超音波探触子およびその製造方法
【課題】 表面が湾曲形状を有する圧電振動子を有した超音波探触子において、圧電振動子表面の湾曲形状の寸法精度を高めることで、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さく、部品コストも低くて、かつ、容易に製造することのできる超音波探触子、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 シート状の第1のフレキシブルケーブル12と、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝18が形成された圧電振動子11と、シート状の第2のフレキシブルケーブル13と、一層以上の音響整合層14、15とが順次積層された積層体3が、一方向に所定の曲率を有する曲面である背面負荷材2の上面に固着された超音波探触子1であって、前記背面負荷材2の前記上面の曲面が、前記積層体3が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものである。
【解決手段】 シート状の第1のフレキシブルケーブル12と、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝18が形成された圧電振動子11と、シート状の第2のフレキシブルケーブル13と、一層以上の音響整合層14、15とが順次積層された積層体3が、一方向に所定の曲率を有する曲面である背面負荷材2の上面に固着された超音波探触子1であって、前記背面負荷材2の前記上面の曲面が、前記積層体3が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を被検者の体内に放射し、体内組織などの境界で反射する超音波から、体内の画像を表示することのできる超音波診断装置に接続される超音波探触子、および、その製造方法に関するものであり、特に超音波ビームのフォーカス精度を向上させた超音波探触子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体である生体に対して超音波の送受信を行い、生体の観察を行う超音波診断装置が普及している。超音波診断装置において、接続された超音波探触子によって超音波ビームの送受信を行う場合には、超音波ビームをフォーカスすることが必要となる。
【0003】
超音波ビームのフォーカスには、超音波探触子に設けられた超音波を発生する圧電振動子を構成する振動素子の配列方向のフォーカスと、振動素子の配列方向と直行する超音波ビームの照射方向におけるフォーカスの2種類がある。このうち、振動素子の配列方向のフォーカスは、送信時では、各振動子に印加する送信波を遅延させることにより、また、受信時では、各振動子の受信波を遅延させることにより行う、電子フォーカスが用いられている。一方、振動素子の配列方向と直交する方向の超音波ビームのフォーカスは、振動素子の前方に設けたシリコーンゴム製の音響レンズを用いて行われてきたが、シリコーンゴムの音響レンズでは、温度依存性によるフォーカス位置のばらつきや高周波における減衰などの問題があった。このため、音響レンズを使用するフォーカスの代わりに、圧電振動子の表面を所定の曲率を持った凹面形状とする方法が提案されていた。
【0004】
図10は、このような、圧電振動子の表面を所定の曲率を持った凹面形状とする従来の超音波探触子の製造方法を示す図である。なお、図10では、超音波探触子の側面方向から見た状態を示している。
【0005】
図10に示すように、従来の超音波探触子50の製造方法は、圧電振動子53の表面が形成する所定の凹曲面に対応する凹曲面形状の上面を有する硬質の背面負荷材51の上に、第1フレキシブルケーブル54、圧電振動子53、第2フレキシブルケーブル55、第1音響整合層56、第2音響整合層57が順次積層配置された積層体52を載置した状態で、上方より加圧板58によって所定圧力を加えることで、背面負荷材51と積層体52との成型固着を行うものであった。
【0006】
加圧板58の下面(押圧面)は、背面負荷材51の上面の形状に対応した、一方向に湾曲した曲面形状を有する略蒲鉾型の形状となっていて、所定の均一な圧力で積層体52の上方から積層体52を押下する。この結果、積層体52は背面負荷材51の上面形状と加圧板58の下面形状に従って湾曲すると共に、相互の部材が密着される。また、加圧板58が積層体52を押下した状態で、各部材間にあらかじめ介在させておいた図示しない接着剤の硬化が行われる。
【0007】
このような従来の超音波探触子50では、背面負荷材51として、例えばエポキシ樹脂を主体にタングステン等の金属を混入させて成る硬質材料で形成されていた。また、圧電振動子53は、配列方向と直交する方向に図示しない複数の切欠き溝が形成され、加圧板58により外力を加えることによって、湾曲させることができる。
【0008】
従来の超音波探触子では、このように、あらかじめ設定された背面負荷材51の上面の曲面形状に応じて積層体52を湾曲させることによって、圧電振動子53で送受信される超音波ビームを集束させることが可能になり、音響レンズを用いることなく超音波ビームのフォーカスを行うことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−317999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の超音波探触子の製造方法では、積層体52を、硬質の背面負荷材51の上面と加圧板58の下面とで所定の圧力を加えながら挟むことで、所定の形状に湾曲させると同時に相互の部材を密着させるものであるため、加圧板58の下面(押圧面)の凸形状と背面負荷材51の上面の凹面形状とが高い精度で対応していることが必要となる。
【0011】
すなわち、図11(a)に示すように、背面負荷材51の上面の凹曲面の曲率をR4、積層体52の厚さをt、加圧板58の押圧面の凸形状の曲率をR5としたとき、R5=R4−tの関係を満たすことが必要となる。なお、図11(a)および後述する図11(b)では、図の煩雑化を避けるためハッチングを省略している。
【0012】
しかし、例えばR5<R4−tの場合には、背面負荷材51の上面凹曲面の中心軸60の近傍から、図11(a)中の左右方向の端部にいくにつれて、背面負荷材51の上面と積層体52との間の隙間が大きくなる。このため、背面負荷材51の周辺部分では加圧板による押圧力Dが充分に伝わらずに接着剤層の厚さが厚くなって、電気的な接続不良が生じたり、積層体52の圧電振動子53の表面(超音波ビーム放射方向側の面)が正しい曲率を保てずに、超音波ビームのフォーカス特性が低下したりする原因となる。逆にR5>R4−tの場合には、背面負荷材51と積層体52との間隔が、背面負荷材51の中心軸60の近傍で広くなり、図11(a)中の左右方向の端部近傍で間隔が狭くなるため、やはり電気的接続不良やフォーカス性能の低下が生じ、さらには、加圧板58の押圧力Dによって圧電振動子53が破損してしまうこともある。
【0013】
また、上記従来の超音波探触子の製造方法では、積層体52の押圧時に、加圧板58と背面負荷材51との中心軸を正確に一致させることも必要となる。
【0014】
図11(b)に示すように、背面負荷材51の上面凹面形状の中心軸60と加圧板58の下面(押圧面)凸形状の中心軸60bが、x2だけ図中右側にずれた状態で所定圧力Dを積層体52の上方から積層体52に加えると、図中左側の積層体52の端部近傍の押圧力が、中心軸60b近傍の押圧力Dよりも小さくなる。この結果、背面負荷材51と積層体52との間の部分61や、積層体52を構成する各部材間、例えば図11(b)では、第1音響整合層56と第2音響整合層57との間の部分62に、接着剤層の厚い部分が生じる。そして、この場合にも、電気的接続不良やフォーカス特性の低下、さらには、圧電振動子53の破損などが生じることとなる。
【0015】
したがって、従来の超音波探触子の製造方法では、製造された超音波探触子50の電気的性能、超音波ビームのフォーカス特性が不十分であったり、背面負荷材51の上面曲面形状や、押圧板58の凸面形状、また、押圧板58での積層体52の押圧固着工程での各部材相互間の位置管理に対して高い精度が要求され、背面負荷材51などの部品コスト、超音波探触子の製造コストが上がったりするという問題があった。
【0016】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、その表面が湾曲形状を有する圧電振動子を有した超音波探触子において、圧電振動子表面の湾曲形状の寸法精度を高めることで、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さく、部品コストも低くて、かつ、容易に製造することのできる超音波探触子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の超音波探触子は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、前記背面負荷材の前記上面の曲面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、前記変形工程の形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波探触子は、背面負荷材の上面の曲面が、積層体が載置された状態で所定の曲率の曲面に形成されたものであるため、圧電振動子の湾曲形状の寸法精度を高めることができて、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さくなる。また、背面負荷材や製造装置に要求される寸法精度が低くなるため、部品コストや製造コストを低減することができる。
【0020】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、積層体と背面負荷材の上面とを、加圧板の所定形状に倣った形状とする変形工程と、変形工程での形状を維持したまま圧電振動子の切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、積層体と背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有しているため、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さい超音波探触子を、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の第1の作用効果を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の第2の作用効果を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の比較例の構成を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の、最表面の音響整合層の表面形状を示す図である。
【図7】本発明の超音波探触子の製造方法の前半の工程を示す図である。
【図8】本発明の超音波探触子の製造方法の後半の工程を示す図である。
【図9】本発明の超音波探触子の製造方法の完成状態を示す斜視図である。
【図10】従来の超音波探触子の製造方法を示す構成概念図である。
【図11】従来の超音波探触子の課題を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の超音波探触子は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、前記背面負荷材の前記上面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものである。
【0023】
このようにすることで、あらかじめ形成されていた背面負荷材の上面(圧電素子側の面)の曲面の曲率の精度が低い場合であっても、圧電振動子の表面の曲率を容易に所望の曲率とすることができるので、超音波ビームのフォーカス性能の優れた超音波探触子を実現することができる。また、背面負荷材と積層体の湾曲形状を容易に揃えることができるので、接続不良などの電気的特性の低下を抑えた超音波探触子を低コストで得ることができる。
【0024】
本発明の超音波探触子において、前記背面負荷材が熱可塑性を有する材料であることが好ましい。このようにすることで、背面負荷材を加熱して所定の形状に容易に変形させることができるため、圧電振動子の表面(超音波ビーム放射方向側の面)の曲率を正確に規定することができる。
【0025】
また、前記背面負荷材がフェライトゴムであることが好ましい。柔らかなフェライトゴムの背面負荷材は、所定の形状に容易に変形させることができるため、圧電振動子の表面の曲率を正確に規定することができる。
【0026】
さらに、前記圧電振動子と前記第1のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の裏面に形成された第1の電極層によって接続され、前記圧電振動子と前記第2のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の表面に形成された第2の電極層によって接続されていて、前記圧電振動素子の前記表面および前記裏面の少なくともいずれか一方の面に、前記第1の電極層または前記第2の電極層が形成されていない無効領域を有することが好ましい。
