説明

超音波探触子

【課題】振動子ユニットが機械的に走査される超音波探触子において、音響媒体室内に気泡が存在していても、それが送受波面とケース内面との間の隙間に侵入しないようにする。
【解決手段】振動子ユニット20における送受波面20Aの周囲部にはガード手段28が設けられている。ガード手段28は、機械走査方向に直交する辺縁24A,24Bに設けられた繊毛列30,32として構成されている。各繊毛素子はカバーケース内面に達する長さを有している。繊毛列30,32によれば振動子ユニット20を機械走査した場合において、気泡が送受波面20Aとプローブケース内面との間の隙間に侵入することを防止又は軽減できるので、画質の劣化を回避できるという利点が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探触子に関し、特に、プローブケース内で振動子ユニットを機械的に走査するタイプの超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
単振動子を機械的に走査する機械走査型超音波探触子、1Dアレイ振動子を機械的に走査する三次元エコーデータ取り込み用超音波探触子(特許文献1)等においては、プローブケース内において振動子ユニットが機械的に走査される。例えば、1Dアレイ振動子を素子配列方向と直交する方向へ走査すれば、走査面を移動させて三次元エコーデータ取り込み空間を形成できる。振動子ユニットと生体表面との間において音響伝搬を良好にするために、あるいは、空気層の介在を排除するために、プローブケース内には音響媒体として水、生理食塩水やオイルなどが充填、封入されている。一方、プローブケースの当接面あるいは生体表面との間には音響媒体としてゲル状の音響用ゼリーが塗布され、つまり、当接面と生体表面との間の空隙は音響ゼリーによって満たされる。
【0003】
【特許文献1】特開平3−231649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プローブケース内に密閉空間としての音響媒体室を形成しても、その中には微量の気泡が残留する可能性があり、また経年変化により気泡がそこに生じることもある。音響媒体室内で気泡が浮遊している際、たまたま送受波面の前方に気泡が存在すると、ノイズの要因となり、画像が劣化し、あるいは、画像の一部が欠落してしまう。
【0005】
本発明の目的は、音響媒体室内の気泡による問題を解消又は軽減することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、音響媒体室内に気泡が存在していても、それが送受波面の前方にできるだけ入り込まないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プローブケース内の音響媒体室内に設けられ、超音波を送受波する振動子ユニットと、前記振動子ユニットを機械的に走査するための走査機構と、前記振動子ユニットにおける送受波面の周囲部の内で少なくとも一部に設けられ、前記送受波面と前記プローブケースの内面との間の隙間への気泡の進入を制限する気泡ガード手段と、を含むことを特徴とする超音波探触子に関する。
【0008】
上記構成によれば、プローブケース内の音響媒体室内で振動子ユニットが機械的に走査され、その際、音響媒体室内に気泡が浮遊していても、それが隙間に進入してしまうことを気泡ガード手段によって制限できる。よって、ノイズ発生及び画像劣化を防止できる。気泡ガード手段は、隙間内外を空間的に隔てるものであるのが望ましい。また、振動子ユニットの運動を妨げず、その負荷にほとんどならないような構成を採用するのが望ましい。気泡ガード手段を弾性体のブレードのようなものとして構成することもできるが、それが機械走査時における媒体抵抗を生じさせると、走査機構に負荷が生じるので、媒体流通をある程度保証しつつも隙間への気泡の進入を制限する部材としてガード手段を構成するのが望ましい。周囲部にガード手段を設ければガード手段自体が音響伝搬を阻害してしまう問題を回避できる。
【0009】
望ましくは、前記気泡ガード手段は、前記送受波面の周囲部の内で、前記振動子ユニットの機械走査方向に交差して伸長する2つの辺縁に設けられる。機械走査に当たっては、そのような辺縁から気泡が進入する可能性が高いので、そこにガード手段を設ければ効率的な気泡進入制限をなしうる。いったん隙間に入った気泡がまったく抜けられなくなると、かえって気泡による問題が大きくなるおそれがあるので、隙間に入った気泡が脱出できる通路があってもよい。例えば、周囲部の内で、機械走査方向に平行な辺縁についてはガード手段をあえて設けずに解放通路としてもよい。
【0010】
