説明

超音波プローブ及びその製造方法

【課題】 超音波振動素子に加工を行うことなく、低周波数ではウェイティングをかけずに高感度を維持しつつ、高周波数でのスライス方向の音場のサイドローブ低減を達成する超音波プローブ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 短冊形状をなす複数の超音波振動素子12を、アレイ方向に配列して超音波振動素子列を形成し、各超音波振動素子12上に複数の層からなる音響整合層13及び超音波振動素子12から発せられた超音波をフォーカスするための音響レンズ14が設置されてなる超音波プローブであって、音響整合層13の少なくとも一層(131)には、ベースとなる樹脂に対して粒子が混入され、前記アレイ方向と直交するスライス方向において、中心領域の前記粒子の平均粒径と端部領域の前記粒子の平均粒径とで異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検体内を超音波で走査し、被検体内からの反射波から生成した受信信号を基に当該被検体の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。このような超音波診断装置は、超音波プローブから被検体内に超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波プローブで受信して受信信号を生成する。超音波プローブは、送信信号に基づいて振動して超音波を発生し、反射波を受けて受信信号を生成する超音波振動素子(圧電体)を走査方向に複数個、アレイ状に配設している。
【0003】
このような超音波振動素子を超音波診断装置で制御する場合、上記走査方向(以下、アレイ方向)では、超音波ビームを収束させるために、各超音波振動素子に対して、遅延時間を持った信号を与えることにより、電子フォーカスを行っている。また、この遅延時間を調整することにより、焦点までの距離を変化させることができる。さらに、一般的にアレイ方向のサイドローブ低減のために、各超音波振動素子の送信電圧及び受信信号の増幅率を変化させ、重み付けをする方法等が用いられている。
【0004】
一方、アレイ方向と直交するスライス方向では、音響レンズにより生体との音速差を利用して遅延差を与えることにより、ある深さで焦点を形成している。一般に、スライス方向には均一な矩形強度を有するため、アレイ方向で行っているような重み付けを行うことができない。
【0005】
そこで、スライス厚を均一化し、スライス音場のサイドローブを低減させる方法として、超音波振動素子の中央部分と比較して両端部での信号強度を減少させるために超音波振動素子に重み付けをする方法がある。
【0006】
例えば、超音波振動素子に重み付けをする方法として、スライス方向に沿って超音波振動素子に溝加工し、圧電体密度に重み付けをする技術(特許文献1)がある。
【0007】
また、超音波振動素子に重み付けをする方法として、超音波振動素子の中央部分と両端部とで分極強度の分布を持たせることで、超音波振動素子の強度に重み付けをする技術もある(特許文献2)。
【0008】
さらに、超音波振動素子に重み付けをする方法として、スライス方向に電気的に分割した超音波振動素子に複数の送信回路を接続し駆動電圧を重み付けする技術(特許文献3)や、超音波振動素子の厚みを中央部分では端部に比べ薄くすることにより、周波数ごとに異なるウェイティング特性とする技術もある(特許文献4)。
【0009】
【特許文献1】特開2003−9288号公報
【特許文献2】特開平7−38999号公報
【特許文献3】特開平5−38335号公報
【特許文献4】特開平7−107595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1は超音波振動素子がスライス方向に完全に分割された構造となるために、製造上、超音波振動素子同士の位置決めをする工夫が必要である。代表的な製造方法として非圧電部として樹脂等を充填した後に電極をつける工法があるが、この方法では製造工数の増加、高価格化を招いてしまう。また、強度が低い超音波振動素子をスライス方向にも分割するため、製造歩留まりの低下や、落下衝撃等に対する信頼性も低下する。
【0011】
また、上記特許文献3は、分極工程の複雑な管理が必要となる上に製造工程も煩雑となるという問題がある。
【0012】
そして、これらのような周波数軸に対して一様にかかる重み付けでは、本来なるべく高い感度が望まれ、重み付けを行う必要がない低周波数でも重み付けがかかるために、ドップラモードでの感度低下が起こるという問題がある。
【0013】