【0027】
このようにすることで、背面負荷材の上面の形状が変形しても、圧電振動子の有効開口領域において、圧電振動子の表面の曲率を精度よく維持することができる。
【0028】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、前記変形工程での形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有する。
【0029】
このようにすることで、積層体の湾曲形状を容易に加圧板の押圧面形状に倣った形状とすることができ、また、背面負荷材の上面の形状も積層体の湾曲形状に倣った形状にすることができる。このため、圧電振動子の表面の曲率を所望のものとすることができ、積層体を構成する各部材同士や積層体と背面負荷材との接着を、それぞれの部材が密着した状態で行うことができるので、接続不良などの電気的特性の低下や、圧電振動子の破損などが生じない超音波探触子の製造方法を提供することができる。このため、超音波ビームのフォーカス特性や電気的特性の優れた超音波探触子を、安価に製造することができる。
【0030】
以下、本発明にかかる超音波探触子、およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
(実施の形態1)
まず、第1の実施形態として、本発明にかかる超音波探触子について説明する。
【0032】
図1は、本実施形態にかかる超音波探触子1の短軸方向、すなわち、その上面に形成されている所定の曲率の湾曲方向を見た概略断面図である。
【0033】
本実施形態の超音波探触子1は、凹曲面形状の上面を有する背面負荷材2の上に、積層体3が積層され、接着剤で固着一体化されている。積層体3は、シート状の第1のフレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2のフレキシブルケーブル13、音響整合層である第1の整合層14、第2の整合層15が順次積層され、それぞれの部材間に配置された熱硬化タイプの接着剤(図示せず)によって、一体となっている。
【0034】
背面負荷材2は、一定の温度(熔融温度)以上となると柔らかくなり、外力を加えて形状を変化させた後常温に戻すと所定の硬度を有するようになる熱可塑性の材料で形成されている。このような熱可塑性の材料としては、100℃以下で変形が可能な(例えばガラス転移温度が100℃以下である)エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等にマイクロバルーン等を混入した材料、ガラス繊維製の布(クロス)を重ねたものに前記エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を含浸させた材料、またはポリスチレンに発泡剤を用いて成型する発泡スチロールに前記エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を含浸した材料などを用いることができる。なお、分極処理された圧電振動子を100℃以上の高温環境下におくと圧電性が失われるため、100℃以下で変形が可能な熱可塑性の材料を使用することが望ましい。
【0035】
図1に示すように、背面負荷材2の上面は、その短軸方向である、圧電振動子11で送受信される超音波ビームの走査方向に直交する方向、図1での左右方向への凹曲面となっている。この凹曲面は、積層体3がその上面に載置された状態で所定の曲率、例えば、その曲率半径が照射される超音波ビームの焦点距離とほぼ等しくなるような曲率の面として形成されたものである。この凹曲面の好ましい曲率は、断層画像検査を行う対象臓器に適した超音波探触子の種類によって異なる。例えば、主として腹部および産婦人科の断層画像検査(臓器の描出、病変の位置の決定)などを目的として設計された超音波探触子においては、超音波ビームの焦点距離は一般的に50mm程度であり、凹曲面の曲率半径は約50mmとなる。
【0036】
より具体的には、本実施形態の超音波探触子1の背面負荷材2上面の曲面形状は、背面負荷材2の上面に積層体3が載置された状態で、上方から所定の曲率である凸形状の押圧面を有する図示しない加圧板によって圧力を加え、積層体3とともに所定の曲率である凹形状に押圧変形させ、相互の部材が密着した状態で各部材間に介在する接着剤の加熱硬化を行って形成されたものである。このため、後述するように、背面負荷材2単体の状態で形成されている上面の曲面は、高い寸法精度の曲率を有している必要が無く、背面負荷材2自体を安価に製作することができる。
【0037】
この背面負荷材2は、圧電振動子11の裏面側(超音波ビーム発射方向とは反対側、図1における下側)で、圧電振動子11からの超音波振動の機械的なダンピングを行い、周波数帯域を広くする機能を有している。
【0038】
背面負荷材2上面の凹曲面上には、図示しない熱硬化型接着剤を介して、積層体3を構成するシート状のフレキシブル配線基板からなる、第1のフレキシブルケーブル12が配置されている。第1のフレキシブルケーブル12は、ポリイミドなどの高分子フィルム製のベース部12bと、このベース部12b上の圧電振動子11側に、圧電振動子11に対応するように形成された、例えば銅層からなる電極パターン12aとで構成されている。また、第1のフレキシブルケーブル12の両端部は、圧電振動子11との積層部分より図1の左右方向に延出し、背面負荷材2の側面に沿って、図1中の下側に引き出されている。そして、延出部分の両先端部は、図示しない信号用電気端子に電気的に接続される。なお、電極パターン12aの銅層表面には、蒸着、めっき、スパッタリング等により、金またはニッケル層等を形成し、酸化防止処理を行うことが望ましい。
【0039】
圧電振動子11は、PZT系などの圧電セラミックス、単結晶、および、PVDF等の高分子等を用いた圧電素子である。圧電振動子11の表面、すなわち第2のフレキシブルケーブル13に面した面と、裏面、すなわち第1のフレキシブルケーブル12に面した面には、ともに電極が形成されていて、第1のフレキシブルケーブル12、第2のフレキシブルケーブル13と接続可能となっている。本実施形態の圧電振動子11では、第1のフレキシブルケーブル12と接続される裏面側に、第1の電極層としての正電極層16が、第2のフレキシブルケーブル13と接続される表面側に、第2の電極層としての接地電極層17が、それぞれ形成されている。これらの、正電極層16や接地電極層17は、例えば、高周波化に有効な厚さ1000Å程度の金スパッタ電極層などとして形成することができる。また、正電極層16と接地電極層17とを入れ替えて、第1の電極層を接地電極層、第2の電極層を正電極層とすることもできる。
【0040】
本実施形態の超音波探触子1の圧電振動子11は、その厚さ方向に平行、すなわち、表面および裏面とは垂直な方向に、複数の切り欠き溝18が形成されているため、主面である表面の側から外力を加えることによって、湾曲させることができる。また、切り欠き溝18内部に、あらかじめ熱硬化型の接着剤19を充填しておき、圧電振動子11が湾曲した状態でこれを加熱硬化することによって、圧電振動子11と後述する第2のフレキシブルケーブル13とを接着すると同時に、圧電振動子11の所定の曲面形状を保った状態でその強度を確保することができる。
【0041】
圧電振動子11の表面側の接地電極層17の上には、図示しない熱硬化型接着剤を介して、第2のフレキシブルケーブル13が積層されている。第2のフレキシブルケーブル13は、第1のフレキシブルケーブル12と同様に、ポリイミド製のベース部13bと、このベース部13bの圧電振動子11側に、圧電振動子11に対応するように形成された、例えば銅層からなる電極パターン13aとで構成されている。また、この第2のフレキシブルケーブル13の両端部も、第1のフレキシブルケーブル12の両端部と同様に、圧電振動子11との積層部分より図1における左右方向に延出し、背面負荷材2の側面に沿って、図1中下側に引き出され、図示しない信号用電気端子に電気的に接続される。なお、電極パターン13aの銅層表面に、酸化防止処理を行うことが望ましいことも第1のフレキシブルケーブル12と同じである。
【0042】
本実施形態の場合は、第1のフレキシブルケーブル12がシグナルリード薄板として機能し、第2のフレキシブルケーブル13がグランドリード薄板として機能して、圧電振動子11に所定の駆動電圧を印加すると共に、生体で反射した超音波ビームに基づく信号を図示しない超音波診断装置に送出している。
【0043】
第2のフレキシブルケーブル13の上面には、厚さが超音波ビームの波長のλ/4(一例として、腹部および産婦人科の断層画像検査などを目的として設計された中心周波数3MHzの超音波探触子においては、0.25mm)に相当するグラファイト(黒鉛)シートからなる音響整合層としての第1の整合層14と、第2の整合層6が配置され、前記圧電振動子1等の音響インピーダンスと、被検体である生体の音響インピーダンスとの整合を行うことによって、超音波の伝達性の向上を図っている。
【0044】
なお、本実施形態では、第1の整合層14と第2の整合層15との二層の音響整合層を有する超音波探触子1を説明しているが、音響整合層の層数(枚数)は一層以上であれば特に限定はなく、超音波を発生する圧電振動子11と被検体である生体との音響インピーダンスをとることができる構成であればよい。また、第1の整合層14と第2の整合層15とを、いずれも第2のフレキシブルケーブル13の上に積層した構成の積層体3を示したが、第1の整合層を例えばグラファイトなどの導体とし、圧電振動子1と第2のフレキシブルケーブル12との間に、第1の整合層を設ける構成とすることもできる。
【0045】
上記のように、本実施形態の超音波探触子1の積層体3は、背面負荷材2上面に載置された状態で、所定の曲率である凸形状の押圧面を有する、図1では図示しない加圧板によって圧力を加えられ、背面負荷材の2の上面と同様に所定の曲率を有する凹面形状に押圧変形させられたものである。このため、本実施形態の超音波探触子1の圧電振動子11の表面は、超音波ビームを高い精度でフォーカスすることができる曲面形状を有している。
【0046】
ここで、以上のように構成された超音波探触子1の動作を説明する。
【0047】
図示しない超音波診断装置本体の送信部から送信された複数の電気信号は、図示しないケーブルを経て、第1のフレキシブルケーブル12を介して、複数の圧電振動素子がアレイ状に配列された圧電振動子11に印加される。圧電振動子11は、加えられた電気信号に対応して、機械振動である超音波を励起(送波)する。励起された超音波は、第1の整合層14および、第2の整合層15によって生体との音響的な整合が図られると共に、圧電振動子11の表面を、曲率を持った凹面形状とすることにより、収束されて生体内へ送波される。また、圧電振動子11は、圧電効果により、生体より戻って来た超音波に対応して電気信号を発生(受波)する。受信された超音波信号は、電気信号に変換された後、第2のフレキシブルケーブル13を経て、図示しないケーブルを介して、超音波診断装置本体の受信部に送信される。
【0048】
受信部で受信した信号を処理し、超音波診断装置本体の表示部に受信信号の画像を表示することにより、患者の体内の画像をモニター上で確認できる。これらの動作は従来の超音波探触子と同様のものであるが、本実施形態にかかる超音波探触子1は、上記の本体の送信、受信方式に限定されるものではなく、様々な他の送受信方法の超音波診断装置の探触子として使用することができる。
【0049】
次に、図2および図3を用いて、本実施形態の超音波探触子1が、圧電振動子11表面の湾曲形状の寸法精度が高く、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さいこと、また、部品コストが低くて、かつ、容易に製造することのできるものであることについて説明する。
【0050】
図2(a)、図2(b)は、本実施形態の超音波探触子1の製造状態の様子を示す概略断面構成図であり、従来の超音波探触子51における課題を説明した図10(a)に相当する図面である。なお、図10と同様、図2でも部材のハッチングは省略している。また、超音波振動子11の形状はその外形のみを示している。
【0051】
本実施形態の超音波探触子1では、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されているため、背面負荷材2の上に積層体3を載置し、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型接着剤で接着固定する際に、加圧板21によって積層体3の表面を所定の曲率の曲面とすると同時に、背面負荷材2上面の凹曲面の曲率も所望のものとすることができる。
【0052】
すなわち、図2(a)に示すように、背面負荷材2の上面の曲面R1が、加圧板21の凸曲面の曲率R2と積層体3の厚さTとの和(R2+T)と正確に同じでは無い場合、例えば、図2(a)のように、R1>R2+Tの関係が成り立つ場合には、積層体3の各部材の間22や、背面負荷材2と積層体3の間23の、特に周辺の近傍部分に隙間が生じる。また逆に、図示しないが、R1<R2+Tの関係が成り立つ場合には、背面負荷材2と積層体3の中央近傍、すなわち、背面負荷材2の上面の凹曲面および加圧板21の押圧面の凸曲面の中心軸24の近傍の部分で隙間が生じる。
