説明

超音波センサ

【課題】送信用と受信用の両ホーンを離間させずに回折波の影響による検出精度の低下を抑制することができる超音波センサを提供する。
【解決手段】超音波センサの送信素子3や受信素子9に取り付ける送信用ホーン5や受信用ホーン7として、超音波Uや反射波Rの伝播方向Xに、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)の寸法差ΔLhがある2つの音響ホーン体41,43を有するホーン筐体40を用いた。そして、送信側と受信側との間で逆位相の回折波A1の振幅と回折波A2の振幅とを一致させて、両回折波A1,A2を、受信素子9の手前の、スクリーン45で音響ホーン体41,43毎に仕切られていないホーン筐体40の共有音響空間47において相殺させる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受信により検出対象までの距離等を検出する超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサは光センサ等と同様に、検出対象までの距離や検出対象の有無を検出する等の用途で広く用いられている。特に、例えば印刷分野における、超軽量用紙や孔版用マスタ等の透明又は半透明フィルムの検出や、両面に黒色印字された用紙の位置検出、インク等の液面検出のような、光センサが苦手とする検出対象の検出に、超音波センサが利用される。
【0003】
超音波センサでは、超音波を送信する送信素子から送信用ホーンを介して検出対象に向けて超音波を発射し、検出対象からの反射波を受信用ホーンを介して受信素子で受信する。このとき、送信用ホーンと受信用ホーンとが同じ向きに並べて配置されているので、送信用ホーンの開口のエッジで発生した回折波が受信用ホーンの開口のエッジでさらに回折して受信素子で受信され、検出対象の検出精度を低下させてしまうことがある。
【0004】
そこで、回折波に対する対策として、両ホーンの開口部間に吸音部材を配置することや(例えば、特許文献1)、両開口の周囲に設けた溝に回折波を回折させて定在波化させることが(例えば、特許文献2)、既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−25578号公報
【特許文献2】特開平11−218572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した2つの従来技術では、両ホーンの開口間に、吸音部材や溝を配置できるだけの間隔を持たせなければならないので、両ホーンを隣接させる場合に比べると、検出対象からの反射波を受信用ホーン乃至受信素子で受信できる最短の検出レンジが遠くなってしまう。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、送信用と受信用の両ホーンを離間させずに回折波の影響による検出精度の低下を抑制することができる超音波センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載した本発明の超音波センサは、
超音波を送信する送信素子から送信用ホーンを介して検出対象に向けて超音波を発射し、検出対象からの反射波を受信用ホーンを介して受信素子で受信する超音波センサにおいて、
前記送信用ホーン及び前記受信用ホーンは共通のホーン筐体を有しており、
前記ホーン筐体は、前記超音波又は前記反射波の伝播方向においてそれぞれの開口の位置を、前記超音波の波長をλとしたときに、下記の間隔ΔLh、
ΔLh=λ×{n+(1/4)} (但し、nは0以上の整数)
だけずらした、前記伝播方向における寸法差が前記間隔ΔLhである2つの音響ホーン体を有しており、
前記2つの音響ホーン体は、前記開口側においてはスクリーンにより各音響ホーン体毎に仕切られており、かつ、前記送信素子や前記受信素子側においては互いに連通して共有音響空間を形成している、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載した本発明の超音波センサによれば、送信素子から送信された超音波は、送信用ホーンのホーン筐体の共有音響空間を経て2つの音響ホーン体をそれぞれ伝播し、伝播方向にλ×{n+(1/4)}だけずれた各開口からそれぞれ検出対象に向けて送信される。このとき、超音波の一部は、各音響ホーン体の開口でそれぞれ回折して回折波となる。送信用ホーンの各音響ホーン体の開口でそれぞれ発生した回折波は、受信用ホーンの各音響ホーン体の開口でそれぞれ回折されて、受信用ホーンの共有音響空間に向けて伝播する。
