説明

超音波溶接方法、超音波溶接装置及び導体ユニット

【課題】他の電気部品などと短絡することを防止できかつ熱に弱い材質から第1及び第2金属を構成することができる超音波溶接方法、超音波溶接装置及び導体ユニットを提供する。
【解決手段】超音波溶接装置10は超音波溶接機11と冷却機構12を備えている。超音波溶接機11は互いの間にめっき層6が形成された金属片2と芯線7とを挟むチップ14とアンビル15とを備えている。冷却機構12はチップ14とアンビル15との間に挟まれた金属片2及び芯線7を冷却する。超音波溶接装置10はめっき層6に芯線7を重ねてチップ14とアンビル15との間に金属片2と芯線7とを挟み、冷却機構12で冷却しながら、超音波溶接機11がめっき層6が溶融する強さの超音波振動を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫または錫合金などからなるめっき層を備えた金属と、他の金属とを接合する超音波溶接方法、超音波溶接装置及び錫または錫合金などからなるめっき層を備えた金属と他の金属とを備えた導体ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車などに配索されるワイヤハーネスは、電線と該電線の端部に取り付けられる第1金属としての端子金具と、を備えている。前記電線は、銅などの金属からなる第2金属としての芯線と、該芯線を被覆する絶縁性の被覆部と、を備えている。端子金具は、導電性の金属からなる母材の表面に、錫などからなるめっき層が形成されている。
【0003】
従来から、前記端子金具と前記電線とを電気的及び機械的に接続する際には、端子金具の一部分を前記電線にかしめてきた。このため、例えば、自動車などに前記ワイヤハーネスが配索された際に、該自動車の走行中の振動などによって、前記端子金具と電線との電気的な接続が、断線する恐れが生じる。
【0004】
このため、前記端子金具と前記電線の芯線とを加熱して、これらを所謂超音波溶接で互いに接合して、前記端子金具と電線とを確実に電気的に接続することが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−168876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に示された超音波溶接方法は、錫又は錫合金を含んだめっき層を一旦溶融して、溶融しためっき層を母材と芯線との間から除去して、これらの母材と芯線とを所謂超音波溶接する。このため、特許文献1に示された方法では、溶融しためっき層が、母材の表面に沿って該母材の外側に拡がることがあった。このように、溶融しためっき層があたかもバリのように、母材の外側に拡がって、他の端子金具などの電気部品などと接触する虞があった。このように、前述した特許文献1に示された超音波溶接方法を用いると、電気部品同士が短絡する虞がった。
【0006】
また、前述した特許文献1に示された超音波溶接方法は、端子金具や電線の芯線を加熱しながら超音波溶接するので、端子金具の母材や電線の芯線を熱に弱い材質から形成することができなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、他の電気部品などと短絡することを防止できかつ熱に弱い材質から第1及び第2金属を構成することができる超音波溶接方法、超音波溶接装置及び導体ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の超音波溶接方法は、母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を接合する超音波溶接方法において、前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して前記めっき層が溶融する超音波振動を付与して、前記母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とを接合することを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の本発明の超音波溶接方法は、請求項1に記載の超音波溶接方法において、前記めっき層は、錫又は錫合金を含み、前記第2金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含んでいることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の本発明の超音波溶接装置は、母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を接合する超音波溶接装置において、前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して、前記めっき層が溶融する超音波振動を付与する超音波振動付与手段と、前記母材、めっき層及び第2金属を冷却する冷却機構と、を備え、前記超音波振動付与手段が第