説明

超音波の変復調方法並びに距離検出方法、通信方法

【課題】耐ノイズ性を向上することができる超音波の変復調方法並びに距離検出方法、通信方法を提供する。
【解決手段】一定のパルス幅を有する複数の超音波パルスを、基準となる第1の時間間隔T1及び第1の時間間隔T1とは異なる第2の時間間隔T2のうちから予め決められた順序(擬似雑音符号によって決まる順序)で選択された時間間隔T1,T2を空けて送波することによって超音波を変調する。そして、変調された複数の超音波パルスと同一の波形と、受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調する。故に、受波器5における残響の影響を受けずに超音波を変復調することができるとともに、相関の低いノイズ成分が除去されることで耐ノイズ性を向上することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の変復調方法、並びにその変復調方法を利用して対象物までの距離を検出する距離検出方法、さらにその変復調方法を利用した通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を媒体とした距離検出方法や通信方法が種々提供されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
例えば、超音波を媒体とする距離検出方法では、送波器から一定のパルス幅を有する超音波パルスを送波し、対象物で反射した当該超音波を受波器で受波するまでの時間に基づいて対象物までの距離を検出している。
【0004】
また、特許文献2に記載されている超音波を媒体とした通信方法では、超音波をスペクトル拡散することで耐ノイズ性を向上している。
【特許文献1】特開2001−221848号公報
【特許文献2】特開2005−295378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送波器から送波される超音波以外にノイズとなる超音波が存在する環境下で距離検出や通信を行う場合、送波器から送波される超音波(あるいは物体に反射した超音波)がノイズに埋もれて正常に受波できない虞がある。そのための解決手段として、例えば、特許文献2に記載されている従来例のように送波器から送波される超音波をスペクトル拡散するという方法が考えられる。しかしながら、超音波を受波する受波器では、その構造上、受波波形に余分な残響成分が含まれているため、超音波の変復調方式として位相シフトキーイング(PSK)を使うことができず、単純に超音波をスペクトル拡散することはできない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、耐ノイズ性を向上することができる超音波の変復調方法並びに距離検出方法、通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、一定のパルス幅を有する複数の超音波パルスを、基準となる第1の時間間隔及び第1の時間間隔とは異なる第2の時間間隔のうちから予め決められた順序で選択された時間間隔を空けて送波することによって超音波を変調し、変調された複数の超音波パルスと同一の波形と、受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、変調された複数の超音波パルスの受波波形を予め記憶しておき、受波波形と、予め記憶しておいた前記受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、上記目的を達成するために、請求項1又は2の変調方法で変調されて送波手段より送波された超音波が対象物に反射し、反射した当該超音波が受波手段で受波されて請求項1又は2の復調方法で復調されるまでの時間に基づいて前記対象物までの距離を検出することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、上記目的を達成するために、請求項1又は2の変調方法で変調されて送波手段より送波される超音波の時間間隔を送信データに応じて変化させ、受波手段で受波されて復調された超音波の時間間隔に応じて送信データを復号化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変調された複数の超音波パルスと同一の波形と、受波波形との相関をとれば、相関の低いノイズ成分が除去されることで耐ノイズ性を向上することが可能な超音波の変復調方法並びに距離検出方法、通信方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施形態1)
図2は、本発明に係る超音波の変復調方法を利用した距離検出方法を実施するための距離検出装置のブロック図である。
【0013】
