説明

超音波洗浄装置

【課題】間接照射方式の超音波洗浄装置において、洗浄槽内の音圧を安定させやすく、洗浄力を安定させることのできる超音波洗浄装置の提供にある。
【解決手段】底面に超音波振動板13が取り付けられ、内部に超音波振動を伝達する間接水14を貯留する外槽12と、該外槽12の内部に配置され底面11aが超音波振動板13から所定の間隔Lを有し、内部に洗浄液15を入れて浸漬させた被洗浄物を間接水14を介して伝搬する超音波振動により洗浄する洗浄槽11とを備え、かつ間接水14の液温を調整する調温ユニット17を有し、前記所定の間隔Lを、L=(λ/2)×n+λ/4、nは0≦n≦30の整数、λは間接水中での超音波の波長で示されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ、液晶ガラス基板、ハードディスク等の被洗浄物に付着した微細なパーティクル等を除去するための超音波洗浄装置に関するものであって、詳しくは洗浄槽の洗浄液中の浸漬された被洗浄物に対し外槽中に貯留された間接水を介して超音波を照射し洗浄する間接照射型の超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程等において、半導体ウエーハや液晶ガラス基板に塵が付着していると、製造したICチップや液晶表示素子に欠陥が生じることになる。そこで、予めこれら被洗浄物の表面を洗浄する必要が生じるのであるが、1μm以下の微細な塵、いわゆるパーティクルを除去するには、波長が短く、かつキャビテーションによる被洗浄物の損傷を起こさないためなどから高い周波数の超音波振動を用いた洗浄装置が用いられている。
【0003】
また、洗浄槽や超音波振動板にステンレスや他の金属を使用すると、溶出する金属イオンが被洗浄物に付着するという問題がある。そこで、図4に示すように、洗浄装置40を洗浄槽41と外槽42の二重構造にして、洗浄槽41には石英ガラスを用い、外槽42をプラスチックやステンレス製として、外槽42の底面に超音波振動板43を取り付けるとともに、その内部に超音波を伝搬する間接水(脱気した純水など)44を入れる。
そして、その間接水44中に洗浄槽41をその底面が浸るように配置して、洗浄槽41内に洗浄液45を入れ、その中に被洗浄物(図示せず)を浸漬させて外槽42の底面に取り付けた超音波振動板43を駆動して間接水44を介し洗浄槽41中の被洗浄物を洗浄するようにしている。特許文献1,2,3にも同様な二重構造の洗浄装置が記載されている。
【0004】
その際に、超音波振動板43から照射された超音波の一部は洗浄槽41底面に当たって反射し、振動板43と洗浄槽41底面間に定在波を発生させる。この定在波は、超音波の波長λと、振動板43と洗浄槽41底面間の距離Lの関係により振幅の大小が変化する。この定在波の振幅が大きいと、それに伴って洗浄槽41内の音圧が高くなるが、逆に小さくなると洗浄槽41内の音圧は低くなる。
【0005】
ところで、上記のような洗浄装置40の場合、外槽42の間接水44中を介して洗浄槽41内の洗浄液45中へ効果的に超音波を伝搬させるためには、超音波振動板43の表面から洗浄槽41の底面までの間隔L(図5参照)が、図6に示すように、超音波振動板43から照射された超音波振動波の節になる部分が洗浄槽41の底面に当たるように設定することが肝要となる。このとき超音波振動板43と洗浄槽41底面の間には、図6に示すような定在波が生じる。この定在波は、振動板43と洗浄槽41間の距離Lと超音波の波長λが以下の条件になると振幅が極大点になる。
L=(λ/2)×n+λ/4
ここでλは超音波の波長、nは任意の整数
【0006】
また、超音波振動板43の表面から洗浄槽41の底面までの間隔をLとして、洗浄槽41の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αを算出する式は、下記の数1のように表示される。
【数1】

【0007】
超音波透過率αが高いほど、洗浄槽41へ超音波がより多く到達しているので、結果的に洗浄槽41内の音圧が高くなる。間接水44中での超音波の音速は温度によって変化するものの、本来それによる波長λの変化は僅かではあるが、超音波振動板43と洗浄槽41間の距離Lが超音波の波長λに比べて十分長いと、結果的にその距離中に複数の波長を含むことになり、Δλ(波長λの変化)×波長数の影響が大きく現れてくる。
【0008】
図7は、洗浄槽41と超音波振動板43との距離Lを十分取ったある一定の値とし振動周波数1MHzとした場合に、間接水44の温度を変化させたときの超音波透過率αの変化を調べたものである。図に示すように、温度の変化によって超音波透過率αには多数のピークが生じることがわかる。そこで、間接水の温度をコントロールして超音波透過率を一つの山のところに持って行き音圧が変化しないようにする必要がある。このため、調温ユニットを設置して間接水の温度を一定にするようにしている。