また、上記特許文献4では、超音波振動素子や音響整合層を凹面に研磨する必要があり、特性の安定性や加工コストに問題があるのと、低周波では、逆に端部の方が感度が高くなるので、焦点域が狭く、サイドローブが上がり、音場として望ましくないという問題がある。
【0014】
また、上記特許文献3は、超音波プローブ及び回路の構造が複雑になり、超音波診断装置全体の信頼性の悪化、製造工数の増加、高価格化を招いてしまうという問題がある。
【0015】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、超音波振動素子に加工を行うことなく、低周波数ではウェイティングをかけずに高感度を維持しつつ、高周波数でのスライス方向の音場のサイドローブ低減を達成する超音波プローブ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための、請求項1記載の発明に係る超音波プローブは、複数の超音波振動素子を、第1の方向に配列して超音波振動素子列を形成し、各超音波振動素子上に複数の層からなる音響整合層及び前記超音波振動素子から発せられた超音波をフォーカスするための音響レンズが設置されてなる超音波プローブであって、前記音響整合層の少なくとも一層には、ベースとなる樹脂に対して粒子が混入され、前記第1の方向と直交する第2の方向において、中心領域の前記粒子の平均粒径と端部領域の前記粒子の平均粒径とで異なっていることを特徴とする。
【0017】
かかる構成とすることにより、超音波振動素子の上面に設けられた複数の音響整合層のうち、少なくとも一層を、ベース樹脂に対して無機物からなる粉末粒子を混入したものとし、この混入粒子の平均粒径を、前記第2の方向(スライス方向)の開口の中央部分と端部で変化させることにより、高周波数での音響整合層の減衰率を変化させることができる。従って、低周波ではほとんど減衰なく音波を送受信でき、高周波数では所望の重み付けを行うことができる。
【0018】
上記課題を解決するための、請求項2記載の発明に係る超音波プローブは、請求項1に記載の超音波プローブにおいて、前記中心領域の前記粒子の平均粒径が、前記端部領域の前記粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するための、請求項3記載の発明に係る超音波プローブは、請求項1に記載の超音波プローブにおいて、前記粒子は、前記第2の方向における端部から中心にかけて平均粒径が徐々に小さくなっていくように分布していることを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するための、請求項4記載の発明に係る超音波プローブは、請求項1〜3の何れかに記載の超音波プローブにおいて、前記端部領域での前記粒子の平均粒径は、前記中心領域での前記粒子の平均粒径の2倍〜10倍の範囲内であることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するための、請求項5記載の発明に係る超音波プローブは、請求項4に記載の超音波プローブにおいて、前記中心領域での前記粒子の平均粒径は、前記音響整合層内での超音波振動素子の中心周波数における波長の、1/40以下であることを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決するための、請求項6記載の発明に係る超音波プローブは、請求項1〜5の何れかに記載の超音波プローブにおいて、前記粒子は、酸化アルミニウム、または酸化亜鉛、又はそれらの混合体であることを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するための、請求項7記載の発明に係る超音波プローブの製造方法は、複数のベース樹脂に対して、それぞれの平均粒径が異なる粒子を混入する混入過程と、前記粒子が混入された前記ベース樹脂を硬化させる硬化過程と、硬化させた前記ベース樹脂を積層し、積層した方向に切断して1枚の音響整合層を形成する音響整合層の形成過程と、超音波振動素子に対して1枚の音響整合層を設置すると共に、前記超音波振動素子から発せられた超音波を前記積層した方向でフォーカスするための音響レンズを設置する設置過程とによって超音波プローブを製造することを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決するための、請求項8記載の発明に係る超音波プローブの製造方法は、請求項7に記載の超音波プローブの製造方法において、前記粒子が平均粒径の異なる複数種類以上の粒子からなり、その複数種類以上の粒子の混合比を変えて前記混入過程を行っ
