説明

超電導ケーブルの端末構造

【課題】超電導導体層の超電導薄膜と常電導導体部との接続箇所の抵抗を低減できる超電導ケーブルの端末構造を提供する。
【解決手段】この端末構造は、超電導ケーブルの超電導導体層113と、この超電導導体層と接続されて常温側の機器と電力を授受するための常電導導体部353とを備える。超電導導体層113は、基板22上に形成された超電導薄膜26を有する超電導線材2を、超電導薄膜26が内周側、基板22が外周側となるように螺旋状に巻回して構成される。この端末構造は、超電導薄膜26に隣り合う接合面42を有する常電導接続部材4と、超電導薄膜26と接合面42に跨るように対面する超電導層56を備える接続用超電導シート5と、超電導薄膜26及び接合面42の双方と超電導層56とを接合する導電接合材6とを備える。常電導接続部材4は、その外周面から接合面42に導電接合材6を導入する貫通孔44を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルの端末構造に関するものである。特に、超電導薄膜を有する超電導線材の超電導薄膜をケーブルの内周側に向けて螺旋状に巻回された超電導導体層を備える超電導ケーブルの端末構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、常電導ケーブルと比較して大容量の電流を低損失で送電できることから、省エネルギー技術として期待されている。最近では、実用化に向けて超電導ケーブルの実証試験が実施されている。
【0003】
一般に、この超電導ケーブルは、図3に示すように、外管10Aの内部に内管10Bを有する断熱管10を備え、その内管に1本以上のコア11を収納した構造である。このコア11は、中心から外周側に向かって順に、心材111、超電導導体層113、絶縁層115、超電導シールド層117、保護層119を備える。
【0004】
超電導導体層113として、超電導薄膜を有する図4に示すような超電導線材2を用いたものがある。具体的には、常電導の基板22上に超電導薄膜26を形成した超電導線材2を、基板22が外周側、超電導薄膜26が内周側となるように螺旋状に巻回して超電導導体層113(図3参照)を構成する(特許文献1)。超電導薄膜26をコアの内周側に向けた超電導導体層とすれば、曲げの内側となる超電導薄膜26に圧縮歪が作用し、曲げの外側となる基板22に引張歪が作用するため、臨界電流が低下し難い。
【0005】
このような超電導ケーブルの端部には、常温側に設置された機器、例えば常電導ケーブルとの間で電力の授受を行うために、端末構造が設置される。
【0006】
従来、この端末構造として、図2に示す構造のものが知られている(特許文献2参照)。この端末構造は、真空槽に収納された冷媒槽を備える。真空層には主真空槽301と、主真空槽301の側面につながった接続真空槽302とを備える。同様に冷媒槽も主冷媒槽311と、主冷媒槽311の側面につながった接続冷媒槽312とを備える。常電導ケーブル(図示せず)に接続されるブッシング351の上端は、主冷媒槽311と主真空槽301とを順次貫通し、主真空槽301の外部に引き出される。一方、ブッシング351の下端は、常電導導体部353の一端と、主冷媒槽311の内部で接続される。そして、超電導ケーブル1の端部から引き出されたコアの超電導導体層113と常電導導体部353の他端とが接続冷媒槽312の内部で接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−188844号公報
【特許文献2】特開2006−196628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来技術では、上記超電導ケーブルの超電導導体層と常電導導体部との具体的な接続構造を開示していない。
【0009】
ここで、超電導導体層と常電導体部との接続構造として、超電導導体層の外周に常電導スリーブ(常電導接続部材)をはめ込み、超電導導体層と常電導接続部材との間に半田を流し込むことを想定する。
【0010】
