説明

超電導電流リード及び超電導マグネット装置

【課題】超電導電流リードにおける超電導体が変位することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる超電導電流リードを提供する。
【解決手段】超電導電流リード10において、一端に設けられた高温側電極端子13と、他端に設けられた低温側電極端子14と、高温側電極端子13と低温側電極端子14とを接続するように設けられ、高温側電極端子13から低温側電極端子14に向かって延在する超電導体12と、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の変位を規制するように設けられた変位規制部材15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導体を用いた超電導電流リード及び超電導マグネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導マグネット装置等の超電導機器には、超電導コイル等の超電導体に電力を供給するための電流リードが用いられている。例えば超電導マグネット装置では、電流リードを介して、室温側(高温側)に設置された電源と、低温側に設置された超電導コイルとが電気的に接続される。
【0003】
超電導コイルには、通常、電流リードを介して大電流が流される。また、超電導コイルの超電導状態を保持するために、超電導コイルの温度を臨界温度以下の極低温に保持する必要がある。従って、電流リードとして、電流が流れる際にジュール熱を発生させないように、電気抵抗が略0に近い超電導体、中でも臨界温度の高いY系、Bi系等の酸化物超電導材料を用いるのが一般的である。以下、超電導体を用いた電流リードを超電導電流リードという。
【0004】
酸化物超電導材料を用いた超電導電流リードの超電導体として、従来は、酸化物超電導材料をバルク状に加工したバルク状超電導体が用いられていた。しかし、バルク状超電導体は、製造コストが高いという欠点がある。そこで、最近は、超電導材料を金属材料と複合化し、線材状に加工した超電導線材、特に超電導テープ線材が、超電導電流リードの超電導体として、用いられるようになってきている。超電導線材又は超電導テープ線材は、比較的容易に製造することができるため、バルク状超電導体と比較して製造コストが低いという利点を有する。
【0005】
超電導マグネット装置では、超電導コイルが発生する磁場が、超電導電流リードの超電導テープ線材の幅広面(以下「テープ面」という。)に対して平行に印加されることがある。すると、超電導電流リードに流れる電流と超電導コイルが発生する磁場とにより生ずるローレンツ力が、超電導電流リードを構成する超電導テープ線材に作用する。
【0006】
特に、超電導テープ線材が延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に平行な方向に磁場が印加され、超電導体テープ線材のテープ面に垂直な方向にローレンツ力が作用する場合を考える。すると、超電導テープ線材が延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向に超電導テープ線材が変位して歪が発生し、臨界電流値が低下するおそれがある。また、作用するローレンツ力が大きくなり、発生した歪が破壊歪に近づくと、超電導テープ線材が破損するおそれがある。
【0007】
更に、超電導体テープ線材が変位して発生する歪としては、ローレンツ力によるものに限られない。例えば超電導マグネット装置を冷却する際に、超電導体テープ線材を固定する部材の収縮に伴って、超電導体テープ線材が延在する方向に圧縮され、超電導体テープ線材が延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向に変位して歪が発生することがある。
【0008】
超電導テープ線材に歪が発生して臨界電流値が低下すること、又は、超電導テープ線材が破損することを防止するために、例えばガラス繊維強化エポキシ樹脂よりなる外被部材により、超電導テープ線材を全体的に接触して包囲しながら固定する方法がある(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−185726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記したような、外被部材により超電導テープ線材を全体的に接触して包囲しながら固定する方法には、次のような問題がある。
【0011】
特許文献1に開示されるように、例えば外被部材により超電導テープ線材を接触して固定すれば、上記した歪の発生を防止することはできる。しかし、外被部材を介して高温側から低温側に熱が侵入するため、低温側への熱侵入量が多くなり、高温側から低温側に侵入する熱量が大きくなるという問題がある。
【0012】