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、超音波振動素子の上面に設けられた複数の音響整合層のうち、少なくとも一層を、ベース樹脂に対して無機物からなる粉末粒子を混入したものとし、この混入粒子の平均粒径を、スライス方向の開口の中央部分と端部で変化させることにより、高周波数での音響整合層の減衰率を変化させることができる。それにより、低周波ではほとんど減衰なく音波を送受信でき、高周波数では所望の重み付けを行うことが可能な超音波プローブ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る超音波プローブの一実施形態における構成を示す図であり、図1(a)は、本実施形態における超音波プローブの要部の斜視図、図1(b)は、本実施形態における超音波プローブの断面図である。なお、短冊形状をなす超音波振動素子12の長さ方向をスライス方向(請求項にいう第2の方向)とし、そのスライス方向に直交し、各超音波振動素子12の幅の方向(配列した方向)をアレイ方向(請求項にいう第1の方向)という。
【0028】
超音波診断装置では、送受信ユニットにて所望の駆動波形電圧を発生させ、遅延を掛けた電気信号が超音波プローブを構成する各超音波振動素子12に印加する。超音波プローブでは印加された電気信号を音波に変換して被検体に放射し、被検体からの反射音波を電気信号に変換する。超音波診断装置では、各超音波振動素子12からの信号に遅延を掛けて加算し、ラスタ毎に輝度変調して画像モニタに表示する。
【0029】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の超音波プローブ1は、ヘッド部とケーブル、及びコネクタ部からなる。ヘッド部は被検体に向かって、バッキング材11、超音波振動素子12、音響整合層13(第1の音響整合層131、第2の音響整合層132)、及び音響レンズ14が順次積層されたものである。
【0030】
さらに、その側面には、把持および絶縁のため、図示しないケース部材が設けられている。本実施形態の超音波プローブは、超音波振動素子12及び音響整合層13は超音波を走査する方向、すなわちアレイ方向に複数分割され配列されている1次元アレイ超音波プローブである。
【0031】
ここで、超音波振動素子12は代表的にはPZT(チタンジルコン酸鉛)を主成分とするセラミックが用いられる。音響レンズ14は、生体に音響インピーダンスが近く、音速が生体より遅いシリコーンゴム等が用いられる。それぞれの音響インピーダンスは、PZTが約30M Rayl、シリコーンゴムが約1.5M Raylであるので、音響整合層13の音響インピーダンスとしては、PZT側の第1の音響整合層131の音響インピーダンスが6〜8M Rayl、音響レンズ側の第2の音響整合層132の音響インピーダンスが2.5〜3.5M Rayl程度に設計される。
【0032】
第2の音響整合層132は、代表的にはエポキシ樹脂等の高分子材料を用いるが、第1の音響整合層131としては、一般に、エポキシ等の樹脂に酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の無機物、またはタングステン等の金属からなる粉末粒子を混入して音響インピーダンスを調整した上で硬化させたものを用いる。
【0033】
第1の音響整合層131の音響インピーダンスを比較的低くしたい場合は、前記粉末粒子として、酸化アルミニウムが採用され、音響インピーダンスを高くしたい場合は、前記粉末粒子として、比重の高い酸化亜鉛、タングステン等が採用される。また、必要に応じて、それらの粉末を混合して使用することも可能である。
【0034】
また、音響整合層13が3層からなる場合は、中間となる第2の音響整合層の音響インピーダンスを4〜6M Raylに調整するために、やはりエポキシ樹脂等に同様な粉末粒子を混入したものを用いる。
【0035】
樹脂に、無機物、金属等の硬い粉末粒子を混入したときの減衰係数の周波数依存性については、例えば、次の文献に述べられている(Ultrasonic properties of transducer backings、 C.M.Sayers and C.E.Tait、 Ultrasonics、 Mar. 1984)。
【0036】