ところが、このような接続構造の場合、超電導薄膜は超電導導体層の外周側に位置する常電導の基板を介して常電導接続部材と接続されることになる。その結果、接続箇所での抵抗が大きくなることが予想される。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、超電導薄膜を有する超電導導体層と常電導導体部との接続箇所の抵抗を低減することができる超電導ケーブルの端末構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明超電導ケーブルの端末構造は、超電導ケーブルの超電導導体層と、この超電導導体層と接続されて常温側の機器と電力を入出力するための常電導導体部とを備える超電導ケーブルの端末構造に係る。前記超電導導体層は、基板上に形成された超電導薄膜を有する超電導線材を、超電導薄膜が内周側、基板が外周側となるように螺旋状に巻回して構成される。この端末構造は、常電導接続部材と、接続用超電導シートと、導電接合材とを備える。常電導接続部材は、前記常電導導体部に接続される一端側と、前記超電導薄膜に隣り合う接合面を有する他端側とを有する。接続用超電導シートは、前記超電導薄膜と前記接合面に跨るように対面する超電導層を備える。導電接合材は、前記超電導薄膜と前記接続用超電導シートの超電導層とを接合すると共に、前記接合面と前記接続用超電導シートの超電導層とを接合する。そして、常電導接続部材は、その外周面から前記接合面に前記導電接合材を導入する貫通孔を備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、超電導薄膜と常電導接続部材は、高抵抗の基板を介することなく導電接合材で接続されるため、接続箇所での抵抗を低減できる。
【0014】
本発明超電導ケーブルの端末構造において、複数の超電導線材を径方向に積層し、この超電導導体層の端部を、内層側の超電導線材の端部を外層側の超電導線材の端部よりもケーブル軸端方向に長くして、各層の超電導薄膜を段階状に構成することが挙げられる。その場合、接合面は、前記各層の超電導薄膜に隣り合うように段階状に構成する。
【0015】
この構成により、積層された超電導導体層の端部における各層の超電導薄膜を段階的に形成させることができる。そして、各層の超電導薄膜を段階状の接合面に隣り合うように配置し、接続用超電導シートを介して各層の超電導薄膜と接合面とを接続することで、各層の超電導線材を殆ど屈曲させる必要もない。
【0016】
本発明超電導ケーブルの端末構造において、超電導シートの超電導層は、前記超電導線材の超電導薄膜と同材質とすることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、超電導薄膜と接合される超電導層が同材質であるため、電気的・機械的に両者の間で不整合が生じにくい。また、超電導シートを超電導導体層の超電導線材と同様に基板と超電導薄膜を備える構成とすれば、超電導線材の製造ラインを利用して超電導シートを製造することができる。
【0018】
さらに、本発明の端末構造は、次の組立方法により得られる。すなわち、この組立方法は、超電導ケーブルの超電導導体層と、この超電導導体層と接続されて常温側の機器と電力を授受するための常電導導体部とを備える超電導ケーブルの端末構造を組み立てる方法であって、次の工程を含むことを特徴とする。
基板上に形成された超電導薄膜を有する超電導線材を、超電導薄膜が内周側、基板が外周側となるように螺旋状に巻回して構成された前記超電導導体層の端部を露出する工程。
筒状部材であって、その一端側が前記常電導導体部に接続され、他端側に接合面と、その接合面と外周面とをつなぐ貫通孔とを有する常電導接続部材を用意し、その接合面と前記超電導薄膜とを隣り合うように配置する工程。
前記超電導薄膜と前記接合面に跨るように接続用超電導シートの超電導層を超電導薄膜と接合面に対面させる工程。
前記超電導シートの超電導層と超電導薄膜との間及び前記超電導シートの超電導層と接合面との間を、前記常電導接続部材の貫通孔から導入した導電接合材で接続する工程。
【0019】
この組立方法において、先に接続用超電導シートの一部を接合面と対面させておいてから同シートの残部に超電導薄膜を対面させて、その後に導電接合材による上記接続を行ってもよいし、予め超電導導体層の超電導薄膜に接続用超電導シートの一部を導電接合材で接合しておき、その後に同シートの残部を接合面に対面させてから、導電接合材による接続用超電導シートと接合面との接続を行ってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明超電導ケーブルの端末構造によれば、超電導薄膜と常電導接続部材とを、基板を介することなく導電接合材で接続でき、接続箇所での抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態1に係る超電導ケーブルの端末構造の要部縦断面図である。