【0010】
ところで、ホーン筐体の各音響ホーン体は、超音波や反射波の伝播方向において開口の位置がλ×{n+(1/4)}(但し、nは0以上の整数)だけずれている。そのため、伝播方向における各音響ホーン体の寸法もλ×{n+(1/4)}(但し、nは0以上の整数)だけ異なる。したがって、送信用ホーンの寸法が短い音響ホーン体の開口で発生して受信用ホーンの寸法が短い音響ホーン体の開口で回折し共有音響空間に向かう回折波の伝播距離は、その他の経路を経た回折波の伝播距離よりも、2×λ×{n+(1/4)}(但し、nは0以上の整数)だけ短いことになる。ここで、その他の経路とは、送信用ホーンの寸法が短い音響ホーン体から受信用ホーンの寸法が長い音響ホーン体を経る経路と、送信用ホーンの寸法が長い音響ホーン体から受信用ホーンの寸法が短い音響ホーン体を経る経路と、送信用ホーンと受信用ホーンとの双方とも寸法が長い音響ホーン体を経る経路である。
【0011】
このように、伝播距離が2×λ×{n+(1/4)}だけ異なる2つの回折波は半波長だけ位相が異なる逆位相の音波であるので、受信用ホーンのホーン筐体の共有音響空間に到達すると干渉により減衰する。したがって、送信用ホーンの開口で発生した回折波を受信素子で受信される前に、受信用ホーンの共有音響空間で音圧の状態で減衰させて、検出対象の検出精度が低下するのを抑制することができる。特に、各伝播距離の回折波が同程度の振幅を有するようにすることで、回折波を相殺して検出対象の検出精度が低下するのを防止することができる。
【0012】
そして、送信用ホーンと受信用ホーンのホーン筐体を開口の位置が異なる2つの音響ホーン体で構成することで、伝播距離の異なる逆位相の回折波を発生させて互いに減衰させるので、送信用ホーンと受信用ホーンとの開口間に間隔を設ける必要がない。このため、送信用と受信用の両ホーンを離間させずに回折波の影響による検出精度の低下を抑制することができ、最短検出レンジを遠くすることなく、近距離の検出対象までの距離や検出対象の有無を精度よく検出することができる。
【0013】
また、請求項2に記載した本発明の超音波センサは、請求項1に記載した本発明の超音波センサにおいて、前記ホーン筐体は、前記送信素子及び前記受信素子のうち少なくとも一方に対する前記スクリーンの位置を前記伝播方向と直交する面内において変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載した本発明の超音波センサによれば、請求項1に記載した本発明の超音波センサにおいて、送信素子に対する送信用ホーンのスクリーンの位置と、受信素子に対する受信用ホーンのスクリーンの位置とのうち、少なくとも一方を、超音波や反射波の伝播方向と直交する面内で変更すると、送信用ホーンの各音響ホーン体の開口と受信用ホーンの各音響ホーンの開口との対向量(対向面積)が変化する。すると、送信用ホーンの各音響ホーン体の開口から受信用ホーンの各音響ホーンの開口にそれぞれ到達する回折波のボリュームが変化し、逆位相で受信用ホーンの共有音響空間にそれぞれ到達する各回折波の振幅が変化する。
【0015】
したがって、逆位相で受信用ホーンの共有音響空間にそれぞれ到達する各回折波の振幅を一致させて、それらの回折波が共有音響空間において干渉する際に両回折波を相殺させる環境を、容易に実現させることができる。
【0016】
請求項3に記載した本発明の超音波センサは、請求項1又は2に記載した本発明の超音波センサにおいて、前記共有音響空間は、前記伝播方向においてλ/2以上の寸法を有していることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載した本発明の超音波センサによれば、請求項1又は2に記載した本発明の超音波センサにおいて、逆位相で受信用ホーンの共有音響空間に到達した2つの回折波が十分に干渉する空間容量を確保し、音圧状態での両回折波の減衰乃至相殺をより確実に実現させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、送信用と受信用の両ホーンを離間させずに回折波の影響による検出精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波センサを用いた検出対象の測距装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】図1の測距装置で発生する各信号や音波のタイミングチャートである。