また、上記した課題は、超電導電流リードを構成する超電導体の延在する方向に垂直な断面の形状が、その断面に平行な異なる二つの方向に沿った幅寸法のうち一方が他方に比べて短い場合、例えば矩形形状である場合にも、共通する課題である。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、超電導電流リードにおける超電導体が変位することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる超電導電流リードを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる手段を講じたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、一端に設けられた高温側電極端子と、他端に設けられた低温側電極端子と、前記高温側電極端子と前記低温側電極端子とを接続するように設けられ、前記高温側電極端子から前記低温側電極端子に向かって延在する超電導体と、前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の変位を規制するように設けられた変位規制部材とを有する、超電導電流リードである。
【0016】
また、本発明は、上述の超電導電流リードにおいて、前記変位規制部材は、前記超電導体よりも高温側及び前記超電導体よりも低温側のいずれか一方にのみ接触するように設けられている。
【0017】
また、本発明は、上述の超電導電流リードにおいて、前記変位規制部材は、前記超電導体よりも高温側で支持され、前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の高温側の部分の変位を規制するように設けられた第1の変位規制部材と、前記超電導体よりも低温側で支持され、前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の低温側の部分の変位を規制するように設けられた第2の変位規制部材とにより構成される。
【0018】
また、本発明は、上述の超電導電流リードにおいて、前記変位規制部材は、表面が絶縁されたものである。
【0019】
また、本発明は、上述の超電導電流リードにおいて、前記変位規制部材は、前記超電導体に固定されていない。
【0020】
また、本発明は、上述の超電導電流リードにおいて、前記超電導体の変位は、前記超電導体に流れる電流と、前記超電導体の低温側に接続されている超電導コイルが発生する磁場とにより生ずるローレンツ力による変位である。
【0021】
また、本発明は、本発明に係る超電導電流リードと、前記超電導電流リードの低温側に接続されている超電導コイルとを有する、超電導マグネット装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、超電導電流リードにおける超電導体が変位することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係る超電導マグネット装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態に係る超電導電流リードの斜視図及び上面図である。
【図3】変位規制部材が設けられていない超電導電流リード(比較例1)の斜視図及び側面図である。
【図4】変位規制部材が設けられていない超電導電流リード(比較例1)の斜視図である。
【図5】変位規制部材が設けられていない超電導電流リード(比較例1)の斜視図である。
【図6】外被部材により被覆されている超電導テープ線材(比較例2)を示す一部断面を含む斜視図である。
【図7】実施の形態に係る超電導電流リードの別の例における斜視図及び上面図である。
【図8】実施の形態に係る超電導電流リードの別の例における斜視図及び上面図である。
【図9】実施の形態の第1の変形例に係る超電導電流リードの斜視図及び正面図である。
【図10】実施の形態の第2の変形例に係る超電導電流リードの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
(実施の形態)
<超電導マグネット装置>
次に、図1を参照し、実施の形態に係る超電導マグネット装置1について説明する。図1は、超電導マグネット装置1の構成を示す断面図である。
【0025】
本実施の形態に係る超電導マグネット装置1は、図2を用いて後述する超電導電流リード10を冷凍機冷却型超電導マグネット装置に適用したものである。冷凍機として、例えば1段式又は2段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon:GM)冷凍機を用いることができる。
【0026】
超電導マグネット装置1は、真空容器2、超電導コイル3、伝熱部材4、荷重支持体5、熱シールド板6、GM冷凍機7、常温ブスバー8、1段電流ライン9、超電導電流リード10、及び2段電流ライン11を有する。
【0027】
真空容器2は、例えば略円筒状の形状を有している。真空容器2の上面には、GM冷凍機7が固定されている。
【0028】
超電導コイル3は、超電導線材により形成されている。超電導コイル3は、熱シールド板6で囲まれた空間に設けられている。超電導コイル3は、伝熱部材4を介して後述する低温側冷却ステージ7dに接続されており、GM冷凍機7により冷却されて超電導状態となる。
