説明

超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置

【課題】圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、反射された超音波を前記圧電振動子で受信して、その受信信号に基づく画像を表示する超音波診断装置に使用される超音波探触子おいて、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得られるようにする。
【解決手段】本発明の超音波探触子1は、圧電振動子10を、超音波を送受信する圧電フィルム層11と、前記圧電フィルム層11と被検体との間に介在され、それらの音響インピーダンスを整合する音響整合層12と、前記圧電フィルム層11と該圧電振動子10の筐体3への取付け部分との間に介在されるダンパー層14との通常の3層構造に加えて、さらに前記圧電フィルム層11と前記ダンパー層14との間に空孔15を有する音響増幅層13を設ける。したがって、より大きな送信波を送信することができるとともに、より高感度に受信波を受信することができ、こうして圧電振動子10の圧電特性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信する超音波探触子(プローブ)およびそれを用いる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等、多くの特長を有し、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。このような医療用超音波診断装置に使用される超音波探触子では、高感度、高解像度に超音波の送受信を行うために、一般的に圧電振動子の圧電効果が利用される。
【0003】
前記圧電振動子の広帯域化は、画像の分解能や高精細さ、或いは、スペックルノイズの低減、アーチファクトの低減に有用であり、そのような特性を持つ圧電振動子が望まれていた。そこで、特許文献1には、広帯域な画像が得られるとして、基本波の超音波を送受信する第1の圧電層と、前記第1の圧電層の1/2の厚さで前記基本波の2倍の周波数の超音波を受信する第2の圧電層とを積層するようにした超音波探触子が提案されている。
【特許文献1】特開平11−276478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術は、高調波を利用して広帯域な画像が得られるものの、送受信感度が低いという問題点があった。この点、圧電振動子として、上記従来技術のようなセラミックに対して、有機ポリマーも、受信帯域が広いという特徴をもつものの、同様に感度が低いという欠点を有しているので、この克服の技術が求められているが、良い方法が見つかっていなかった。
【0005】
本発明の目的は、圧電振動子の圧電特性を向上することができる超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波探触子は、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内で反射された超音波を前記圧電振動子で受信して受信信号を得る超音波探触子おいて、前記圧電振動子は、前記超音波を送受信する圧電層と、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるダンパー層と、前記圧電層と前記ダンパー層との間に介在される音響増幅層との3層を少なくとも含むことを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内で反射された超音波を前記圧電振動子で受信して受信信号を得て、その受信信号に基づく画像を表示する超音波診断装置に使用される超音波探触子おいて、前記圧電振動子を、前記超音波を送受信する圧電層と、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるダンパー層と、通常設けられ、前記圧電層と被検体との間に介在され、それらの音響インピーダンスを整合する音響整合層とに加えて、さらに前記圧電層と前記ダンパー層との間に音響増幅層を設けて構成する。
【0008】
したがって、従来では、損失となっていた圧電層からダンパー層側へ伝搬する送信波および受信波が該音響増幅層で増幅されて反射され、より大きな送信波を送信することができるとともに、より高感度に受信波を受信することができる。こうして圧電振動子の圧電特性を向上し、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得ることができる超音波診断装置を実現することができる。
【0009】
また、本発明の超音波探触子では、前記の3層は、それぞれ有機ポリマーから成り、前記音響増幅層は、空孔を有することを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、受信帯域が広い有機ポリマー圧電振動子において、新たに設けた前記音響増幅層が空孔を有することで、増幅効果を一層高めることができる。
【0011】
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記空孔は、複数の圧電振動子のそれぞれに対して、少なくとも1つが設けられていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、前記音響増幅層において、前記アレイ状に配列された複数の圧電振動子がそれぞれ少なくとも1つの空孔を有する。