【図3】図1の超音波センサで発生する回折波を概念的に示す説明図である。
【図4】図3の回折波が検出対象の検出処理に及ぼす影響を示すもので、(a)は回折波と反射波を個別に示すグラフ、(b)は回折波と反射波の合成波を示すグラフである。
【図5】図1の超音波センサの送信用ホーン及び受信用ホーンを構成するホーン筐体の概略構成を示す説明図である。
【図6】図1の超音波センサで発生する回折波の経路を具体的に示す説明図である。
【図7】(a)は図5の送信側の各音響ホーン体から受信側の各音響ホーン体に到達する回折波のボリュームを示す説明図、(b)は経路を単純化した場合の各回折波の振幅の関係を示すグラフである。
【図8】図7中の回折波の一部の経路についての説明図である。
【図9】図7の各経路の回折波が検出対象の検出処理に及ぼす影響を具体的に示すもので、(a)は各経路の回折波と反射波を個別に示すグラフ、(b)は各回折波と反射波の合成波を示すグラフである。
【図10】(a),(c)は図5のホーン筐体の各音響ホーン体による音響路の対称性に相違がある場合の送信側の各音響ホーン体から受信側の各音響ホーン体に到達する回折波のボリュームを示す説明図、(b),(d)は(a),(c)の各回折波の振幅を示すグラフ、(e)は音響路の対称性を調整した場合の(a),(c)の各回折波の振幅を示すグラフである。
【図11】(a)〜(e)は図10に示す各音響ホーン体の音響路の対称性に関する調整パターンを示す説明図である。
【図12】図1の超音波センサの送信用ホーン及び受信用ホーンを構成するホーン筐体の別例による概略構成を示す説明図である。
【図13】(a)〜(e)は図12に示す各音響ホーン体の音響路の対称性に関する調整パターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る超音波センサを用いた検出対象の測距装置の概略構成を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の測距装置は、超音波センサ1と制御ユニット10とを有している。超音波センサ1は、超音波を送信する送信素子3から送信用ホーン5を介して検出対象21に向けて超音波Uを発射し、検出対象21からの反射波Rを受信用ホーン7を介して受信素子9で受信するものである。制御ユニット10は、送信素子3を駆動する送信素子駆動部11と、受信素子による受信信号を処理する受信信号処理部13と、送信素子駆動部11及び受信信号処理部13の制御と検出対象21までの距離算出を行う距離演算部15とを有している。なお、制御ユニット10は、例えばマイクロコンピュータとこれに組み込まれたプログラムとによって構成することができる。
【0023】
図2のタイミングチャートに示すように、送信素子駆動部11は予め定められた距離計測周期毎に、距離演算部15の制御によって駆動信号Drを送信素子3に出力し、この駆動信号Drにより駆動された送信素子3は超音波Uを出力する。この超音波Uは検出対象21で反射されて反射波Rとなり、受信素子9によって受信される。反射波Rを受信した受信素子9は受信信号(図示せず)を受信信号処理部13に出力する。受信信号処理部13は受信信号が所定の振幅以上のレベルで入力されている間、時間計測信号Tを距離演算部15に出力する。
【0024】
距離演算部15は、送信素子3が超音波Uを出力し始めてから受信素子9が反射波Rを受信し始める(時間計測信号Tが距離演算部15に入力され始める)までの時間差を、送信素子3の送信面31及び受信素子9の受信面91(共に図3参照)と検出対象21との往復時間tとして算出する。そして、この往復時間tに音速を乗じて往復距離を算出し、その半値を検出対象21までの距離の計測値として求める。
【0025】
なお、送信素子駆動部11が駆動信号Drを出力してから送信素子3が超音波Uを出力するまでの所要時間は、予め既知の値として距離演算部15が保持している。したがって、距離演算部15は、送信素子駆動部11に駆動信号Drの出力を指示したタイミングと上述した所要時間から、送信素子3が超音波Uを出力し始めたタイミングを認識することができる。また、送信素子3の送信面31及び受信素子9の受信面91(共に図3参照)は同一平面上に位置しており、距離演算部15は、この平面に対する法線方向、言い換えると、超音波Uや反射波Rの伝播方向X(図1参照)について、検出対象21までの距離を計測する。
【0026】