【0029】
超電導コイル3は、後述する超電導電流リード10の低温側に接続されている。そして、超電導コイル3は、真空容器2の外部に設けられた電源8aから、後述する1段電流ライン9、超電導電流リード10、及び2段電流ライン11を介して電力が供給される。
【0030】
図1に示す例では、超電導コイル3が囲繞する空間は熱シールド板6で囲まれた空間に含まれている。しかし、真空容器2及び熱シールド板6に円筒状の形状を有する凹部を設け、超電導コイル3が、凹部により画成される空間を囲繞するようにしてもよい。
【0031】
伝熱部材4は、超電導コイル3と後述する低温側冷却ステージ7dとの間に設けられている。伝熱部材4は、超電導コイル3と低温側冷却ステージ7dと熱的に接続し、低温側冷却ステージ7dの冷熱を超電導コイル3に伝熱するものである。
【0032】
荷重支持体5は、真空容器2と伝熱部材4との間に設けられている。荷重支持体5は、伝熱部材4を真空容器2に取り付けることによって、伝熱部材4に取り付けられた超電導コイル3の荷重を支持するためのものである。
【0033】
熱シールド板6は、真空容器2の内部に設けられている。熱シールド板6は、超電導コイル3へ侵入する輻射熱を抑制するためのものである。熱シールド板6は、銅、アルミニウム等の電気伝導率の大きい材料により形成されており、例えば略円筒状の形状を有している。
【0034】
GM冷凍機7は、1段目冷却シリンダ7a及び2段目冷却シリンダ7bよりなる多段冷却シリンダ構造を有している。1段目冷却シリンダ7aは、真空容器2の内部に挿入されており、2段目冷却シリンダ7bは、熱シールド板6で囲まれた空間に挿入されている。
【0035】
熱シールド板6の天板の上部には、高温側冷却ステージ7cが固定されており、高温側冷却ステージ7cには、1段目冷却シリンダ7aが接続されている。高温側冷却ステージ7cは、1段目冷却シリンダ7aにより冷却される。熱シールド板6の天板の下部には、高温側冷却ステージ7cと接続するように2段目冷却シリンダ7bが設けられている。2段目冷却シリンダ7bの下側先端には、低温側冷却ステージ7dが接続されている。低温側冷却ステージ7dは、2段目冷却シリンダ7bにより冷却される。高温側冷却ステージ7c及び低温側冷却ステージ7dは、銅、アルミニウム等の高熱伝導率部材で形成されている。
【0036】
常温ブスバー8、1段電流ライン9、超電導電流リード10、及び2段電流ライン11は、電源8aから超電導コイル3に電流を流すためのものである。電源8aは、常温ブスバー8と接続され、更に、1段電流ライン9を通り、熱シールド板6に接触させて冷却した後、超電導電流リード10の高温側と接続される。そして、超電導電流リード10の低温側は、伝熱部材4を介し、超電導コイル3の図示しないコイル電極と接続される。
【0037】
1段電流ライン9として、銅、アルミニウム等の電気伝導率の大きい材料を用いることができる。2段電流ライン11として、銅、アルミニウム等の電気伝導率の大きい材料を用いることができ、あるいは、これらの電気伝導率の大きい材料と併せてBi2223、Bi2212、Y123、MgB等の高温超電導材料を用いることができる。
【0038】
本実施の形態に係る超電導マグネット装置1では、後述するように、超電導電流リード10を構成する超電導体12が変位することによる臨界電流値の低下又は超電導体12の破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる。
【0039】
なお、本実施の形態では、冷凍機冷却型超電導マグネット装置について説明した。しかし、冷凍機冷却型超電導マグネット装置に代え、例えば液体ヘリウムを冷媒とする液体冷却型超電導マグネット装置でもよく、あるいは、例えば液体ヘリウムの蒸発ガスを冷媒とするガス冷却型超電導マグネット装置でもよい。
<超電導電流リード>
次に、図2を参照し、実施の形態に係る超電導電流リード10について説明する。
【0040】
図2は、超電導電流リード10の斜視図及び上面図である。図2(a)は斜視図であり、図2(b)は上面図を示す。なお、図2(b)では、超電導体12及び変位規制部材15のみを示す。
【0041】
図2(a)に示すように、本実施の形態に係る超電導電流リード10は、超電導体12、高温側電極端子13、低温側電極端子14及び変位規制部材15を有する。
【0042】
高温側電極端子13は、超電導電流リード10の一端に設けられた電極端子である。高温側電極端子13は、電気の良導体である銅等の金属により構成されている。高温側電極端子13は、超電導電流リード10の高温側(1段電流ライン9側)に接続されている。また、図1及び図2(a)に示すように、高温側電極端子13は、熱シールド板6を介して、又は直接に、高温側冷却ステージ7cに熱的に接続されている。
【0043】