【図2】超電導ケーブルの端末構造の断面図である。
【図3】超電導ケーブルの横断面図である。
【図4】薄膜超電導線材の構成を示す概略斜視図である。
【図5】実施形態1の変形例に係る超電導ケーブルの端末構造の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0023】
[実施形態1]
〔全体構成〕
実施形態1に係る端末構造を図1〜図4に基づいて説明する。各図において、同一部材には同一符号を付している。本例の端末構造は、図2に示すように、超電導ケーブル1と、その端部に形成される端末容器部3とを備える。
【0024】
<超電導ケーブル>
超電導ケーブル1は、図2には1心しか示していないが、図3のように断熱管内10に3心のコア11を収納した構造である。断熱管10は、外管10A・内管10Bの間を真空引きした断熱二重管で構成され、外管10Aと内管10Bとの間には輻射断熱材(図示略)が配置される。一方、コア11は、中心から外周側に向かって順に、心材111、超電導導体層113、絶縁層115、超電導シールド層117、保護層119を備える。
【0025】
このうち、超電導導体層113は、複数の超電導線材を心材111の外周に螺旋状に巻回して単層を構成し、その単層をコア11の径方向に複数積層した構成である。この超電導線材は、図4に示すように、超電導薄膜26を有するものを利用する。例えば、基板22の上に、中間層24、超電導薄膜26、安定化層28を順次成膜した積層構造の超電導線材2を用いる。そして、各超電導線材2は、超電導薄膜26がコア(図3)の内周側、基板22が外周側になるように螺旋状に巻回されている。
【0026】
<端末容器部の概略>
一方、端末容器部3は、真空槽に収納された冷媒槽を備える収納部30と、超電導ケーブル1の端部に接続されると共に、真空層と冷媒層を通って常温側に引き出される常電導送電部35を有する(図2)。真空層には主真空槽301と、主真空槽301の側面につながった接続真空槽302とを備える。同様に冷媒槽も主冷媒槽311と、主冷媒槽311の側面につながった接続冷媒槽312とを備える。また、常電導送電部35は、ブッシング351、常電導導体部353、及び接続部355を主要構成部とする。常電導ケーブル(図示略)に接続されるブッシング351の上端は、主冷媒槽311と主真空槽301とを順次貫通し、主真空槽301の外部に引き出される。一方、ブッシング351の下端は、常電導導体部353の一端と、主冷媒槽311の内部の接続部355で接続される。そして、超電導ケーブル1の端部から引き出した超電導導体層113と常電導導体部353の他端とが接続冷媒槽312の内部で接続される。
【0027】
〔各部の構成〕
本発明端末構造の最も特徴とするところは、この超電導導体層と常電導導体部との接続構造にある。この接続構造は、図1に示すように、超電導ケーブルの端部、常電導導体部353、常電導接続部材4、接続用超電導シート5及び導電接合材6を備える。
【0028】
<超電導ケーブルの端部>
図3のような超電導ケーブルの端部では、コア11を構成する心材111から超電導シールド層117までの各層が段階的に露出される。心材111には複数の銅素線からなる撚り線を、超電導導体層113と超電導シールド層117を構成する超電導線材2(図4)にはRE123系線材(RE:希土類元素、例えばY、Ho、Nd、Sm、Gdなど)を、絶縁層115にはポリプロピレンとクラフト紙がラミネートされたPPLP(登録商標)を利用できる。特に、超電導導体層113(図1)には、超電導薄膜26をコアの内側に向けて螺旋状に巻回した超電導線材2を用いているため、例えば10mm以下といった小さい外径の心材111に対して超電導線材2を巻回することができる。
【0029】
