説明

超音波検査装置

【課題】理想的な走査位置に対する種々の誤差を検出し、この誤差を自立的に調整することにより高精度な超音波探傷検査を行うことができる超音波検査装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る超音波検査装置1は、超音波トランスデューサ17と、一体型超音波トランスデューサ制御部6と、距離制御用アクチュエータ15と、傾斜制御用アクチュエータ16と、距離計測用センサ18a、18bが一体に構成された一体型超音波トランスデューサ2を備える。この一体型超音波トランスデューサ2は、あらかじめ生成された走査経路情報に基づく走査位置と理想的な走査位置との誤差を算出し、この誤差に基づいて超音波トランスデューサ17の開口面と被検査物19の検査領域との距離および傾きを自立的に制御し誤差補正処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査装置に係り、特に超音波探傷検査時において高精度な走査を行う超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物や部品内の欠陥、ボイドや接合部の剥がれ等の状態の検査を行うため、これらの状態の可視化が可能な超音波検査装置が用いられる。この超音波検査装置は、マトリクス状やリニア状などのアレイ型に形成された圧電変換部から構成される超音波トランスデューサを用いて被検査物の走査を行い、欠陥などの検査を行う。
【0003】
超音波検査装置は、超音波トランスデューサを駆動させるスキャナ機構を備えている。このスキャナ機構は、X軸、Y軸、Z軸、およびA軸(X軸方向の回転軸)、B軸(Y軸方向の回転軸)、C軸(Z軸方向の回転軸)などの所要の軸を備えた直交ロボットや、アーム機構を基本に構成された産業用ロボットなどで構成される。スキャナ機構は制御機構などの制御に基づき駆動することで、スキャナ機構に取り付けられた超音波トランスデューサが被検査物表面上の所定範囲を自動的に探傷する。
【0004】
超音波トランスデューサによって自動的に所定範囲を探傷するためには、スキャナ機構の走査経路情報を事前に生成しておく必要がある。走査経路情報は、被検査物の表面形状に基づいて、例えば超音波トランスデューサの開口幅を1回の走査幅として生成される。
【0005】
走査経路情報の生成方法として、被検査物の形状設計データに基づいて、計算機ソフトウエアを用いて事前に生成する方法がある。この方法は、比較的容易に走査経路情報を作成することができるが、作成された走査経路情報は理想的な形状設計データに基づく走査経路情報であるため、被検査物の製造時における工作精度に起因して、実際の被検査物の形状と形状設計データ上の被検査物との不一致が発生する可能性がある。また、超音波探傷検査時においては、スキャナ機構内の所定位置に被検査物を設置して行うが、被検査物が複雑な形状である場合、高い精度の再現性で所定位置に設置することは困難であった。
【0006】
また、他の走査経路情報の生成方法として、被検査物の表面上でスキャナ機構によって超音波トランデューサを駆動させることにより、実際の走査経路上の通過点を一点ごと教示・登録し、このスキャナ機構の通過点を走査経路としてつなげたものを走査経路情報として生成する方法がある。この方法は、スキャナ機構を走査経路上の通過点ごとに駆動させることで、スキャナ機構の走査経路を教示・登録するため、膨大な時間および作業が必要であった。また、特にスキャナ機構に設けられた駆動部の構成が複雑である場合には、非常に複雑な手順および操作を要する方法であった。
【0007】
ここで、高精度な超音波探傷検査を行うためには、超音波トランスデューサが発信する超音波を被検査物の検査領域に一定角度で入射させる必要がある。また、開口合成法で探傷を行う超音波検査装置については、超音波トランスデューサと被検査物の表面との距離を一定に保つことが必要である。
【0008】
そこで、被検査物と超音波トランスデューサとを一定距離に保持しつつ、被検査物に対し一定角度で超音波を入射することができる超音波探傷装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
この超音波探傷装置は、スキャナ機構の走査台に対し略垂直方向の駆動軸の下端に距離センサを設け、被検査物の上部で距離センサをスキャンさせる。スキャンにより得られた被検査物と距離センサとの距離の測定データに基づき、スキャナ機構の座標データである被検査物の形状データを求め、メモリに記憶する。また走査時においては被検査物の形状データの各点上を通過点とした走査経路情報を作成し、駆動機構をオープンループ制御するものであった。
【0010】
また、超音波探傷検査中に生じる理想的な走査経路との誤差について考慮した超音波探傷装置についても提案されている。例えば特許文献2では、探触子と一体的に結合した距離センサを用いて、形状測定を行う形状測定動作と形状測定動作をしながら探傷を行う探傷動作とを行うことにより、探傷精度を向上させる超音波探傷装置が提案されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、スキャナ機構に超音波トランスデューサを搭載し、超音波トランスデューサと被検査物の探傷面との距離を計測して、その結果をスキャナ機構の制御にフィードバックすることにより超音波トランスデューサを探傷上最適な位置に制御することができる超音波探傷システムが提案されている。
【特許文献1】特開昭63−309852号公報
【特許文献2】特開平3−77057号公報
【特許文献3】特開2005−300363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のスキャナ機構は、あらかじめ生成された理想的な走査経路情報に基づき超音波トランスデューサを駆動させる駆動機構と、超音波探傷検査中に生じる誤差に基づき超音波トランスデューサの走査位置が理想的な走査経路上に位置するように誤差の調整を行う調整機構として用いられていた。
【0013】
しかし、スキャナ機構を上述した駆動機構および調整機構として用いると、スキャナ機構に対する制御が複雑となり、走査位置制御の精度が低下する可能性もある。このため、スキャナ機構に対する高精度な制御を維持しつつ高精度な超音波探傷検査を行うためには、走査時間や手間の増大が不可避であるという問題点があった。