望ましくは、前記気泡ガード手段は、前記送受波面の周囲部から前記プローブケースの内面に到達する長さを有する。必ずしもガード手段は内面にまで達していなくても気泡進入を制限できればよいが、それが内面に触れる長さを有していれば気泡進入の阻止効果を高められる。
【0011】
望ましくは、前記気泡ガード手段は、柔軟性を有する部材で構成される。この構成によれば媒体抵抗を緩和でき、内面に接触する場合でもそこに摩耗が生じることを緩和、防止できる。望ましくは、前記気泡ガード手段は繊毛列として構成される。繊毛列であればある程度の媒体流通を確保できるので、媒体抵抗を緩和でき、しかも内面へ接触しても、そこにダメージが及ぶことを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、音響媒体室内の気泡による問題を解消又は軽減できる。あるいは、本発明によれば、音響媒体室内に気泡が存在していても、それが送受波面の前方にできるだけ入り込まないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1には、本発明に係る超音波探触子(プローブ)の好適な実施形態が示されており、図1はその部分断面図である。この超音波探触子は、本実施形態において生体表面上に当接して用いられ、その状態で超音波を送受波するものである。超音波探触子は図示されていないケーブルを介して超音波診断装置本体に接続される。図1に示される超音波探触子は、上記のように生体表面上に当接して用いられるものであるが、勿論、本発明は体腔内に挿入される超音波探触子等に適用されてもよい。
【0015】
図1において、超音波探触子10は、本体ケース12及びその下端部に装着されるカバーケース14を有する。カバーケース14は音響窓部材として機能するものであり、その内部は音響媒体室16である。音響媒体室16内には、水、オイル等の音響媒体が充填、封入されている。通常、その音響媒体室16内には気泡が存在しないが、何らかの事情により、あるいは経年変化により、音響媒体室16内に気泡が生じてしまうこともある。図1にはそのような気泡が示されている。カバーケース14の内面14Aは音響媒体に接する面であり、カバーケース14の外面14Bは生体表面に接触する面である。
【0016】
音響媒体室16内には、可動部18が設けられ、その可動部18は振動子ユニット20、アーム部材21等によって構成される。振動子ユニット20は本実施形態において1Dアレイ振動子を有している。そのアレイ振動子は複数の振動素子からなるものである。そのアレイ振動子により超音波ビームが電子的に走査され、これによって走査面が形成される。振動子ユニット20の先端面は送受波面20Aである。その送受波面20Aは例えば音響レンズの表面に相当する。送受波面20Aは内面14Aに一定の隙間を介して対向している。アーム部材21は軸22に取り付けられており、図示されていない機械走査機構によって可動部18は機械的に走査される。その走査方向は図1において左右方向であり、具体的には、可動部18は軸22を回転中心として揺動運動(往復運動)を行う。
【0017】
音響媒体室16内に上述した気泡が存在していると、振動子ユニット20の機械走査に伴い、送受波面20Aと内面14Aとの隙間に気泡が侵入し、それが音響的な伝藩の障害となって画像上にノイズを生じさせ、あるいは画像を劣化させてしまう。そこで、本実施形態においては送受波面20Aの周囲部にガード手段が設けられており、これについて以下に詳述する。
【0018】
図2には、図1に示した振動子ユニット20が示されている。振動子ユニット20はユニット本体24と取付け部26とで構成される。ユニット本体24は、図2に示す例において船底形態あるいは蒲鉾形態を有している。その先端面は上述したように送受波面20Aであり、それは凸球面形状を有している。ユニット本体24の内部には、送受波面20Aの湾曲方向に沿って複数の振動素子が配列されており、それらに対して電子リニア走査を適用することにより超音波ビームを扇状に走査することができる。いわゆる電子コンベックス走査である。そのような電子走査を行いながら振動子ユニット20を機械的に走査すると、走査面がそれと直交する方向に運動して3次元エコーデータ取込空間が形成される。
【0019】
本実施形態においては、ガード手段28として2つの繊毛列30,32が設けられている。具体的には、送受波面20Aの周囲部のうち、機械走査方向と直交する方向に伸長(湾曲)した辺縁24A,24Bにそれぞれ繊毛列30,32が形成されている。各繊毛列30,32は図示されるように、湾曲した辺縁に沿って並んだ複数の繊毛素子からなり、本実施形態においてそれぞれの繊毛列30,32は1列の態様を有している。各繊毛素子は合成樹脂、あるいは動物の毛等の柔らかい部材で構成されている。
【0020】