ところで、送信素子3が送信した超音波Uが送信用ホーン5の先端の開口を通過する際には、図3の説明図に示すように、その一部が開口のエッジにおいて回折され、回折波Diとなる。この回折波Diの一部は、受信用ホーン7の先端の開口で再び回折されて、検出対象21からの反射波Rと共に受信素子9へと向かう。
【0027】
反射波Rと共に回折波Diが受信素子9で受信されると、図4(a)のグラフに示すように、反射波Rと回折波Diとが干渉し、図4(b)のグラフに示すように、反射波Rとは波形が異なる合成波(干渉波)となる。ここで、反射波Rは回折波Diよりも経路が長いので、回折波Diよりも遅れて受信素子9で受信される。そこで、受信素子9が受信する合成波の振幅に対して回折波Diの振幅に応じたスライスレベルを設定すれば、合成波のうち反射波Rの成分が含まれていない冒頭の区間を非検出区間とすることができる。
【0028】
一方、回折波Diと反射波Rとの干渉により回折波Diによる反射波Rの振幅変調が始まってからは、回折波Diと反射波Rとの位相差次第で合成波の振幅が変わるので、合成波の振幅がスライスレベルを超えるタイミングが一定しない。このことが検出対象21の検出精度を低下させる原因となるので、従来は専ら、回折波Diを受信素子9側に入力させない方法が提案され続けてきた。
【0029】
これに対して、本発明(乃至本実施形態)では、回折波Diを受信素子9側に入力させない工夫をすることよりも、むしろ、回折波Diを積極的に利用して、結果的に反射波Rだけが受信素子9で受信されるようにすることを提案する。以下の説明でその詳細が明らかとなるが、本発明(乃至本実施形態)の超音波センサ1によれば、上述したスライスレベルを設定した煩雑な信号処理が必要なく、近距離(干渉領域)の検出対象21に関する検出精度の低下を抑制することができる。
【0030】
そして、本実施形態の超音波センサ1では、送信用ホーン5や受信用ホーン7として、図5の説明図に示す同一形状のホーン筐体40をそれぞれ用いている。ホーン筐体40は、全体で略円錐台状を呈しており、ホーン筐体40の中心軸方向に沿う平面によって2分割した半円錐台状の2つの音響ホーン体41,43を有している。各音響ホーン体41,43は、超音波Uや反射波Rの伝播方向Xに寸法差ΔLh(請求項中の間隔に相当)を有している。各音響ホーン体41,43の寸法差ΔLhは、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)としてあり、この寸法差ΔLhだけ、両音響ホーン体41,43の先端の開口41a,43aの位置がずれている。なお、上記寸法差ΔLhは、ΔLh=λ×{n+(1/4)}(但し、nは0以上の整数)を満たす寸法であれば、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)でなくてもよい。
【0031】
2つの音響ホーン体41,43は、開口41a,43a側においてはスクリーン45により各音響ホーン体41,43毎に仕切られて、独立した音響路を構成している。また、2つの音響ホーン体41,43の送信素子3や受信素子9側の部分は、スクリーン45によって仕切られておらず、互いに連通して共有音響空間47を形成している。
【0032】
送信用ホーン5のホーン筐体40と受信用ホーン7のホーン筐体40は、本実施形態では、円柱状の外形を有する送信素子3や受信素子9にそれぞれ直接又は基板を介して取り付けられる。このとき、図10や図11を参照して後述するホーン筐体40の配置の調整を行えるように、送信素子3や受信素子9の周方向に各ホーン筐体40を回転できるように取り付けることが望ましい。図5の取付状態では、各ホーン筐体40のスクリーン45は一直線上に位置しており、かつ、長寸の音響ホーン体41と短寸の音響ホーン体43とがスクリーン45を挟んでそれぞれ同じ側に位置している。
【0033】
本実施形態の超音波センサ1では、図6の説明図に示すように、送信用ホーン5としてホーン筐体40を取り付けた送信素子3が超音波Uを送信すると、その一部が音響ホーン体41,43の各開口41a,43aで回折し回折波A1,A2となる。各回折波A1,A2の一部は、受信用ホーン7として受信素子9に取り付けたホーン筐体40の各開口41a,43aでそれぞれ再び回折されて、各音響ホーン体41,43内を共有音響空間47に向けて通過する。なお、図6では、図面の見やすさのため、音響ホーン体41の輪郭と音響ホーン体43の輪郭とを図中の上下にずらして示しているが、実際には両者の輪郭は重なる。
【0034】
回折波A1,A2は、開口41a,43aの位置が超音波Uの波長λの4分の1ずつずれている音響ホーン体41,43を送信側と受信側でそれぞれ通過するので、往復で波長λの2分の1だけ位相がずれた逆位相の音波となる。