【0053】
しかし、本実施形態の超音波探触子1では、背面負荷材2が100℃以下で変形可能な熱可塑性の材料でできているために、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型の接着剤によって接着するために加えられる熱によって、背面負荷材2が、まず変形しやすい状態となる。そして、図2(b)に示すように、背面負荷材2と積層体3の少なくともいずれか一方が加熱されることで、背面負荷材2の温度が上昇して形状変化が生じるようになっている状態で、加圧板21によって積層体3の上方から所定の力Aで押圧されたとき、背面負荷材2の上面は、加圧板21の下面の凸曲面に倣った形状となった積層体3からその全面に力Bが働いて、背面負荷材2の上面を積層体3の曲率に倣わせて、所定の曲率R1(=R2+T)となるように変形させる。この状態で、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型接着剤で固定接着することで、背面負荷材2の上面が所定の曲率の曲面に形成される。
【0054】
図3(a)、図3(b)は、本実施形態の超音波探触子1の製造状態の様子を示す別の概略断面構成図であり、従来の超音波探触子51における課題を説明した図10(b)に相当する図面である。なお、図2と同様に部材のハッチングは省略し、超音波振動子11の形状はその外形のみを示している。
【0055】
図3(a)に示すように、背面負荷材2の上面凹面形状の中心軸24と加圧板21の下面(押圧面)凸形状の中心軸24bが「x1」だけ図中右側にずれた状態で、上方から押圧力が積層体3に加わると、図中左側部分の積層体3の端部近傍への押圧力が、中心部分や図中右側部分への押圧力よりも小さくなって、背面負荷材2と積層体3との間の部分25や、積層体3を構成する各部材間、例えば図3(a)の第1の整合層14と第2の整合層15との間の部分26に、接着剤層の厚い部分が生じる。
【0056】
しかし、本実施形態の超音波探触子1は、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されているため、図3(b)に示すように、背面負荷材2の上に積層体3を載置し、背面負荷材2および積層体3の少なくともいずれか一方を加熱して、熱硬化型接着剤で接着固定する際に、背面負荷材2に伝わった熱により背面負荷材2が変形可能となる。そして、加圧板21の押圧力Aが、積層体3を介して背面負荷材2上面に分散した押圧力Bとして伝わって、背面負荷材2上面の凹曲面の曲率も所望のものとすることができる。この結果として、本実施形態の超音波探触子1では、図10(b)として示した従来の超音波探触子50に生じたような、電気的接続不良やフォーカス特性の低下、さらには、圧電振動子11の破損などを生じることがない。
【0057】
以上のように、本実施形態の超音波探触子1は、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されている。このため、背面負荷材2単独の状態では、その上面の曲面の曲率が正確に形成されていなくても、背面負荷材2上に積層体3が載置された状態で、加圧板21で加熱・押圧されることで、金属加工により高い曲面精度を得ることができる加圧板21の凸曲面形状、さらに、それぞれの部材の厚みを正確に制御できる積層体3の厚さ方向寸法を介して、背面負荷材2の上面の形状を正確に所定のものとすることができる。そして、結果として、超音波振動子3の表面の曲面形状も上記の精度に準じて所望のものとすることができる。
【0058】
このような本実施の形態の超音波探触子1によれば、超音波の走査方向に対し、直交する方向に所定曲率を持った超音波振動子3を得ることができ、振動子アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2として、本発明にかかる他の超音波探触子について説明する。
【0060】
実施の形態2にかかる超音波探触子は、背面負荷材の材料がフェライトゴムである点で、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されている上記した実施の形態1にかかる超音波探触子と異なっている。なお、実施の形態2にかかる超音波探触子の、背面負荷材以外の部材の構成や、形状などは実施の形態1として説明した上記の超音波探触子と同じであるため、図面を示しての詳細な説明は省略する。
【0061】
実施の形態2にかかる超音波探触子では、背面負荷材が、柔らかなフェライトゴムで形成されているために、加圧板の下面(押圧面)凸形状と背面負荷材の上面凹面形状が正確に対応していない場合でも、また、背面負荷材の上面凹面形状の中心軸と、加圧板の下面(押圧面)凸形状の中心軸とが一致していない状態であっても、背面負荷材の上面の形状が、加圧板の下面の凸形状に倣った形状となりやすい。したがって、上記した実施の形態1における超音波探触子と同様に、高い寸法精度を有することができる加圧板の下面(押圧面)凸形状の曲率半径、同じく高い精度で制御できる積層体の厚み寸法から、背面負荷材の上面に形成される凹面形状を所望の曲率を有したものとすることができる。
【0062】
このため、実施の形態2に示した超音波探触子も、超音波振動子の表面の曲率半径を所望のものとすることができ、振動子アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0063】
なお、本実施形態の超音波探触子の圧電振動子は、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成されている。このため、圧電振動子を含む積層体を、背面負荷材の上面に載置して固着する際に、圧電振動子の切り欠き溝内に浸透した接着剤が固着され、圧電振動子の表面が所望の曲面状態を保ったまま硬化させることができる。このため、実施の形態1で用いた熱硬化性の材料とは異なり、本実施の形態にかかる超音波探触子の背面負荷材は、接着剤の加熱・硬化後も軟性を有しているフェライトゴムを用いているが、積層体と積層固着された状態の超音波探触子は、実使用時に変形などが生じない実用的な強度を得ることができる。
【0064】
(実施の形態3)
次に、本発明の超音波探触子の第3の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0065】
図4は、本発明の第3の実施形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。また、図5は、本発明の第3の実施形態にかかる超音波探触子の理解を容易にするための比較例としての構成を示す概略断面図である。
【0066】
図4に示すように、第3の実施形態にかかる超音波探触子100は、上記図1を用いて説明した第1の実施形態の超音波探触子1や第2の実施形態の超音波探触子と比較して、積層体3を形成する圧電振動子30が超音波ビームの走査方向であるその湾曲方向、すなわち図4の左右方向に幅広く形成されている。例えば、図4に示す本実施形態にかかる超音波探触子100では、圧電振動子30の幅は、第2のフレキシブルケーブル13を介して積層される、第1の調整層14および第2の調整層15の幅とほぼ同じ幅となっている。
【0067】
また、本実施形態の超音波探触子100の圧電振動子30では、その表面側で第2のフレキシブルケーブル13と接続される接地電極層17が、圧電振動子30の表面の中央部分にのみ形成されていて、その両端部分には形成されていない。この結果、本実施形態の超音波探触子100の圧電振動子30は、その表面の幅Zに対して、中央部分の幅Yの部分のみが実際に超音波振動子として機能する有効開口領域となり、圧電振動子30の表面の周辺部分は、第2のフレキシブルケーブル13と接続されていないために超音波振動子として機能する有効開口領域とは逆に超音波振動子として機能しないという意味で「無効」な、無効領域27となっている。なお、図4に示す本実施形態の超音波探触子100は、圧電振動子30の幅が広いことと、圧電振動子30の表面側の接地電極層17が形成されていない無効領域27を有している点以外は、図1に示す第1の実施形態の超音波探触子1と同じである。このため、図1に示す、第1の実施形態にかかる超音波探触子1と同一の構成の部分には同一の符号を付与し、その詳細の説明は省略する。また、図4、および図5においても、図2、図3と同様に各部材のハッチングは省略する。
【0068】
本実施形態の超音波探触子100において、圧電振動子30の表面に対して、接地電極層17の形成領域を狭くするためには、圧電振動子30に接地電極層17を金スパッタで形成する際に、無効領域27とする部分にマスキングを施すなどの方法、また、後述するように、圧電振動子30の表面の所定部分を、ダイシングブレードによって削り取るなどの方法を用いることで、所定の領域を無効領域27として容易に形成することができる。
【0069】
このように、本実施形態の超音波探触子は、圧電振動子11の表面の周辺部分を無効領域27としているが、このようにすることの作用効果を、図5に示した比較例100bと対比して説明する。
【0070】
図5に示す比較例の超音波探触子100bでは、図4に示した第3の実施形態の超音波探触子100と異なり、積層体3を形成する圧電振動子30bの幅が、第2のフレキシブルケーブル13を介して積層される第1の調整層14、および、第2の調整層の幅よりも狭くなっている。また、図5に示す比較例100bでは、超音波探触子100bの圧電振動子30bの表面全面に第2の電極層である接地電極層17が形成されていて、全ての領域が有効開口領域となり、図4に示した第3の実施形態の超音波探触子100のような無効領域27を有していない。
【0071】
このような、図5に示す比較例の場合には、超音波探触子の製造過程において積層体3が背面負荷材2の側面に沿って図5における図中下側方向に折り曲げられた際に、積層体3を形成する音響整合層14、15の表面の曲面が、所定の曲率とならない場合がある。
【0072】
本発明にかかる超音波探触子1では、第1の実施形態として示したように、背面負荷材2が熱可塑性の材料で形成されていたり、第2の実施形態として示したように、背面負荷材2がフェライトゴムで形成されていたりする。このため、積層体3のシグナルリード薄板やグランドリード薄板として機能する第1のフレキシブルケーブル12と第2のフレキシブルケーブル13の側端部を、背面負荷材2の側面に沿って折り曲げてその両端を図示しない信号用電気端子に接続する際に、第1のフレキシブルケーブル12と第2のフレキシブルケーブル13とに、図4、および、図5に矢印Cとして示した張力が、図中下側に向かって印加される。このとき、背面負荷材2の肩の部分28、すなわち、上面の曲面部分と側壁部分との境界部分が変形して、図4、および、図5に示されるような「だれ」が生じる。
【0073】
そして、この背面負荷材2の変形(「だれ」)に伴って、第1フレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2フレキシブルケーブル13、第1の整合層14、第2の整合層15が順次積層配置された積層体3の端部も変形してしまう。その結果、超音波ビームの送受信を行う最表面に位置する音響整合層、特に、本実施形態の場合は第2の整合層15の表面29の曲率が、その周辺領域31で所定の曲率R3を保てなくなってしまう。
【0074】
この場合において、図4に示す本実施形態の超音波探触子100では、圧電振動子30の幅が超音波整合層14、15と同じ幅を有し、かつ、圧電振動子30の表面の周辺部分に無効領域27が形成されているため、圧電振動子30の中央部分の有効開口領域では、その最表面の音響整合層14、15の表面29の曲率は正確に所定の曲率R3を描いている。これに対し、図5に示す比較例の超音波探触子100bでは、圧電振動子30bの幅が音響整合層14、15の幅よりも狭く、かつ、圧電振動子30bの表面の全てが有効開口領域となっているため、有効開口領域の端部近傍の部分31では音響整合層14、15の形状が変形して、その部分31において音響整合層14、15の表面29の曲率が所定の曲率R3を描いていない。
【0075】
図6は、図4に示した第3の実施形態にかかる超音波探触子の、最表面の音響整合層、すなわち第2の整合層15の表面の形状を示すイメージ図である。
【0076】
図6(a)は、第2の整合層15の表面の高さhと水平方向距離xとの関係を示したものであり、図6(b)は、第2の整合層15の表面の曲率半径rと水平距離xとの関係を示している。
【0077】
図6(a)、図6(b)に示すように、本実施形態の超音波探触子100の第2の整合層15の表面は、圧電振動子30の表面に対応する全ての領域Zのうち、有効領域Yを外れた無効領域27に相当する表面29の周辺部分31で水平距離xに関する高さhの変化の度合いが乱れ、水平距離xに対する曲率半径rの値も有効領域Yの両側の周辺領域31で乱れている。しかし、有効領域Yの部分においては、水平距離xの変化に応じて一定の曲率rを保っていることが分かる。
【0078】