【0009】
【特許文献1】特許第3349636号公報
【特許文献2】実用新案登録第3006785号公報
【特許文献3】特開2002−59095公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、洗浄槽41と超音波振動板43との距離Lを十分取ったある一定の値とした場合に、洗浄槽41の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αが多数できるのであるが、例として、間接水を25℃に保持した場合を考えると、距離Lを一定に保っていても、25±1℃における超音波透過率αが25℃のときと比べると大幅に変化する。間接水の温度が設定温度から±1℃異なるだけで、被洗浄物の洗浄度が大幅に異なるため、洗浄不足が生じたりあるいは音圧の急激な変化によって被洗浄物にダメージを与えることがある。
【0011】
このようなことが生じないためには、間接水の温度コントロールを設定温度に対し±0.1〜±0.2℃以内程度に制御する必要が有り、このため調温ユニットの制御機構が複雑になる。
【0012】
本発明の課題は、間接照射方式の超音波洗浄装置において、洗浄槽内の音圧を安定させやすく、洗浄力を安定させることのできる超音波洗浄装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1記載の超音波洗浄装置は、
底面に超音波振動板が取り付けられ、内部に超音波振動を伝達する間接水を貯留する外槽と、該外槽の内部に配置され底面が前記超音波振動板から所定の間隔Lを有し、内部に洗浄液を入れて浸漬させた被洗浄物を前記間接水を介して伝搬する超音波振動により洗浄する洗浄槽とを備え、かつ前記間接水の液温を調整する調温ユニットを有する超音波洗浄装置であって、
前記所定の間隔Lを、
L=(λ/2)×n+λ/4
n:0≦n≦30の整数
λ:間接水中での超音波の波長
で示されるように構成したことを特徴としている。
【0014】
請求呼応2記載の発明は、
底面に超音波振動板が取り付けられ、内部に超音波振動を伝達する間接水を貯留する外槽と、該外槽の内部に配置され底面が前記超音波振動板から所定の間隔Lを有し、内部に洗浄液を入れて浸漬させた被洗浄物を前記間接水を介して伝搬する超音波振動により洗浄する洗浄槽とを備え、かつ前記間接水の液温を調整する調温ユニットを有する超音波洗浄装置であって、
前記所定の間隔L及び洗浄槽の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αの関係が、
L=(λ/2)×n+λ/4
n:超音波透過率αを最高値になる時の間接水の設定液温値±10℃内に
他の超音波透過率αの山の頂点を含まない正の整数
λ:間接水中での超音波の波長
で示されるように構成したことを特徴としている。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の超音波洗浄装置に置いて、超音波振動の振動周波数は300kHz〜5MHzであることを特徴としている。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の超音波洗浄装置に置いて、調温ユニットにより前記外槽に貯留された間接水の温度は洗浄時の設定液温(20〜70℃)±10℃に保持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明は、洗浄槽の底面と超音波振動板との距離LをL=(λ/2)×n+λ/4と定め、かつnの値を0≦n≦30の整数としたので、洗浄槽の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αが間接水の液温変化に対して変化が少なくなり(数1、図2参照)、間接水の液温コントロールが容易になる。このため、調温ユニットの構成を簡単にすることができるともに、液温変化による超音波透過率αの変化が少ないので、被洗浄物に対する洗浄不足が生じたりあるいは音圧の急激な変化によって被洗浄物にダメージを与えたりすることを軽減することができる。
外槽内への洗浄槽の配置の難しさを除けば、nの値を小さくするほど、間接水の液温の変化による超音波透過率の変化が少なくなるので、許容される液温の範囲が広がり液温コントロールが容易になる。
【0018】