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して超音波振動を付与して、前記冷却機構が母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とを接合することを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の本発明の導体ユニットは、母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を備え、前記めっき層と前記第2金属とが接合された導体ユニットにおいて、前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して前記めっき層が溶融する超音波振動を付与されて、前記母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とが接合されたことを特徴としている。
【0012】
請求項1に記載した本発明の超音波溶接方法によれば、冷却しながらめっき層が溶融する超音波振動を付与するので、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することを規制できるとともに、溶融しためっき層が直ちに固まる。
【0013】
請求項2に記載した本発明の超音波溶接方法によれば、めっき層が錫又は錫合金を含み、第2金属がアルミニウム又はアルミニウム合金を含んでいるので、めっき層と第2金属との接合箇所で金属間化合物を形成することがない。その上、前述した接合箇所に超音波振動が付与された時の塑性流動などにより、前述した錫又は錫合金及びアルミニウム又はアルミニウム合金を含んだ合金が形成される。
【0014】
請求項3に記載した本発明の超音波溶接装置によれば、冷却機構が冷却しながら、超音波振動付与手段は、めっき層が溶融する超音波振動を付与する。このため、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することを規制できるとともに、溶融しためっき層が直ちに固まる。
【0015】
請求項4に記載した本発明の導体ユニットによれば、冷却されながら、めっき層が溶融する超音波振動が付与されて、めっき層と第2金属とが接合されている。このため、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することを規制されるとともに、溶融しためっき層が直ちに固まる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明は、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することを規制できるとともに、溶融しためっき層を直ちに固めることができる。このため、めっき層が母材の外側に拡がることを防止できる。したがって、第2金属と接合されためっき層が他の電気部品と接触して、該他の電気部品と短絡することを防止できる。
【0017】
また、めっき層が溶融する強さの超音波振動を付与するので、接合箇所で塑性流動が生じめっき層と第2金属とが金属間化合物を形成することなく混ざり合う。このため、めっき層と第2金属との接合強度を強くすることができる。
【0018】
さらに、冷却しながら超音波溶接を行うので、めっき層などの温度が過度に上昇することを防止できる。したがって、めっき層、母材及び第2金属を耐熱性の低い金属から構成することができる。
【0019】
請求項2に記載の本発明は、めっき層と第2金属との接合箇所で金属間化合物を形成することなく、接合箇所で塑性流動などにより錫又は錫合金及びアルミニウム又はアルミニウム合金を含んだ合金が形成される。したがって、めっき層と第2金属との接合強度を強くすることができる。
【0020】
請求項3に記載の本発明は、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することを規制できるとともに、溶融しためっき層を直ちに固めることができる。このため、めっき層が母材の外側に拡がることを防止できる。したがって、第2金属と接合されためっき層が他の電気部品と接触して、該他の電気部品と短絡することを防止できる。
【0021】
また、めっき層が溶融する強さの超音波振動を付与するので、接合箇所で塑性流動が生じめっき層と第2金属とが金属間化合物を形成することなく混ざり合う。このため、めっき層と第2金属との接合強度を強くすることができる。
【0022】
さらに、冷却しながら超音波溶接を行うので、めっき層などの温度が過度に上昇することを防止できる。したがって、めっき層、母材及び第2金属を耐熱性の低い金属から構成することができる。
【0023】
請求項4に記載の本発明は、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層が溶融することが規制されているとともに、溶融しためっき層が直ちに固められている。このため、めっき層が母材の外側に拡がることを防止できる。したがって、第2金属と接合されためっき層が他の電気部品と接触して、該他の電気部品と短絡することを防止できる。
