超音波塑性加工の荷重予測方法、荷重予測システム、荷重制御システムおよび装置
【課題】超音波を工具または素材に重畳する超音波塑性加工の荷重低減量を簡便な方法で精度良く予測する方法を提供する。
【解決手段】金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、第1の手順で得られた荷重から第2の手順により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、第1の手順の荷重と第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなる。
【解決手段】金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、第1の手順で得られた荷重から第2の手順により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、第1の手順の荷重と第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波塑性加工の荷重を予測し制御する方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1によると、超音波振動を塑性加工中の工具や素材に付与して、その振動エネルギーを塑性加工に利用しようという考えは、約60年前のF. BlahaとB.
Lnangenecherらにより始まるとされる。彼等は亜鉛に超音波領域の周期的振動を加え、さらに静的応力を重ねて加えると変形抵抗が大幅に減少する現象を発見した。そして、この現象をBlaha効果と呼称する。
【0003】
その後の研究で、アルミニウム、銅、鉄など、ほとんど全ての金属にBlaha効果の存在することが確認されている。これらの効果は、鍛造,押出し,絞り、深絞り,圧延,圧縮、すえこみ,転造,棒の引抜き,線の引抜き,プラスチックの塑性加工の各工程で確認されており、超音波振動がもつ最も基礎的な物理現象と考えられる。
【0004】
超音波振動の効果を塑性加工分野で積極的かつ効果的に利用する方法は次の通りである。
【0005】
1)被加工材の変形部へ超音波振動応力と静的応力を重畳させて加える(変形抵抗の減少、塑性変形能の向上すなわちBlaha効果)。
【0006】
2)工具を超音波振動させて、被加工材へ高速繰り返し衝撃を加える(平均加工力の減少)。
【0007】
3)接触している工具と被加工材のいずれか一方、あるいは両方を超音波振動させて、両界面間に働く摩擦係数を減少させる(摩擦抵抗の減少)。
【0008】
4)潤滑剤へ超音波振動を加えて、潤滑剤を活性化させたり、工具と被加工材との接触面へ潤滑剤を強制的に供給する(潤滑性能の向上)。
【0009】
5)振動損失による発熱、内部摩擦の減少、転位の発生と移動(以上は変形抵抗の減少に寄与)、結晶粒の微細化の促進。
【0010】
通常はこれらの働きが総合的に作用して効果をあげているので、独立して評価することは難しいとされてきた。しかしながら、超音波振動を重畳しない場合は、各工程とも荷重予測式が便覧や工場の設計マニュアルなどで整備されている。超音波振動を付与した場合の荷重が予測できれば、これらの評価は比較的容易なはずである。困難性の大部分が荷重低減の予測式が整備されていないためと判断される。
【0011】
特許文献1は鍛造工程において被加工材の表面を超音波振動を付与した工具で加工することにより、表面を強化する技術である。近年、鍛造工程は加工荷重のコンピュータ解析による予測技術が進んできており、市販のFEMプログラムでかなり良い荷重予測が可能である。しかし、超音波振動が付与される場合は、適当なモデルが存在しないようである。
【0012】
従って、超音波振動を付与した場合には、特許文献1で全て実験により検討しており、しかも実際の製品に比べてかなり小さい試験片で行われている。これをスケールアップする際に、どのような力学的な相似則が存在するのか不明である。従って、これが有効であるか否かは実物大の試験を実施しなければ凡その判断も困難である。
【0013】
特許文献2は圧延工程において、ロールに超音波振動を付与して振動させ、ロールに接する素材に振動を伝播させて荷重低減効果を得る狙いである。これは特許文献1においてその実現可能性が極めて低いことが開示されている。この場合、超音波振動塑性加工の荷重低減に関する予測式が機械設計便覧などに存在しないので、設計が困難であったと推察される。
【0014】
そこで、過去の塑性加工学会の論文を調べた結果、以下のことが判明した。即ち、国内で非特許文献2の超音波切削技術が開発され、その際の加工負荷の低減効果がモデル化された。これは、切削中に超音波振動のエネルギーで被加工材と工具がサイクル毎に一時的に接触しない現象で説明された。切削の仕事は塑性加工に比べて小であるから、加えられた振動エネルギーは減衰が小であり殆どの時間、工具の刃物は素材と接触しない。
【0015】
一方、非特許文献3では、超音波伸線が実施された。この場合、ダイスに超音波振動を送り方向に加えることで、伸線速度が比較的小な場合に荷重低減効果が観察された。そして、この場合の荷重減少を切削のモデルを拡張適用して検討した。しかしながら、伸線速度を通常の操業条件程度にすると荷重減少は殆ど観察されず、切削と異なった力学現象になることが予測される結果であった。
【0016】
しかしながら、限られた条件ではあるが、代表的な塑性加工工程の一つである伸線工程で超音波振動付与による荷重減少が発見され、しかも比較的理解し易い切削モデルで説明できることは、大変注目された。そして、その後の超音波塑性加工の荷重低減効果は、伸線に倣って切削モデルの拡張で説明され、実験結果もこれに沿って解釈されてきた。本来、塑性加工に必要な仕事は切削に要する仕事に比べて桁違いであるから、工具が振動の勢いで被加工材から離脱する現象は殆ど発生せず、多くの場合連続的な接触状態である。そのため、切削モデルの拡張で荷重を予測することは困難であり、実験結果を再現することが出来ない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009−279596号公報 「金属の鍛造方法及び金属の鍛造装置」
【特許文献2】特開平−174115号公報 「加工方法及び加工装置並びに圧延方法及び圧延機」
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】超音波工業会編 「はじめての超音波」株式会社 工業調査会 2004年
【非特許文献2】隈部淳一郎:日本機械学会論文集(第3部)27-181(1961),1396-1404.
