペクトル・ベクトル・データ(R,R,…,R)を生成する離散スペクトル・データ生成手段と、
前記離散スペクトル・ベクトル・データ(R,R,…,R)を逆離散フーリエ変換することでレンジスペクトルR(φ)を生成し、前記レンジスペクトルR(φ)がピークをとる位相値φpeakから前記アンテナから前記目標物までの距離dを算出する逆離散フーリエ変換手段と、を備えた超広帯域パルス・センサ。
【請求項2】
複数の請求項1記載の超広帯域パルス・センサ(S,…,S)(Mは2以上の整数)が同一の空間内に近接して存在するときに、前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間での電波干渉を回避するための干渉回避方法であって、
それぞれの前記超広帯域パルス・センサSの前記パターン・メモリに記憶させる前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi)を、他の前記超広帯域パルス・センサS(j≠i)の前記出力パターン系列(α1j,α2j,…,αNj)とは異なる系列とすることを特徴とする超広帯域パルス・センサの干渉回避方法。
【請求項3】
前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)のうちの2つの前記超広帯域パルス・センサS,S(j≠i)の前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi),(α1j,α2j,…,αNj)の距離Li,jを、それぞれの前記出力パターン系列(α1i,α2i,…,αNi),(α1j,α2j,…,αNj)に対応する前記離散周波数系列(fα1i,fα2i,…,fαNi),(fα1j,fα2j,…,fαNj)の間の距離としたとき、前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)間のハミング距離hi,jの最小値min(hi,j)が最大となるように前記各超広帯域パルス・センサ(S,…,S)の出力パターン系列を設定することを特徴とする請求項2に記載の超広帯域パルス・センサの干渉回避方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88141(P2012−88141A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234416(P2010−234416)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】