低温側電極端子14は、超電導電流リード10の他端に設けられた電極端子である。低温側電極端子14は、電気の良導体である銅等の金属により構成されている。低温側電極端子14は、超電導電流リード10の低温側(2段電流ライン11側)に接続されている。また、図1及び図2(a)に示すように、低温側電極端子14は、伝熱部材4を介して低温側冷却ステージ7dに熱的に接続されている。
【0044】
超電導体12は、高温側電極端子13と低温側電極端子14とを接続するように設けられる。また、超電導体12は、高温側電極端子13から低温側電極端子14に向かって延在するように設けられている。
【0045】
以下、本実施の形態では、超電導体12が超電導テープ線材よりなる例について説明する。(以下の変形例でも同様。)
しかし、超電導体12が超電導テープ線材により構成される場合のみならず、超電導体12の延在する方向に垂直な断面の形状が、その断面に平行な異なる二つの方向に沿った幅寸法のうち一方が他方に比べて短い場合、例えば矩形形状であってもよい。
【0046】
超電導体12として、例えばBi2223、Bi2212、Y123、MgB等の高温超電導材料を用いることができる。また、超電導体12が超電導テープ線材であるときは、例えば、銀等の金属を母材としてBi2223、Bi2212等の多芯線が被覆されてなる高温超電導線材、あるいは、ハステロイ等の金属テープ基材上にY123等の薄膜を堆積してなる高温超電導線材、等の各種の超電導テープ線材を用いることができる。
【0047】
図2(a)に示すように、超電導体12は、高温側電極端子13及び低温側電極端子14に形成された溝部に、例えばはんだ接合により、埋め込まれている。具体的には、高温側電極端子13及び低温側電極端子14に形成された溝部にはんだめっきを施すことによって、溝部の表面をはんだにより薄く被覆する。そして、薄くはんだにより被覆された溝部に、超電導体12を装填し、超電導体12が装填された状態の溝部に溶融されたはんだを充填し、はんだを固化することによって、超電導体12をはんだ接合する。このような方法により、超電導体12を確実に高温側電極端子13及び低温側電極端子14に固定することができる。
【0048】
変位規制部材15は、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の変位を規制するように設けられている。
【0049】
特に、超電導体12が例えば超電導テープ線材よりなる場合、変位規制部材15は、超電導テープ線材のテープ面に垂直な方向への変位を規制するように設けられているのが好ましい。
【0050】
なお、超電導体12が延在する方向に垂直な断面の形状が、その断面に平行な異なる二つの方向に沿った幅寸法のうち一方が他方に比べて短い場合、例えば矩形形状であるときは、変位規制部材15は、超電導体12のその短い幅寸法の方向への変位を規制するように設けられていてもよい。
【0051】
変位規制部材15は、超電導体12よりも高温側及び超電導体12よりも低温側のいずれか一方にのみ接触するように設けられていることが好ましい。すなわち、変位規制部材15は、超電導体12よりも高温側及び超電導体12よりも低温側のいずれか一方にのみ支持されており、他方には熱的に接触しないように設けられていることが好ましい。このような配置で変位規制部材15を設けることによって、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができる。
【0052】
例えば、変位規制部材15は、高温側電極端子13及び低温側電極端子14のいずれか一方に支持されているのが好ましい。このとき、変位規制部材15は、高温側電極端子13及び低温側電極端子14のいずれか一方に、例えば絶縁ボルト等により固定することができる。
【0053】
あるいは、変位規制部材15は、高温側電極端子13に代え、例えば熱シールド板6、高温側冷却ステージ7c等の、超電導体12よりも高温側のいずれかの部材に支持されていてもよい。また、変位規制部材15は、低温側電極端子14に代え、例えば伝熱部材4、低温側冷却ステージ7d等の、超電導体12よりも低温側のいずれかの部材に支持されていてもよい。
【0054】
また、変位規制部材15は、超電導体12の高温側電極端子13に接続される部分、又は低温側電極端子14に接続される部分を除いて、超電導体12には固定されないことが好ましい。これにより、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができるとともに、超電導マグネット装置を冷却する際に、変位規制部材15と超電導体12との間の熱膨張率差により超電導体12が破損することを防止できる。
【0055】
また、例えば、図2(a)及び図2(b)に示すように、変位規制部材15が、低温側電極端子14に支持され、超電導体12の中央部を超電導テープ線材のテープ面の両面を含む三方向から囲むように設けられていてもよい。
【0056】