図2は、中心周波数10MHzの超音波振動素子に2層の音響整合層13(第1の音響整合層131、第2の音響整合層132)を接着した場合の、送受信特性である。点線は、第1の音響整合層131として、エポキシ樹脂に平均粒径2μmの酸化アルミニウム粉末を混入し、音響インピーダンスを7M Raylに調整したものを用いた場合であり、実線は、第1の音響整合層131として、エポキシ樹脂に平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末を混入して同等の音響インピーダンスに調整したものを用いた場合である。
【0037】
上述の文献によれば、粒径のそろった粉末の場合、減衰率は非常に鋭い共振特性を示すので、実線の特性と点線の特性の差は、使用した粉末の粒径分布を反映している。
【0038】
この現象を利用して、本発明では、次のような実施形態をとる。図3は、本実施形態において、スライス方向に端部の感度を落とすような重み付けをしようとした場合の、音響レンズ面14側から見た音響整合層13に粉末粒子を混入した概念図である。
【0039】
粒子は平均粒径が数μm〜数十μmであるため、もちろん肉眼で観察することはできない。横方向は超音波振動素子12が配列されたアレイ方向であり、縦方向はスライス方向である。アレイ方向には一様な粒径分布としているが、スライス方向には中央領域に比べ、端部領域での平均粒径を大きくする。
【0040】
ここで、本実施形態では、音響整合層13をスライス方向において3等分し、両端の領域を「端部領域」、中央の領域を「中央領域」として定義する。このように、音響整合層13に混入する粒子の粒径をコントロールする場合、必ずしも3等分でなければならないわけではないが、混入される粒子の粒径がスライス方向に「大→小→大」と徐々に変移するようになっていれば、必要に応じて3等分以上に分けてもよい。
【0041】
具体的には、音響整合層13が無減衰の場合の超音波振動素子12の中心周波数での当該音響整合層13における波長λに対して、中心領域に混入された粒子の平均粒径がλ/40以下、端部領域に混入された粒子の平均粒径はλ/20〜λ/4に設定される。したがって、端部領域での平均粒径は中心領域での平均粒径に比べて2倍から10倍程度となる。
【0042】
ここで、中心領域及び端部領域の平均粒径の相関関係については、前述したように、混入する粒子の材質によって特異的な減衰が現れる周波数は異なるものの、一般的には、混入した粒子の粒径がλ/20からλ/10になる付近の周波数において強い減衰率が得られる。したがって中心領域での平均粒径をλ/40以下とすることで、粒径分布を考慮しても、本来の超音波振動素子の特性そのままの通過特性が得られる。
【0043】
また、一般的に、超音波振動素子の比帯域(中心周波数/帯域幅)は80%前後であるので、端部領域での平均粒径を中心領域での平均粒径の2倍以上とすることで端部において超音波プローブが持つ高周波成分の減衰率を高くすることが可能となる。一方、端部領域での平均粒径が中心領域での平均粒径の10倍より大きくなると、本来重み付けをかけたくない低周波成分についても減衰率が高くなり、粒径が音響整合層13の厚み(λ/4)に近づくため、製造上も好ましくない。
【0044】
粉末粒子をある程度以上の割合で樹脂に混入した場合、ベース樹脂に比べ音速が上昇するので、混入したサンプルの音速を測定し、適当な粒径分布と混合比に設計しなければならない。
【0045】
一般に音響整合層13は中心周波数での波長の1/4程度に設計されるので、中心領域では平均粒径は音響整合層13の厚みの1/10以下、端部では1/5〜1倍までの範囲で、どれだけ強く重み付けをかけるかによって、最適に設計される。より具体的には、例えば中心周波数10MHzの超音波振動素子の場合には、中央領域では平均粒径約3μm、端部領域では平均粒径約20μmに設定される。
【0046】
図4は、本実施形態における超音波振動素子の、音響レンズ14面近傍における各周波数でのスライス方向音圧分布である。図4を参照して、上記条件による音響整合層13を用いたことによる重み付け効果を説明する。図4に示すように、低周波数ではほとんど重み付け効果が現れないのに対し、周波数が高くなるに従って、有効口径が狭くなると同時に、有効口径内でも、端部は滑らかに音圧が低下していくことが認められ、重み付け効果が顕れる。
【0047】
図5は、本実施形態における超音波振動素子の重み付けを行った場合の、各周波数でのスライス方向音場パターンである。低周波数では深部でのフォーカスが強く(音場の広がりが小さく)なり、高周波数では浅部にフォーカスされている。従って、浅部での高分解能が必要な高周波数では浅部の音場が改善され、深部の感度が必要な低周波数では感度を維持できる。
【0048】