そのうち、積層構造の超電導導体層113の各層は、図1に示すように、順次、外層から内層に向かってケーブル軸端方向(図1の右側)に長くなるように構成される。つまり、超電導導体層113の各層の端部は、超電導薄膜26が基板22よりもコアの内周側に向いた状態で、内層側の超電導線材の基板22が外層側の超電導線材2の端部から段階的に露出するように形成される。この超電導導体層113の端部を段階状に形成する処理は、ケーブルの端部で一般に行われるいわゆる段剥ぎと同様な処理でよいため、格別のスキルを必要としない。必要に応じて、超電導導体層113の各層の端部において、超電導薄膜26上の安定化層28(図4参照)を機械的又は化学的に除去して超電導薄膜26を超電導導体層113の内周側に露出させてもよい。それにより、一層低抵抗の接続構造を構成できる。つまり、超電導薄膜26と後述する常電導接続部材4の接合面との接合は、直接接合であってもよいし、安定化層28を介在する間接接合であってもよく、基板22と同等以上の抵抗を有する材料を介在しなければよい。
【0030】
もっとも、図1では、説明の便宜上、超電導導体層113の端部における超電導線材2の段階状態を誇張して示している。一般に、1本の超電導線材2の厚さは100〜200μm程度である。また、図1では省略しているが、超電導導体層113の各層の間には層間絶縁が施され、その厚さは140μm程度である。一方、本例ではコアの径方向に隣接する一対の超電導線材2のうち、外層よりもケーブル軸端方向に突出する内層の寸法(突出量)を15〜20mm程度としている。そのため、実際の超電導導体層113の端部では、1層の超電導線材2の厚さに対して、ほぼ100倍以上の突出量となり、1段の段差が240〜340μm程度の段階状態が形成される。
【0031】
<常電導導体部>
常電導導体部353(図1、図2)は、超電導ケーブルの超電導導体層113と端末容器部3内に配されるブッシング351の端部との間を電気的に接続するための導体である。この常電導導体部353は、超電導ケーブル1からの電流又はブッシング351からの電流の容量に応じた断面積を備えており、例えば、銅や銅合金など高導電率材料からなる棒材、或いは撚り線で構成される。ここでは、複数本の銅素線から構成され、超電導ケーブルの心材111(図3)と実質的に同径の撚り線で常電導導体部353を構成している。
【0032】
<常電導接続部材>
常電導接続部材4は、各コアの超電導導体層113と常電導導体部353とを接続するための部材である(図1)。本例では、銅製のスリーブ材を常電導接続部材4としている。この常電導接続部材4の一端側の内側には常電導導体部353が嵌めこまれ、他端側の内側には心材111が嵌め込まれる。常電導導体部353と心材111は、両者の突き合せ箇所を覆う常電導接続部材4により圧縮接続される。
【0033】
この常電導接続部材4の他端側(超電導ケーブル側)の内周には、段階状の接合面42が形成されている。この接合面42は、常電導接続部材4の他端(超電導ケーブル側)から一端(常電導導体部側)に向かって段階的に内径が減少するように構成され、かつ超電導導体層113の端部における各層の段階状態に対応するように形成されている。つまり、この接合面42は、超電導導体層113の各層における超電導薄膜26とコアの径方向の同じ位置に並列できるような段階状に構成されている。常電導接続部材4の他端部は、内外径差が小さくて薄くなるため、最外層の超電導導体層113からの電流容量を考慮して適切な厚さを選択する。そして、各段の接合面42には、超電導導体層113の各層の超電導薄膜26が隣り合うように配置される。図1において、この接合面42の段階状態が誇張して示されていることは、超電導導体層113の端部と同様である。
【0034】
さらに、常電導接続部材4の他端側には、その外周面から接合面42に達する貫通孔44が形成されている。本例のように、接合面42が段階状に形成されている場合、貫通孔44は各段の接合面42の各々に達するように複数設けられる。この貫通孔44は、常電導接続部材4の外周面から接合面42に、後述する導電接合材6を導入する。貫通孔44の断面形状は、特に限定されず、多角形や楕円などでもよいが、円形が加工も容易であり好ましい。また、貫通孔44の断面積は、常電導接続部材4の他端側に過度の強度低下をもたらさず、かつ迅速に導電接合材6の導入ができる程度の大きさとすればよい。さらに、接合面42における貫通孔44の開口位置は、常電導接続部材4の縦断面において、接合面42の軸方向の中間位置とすることが好ましい。この中間位置に貫通孔44の開口を形成することで、接合面42の全面に導電接合材6を行き渡らせやすい。
【0035】
一方、常電導接続部材4の一端側(常電導導体部側)の外周面は、端部側ほど外径が小さくなるテーパ状に形成されている。この形状により、常電導導体部353と常電導接続部材4との境界部に電界が集中することを抑制する。