この距離検出装置は、送波器1、発振部2、符号化部3、変調部4で送波系のブロックが構成され、複数の受波器5、A/D変換部6、複数のマッチド・フィルタ7で受波系のブロックが構成され、遅延加算部8と判定部9で検出処理系のブロックが構成されている。
【0014】
符号化部3は、M系列などの擬似雑音符号(拡散符号とも呼ばれる。)を作成して変調部4に出力している。変調部4は、発振部2から出力される一定周波数の駆動信号を符号化部3で作成された擬似雑音符号によって変調し、変調された駆動信号(以下、「変調駆動信号」と呼ぶ。)を送波器1並びにマッチド・フィルタ7に出力している。送波器1は、変調部4から出力される変調駆動信号によって駆動されることで空中に超音波を送波するものである。
【0015】
ここで、本発明の要旨である変調部4の変調方法について詳しく説明する。本発明に係る変調方法は、パルス状の駆動信号の時間間隔を符号化部3から出力される擬似雑音符号に応じて変化させるものである。例えば、図1(a)に示すように駆動信号がパルス幅一定の矩形波信号からなる場合、擬似雑音符号が「1」のときは駆動信号の時間間隔を第1の時間間隔T1(例えば、80マイクロ秒)とし、擬似雑音符号が「0」のときは駆動信号の時間間隔を第1の時間間隔T1から所定の遅延時間Td(例えば、10マイクロ秒)だけ遅延させた第2の時間間隔T2とするのである。但し、擬似雑音符号が「01」のときは第2の時間間隔T2の終了時点を起点として第1の時間間隔T1をカウントするのではなく、第2の時間間隔T2の終了時点よりも遅延時間Td以前の時点を起点として第1の時間間隔T1をカウントする。つまり、基準となる第1の時間間隔T1を常時カウントし、擬似雑音符号が「0」であるときにのみ、駆動信号のタイミングを遅延時間Tdだけ遅延させているのである。尚、駆動信号は矩形波信号の単一パルスに限定されるものではなく、例えば、図1(b)に示すように一定周期の正弦波信号の2周期分であってもよい。
【0016】
上述のようにして得られる変調駆動信号で送波器1を駆動すれば、複数の超音波パルスが第1の時間間隔T1又は第2の時間間隔T2を空けて送波されることになる。
【0017】
一方、送波器1から送波されて対象物体に反射した超音波が複数の受波器5で受波されると、各受波器5からは図3(a)に示すような信号(変調受波信号)が出力される。送波器5から出力される変調受波信号はA/D変換部6においてそれぞれA/D変換される。但し、図3(a)は単一の超音波パルスを受波したときの波形であり、複数(例えば、15パルス<4ビットM系列>)の超音波パルスを受波したときの波形を図3(b)に示す。
【0018】
A/D変換部6でディジタル信号に変換された各変調受波信号は、それぞれマッチド・フィルタ7によって変調部4で変調された変調駆動信号との相関が演算される。このようなマッチド・フィルタ7は従来周知であって、変調受波信号のデータ(波形データ)と変調部4から出力される変調駆動信号のデータ(波形データ)とを乗算(実際は2つのデータの排他的論理和を演算)することで相関を演算している。但し、マッチド・フィルタ7の代わりに積和演算器からなる相関器を用いて相関を演算しても構わない。
【0019】
而して、受波器5で受波する超音波に、送波器1から送波された変調された超音波パルス列が含まれていれば、各マッチド・フィルタ7から出力される受波信号(復調受波信号)に大きなピーク値(相関値の高い部分)が出現する。一方、超音波パルスを反射する対象物体が存在しないか、あるいは、符号化部3で作成された擬似雑音符号と異なる別の擬似雑音符号で変調された超音波パルス列が含まれている場合には、図4(b)に示すように各マッチド・フィルタ7から出力される受波信号(復調受波信号)に大きなピーク値(相関値の高い部分)が出現しない。
【0020】
複数のマッチド・フィルタ7から出力される復調受波信号のピーク値は、遅延加算部8において従来周知の遅延加算処理される。そして、遅延加算処理の結果に基づき、判定部9が対象物体の存否と当該対象物体までの距離並びに方位を判定(検出)するのである。
【0021】
上述のように本実施形態の距離検出装置では、一定のパルス幅を有する複数の超音波パルスを、基準となる第1の時間間隔T1及び第1の時間間隔T1とは異なる第2の時間間隔T2のうちから予め決められた順序(擬似雑音符号によって決まる順序)で選択された時間間隔T1,T2を空けて送波することによって超音波を変調し、変調された複数の超音波パルスと同一の波形(変調駆動信号)と、受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調しているので、受波器5における残響の影響を受けずに超音波を変復調することができるとともに、相関の低いノイズ成分(異なる擬似雑音符号で変調された超音波パルス例を含む。)が除去されることで耐ノイズ性を向上することが可能である。
【0022】