【0035】
また、図7(a)の説明図に示すように、送信側の音響ホーン体41の開口41aで回折した回折波A1の一部は、受信側の音響ホーン体43の開口43aで回折して共有音響空間47に向かう回折波A1′となる。同様に、送信側の音響ホーン体43の開口43aで回折した回折波A2の一部は、受信側の音響ホーン体41の開口41aで回折して共有音響空間47に向かう回折波A1″となる。これらの回折波A1′,A1″は、図8の説明図に示すように、送信側又は受信側において伝播方向Xの寸法が長い音響ホーン体41を通過するので、送信側及び受信側共に音響ホーン体41を通過する回折波A1と同じ位相となる。このため、回折波A1′,A1″は、位相的には回折波A1と一緒に取り扱うことができる。
【0036】
そして、本実施形態の超音波センサ1では、送信側のホーン筐体40から受信側のホーン筐体40に回折する、互いに逆位相の回折波A1(及び回折波A1′,A1″)と回折波A2とを、受信側のホーン筐体40の共有音響空間47で干渉させ、減衰乃至相殺させるようにしている。
【0037】
ここで、話の簡略化のため、図7(a)中の回折波A1′,A1″の存在を考慮せず、経路を回折波A1,A2のみに簡略化して、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置について説明する。図7(a)中の説明書きにあるように、送信側から受信側への音響ホーン体41の実効的な音響路と、送信側から受信側への音響ホーン体43の実効的な音響路とが対称である場合は、回折波A1と回折波A2のボリューム(振幅)は等しくなる。
【0038】
この場合は、図7(a)に示すように、送信側と受信側の各音響ホーン体41,41(伝播方向Xにおけるホーン長さLh(図5参照)が長い部分)の開口41a,41aどうしが対向する面積が、送信側と受信側の各音響ホーン体43,43(伝播方向Xにおけるホーン長さLh(図5参照)が短い部分)の開口43a,43aどうしが対向する面積と等しくなるように、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40を配置することで、図7(b)のグラフに示すように、同じ振幅の回折波A1と回折波A2を得ることができる。
【0039】
同じ振幅の回折波A1と回折波A2が得られれば、図9(a)のグラフに示すように、受信側のホーン筐体40の共有音響空間47に到達した逆位相の回折波A1と回折波A2とが干渉することで、図9(b)のグラフに示すように、両回折波A1,A2を相殺することができる。これにより、受信素子9に到達するのは反射波R(図9(a),(b)中のB波)のみとして、図1の距離演算部15に、受信信号処理部13からの時間計測信号Tに基づいて、検出対象21までの距離を正しく計測させることができる。
【0040】
これに対し、図10(a),(c)の説明図中の説明書きにあるように、送信側から受信側への音響ホーン体41の実効的な音響路と、送信側から受信側への音響ホーン体43の実効的な音響路とが非対称である場合は、回折波A1と回折波A2のボリューム(振幅)が相違する(回折波A1のボリューム>回折波A2のボリューム、又は、回折波A1のボリューム<回折波A2のボリューム)。
【0041】
「回折波A1のボリューム>回折波A2のボリューム」である場合は、図10(b)のグラフに示すように、回折波A1の振幅が回折波A2の振幅よりも大きくなってしまう。この場合は、図10(a)に示すように、送信側と受信側の各音響ホーン体41,41の開口41a,41aどうしが対向する面積よりも、送信側と受信側の各音響ホーン体43,43の開口43a,43aどうしが対向する面積の方が大きくなるように、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置を調整する。
【0042】
また、「回折波A1のボリューム<回折波A2のボリューム」である場合は、図10(d)のグラフに示すように、回折波A1の振幅よりも回折波A2の振幅が大きくなってしまう。この場合は、図10(c)に示すように、送信側と受信側の各音響ホーン体41,41の開口41a,41aどうしが対向する面積の方が、送信側と受信側の各音響ホーン体43,43の開口43a,43aどうしが対向する面積よりも大きくなるように、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置を調整する。