変位規制部材15は、表面が絶縁されたものであることが好ましい。変位規制部材15として、例えば、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等のガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics;GFRP)、ホルマール、エナメル、エポキシ樹脂等の絶縁性材料により全体が構成されたものを用いることができる。あるいは、変位規制部材15として、例えば上記した絶縁性材料により表面が被覆されたものを用いることができる。これにより、超電導体12が変位して変位規制部材15に接触した場合でも、超電導体12と変位規制部材15との間の電気的な絶縁を確保することができる。
【0057】
次に、図2から図6を参照し、本実施の形態に係る超電導電流リード10が、超電導体12が変位することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる作用効果について、比較例1、2と対比しながら説明する。
【0058】
図3は、変位規制部材が設けられていない超電導電流リード(比較例1)の斜視図及び側面図である。図4及び図5は、変位規制部材が設けられていない超電導電流リード(比較例1)の斜視図である。図6は、外被部材により被覆されている超電導テープ線材(比較例2)を示す一部断面を含む斜視図である。
【0059】
後述する図7及び図8も含め、図2から図6において、超電導テープ線材よりなる超電導体12(以下「超電導テープ線材12」という。)の延在する方向をX方向とする。そして、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、超電導テープ線材12のテープ面(以下、単に「テープ面」という。)に平行な方向をY方向とし、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向をZ方向とする。また、超電導テープ線材12に沿って上から下へ向かう方向(+X方向)に電流Iが流れるものとする。更に、超電導テープ線材12に電流Iが流れる際に、超電導マグネット装置1の超電導コイル3が発生する磁場Bが、図4及び図5を除き、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に平行な方向(+Y方向)に印加されるものとする。
【0060】
図4は、超電導テープ線材12に電流Iが流れる際に、超電導マグネット装置1の超電導コイル3が発生する磁場Bが、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向(+Z方向)に印加されるように配置した場合を示している。通常、磁場Bがテープ面に対して平行に印加された場合(図3(a))の超電導テープ線材12の臨界電流値は、磁場Bがテープ面に対して垂直に印加された場合(図4)の超電導テープ線材12の臨界電流値に比べ、大きい。従って、図2及び図3(a)に示すような配置で運用することが、超電導マグネット装置にとって有利である。
【0061】
そして、図2及び図3に示す場合では、超電導テープ線材12には、I×Bに等しいローレンツ力Fが、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向(+Z方向)に作用する。その結果、図3(b)に示すように、超電導テープ線材12は、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向(+Z方向)にΔZ変位し、超電導テープ線材12の延在する方向に後述する歪が発生する。
【0062】
なお、図5に示すように、超電導コイル3をGM冷凍機7により常温から例えば4K程度の極低温まで冷却する際に、超電導テープ線材12を固定する部材の収縮に伴って、超電導テープ線材12の延在する方向に圧縮する圧縮力Fthが作用することがある。このときも、図3(b)に示すように、超電導テープ線材12は、超電導テープ線材12の延在する方向に直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向(Z方向)にΔZ変位し、超電導テープ線材12の延在する方向に後述する歪が発生する。
【0063】
ここで、歪は超電導テープ線材12の延在する方向の応力と弾性係数から求めることができる。
【0064】
そして、超電導テープ線材12が破損(破壊)するときの歪を破壊歪Smaxとすると、超電導テープ線材12が変位して発生する歪Sが、例えば所定の安全率Rを用いて下記式(1)
S>RSmax (1)
を満たすときは、超電導テープ線材12が破損するおそれがある。また、発生する歪Sにより超電導テープ線材12が破損しない場合であっても、臨界電流値が低下することがある。
【0065】
比較例1に係る超電導電流リードでは、変位規制部材が設けられていないため、超電導テープ線材12が変位して発生する歪Sが、超電導テープ線材12が破損(破壊)するときの破壊歪Smaxと所定の安全率Rとを乗じた値を超えるおそれがある。
【0066】
従って、超電導コイル3に電流を流す際に作用するローレンツ力Fにより、又は、超電導コイル3を冷却する際に作用する圧縮力Fthにより、超電導テープ線材12が破損するか、又は、超電導テープ線材12の臨界電流値が低下するおそれがある。
【0067】