【0013】
したがって、複数の各圧電振動子に共通に、前記のような高い圧電特性を得ることができる。なお、空孔内に格子状の隔壁を多数配置してもよいが、アレイの最小単位である振動子1単位当り空孔が1個であることが最も好ましい。
【0014】
また、本発明の超音波探触子は、前記圧電層の周波数定数が100〜600Hz・mであり、音響インピーダンスが4〜5.5であることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、圧電層の周波数定数が100Hz・mより低いと前記圧電特性が低く、600Hz・mより大きいと耐久性が劣るので、それらの間に選ぶことは好適である。また、有機ポリマーから成る圧電振動子において、一般的な有機ポリマーの音響インピーダンスが2〜3であり、そのレベルのものは圧電特性が得にくく、また5.5以上の音響インピーダンスとなると圧電特性が低くなってしまうので、音響インピーダンスが前記4〜5.5であれば、多くの有機ポリマー材料に整合し、好適である。
【0016】
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記音響増幅層の厚さは10μm〜5mmであり、前記空孔の厚さは、前記音響増幅層の厚さの0.1〜0.8倍の範囲にあることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、前記音響増幅層の厚さは10μmより薄くなると壊れ易く、5mmを超えると圧電特性が悪くなるので、それらの間に選ぶことは好適である。また、音響増幅層と空孔との厚さは、相関性が深く、前記音響増幅層が周波数を規定するので、倍数表示となり、前記音響増幅層の厚さの0.1倍より薄くなると壊れ易く、0.8倍を超えると圧電特性が悪くなるので、それらの間に選ぶことは好適である。
【0018】
また、本発明の超音波探触子では、前記音響増幅層内の空孔と圧電層との間の平均距離は、5〜300μmであることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、前記音響増幅層内の空孔と圧電層との間の平均距離、すなわち前記音響増幅層の圧電層側の層の厚さの平均値が、5μmより薄くなると壊れ易くなり、300μmより厚くなると空孔の感度に影響する効果が小さくなるので、それらの間に選ぶことは好適である。
【0020】
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記音響増幅層は、前記ダンパー層側に電極層を有し、該電極層はバイアス信号線からの信号で圧電振動子の振動モードを制御することを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、バイアス電圧によって音響増幅層の増幅および反射を制御して、圧電振動子全体の振動モードを制御することができる。
【0022】
また、本発明の超音波診断装置は、前記の超音波探触子を用いることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、圧電振動子の圧電特性が高く、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得ることができる超音波診断装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の超音波探触子は、以上のように、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内で反射された超音波を前記圧電振動子で受信して受信信号を得て、その受信信号に基づく画像を表示する超音波診断装置に使用される超音波探触子おいて、前記圧電振動子を、前記超音波を送受信する圧電層と、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるダンパー層と、通常設けられ、前記圧電層と被検体との間に介在され、それらの音響インピーダンスを整合する音響整合層とに加えて、さらに前記圧電層と前記ダンパー層との間に音響増幅層を設けて構成する。
【0025】
それゆえ、従来では、損失となっていた圧電層からダンパー層側へ伝搬する送信波および受信波が該音響増幅層で増幅されて反射され、より大きな送信波を送信することができるとともに、より高感度に受信波を受信することができる。こうして圧電振動子の圧電特性を向上し、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得ることができる超音波診断装置を実現することができる。
【0026】
また、本発明の超音波診断装置は、以上のように、前記の超音波探触子を用いる。
【0027】
それゆえ、圧電振動子の圧電特性が高く、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得ることができる超音波診断装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の実施の一形態に係る超音波探触子1の断面図である。この超音波探触子1は、大略的に、電源供給や診断用の画像を表示したり印字出力したりする診断装置本体から延びる同軸ケーブル2の先端に取付けられ、掌大の筐体3内に、圧電振動子10に、その駆動回路基板4,5が収納されて成る。