【0036】
<接続用超電導シート>
接続用超電導シート5は、超電導導体層113の各層の超電導薄膜26と常電導接続部材の接合面42とを電気的に接続するための部材である。この接続用超電導シート5は、超電導層56を備える。代表的には、超電導導体層113を構成する超電導線材2と同様の構成のものを接続用超電導シート5として利用できる。通常、超電導線材は、まず基板上に順次中間層、超電導薄膜、安定化層を形成した長尺シートを製造し、その長尺シートを細く切断して所定の線材幅とすることで作製されている。そのため、長尺シートの切断幅を調整することで、接続用超電導シート5を容易に得ることができる。その場合、長尺シートの基板が超電導シートの基板52となり、長尺シートの超電導薄膜が接続用超電導シートの超電導層56となる。本例では、幅が約30mmの帯状のシートを接続用超電導シート5としている。もちろん、接続用超電導シート5の構成は、超電導線材2と同じ材質で同じ積層構造に限定されるわけではない。
【0037】
このような接続用超電導シート5は、超電導導体層113の各層の超電導薄膜26と常電導接続部材の接合面42の双方に超電導層56が跨るように配置される。例えば、接続用超電導シート5を、超電導層56がコアの外周側に向けられ、基板52がコアの内周側に向けられるように、コアの周方向に沿って一周させる。その際、接続用超電導シート5における超電導層56の幅方向のほぼ半分が超電導導体層113の各層の超電導薄膜26に対面され、残りの半分が常電導接続部材の接合面42に対面されるようにする。このような接続用超電導シート5の配置により、超電導導体層の超電導薄膜26と常電導接続部材の接合面42とは、接続用超電導シートの超電導層56を介して電気的に接続される。
【0038】
<導電接合材>
導電接合材6は、超電導導体層の超電導薄膜26と接続用超電導シートの超電導層56との接合及び常電導接続部材の接合面42と接続用超電導シートの超電導層56との接合に用いられる。具体的には半田が利用できる。低融点半田を利用してもよい。この導電接合材6により、超電導導体層の超電導薄膜26と接続用超電導シートの超電導層56との間及び常電導接続部材の接合面42と接続用超電導シートの超電導層56との間には、半田や安定化層28(図4)だけが介在され、高抵抗の基板22が介在されることはない。半田以外の材料であっても、これらの接合箇所を低抵抗で接続でき、かつ機械的にも適切な接合強度が得られる材料であれば導電接合材6として利用できる。図1では貫通孔44の内部を空洞に示しているが、貫通孔内部を導電接合材で満たしてもよい。
【0039】
〔組立方法〕
以上の本発明端末構造は、次のようにして組み立てられる。
【0040】
まず、超電導ケーブル1(図3参照)の端部を段剥ぎし、コアを構成する心材111から超電導シールド層までの各層を段階的に露出させる。この段階では、超電導導体層の各層の端部は、いずれも同じ長さに揃えられている。
【0041】
次に、超電導導体層113の端部から、螺旋状に巻回されている各層の超電導線材2を一旦広げて解きほぐす。
【0042】
一方、常電導接続部材4の一端側から常電導導体部353を挿入し、他端側からコアの心材111を挿入して、常電導導体部の端面と心材の端面とを突き合わせる(図1)。その状態で常電導接続部材4を圧縮機で圧縮する。この圧縮は、常電導接続部材4における接合面42のある個所から同接続部材4の一端側(図1の右側)にずれた箇所に対して行う。この圧縮により、常電導導体部353と心材111は、常電導接続部材4により圧縮接続される。
【0043】
続いて、解きほぐしておいた各層の超電導線材2の端部を切断する。具体的には、外層側の超電導導体層113ほど切断代を多くとって各層の超電導線材2を切断する。その際、コアの径方向に隣接する一対の超電導導体層113のうち、外層よりもコア軸端方向に突出する内層の突出量は、接続用超電導シート5の幅の約半分に対応するように切断代を選択する。この切断により、超電導導体層113の各層は、順次、外層から内層に向かってケーブル軸端方向に長くなるように構成される。
【0044】
この切断を終えたら、超電導導体層113の各層の端部に接続用超電導シート5を配置する。このシート5の配置は、超電導層56がコアの外周側に向けられ、基板52がコアの内周側に向けられるように、接続用超電導シート5をコアの周方向に沿って一周させることで行う。