図6に示す比較例2のように、例えば外被部材12aにより超電導テープ線材12を接触して包囲するように固定すれば、上記の問題は回避できる。しかし、外被部材12aを介して高温側から低温側に熱が侵入するため、超電導電流リードの高温側から低温側に侵入する侵入熱量が大きくなるという問題がある。
【0068】
一方、本実施の形態に係る超電導電流リード10では、超電導テープ線材12の延在する方向と直交する方向であって、かつ、テープ面に垂直な方向への超電導テープ線材12の変位を規制するための変位規制部材15を設けることができる。
【0069】
本実施の形態では、図2(b)に示すように、超電導テープ線材12に電流を流さないとき、あるいは、超電導テープ線材12を冷却する前の状態で、超電導テープ線材12と変位規制部材15とが距離Dだけ離隔するように設けることができる。そして、歪SがRSmaxと等しくなるときの変位ΔZをΔZ1とすると、例えば距離Dが下記式(2)
D≦ΔZ1 (2)
を満たすときは、超電導テープ線材12が破損することを防止できる。すなわち、歪Sが、破壊歪Smaxに所定の安全率Rを乗じた値に等しくなるときのZ方向の変位をΔZ1とし、距離DをΔZ1以下にする。これにより、超電導テープ線材12に歪が発生することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる。
【0070】
また、外被部材により超電導体12を直接荷重支持しないため、外被部材の熱膨張率を調整する必要がなく、超電導電流リード10及び超電導マグネット装置1の製造コストを低減することができる。
【0071】
また、前述したように、本実施の形態では、磁場Bがテープ面に対して平行に印加されるように配置することができる。従って、磁場Bがテープ面に対して垂直に印加されるように配置した場合に比べ、臨界電流値を大きくすることができ、超電導マグネット装置の運用上、有利である。
【0072】
なお、変位規制部材が、2つの変位規制部材15a、15bにより構成され、その2つの変位規制部材15a、15bが、低温側電極端子14に支持され、超電導テープ線材12の中央部をテープ面の両面側から挟むように対向して設けられていてもよい。そのような構成を有する、本実施の形態に係る超電導電流リードの別の例における斜視図及び上面図を、それぞれ図7(a)及び図7(b)に示す。
【0073】
また、変位規制部材は、超電導テープ線材12のテープ面に垂直な方向に沿った正逆二方向のうち、少なくとも超電導テープ線材12にローレンツ力Fが作用する方向への変位を規制するように設けられていてもよい。従って、図7(a)及び図7(b)に示す変位規制部材15a、15bのうち15bを省略し、変位規制部材15aのみが、超電導テープ線材12のローレンツ力Fによる変位を規制するように設けられていてもよい。そのような構成を有する、本実施の形態に係る超電導電流リードの別の例における斜視図及び上面図を、それぞれ図8(a)及び図8(b)に示す。
(実施の形態の第1の変形例)
次に、図9を参照し、実施の形態の第1の変形例に係る超電導電流リード10aについて説明する。本変形例に係る超電導電流リード10aでは、変位規制部材が、超電導体12よりも高温側で支持された第1の変位規制部材15c、15d、及び、超電導体12よりも低温側で支持された第2の変位規制部材15e、15fにより構成されている。
【0074】
本変形例に係る超電導電流リード10aも、実施の形態に係る超電導マグネット装置1と同様の超電導マグネット装置を構成することができる。従って、本変形例では、超電導マグネット装置についての説明を省略する。
【0075】
図9は、本変形例に係る超電導電流リード10aの斜視図及び正面図である。図9(a)は斜視図であり、図9(b)は正面図を示す。
【0076】
図9(a)に示すように、本変形例に係る超電導電流リード10aは、超電導体12、高温側電極端子13、低温側電極端子14、第1の変位規制部材15c、15d、及び第2の変位規制部材15e、15fを有する。超電導体12、高温側電極端子13及び低温側電極端子14は、実施の形態に係る超電導電流リード10と同様にすることができ、説明を省略する。
【0077】
第1の変位規制部材15c、15dは、超電導体12よりも高温側で支持され、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の高温側の部分の変位を規制するように設けられている。また、第2の変位規制部材15e、15fは、超電導体12よりも低温側で支持され、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の低温側の部分の変位を規制するように設けられている。
【0078】
特に、超電導体12が例えば超電導テープ線材よりなる場合、第1の変位規制部材15c、15dは、超電導テープ線材のテープ面に垂直な方向への超電導テープ線材の高温側の部分の変位を規制するように設けられているのが好ましい。そして、第2の変位規制部材15e、15fは、超電導テープ線材のテープ面に垂直な方向への超電導テープ線材の低温側の部分の変位を規制するように設けられているのが好ましい。