【0029】
前記筐体3において、前記同軸ケーブル2が引込まれた側とは反対側には開口6が形成されており、その開口6から前記圧電振動子10が被検体に臨む。前記駆動回路基板4,5には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等が実装されており、前記診断装置本体からの駆動信号に応答して前記圧電振動子10から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内で反射された超音波が前記圧電振動子10で受信されて得られた受信信号を適宜処理して、前記診断装置本体へ出力し、前記受信信号に基づく画像を表示させる。
【0030】
前記圧電振動子10は、様々な態様に構成することが可能であるが、図1の例では、圧電素子群が1次元または2次元のアレイ状に配列されて成る圧電フィルム層11の前面に音響整合層12を、背面にダンパー層14を設けて構成されている。このように構成される超音波探触子1において、注目すべきは、本発明では、前記圧電振動子10が、前記圧電フィルム層11とダンパー層14との間に音響増幅層13が介在された4層の有機ポリマーから成り、前記音響増幅層13が、空孔15を有することである。このように構成される圧電振動子10および前述の駆動回路基板4,5の配置は、適宜選択されればよい。
【0031】
図2は、アレイ状に配列される前記圧電振動子10の1単位素子10aの断面を模式的に示す図である。該素子10aも、被検体側から、音響整合層12、圧電振動子フィルム層(前記圧電層と略す)11、音響増幅層13およびダンパー層14から構成されている。前記圧電フィルム層11には、単位素子10a毎に電極16,17が形成され、それらの電極16,17は該圧電振動子10の側部を引回される信号線18およびアース線19にそれぞれ接続される。
【0032】
前記圧電フィルム層11としては、ポリ弗化ビニリデンフィルム(弗化エチレンの共重合体も含む)、ポリシアノビニリデンフィルムやポリウレアフィルムを使用することができる。特に、弗化ビニリデン:3弗化エチレンが75:25のモル比の組成で共重合させた共重合体を分極処理したフィルムが最も好ましく、圧電特性を最適にするには、重合度、共重合条件(温度、時間、混合比)、得られた共重合体の延伸条件、塗布乾燥条件、分極処理条件が、適宜選択される。分極処理後のフィルムの周波数定数としては、100〜600Hz・mが好ましい。それは、周波数定数が100以下のものでは、圧電特性が低く、600以上になると耐久性が劣るためである。この周波数定数は、圧電フィルムの最大強度を示す周波数(Hz)の値と厚さ(m)との積で示される値である。
【0033】
一方、前記音響整合層12に使用される有機のフィルムは、生体のインピーダンスと圧電フィルム層11のインピーダンスとの間であるものが望ましい。生体の音響インピーダンスは1.5Mrayl(106kg/ms)に近く、弗化ビニリデンの音響インピーダンスは、4.5Mrayl付近にあるので、1.6〜4.4Mraylまでが好ましい。一般的には水分透過率の低く、硬度もあるポリイミド樹脂を使用することができる。そして、有機ポリマーから成る圧電振動子10において、一般的な有機ポリマーの音響インピーダンスが2〜3であり、そのレベルのものは圧電特性が得にくく、また5.5以上の音響インピーダンスとなると圧電特性が低くなってしまうので、前記圧電層10の音響インピーダンスは、4〜5.5であれば、多くの有機ポリマー材料に整合し、好適である。
【0034】
これに対して、前記音響増幅層13は、圧電フィルム層11の振動を増幅することを目的とした層である。この音響増幅層13の素材には、一般の多くの有機ポリマーを使用することができるが、ヤング率が0.01〜10GPaであることが好ましい。特に、0.2〜7GPaのものが好ましい。それは、ヤング率が0.2GPaより低いものは、損傷破壊し易く、7GPaを超えると音響増幅の効果が低くなり、また加工もし難くなるためである。このような素材としては、ポリイミド樹脂(3〜5GPa)、ポリエステル樹脂(1.8〜3.5GPa)、アクリル樹脂(1.6〜3.6GPa)、ポリアミド樹脂(2〜4GPa)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(3.4GPa)、ポリスチレン樹脂(3〜3.4GPa)、ポリカーボネート樹脂(2.6GPa)、エポキシ樹脂(2.6〜3GPa)、オレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂(低密度0.2GPa)、ポリプロピレン樹脂(0.9GPa)、ポリイソプレン樹脂(架橋0.2GPa)、ポリブタジエン樹脂(架橋0.2GPa)、ポリ(ブタジエン−スチレン)樹脂(0.3GPa)、シクロオレフィン樹脂(3.2GPa)等から適宜選択することができる。
【0035】
そしてこの音響増幅層13は、前述のように内部に空孔15を有し、この空孔15によって前記圧電フィルム層11からの振動を増幅する。前記空孔の形態は、四角柱体(直方体、立方体)、紡錘体、球体、円柱体、六角柱体等から任意の形態を選択することができる。さらに該音響増幅層13中には、アレイ1素子に対して、少なくとも1個の空孔15を有し、該空孔15内に格子状の隔壁を多数配置して該空孔15を細分化してもよいが、アレイの最小単位である前記単位素子10a当り1個であることが最も好ましい。これによって、複数の各単位素子10aに共通に、高い圧電特性を得ることができる。