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、超音波探傷検査中において、あらかじめ作成された走査経路情報に含まれる誤差や超音波探傷検査中に生じる誤差などの理想的な走査位置に対する種々の誤差を検出し、この誤差を自律的に調整することにより高精度な超音波探傷検査を行う超音波検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る超音波検査装置は、上述した課題を解決するために、複数の圧電振動子が配列され、被検査物の検査領域に対し超音波を発振し、その反射エコーを受信する超音波トランスデューサと、前記超音波トランスデューサに対し超音波を発振させ、かつ前記超音波トランスデューサが受信した前記反射エコーの電気エコー信号を検出し演算処理して前記被検査物の検査領域の探傷画像情報を生成する探傷処理装置と、あらかじめ生成された走査経路情報に基づき前記被検査物上で前記超音波トランスデューサを駆動するスキャナ機構と、前記超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を求める距離・傾き演算部と、前記距離・傾き演算部で求められた前記距離および傾きのうち少なくとも一方に基づき、前記走査経路情報に基づく走査位置と、前記被検査物の検査領域の法線と前記超音波トランスデューサの開口面とが直交しかつ前記超音波トランスデューサと前記被検査物の検査領域とが所定の距離である所定の走査位置との誤差を算出し、この誤差に基づいて前記超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を前記所定の走査位置に補正するための制御信号を生成する制御部と、前記制御部で生成された前記制御信号に基づき、前記超音波トランスデューサを前記所定の走査位置に駆動する駆動機構を備え、少なくとも前記超音波トランスデューサと前記駆動機構とが一体に構成された一体型超音波トランスデューサを構成したことを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る超音波検査装置は、超音波探傷検査中において理想的な走査位置に対する種々の誤差を検出し、この誤差を自律的に調整することにより高精度な超音波探傷検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る超音波検査装置の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
この超音波検査装置は、マトリクス状やリニア状などのアレイ型に形成された圧電変換部から構成される超音波トランスデューサが被検査物の表面を走査することにより、被検査物の内部欠陥やボイド、剥離を開口合成法を用いて可視化するものである。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る超音波検査装置1の第1実施形態を示す概略的な全体構成図である。
【0020】
超音波検査装置1は、アクチュエータ一体型超音波トランスデューサ(以下、一体型超音波トランスデューサという。)2、スキャナ機構3、および一体型超音波トランスデューサ制御装置6と探傷処理装置7とスキャナ機構駆動装置8とから構成される装置本体5から構成される。
【0021】
また、装置本体5には超音波探傷検査により得られた2次元または3次元探傷画像などを表示する表示装置9、および各種指示の入力を受け付ける入力装置10が構成される。表示装置9は、表示部、演算部、記憶部等で構成されており液晶ディスプレイ、LED(発光ダイオード)、EL(Electro Luminescence)、VFD(蛍光表示管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)などのフラットパネルディスプレイを使用することができる。また、入力装置10は、キーボードやマウスなどで構成される。
【0022】
図2は、超音波検査装置1に設けられる一体型超音波トランスデューサ2を説明する構成図である。
【0023】
一体型超音波トランスデューサ2は、後述するスキャナ機構3のYZ駆動軸3dに固定され、距離制御用アクチュエータ15、傾斜制御用アクチュエータ16および超音波トランスデューサ17が順次接続される。また、超音波トランスデューサ17の両端には、距離計測用センサ18a、18bが設けられる。距離制御用アクチュエータ15、傾斜制御用アクチュエータ16および距離計測用センサ18a、18bには、これらを制御する一体型超音波トランスデューサ制御装置6が接続される。
【0024】
超音波トランスデューサ17は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6から送信される制御信号に基づく距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の駆動およびスキャナ機構3の駆動により、被検査物19上を走査する。
【0025】
距離計測用センサ18a、18bは2個一組で設けられ、レーザ光などを用いた光学計測や超音波計測などの計測手段を用いて被検査物19と超音波トランスデューサ17の両端部との距離laおよびlbを計測する。距離計測用センサ18a、18bから得られた計測結果は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6に出力される。なお、距離計測用センサ18a、18b間の距離lsは既知である一定の距離とする。
【0026】
傾斜制御用アクチュエータ16は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6から送信される制御信号に基づき、図面に対し垂直方向の軸上を矢印の方向に回動し、被検査物19に対する超音波トランスデューサ17の傾きを制御する。また、距離制御用アクチュエータ15は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6から送信される制御信号に基づき図面に対し上下方向の軸上を矢印の方向に駆動し、被検査物19に対する超音波トランスデューサ17の距離を制御する。
【0027】
スキャナ機構3は一体型超音波トランスデューサ2をあらかじめ生成された走査経路情報に基づき被検査物19上を駆動させるのに対して、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16は一体型超音波トランスデューサ制御装置6から送信される制御信号に基づき走査経路の誤差の調整を行うために超音波トランスデューサ17を駆動させる。
【0028】
一体型超音波トランスデューサ制御装置6は、距離・傾き演算部21および制御量演算部22から構成される。
【0029】
距離・傾き演算部21は、距離計測用センサ18a、18bから出力された距離laおよびlbに基づき、超音波トランスデューサ17開口面の中心部と被検査物19との距離lcを算出する。距離lcの算出は、例えば以下の式で行う。
[数1]
lc=(la+lb)/2
【0030】
また、距離・傾き演算部21は、[数1]に基づき算出された超音波トランスデューサ17開口面の中心部と被検査物19との距離lcに基づき、超音波トランスデューサ17開口面の被検査物19に対する傾きθを算出する。傾きの算出は、例えば以下の式で行う。
[数2]
θ=tan−1((la−lb)/ls)
【0031】
なお、距離lcおよび傾きθは、[数1]および[数2]以外の算出方法で算出してもよい。
【0032】
また、制御量演算部22は、算出された超音波トランスデューサ17開口面の中心部と被検査物19との距離lc、および超音波トランスデューサ17開口面の被検査物19に対する傾きθに基づき、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量を算出する。距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量は、被検査物19の検査領域の法線と超音波トランスデューサ17の開口面とが直交し、かつ超音波トランスデューサ17と被検査物19の検査領域とが所定の距離となる理想的な走査位置に超音波トランスデューサ17が配置されるように決定される。一体型超音波トランスデューサ制御装置6は、このように取得された制御量を距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16に出力する。