【非特許文献3】森栄司、井上昌夫:塑性と加工11-114(1970),483-494及び11-111(1970),247-255.
【非特許文献4】米山猛、高橋昌也:H22塑加春講論(2010),163.
【非特許文献5】鈴木弘編:『塑性加工』(1967),裳華房
【非特許文献6】川並高雄、瀬川明夫、山下剛、田上宏岳:第52回塑性加工連合講演会講演論文集(2001),313-314.
【非特許文献7】神雅彦、小玉満:H21塑加連講論(2009),279.
【非特許文献8】米山猛、高橋昌也:塑性と加工52-601(2011),261.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決しようとする問題点は、超音波塑性加工において信頼できる荷重予測モデルや荷重予測式が提案されていないことであり、超音波塑性加工の特徴である連続接触条件(本発明ではContinuous
Contact Condition即ち略称でCCC)を前提に荷重の高精度な予測モデルを開発することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、非特許文献4に開示の超音波円柱圧縮試験の力学特性を検討して、観察された荷重減少の殆どがCCCであることが判明した。また、毎秒2万回の頻度で振動する超音波振動の1サイクルあたりの振動ひずみが0.0015であるのに対して、1サイクル当りの塑性変形ひずみは最大で0.00005と30分の1以下であった。これは、1サイクルタイムである2万分の1秒(ミクロタイムスケールと呼称)が、全体の正味加工時間の0.3秒(マクロタイムスケールと呼称)に比べて無視できる程度であることから生じる必然的な結果である。即ち、1サイクルタイムに生じるひずみ振動の内、その97%が弾性ひずみによる振動である。
【0021】
一方、非特許文献2および非特許文献3では超音波振動の1サイクルタイムのようなミクロタイムスケールで生じる荷重変化は、通常の荷重計の応答性能を遥かに凌駕するので、荷重計で計測されるのは時間平均荷重であるとした。通常の超音波は円振動であるから、CCCの場合には応力振動も円振動に近いため時間平均荷重は1サイクルの最大値と最小値の平均値で良好に近似できる。
【0022】
以上の結果から、超音波円柱圧縮試験の力学特性は極めて単純であり、荷重の上限は無振動の際の工具反力にほぼ等しく、下限値は1サイクルの変位幅を試験片高さで除したひずみにヤング率と面積を乗じて得られる荷重変動幅を上限値から差し引いて得られる。この推定を非特許文献4の試験結果と比較した結果、極めて良好な一致が見られた。また、この結果からマクロタイムスケールとミクロタイムスケールの現象は分離され、前者は無振動の円柱圧縮試験から得られる荷重変位関係から求まる。後者は前記のように単純な弾性変形で良好に近似できるので、線形解析の重要な性質である解析解の重ね合わせが適用できる。
【0023】
この単純な超音波円柱圧縮試験の結果から、より複雑な形状や境界条件の超音波塑性加工にも適用できる荷重予測方法を発案し、後述する論文に開示の結果と比較して妥当性を検証することで、本発明を完成したものである。
【0024】
即ち、第一の発明は、金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、第1の手順で得られた荷重から第2の手順により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、第1の手順の荷重と第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなることを特徴とする。
【0025】
第二の発明は、第3の手順で得られた除荷荷重が引張りで工具と被加工材の接触部が引張り荷重を負担しない構造の場合に、除荷荷重を零に置き換えるとともに、所望により第1の手順で得られた加工中の荷重と変位の関係を工具と被加工材の接触部の摩擦係数が零の場合の加工中の荷重と変位の関係に置き換えることを特徴とする。
【0026】
第三の発明は、金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手段と、第1の手段で得られた加工中の荷重の負荷による振幅変化を補正する手段を備え、補正手段により得られた超音波振動を付与した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手段と、第1の手段で得られた荷重から第2の手段により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求め、所望により除荷荷重が引張りの場合には除荷荷重を零に置き換えるとともに第1の手段で工具と被加工材の接触部の摩擦力を零にして再処理する第3の手段と、第1の手段の荷重と第3の手段の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手段からなることを特徴とする。
【0027】
第四の発明は、被加工材の固有振動数が重畳する超音波の振動数の2倍以内の場合、共振を無視して請求項3の荷重予測システムで共振無し荷重を予測する手段、工具位置を固定境界条件として共振の荷重減少を求める手段、共振無し荷重から共振の荷重減少を除去して荷重を予測する手段からなることを特徴とする。
【0028】
第五の発明は、被加工材の温度を測定または推定する手段、工具の変位を測定する手段、被加工材の温度と測定変位から被加工材のひずみ量および被加工材に蓄積される転位密度を予測する手段、被加工材の変形抵抗と弾性係数を予測する手段を備え、実測の荷重と目標の荷重の差を検出して請求項3または請求項4に記載の荷重予測システムにより超音波振動の振幅を適正値に制御して目標の荷重に近付ける手段を有することを特徴とする。
【0029】