ここで、比較例として、従来の超音波プローブにおける、周波数毎に一定な重み付けを行った場合の各周波数でのスライス方向の音場パターンを図6に示す。図6に示すように、高周波数では本実施形態と同等の音場が得られるが、低周波数では有効口径が制限され、深部でのフォーカスが弱く(音場の広がりが大きく)なっているので、深部の感度が低下する。
【0049】
このとき、異なった重み付け(例えば、逆ウェイティング)をしたい場合は逆に中央領域の粒径を端部に比べて大きくすることも可能であるが、あまり利用価値はない。また、セクタ型プローブで、アレイ方向にも重み付けしたい場合は、円筒状に粒径分布を変化させることも可能である。
【0050】
次に、本実施形態における超音波プローブの製造方法について以下に説明する。
【0051】
まず、中心領域での平均粒径から、端部領域での平均粒径までのn種類の粉末粒子を用意する。その材質としては、細かい金属粉の入手が難しいために、酸化アルミニウム、または酸化亜鉛等が好適である。これらを、粒径の小さい方から粒子群F〜粒子群Fとする。
【0052】
より簡易的には、2種類以上の平均粒径の粉末粒子を準備し、それらの混合比を変えて同時に混合することで、n種類の平均粒径を持つ粉末粒子とすることもできる。
【0053】
次に、粒子群F〜粒子群Fを、別々にエポキシ等のベース樹脂に所定の重量比で混合し、硬化させる。ベース樹脂と混合粒子の混合比については、平均粒径が変化すると音速が若干変化するため、各粉末粒子によって、混合比を調整すべきである。このように粒子群Fを混入した領域を、領域M〜領域Mとする(領域Mは粒子群Fが混入されたベース樹脂の領域を示す。)。スライス方向に重み付けをして音場を改善することを目的とする場合、n=10程度以上であれば、所望の効果を得られる。
【0054】
次に、超音波振動素子12の有効開口幅をA、音響整合層13の幅としては貼り合わせのずれを考慮してAよりやや大きいBとすると、開口の中心(中心領域)である領域Mについては、厚み2A/n、領域M〜領域Mn−1については厚みA/n、端部領域である領域Mについては厚み(B−A(n−1)/n)/2にスライス、研磨する。このようにして得られた個々のベース樹脂を、ベース樹脂片L〜ベース樹脂片Lとする。
【0055】
次に、間にエポキシ接着剤等の接着剤を薄く塗布して、ベース樹脂片L、ベース樹脂片Ln−1、・・・・、ベース樹脂片L、ベース樹脂片L、ベース樹脂片L、・・・・、ベース樹脂片Ln−1、ベース樹脂片Lの順に積層(n=1が中心、nがスライス方向の端部となる)し、ヒートプレス等の方法を用いて加圧、接着する。
【0056】
次に、積層した方向と直交する方向(後のアレイ方向)に切断加工し、最終的に音響整合層13としての所望の厚みに研磨する。本実施形態では開口間を均等な厚みで分割する例を示しているが、より少ない種類で同等の効果を得るため、不均等な厚みとしても良い。
【0057】
次に、出来上がった音響整合層13を超音波振動素子12に接着し、さらに第2の音響整合層132を接着、超音波振動素子12の下面にバッキング材11を接着した上で、アレイ加工を行う。その上に音響レンズ14を接着して超音波プローブ1のヘッド部が完成する。
【0058】
このように製造された超音波プローブの音響レンズ14は、図1(b)に示すように、第1の音響整合層131に混入された粒子径がスライス方向に段階的に変化している。
【0059】
本実施形態は、セクタ型又はリニア型の平面状のアレイ配列された超音波振動素子12について説明したが、コンベックス型の湾曲したアレイ配列の超音波振動素子12の場合は、アレイ加工後、R形状のバッキング材11に接着する工程を設ければよい。
【0060】
また、本実施形態では、音響整合層13が2層からなる場合に、第1の音響整合層131に本発明の構造を適用した例を述べているが、音響整合層13が3層からなる場合には、第2の音響整合層に本発明の構造を用いたり、あるいは第1の音響整合層及び第2の音響整合層ともに同様の音響整合層を用いることでより強い重み付けを行うことも可能である。
【0061】
以上述べたように、本発明によれば、浅部での高分解能が必要な高周波数では浅部の音場が改善され、深部の感度が必要な低周波数では感度を維持できるという周波数ごとに異なった重み付けが可能になる。
【0062】
また、製造工程上は、スライス方向の重み付けを行うために、超音波振動素子にスライス方向に溝加工をしたり、超音波振動素子を層構造にして分極度合いを変化させたり、曲面研磨をしたりといった複雑な製造工程がないため、安価で、信頼性の高い超音波プローブが提供できる。
【0063】
また電気的には単一の超音波振動素子は単一の電極を持つため、超音波診断装置側での複雑な制御も必要ないため、従来の制御方法のまま、スライス方向の重み付けの効果が得られ、装置のコストダウンと信頼性の維持が可能である。