なお、上記第3の実施の形態では、圧電振動子30の幅Zに対する有効領域の幅Yを狭くするために、圧電振動子30の表面側に形成される第2の電極層17の形成領域を狭くしたが、本発明はこれに限らず、圧電振動子30の裏面側、すなわち背面負荷材2側の第1の電極層16の形成領域を狭くすることによっても、圧電振動子30の幅Zに対する有効領域Yの幅を狭くすることができる。
【0079】
このように、本実施形態の超音波探触子100は、圧電振動子30に超音波の送受信に寄与しない無効領域27を設けることで、背面負荷材2に熱可塑性の樹脂や軟質のフェライトゴムを使用することによって生じる、圧電振動子30の表面における凹面の曲率形状の精度の低下を抑えることができ、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0080】
(第4の実施形態)
次に、本発明の超音波探触子の製造方法を、本発明の第4の実施の形態として説明する。
【0081】
図7、図8は、本実施形態の超音波探触子の製造方法のそれぞれの課程を示す概略断面構成図である。
【0082】
まず、図7(a)に示すように、圧電振動子11の両面に、金スパッタにより第1の電極層16と第2の電極層17とを形成する。本実施形態では、第1の電極層17が正電極層となり、第2の電極層17が接地電極層となっている。
【0083】
次に、図7(b)に示すように、例えばシリコン製のゴムシートから成るポリイミド基材に対して粘着性を有するフレキシブルケーブル固定用治具32の上に載置された第1のフレキシブルケーブル12の上に、圧電振動子11を積層する。ここで、第1のフレキシブルケーブル12は、電極パターン12aを上側として、圧電振動子11の第1の電極層16と電極パターン12aとが向かい合うように配置する。
【0084】
第1のフレキシブルケーブル12と圧電振動子11とは、あらかじめ塗布してあった図示しない熱硬化型接着剤を、高圧力(一例として、40g/mm2)下で加熱して圧接、固着する。例えば、熱硬化型接着剤として、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353ND(商品名)を用いた場合には、標準硬化温度・時間は60℃・90分である。
【0085】
なお、本実施形態では、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12とを直接積層する方法について説明したが、例えば、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12との間に、背面負荷材2と同じ材質からなるプレートを介在させて、熱硬化型接着剤を介して、このプレートと第1のフレキシブルケーブル12のベース部12bとを圧接、固着することによって、プレートを積層体3のキャリアとして使用し、そのままプレートを積層体3ごと背面負荷材2の上面に積載固着するという方法も採用することができる。
【0086】
次に、圧電振動子11に、その厚さ方向に平行な切り欠き18を形成する。具体的には、図9(a)に示すように、ダイシングブレード33を、圧電振動子11の長手方向の一方の端部から他方の端部まで、例えば所定のピッチ0.1〜0.5mmで矢印34の方向にダイシングして、圧電振動子柱列を作る。なお、この時の切り欠き溝18の幅は、約10μmから100μmである。
【0087】
ダイシングブレード33によって、圧電振動子11をダイシングする際には、圧電振動子11の第1の電極層16、または、第1のフレキシブルケーブル12の電極パターン12aまでは切り込まずに、少なくとも第1のフレキシブルケーブル12、または、第1のフレキシブルケーブル12と第1の電極層16とは、分割せずに残しておく。
【0088】
次に、図7(d)に示すように、形成された切り欠き溝18に熱硬化型接着剤19を流し込む。
【0089】
なお、上記第3の実施形態に示したように、圧電振動子11の表面の端部近傍を無効領域27とする場合には、圧電振動子11の図7(d)中の左右両端部から所定範囲(無効領域27の範囲)にわたって、ダイシングブレード33の切り込む高さを、電極層27を切削除去する高さ35に設定し、狭ピッチ(例えば、幅10〜100μmのダイシングブレードを使用した場合は、10μmピッチなど)で矢印34の方向に移動させると、圧電振動子11表面の第2の電極層18を、有効開口領域部分を残して無効領域27部分のみ切削することが可能となる。
【0090】
次に、図8(a)に示すように、圧電振動子11の第2の電極層17上に、第2のフレキシブルケーブル13を積層配置する。このとき、第2のフレキシブルケーブル13は、電極パターン13aを圧電振動子11の第2の電極層17の側へ対向させ、第2のフレキシブルケーブル13の電極パターン13aと、圧電振動子11の第2の電極層17とが接続されるようにする。
【0091】
次に、第2のフレキシブルケーブル13上に、図示しない熱硬化型接着剤を塗布し、その上に第1の整合層14を載置する。また、第1の整合層14の上に、さらに図示しない熱硬化型接着剤を介して、第2の整合層15を積層載置する。
【0092】
このようにすることで、第1のフレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2のフレキシブルケーブル13、第1の整合層14、第2の整合層15が順次された積層体3が形成される。なお、この積層体3は、図8(b)に示すように、フレキシブルケーブル固定用治具32の上に載置されている状態となっている。このとき、積層体3は、図8(b)に示すように、平面状となっている。
【0093】
次に、図示しない加圧装置等の上に背面負荷材2を載置し、背面負荷材2の上面の凹面部に熱硬化型接着剤37を塗布する。この、背面負荷材2の上に、フレキシブルケーブル固定用治具32から取り外された積層体3を載置する。このとき、図8(c)に示すように、第1のフレキシブルケーブル12のベース部12bを、背面負荷材2側とする。
【0094】
なお、前記したように、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12との間に、背面負荷材2と同じ材料のプレートを備えている場合には、積層体3とプレートとを、背面負荷材2の上に載置することになる。
【0095】
続いて、図示しない加圧装置に設けられている、上下動作自在な加圧板21によって、積層体3を上方から押下する。
【0096】
加圧板21の下面(押圧面)の形状は、所定の曲率Rである凸形状を有する略蒲鉾形状を呈していて、積層体3は、均一な所定圧力A(例えば40g/mm2、図7(b)で示した工程と同じ圧力)で上方から押下される。そして、加圧板21が積層体3を押下している状態で、熱硬化型接着剤の硬化を行う。具体的には、加圧板21による押圧状態を維持したまま、熱硬化炉等に投入し、熱可塑性の材料が軟化する温度で所定時間(例えば、熱硬化型接着剤として、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353ND(商品名)を使用した場合は、90度で60分程度)の硬化処理を行う。
【0097】
この時、例えば第1の実施形態で説明したように、背面負荷材2が熱可塑性の材料でできている場合には、加圧板21の押圧面に対応した凹形状に変形する。このため、圧電振動子11の破損や、積層体3の各部材間に介在する図示しない接着層の厚さのばらつきによる、電気的接続不良や音響性能のばらつきを抑えることができる。
【0098】
熱硬化型接着剤が硬化したのち、加圧板21による押圧を解放すれば、圧電振動子11や、第1の整合層14、第2の整合層の表面が所定の曲率の湾曲面を有する積層体3が、背面負荷材2の上に固着形成された状態となる。
【0099】
また、第2の実施形態で示した場合のように、背面負荷材2が軟性のフェライトゴムでできている場合には、加圧板21で押圧された状態で、圧電振動子11の接着剤を硬化することで、圧電振動子11が所定の湾曲形状を保ったまま、所定の強度となる。
【0100】
最後に、第2のフレキシブルケーブル13側より所定のピッチでダイシングを行い、圧電振動子11を電気的に独立した複数のアレイ38に分割する。なお、この時の切込み溝の幅pは、約10μm〜100μmである。
【0101】
その後、第1のフレキシブルケーブル12と、第2のフレキシブルケーブル13の両側端部を、背面負荷材2の側面に沿うように折り曲げることで、図9に示す形状の超音波探触子1を得ることができる。
【0102】
以上、図7から図9を用いて説明したとおり、本実施形態の超音波探触子の製造方法によれば、略蒲鉾形状を呈した加圧板21のあらかじめ設定された凸形状の曲率Rに応じて積層体3を湾曲させることによって、圧電振動子11で送受信が行われる超音波ビームを、振動素子の配列方向と直交する方向において集束させることが可能となり、音響レンズを用いることなく超音波ビームのフォーカスを行うことができる。
【0103】
また、本実施形態の製造方法によれば、所定の曲率Rである凸形状の押圧面を有する加圧板21により圧力を加え、積層体3を所定の曲率である凹形状に押圧変形し、相互の部材が密着した状態で各部材間に介在する接着剤の加熱硬化が行われる。このとき、熱可塑性の背面負荷材2を用いている場合には、接着剤を硬化させるための熱によって、背面負荷材2が加圧板21の押圧面に対応した凹形状に変形するので、圧電振動子11の破損を効果的に防止し、積層体3の各部材間に介在する接着層の厚さばらつきによる電気的接続不良や音響性能のばらつきを抑えることができる。
【0104】
さらに、加圧板21の下面(押圧面)凸形状の半径寸法を高精度に加工することで、背面負荷材2の上面凹面の形状として高い精度を必要としない。また、背面負荷材2上面の凹形状との中心軸と、加圧板21の下面(押圧面)凸形状の中心軸とを高精度に合致させる必要もない。このため、超音波探触子の製造が容易、かつ、低コストのものとなる。
【0105】
さらにまた、加圧板の下面(押圧面)凸形状に応じて容易に超音波ビームの方向を決定することが可能になり、ビーム特性の改善が容易になる。
【0106】
以上、本発明の超音波探触子とその製造方法について、全ての実施形態において、背面負荷材の上面を凹面形状とした場合を例にとって説明してきた。しかし、本発明の超音波探触子、および、その製造方法は、これに限られるものではなく、必要に応じて背面負荷材の上面を凸面形状としてもよい。
【0107】
また、上記各実施形態の説明では、圧電振動子が直線状に並んだリニア型の超音波探触子について説明を行ったが、その他のコンベックス型や、マトリックスアレイ型の超音波探触子についても、同様に本発明を実施することが可能である。
【0108】
また、上記各実施形態では、圧電振動子を湾曲させるために圧電振動子の厚さよりも小さい深さの複数の切り欠き溝を形成する例について説明したが、この切り欠き溝で圧電振動子を完全に分断する形態、すなわち、切り欠き溝が圧電振動子の厚さと同じ深さであり、個々の振動子が完全に分離する形態であっても、本発明を同様に適用することで、高精度な曲面形状を有する超音波探触子を、低コストで実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、超音波を被検者の体内に放射し、各体内組織の境界で反射する超音波から体内の画像を表示することのできる超音波診断装置に接続される超音波探触子において、高い精度での湾曲形状を有する圧電振動子を含む超音波探触子、および、その製造方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 超音波探触子
2 背面負荷材
3 積層体
11 圧電振動子
12 第1のフレキシブルケーブル
13 第2のフレキシブルケーブル
14 第1の整合層(音響整合層)
15 第2の整合層(音響整合層)
16 第1の電極層
17 第2の電極層
18 切り欠き溝
19 熱硬化型接着剤
21 加圧板
27 無効領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を被検者の体内に放射し、体内組織などの境界で反射する超音波から、体内の画像を表示することのできる超音波診断装置に接続される超音波探触子、および、その製造方法に関するものであり、特に超音波ビームのフォーカス精度を向上させた超音波探触子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体である生体に対して超音波の送受信を行い、生体の観察を行う超音波診断装置が普及している。超音波診断装置において、接続された超音波探触子によって超音波ビームの送受信を行う場合には、超音波ビームをフォーカスすることが必要となる。
【0003】
超音波ビームのフォーカスには、超音波探触子に設けられた超音波を発生する圧電振動子を構成する振動素子の配列方向のフォーカスと、振動素子の配列方向と直行する超音波ビームの照射方向におけるフォーカスの2種類がある。このうち、振動素子の配列方向のフォーカスは、送信時では、各振動子に印加する送信波を遅延させることにより、また、受信時では、各振動子の受信波を遅延させることにより行う、電子フォーカスが用いられている。一方、振動素子の配列方向と直交する方向の超音波ビームのフォーカスは、振動素子の前方に設けたシリコーンゴム製の音響レンズを用いて行われてきたが、シリコーンゴムの音響レンズでは、温度依存性によるフォーカス位置のばらつきや高周波における減衰などの問題があった。このため、音響レンズを使用するフォーカスの代わりに、圧電振動子の表面を所定の曲率を持った凹面形状とする方法が提案されていた。