【0033】
図3は、一体型超音波トランスデューサ2を構成する超音波トランスデューサ17および超音波トランスデューサ17に接続される探傷処理装置7を説明する概略的な構成図である。
【0034】
探傷処理装置7は、駆動信号を発生する信号発生部30、駆動素子選択部31、信号検出回路32、信号処理部33、制御回路34を備える。
【0035】
信号発生部30は、超音波トランスデューサ17を駆動させる駆動信号を発生する。
【0036】
駆動素子選択部31は、信号発生部30からの駆動信号を選択し、超音波トランスデューサ17の圧電振動子(圧電変換素子)35を選択的に駆動させる。
【0037】
信号検出回路32は、超音波トランスデューサ17から発振される超音波が被検査物19の検査領域に照射され、この検査領域からの反射エコーUを電気エコー信号として超音波トランスデューサ17を介して検出する。
【0038】
信号処理部33は、信号検出回路32で検出された反射エコーUの電気エコー信号を増幅、A/D変換、可視化などの一連の画像化演算処理を行い、探傷画像情報を生成する。
【0039】
表示装置9は、表示部、演算部、記憶部等で構成されており、信号処理部33で処理された探傷画像情報をもとに必要に応じた2次元または3次元探傷画像を生成して表示する。
【0040】
制御回路34は、信号発生部30と駆動素子選択部31と信号検出回路32と信号処理部33と表示装置9と入力装置10との動作を制御し、超音波の発信、受信、画像化、表示等の一連の動作を制御する。
【0041】
入力装置10は、制御回路34に検査の開始、終了、画像切り替え等の指示入力、あるいは検査条件の設定入力を行い超音波検査装置1の操作を実行させる。
【0042】
つぎに、超音波トランスデューサ17について説明する。
【0043】
超音波トランスデューサ17は、圧電変換素子としての多数の圧電振動子35をm行n列のマトリクス状に整列配置された圧電変換部36を有し、この圧電変換部36はマトリクスセンサである超音波センサを構成している。
【0044】
超音波トランスデューサ17の各圧電振動子35には、信号発生部30で発生した駆動信号が駆動素子選択部31により選択されて加えられる。駆動素子選択部31の選択により各圧電振動子35の駆動順序が1個ずつあるいは複数個ずつ決定され、各圧電振動子35は所要の駆動タイミングで駆動されて超音波を発振させる。
【0045】
また、各圧電振動子35から発振された超音波は、被検査物19の検査領域に照射され、検査領域の密度的境界層から一部が反射して反射エコーUとなる。この反射エコーUは、超音波センサである超音波トランスデューサ17(マトリクスセンサ)で受信される。
【0046】
超音波トランスデューサ17は超音波センサ面である発受信面側、具体的には、被検査物19側には固体の音響伝播媒体であるシュー部材40が密着される。シュー部材40は、シュー部材40の被検査物19との接触面が例えば平面状にくり抜かれた中空部を有しており、このくり抜かれた部分にシリコンゴムなどの比較的低減衰のゴムからなるソフトシュー41がはめ込まれる。
【0047】
ソフトシュー41は、シュー部材40と比較し軟性を有する部材から構成されため、被検査物19の接触面の形状に応じて変形しやすい。このため、ソフトシュー41はシュー部材40の中空部から一部飛び出し可能なように密着固定される。また、ソフトシュー41はシュー部材40に比べ劣化が早いため、交換が可能なように着脱自在に構成される。
【0048】
また、シュー部材40の厚さD1とソフトシュー41の厚さD2は、これらの音速比倍以上となるような値に決定する。この結果、被検査物19から得られる多重エコーが重なり、検査可能な深さを最適化することができる。
【0049】
シュー部材40と、被検査物19およびソフトシュー41との接触面には超音波の音響的整合をとるため揮発性の低いゲル状の液体カップラント42が設けられる。
【0050】
超音波トランスデューサ17の各圧電振動子35から順次発振された超音波は、音響伝播媒体としてのシュー部材40、液体カップラント42、ソフトシュー41および液体カップラント42を順次経て被検査物19の検査領域内部に入射され、検査領域の各境界層で反射する。
【0051】
被検査物19の表面、境界面、底面、内部欠陥43等の各境界層で反射された超音波の反射エコーUは、被検査物19から液体カップラント42、ソフトシュー41、液体カップラント42およびシュー部材40を順次経て、超音波トランスデューサ17の各圧電振動子35に時間差をもってそれぞれ受信され、各圧電振動子35を振動させて電気信号(電気エコー信号)に変換される。この電気エコー信号は、続いて信号ケーブル45を介して信号検出回路32に入力されて圧電振動子35毎に検出される。
【0052】
信号検出回路32は信号ケーブル45を介して超音波トランスデューサ16の各圧電振動子35に整列状態で接続され、圧電変換部36の各圧電振動子35で発生する電気エコー信号は、信号ケーブル45を介して信号検出回路32に導かれる。また、この信号ケーブル45を利用して信号発生部30からの駆動信号が駆動素子選択部31を介して圧電変換部36の各圧電振動子35に導かれる。
【0053】
この超音波検査装置1の探傷処理装置7の作用について説明する。
【0054】
超音波トランスデューサ17の各圧電振動子35のうち、m行n列目の圧電振動子35に駆動信号が加えられると、この圧電振動子35が作動して圧電体としての超音波が発生し、この超音波を発振させる。発振された超音波はシュー部材40、ソフトシュー41および液体カップラント42を経て被検査物19の検査領域に照射される。この時超音波は、一定角度および一定距離を保って被検査物19の検査領域に照射される。
【0055】
被検査物19の検査領域に照射された超音波は、検査領域の密度的境界層から一部が反射して反射エコーUとなる。この反射エコーUは、液体カップラント42、ソフトシュー41およびシュー部材40を経て超音波トランスデューサ17に戻され、各圧電振動子35に時間差を持ってそれぞれ受信される。各圧電振動子35による圧電変換により、反射エコーUは電気エコー信号となって信号検出回路32に信号ケーブル45を介して送られ、検出される。
【0056】
信号検出回路32で検出された電気エコー信号のうち、検査に必要な複数の電気エコー信号は、信号処理部33に導かれる。信号処理部33は、導かれた電気エコー信号を増幅、A/D変換、可視化などの一連の処理を行い、探傷画像情報を生成する。生成された探傷画像情報は、表示装置9に導かれ、画像化処理され2次元または3次元探傷画像が表示される。
【0057】
図4は、スキャナ機構3を説明する構成図である。
【0058】