【0024】
また、めっき層が溶融する強さの超音波振動が付与されるので、接合箇所で塑性流動が生じめっき層と第2金属とが金属間化合物を形成することなく混ざり合う。このため、めっき層と第2金属との接合強度を強くすることができる。
【0025】
さらに、冷却しながら超音波溶接が行われるので、めっき層などの温度が過度に上昇することを防止できる。したがって、めっき層、母材及び第2金属を耐熱性の低い金属から構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を、図1ないし図8を参照して説明する。第1の実施形態には、図1に示す導体モジュール1を組み立てる。導体モジュール1は、図1に示すように、第1金属としての金属片2と、被覆電線3とを備えている。
【0027】
金属片2は、板状の母材5と、該母材5の一方または両方の表面に形成されためっき層6と、を備えて、比較的薄い薄板状に形成されている。母材5は、導電性を有する金属からなる。図示例では、母材5は黄銅からなる。めっき層6は、錫または錫合金からなる(を含んでいる)。図示例では、めっき層6は、錫からなる(を含んでいる)。
【0028】
被覆電線3は、断面形状が丸形に形成されている。被覆電線3は、断面丸形の第2金属としての芯線7と、この芯線7を被覆する被覆部8と、を備えている。芯線7は、前記金属片2とは勿論別体である。芯線7は、導電性を有する金属からなる(を含んている)。芯線7は、一本の導電性の素線または、複数の導電性の素線が撚られて構成されている。
【0029】
芯線7は、可撓性を有している。素線則ち芯線7は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる(を含んでいる)。図示例では、芯線7を構成する素線は、アルミニウム合金からなる(を含んでいる)。被覆部8は、絶縁性と可撓性とを有する合成樹脂からなる。
【0030】
前記導体モジュール1は、金属片2のめっき層6に芯線7が重なった状態で、金属片2のめっき層6と芯線7とが互いに接合している。このとき、めっき層6と芯線7との接合箇所Sでは、図2に示すように、めっき層6を構成する錫と芯線7を構成するアルミニウム合金とを含んだ合金Gが形成されている。また、接合箇所Sには、めっき層6を構成する錫と芯線7を構成するアルミニウム合金との金属間化合物が形成されていない。前述した接合箇所Sは、冷却されながら、めっき層6が溶融する強さの超音波振動が後述するチップ14などを介して芯線7、めっき層6及び母材5に付与されて、形成されている。
【0031】
前記導体モジュール1は、前記金属片2のめっき層6と、芯線7とが、超音波溶接装置10(図3に示す)によって互いに接合されて得られる。超音波溶接装置10は、図3に示すように、超音波振動付与手段としての超音波溶接機11と、冷却機構12と、制御手段としての制御装置13とを備えている。
【0032】
超音波溶接機11は、図3に示すように、チップ14(工具ホーンともいう)と、このチップ14に相対するアンビル15と、図示しない発振機と、振動子と、ホーン16などを備えている。
【0033】
超音波溶接機11は、チップ14とアンビル15との間に互いに溶接する溶接対象物を挟み、これらのチップ14とアンビル15とを互いに近づける方向に加圧した状態で、発振機で振動子を振動させてこの振動(超音波振動ともいう)をホーン16経由でチップ14に伝える。そして、超音波溶接機11は、チップ14とアンビル15との間に挟んだ溶接対象物に超音波振動を加えて該対象物同士を溶接する。
【0034】
冷却機構12は、冷却剤吹き付け装置17と、冷却剤循環装置18とを備えている。冷却剤吹き付け装置17は、冷却剤供給源19と、複数のノズル20(図3には一つのみ示す)とを備えている。冷却剤供給源19は、冷却された例えば空気などの気体などの冷却剤を収容しており、前述したノズル20内に供給する。ノズル20は、冷却剤供給源19から供給された冷却剤をチップ14の先端に吹き付ける。冷却剤吹き付け装置17は、ノズル20から冷却剤をチップ14の先端に吹き付けて、チップ14とアンビル15との間に挟まれた芯線7、めっき層6及び母材5を冷却する。
【0035】
冷却剤循環装置18は、配管21と、冷媒タンク22と、膨張弁23と、圧縮機24と、熱交換器25とを備えている。配管21は、一部がアンビル15に取り付けられている。配管21は、前述した冷媒タンク22と、膨張弁23と、圧縮機24と、熱交換器25とを直列に連結している。冷媒タンク22は、熱交換器25により冷却された冷媒を収容する。膨張弁23は、冷媒タンク22内の冷媒を膨張させて冷却して、配管21のアンビル15に取り付けられた部分を通して圧縮機24に送り出す。
【0036】
配管21内の冷媒は、膨張弁23から圧縮機24に向かって流れて、アンビル15の熱を奪い、加熱される。則ち、配管21内の冷媒はアンビル15を冷却する。圧縮機24は、アンビル15によって加熱された冷媒を圧縮して液化して熱交換器25に送り出す。熱交換器25は、圧縮機24により液化された冷媒を冷却して冷媒タンク22に送り出す。