【0036】
また、該音響増幅層13の好ましい形態としての厚さtaは10μm〜5mmであり、空孔15の厚さは、前記音響増幅層の厚さの0.1〜0.8倍の範囲である。これは、前記音響増幅層13の厚さが10μmより薄くなると壊れ易く、5mmを超えると圧電特性が悪くなるためである。また、音響増幅層13と空孔15との厚さtcは、相関性が深く、前記音響増幅層13が周波数を規定するので、倍数表示となり、前記音響増幅層13の厚さの0.1倍より薄くなると壊れ易く、0.8倍を超えると圧電特性が悪くなるためである。
【0037】
さらにまた、前記空孔15と圧電フィルム層11との間の平均距離tzは、5〜300μmに選ばれる。これは、前記音響増幅層13内の空孔15と圧電フィルム層11との間の平均距離tz、すなわち前記音響増幅層13の圧電層側の層の厚さの平均値が、5μmより薄くなると壊れ易くなり、300μmより厚くなると空孔15の感度に影響する効果が小さくなるためである。
【0038】
ダンパー層14は、前記音響増幅層13の背面で圧電振動子10全体を筐体3に固定化する役割と、音響的に音圧緩衝作用によって前記音響増幅層13から反射される超音波パルス波形を劣化させない(エコーを戻してノイズにならないような)働きを担うものである。このダンパー層14の音響インピーダンスが、振動子(圧電フィルム層11)の音響インピーダンスに近いと、広帯域になり、短い超音波パルスが得られる。前記広帯域に適した超音波探触子1のバッキング材に望まれる特性は、上述のように音響インピーダンスが振動子(圧電フィルム層11)のそれに近いこと、加えて、音響減衰量が大きいこと、電気的に絶縁物であること、誘電率、ヤング率、密度等の物理的特性が均一な材料であること、さらに加工性が良いことである。
【0039】
このような条件を満たす具体的な材料としては、タングステン粉末やフェライト樹脂を分散させたエポキシ樹脂あるいはアルキル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等を挙げることができる。ポリイミド樹脂は無水ピロメリット酸やビフェニルテトラカルボン酸二無水物の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンとから得られる直鎖(線状)高分子或いは、芳香族トリアミンを使用した分枝の高分子を挙げることができる。
【0040】
前記タングステン粉末を分散させたエポキシ樹脂あるいはアルキル樹脂からなるダンパー材は、それらの音響インピーダンスをポリ弗化ビニリデン樹脂やポリシアノビニリデン樹脂或いはポリウレア樹脂の圧電振動子のそれに近い値にするようにタングステン粉末の含有率を適宜選択することができる。
【0041】
図3は、上述のように構成される圧電振動子10の作成工程を説明するための模式的な断面図である。先ず、図3(a)で示すように、電極16,17付きの圧電フィルムを前記圧電フィルム層11として用意し、それに音響整合層12を形成する。次いで、図3(b)で示すように、前記音響整合層12を付けた面とは反対側に、音響増幅層13となる膜を接着する。この膜に対して、図3(c)で示すように、空孔15のための窪み15aを形成する。
【0042】
窪み15aの形成は、予め設定した大きさの凸の鋳型(ステンレス製)を押印加工して形成する。その際の温度は、前記凸の鋳型を100℃〜300℃の範囲で加熱しておき、材質に適した温度と時間との関係から、窪み15aの形成によい条件が適宜設定されればよい。窪み15aは、鋳型押印方式でなく、レーザアブレーション方式で形成されてもよい。レーザアブレーション方式の採用の場合には、それに適した樹脂を選択することで、最適に空孔15を形成することができる。レーザは、紫外線レーザ、赤外線レーザなどを利用することができる。
【0043】
前記窪み15aのさらに別な形成方法としては、光硬化型樹脂を利用する方法もある。具体的には、前記音響整合層12が積層された圧電フィルム層11を型枠内に嵌め込んで、前記圧電フィルム層11上に前記光硬化型樹脂を流し込み、一方、前記空孔15の配置を決めた図面を元にマスク(ネガ)を作成しておき、キセノンランプや高圧水銀灯を使用して紫外線露光し、未硬化部分(空孔15部分)をアルカリや酸で除去する方法などを採用することができる。
【0044】
前記窪み15aを形成した後は、図3(d)で示すように、その窪み15aを塞ぐフィルム15bを搭載し、さらに図3(e)で示すように、ダンパー層14を積層する。このダンパー層14は、予め成膜しておいた膜が積層されてもよい。さらに図3(f)から図3(g)で示すように、前記電極16,17から信号線18およびアース線19をそれぞれ引出して該圧電振動子10が完成する。
【0045】