スキャナ機構3は、被検査物19を設置する走査台3aと、走査台3aの一辺に略垂直に固定される固定部3bと、固定部3b上をX軸方向に駆動するX軸駆動部3cと、Y軸方向およびZ軸方向に駆動するYZ軸駆動部3dから構成される。また、YZ軸駆動部3dの下端には、図2に示した一体型超音波トランスデューサ2が構成される。なお、X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交する軸であり、スキャナ機構3のX軸駆動部3c、YZ軸駆動部3dは、装置本体5のスキャナ機構駆動装置8から送信された制御信号に基づき、X軸、Y軸およびZ軸方向に駆動する。
【0059】
スキャナ機構3の走査台3aには被検査物19が設置され、X軸駆動部3c、YZ軸駆動部3dの駆動に応じて、一体型超音波トランスデューサ2が被検査物19の表面上の走査を行う。一体型超音波トランスデューサ2が被検査物19の表面上の走査を行うには、あらかじめ走査経路情報50を作成する必要がある。
【0060】
走査経路情報50とは、図4における被検査物19上に示されたX軸方向およびY軸方向に示された矢印によって表されたものであり、スキャナ機構のYZ軸駆動部3dの下端に固定された一体型超音波トランスデューサ2が被検査物19の走査を行う際に移動する経路に関する情報である。
【0061】
走査経路情報50は、超音波トランスデューサの開口幅に直交するX軸方向に向かって必要な長さを走査し、その後超音波トランスデューサの開口幅分Y軸方向にシフトして逆向きのX軸方向に向かって必要な長さを走査する動きの組み合わせで形成される。
【0062】
スキャナ機構駆動装置8は、この走査経路情報50に基づきX軸駆動部3cおよびYZ軸駆動部3dを駆動させることで、一体型超音波トランスデューサ2は被検査物19上を自動的に移動し走査する。
【0063】
走査経路情報50は、被検査物19の形状設計データに基づいて計算機ソフトウエアにより作成する方法、あるいは実際にスキャナ機構3を駆動させることで走査経路上の通過点の一点一点を教示・登録する方法などを用いて生成される。この走査経路情報50は、被検査物19の検査領域に対し超音波をほぼ一定条件で入射できるように、被検査物19の検査領域の法線と超音波トランスデューサ17の開口面が直交し、かつ超音波トランスデューサ17の開口面と被検査物19の表面との距離が一定となるように生成されるが、走査経路情報50の生成過程で生じた誤差や、被検査物19のスキャナ機構3への設置誤差など種々の誤差が発生する要因が存在する。
【0064】
本実施形態における超音波検査装置1は、このような種々の誤差に対処するため、距離制御用アクチュエータ15、傾斜制御用アクチュエータ16、および距離計測用センサ18a、18bが一体に構成された一体型超音波トランスデューサ2を用いて誤差補正処理を行いながら超音波探傷検査を行う。一体型超音波トランスデューサ2は、理想の走査位置に対する誤差を検出し、この誤差を距離制御用アクチュエータ15、傾斜制御用アクチュエータ16を用いてリアルタイムに内部で吸収することで自立的に調整を行い、高精度な超音波探傷検査を行うことができる。
【0065】
図5を用いて本実施形態における超音波検査装置1を用いた誤差補正処理を含む超音波探傷検査について説明する。超音波検査装置1を用いた超音波探傷検査は、平板、円筒、球形などの種々の形状をもち、例えば金属材料や樹脂材料などの材料から構成される被検査物19に適用可能である。また、単一の材料から構成されるもののみならず、二以上の構造物を重ね合わせて溶接した多層構造物に適用してもよい。
【0066】
超音波検査装置1による超音波探傷検査は、被検査物19がスキャナ機構3の走査台3aに設置され、例えば入力装置10から入力された検査開始の指示に基づき開始される。
【0067】
ステップS1において、スキャナ機構駆動装置3は、あらかじめ生成された走査経路情報50に基づき、スキャナ機構3のX軸駆動部3cおよびYZ軸駆動部3dを走査台3aに設置された被検査物19上で駆動させる。
【0068】
ステップS2において、距離計測用センサ18a、18bは、レーザ光などを用いた光学計測や超音波計測などの計測手段を用いて被検査物19との距離laおよびlbを計測する。計測結果は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6の距離・傾き演算部21に出力される。
【0069】
ステップS3において、一体型超音波トランスデューサ制御装置6の距離・傾き演算部21は、距離計測ステップS2において計測された距離laおよびlbに基づき、[数1]を用いて超音波トランスデューサ17開口面の中心部と被検査物19との距離lcを演算する。
【0070】
また、距離・傾き演算部21は、算出された距離lcに基づき[数2]を用いて超音波トランスデューサ17開口面の被検査物19に対する傾きθを演算する。
【0071】
ステップS4において、一体型超音波トランスデューサ制御装置6の制御量演算部22は、距離・傾き演算ステップS3において算出された距離lsおよび傾きθに基づき、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量を演算し、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16に出力する。距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量は、被検査物19の検査領域の法線と超音波トランスデューサ17の開口面とが直交し、かつ超音波トランスデューサ17開口面と被検査物19の検査領域とが所定の距離となる理想的な走査位置に超音波トランスデューサ17が配置されるように決定される。
【0072】
ステップS5において、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16は、制御量演算ステップS4において演算された制御量に基づき、移動または回動し、超音波トランスデューサ17を理想的な走査位置に配置する。
【0073】
ステップS6において、一体型超音波トランスデューサ2の超音波トランスデューサ17は、被検査物19の検査領域の走査を行う。超音波トランスデューサ17は、装置本体5の探傷処理装置7で行われる制御に基づき被検査物19の表面上を移動して走査する。探傷処理装置7は、走査により得られた反射エコーを電気エコー信号として増幅、A/D変換、可視化などの一連の処理を行い、探傷画像情報を生成する。生成された探傷画像情報は、表示装置9に導かれた後画像化処理され、2次元または3次元探傷画像が表示される。以上で超音波探傷検査は終了する。
【0074】
なお、距離計測ステップS2から制御ステップS5までの走査経路情報の誤差補正処理は、一体型超音波トランスデューサ2が移動するのと同時にリアルタイムに行われる。
【0075】
このようにスキャナ機構3を駆動してあらかじめ生成された走査経路情報50に基づき一体型超音波トランスデューサ2を移動させ、かつ距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16を用いて検出された誤差に基づき理想的な走査位置に超音波トランスデューサ17を移動させることで、スキャナ機構3に対する複雑な制御を伴うことなく高精度な超音波探傷検査を行うことができる。また、走査経路情報の誤差補正処理を超音波探傷検査の開始時や超音波探傷検査における一定周期で行うことで、超音波探傷検査の作業時間の短縮を図ることができ作業効率を向上させることもできる。