第六の発明は、工具または被加工材を振動を受ける物体、振動を受ける物体と接触して超音波を伝達する工具または超音波振動子を振動を与える物体として、請求項5に記載の荷重制御システムにより振動を与える物体と振動を受ける物体の接触条件を連続接触条件(CCC即ちContinuous Contact Conditionの略語)または逐次成形遷移条件(IFTC即ちIncremental
Forming Conditionの略語)になるように超音波振動の振幅を適正値に修正して制御する手段を備えた鍛造、押出し,絞り、深絞り、圧延、圧縮、すえこみ、転造,棒の引抜き、線の引抜き、プラスチック塑性加工の何れかの工程で利用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の超音波塑性加工の荷重予測方法は塑性加工の共通基盤技術である円柱圧縮試験で高精度な荷重予測が可能であり、多くの材料で種々の基本的なデータベースを蓄積できる。また、この単純なモデルを拡張して少ない合せ込みパラメータを調節することにより、他の超音波塑性加工に容易に適用できる。更に、この荷重予測方法を利用して、超音波振動子の能力を最大限に活かした荷重制御システムを考案した。また、荷重予測システムの単純性とCCCとIFTCで荷重が急変する現象を利用して、振動を与える物体と振動を受ける物体間の接触条件を制御できるので、多くの超音波塑性加工工程で安定した製品を製造することが容易になった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は超音波塑性加工の荷重予測方法の実施方法を示した説明図である。
【図2】図2は超音波塑性加工の荷重予測方法の実施方法を示した説明図である。
【図3】図3は超音波塑性加工の荷重予測システムの実施方法を示した説明図である。
【図4】図4は超音波塑性加工の荷重予測システムの実施方法を示した説明図である。
【図5】図5は超音波塑性加工の荷重制御システムの実施方法を示した説明図である。
【図6】図6は超音波塑性加工装置の実施方法を示した説明図である。
【図7】図7は超音波円柱圧縮試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例1)
【図8】図8は超音波円環圧縮試験の荷重予測値を示した説明図である。(実施例2)
【図9】図9は超音波円柱横圧縮試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例3)
【図10】図10は超音波円柱前方・後方押出し試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例4)
【図11】図11は超音伸線試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0032】
被加工材の形状を円柱状の梁または梁要素に分割して近似することで、円柱圧縮試験の荷重予測モデルを適用し易くした。これにより、簡単な数式で展開できるので荷重予測システムや荷重制御システムのように高速の演算処理が必要な用途に容易に適用できるようにした。
【実施例1】
【0033】
円柱圧縮試験による開発モデルの精度検証 図7は無振動の応力ひずみ関係を非特許文献5の理論式で求め、これを基に予測された円柱圧縮試験の変形応力とひずみである。実線で示す非特許文献4の実験結果とプロットの解析結果が良く一致した。
【実施例2】
【0034】
圧延試験 非特許文献6ではJIS規格で硬質材(SUS304,SUS430,A1050P,TP340,HT80)と軟質材(ULCS,C1100P)の板厚2mmの切り板に超音波振動を付与して冷間圧延を実施し荷重減少を測定した。硬質材では荷重減少が発生したが、軟質材では若干の荷重増加が観察された。しかし、荷重変化の原因や機構が不明であり、応用が困難であった。そこで、荷重予測方法によりモデルを開発することにした。
超音波振動子を上工具、板送り台を下工具、これと接触する板を円柱状に切り出すと、前記の円柱圧縮試験と同様の変形機構である。モデルに実験条件を適用すると硬質材で荷重減少の場合はσ2が正でCCCと判明した。軟質材として、C1100P(E=100000Mpa,初期降伏応力σy=100Mpa),h=2mm,A=2.5μmとして、モデルに代入するとσ1が250Mpaより小の場合はσ2が負でIFTCである。σ1を100Mpaから250Mpaの間に設定すると、塑性変形による加工硬化と一時的な工具離脱が発生する。
圧延装置の構造から硬質材ではCCCでバックテンションが発生して圧延荷重が減少するが、軟質材ではIFTCで作用しないので加工硬化の分だけ圧延荷重が増加する。この結果から本開発のIFTCの予測モデルは妥当である。
【実施例3】
【0035】
リング圧縮試験 図8はFEMによるリング圧縮試験の面圧と圧下率の関係を示す。加工荷重が増加すると超音波振動による荷重低減効果が消失する傾向である。
【実施例4】
【0036】
円柱横圧縮試験 図9の各ソリッドプロットは非特許文献7の結果を示し、1個のプロットは1つの試験体の結果である。そこで、これを繋いで荷重ストローク線と見做した。無振動の●印の荷重から本開発の荷重予測方法で予測されたオープンプロットの荷重は何れもCCの特徴を有し、圧下率が0.4以上で▲印の実測値と良い一致を示す。しかし、○で囲った▲印の実測値は予測値の約半分で、唯一IFTCである。
【実施例5】
【0037】
後方押出し試験による開発モデルの精度検証 図10の実線は実験結果、プロットは無振動の線図から後方押出しでγ=0.1として、予測した荷重を示す。公称振幅15μmの予測荷重とtest2の実測荷重はIFTCの特徴を、その他の荷重はCCCの特徴を有する。test1はサイクルによってIFTCに遷移してスパイク状の凹凸を生じる。ばりにより上限の圧力が、実質振幅の変化により下限の圧力が敏感な工具離脱の閾値の近傍で変化するためと推察される。