【0043】
上述したように送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置を調整すると図10(e)のグラフに示すように、同じ振幅の回折波A1と回折波A2を得ることができる。これにより、受信側のホーン筐体40の共有音響空間47で回折波A1と回折波A2とを相殺し、反射波Rのみを受信素子9に到達させて、図1の距離演算部15に検出対象21までの距離を正しく計測させることができる。
【0044】
なお、共有音響空間47における逆位相の回折波(上述の説明の場合は回折波A1,A2)の干渉による相殺を確実に実現させる観点から、伝播方向Xにおける共有音響空間47の寸法(図5のスクリーン長さLs)は、超音波Uや反射波Rの半波長(λ/2)以上とすることが望ましい。
【0045】
以上の説明では、説明の便宜上回折波A1′,A1″の存在を考慮しなかったが、実際には、これらの回折波A1′,A1″の分だけ回折波A1のボリュームが増える訳であるから、それによる回折波A1の実質的な振幅増加分を考慮して、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置を決定し、あるいは、調整する必要がある。
【0046】
なお、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置調整には、いくつかパターンがある。例えば、送信側と受信側の各ホーン筐体40,40の配置を、図11(a)の説明図に示すように、双方のスクリーン45が一直線上に位置するデフォルトの配置から調整する場合は、図11(b),(c)に示すように一方のホーン筐体40のみを調整するパターンと、図11(d),(e)に示すように両方のホーン筐体40を調整するパターンとがある。
【0047】
このような調整を適宜行うことで、回折波A1の振幅(回折波A1′,A1″の分を含む)と回折波A2の振幅とを一致させればよい。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態の超音波センサ1によれば、送信用ホーン5や受信用ホーン7として、超音波Uや反射波Rの伝播方向Xに、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)の寸法差ΔLhがある2つの音響ホーン体41,43を有するホーン筐体40を用いた。そして、送信側と受信側との間で逆位相の回折波A1の振幅(回折波A1′,A1″の分を含む)と回折波A2の振幅とを一致させて、両回折波A1,A2(回折波A1′,A1″の分を含む)を、受信素子9の手前の、スクリーン45で音響ホーン体41,43毎に仕切られていないホーン筐体40の共有音響空間47において相殺させる構成とした。
【0049】
このため、送信用ホーン5の開口と受信用ホーン7の開口との間(送信側と受信側の各ホーン筐体40の音響ホーン体41,43の開口41a,43aどうしの間)に間隔を設ける必要がない。よって、送信用と受信用の両ホーン5,7を離間させずに回折波A1,A2(回折波A1′,A1″を含む)の影響により検出対象21までの距離等の検出精度が低下するのを抑制することができる。即ち、最短検出レンジを遠くすることなく、近距離の検出対象21までの距離や検出対象21の有無を精度よく検出することができる。
【0050】
なお、上述した実施形態では、全体で略円錐台状を呈するホーン筐体40を例に取って説明したが、略多角錐状等他の形状のホーン筐体としてもよい。例えば、図12に示すように、正四角錐状のホーン筐体50を、ホーン筐体50の中心軸方向に沿う平面によって2分割した長方形の断面を有する2つの音響ホーン体51,53で構成してもよい。この場合、各音響ホーン体51,53は、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)の寸法差ΔLh(請求項中の間隔に相当)を、超音波Uや反射波Rの伝播方向Xに有し、この寸法差ΔLhだけ、両音響ホーン体51,53の先端の開口51a,53aの位置がずれている。なお、音響ホーン体51,53の寸法差ΔLhも音響ホーン体41,43の場合と同様に、ΔLh=λ×{n+(1/4)}(但し、nは0以上の整数)を満たす寸法であれば、超音波Uの波長λの4分の1(λ/4)でなくてもよい。
【0051】
また、2つの音響ホーン体51,53は、開口51a,53a側においてはスクリーン55により各音響ホーン体51,53毎に仕切られて、独立した音響路を構成している。また、2つの音響ホーン体51,53の送信素子3や受信素子9側の部分は、スクリーン55によって仕切られておらず、互いに連通して共有音響空間57を形成している。