【0076】
この超音波検査装置1によれば、超音波探傷検査中において、あらかじめ生成された走査経路情報50に基づき駆動するスキャナ機構3の走査経路に誤差が存在する場合であっても、一体型超音波トランスデューサ2に距離計測用センサ18a、18bおよび距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16を設けることにより理想的な走査位置と現実の走査位置の誤差を検出し、この誤差をリアルタイムに内部で吸収し自律的に調整することにより高精度な超音波探傷検査を行うことができる。
【0077】
また、理想的な走査位置と走査経路情報50に基づく走査位置との誤差を検出し、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の内部でその誤差を吸収することで、より精細な誤差補正を行うことが可能であり、確実に被検査物19の検査領域の法線と超音波トランスデューサ17の開口面が直交し、かつ超音波トランスデューサ17の開口面中心と被検査物19の表面との距離を一定に保つことができるため、高精度な超音波探傷検査を行うことができる。
【0078】
さらに、ソフトシュー41が挿入されたシュー部材40で構成された音響伝播媒体を用いることで、被検査物19の検査領域の形状変化に対する追従性を向上させるとともに、気泡の入り込みを防止することができるため、超音波探傷検査の性能の向上を図ることができる。また、劣化が速いソフトシュー41の交換が可能なように構成されるため、超音波検査装置1の保守性の向上を図ることができる。さらに、シュー部材40の厚さD1とソフトシュー41の厚さD2を両者の音速比に基づき決定することで、被検査物19からの多重エコーが重なり、検査可能な深さを最適化することができる。
【0079】
なお、被検査物19の一例として、平板に構成された被検査物19を適用して説明したが、これに限らず球形や円筒形状など他の形状であってもよい。
【0080】
また、スキャナ機構3にはX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の回転軸周りに回動する回動部をそれぞれ設けてもよいし、一体型超音波トランスデューサ2に設けた距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16のみならず、他の方向に駆動する制御用アクチュエータをさらに設けてもよい。
【0081】
さらに、一体型超音波トランスデューサ2は、一体型超音波トランスデューサ制御装置6を含む構成であっても、外部に設ける構成であってもよい。
【0082】
さらにまた、ソフトシュー41が挿入されたシュー部材40で構成された音響伝播媒体を用いたが、これに限らずシュー部材40が単独で構成された音響伝播媒体を用いてもよい。
【0083】
また、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16を用いて超音波トランスデューサ17開口面の中心部と被検査物19との距離lcおよび超音波トランスデューサ17開口面の被検査物19に対する傾きθに対する誤差補正処理を行ったが、被検査物19の形状に応じて距離lcおよび傾きθのどちらか一方に対して誤差補正処理を行ってもよい。例えば、被検査物19が平板である場合には、距離制御用アクチュエータ15のみを設け、距離のみを補正することでも高精度な超音波探傷検査が実現できる。また、このような構成とすることで、超音波検査装置の構成を簡素化することができる。
【0084】
さらに、マトリックスアレイ型超音波探触子2の振動子群の配列は、マトリックス状に限らず、リニア状、ハニカム状、同心円状、三角形状であってもよく、またこれらの形状が三次元的配列であってもよい。また、圧電変換部36は圧電振動子35をマトリクス状に配設する代りに、一列にあるいは十字のライン状(アレイ状)にアレイ配列し、アレイセンサを構成してもよい。
【0085】
さらにまた、本実施形態においては、距離計測用センサ18a、18bを2個一組として超音波トランスデューサ17の両端に設けたが、超音波トランスデューサ17に近接配置してもよいし、3個一組など、2個以上で一組としてもよい。
【0086】
[第2の実施形態]
本発明に係る超音波検査装置の第2実施形態について説明する。
【0087】
図6は、本発明に係る超音波検査装置の第2実施形態を示す一体型超音波トランスデューサ2Aおよび探傷処理装置7Aの概略的な構成図である。
【0088】
第2実施形態における超音波検査装置が第1実施形態における超音波検査装置1と異なる点は、探傷処理装置7Aで取得した探傷画像情報に基づき超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きを求める演算を行った点である。なお、第1実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0089】
超音波トランスデューサ17と接続された探傷処理装置7Aには、図2に示す探傷処理装置7の構成に加え、距離・傾き演算部60が設けられる。距離・傾き演算部60は、信号処理部33において信号検出回路32で検出された反射エコーUから得られる電気エコー信号を増幅、A/D変換、可視化などの一連の画像化演算処理を行い生成された探傷画像情報から、超音波トランスデューサ17の開口面中心部と被検査物19の検査領域との距離lcを演算する。また、距離・傾き演算部60は、超音波トランスデューサ17の開口面と、対向する被検査物19の探傷面との傾きθを演算する。なお、超音波トランスデューサ17の開口面と被検査物19の探傷面との距離lcおよび傾きθは、あらかじめ生成された超音波トランスデューサ17の走査経路情報から一定範囲内の誤差であり画像探傷情報から誤差の取得が可能な場合に演算できる。
【0090】
信号処理部33で生成される探傷画像情報は2次元又は3次元の画像情報であって、超音波トランスデューサ17の各圧電変換部36から得られた被検査物19の検査領域からの距離情報が含まれており、これらの距離情報から超音波トランスデューサ17と被検査物19との距離lcおよび傾きθを取得することができる。
【0091】
探傷処理装置7Aは一体型超音波トランスデューサ制御装置6Aに接続されており、探傷処理装置7Aの距離・傾き演算部60で演算された超音波トランスデューサ17と被検査物19の検査領域との距離lcおよび傾きθが出力されるようになっている。一体型超音波トランスデューサ制御装置6Aは、探傷処理装置7Aから出力されたこの距離lcおよび傾きθに基づき、制御量演算部22で距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量を演算する。
【0092】
制御量演算部22で演算された距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量は、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16にそれぞれ制御信号として出力され、各制御用アクチュエータはこの制御信号に基づき駆動する。