尚、実測のIFTCでは荷重の収束が速く、予測にもこの知見を反映すべきである。オプションとして工具離脱が生じた際に、塑性変形解析の境界条件を逐次成形条件に変更して対処できるが、図10では省略した。
【実施例6】
【0038】
伸線試験 図11はダイスの前後の種々の位置に滑車を設置して引抜力の低減効果が変化することを明らかにした非特許文献3の実験結果(線)と、ダイスの前後の等距離に固定端を設定し、共振による引抜力の低減に見合うダンピングを負荷した場合の本開発の荷重予測方法による解析結果(プロットの線)を示す。超音波の振幅が大きい場合には共振で定在波が発生する半波長の整数倍位置(λ=0.5,1,1.5)では実験よりも過大な荷重低下を示す。一方、超音波の振幅が小の場合には実験結果と解析結果は比較的良好な一致を示す。この結果から、共振が発生する場合には共振が発生しない通常の場合の結果から共振による荷重減少量を除去すれば良いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
超音波円柱圧縮試験の荷重予測方法を拡張して各種の超音波塑性加工試験の荷重予測方法を提案するとともに、代表的な工程の実験結果と比較して妥当性を検証した。また、比較的単純な梁要素に近似したので、高速の演算処理が可能になりオンラインの荷重予測システムや荷重制御システムへの適用を容易にした。これにより、従来困難であった超音波塑性加工の荷重予測を可能にし、モデル試験の結果を実機条件に適用する際の寸法効果を検討できるようになった。
【符号の説明】
【0040】
CCC 連続接触条件(Continuous Contact Condition)
IFTC 逐次成形遷移条件(Incremental Forming Condition)
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波塑性加工の荷重を予測し制御する方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1によると、超音波振動を塑性加工中の工具や素材に付与して、その振動エネルギーを塑性加工に利用しようという考えは、約60年前のF. BlahaとB.
Lnangenecherらにより始まるとされる。彼等は亜鉛に超音波領域の周期的振動を加え、さらに静的応力を重ねて加えると変形抵抗が大幅に減少する現象を発見した。そして、この現象をBlaha効果と呼称する。
【0003】
その後の研究で、アルミニウム、銅、鉄など、ほとんど全ての金属にBlaha効果の存在することが確認されている。これらの効果は、鍛造,押出し,絞り、深絞り,圧延,圧縮、すえこみ,転造,棒の引抜き,線の引抜き,プラスチックの塑性加工の各工程で確認されており、超音波振動がもつ最も基礎的な物理現象と考えられる。
【0004】
超音波振動の効果を塑性加工分野で積極的かつ効果的に利用する方法は次の通りである。
【0005】
1)被加工材の変形部へ超音波振動応力と静的応力を重畳させて加える(変形抵抗の減少、塑性変形能の向上すなわちBlaha効果)。
【0006】
2)工具を超音波振動させて、被加工材へ高速繰り返し衝撃を加える(平均加工力の減少)。
【0007】
3)接触している工具と被加工材のいずれか一方、あるいは両方を超音波振動させて、両界面間に働く摩擦係数を減少させる(摩擦抵抗の減少)。
【0008】
4)潤滑剤へ超音波振動を加えて、潤滑剤を活性化させたり、工具と被加工材との接触面へ潤滑剤を強制的に供給する(潤滑性能の向上)。
【0009】
5)振動損失による発熱、内部摩擦の減少、転位の発生と移動(以上は変形抵抗の減少に寄与)、結晶粒の微細化の促進。
【0010】
通常はこれらの働きが総合的に作用して効果をあげているので、独立して評価することは難しいとされてきた。しかしながら、超音波振動を重畳しない場合は、各工程とも荷重予測式が便覧や工場の設計マニュアルなどで整備されている。超音波振動を付与した場合の荷重が予測できれば、これらの評価は比較的容易なはずである。困難性の大部分が荷重低減の予測式が整備されていないためと判断される。
【0011】
特許文献1は鍛造工程において被加工材の表面を超音波振動を付与した工具で加工することにより、表面を強化する技術である。近年、鍛造工程は加工荷重のコンピュータ解析による予測技術が進んできており、市販のFEMプログラムでかなり良い荷重予測が可能である。しかし、超音波振動が付与される場合は、適当なモデルが存在しないようである。
【0012】
従って、超音波振動を付与した場合には、特許文献1で全て実験により検討しており、しかも実際の製品に比べてかなり小さい試験片で行われている。これをスケールアップする際に、どのような力学的な相似則が存在するのか不明である。従って、これが有効であるか否かは実物大の試験を実施しなければ凡その判断も困難である。
【0013】
特許文献2は圧延工程において、ロールに超音波振動を付与して振動させ、ロールに接する素材に振動を伝播させて荷重低減効果を得る狙いである。これは特許文献1においてその実現可能性が極めて低いことが開示されている。この場合、超音波振動塑性加工の荷重低減に関する予測式が機械設計便覧などに存在しないので、設計が困難であったと推察される。
【0014】
そこで、過去の塑性加工学会の論文を調べた結果、以下のことが判明した。即ち、国内で非特許文献2の超音波切削技術が開発され、その際の加工負荷の低減効果がモデル化された。これは、切削中に超音波振動のエネルギーで被加工材と工具がサイクル毎に一時的に接触しない現象で説明された。切削の仕事は塑性加工に比べて小であるから、加えられた振動エネルギーは減衰が小であり殆どの時間、工具の刃物は素材と接触しない。
【0015】