【0052】
この共有音響空間57も、逆位相の回折波の干渉(例えば、回折波A1,A1′,A1″と回折波A2との干渉)による相殺を確実に実現させる観点から、伝播方向Xにおける共有音響空間57の寸法(図12のスクリーン長さLs)は、超音波Uや反射波Rの半波長(λ/2)以上とすることが望ましい。
【0053】
このような形状のホーン筐体50でも、上述した実施形態のホーン筐体40が発揮した効果と同様の効果を得ることができる。なお、送信側から受信側への音響ホーン体51の実効的な音響路と、送信側から受信側への音響ホーン体53の実効的な音響路とが対称でない場合は、送信素子3や受信素子9に対する各ホーン筐体50,50の配置を調整すればよい。
【0054】
例えば、送信側と受信側の各ホーン筐体50,50の配置を、図13(a)の説明図に示すように、双方のスクリーン55が一直線上に位置するデフォルトの配置から調整する場合は、図11(b),(c)に示すように一方のホーン筐体50のみを断面平行四辺形状に変形させて調整したり、図11(d),(e)に示すように両方のホーン筐体50を断面平行四辺形状に変形させて調整することができる。
【0055】
なお、予め、送信側から受信側への音響ホーン体41,51の実効的な音響路と、送信側から受信側への音響ホーン体43,53の実効的な音響路とが対称となるように、送信側と受信側の各ホーン筐体40,50をそれぞれ送信素子3や受信素子9に取り付けて、以後その状態を維持できるのであれば、送信素子3や受信素子9に対するホーン筐体40,50の配置を調整するための構成は、省略してもよい。
【0056】
また、逆位相の回折波A1,A2(回折波A1′,A1″を含む)を干渉により許容範囲以下に減衰させることができるのであれば、伝播方向Xにおける共有音響空間47,57の寸法を、超音波Uや反射波Rの半波長(λ/2)未満としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 超音波センサ
3 送信素子
5 送信用ホーン
7 受信用ホーン
9 受信素子
10 制御ユニット
11 送信素子駆動部
13 受信信号処理部
15 距離演算部
21 検出対象
31 送信面
40,50 ホーン筐体
41,43,51,53 音響ホーン体
41a,43a,51a,53a 開口
45,55 スクリーン
47,57 共有音響空間
91 受信面
A1 回折波
A1,A1′,A1″,A2 回折波
Di 回折波
Dr 駆動信号
R 反射波
T 時間計測信号
U 超音波
X 伝播方向
t 往復時間
ΔLh 寸法差(間隔)
λ 波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する送信素子から送信用ホーンを介して検出対象に向けて超音波を発射し、検出対象からの反射波を受信用ホーンを介して受信素子で受信する超音波センサにおいて、
前記送信用ホーン及び前記受信用ホーンは共通のホーン筐体を有しており、
前記ホーン筐体は、前記超音波又は前記反射波の伝播方向においてそれぞれの開口の位置を、前記超音波の波長をλとしたときに、下記の間隔ΔLh、
ΔLh=λ×{n+(1/4)} (但し、nは0以上の整数)
だけずらした、前記伝播方向における寸法差が前記間隔ΔLhである2つの音響ホーン体を有しており、
前記2つの音響ホーン体は、前記開口側においてはスクリーンにより各音響ホーン体毎に仕切られており、かつ、前記送信素子や前記受信素子側においては互いに連通して共有音響空間を形成している、
ことを特徴とする超音波センサ。
【請求項2】
前記ホーン筐体は、前記送信素子及び前記受信素子のうち少なくとも一方に対する前記スクリーンの位置を前記伝播方向と直交する面内において変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の超音波センサ。
【請求項3】
前記共有音響空間は、前記伝播方向においてλ/2以上の寸法を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−90269(P2013−90269A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231587(P2011−231587)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】