【0093】
図7を用いて本実施形態における超音波検査装置を用いた誤差補正処理を含む超音波探傷検査について説明する。超音波検査装置による超音波探傷検査は、被検査物19がスキャナ機構3の走査台3aに設置され、例えば入力装置10から入力された検査開始の指示に基づき開始される。
【0094】
ステップS11において、スキャナ機構駆動装置3は、あらかじめ生成された走査経路情報50に基づき、スキャナ機構3のX軸駆動部3cおよびYZ軸駆動部3dを走査台3aに設置された被検査物19上で駆動させる。
【0095】
ステップS12において、において、一体型超音波トランスデューサ2Aの超音波トランスデューサ17は、被検査物19の検査領域の走査を行う。超音波トランスデューサ17は、装置本体5の探傷処理装置7Aで行われる制御に基づき被検査物19の表面上を移動して走査する。探傷処理装置7Aは、走査により得られた反射エコーを電気エコー信号として増幅、A/D変換、可視化などの一連の処理を行い、信号処理部33で探傷画像情報を生成する。
【0096】
ステップS13において、距離・傾き演算部60は、信号処理部33で生成された探傷画像情報から、超音波トランスデューサ17の開口面中心部と被検査物19の検査領域との距離lcを演算する。また、距離・傾き演算部60は、超音波トランスデューサ17の開口面と、対向する被検査物19の探傷面との傾きθを演算する。距離・傾き演算部60で演算された超音波トランスデューサ17と被検査物19の検査領域との距離lcおよび傾きθは、一体型超音波トランスデューサ制御装置6Aに出力される。
【0097】
ステップS14において、一体型超音波トランスデューサ制御装置6Aの制御量演算部22は、探傷処理装置7Aから出力された距離lcおよび傾きθに基づき、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量を演算する。制御量演算部22で演算された制御量は、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16にそれぞれ制御信号として出力される。
【0098】
ステップS15において、制御量演算部22で演算された制御量に基づき、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16は駆動し、一体型超音波トランスデューサ2Aは理想的な走査位置に配置される。理想的な走査位置に配置された一体型超音波トランスデューサ2Aは、走査ステップS12と同様の走査処理を行う。
【0099】
この超音波検査装置によれば、第1実施形態における超音波検査装置により生じた効果に加え、距離計測用センサ18a、18bを用いることなく超音波トランスデューサ17と被検査物19の探傷面との距離lcおよび傾きθを検出することができるため、装置の簡素化を図ることができ、超音波検査装置の生産性も向上させることができる。
【0100】
[第3の実施形態]
本発明に係る超音波検査装置の第3実施形態について説明する。
【0101】
第3実施形態における超音波検査装置が第2実施形態における超音波検査装置と異なる点は、一体型超音波トランスデューサ2Bの超音波トランスデューサ17Bが、円弧上に設けられた点であり、配管などのコーナ部の内面および外面を有する被検査物19Bを検査領域とした超音波探傷検査に使用される点である。
【0102】
図8は、本発明に係る超音波検査装置の第3実施形態を示す一体型超音波トランスデューサ2Bおよび探傷処理装置7Bの概略的な構成図である。なお、第1実施形態および第2実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0103】
一体型超音波トランスデューサ2Bの超音波トランスデューサ17Bは、圧電振動子35を円弧状に配列した圧電変換部36で構成される。超音波探傷検査時は、圧電振動子35を配列した円弧の曲率中心と、被検査物19Bの検査領域となるコーナ部表面の円弧の曲率中心がほぼ一致する位置に配置され走査される。このように超音波トランスデューサ17Bを配置することにより、各圧電振動子35から照射される超音波は、超音波トランスデューサ17Bの開口面中心と被検査物19Bのコーナ部表面との距離を一定に保つことができ、平面を探傷した場合と同様な画像を得ることができる。
【0104】
探傷処理装置7Bには、距離・傾き演算部60が設けられている。距離・傾き演算部60は、超音波トランスデューサ17と被検査物19の探傷面との距離および傾きを演算する。距離および傾きの検出は、信号処理部33において信号検出回路32で検出された増幅された電気信号である反射エコー、または信号処理部33においてA/D変換、可視化などの一連の画像化演算処理を行い生成された探傷画像情報に基づいて行われる。
【0105】
ここで、誤差補正処理のうち、距離・傾き演算部60が反射エコーから超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの探傷面との距離および傾きを演算する場合について説明する。
【0106】
図9〜図11は、圧電変換部36に配列されたn個の圧電振動子351、352、・・・35i、・・・、35n(以下、圧電振動子35という。)の反射エコーから得られた圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域との距離Dの一例を示す図である。また、各図(B)の横軸は圧電振動子35を、縦軸は圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域との距離Dを示す。また、最大差Xは、ほぼ中心に位置する圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域と、両端に位置する圧電振動子351および35nと被検査物19Bの検査領域との距離の差である。
【0107】
図9(A)は、超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが適切な場合、つまり、圧電振動子35を配列した円弧の曲率中心と、被検査物19Bの検査領域となるコーナ部表面の円弧の曲率中心がほぼ一致した場合を示す。このように超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが適切である場合には、図9(B)に示すように圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域との距離Dは一定であり、最大差Xは0となる。
【0108】
図10(A)は、超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが近い場合を示している。このように超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが近い場合には、図10(B)に示すようにほぼ中心に位置する圧電振動子35iと被検査物19Bの検査領域との距離Dは適正位置よりも小さくなり、最大差Xがマイナスとなる。