一方、非特許文献3では、超音波伸線が実施された。この場合、ダイスに超音波振動を送り方向に加えることで、伸線速度が比較的小な場合に荷重低減効果が観察された。そして、この場合の荷重減少を切削のモデルを拡張適用して検討した。しかしながら、伸線速度を通常の操業条件程度にすると荷重減少は殆ど観察されず、切削と異なった力学現象になることが予測される結果であった。
【0016】
しかしながら、限られた条件ではあるが、代表的な塑性加工工程の一つである伸線工程で超音波振動付与による荷重減少が発見され、しかも比較的理解し易い切削モデルで説明できることは、大変注目された。そして、その後の超音波塑性加工の荷重低減効果は、伸線に倣って切削モデルの拡張で説明され、実験結果もこれに沿って解釈されてきた。本来、塑性加工に必要な仕事は切削に要する仕事に比べて桁違いであるから、工具が振動の勢いで被加工材から離脱する現象は殆ど発生せず、多くの場合連続的な接触状態である。そのため、切削モデルの拡張で荷重を予測することは困難であり、実験結果を再現することが出来ない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009−279596号公報 「金属の鍛造方法及び金属の鍛造装置」
【特許文献2】特開平−174115号公報 「加工方法及び加工装置並びに圧延方法及び圧延機」
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】超音波工業会編 「はじめての超音波」株式会社 工業調査会 2004年
【非特許文献2】隈部淳一郎:日本機械学会論文集(第3部)27-181(1961),1396-1404.
【非特許文献3】森栄司、井上昌夫:塑性と加工11-114(1970),483-494及び11-111(1970),247-255.
【非特許文献4】米山猛、高橋昌也:H22塑加春講論(2010),163.
【非特許文献5】鈴木弘編:『塑性加工』(1967),裳華房
【非特許文献6】川並高雄、瀬川明夫、山下剛、田上宏岳:第52回塑性加工連合講演会講演論文集(2001),313-314.
【非特許文献7】神雅彦、小玉満:H21塑加連講論(2009),279.
【非特許文献8】米山猛、高橋昌也:塑性と加工52-601(2011),261.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決しようとする問題点は、超音波塑性加工において信頼できる荷重予測モデルや荷重予測式が提案されていないことであり、超音波塑性加工の特徴である連続接触条件(本発明ではContinuous
Contact Condition即ち略称でCCC)を前提に荷重の高精度な予測モデルを開発することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、非特許文献4に開示の超音波円柱圧縮試験の力学特性を検討して、観察された荷重減少の殆どがCCCであることが判明した。また、毎秒2万回の頻度で振動する超音波振動の1サイクルあたりの振動ひずみが0.0015であるのに対して、1サイクル当りの塑性変形ひずみは最大で0.00005と30分の1以下であった。これは、1サイクルタイムである2万分の1秒(ミクロタイムスケールと呼称)が、全体の正味加工時間の0.3秒(マクロタイムスケールと呼称)に比べて無視できる程度であることから生じる必然的な結果である。即ち、1サイクルタイムに生じるひずみ振動の内、その97%が弾性ひずみによる振動である。
【0021】
一方、非特許文献2および非特許文献3では超音波振動の1サイクルタイムのようなミクロタイムスケールで生じる荷重変化は、通常の荷重計の応答性能を遥かに凌駕するので、荷重計で計測されるのは時間平均荷重であるとした。通常の超音波は円振動であるから、CCCの場合には応力振動も円振動に近いため時間平均荷重は1サイクルの最大値と最小値の平均値で良好に近似できる。
【0022】
以上の結果から、超音波円柱圧縮試験の力学特性は極めて単純であり、荷重の上限は無振動の際の工具反力にほぼ等しく、下限値は1サイクルの変位幅を試験片高さで除したひずみにヤング率と面積を乗じて得られる荷重変動幅を上限値から差し引いて得られる。この推定を非特許文献4の試験結果と比較した結果、極めて良好な一致が見られた。また、この結果からマクロタイムスケールとミクロタイムスケールの現象は分離され、前者は無振動の円柱圧縮試験から得られる荷重変位関係から求まる。後者は前記のように単純な弾性変形で良好に近似できるので、線形解析の重要な性質である解析解の重ね合わせが適用できる。
【0023】
この単純な超音波円柱圧縮試験の結果から、より複雑な形状や境界条件の超音波塑性加工にも適用できる荷重予測方法を発案し、後述する論文に開示の結果と比較して妥当性を検証することで、本発明を完成したものである。
【0024】
即ち、第一の発明は、金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、第1の手順で得られた荷重から第2の手順により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、第1の手順の荷重と第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなることを特徴とする。
【0025】
第二の発明は、第3の手順で得られた除荷荷重が引張りで工具と被加工材の接触部が引張り荷重を負担しない構造の場合に、除荷荷重を零に置き換えるとともに、所望により第1の手順で得られた加工中の荷重と変位の関係を工具と被加工材の接触部の摩擦係数が零の場合の加工中の荷重と変位の関係に置き換えることを特徴とする。
【0026】