以下に、本願発明者の実験結果を示す。実験は、前記圧電フィルム層11に、64×64の2次元マトリクスアレイを作成して行った。先ず、比較参照用に作成した圧電振動子は、厚さ方向(Z軸方向)に分極処理済みの広さ64mm×64mm、厚さ60μm(周波数定数600の場合)のポリ弗化ビニリデン、ポリシアノビニリデン、ポリウレア、ポリエステルを前記圧電フィルム層11として使用した(材料種は表1に記載)。電極16,17は銀焼き付け電極とし、圧電フィルム層11の上に音響整合層12、圧電フィルム層11の背面に平均粒子径5μmのタングステン粉を分散し、エポキシ樹脂で硬化したダンパー14を接着させた。圧電フィルム層11における単位素子10aの形状は、図2において、L:900μm、m:50μm、tp:64.2μm、tm:200μm、td:5mmとなった。
【0046】
この圧電振動子アレイから信号線18およびアース線19を、64×2本のパッシブマトリクス方式で引き出し、同軸ケーブル2を介して試作したデジタル処理ビームフォーマーを搭載した超音波診断装置に接続した。前記パッシブマトリクス方式は、圧電フィルム層11上に電極16,17を格子状に張りめぐらし、各単位素子10aをx軸方向の電極とy軸方向の電極との交点に配置し、x方向(アレイ方向)の電極を作動させるのに1つのトランジスタ、y軸方向(アレイ直角方向)の電極を作動させるのにもう1つのトランジスタを使用するものである。そして、各単位素子10aは、x軸・y軸各方向の電極16,17に電圧がかかっているときに圧電振動を行い、電圧がかかってないときには振動は停止している。
【0047】
前記電極16,17間への印加電圧は120Vとし、10MHzの送信波を送り、ファントム内からのエコーを受信し、画像化した。画像の評価は、表示素子上の画像を目視評価した。評価基準は、画質(解像度と鮮鋭性)が良く、スペックルノイズが少ない場合を「優」、次いで「良」、「可」と評価した。得られた画質は「可:基準」とした。
【0048】
これに対して、本発明の一実施例の音響増幅層14を備える圧電振動子10の場合は、前記比較アレイと同様に作成したが、ここでは、内部に空孔15を有する音響増幅層13を持つ64×64のアレイの各単位素子10aを、前記図3(a)から(g)に示す流れの製作工程で作成した。先ず、電極16,17付きのポリ弗化ビニリデン圧電フィルム、ポリシアノビニリデンフィルム、ポリウレアフィルムを用意(図3(a))し、一方の面にポリイミド膜から成る音響整合層12を形成する。たとえば、実施例−1〜5では、圧電フィルム層11は、弗化ビニリデン:トリ弗化エチレンが75:25のモル比の共重合体を使用した。
【0049】
次いで、音響整合層14を付けた面とは反対側に、空孔15形成のための音響増幅層13を圧電フィルム層11の上に形成させる(図3(b))。この膜形成は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)フィルムを重畳接着させることで行うことができる。次いで、200℃に加熱した凸押印鋳型を2分間圧着して、窪み15aを形成する(c)。窪み15aの大きさは、それぞれtb:700μm、ta:100μm、tc:50μmであった。窪み15aは、厚さ方向でtaの中央に位置するように形成させた。窪み15aの形成は、予め設定した大きさの凸の鋳型(ステンレス製)を押印加工して形成する方法を採用した。この上に厚さ50μmのPETフィルム15bを被せる(図3(d))。更にダンパー層14を重畳(図3(e))し、各単位素子10aに溝を形成し(図3(f))、電極16,17を引き出し(図3(g))、圧電振動子10を完成させた。
【0050】
配線後、前記の比較参照例と同様に超音波画像診断装置の本体で画像処理を行い、表示素子に映し出された映像の画像を評価した。画像の評価は、表示素子上の画像を目視することで行った。評価基準は、前述のように画質が良く、スペックルノイズが少ない場合を「優」、次いで「良」、「可」と評価した。得られた画像は、スペックルノイズが低減し、解像のよい鮮明な画像が得られた。画質は「優」であった。さらに、図4で示すように、音響増幅層13とダンパー層14との間に、バイアス信号線21とこれに接続される電極22を設けた圧電振動子20を作成し、実施例2として同様に実験を行った。バイアス信号線21の電圧を30Vとし、信号線18からの信号と同期させた。なお、圧電振動子20において、前述の圧電振動子10に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。
【0051】
このようにして、前記圧電フィルム層11の周波数定数、インピーダンス、音響増幅層13の形状(ta、tc、tz)を変化させた場合の性能試験の結果を、前記表1にまとめた。なお、感度に関しては、得られる信号の強度をオシロスコープで測定して求めた。表1には、バイアス電圧を印加したときのその感度上昇分を、dB単位で記載した。
【0052】
【表1】

【0053】
前記表1を参照して、比較例1〜7と、実施例1−1〜11;2−1〜11とから、圧電フィルム層11の下部に空孔15を有する音響増幅層13を設けることで、圧電効果の向上が図られ、画質が向上することが理解される。また、実施例1−1〜11と実施例2−1〜11とから、バイアス信号線21からのバイアス電圧印加を圧電フィルム層への信号の印加と同期して行うことで、増幅効果が更に増すことが理解される。
【0054】