請求項2記載の発明は、洗浄槽の底面と超音波振動板との距離LをL=(λ/2)×n+λ/4と定め、かつnの値を超音波透過率αを最高値になる時の間接水の設定液温値±10℃内に他の超音波透過率αの山の頂点を含まない正の整数としたので、洗浄槽の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αが間接水の液温変化に対しての変化が少なくなり、間接水の液温コントロールが容易になる。その結果、被洗浄物に対する洗浄不足が生じたりあるいは音圧の急激な変化によって被洗浄物にダメージを与えたりすることを軽減することができる。
【0019】
請求項3記載の発明の場合は、超音波振動の振動周波数は300kHz〜5MHzとしたので、洗浄力が必要な場合は、1MHz未満の低周波を用い、被洗浄物のダメージ低減及び微細なパーティクルの除去が必要な場合は、1MHz以上の周波数を選択することが可能である。
【0020】
請求項4記載の発明の場合、間接水の洗浄時の液温を20℃〜70℃に設定した上で、その液温時の波長λを用いて洗浄槽の底面と超音波振動板の距離LをL=(λ/2)×n+λ/4(nは整数)に設置することで、丁度設定温度にて超音波透過率αのピークが現れる。さらに、0≦n≦30にすることで間接水の液温変化が±10℃変化しても、洗浄槽内の急激な音圧変化が少なくなり、洗浄力が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る超音波洗浄装置の実施の形態につき説明する。
図1は、本発明に係る超音波洗浄装置の実施の形態の断面図である。
図に示すように、この超音波洗浄装置10は洗浄槽11と外槽12とからなる二重槽構造のものである。外槽12は底面には発振器16によって振動する超音波振動板13が取り付けられており、該外槽12の内部には外槽の底面(超音波振動板13と面一とする。)12aと洗浄槽11の底面11aとが所定の間隔Lとなるように洗浄槽11が配置されている。また、外槽12の内部には超音波を伝搬する間接水14が貯留されていて、内槽11の底面11aがこの間接水14中に浸されている。間接水14は通常、水であり、脱気水の方が好ましい。また、間接水14の液温は調温ユニット17によってコントロールできるように構成されている。
また、洗浄槽11内には被洗浄物を洗浄するための洗浄液15が満たされている。
なお、内槽11の材質は、石英ガラスなど熱や薬剤に耐久製のあるものが好ましく、外槽12はステンレスやプラスチックで頑丈なものが好ましい。
【0022】
内槽11の底面11aと、超音波振動板13が取り付けられた外槽12の底面12a(超音波振動板13と同じとみる)との距離Lは、L=(λ/2)×n+λ/4で、かつnは0≦n≦30の整数である。また、λは使用する超音波の波長であって間接水14の液温によって若干変化する。同じ液体中でも温度によって音速が変わることによるものである。
超音波周波数1MHzにおいて、間接水14の液温25℃を基準にして、洗浄槽11の底面11aに至る時点での間接水14の超音波透過率αをnを変化させた時の状態を算出した。その結果を図2に示す。
【0023】
間接水(純水)の液温が25℃で、超音波の周波数が1MHzの時、音速は1500m/secとなり、λ=1500/1000=1.5mmとなる。
n=1の時、L=(1.5/2)×n+1.5/4=1.125mm
外槽12に設けられた超音波振動板13と洗浄槽11の底面11aとの距離Lを1.125mmにセットして間接水の液温を10℃から60℃まで変化させてみると、超音波透過率αは25℃を頂点として左右になだらかに変化する。
n=5の時、L=(1.5/2)×n+1.5/4=4.125mm
同様に、4.125mmにセットして、間接水の液温を10℃から60℃まで変化させてみると、超音波透過率αはn=1の時に比べて変化が大きくはなるが、10℃から60℃の間に25℃を頂点とした山(ピーク)が一つだけできることがわかる。
n=50の時、L=(1.5/2)×n+1.5/4=37.875mm
同じく、超音波振動板13と洗浄槽11の底面11aとの距離Lを37.875mmにセットして間接水の液温を10℃から60℃まで変化させてみると、超音波透過率αは25℃を頂点とした山のほかに15℃近辺と40℃近辺にも山ができ、各山は急峻となることがわかる。すなわち、間接水のわずかな温度変化によって超音波透過率αが大きく変化することになる。
【0024】
この結果より、出来るだけnを小さくする(距離Lを近づける)方が、間接水の液温の変化による影響を少なくすることが出来ることがわかる。
【0025】
そこで、超音波透過率αの山の変化が比較的なだらかで、間接水の液温調整を行い易いn値の数値の多い方の限界を調べてみると、図3に示すように、基準値とした25℃から±10℃内に他の超過率αの山が生じないところが間接水の温度コントロールしやすさの限界点であるという結論に達した。