【0079】
なお、超電導体12が延在する方向に垂直な断面の形状が、その断面に平行な異なる二つの方向に沿った幅寸法のうち一方が他方に比べて短い場合、例えば矩形形状であるときは、変位規制部材15c〜15fは、超電導体12のその短い幅寸法の方向への変位を規制するように設けられていてもよい。
【0080】
また、第1の変位規制部材15c、15d、及び第2の変位規制部材15e、15fのいずれも、超電導体12よりも高温側及び超電導体12よりも低温側のいずれか一方にのみ接触するように設けられていることが好ましい。これにより、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができる。
【0081】
例えば、第1の変位規制部材15c、15dが高温側電極端子13に支持され、第2の変位規制部材15e、15fが低温側電極端子14に支持されるように構成することができる。
【0082】
また、変位規制部材15c〜15fは、表面が絶縁されたものであることが好ましい。これにより、超電導体12が変位して変位規制部材15c〜15fに接触した場合でも、超電導体12と変位規制部材15c〜15fとの間の電気的な絶縁を確保することができる。
【0083】
また、変位規制部材15c〜15fは、超電導体12には固定されないことが好ましい。これにより、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができるとともに、超電導マグネット装置を冷却する際に、変位規制部材15c〜15fと超電導体12との間の熱膨張率差により超電導体12が破損することを防止できる。
【0084】
なお、図8を用いて前述したのと同様に、第1の変位規制部材15c、15dのうちの一方を省略してもよく、第2の変位規制部材15e、15fのうちの一方を省略してもよい。
【0085】
本変形例でも、例えば、超電導テープ線材12に電流を流さないとき、あるいは、超電導テープ線材12を冷却する前の状態で、超電導テープ線材12と変位規制部材15c〜15fとが距離Dだけ離隔するように設けることができる。そして、距離Dを、歪Sが、破壊歪Smaxに所定の安全率Rを乗じた値に等しくなるときのZ方向の変位ΔZ1以下にする。これにより、超電導テープ線材12に歪が発生することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる。
(実施の形態の第2の変形例)
次に、図10を参照し、実施の形態の第2の変形例に係る超電導電流リード10bについて説明する。本変形例に係る超電導電流リード10bでは、第1の変位規制部材15gが超電導電流リード10bよりも高温側で支持され、第2の変位規制部材15hが超電導電流リード10bよりも低温側で支持されている。
【0086】
本変形例に係る超電導電流リード10bも、実施の形態に係る超電導マグネット装置1と同様の超電導マグネット装置を構成することができる。従って、本変形例では、超電導マグネット装置についての説明を省略する。
【0087】
図10は、本変形例に係る超電導電流リード10bの斜視図である。
【0088】
図10に示すように、本変形例に係る超電導電流リード10bは、超電導体12、高温側電極端子13、低温側電極端子14、第1の変位規制部材15g、及び第2の変位規制部材15hを有する。超電導体12、高温側電極端子13及び低温側電極端子14は、実施の形態に係る超電導電流リード10と同様にすることができ、説明を省略する。
【0089】
第1の変位規制部材15gは、超電導体12よりも高温側で支持され、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の高温側の部分の変位を規制するように設けられている。また、第2の変位規制部材15hは、超電導体12よりも低温側で支持され、超電導体12が延在する方向と直交する方向への超電導体12の低温側の部分の変位を規制するように設けられている。
【0090】
特に、超電導体12が例えば超電導テープ線材よりなる場合、第1の変位規制部材15gは、超電導テープ線材のテープ面に垂直な方向への超電導テープ線材の高温側の部分の変位を規制するように設けられているのが好ましい。そして、第2の変位規制部材15hは、超電導テープ線材のテープ面に垂直な方向への超電導テープ線材の低温側の部分の変位を規制するように設けられているのが好ましい。
【0091】
なお、超電導体12が延在する方向に垂直な断面の形状が、その断面に平行な異なる二つの方向に沿った幅寸法のうち一方が他方に比べて短い場合、例えば矩形形状であるときは、変位規制部材15g、15hは、超電導体12のその短い幅寸法の方向への変位を規制するように設けられていてもよい。
【0092】
また、第1の変位規制部材15g及び第2の変位規制部材15hのいずれも、超電導体12よりも高温側及び超電導体12よりも低温側のいずれか一方にのみ接触するように設けられていることが好ましい。これにより、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができる。