【0037】
前述した冷却剤循環装置18は、配管21内の冷媒を冷媒タンク22、膨張弁23、圧縮機24及び熱交換器25と順に循環させて、アンビル15を冷却することで、チップ14とアンビル15とに挟まれた母材5、めっき層6及び芯線7を冷却する。
【0038】
前述した冷却機構12は、冷却剤吹き付け装置17がチップ14の先端に冷却剤を吹き付け、冷却剤循環装置18がアンビル15を冷却して、チップ14とアンビル15とに挟まれた母材5、めっき層6及び芯線7を冷却する。
【0039】
制御装置13は、周知のRAM、ROM、CPUなどを備えたコンピュータである。制御装置13は、超音波溶接機11と冷却機構12などと接続しており、これらの動作を制御することにより、超音波溶接装置10全体の制御を司る。前述した制御装置13は、チップ14とアンビル15とを互いに近づける方向に加圧する力、超音波振動の振幅や周波数及び振動時間などがめっき層6が溶融するような値となるように、超音波溶接機11を制御する。則ち、制御装置13は、超音波溶接機11にめっき層6が溶融する超音波振動を付与させる。
【0040】
また、制御装置13は、前述した冷却機構12の冷却剤吹き付け装置17が冷却剤を吹き付けるパターンや冷却剤循環装置18が冷媒を循環するパターンを記憶しており、これらの予め記憶したパターンどおりに冷却剤吹き付け装置17及び冷却剤循環装置18を動作して、チップ14とアンビル15との間に挟まれた母材5、めっき層6及び芯線7を冷却する。
【0041】
前記導体モジュール1を組み立てる際、即ち、金属片2のめっき層6と芯線7とを固定する際には、予め被覆部8の一部分を除去して芯線7の一部分を露出させておく。なお、図示例では、被覆電線3の端部3aに位置する被覆部8を除去している。
【0042】
そして、図3に示すように、めっき層6がチップ14に相対するように、アンビル15に金属片2を重ねる。金属片2のめっき層6に露出した芯線7を重ねる。芯線7にチップ14の先端面を接触させる。こうして、チップ14とアンビル15との間に、金属片2と板部材4と芯線7とを挟む。
【0043】
そして、チップ14とアンビル15とを互いに近づける方向に加圧した後、発振機で振動子を振動させてこの振動をホーン経由でチップ14に伝える。すると、チップ14が、例えば、図4中の矢印Kに沿って、振動する。なお、矢印Kは、チップ14とアンビル15とが相対する方向に対し直交し、金属片2の表面と平行である。
【0044】
制御装置13が、図4に示すように、超音波溶接機11に、前述しためっき層6が溶融する超音波振動を前述した芯線7などに付与させる。さらに、制御装置13は、冷却機構12にチップ14とアンビル15との間に挟まれた母材5、めっき層6及び芯線7を冷却させる。こうして、冷却しながらチップ14とアンビル15との間に挟まれた母材5、めっき層6及び芯線7にめっき層6が溶融する強さの超音波振動を付与する。
【0045】
すると、芯線7とめっき層6との間に前述した振動が生じる。そして、めっき層6の一部が溶けようとしても冷却機構12により冷却されているので、溶融しにくくなっているとともに、溶融しためっき層6が冷却機構12により冷却されているので、直ちに固まる。このため、前述しためっき層6を構成する錫と、芯線7を構成するアルミニウム合金とが塑性流動又は拡散現象を起こして、互いに混ざり合う。こうして、金属片2のめっき層6と芯線7と金属結合する。
【0046】
こうして、前記金属片2のめっき層6と芯線7とは、所謂超音波溶接(超音波溶着または超音波接合ともいう)によって互いに接合される。そして、前述した構成の導体モジュール1を得る。
【0047】
次に、本発明の発明者は、前述した金属同士の接合方法で得られた導体モジュール1の接合箇所の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した。この撮影した結果を、図5及び図6に示す。図5は、図6に示す実際に撮像して得られた画像を、模式的に示す図である。また、図5中には、図2などと同一部分には、同一符号を付している。さらに、図6中に薄い灰色で示す部分はアルミニウム合金からなる被覆電線3の芯線7を示しており、図6中に白っぽく見える部分は、芯線7を構成するアルミニウム合金とめっき層6を構成する錫との合金を示している。
【0048】
図5及び図6に示すように、アルミニウム合金からなる芯線7と錫からなるめっき層6との間には、アルミニウム合金と錫からなる合金Gが形成され、該合金Gが形成されていない部分ではアルミニウム合金からなる芯線7と錫からなるめっき層6とが密に接触している。このため、前述した走査型電子顕微鏡で得られた画像によって、金属片2のめっき層6と芯線7とが確実に金属的に接合していることが明らかとなった。
【0049】
本実施形態によれば、冷却しながらめっき層6が溶融する超音波振動を付与するので、超音波振動を付与している間則ち超音波溶接中にめっき層6が溶融することを規制できるとともに、溶融しためっき層6が直ちに固まる。このため、めっき層6が母材5の外側に拡がることを防止できる。したがって、芯線7と接合されためっき層6が他の電気部品と接触して、該他の電気部品と短絡することを防止できる。