【0109】
また、図11(A)は、超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが遠い場合を示している。このように超音波トランスデューサ17Bと被検査物19Bの検査領域との距離Dが遠い場合には、図11(B)に示すようにほぼ中心に位置する圧電振動子35iと被検査物19Bの探傷面との距離Dは適正位置よりも大きくなり、最大差Xがプラスとなる。
【0110】
また、図示はしないが、超音波トランスデューサ17Bが被検査物19の検査領域に対して適切な傾きを有していない場合においても、図9(B)のような適切な反射エコーから得られた圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域の距離Dを示す図が得られないため、ここから傾きを検出することもできる。
【0111】
距離・傾き演算部60は、このようにして圧電振動子35の反射エコーから検出された圧電振動子35と被検査物19Bの検査領域との距離および傾きに関する情報を演算し一体型超音波トランスデューサ制御装置6Bに出力する。
【0112】
一体型超音波トランスデューサ制御装置6Bは、探傷処理装置7Bから出力されたこの距離および傾きに関する情報に基づき、制御量演算部22で距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量を演算する。
【0113】
制御量演算部22で演算された距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16の制御量は、距離制御用アクチュエータ15および傾斜制御用アクチュエータ16にそれぞれ制御信号として出力され、各制御用アクチュエータはこの制御信号に基づき駆動する。
【0114】
本実施形態における超音波検査装置を用いた超音波探傷検査は、第2実施形態において説明した超音波探傷検査とほぼ同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0115】
この超音波検査装置によれば、第1実施形態および第2実施形態における超音波検査装置により生じた効果に加え、超音波トランスデューサ17Bを円弧状に設けることにより、被検査物19Bの検査領域がコーナ部であっても理想的な走査位置との誤差を検出し、一体型超音波トランスデューサ2Bの内部でその誤差を吸収することで、確実に被検査物19Bの表面に対し超音波を一定角度で入射でき、かつ超音波トランスデューサ17の開口面中心と被検査物19の表面との距離を一定に保つことができるため、高精度な超音波探傷検査を行うことができる。
【0116】
なお、本実施形態においては被検査物19のコーナ部内側を検査領域として説明したが、被検査物19のコーナ部外側についても同様に超音波探傷検査を行うことができる。
【0117】
また、超音波トランスデューサ17Bの圧電振動子35の反射エコーから圧電振動子35と被検査物19の探傷面との距離を求めたが、信号処理部33においてA/D変換、可視化などの一連の画像化演算処理を行い生成された探傷画像情報を用いて求めてもよい。
【0118】
[第4の実施形態]
本発明に係る超音波検査装置の第4実施形態について説明する。
【0119】
第4実施形態における超音波検査装置が第3実施形態における超音波検査装置と異なる点は、スキャナ機構に、コーナ用倣い機構を設けた点である。
【0120】
図12は、本発明に係る超音波検査装置の第4実施形態におけるコーナ用倣い機構70および一体型超音波トランスデューサ2Cの一部の概略的な構成図である。なお、第1実施形態から第3実施形態に対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0121】
本実施形態における超音波検査装置は、スキャナ機構3にコーナ用倣い機構70が設けられている。
【0122】
第3実施形態に示した超音波探傷装置は、超音波トランスデューサ17Bの走査経路情報に基づく走査位置と理想的な走査位置との誤差を検出し、一体型超音波トランスデューサ2Bの内部でその誤差を吸収した。本実施形態におけるコーナ用倣い機構70は、理想的な走査位置に保持された誤差補正処理後の超音波トランスデューサ17Cを維持するために設けられる。つまり、超音波探傷検査時において圧電振動子35を配列した円弧の曲率中心と、被検査物19Cの検査領域となるコーナ部表面の円弧の曲率中心がほぼ一致する位置に維持するために設けられる。
【0123】
コーナ用倣い機構70は、コーナ倣い部71、支点位置調整部72およびローラ73からなる。
【0124】
支点位置調整部72は、例えば図示しないスキャナ機構3に設けられる。支点位置調整部72の一端には、2個一組のローラ73が設けられている。この2個のローラ73は、被検査物19Cの平坦部の対向する二面を挟むようにして固定されることで、被検査物19Cの平坦部と支点位置調整部72とが垂直となるように保持する。支点位置調整部72の他端には、支点74が設けられる。この支点74は、被検査物19Cのコーナ部の曲率中心を通る中心軸C上に位置するように調整される。
【0125】
支点位置調整部72には、支点74を軸に回動するコーナ倣い部71が結合される。このコーナ倣い部71は、距離制御用アクチュエータ15および超音波トランスデューサ17Cなどからなる一体型超音波トランスデューサ2Cを保持している。また、コーナ倣い部71の下端には、ローラ75が設けられる。ローラ75は、コーナ倣い部71の長手方向に垂直な軸(図に対する垂直方向に伸びた軸)周りに回動し、被検査物19Cの表面上を回動自在なように構成される。一体型超音波トランスデューサ2Cおよびローラ73は、コーナ倣い部71によって中心軸C上に位置するように構成される。なお、一体型超音波トランスデューサ2Cは、図12においては一部の構成のみを図示したが、図示しない傾斜制御用アクチュエータ16および一体型超音波トランスデューサ制御装置6も設けてもよい。
【0126】
このように構成されるコーナ用倣い機構70は、被検査物19Cの検査領域であるコーナ部に対してローラ75を接触させ一体型超音波トランスデューサ2Cを適切な配置に維持することで、超音波トランスデューサ17Cの各圧電振動子35から照射される超音波は被検査物19Cの検査領域であるコーナ部に直交し、かつ各圧電振動子35からコーナ部表面までの照射距離をほぼ同一とすることができる。
【0127】
この超音波検査装置1によれば、誤差補正処理後の一体型超音波トランスデューサ2Cに対し、被検査物19Cに対する超音波トランスデューサ17Cの走査位置をコーナ部表面に直交し、かつ各圧電振動子35からコーナ部表面までの距離が全て同一となる適切な位置に維持することができる。
【0128】
なお、本実施形態においては被検査物19Cのコーナ部内側を検査領域として説明したが、被検査物19Cのコーナ部外側についても同様に超音波探傷検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明に係る超音波検査装置の第1実施形態を示す概略的な全体構成図。
【図2】超音波検査装置に設けられる一体型超音波トランスデューサを説明する構成図。