【0004】
図10は、このような、圧電振動子の表面を所定の曲率を持った凹面形状とする従来の超音波探触子の製造方法を示す図である。なお、図10では、超音波探触子の側面方向から見た状態を示している。
【0005】
図10に示すように、従来の超音波探触子50の製造方法は、圧電振動子53の表面が形成する所定の凹曲面に対応する凹曲面形状の上面を有する硬質の背面負荷材51の上に、第1フレキシブルケーブル54、圧電振動子53、第2フレキシブルケーブル55、第1音響整合層56、第2音響整合層57が順次積層配置された積層体52を載置した状態で、上方より加圧板58によって所定圧力を加えることで、背面負荷材51と積層体52との成型固着を行うものであった。
【0006】
加圧板58の下面(押圧面)は、背面負荷材51の上面の形状に対応した、一方向に湾曲した曲面形状を有する略蒲鉾型の形状となっていて、所定の均一な圧力で積層体52の上方から積層体52を押下する。この結果、積層体52は背面負荷材51の上面形状と加圧板58の下面形状に従って湾曲すると共に、相互の部材が密着される。また、加圧板58が積層体52を押下した状態で、各部材間にあらかじめ介在させておいた図示しない接着剤の硬化が行われる。
【0007】
このような従来の超音波探触子50では、背面負荷材51として、例えばエポキシ樹脂を主体にタングステン等の金属を混入させて成る硬質材料で形成されていた。また、圧電振動子53は、配列方向と直交する方向に図示しない複数の切欠き溝が形成され、加圧板58により外力を加えることによって、湾曲させることができる。
【0008】
従来の超音波探触子では、このように、あらかじめ設定された背面負荷材51の上面の曲面形状に応じて積層体52を湾曲させることによって、圧電振動子53で送受信される超音波ビームを集束させることが可能になり、音響レンズを用いることなく超音波ビームのフォーカスを行うことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−317999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の超音波探触子の製造方法では、積層体52を、硬質の背面負荷材51の上面と加圧板58の下面とで所定の圧力を加えながら挟むことで、所定の形状に湾曲させると同時に相互の部材を密着させるものであるため、加圧板58の下面(押圧面)の凸形状と背面負荷材51の上面の凹面形状とが高い精度で対応していることが必要となる。
【0011】
すなわち、図11(a)に示すように、背面負荷材51の上面の凹曲面の曲率をR4、積層体52の厚さをt、加圧板58の押圧面の凸形状の曲率をR5としたとき、R5=R4−tの関係を満たすことが必要となる。なお、図11(a)および後述する図11(b)では、図の煩雑化を避けるためハッチングを省略している。
【0012】
しかし、例えばR5<R4−tの場合には、背面負荷材51の上面凹曲面の中心軸60の近傍から、図11(a)中の左右方向の端部にいくにつれて、背面負荷材51の上面と積層体52との間の隙間が大きくなる。このため、背面負荷材51の周辺部分では加圧板による押圧力Dが充分に伝わらずに接着剤層の厚さが厚くなって、電気的な接続不良が生じたり、積層体52の圧電振動子53の表面(超音波ビーム放射方向側の面)が正しい曲率を保てずに、超音波ビームのフォーカス特性が低下したりする原因となる。逆にR5>R4−tの場合には、背面負荷材51と積層体52との間隔が、背面負荷材51の中心軸60の近傍で広くなり、図11(a)中の左右方向の端部近傍で間隔が狭くなるため、やはり電気的接続不良やフォーカス性能の低下が生じ、さらには、加圧板58の押圧力Dによって圧電振動子53が破損してしまうこともある。
【0013】
また、上記従来の超音波探触子の製造方法では、積層体52の押圧時に、加圧板58と背面負荷材51との中心軸を正確に一致させることも必要となる。
【0014】
図11(b)に示すように、背面負荷材51の上面凹面形状の中心軸60と加圧板58の下面(押圧面)凸形状の中心軸60bが、x2だけ図中右側にずれた状態で所定圧力Dを積層体52の上方から積層体52に加えると、図中左側の積層体52の端部近傍の押圧力が、中心軸60b近傍の押圧力Dよりも小さくなる。この結果、背面負荷材51と積層体52との間の部分61や、積層体52を構成する各部材間、例えば図11(b)では、第1音響整合層56と第2音響整合層57との間の部分62に、接着剤層の厚い部分が生じる。そして、この場合にも、電気的接続不良やフォーカス特性の低下、さらには、圧電振動子53の破損などが生じることとなる。
【0015】
したがって、従来の超音波探触子の製造方法では、製造された超音波探触子50の電気的性能、超音波ビームのフォーカス特性が不十分であったり、背面負荷材51の上面曲面形状や、押圧板58の凸面形状、また、押圧板58での積層体52の押圧固着工程での各部材相互間の位置管理に対して高い精度が要求され、背面負荷材51などの部品コスト、超音波探触子の製造コストが上がったりするという問題があった。
【0016】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、その表面が湾曲形状を有する圧電振動子を有した超音波探触子において、圧電振動子表面の湾曲形状の寸法精度を高めることで、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さく、部品コストも低くて、かつ、容易に製造することのできる超音波探触子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の超音波探触子は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、前記背面負荷材の前記上面の曲面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、前記変形工程の形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波探触子は、背面負荷材の上面の曲面が、積層体が載置された状態で所定の曲率の曲面に形成されたものであるため、圧電振動子の湾曲形状の寸法精度を高めることができて、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さくなる。また、背面負荷材や製造装置に要求される寸法精度が低くなるため、部品コストや製造コストを低減することができる。
【0020】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、積層体と背面負荷材の上面とを、加圧板の所定形状に倣った形状とする変形工程と、変形工程での形状を維持したまま圧電振動子の切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、積層体と背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有しているため、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さい超音波探触子を、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の第1の作用効果を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態にかかる超音波探触子の第2の作用効果を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の比較例の構成を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態にかかる超音波探触子の、最表面の音響整合層の表面形状を示す図である。
【図7】本発明の超音波探触子の製造方法の前半の工程を示す図である。
【図8】本発明の超音波探触子の製造方法の後半の工程を示す図である。
【図9】本発明の超音波探触子の製造方法の完成状態を示す斜視図である。
【図10】従来の超音波探触子の製造方法を示す構成概念図である。
【図11】従来の超音波探触子の課題を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の超音波探触子は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、前記背面負荷材の前記上面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものである。
【0023】
このようにすることで、あらかじめ形成されていた背面負荷材の上面(圧電素子側の面)の曲面の曲率の精度が低い場合であっても、圧電振動子の表面の曲率を容易に所望の曲率とすることができるので、超音波ビームのフォーカス性能の優れた超音波探触子を実現することができる。また、背面負荷材と積層体の湾曲形状を容易に揃えることができるので、接続不良などの電気的特性の低下を抑えた超音波探触子を低コストで得ることができる。
【0024】
本発明の超音波探触子において、前記背面負荷材が熱可塑性を有する材料であることが好ましい。このようにすることで、背面負荷材を加熱して所定の形状に容易に変形させることができるため、圧電振動子の表面(超音波ビーム放射方向側の面)の曲率を正確に規定することができる。
【0025】
また、前記背面負荷材がフェライトゴムであることが好ましい。柔らかなフェライトゴムの背面負荷材は、所定の形状に容易に変形させることができるため、圧電振動子の表面の曲率を正確に規定することができる。
【0026】
さらに、前記圧電振動子と前記第1のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の裏面に形成された第1の電極層によって接続され、前記圧電振動子と前記第2のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の表面に形成された第2の電極層によって接続されていて、前記圧電振動素子の前記表面および前記裏面の少なくともいずれか一方の面に、前記第1の電極層または前記第2の電極層が形成されていない無効領域を有することが好ましい。
【0027】
このようにすることで、背面負荷材の上面の形状が変形しても、圧電振動子の有効開口領域において、圧電振動子の表面の曲率を精度よく維持することができる。
【0028】
また、本発明の超音波探触子の製造方法は、シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、前記変形工程での形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有する。
【0029】
このようにすることで、積層体の湾曲形状を容易に加圧板の押圧面形状に倣った形状とすることができ、また、背面負荷材の上面の形状も積層体の湾曲形状に倣った形状にすることができる。このため、圧電振動子の表面の曲率を所望のものとすることができ、積層体を構成する各部材同士や積層体と背面負荷材との接着を、それぞれの部材が密着した状態で行うことができるので、接続不良などの電気的特性の低下や、圧電振動子の破損などが生じない超音波探触子の製造方法を提供することができる。このため、超音波ビームのフォーカス特性や電気的特性の優れた超音波探触子を、安価に製造することができる。
【0030】
以下、本発明にかかる超音波探触子、およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
(実施の形態1)
まず、第1の実施形態として、本発明にかかる超音波探触子について説明する。
【0032】
図1は、本実施形態にかかる超音波探触子1の短軸方向、すなわち、その上面に形成されている所定の曲率の湾曲方向を見た概略断面図である。
【0033】
本実施形態の超音波探触子1は、凹曲面形状の上面を有する背面負荷材2の上に、積層体3が積層され、接着剤で固着一体化されている。積層体3は、シート状の第1のフレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2のフレキシブルケーブル13、音響整合層である第1の整合層14、第2の整合層15が順次積層され、それぞれの部材間に配置された熱硬化タイプの接着剤(図示せず)によって、一体となっている。
【0034】
背面負荷材2は、一定の温度(熔融温度)以上となると柔らかくなり、外力を加えて形状を変化させた後常温に戻すと所定の硬度を有するようになる熱可塑性の材料で形成されている。このような熱可塑性の材料としては、100℃以下で変形が可能な(例えばガラス転移温度が100℃以下である)エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等にマイクロバルーン等を混入した材料、ガラス繊維製の布(クロス)を重ねたものに前記エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を含浸させた材料、またはポリスチレンに発泡剤を用いて成型する発泡スチロールに前記エポキシ、ウレタンゴム、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を含浸した材料などを用いることができる。なお、分極処理された圧電振動子を100℃以上の高温環境下におくと圧電性が失われるため、100℃以下で変形が可能な熱可塑性の材料を使用することが望ましい。