ここで、送波器1や受波器5には個体差による特性のばらつきがあるため、送波器1を変調駆動信号で駆動して送波された超音波パルスを受波器5で受波して得られる受波波形には、送波器1や受波器5の特性ばらつきによる変動成分(誤差)が含まれることになる。そして、このような変動成分が含まれた受波波形(変調受波信号)と変調駆動信号との相関を演算した場合、両者の相関度合いが低くなって復調受波信号のピーク値も減少してしまい、復調の精度が低下する虞がある。
【0023】
そこで、送波器1から送波された超音波を各受波器5で直接受波した変調受波信号のデータを予めメモリ(図示せず)に記憶しておき、変調部4で変調された変調駆動信号の代わりに、前記メモリ(図示せず)に記憶しておいた変調受波信号のデータ(波形データ)と実際の検出時において得られる変調受波信号のデータ(波形データ)との相関を演算する構成とすれば、送波器1や受波器5の特性ばらつきによる変動分が相殺されるために復調の精度を向上することができる。
【0024】
(実施形態2)
図5は、本発明に係る超音波の変復調方法を利用した通信方法を実施するための通信システムのシステム構成図である。この通信システムは、2台の送信器A,Bと1台の受信器Cで構成されており、送信器A,Bは実施形態1の距離検出装置における送波系のブロックと同じ構成を備え、受信器Cは前記距離検出装置における受波系のブロックと同じ構成を備えている。但し、送波器A,Bの各変調部における第1及び第2の時間間隔T1,T2は互いに異なる値に設定されている。
【0025】
例えば、図6(a)に示すように一方の送信器Aから変調された超音波パルス列SS1、SS2が送信された場合、受信器Cにおいて、送信器A,Bのそれぞれに対応した擬似雑音符号及び時間間隔T1,T2による復調処理を実行すれば、送信元である送信器Aに対応した擬似雑音符号及び時間間隔T1,T2による復調処理によって、図6(b)に示すようにそれぞれの受波信号にピーク値P1,P2が出現する。
【0026】
ここで、送信器Aにおいて、超音波パルス例SS1,SS2の先頭の時間間隔を送信データ(例えば、アスキーコードなど)に対応させて変化させれば、受信器Cにおいては受波信号のピーク値P1,P2の時間間隔に基づいて送信データを復号化することができる。つまり、送信器A,Bと受信器Cとの間で超音波を媒体とする無線通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1における変調方法を説明する波形図である。
【図2】同上における距離検出装置のブロック図である。
【図3】(a)(b)は同上における変調受波信号の波形図である。
【図4】(a)(b)は同上における復調受波信号の波形図である。
【図5】本発明の実施形態2における通信システムのシステム構成図である。
【図6】(a)は同上における超音波パルス例の波形図、(b)は復調受波信号の波形図である。
【符号の説明】
【0028】
1 送波器
2 発振部
3 符号化部
4 変調部
5 受波器
6 A/D変換部
7 マッチド・フィルタ
8 遅延加算部
9 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定のパルス幅を有する複数の超音波パルスを、基準となる第1の時間間隔及び第1の時間間隔とは異なる第2の時間間隔のうちから予め決められた順序で選択された時間間隔を空けて送波することによって超音波を変調し、
変調された複数の超音波パルスと同一の波形と、受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調することを特徴とする超音波の変復調方法。
【請求項2】
変調された複数の超音波パルスの受波波形を予め記憶しておき、受波波形と、予め記憶しておいた前記受波波形との相関をとることで変調された前記超音波を復調することを特徴とする請求項1記載の超音波の変復調方法。
【請求項3】
請求項1又は2の変調方法で変調されて送波手段より送波された超音波が対象物に反射し、反射した当該超音波が受波手段で受波されて請求項1又は2の復調方法で復調されるまでの時間に基づいて前記対象物までの距離を検出することを特徴とする距離検出方法。
【請求項4】
請求項1又は2の変調方法で変調されて送波手段より送波される超音波の時間間隔を送信データに応じて変化させ、受波手段で受波されて復調された超音波の時間間隔に応じて送信データを復号化することを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−60520(P2010−60520A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228854(P2008−228854)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、近畿経済産業局、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(304030497)株式会社プロアシスト (22)
【Fターム(参考)】