【0045】
まず、内層側の接続用超電導シート5を心材111の外周に巻回する。その際、接続用超電導シート5における超電導層56の幅方向のほぼ半分が常電導接続部材4の最も内周側の接合面42に対面するようにする。その後、解きほぐしておいた内層の超電導線材2を元に戻し、同線材2の超電導薄膜26を接続用超電導シートの超電導層56に対面させる。
【0046】
次に、外層側の接続用超電導シート5も、超電導導体層113の内層の上に同様に巻回する。その際、接続用超電導シート5における超電導層56の幅方向のほぼ半分が常電導接続部材4の内周側から次段目の接合面42に対面するようにする。その後、解きほぐしておいた外層の超電導線材2を元に戻し、同線材2の超電導薄膜26を外層側の接続用超電導シートの超電導層56に対面させる。
【0047】
超電導導体層が3層以上の積層構造で、接合面も3層以上ある場合も、同様に接続用超電導シートを巻回し、さらに解きほぐしておいた超電導線材を元に戻す作業を繰り返せばよい。
【0048】
そして、超電導導体層の超電導薄膜26と接続用超電導シートの超電導層56との間及び常電導接続部材の接合面42と接続用超電導シートの超電導層56との間を導電接合材6にて接合する。具体的には、常電導接続部材4の外周面に位置する貫通孔44の開口から半田6を充填する。この充填により、半田6は貫通孔44を通って接合面42に達する。その半田6は、接合面42と接続用超電導シートの超電導層56との間に入り込み、さらに超電導導体層の超電導薄膜26と接続用超電導シートの超電導層56との間にも入り込む。そして、接続用超電導シートの超電導層56は、超電導導体層の超電導薄膜26及び接合面42に跨るように接合される。
【0049】
その後、図2に示すように、超電導導体層113の露出箇所及び常電導接続部材4の外周に補強絶縁層357を形成する。
【0050】
〔作用効果〕
このような本発明端末構造によれば、超電導導体層が、基板よりも超電導薄膜を内周側として巻回された超電導線材で構成されている場合に、超電導薄膜と常電導接続部材の接合面との間に高抵抗の基板が介在されることはない。そのため、この接合箇所での抵抗を低減できる。
【0051】
また、超電導導体層の各層の超電導薄膜と常電導接続部材の接合面とが隣り合って配置されるため、各層の超電導線材を屈曲することなく接合面に電気的に接続できる。そのため、各超電導線材の端部に屈曲に伴う歪が作用することがなく、かつ超電導導体層と常電導接続部材との接続箇所におけるコア径方向のサイズが大型化することもない。
【0052】
さらに、超電導導体層の各層の超電導薄膜と常電導接続部材の接合面とが隣り合って配置されるため、超電導導体層の端部を常電導接続部材の端部に突き当てるだけで超電導導体層と常電導接続部材との位置決めができる。
【0053】
〔変形例〕
次に、実施形態1の変形例として、常電導導体部と常電導接続部材とをボルトの締め付けにより接続する構成を図5に基づいて説明する。本例と実施形態1との主たる相違点は、常電導導体部と常電導接続部材との接続構造にあり、他の構成は実施形態1とほぼ共通であるため説明を省略する。
【0054】
常電導接続部材4の常温側端部は、常電導導体部353と接続する平板状端子部46を有し、その平板状端子部46に複数のボルト孔46h(図5(B)参照)を有する。一方、この端子部46と対向する常電導導体部353もボルト孔(図示略)を有する平板状の端部を備える。常電導接続部材4と常電導導体部353とを接続するには、まず常電導接続部材4の平板状端子部46と、常電導導体部353の平板状の端部とを両ボルト孔が一致するよう重ね合わせる。そして、両ボルト孔にボルト(図示略)を貫通させ、そのボルトにナット(図示略)を締め付ける。これにより、常電導接続部材4と常電導導体部353とを容易かつ強固に接続することができる
【0055】
一方、図5(A)に示すように常電導接続部材4と心材111との接続は、常電導接続部材4に心材111を挿入し、常電導接続部材4を圧縮機で圧縮する。この圧縮は、常電導接続部材4における接続用超電導シート5との接合面42と平板状端子部46との間の箇所に対して行う。この圧縮により、心材111と常電導接続部材4とは、圧縮接続される。
【0056】