第三の発明は、金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手段と、第1の手段で得られた加工中の荷重の負荷による振幅変化を補正する手段を備え、補正手段により得られた超音波振動を付与した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手段と、第1の手段で得られた荷重から第2の手段により得られた弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求め、所望により除荷荷重が引張りの場合には除荷荷重を零に置き換えるとともに第1の手段で工具と被加工材の接触部の摩擦力を零にして再処理する第3の手段と、第1の手段の荷重と第3の手段の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手段からなることを特徴とする。
【0027】
第四の発明は、被加工材の固有振動数が重畳する超音波の振動数の2倍以内の場合、共振を無視して請求項3の荷重予測システムで共振無し荷重を予測する手段、工具位置を固定境界条件として共振の荷重減少を求める手段、共振無し荷重から共振の荷重減少を除去して荷重を予測する手段からなることを特徴とする。
【0028】
第五の発明は、被加工材の温度を測定または推定する手段、工具の変位を測定する手段、被加工材の温度と測定変位から被加工材のひずみ量および被加工材に蓄積される転位密度を予測する手段、被加工材の変形抵抗と弾性係数を予測する手段を備え、実測の荷重と目標の荷重の差を検出して請求項3または請求項4に記載の荷重予測システムにより超音波振動の振幅を適正値に制御して目標の荷重に近付ける手段を有することを特徴とする。
【0029】
第六の発明は、工具または被加工材を振動を受ける物体、振動を受ける物体と接触して超音波を伝達する工具または超音波振動子を振動を与える物体として、請求項5に記載の荷重制御システムにより振動を与える物体と振動を受ける物体の接触条件を連続接触条件(CCC即ちContinuous Contact Conditionの略語)または逐次成形遷移条件(IFTC即ちIncremental
Forming Conditionの略語)になるように超音波振動の振幅を適正値に修正して制御する手段を備えた鍛造、押出し,絞り、深絞り、圧延、圧縮、すえこみ、転造,棒の引抜き、線の引抜き、プラスチック塑性加工の何れかの工程で利用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の超音波塑性加工の荷重予測方法は塑性加工の共通基盤技術である円柱圧縮試験で高精度な荷重予測が可能であり、多くの材料で種々の基本的なデータベースを蓄積できる。また、この単純なモデルを拡張して少ない合せ込みパラメータを調節することにより、他の超音波塑性加工に容易に適用できる。更に、この荷重予測方法を利用して、超音波振動子の能力を最大限に活かした荷重制御システムを考案した。また、荷重予測システムの単純性とCCCとIFTCで荷重が急変する現象を利用して、振動を与える物体と振動を受ける物体間の接触条件を制御できるので、多くの超音波塑性加工工程で安定した製品を製造することが容易になった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は超音波塑性加工の荷重予測方法の実施方法を示した説明図である。
【図2】図2は超音波塑性加工の荷重予測方法の実施方法を示した説明図である。
【図3】図3は超音波塑性加工の荷重予測システムの実施方法を示した説明図である。
【図4】図4は超音波塑性加工の荷重予測システムの実施方法を示した説明図である。
【図5】図5は超音波塑性加工の荷重制御システムの実施方法を示した説明図である。
【図6】図6は超音波塑性加工装置の実施方法を示した説明図である。
【図7】図7は超音波円柱圧縮試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例1)
【図8】図8は超音波円環圧縮試験の荷重予測値を示した説明図である。(実施例2)
【図9】図9は超音波円柱横圧縮試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例3)
【図10】図10は超音波円柱前方・後方押出し試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例4)
【図11】図11は超音伸線試験の荷重予測値と実験値を比較検討した説明図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0032】
被加工材の形状を円柱状の梁または梁要素に分割して近似することで、円柱圧縮試験の荷重予測モデルを適用し易くした。これにより、簡単な数式で展開できるので荷重予測システムや荷重制御システムのように高速の演算処理が必要な用途に容易に適用できるようにした。
【実施例1】
【0033】
円柱圧縮試験による開発モデルの精度検証 図7は無振動の応力ひずみ関係を非特許文献5の理論式で求め、これを基に予測された円柱圧縮試験の変形応力とひずみである。実線で示す非特許文献4の実験結果とプロットの解析結果が良く一致した。
【実施例2】
【0034】
圧延試験 非特許文献6ではJIS規格で硬質材(SUS304,SUS430,A1050P,TP340,HT80)と軟質材(ULCS,C1100P)の板厚2mmの切り板に超音波振動を付与して冷間圧延を実施し荷重減少を測定した。硬質材では荷重減少が発生したが、軟質材では若干の荷重増加が観察された。しかし、荷重変化の原因や機構が不明であり、応用が困難であった。そこで、荷重予測方法によりモデルを開発することにした。
超音波振動子を上工具、板送り台を下工具、これと接触する板を円柱状に切り出すと、前記の円柱圧縮試験と同様の変形機構である。モデルに実験条件を適用すると硬質材で荷重減少の場合はσ2が正でCCCと判明した。軟質材として、C1100P(E=100000Mpa,初期降伏応力σy=100Mpa),h=2mm,A=2.5μmとして、モデルに代入するとσ1が250Mpaより小の場合はσ2が負でIFTCである。σ1を100Mpaから250Mpaの間に設定すると、塑性変形による加工硬化と一時的な工具離脱が発生する。