【0093】
例えば、第1の変位規制部材15gが高温側冷却ステージ7cに支持され、第2の変位規制部材15hが低温側冷却ステージ7dに支持されるように構成することができる。
【0094】
また、変位規制部材15g、15hは、表面が絶縁されたものであることが好ましい。これにより、超電導体12が変位して変位規制部材15g、15hに接触した場合でも、超電導体12と変位規制部材15g、15hとの間の電気的な絶縁を確保することができる。
【0095】
また、変位規制部材15g、15hは、超電導体12には固定されないことが好ましい。これにより、超電導体12の高温側から低温側に侵入する熱量を低減することができるとともに、超電導マグネット装置を冷却する際に、変位規制部材15g、15hと超電導体12との間の熱膨張率差により超電導体12が破損することを防止できる。
【0096】
なお、図7を用いて前述したのと同様に、第1の変位規制部材15gを超電導テープ線材12のテープ面の両面側に設けてもよく、第2の変位規制部材15hを超電導テープ線材12のテープ面の両面側に設けてもよい。
【0097】
本変形例でも、例えば、超電導テープ線材12に電流を流さないとき、あるいは、超電導テープ線材12を冷却する前の状態で、超電導テープ線材12と変位規制部材15g、15hとが距離Dだけ離隔するように設けることができる。そして、距離Dを、歪Sが、破壊歪Smaxに所定の安全率Rを乗じた値に等しくなるときのZ方向の変位ΔZ1以下にする。これにより、超電導テープ線材12に歪が発生することによる臨界電流値の低下又は破損を防止するとともに、低温側に侵入する侵入熱量を低減することができる。
【0098】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 超電導マグネット装置
2 真空容器
3 超電導コイル
4 伝熱部材
5 荷重支持体
6 熱シールド板
7 GM冷凍機
7a 1段目冷却シリンダ
7b 2段目冷却シリンダ
7c 高温側冷却ステージ
7d 低温側冷却ステージ
8 常温ブスバー
8a 電源
9 1段電流ライン
10 超電導電流リード
11 2段電流ライン
12 超電導体(超電導テープ線材)
12a 外被部材
13 高温側電極端子
14 低温側電極端子
15、15a、15b 変位規制部材
15c、15d、15g 第1の変位規制部材
15e、15f、15h 第2の変位規制部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に設けられた高温側電極端子と、
他端に設けられた低温側電極端子と、
前記高温側電極端子と前記低温側電極端子とを接続するように設けられ、前記高温側電極端子から前記低温側電極端子に向かって延在する超電導体と、
前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の変位を規制するように設けられた変位規制部材と
を有する、超電導電流リード。
【請求項2】
前記変位規制部材は、前記超電導体よりも高温側及び前記超電導体よりも低温側のいずれか一方にのみ接触するように設けられている、請求項1に記載の超電導電流リード。
【請求項3】
前記変位規制部材は、
前記超電導体よりも高温側で支持され、前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の高温側の部分の変位を規制するように設けられた第1の変位規制部材と、
前記超電導体よりも低温側で支持され、前記超電導体が延在する方向と直交する方向への前記超電導体の低温側の部分の変位を規制するように設けられた第2の変位規制部材と
により構成される、請求項1又は請求項2に記載の超電導電流リード。
【請求項4】
前記変位規制部材は、表面が絶縁されたものである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の超電導電流リード。
【請求項5】
前記変位規制部材は、前記超電導体に固定されていない、請求項1から請求項4のいずれかに記載の超電導電流リード。
【請求項6】
前記超電導体の変位は、前記超電導体に流れる電流と、前記超電導体の低温側に接続されている超電導コイルが発生する磁場とにより生ずるローレンツ力による変位である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の超電導電流リード。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の超電導電流リードと、
前記超電導電流リードの低温側に接続されている超電導コイルと
を有する、超電導マグネット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−99573(P2012−99573A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244469(P2010−244469)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】