以上のように、本発明の超音波探触子1は、圧電振動子10を、超音波を送受信する圧電フィルム層11と、前記圧電フィルム層11と被検体との間に介在され、それらの音響インピーダンスを整合する音響整合層12と、前記圧電フィルム層11と該圧電振動子10の筐体3への取付け部分との間に介在されるダンパー層14との通常の3層構造に加えて、さらに前記圧電フィルム層11と前記ダンパー層14との間に音響増幅層13を設けて構成するので、従来では、損失となっていた圧電フィルム層11からダンパー層14側へ伝搬する送信波および受信波が該音響増幅層13で増幅されて反射され、より大きな送信波を送信することができるとともに、より高感度に受信波を受信することができる。こうして圧電振動子10の圧電特性を向上し、視野深度が深く、解像度および鮮鋭度が高い画像を得ることができる超音波診断装置を実現することができる。
【0055】
また、前記の各層11〜14は、それぞれ有機ポリマーから成るので、受信帯域が広く、しかも新たに設けた前記音響増幅層13が空孔15を有することで、増幅効果を一層高めることができる。さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記空孔15は、アレイ状に配列された複数の単位素子10aのそれぞれに対して、少なくとも1つが設けられているので、複数の各単位素子10aに共通に、前記のような高い圧電特性を得ることができる。
【0056】
さらにまた、圧電振動子20のように、前記音響増幅層13が前記ダンパー層14側に電極22を有し、該電極22にバイアス信号線21からのバイアス電圧を与えることで、音響増幅層13の増幅および反射を制御して、圧電振動子20全体の振動モードを制御することができる。具体的には、圧電フィルム層11に与えられる信号と同期させて、前記バイアス電圧を印加することで、前記空孔15内に正または負の電荷を蓄積し、振動を促進したり、減衰したりする。振動を促進するような共振電圧を印加することで、前記表1で示すように、圧電振動子20の振動を促進することができる。
【0057】
なお、本発明の思想の範囲において、当業者であれば、各種の改変更例および修正例を用意に想起するものであるが、それら改変例および修正例についても本発明の範囲に属するものと理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態に係る超音波探触子の断面図である。
【図2】前記超音波探触子において、アレイ状に配列される圧電振動子の1単位素子の一実施形態の断面を模式的に示す図である。
【図3】前記圧電振動子の作成工程を説明するための模式的な断面図である。
【図4】前記超音波探触子において、アレイ状に配列される圧電振動子の1単位素子の他の実施形態の断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 超音波探触子
2 同軸ケーブル
3 筐体
4,5 駆動回路基板
10,20 圧電振動子
11 圧電フィルム層
12 音響整合層
13 音響増幅層
14 ダンパー層
15 空孔
16,17,22 電極
18 信号線
19 アース線
15a 窪み
15b フィルム
21 バイアス信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内で反射された超音波を前記圧電振動子で受信して受信信号を得る超音波探触子おいて、
前記圧電振動子は、
前記超音波を送受信する圧電層と、
前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるダンパー層と、
前記圧電層と前記ダンパー層との間に介在される音響増幅層との3層を少なくとも含むことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記の3層は、それぞれ有機ポリマーから成り、
前記音響増幅層は、空孔を有することを特徴とする請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記空孔は、複数の圧電振動子のそれぞれに対して、少なくとも1つが設けられていることを特徴とする請求項2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記圧電層の周波数定数が100〜600Hz・mであり、音響インピーダンスが4〜5.5であることを特徴とする請求項2または3記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記音響増幅層の厚さは10μm〜5mmであり、前記空孔の厚さは、前記音響増幅層の厚さの0.1〜0.8倍の範囲にあることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記音響増幅層内の空孔と圧電層との間の平均距離は、5〜300μmであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記音響増幅層は、前記ダンパー層側に電極層を有し、該電極層はバイアス信号線からの信号で圧電振動子の振動モードを制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の超音波探触子を用いることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−177302(P2009−177302A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11367(P2008−11367)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】