圧延装置の構造から硬質材ではCCCでバックテンションが発生して圧延荷重が減少するが、軟質材ではIFTCで作用しないので加工硬化の分だけ圧延荷重が増加する。この結果から本開発のIFTCの予測モデルは妥当である。
【実施例3】
【0035】
リング圧縮試験 図8はFEMによるリング圧縮試験の面圧と圧下率の関係を示す。加工荷重が増加すると超音波振動による荷重低減効果が消失する傾向である。
【実施例4】
【0036】
円柱横圧縮試験 図9の各ソリッドプロットは非特許文献7の結果を示し、1個のプロットは1つの試験体の結果である。そこで、これを繋いで荷重ストローク線と見做した。無振動の●印の荷重から本開発の荷重予測方法で予測されたオープンプロットの荷重は何れもCCの特徴を有し、圧下率が0.4以上で▲印の実測値と良い一致を示す。しかし、○で囲った▲印の実測値は予測値の約半分で、唯一IFTCである。
【実施例5】
【0037】
後方押出し試験による開発モデルの精度検証 図10の実線は実験結果、プロットは無振動の線図から後方押出しでγ=0.1として、予測した荷重を示す。公称振幅15μmの予測荷重とtest2の実測荷重はIFTCの特徴を、その他の荷重はCCCの特徴を有する。test1はサイクルによってIFTCに遷移してスパイク状の凹凸を生じる。ばりにより上限の圧力が、実質振幅の変化により下限の圧力が敏感な工具離脱の閾値の近傍で変化するためと推察される。
尚、実測のIFTCでは荷重の収束が速く、予測にもこの知見を反映すべきである。オプションとして工具離脱が生じた際に、塑性変形解析の境界条件を逐次成形条件に変更して対処できるが、図10では省略した。
【実施例6】
【0038】
伸線試験 図11はダイスの前後の種々の位置に滑車を設置して引抜力の低減効果が変化することを明らかにした非特許文献3の実験結果(線)と、ダイスの前後の等距離に固定端を設定し、共振による引抜力の低減に見合うダンピングを負荷した場合の本開発の荷重予測方法による解析結果(プロットの線)を示す。超音波の振幅が大きい場合には共振で定在波が発生する半波長の整数倍位置(λ=0.5,1,1.5)では実験よりも過大な荷重低下を示す。一方、超音波の振幅が小の場合には実験結果と解析結果は比較的良好な一致を示す。この結果から、共振が発生する場合には共振が発生しない通常の場合の結果から共振による荷重減少量を除去すれば良いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
超音波円柱圧縮試験の荷重予測方法を拡張して各種の超音波塑性加工試験の荷重予測方法を提案するとともに、代表的な工程の実験結果と比較して妥当性を検証した。また、比較的単純な梁要素に近似したので、高速の演算処理が可能になりオンラインの荷重予測システムや荷重制御システムへの適用を容易にした。これにより、従来困難であった超音波塑性加工の荷重予測を可能にし、モデル試験の結果を実機条件に適用する際の寸法効果を検討できるようになった。
【符号の説明】
【0040】
CCC 連続接触条件(Continuous Contact Condition)
IFTC 逐次成形遷移条件(Incremental Forming Condition)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、該工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、該第1の手順で得られた荷重から該第2の手順により得られた該弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、該第1の手順の荷重と該第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測方法。
【請求項2】
該第3の手順で得られた該除荷荷重が引張りで該工具と該被加工材の接触部が引張り荷重を負担しない構造の場合に、該除荷荷重を零に置き換えるとともに、所望により該第1の手順で得られた該加工中の荷重と変位の関係を該工具と該被加工材の接触部の摩擦係数が零の場合の加工中の荷重と変位の関係に置き換えることを特徴とする請求項1に記載の超音波塑性加工の荷重予測方法。
【請求項3】
金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、該工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手段と、該第1の手段で得られた該加工中の荷重の負荷による振幅変化を補正する手段を備え、該補正手段により得られた超音波振動を付与した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手段と、該第1の手段で得られた荷重から該第2の手段により得られた該弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求め、所望により該除荷荷重が引張りの場合には除荷荷重を零に置き換えるとともに該第1の手段で該工具と該被加工材の接触部の摩擦力を零にして再処理する第3の手段と、該第1の手段の荷重と該第3の手段の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手段からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測システム。
【請求項4】
該被加工材の固有振動数が重畳する超音波の振動数の2倍以内の場合、共振を無視して請求項3の該荷重予測システムで共振無し荷重を予測する手段、工具位置を固定境界条件として共振の荷重減少を求める手段、該共振無し荷重から該共振の荷重減少を除去して荷重を予測する手段からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測システム。