図示されるように、各辺縁24A,24Bには具体的には斜めに切り取られたテーパー面が形成されており、そのテーパー面にそれぞれ繊毛列30,32が植設されている。各繊毛素子の先端部は上述したカバーケース14の内面14Aに接触しており、すなわち各繊毛素子の長さは接触状態が得られる程度のものとして構成されている。このように、機械走査方向に直交する2つの辺縁24A,24Bにそれぞれ繊毛列30,32を設ければ、機械走査に伴って進入する気泡を効果的に制限することができ、すなわち内面14Aと送受波面20Aとの間の隙間に気泡が侵入することを防止あるいは軽減することができる。繊毛列30,32であるので音響媒体それ自体は格別抵抗を受けることなく隙間に侵入することができるのであり、繊毛列30,32によれば機械走査の負担をほとんど生じさせずに効果的に気泡侵入を防止できるという利点がある。ちなみに、機械走査方向に平行な辺縁24C,24Dについては本実施形態において繊毛列は設けられておらず、仮に、隙間に気泡が入ってしまったような場合においても、そのような開放通路を介して隙間から気泡を逃がすことが可能である。
【0021】
ちなみに、繊毛列30,32における繊毛素子ピッチは対象となる気泡に応じて適宜定めればよく、基本的にそのような繊毛列30,32は気泡侵入を阻止するものであるが、見方を変えれば気泡の吸着により隙間への気泡の侵入を防止する構造体として理解することもできる。ちなみに、繊毛列30,32の劣化が問題となるような場合にはそれらを交換できるように構成してもよい。ただし、一般に柔らかい部材によって各繊毛素子を構成しておけばそのような摩耗はほとんど問題とならない。
【0022】
図3には、カバーケース14内に振動子ユニット20が配置された状態が示されている。同様に、図4内にもカバーケース14内に振動子ユニット20が配置された状態が示されている。このように、極めて簡易な構成を振動子ユニットに付加するだけで著しい画質改善効果を得ることができ、本実施形態の構成は極めて実用性の高いものである。なお、ガード手段としては繊毛列の他に結果として隙間への気泡を侵入する構造体であれば他のものを利用することが可能である。また送受波面の周囲全体にわたってガード手段を形成するようにしてもよい。上記構成によれば、繊毛列が送受波面の周囲部にだけ設けられているためガード手段それ自体が超音波伝藩の障害になってしまうという問題を未然に防止できるという利点も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る超音波探触子の好適な実施形態を示す部分断面図である。
【図2】振動子ユニットの斜視図である。
【図3】振動子ユニットをカバーケース内に配置した状態を示す斜視図である。
【図4】振動子ユニットをカバーケース内に配置した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 超音波探触子、12 本体ケース、14 カバーケース、18 可動部、20 振動子ユニット、28 ガード手段、30,32 繊毛列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブケース内の音響媒体室内に設けられ、超音波を送受波する振動子ユニットと、
前記振動子ユニットを機械的に走査するための走査機構と、
前記振動子ユニットにおける送受波面の周囲部の内で少なくとも一部に設けられ、前記送受波面と前記プローブケースの内面との間の隙間への気泡の進入を制限する気泡ガード手段と、
を含むことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記気泡ガード手段は、前記送受波面の周囲部の内で、前記振動子ユニットの機械走査方向に交差して伸長する2つの辺縁に設けられた、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の超音波探触子において、
前記気泡ガード手段は、前記送受波面の周囲部から前記プローブケースの内面に到達する長さを有する、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記気泡ガード手段は、柔軟性を有する部材で構成された、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記気泡ガード手段は繊毛列として構成された、ことを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−142537(P2009−142537A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324554(P2007−324554)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】