このため、本発明では、外槽12に設けられた超音波振動板13と洗浄槽11の底面11aとの距離LをL=(λ/2)×n+λ/4、かつnは0≦n≦30の整数と定めた。なお、λは間接水中の超音波の波長である。
あるいはまた、本発明では、外槽12に設けられた超音波振動板13と洗浄槽11の底面11aとの距離LをL=(λ/2)×n+λ/4、かつnは超音波透過率αが最高値になる時の間接水の設定液温値±10℃内に他の超音波透過率αの山の頂点を含まない正の整数と定めた。
【0026】
なお、上記の結果より、距離Lの条件を満たしながら、出来るだけ振動子と洗浄槽の距離を可能な限り近づけてやれば、間接水の液温のコントロールが容易になり、これにより洗浄槽内の音圧を一定にすることができ、洗浄力を保つことが出来ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る超音波洗浄装置の実施の形態の断面図及び超音波振動板が取り付けられた外槽の底面との距離Lの条件を示した図である。
【図2】図1に示す超音波洗浄装置であって、超音波振動板が取り付けられた外槽の底面との距離L=(λ/2)×n+λ/4のnを変え、かつ間接水の液温を変えた時の超音波透過率αの変化を示す図である。
【図3】超音波振動板が取り付けられた外槽の底面と洗浄槽の底面との距離L=(λ/2)×n+λ/4のnを30としたときに間接水の液温を変えた時の超音波透過率αの変化を示す図である。
【図4】従来の間接照射式超音波洗浄装置の概略図である。
【図5】従来の間接照射式超音波洗浄装置の概略図で、超音波振動板が取り付けられた外槽の底面との洗浄槽の底面との距離Lを示す図である。
【図6】超音波振動板が取り付けられた外槽の底面との洗浄槽の底面との間に超音波の定在は生じている状態を示す図である。
【図7】間接水の温度変化によって複数の超音波透過率αの山が生じることを示した図である。
【符号の説明】
【0028】
10、40 超音波洗浄装置
11、41 洗浄槽
12、42 外槽
12a 外槽底面
13、43 超音波振動板
14、44 間接水
15、45 洗浄液
16 発振器
17 調温ユニット
L 超音波振動板が取り付けられた外槽の底面との洗浄槽の底面との距離
λ 超音波の波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に超音波振動板が取り付けられ、内部に超音波振動を伝達する間接水を貯留する外槽と、該外槽の内部に配置され底面が前記超音波振動板から所定の間隔Lを有し、内部に洗浄液を入れて浸漬させた被洗浄物を前記間接水を介して伝搬する超音波振動により洗浄する洗浄槽とを備え、かつ前記間接水の液温を調整する調温ユニットを有する超音波洗浄装置であって、
前記所定の間隔Lを、
L=(λ/2)×n+λ/4
n:0≦n≦30の整数
λ:間接水中での超音波の波長
で示されるように構成したことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
底面に超音波振動板が取り付けられ、内部に超音波振動を伝達する間接水を貯留する外槽と、該外槽の内部に配置され底面が前記超音波振動板から所定の間隔Lを有し、内部に洗浄液を入れて浸漬させた被洗浄物を前記間接水を介して伝搬する超音波振動により洗浄する洗浄槽とを備え、かつ前記間接水の液温を調整する調温ユニットを有する超音波洗浄装置であって、
前記所定の間隔L及び洗浄槽の底面に至る時点での間接水の超音波透過率αの関係が、
L=(λ/2)×n+λ/4
n:超音波透過率αを最高値になる時の間接水の設定液温値±10℃内に
他の超音波透過率αの山の頂点を含まない正の整数
λ:間接水中での超音波の波長
で示されるように構成したことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記超音波振動の振動周波数は300kHz〜5MHzであることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記調温ユニットにより前記外槽に貯留された間接水の温度は洗浄時の設定液温(20〜70℃)±10℃に保持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−43842(P2008−43842A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219271(P2006−219271)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000124959)株式会社カイジョー (83)
【Fターム(参考)】