【図3】超音波トランスデューサおよび探傷処理装置を説明する機能的な構成図。
【図4】第1実施形態に示されたスキャナ機構を説明する構成図。
【図5】誤差補正処理を含む超音波探傷検査の流れを説明するフローチャート。
【図6】本発明に係る超音波検査装置の第2実施形態の一体型超音波トランスデューサおよび探傷処理装置の概略的な構成図。
【図7】第2実施形態における誤差補正処理を含む超音波探傷検査の流れを説明するフローチャート。
【図8】本発明に係る超音波検査装置の第3実施形態の一体型超音波トランスデューサおよび探傷処理装置の概略的な構成図。
【図9】(A)は超音波トランスデューサと被検査物が適切な走査位置に保持された場合を示す図、(B)は圧電振動子の反射エコーから得られた各圧電振動子と被検査物の検査領域との距離Dを示す図。
【図10】(A)は超音波トランスデューサと被検査物が近い位置で保持された場合を示す図、(B)は圧電振動子の反射エコーから得られた各圧電振動子と被検査物の検査領域との距離Dを示す図。
【図11】(A)は超音波トランスデューサと被検査物が遠い位置で保持された場合を示す図、(B)は圧電振動子の反射エコーから得られた各圧電振動子と被検査物の検査領域との距離Dを示す図。
【図12】本発明に係る超音波検査装置の第4実施形態のコーナ倣い機構の概略的な構成図。
【符号の説明】
【0130】
1 超音波検査装置
2、2A、2B、2C アクチュエータ一体型超音波トランスデューサ(一体型超音波トランスデューサ)
3 スキャナ機構
3a 走査台
3b 固定部
3c X軸駆動部
3d YZ軸駆動部
5 装置本体
6、6A、6B 一体型超音波トランスデューサ制御装置
7、7A、7B 探傷処理装置
8 スキャナ機構駆動装置
9 表示装置
10 入力装置
15 距離制御用アクチュエータ
16 傾斜制御用アクチュエータ
17、17B、17C 超音波トランスデューサ
19、19B、19C 被検査物
21 距離・傾き演算部
22 制御量演算部
33 信号検出部
35 圧電振動子
36 圧電変換部
40 シュー部材
41 ソフトシュー
42 液体カップラント
45 形状データ
50 走査経路情報
60 距離・傾き演算部
70 コーナ用倣い機構
71 コーナ倣い部
72 支点位置調整部
73 ローラ
74 支点
75 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電振動子が配列され、被検査物の検査領域に対し超音波を発振し、その反射エコーを受信する超音波トランスデューサと、
前記超音波トランスデューサに対し超音波を発振させ、かつ前記超音波トランスデューサが受信した前記反射エコーの電気エコー信号を検出し演算処理して前記被検査物の検査領域の探傷画像情報を生成する探傷処理装置と、
あらかじめ生成された走査経路情報に基づき前記被検査物上で前記超音波トランスデューサを駆動するスキャナ機構と、
前記超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を求める距離・傾き演算部と、
前記距離・傾き演算部で求められた前記距離および傾きのうち少なくとも一方に基づき、前記走査経路情報に基づく走査位置と、前記被検査物の検査領域の法線と前記超音波トランスデューサの開口面とが直交しかつ前記超音波トランスデューサと前記被検査物の検査領域とが所定の距離である所定の走査位置との誤差を算出し、この誤差に基づいて前記超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を前記所定の走査位置に補正するための制御信号を生成する制御部と、
前記制御部で生成された前記制御信号に基づき、前記超音波トランスデューサを前記所定の走査位置に駆動する駆動機構を備え、
少なくとも前記超音波トランスデューサと前記駆動機構とが一体に構成された一体型超音波トランスデューサを構成したことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
前記超音波トランスデューサには、光学計測または超音波計測により前記被検査物の検査領域との距離情報を出力する既知の間隔で設けられた複数個を一組とする距離計測用センサがさらに設けられ、
前記距離・傾き演算部は、前記距離計測用センサから出力された前記距離情報に基づき、前記超音波トランスデューサの開口面中心と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を求めることを特徴とする請求項1記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記距離・傾き演算部は、前記探傷処理装置が検出した前記反射エコーの電気エコー信号および前記探傷処理装置で生成された前記被検査物の検査領域の探傷画像情報の少なくとも一方に基づき、前記超音波トランスデューサの開口面と前記被検査物の検査領域との距離および傾きのうち少なくとも一方を求めることを特徴とする請求項1記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記圧電振動子が円弧状に配列して構成された前記超音波トランスデューサの曲率中心と、前記被検査物の検査領域としてのコーナ部の曲率中心が一致した位置を前記所定の走査位置とし、前記走査経路情報に基づく走査位置と前記所定の走査位置との誤差を算出することを特徴とする請求項3記載の超音波検査装置。
【請求項5】
前記被検査物の少なくとも検査領域に接触した場合に回動するローラを下端に備え、前記一体型超音波トランスデューサを前記被検査物の検査領域としてのコーナ部と対向するように保持するコーナ用倣い部と、
前記コーナ用倣い部の上端と支点を介して結合し、前記被検査物の端部を保持することで前記コーナ用倣い部に保持された前記一体型超音波トランスデューサを前記所定の走査位置に維持する支点位置調整部とから構成されるコーナ用倣い機構をさらに備えたことを特徴とする請求項4記載の超音波検査装置。
【請求項6】
前記被検査物との接触面に設けられたほぼ平板状のソフトシュー挿入部を備えたシュー部材と、前記シュー部材に比べ柔軟性を有し、かつ前記ソフトシュー挿入部とほぼ同形状であるソフトシューが前記ソフトシュー挿入部に液体カップラントを介して着脱可能に装着される一方、前記シュー部材およびソフトシューの音速比に基づき前記シュー部材およびソフトシューの厚さが決定されたシュー部材をさらに備え、
前記シュー部材の前記ソフトシュー挿入部は、前記超音波トランスデューサと前記被検査物の検査領域との間に、前記液体カップラントを介して前記被検査物の検査領域に接するように密着固定されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超音波検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−204327(P2009−204327A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44307(P2008−44307)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】