【0035】
図1に示すように、背面負荷材2の上面は、その短軸方向である、圧電振動子11で送受信される超音波ビームの走査方向に直交する方向、図1での左右方向への凹曲面となっている。この凹曲面は、積層体3がその上面に載置された状態で所定の曲率、例えば、その曲率半径が照射される超音波ビームの焦点距離とほぼ等しくなるような曲率の面として形成されたものである。この凹曲面の好ましい曲率は、断層画像検査を行う対象臓器に適した超音波探触子の種類によって異なる。例えば、主として腹部および産婦人科の断層画像検査(臓器の描出、病変の位置の決定)などを目的として設計された超音波探触子においては、超音波ビームの焦点距離は一般的に50mm程度であり、凹曲面の曲率半径は約50mmとなる。
【0036】
より具体的には、本実施形態の超音波探触子1の背面負荷材2上面の曲面形状は、背面負荷材2の上面に積層体3が載置された状態で、上方から所定の曲率である凸形状の押圧面を有する図示しない加圧板によって圧力を加え、積層体3とともに所定の曲率である凹形状に押圧変形させ、相互の部材が密着した状態で各部材間に介在する接着剤の加熱硬化を行って形成されたものである。このため、後述するように、背面負荷材2単体の状態で形成されている上面の曲面は、高い寸法精度の曲率を有している必要が無く、背面負荷材2自体を安価に製作することができる。
【0037】
この背面負荷材2は、圧電振動子11の裏面側(超音波ビーム発射方向とは反対側、図1における下側)で、圧電振動子11からの超音波振動の機械的なダンピングを行い、周波数帯域を広くする機能を有している。
【0038】
背面負荷材2上面の凹曲面上には、図示しない熱硬化型接着剤を介して、積層体3を構成するシート状のフレキシブル配線基板からなる、第1のフレキシブルケーブル12が配置されている。第1のフレキシブルケーブル12は、ポリイミドなどの高分子フィルム製のベース部12bと、このベース部12b上の圧電振動子11側に、圧電振動子11に対応するように形成された、例えば銅層からなる電極パターン12aとで構成されている。また、第1のフレキシブルケーブル12の両端部は、圧電振動子11との積層部分より図1の左右方向に延出し、背面負荷材2の側面に沿って、図1中の下側に引き出されている。そして、延出部分の両先端部は、図示しない信号用電気端子に電気的に接続される。なお、電極パターン12aの銅層表面には、蒸着、めっき、スパッタリング等により、金またはニッケル層等を形成し、酸化防止処理を行うことが望ましい。
【0039】
圧電振動子11は、PZT系などの圧電セラミックス、単結晶、および、PVDF等の高分子等を用いた圧電素子である。圧電振動子11の表面、すなわち第2のフレキシブルケーブル13に面した面と、裏面、すなわち第1のフレキシブルケーブル12に面した面には、ともに電極が形成されていて、第1のフレキシブルケーブル12、第2のフレキシブルケーブル13と接続可能となっている。本実施形態の圧電振動子11では、第1のフレキシブルケーブル12と接続される裏面側に、第1の電極層としての正電極層16が、第2のフレキシブルケーブル13と接続される表面側に、第2の電極層としての接地電極層17が、それぞれ形成されている。これらの、正電極層16や接地電極層17は、例えば、高周波化に有効な厚さ1000Å程度の金スパッタ電極層などとして形成することができる。また、正電極層16と接地電極層17とを入れ替えて、第1の電極層を接地電極層、第2の電極層を正電極層とすることもできる。
【0040】
本実施形態の超音波探触子1の圧電振動子11は、その厚さ方向に平行、すなわち、表面および裏面とは垂直な方向に、複数の切り欠き溝18が形成されているため、主面である表面の側から外力を加えることによって、湾曲させることができる。また、切り欠き溝18内部に、あらかじめ熱硬化型の接着剤19を充填しておき、圧電振動子11が湾曲した状態でこれを加熱硬化することによって、圧電振動子11と後述する第2のフレキシブルケーブル13とを接着すると同時に、圧電振動子11の所定の曲面形状を保った状態でその強度を確保することができる。
【0041】
圧電振動子11の表面側の接地電極層17の上には、図示しない熱硬化型接着剤を介して、第2のフレキシブルケーブル13が積層されている。第2のフレキシブルケーブル13は、第1のフレキシブルケーブル12と同様に、ポリイミド製のベース部13bと、このベース部13bの圧電振動子11側に、圧電振動子11に対応するように形成された、例えば銅層からなる電極パターン13aとで構成されている。また、この第2のフレキシブルケーブル13の両端部も、第1のフレキシブルケーブル12の両端部と同様に、圧電振動子11との積層部分より図1における左右方向に延出し、背面負荷材2の側面に沿って、図1中下側に引き出され、図示しない信号用電気端子に電気的に接続される。なお、電極パターン13aの銅層表面に、酸化防止処理を行うことが望ましいことも第1のフレキシブルケーブル12と同じである。
【0042】
本実施形態の場合は、第1のフレキシブルケーブル12がシグナルリード薄板として機能し、第2のフレキシブルケーブル13がグランドリード薄板として機能して、圧電振動子11に所定の駆動電圧を印加すると共に、生体で反射した超音波ビームに基づく信号を図示しない超音波診断装置に送出している。
【0043】
第2のフレキシブルケーブル13の上面には、厚さが超音波ビームの波長のλ/4(一例として、腹部および産婦人科の断層画像検査などを目的として設計された中心周波数3MHzの超音波探触子においては、0.25mm)に相当するグラファイト(黒鉛)シートからなる音響整合層としての第1の整合層14と、第2の整合層6が配置され、前記圧電振動子1等の音響インピーダンスと、被検体である生体の音響インピーダンスとの整合を行うことによって、超音波の伝達性の向上を図っている。
【0044】
なお、本実施形態では、第1の整合層14と第2の整合層15との二層の音響整合層を有する超音波探触子1を説明しているが、音響整合層の層数(枚数)は一層以上であれば特に限定はなく、超音波を発生する圧電振動子11と被検体である生体との音響インピーダンスをとることができる構成であればよい。また、第1の整合層14と第2の整合層15とを、いずれも第2のフレキシブルケーブル13の上に積層した構成の積層体3を示したが、第1の整合層を例えばグラファイトなどの導体とし、圧電振動子1と第2のフレキシブルケーブル12との間に、第1の整合層を設ける構成とすることもできる。
【0045】
上記のように、本実施形態の超音波探触子1の積層体3は、背面負荷材2上面に載置された状態で、所定の曲率である凸形状の押圧面を有する、図1では図示しない加圧板によって圧力を加えられ、背面負荷材の2の上面と同様に所定の曲率を有する凹面形状に押圧変形させられたものである。このため、本実施形態の超音波探触子1の圧電振動子11の表面は、超音波ビームを高い精度でフォーカスすることができる曲面形状を有している。
【0046】
ここで、以上のように構成された超音波探触子1の動作を説明する。
【0047】
図示しない超音波診断装置本体の送信部から送信された複数の電気信号は、図示しないケーブルを経て、第1のフレキシブルケーブル12を介して、複数の圧電振動素子がアレイ状に配列された圧電振動子11に印加される。圧電振動子11は、加えられた電気信号に対応して、機械振動である超音波を励起(送波)する。励起された超音波は、第1の整合層14および、第2の整合層15によって生体との音響的な整合が図られると共に、圧電振動子11の表面を、曲率を持った凹面形状とすることにより、収束されて生体内へ送波される。また、圧電振動子11は、圧電効果により、生体より戻って来た超音波に対応して電気信号を発生(受波)する。受信された超音波信号は、電気信号に変換された後、第2のフレキシブルケーブル13を経て、図示しないケーブルを介して、超音波診断装置本体の受信部に送信される。
【0048】
受信部で受信した信号を処理し、超音波診断装置本体の表示部に受信信号の画像を表示することにより、患者の体内の画像をモニター上で確認できる。これらの動作は従来の超音波探触子と同様のものであるが、本実施形態にかかる超音波探触子1は、上記の本体の送信、受信方式に限定されるものではなく、様々な他の送受信方法の超音波診断装置の探触子として使用することができる。
【0049】
次に、図2および図3を用いて、本実施形態の超音波探触子1が、圧電振動子11表面の湾曲形状の寸法精度が高く、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきが小さいこと、また、部品コストが低くて、かつ、容易に製造することのできるものであることについて説明する。
【0050】
図2(a)、図2(b)は、本実施形態の超音波探触子1の製造状態の様子を示す概略断面構成図であり、従来の超音波探触子51における課題を説明した図10(a)に相当する図面である。なお、図10と同様、図2でも部材のハッチングは省略している。また、超音波振動子11の形状はその外形のみを示している。
【0051】
本実施形態の超音波探触子1では、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されているため、背面負荷材2の上に積層体3を載置し、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型接着剤で接着固定する際に、加圧板21によって積層体3の表面を所定の曲率の曲面とすると同時に、背面負荷材2上面の凹曲面の曲率も所望のものとすることができる。
【0052】
すなわち、図2(a)に示すように、背面負荷材2の上面の曲面R1が、加圧板21の凸曲面の曲率R2と積層体3の厚さTとの和(R2+T)と正確に同じでは無い場合、例えば、図2(a)のように、R1>R2+Tの関係が成り立つ場合には、積層体3の各部材の間22や、背面負荷材2と積層体3の間23の、特に周辺の近傍部分に隙間が生じる。また逆に、図示しないが、R1<R2+Tの関係が成り立つ場合には、背面負荷材2と積層体3の中央近傍、すなわち、背面負荷材2の上面の凹曲面および加圧板21の押圧面の凸曲面の中心軸24の近傍の部分で隙間が生じる。
【0053】
しかし、本実施形態の超音波探触子1では、背面負荷材2が100℃以下で変形可能な熱可塑性の材料でできているために、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型の接着剤によって接着するために加えられる熱によって、背面負荷材2が、まず変形しやすい状態となる。そして、図2(b)に示すように、背面負荷材2と積層体3の少なくともいずれか一方が加熱されることで、背面負荷材2の温度が上昇して形状変化が生じるようになっている状態で、加圧板21によって積層体3の上方から所定の力Aで押圧されたとき、背面負荷材2の上面は、加圧板21の下面の凸曲面に倣った形状となった積層体3からその全面に力Bが働いて、背面負荷材2の上面を積層体3の曲率に倣わせて、所定の曲率R1(=R2+T)となるように変形させる。この状態で、背面負荷材2と積層体3とを熱硬化型接着剤で固定接着することで、背面負荷材2の上面が所定の曲率の曲面に形成される。
【0054】
図3(a)、図3(b)は、本実施形態の超音波探触子1の製造状態の様子を示す別の概略断面構成図であり、従来の超音波探触子51における課題を説明した図10(b)に相当する図面である。なお、図2と同様に部材のハッチングは省略し、超音波振動子11の形状はその外形のみを示している。
【0055】
図3(a)に示すように、背面負荷材2の上面凹面形状の中心軸24と加圧板21の下面(押圧面)凸形状の中心軸24bが「x1」だけ図中右側にずれた状態で、上方から押圧力が積層体3に加わると、図中左側部分の積層体3の端部近傍への押圧力が、中心部分や図中右側部分への押圧力よりも小さくなって、背面負荷材2と積層体3との間の部分25や、積層体3を構成する各部材間、例えば図3(a)の第1の整合層14と第2の整合層15との間の部分26に、接着剤層の厚い部分が生じる。
【0056】
しかし、本実施形態の超音波探触子1は、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されているため、図3(b)に示すように、背面負荷材2の上に積層体3を載置し、背面負荷材2および積層体3の少なくともいずれか一方を加熱して、熱硬化型接着剤で接着固定する際に、背面負荷材2に伝わった熱により背面負荷材2が変形可能となる。そして、加圧板21の押圧力Aが、積層体3を介して背面負荷材2上面に分散した押圧力Bとして伝わって、背面負荷材2上面の凹曲面の曲率も所望のものとすることができる。この結果として、本実施形態の超音波探触子1では、図10(b)として示した従来の超音波探触子50に生じたような、電気的接続不良やフォーカス特性の低下、さらには、圧電振動子11の破損などを生じることがない。