また、常電導接続部材4には、その内周面における接合面42以外の箇所にマルチコンタクト(商品名、図示略)を設けてもよい。マルチコンタクトは、導電性の接触子を複数有する。このマルチコンタクトを用いた常電導接続部材4に心材111を挿入することで、複数の接触子が心材111を圧接し、常電導接続部材4と心材111とを電気的・機械的に接続する。そのため、マルチコンタクトを利用すれば、常電導接続部材4に圧縮箇所を設ける必要がないため常電導接続部材4を短くでき、さらに圧縮機による圧縮作業も不要となる。
【0057】
〔その他〕
本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。以上の実施形態では、超電導導体層を2層しか示していないが、この層数が特に限定されるわけではなく、単層や3層以上などであってもよい。また、組立方法も上記の手順に限定されるものではない。例えば、常電導接続部材の圧縮を行う前に、予め超電導導体層の各層を所定の長さに切断しておいてもよい。その他、予め超電導導体層の各層の超電導薄膜に接続用超電導シートの超電導層の一部を導電接合材で接合しておき、その後に同シートの残部の超電導層を接合面に対面させてから、導電接合材による超電導層と接合面との接続を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明超電導ケーブルの端末構造は、超電導薄膜を利用した超電導ケーブルにおいて好適に利用できる。特に超電導薄膜と常電導接続部材との接続箇所での抵抗を低減した端末構造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 超電導ケーブル
10 断熱管
10A 外管 10B 内管
11 コア
111 心材 113 超電導導体層 115 絶縁層
117 超電導シールド層 119 保護層
2 超電導線材
22 基板 24 中間層 26 超電導薄膜 28 安定化層
3 端末容器部
30 収納部
301 主真空槽 302 接続真空槽 311 主冷媒槽 312 接続冷媒槽
35 常電導送電部
351 ブッシング 353 常電導導体部 355 接続部 357 補強絶縁層
4 常電導接続部材
42 接合面 44 貫通孔 46 平板状端子部 46h ボルト孔
5 接続用超電導シート
52 基板 56 超電導層
6 導電接合材(半田)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導ケーブルの超電導導体層と、この超電導導体層と接続されて常温側の機器と電力を授受するための常電導導体部とを備える超電導ケーブルの端末構造であって、
前記超電導導体層は、基板上に形成された超電導薄膜を有する超電導線材を、超電導薄膜が内周側、基板が外周側となるように螺旋状に巻回して構成され、
この端末構造は、
前記常電導導体部に接続される一端側と、前記超電導薄膜に隣り合う接合面を有する他端側とを有する常電導接続部材と、
前記超電導薄膜と前記接合面に跨るように対面する超電導層を備える接続用超電導シートと、
前記超電導薄膜と前記接続用超電導シートの超電導層とを接合すると共に、前記接合面と前記接続用超電導シートの超電導層とを接合する導電接合材とを備え、
前記常電導接続部材は、その外周面から前記接合面に前記導電接合材を導入する貫通孔を備えることを特徴とする超電導ケーブルの端末構造。
【請求項2】
前記超電導導体層は、複数の超電導線材が径方向に積層され、
この超電導導体層の端部は、内層側の超電導線材の端部を外層側の超電導線材の端部よりもケーブル軸端方向に長くして、各層の超電導薄膜が段階状に構成され、
前記接合面は、前記各層の超電導薄膜に隣り合うように段階状に構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブルの端末構造。
【請求項3】
前記超電導シートの超電導層は、前記超電導線材の超電導薄膜と同材質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導ケーブルの端末構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−287349(P2010−287349A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138632(P2009−138632)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】