【請求項5】
被加工材の温度を測定または推定する手段、工具の変位を測定する手段、該被加工材の温度と該測定変位から被加工材のひずみ量および被加工材に蓄積される転位密度を予測する手段、該被加工材の変形抵抗と弾性係数を予測する手段を備え、実測の荷重と目標の荷重の差を検出して請求項3または請求項4に記載の荷重予測システムにより超音波振動の振幅を適正値に制御して目標の荷重に近付ける手段を有することを特徴とする超音波塑性加工の荷重制御システム。
【請求項6】
該工具または該被加工材を振動を受ける物体、該振動を受ける物体と接触して超音波を伝達する工具または超音波振動子を振動を与える物体として、請求項5に記載の荷重制御システムにより該振動を与える物体と該振動を受ける物体の接触条件を連続接触条件(CCC)または逐次成形遷移条件(IFTC)になるように超音波振動の振幅を適正値に修正して制御する手段を備えた鍛造,押出し,絞り、深絞り,圧延,圧縮、すえこみ,転造,棒の引抜き,線の引抜き,プラスチック塑性加工の何れかの工程で利用されることを特徴とする超音波塑性加工装置。
【請求項1】
金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、該工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手順と、重畳する超音波の変位幅である振幅の二倍の変位を負荷した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手順と、該第1の手順で得られた荷重から該第2の手順により得られた該弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求める第3の手順と、該第1の手順の荷重と該第3の手順の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手順からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測方法。
【請求項2】
該第3の手順で得られた該除荷荷重が引張りで該工具と該被加工材の接触部が引張り荷重を負担しない構造の場合に、該除荷荷重を零に置き換えるとともに、所望により該第1の手順で得られた該加工中の荷重と変位の関係を該工具と該被加工材の接触部の摩擦係数が零の場合の加工中の荷重と変位の関係に置き換えることを特徴とする請求項1に記載の超音波塑性加工の荷重予測方法。
【請求項3】
金属、樹脂や塑性変形性を有する材料を工具で負荷しながら、該工具および/または被加工材に超音波振動を重畳して成形する超音波塑性加工において、超音波振動を付与しない場合の加工中の荷重と変位の関係を求める第1の手段と、該第1の手段で得られた該加工中の荷重の負荷による振幅変化を補正する手段を備え、該補正手段により得られた超音波振動を付与した際に生じる弾性荷重の変化幅を求める第2の手段と、該第1の手段で得られた荷重から該第2の手段により得られた該弾性荷重の変化幅だけ除荷して除荷荷重を求め、所望により該除荷荷重が引張りの場合には除荷荷重を零に置き換えるとともに該第1の手段で該工具と該被加工材の接触部の摩擦力を零にして再処理する第3の手段と、該第1の手段の荷重と該第3の手段の荷重の平均荷重を求めて予測荷重とする第4の手段からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測システム。
【請求項4】
該被加工材の固有振動数が重畳する超音波の振動数の2倍以内の場合、共振を無視して請求項3の該荷重予測システムで共振無し荷重を予測する手段、工具位置を固定境界条件として共振の荷重減少を求める手段、該共振無し荷重から該共振の荷重減少を除去して荷重を予測する手段からなることを特徴とする超音波塑性加工の荷重予測システム。
【請求項5】
被加工材の温度を測定または推定する手段、工具の変位を測定する手段、該被加工材の温度と該測定変位から被加工材のひずみ量および被加工材に蓄積される転位密度を予測する手段、該被加工材の変形抵抗と弾性係数を予測する手段を備え、実測の荷重と目標の荷重の差を検出して請求項3または請求項4に記載の荷重予測システムにより超音波振動の振幅を適正値に制御して目標の荷重に近付ける手段を有することを特徴とする超音波塑性加工の荷重制御システム。
【請求項6】
該工具または該被加工材を振動を受ける物体、該振動を受ける物体と接触して超音波を伝達する工具または超音波振動子を振動を与える物体として、請求項5に記載の荷重制御システムにより該振動を与える物体と該振動を受ける物体の接触条件を連続接触条件(CCC)または逐次成形遷移条件(IFTC)になるように超音波振動の振幅を適正値に修正して制御する手段を備えた鍛造,押出し,絞り、深絞り,圧延,圧縮、すえこみ,転造,棒の引抜き,線の引抜き,プラスチック塑性加工の何れかの工程で利用されることを特徴とする超音波塑性加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−236219(P2012−236219A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107713(P2011−107713)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504165351)ファイフィット株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504165351)ファイフィット株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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