【0057】
以上のように、本実施形態の超音波探触子1は、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されている。このため、背面負荷材2単独の状態では、その上面の曲面の曲率が正確に形成されていなくても、背面負荷材2上に積層体3が載置された状態で、加圧板21で加熱・押圧されることで、金属加工により高い曲面精度を得ることができる加圧板21の凸曲面形状、さらに、それぞれの部材の厚みを正確に制御できる積層体3の厚さ方向寸法を介して、背面負荷材2の上面の形状を正確に所定のものとすることができる。そして、結果として、超音波振動子3の表面の曲面形状も上記の精度に準じて所望のものとすることができる。
【0058】
このような本実施の形態の超音波探触子1によれば、超音波の走査方向に対し、直交する方向に所定曲率を持った超音波振動子3を得ることができ、振動子アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2として、本発明にかかる他の超音波探触子について説明する。
【0060】
実施の形態2にかかる超音波探触子は、背面負荷材の材料がフェライトゴムである点で、背面負荷材2が熱可塑性の材料で構成されている上記した実施の形態1にかかる超音波探触子と異なっている。なお、実施の形態2にかかる超音波探触子の、背面負荷材以外の部材の構成や、形状などは実施の形態1として説明した上記の超音波探触子と同じであるため、図面を示しての詳細な説明は省略する。
【0061】
実施の形態2にかかる超音波探触子では、背面負荷材が、柔らかなフェライトゴムで形成されているために、加圧板の下面(押圧面)凸形状と背面負荷材の上面凹面形状が正確に対応していない場合でも、また、背面負荷材の上面凹面形状の中心軸と、加圧板の下面(押圧面)凸形状の中心軸とが一致していない状態であっても、背面負荷材の上面の形状が、加圧板の下面の凸形状に倣った形状となりやすい。したがって、上記した実施の形態1における超音波探触子と同様に、高い寸法精度を有することができる加圧板の下面(押圧面)凸形状の曲率半径、同じく高い精度で制御できる積層体の厚み寸法から、背面負荷材の上面に形成される凹面形状を所望の曲率を有したものとすることができる。
【0062】
このため、実施の形態2に示した超音波探触子も、超音波振動子の表面の曲率半径を所望のものとすることができ、振動子アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0063】
なお、本実施形態の超音波探触子の圧電振動子は、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成されている。このため、圧電振動子を含む積層体を、背面負荷材の上面に載置して固着する際に、圧電振動子の切り欠き溝内に浸透した接着剤が固着され、圧電振動子の表面が所望の曲面状態を保ったまま硬化させることができる。このため、実施の形態1で用いた熱硬化性の材料とは異なり、本実施の形態にかかる超音波探触子の背面負荷材は、接着剤の加熱・硬化後も軟性を有しているフェライトゴムを用いているが、積層体と積層固着された状態の超音波探触子は、実使用時に変形などが生じない実用的な強度を得ることができる。
【0064】
(実施の形態3)
次に、本発明の超音波探触子の第3の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0065】
図4は、本発明の第3の実施形態にかかる超音波探触子の構成を示す概略断面図である。また、図5は、本発明の第3の実施形態にかかる超音波探触子の理解を容易にするための比較例としての構成を示す概略断面図である。
【0066】
図4に示すように、第3の実施形態にかかる超音波探触子100は、上記図1を用いて説明した第1の実施形態の超音波探触子1や第2の実施形態の超音波探触子と比較して、積層体3を形成する圧電振動子30が超音波ビームの走査方向であるその湾曲方向、すなわち図4の左右方向に幅広く形成されている。例えば、図4に示す本実施形態にかかる超音波探触子100では、圧電振動子30の幅は、第2のフレキシブルケーブル13を介して積層される、第1の調整層14および第2の調整層15の幅とほぼ同じ幅となっている。
【0067】
また、本実施形態の超音波探触子100の圧電振動子30では、その表面側で第2のフレキシブルケーブル13と接続される接地電極層17が、圧電振動子30の表面の中央部分にのみ形成されていて、その両端部分には形成されていない。この結果、本実施形態の超音波探触子100の圧電振動子30は、その表面の幅Zに対して、中央部分の幅Yの部分のみが実際に超音波振動子として機能する有効開口領域となり、圧電振動子30の表面の周辺部分は、第2のフレキシブルケーブル13と接続されていないために超音波振動子として機能する有効開口領域とは逆に超音波振動子として機能しないという意味で「無効」な、無効領域27となっている。なお、図4に示す本実施形態の超音波探触子100は、圧電振動子30の幅が広いことと、圧電振動子30の表面側の接地電極層17が形成されていない無効領域27を有している点以外は、図1に示す第1の実施形態の超音波探触子1と同じである。このため、図1に示す、第1の実施形態にかかる超音波探触子1と同一の構成の部分には同一の符号を付与し、その詳細の説明は省略する。また、図4、および図5においても、図2、図3と同様に各部材のハッチングは省略する。
【0068】
本実施形態の超音波探触子100において、圧電振動子30の表面に対して、接地電極層17の形成領域を狭くするためには、圧電振動子30に接地電極層17を金スパッタで形成する際に、無効領域27とする部分にマスキングを施すなどの方法、また、後述するように、圧電振動子30の表面の所定部分を、ダイシングブレードによって削り取るなどの方法を用いることで、所定の領域を無効領域27として容易に形成することができる。
【0069】
このように、本実施形態の超音波探触子は、圧電振動子11の表面の周辺部分を無効領域27としているが、このようにすることの作用効果を、図5に示した比較例100bと対比して説明する。
【0070】
図5に示す比較例の超音波探触子100bでは、図4に示した第3の実施形態の超音波探触子100と異なり、積層体3を形成する圧電振動子30bの幅が、第2のフレキシブルケーブル13を介して積層される第1の調整層14、および、第2の調整層の幅よりも狭くなっている。また、図5に示す比較例100bでは、超音波探触子100bの圧電振動子30bの表面全面に第2の電極層である接地電極層17が形成されていて、全ての領域が有効開口領域となり、図4に示した第3の実施形態の超音波探触子100のような無効領域27を有していない。
【0071】
このような、図5に示す比較例の場合には、超音波探触子の製造過程において積層体3が背面負荷材2の側面に沿って図5における図中下側方向に折り曲げられた際に、積層体3を形成する音響整合層14、15の表面の曲面が、所定の曲率とならない場合がある。
【0072】
本発明にかかる超音波探触子1では、第1の実施形態として示したように、背面負荷材2が熱可塑性の材料で形成されていたり、第2の実施形態として示したように、背面負荷材2がフェライトゴムで形成されていたりする。このため、積層体3のシグナルリード薄板やグランドリード薄板として機能する第1のフレキシブルケーブル12と第2のフレキシブルケーブル13の側端部を、背面負荷材2の側面に沿って折り曲げてその両端を図示しない信号用電気端子に接続する際に、第1のフレキシブルケーブル12と第2のフレキシブルケーブル13とに、図4、および、図5に矢印Cとして示した張力が、図中下側に向かって印加される。このとき、背面負荷材2の肩の部分28、すなわち、上面の曲面部分と側壁部分との境界部分が変形して、図4、および、図5に示されるような「だれ」が生じる。
【0073】
そして、この背面負荷材2の変形(「だれ」)に伴って、第1フレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2フレキシブルケーブル13、第1の整合層14、第2の整合層15が順次積層配置された積層体3の端部も変形してしまう。その結果、超音波ビームの送受信を行う最表面に位置する音響整合層、特に、本実施形態の場合は第2の整合層15の表面29の曲率が、その周辺領域31で所定の曲率R3を保てなくなってしまう。
【0074】
この場合において、図4に示す本実施形態の超音波探触子100では、圧電振動子30の幅が超音波整合層14、15と同じ幅を有し、かつ、圧電振動子30の表面の周辺部分に無効領域27が形成されているため、圧電振動子30の中央部分の有効開口領域では、その最表面の音響整合層14、15の表面29の曲率は正確に所定の曲率R3を描いている。これに対し、図5に示す比較例の超音波探触子100bでは、圧電振動子30bの幅が音響整合層14、15の幅よりも狭く、かつ、圧電振動子30bの表面の全てが有効開口領域となっているため、有効開口領域の端部近傍の部分31では音響整合層14、15の形状が変形して、その部分31において音響整合層14、15の表面29の曲率が所定の曲率R3を描いていない。
【0075】
図6は、図4に示した第3の実施形態にかかる超音波探触子の、最表面の音響整合層、すなわち第2の整合層15の表面の形状を示すイメージ図である。
【0076】
図6(a)は、第2の整合層15の表面の高さhと水平方向距離xとの関係を示したものであり、図6(b)は、第2の整合層15の表面の曲率半径rと水平距離xとの関係を示している。
【0077】
図6(a)、図6(b)に示すように、本実施形態の超音波探触子100の第2の整合層15の表面は、圧電振動子30の表面に対応する全ての領域Zのうち、有効領域Yを外れた無効領域27に相当する表面29の周辺部分31で水平距離xに関する高さhの変化の度合いが乱れ、水平距離xに対する曲率半径rの値も有効領域Yの両側の周辺領域31で乱れている。しかし、有効領域Yの部分においては、水平距離xの変化に応じて一定の曲率rを保っていることが分かる。
【0078】
なお、上記第3の実施の形態では、圧電振動子30の幅Zに対する有効領域の幅Yを狭くするために、圧電振動子30の表面側に形成される第2の電極層17の形成領域を狭くしたが、本発明はこれに限らず、圧電振動子30の裏面側、すなわち背面負荷材2側の第1の電極層16の形成領域を狭くすることによっても、圧電振動子30の幅Zに対する有効領域Yの幅を狭くすることができる。
【0079】
このように、本実施形態の超音波探触子100は、圧電振動子30に超音波の送受信に寄与しない無効領域27を設けることで、背面負荷材2に熱可塑性の樹脂や軟質のフェライトゴムを使用することによって生じる、圧電振動子30の表面における凹面の曲率形状の精度の低下を抑えることができ、アレイ間の超音波ビーム形状や焦点位置のばらつきを抑えることができる。
【0080】
(第4の実施形態)
次に、本発明の超音波探触子の製造方法を、本発明の第4の実施の形態として説明する。
【0081】
図7、図8は、本実施形態の超音波探触子の製造方法のそれぞれの課程を示す概略断面構成図である。
【0082】
まず、図7(a)に示すように、圧電振動子11の両面に、金スパッタにより第1の電極層16と第2の電極層17とを形成する。本実施形態では、第1の電極層17が正電極層となり、第2の電極層17が接地電極層となっている。
【0083】
次に、図7(b)に示すように、例えばシリコン製のゴムシートから成るポリイミド基材に対して粘着性を有するフレキシブルケーブル固定用治具32の上に載置された第1のフレキシブルケーブル12の上に、圧電振動子11を積層する。ここで、第1のフレキシブルケーブル12は、電極パターン12aを上側として、圧電振動子11の第1の電極層16と電極パターン12aとが向かい合うように配置する。
【0084】
第1のフレキシブルケーブル12と圧電振動子11とは、あらかじめ塗布してあった図示しない熱硬化型接着剤を、高圧力(一例として、40g/mm2)下で加熱して圧接、固着する。例えば、熱硬化型接着剤として、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353ND(商品名)を用いた場合には、標準硬化温度・時間は60℃・90分である。
【0085】
なお、本実施形態では、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12とを直接積層する方法について説明したが、例えば、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12との間に、背面負荷材2と同じ材質からなるプレートを介在させて、熱硬化型接着剤を介して、このプレートと第1のフレキシブルケーブル12のベース部12bとを圧接、固着することによって、プレートを積層体3のキャリアとして使用し、そのままプレートを積層体3ごと背面負荷材2の上面に積載固着するという方法も採用することができる。
【0086】