【0064】
上述の各実施形態は、本発明の一例であり、本発明は上記実施形態に限定されることはない。また、上述の実施形態では、コンベックス型の穿刺用プローブを例に説明したが、リニア型の穿刺用プローブであっても同様に適用でき、本発明によって得られる効果と同様な効果を得ることができる。また、この他であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る超音波プローブの一実施形態における構成を示す図。
【図2】本発明に係る超音波プローブの一実施形態において、粒径の異なる混合粒子を音響整合層に混入した場合の送受信周波数特性を示す図。
【図3】本発明に係る超音波プローブの一実施形態において、音響整合層に粉末粒子を混入した概念図。
【図4】本発明に係る超音波プローブの一実施形態において、音響レンズ面近傍における各周波数での音響スライス方向の音圧分布を示す図。
【図5】本発明に係る超音波プローブの一実施形態において、超音波プローブの各周波数でのスライス方向の音場パターンを示す図。
【図6】従来の超音波プローブにおいて、周波数毎に一定な重み付けを行った場合の各周波数でのスライス方向の音場パターンを示す図。
【符号の説明】
【0066】
1 超音波プローブ
11 バッキング材
12 超音波振動素子
13 音響整合層
131 第1の音響整合層
132 第2の音響整合層
14 音響レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波振動素子を、第1の方向に配列して超音波振動素子列を形成し、各超音波振動素子上に複数の層からなる音響整合層及び前記超音波振動素子から発せられた超音波をフォーカスするための音響レンズが設置されてなる超音波プローブであって、
前記音響整合層の少なくとも一層には、ベースとなる樹脂に対して粒子が混入され、前記第1の方向と直交する第2の方向において、中心領域の前記粒子の平均粒径と端部領域の前記粒子の平均粒径とで異なっていることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記中心領域の前記粒子の平均粒径が、前記端部領域の前記粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記粒子は、前記第2の方向における端部から中心にかけて平均粒径が徐々に小さくなっていくように分布していることを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記端部領域での前記粒子の平均粒径は、前記中心領域での前記粒子の平均粒径の2倍〜10倍の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記中心領域での前記粒子の平均粒径は、前記音響整合層内での超音波振動素子の中心周波数における波長の、1/40以下であることを特徴とする請求項4に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記粒子は、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、又はそれらの混合体であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の超音波プローブ。
【請求項7】
複数のベース樹脂に対して、それぞれの平均粒径が異なる粒子を混入する混入過程と、
前記粒子が混入された前記ベース樹脂を硬化させる硬化過程と、
硬化させた前記ベース樹脂を積層し、積層した方向に切断して1枚の音響整合層を形成する音響整合層の形成過程と、
超音波振動素子に対して1枚の音響整合層を設置すると共に、前記超音波振動素子から発せられた超音波を前記積層した方向でフォーカスするための音響レンズを設置する設置過程とによって超音波プローブを製造することを特徴とする超音波プローブの製造方法。
【請求項8】
前記粒子が平均粒径の異なる複数種類以上の粒子からなり、その複数種類以上の粒子の混合比を変えて前記混入過程を行ったことを特徴とする請求項7に記載の超音波プローブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−288977(P2006−288977A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117550(P2005−117550)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】