次に、圧電振動子11に、その厚さ方向に平行な切り欠き18を形成する。具体的には、図9(a)に示すように、ダイシングブレード33を、圧電振動子11の長手方向の一方の端部から他方の端部まで、例えば所定のピッチ0.1〜0.5mmで矢印34の方向にダイシングして、圧電振動子柱列を作る。なお、この時の切り欠き溝18の幅は、約10μmから100μmである。
【0087】
ダイシングブレード33によって、圧電振動子11をダイシングする際には、圧電振動子11の第1の電極層16、または、第1のフレキシブルケーブル12の電極パターン12aまでは切り込まずに、少なくとも第1のフレキシブルケーブル12、または、第1のフレキシブルケーブル12と第1の電極層16とは、分割せずに残しておく。
【0088】
次に、図7(d)に示すように、形成された切り欠き溝18に熱硬化型接着剤19を流し込む。
【0089】
なお、上記第3の実施形態に示したように、圧電振動子11の表面の端部近傍を無効領域27とする場合には、圧電振動子11の図7(d)中の左右両端部から所定範囲(無効領域27の範囲)にわたって、ダイシングブレード33の切り込む高さを、電極層27を切削除去する高さ35に設定し、狭ピッチ(例えば、幅10〜100μmのダイシングブレードを使用した場合は、10μmピッチなど)で矢印34の方向に移動させると、圧電振動子11表面の第2の電極層18を、有効開口領域部分を残して無効領域27部分のみ切削することが可能となる。
【0090】
次に、図8(a)に示すように、圧電振動子11の第2の電極層17上に、第2のフレキシブルケーブル13を積層配置する。このとき、第2のフレキシブルケーブル13は、電極パターン13aを圧電振動子11の第2の電極層17の側へ対向させ、第2のフレキシブルケーブル13の電極パターン13aと、圧電振動子11の第2の電極層17とが接続されるようにする。
【0091】
次に、第2のフレキシブルケーブル13上に、図示しない熱硬化型接着剤を塗布し、その上に第1の整合層14を載置する。また、第1の整合層14の上に、さらに図示しない熱硬化型接着剤を介して、第2の整合層15を積層載置する。
【0092】
このようにすることで、第1のフレキシブルケーブル12、圧電振動子11、第2のフレキシブルケーブル13、第1の整合層14、第2の整合層15が順次された積層体3が形成される。なお、この積層体3は、図8(b)に示すように、フレキシブルケーブル固定用治具32の上に載置されている状態となっている。このとき、積層体3は、図8(b)に示すように、平面状となっている。
【0093】
次に、図示しない加圧装置等の上に背面負荷材2を載置し、背面負荷材2の上面の凹面部に熱硬化型接着剤37を塗布する。この、背面負荷材2の上に、フレキシブルケーブル固定用治具32から取り外された積層体3を載置する。このとき、図8(c)に示すように、第1のフレキシブルケーブル12のベース部12bを、背面負荷材2側とする。
【0094】
なお、前記したように、フレキシブルケーブル固定用治具32と第1のフレキシブルケーブル12との間に、背面負荷材2と同じ材料のプレートを備えている場合には、積層体3とプレートとを、背面負荷材2の上に載置することになる。
【0095】
続いて、図示しない加圧装置に設けられている、上下動作自在な加圧板21によって、積層体3を上方から押下する。
【0096】
加圧板21の下面(押圧面)の形状は、所定の曲率Rである凸形状を有する略蒲鉾形状を呈していて、積層体3は、均一な所定圧力A(例えば40g/mm2、図7(b)で示した工程と同じ圧力)で上方から押下される。そして、加圧板21が積層体3を押下している状態で、熱硬化型接着剤の硬化を行う。具体的には、加圧板21による押圧状態を維持したまま、熱硬化炉等に投入し、熱可塑性の材料が軟化する温度で所定時間(例えば、熱硬化型接着剤として、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353ND(商品名)を使用した場合は、90度で60分程度)の硬化処理を行う。
【0097】
この時、例えば第1の実施形態で説明したように、背面負荷材2が熱可塑性の材料でできている場合には、加圧板21の押圧面に対応した凹形状に変形する。このため、圧電振動子11の破損や、積層体3の各部材間に介在する図示しない接着層の厚さのばらつきによる、電気的接続不良や音響性能のばらつきを抑えることができる。
【0098】
熱硬化型接着剤が硬化したのち、加圧板21による押圧を解放すれば、圧電振動子11や、第1の整合層14、第2の整合層の表面が所定の曲率の湾曲面を有する積層体3が、背面負荷材2の上に固着形成された状態となる。
【0099】
また、第2の実施形態で示した場合のように、背面負荷材2が軟性のフェライトゴムでできている場合には、加圧板21で押圧された状態で、圧電振動子11の接着剤を硬化することで、圧電振動子11が所定の湾曲形状を保ったまま、所定の強度となる。
【0100】
最後に、第2のフレキシブルケーブル13側より所定のピッチでダイシングを行い、圧電振動子11を電気的に独立した複数のアレイ38に分割する。なお、この時の切込み溝の幅pは、約10μm〜100μmである。
【0101】
その後、第1のフレキシブルケーブル12と、第2のフレキシブルケーブル13の両側端部を、背面負荷材2の側面に沿うように折り曲げることで、図9に示す形状の超音波探触子1を得ることができる。
【0102】
以上、図7から図9を用いて説明したとおり、本実施形態の超音波探触子の製造方法によれば、略蒲鉾形状を呈した加圧板21のあらかじめ設定された凸形状の曲率Rに応じて積層体3を湾曲させることによって、圧電振動子11で送受信が行われる超音波ビームを、振動素子の配列方向と直交する方向において集束させることが可能となり、音響レンズを用いることなく超音波ビームのフォーカスを行うことができる。
【0103】
また、本実施形態の製造方法によれば、所定の曲率Rである凸形状の押圧面を有する加圧板21により圧力を加え、積層体3を所定の曲率である凹形状に押圧変形し、相互の部材が密着した状態で各部材間に介在する接着剤の加熱硬化が行われる。このとき、熱可塑性の背面負荷材2を用いている場合には、接着剤を硬化させるための熱によって、背面負荷材2が加圧板21の押圧面に対応した凹形状に変形するので、圧電振動子11の破損を効果的に防止し、積層体3の各部材間に介在する接着層の厚さばらつきによる電気的接続不良や音響性能のばらつきを抑えることができる。
【0104】
さらに、加圧板21の下面(押圧面)凸形状の半径寸法を高精度に加工することで、背面負荷材2の上面凹面の形状として高い精度を必要としない。また、背面負荷材2上面の凹形状との中心軸と、加圧板21の下面(押圧面)凸形状の中心軸とを高精度に合致させる必要もない。このため、超音波探触子の製造が容易、かつ、低コストのものとなる。
【0105】
さらにまた、加圧板の下面(押圧面)凸形状に応じて容易に超音波ビームの方向を決定することが可能になり、ビーム特性の改善が容易になる。
【0106】
以上、本発明の超音波探触子とその製造方法について、全ての実施形態において、背面負荷材の上面を凹面形状とした場合を例にとって説明してきた。しかし、本発明の超音波探触子、および、その製造方法は、これに限られるものではなく、必要に応じて背面負荷材の上面を凸面形状としてもよい。
【0107】
また、上記各実施形態の説明では、圧電振動子が直線状に並んだリニア型の超音波探触子について説明を行ったが、その他のコンベックス型や、マトリックスアレイ型の超音波探触子についても、同様に本発明を実施することが可能である。
【0108】
また、上記各実施形態では、圧電振動子を湾曲させるために圧電振動子の厚さよりも小さい深さの複数の切り欠き溝を形成する例について説明したが、この切り欠き溝で圧電振動子を完全に分断する形態、すなわち、切り欠き溝が圧電振動子の厚さと同じ深さであり、個々の振動子が完全に分離する形態であっても、本発明を同様に適用することで、高精度な曲面形状を有する超音波探触子を、低コストで実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、超音波を被検者の体内に放射し、各体内組織の境界で反射する超音波から体内の画像を表示することのできる超音波診断装置に接続される超音波探触子において、高い精度での湾曲形状を有する圧電振動子を含む超音波探触子、および、その製造方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 超音波探触子
2 背面負荷材
3 積層体
11 圧電振動子
12 第1のフレキシブルケーブル
13 第2のフレキシブルケーブル
14 第1の整合層(音響整合層)
15 第2の整合層(音響整合層)
16 第1の電極層
17 第2の電極層
18 切り欠き溝
19 熱硬化型接着剤
21 加圧板
27 無効領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、
一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、
前記背面負荷材の前記上面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものであることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記背面負荷材が熱可塑性を有する材料である請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記背面負荷材がフェライトゴムである請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記圧電振動子と前記第1のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の裏面に形成された第1の電極層によって接続され、
前記圧電振動子と前記第2のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の表面に形成された第2の電極層によって接続されていて、
前記圧電振動子の前記表面および前記裏面の少なくともいずれか一方の面に、前記第1の電極層または前記第2の電極層が形成されていない無効領域を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、
一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、
前記変形工程での形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有することを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項1】
シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体が、
一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に固着された超音波探触子であって、
前記背面負荷材の前記上面が、前記積層体が載置された状態で前記所定の曲率の曲面に形成されたものであることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記背面負荷材が熱可塑性を有する材料である請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記背面負荷材がフェライトゴムである請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記圧電振動子と前記第1のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の裏面に形成された第1の電極層によって接続され、
前記圧電振動子と前記第2のフレキシブルケーブルとが、前記圧電振動子の表面に形成された第2の電極層によって接続されていて、
前記圧電振動子の前記表面および前記裏面の少なくともいずれか一方の面に、前記第1の電極層または前記第2の電極層が形成されていない無効領域を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
シート状の第1のフレキシブルケーブルと、厚さ方向に平行な複数の切り欠き溝が形成された圧電振動子と、シート状の第2のフレキシブルケーブルと、一層以上の音響整合層とが順次積層された積層体を形成する積層工程と、
一方向に所定の曲率を有する曲面である、背面負荷材の上面に前記積層体を載置し、前記積層体の上方より、所定形状の押圧面を有する加圧板により圧力を加えて、前記積層体と前記背面負荷材の前記上面とを、前記加圧板の前記所定形状に倣った形状とする変形工程と、
前記変形工程での形状を維持したまま前記圧電振動子の前記切り欠き溝内に充填された接着剤を硬化させるとともに、前記積層体と前記背面負荷材とを接着固定する接着工程とを有することを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−258602(P2010−258602A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104336(P2009−104336)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]