【0050】
また、めっき層6が溶融する強さの超音波振動を付与するので、接合箇所Sで塑性流動が生じめっき層6と第2金属としての芯線7とが金属間化合物を形成することなく混ざり合う。このため、めっき層6と芯線7との接合強度を強くすることができる。
【0051】
さらに、冷却しながら超音波溶接を行うので、めっき層6などの温度が過度に上昇することを防止できる。したがって、めっき層6、母材5及び芯線7を耐熱性の低い金属から構成することができる。
【0052】
また、めっき層6が錫を含み、芯線7がアルミニウム合金を含んでいるので、めっき層6と芯線7との接合箇所Sで金属間化合物を形成することがない。その上、前述した接合箇所Sに超音波振動が付与された時の塑性流動などにより、前述した錫及びアルミニウム合金を含んだ合金Gが形成される。したがって、めっき層6と芯線7との接合強度を強くすることができる。
【0053】
次に、本発明の発明者らは、めっき層6が形成された金属片2に被覆電線3の芯線7を実際に超音波溶接して、本発明の効果を確認した。結果を図7及び図8に示す。図7中に実線及び一点鎖線で示し図8中に実線で示す本発明品では、前述した実施形態に記載した超音波溶接装置10で被覆電線3の芯線7と金属片2のめっき層6とを超音波溶接した。
【0054】
前述した本発明品では、芯線7と金属片2とを互いに近づける方向に加圧して、前述しためっき層6が溶融する強さの超音波振動を、めっき層6が溶融する時間付与している。本発明品では、超音波振動を付与し始めてからめっき層6が溶融する前から超音波振動の付与を停止するまでの間に前述した冷却機構12を動作させてチップ14とアンビル15との間に挟んだ母材5、めっき層6及び芯線7を冷却する。こうして、本発明品では、めっき層6が溶融する強さの超音波振動を付与している。
【0055】
また、図8中に点線で示す比較例では、本発明品と同じ強さで芯線7と金属片2とを互いに近づける方向に加圧して、前述しためっき層6が溶融しない程度の超音波振動を、前述した本発明品と同じ時間付与している。こうして、比較例では、前述しためっき層6が溶融しない強さの超音波振動を芯線7、めっき層6及び母材5に付与している。
【0056】
さらに、前述した本発明品と比較例との双方では、芯線7をアルミニウム合金から構成しかつ該芯線7の外径を1.0mmとし、めっき層6を錫から構成しかつ該めっき層6の厚みを2.5mmとし、母材5を黄銅から構成しかつ該母材5の厚みを0.3mmとした。
【0057】
図7中の実線は、前述した条件で超音波溶接した際の各超音波溶接を行った時間に対する接合強度を示している。なお、接合強度とは、超音波溶接の終了後に金属片2則ち母材5の表面に対し直交する図2中の矢印K1,K2に沿って、芯線7とめっき層6とを引き剥がした際に、該芯線7とめっき層6とが分離するときの力である。また、接合強度は、芯線7とめっき層6とを接合してこれらを分離させようとした際に、アルミニウム合金で構成される芯線7自体が破断した時の力を100%にしている。
【0058】
また、図7中の一点鎖線は、前述した条件で超音波溶接した際の接合箇所の温度の変化を示している。なお、接合箇所の温度は、周知の熱電対を接合箇所の近傍に接触させたり、接合箇所からの放射熱を測定することで、測定した。
【0059】
さらに、図8中に実線で示す本発明品及び点線で示す比較例は、前述した条件で超音波溶接した際の各超音波溶接を行った時間に対する接合強度を示している。また、図7及び図8中の横軸である接合時間は、超音波振動を付与した時間を示しており、本発明品で接合箇所Sの温度がめっき層6を構成する錫の融点である232.4℃となる時間を100%にしている。
【0060】
図7によれば、本発明品では、超音波振動の付与を開始してから接合時間100%となると、接合箇所Sの温度がめっき層6を構成する錫の融点である232.4℃を越えている。このため、本発明品は、超音波振動の付与を開始してから接合時間100%となると、めっき層6が溶融し始めることが明らかとなった。
【0061】
また、図8中の比較例によれば、接合強度が最大でも25%程度であった。則ち、めっき層6が溶融しない強さの超音波振動を付与しても、十分な接合強度でめっき層6と芯線7とを接合できないことが明らかとなった。
【0062】
また、図7及び図8中の本発明品によれば、本発明品の接合強度が100%に近づくことが明らかとなった。則ち、冷却しながらめっき層6が溶融する強さの超音波振動を付与することで、接合強度がアルミニウム合金自体の強度に近づき、十分な接合強度でめっき層6と芯線7とを接合できることが明らかとなった。
【0063】
前述した実施形態では、金属片2に被覆電線3の芯線7を接合する場合を示している。しかしながら、本発明では、被覆電線3の芯線7に限らず、金属片2に多種多様な導電性の金属を接合しても良いことは勿論である。また、前述した実施形態の金属片2は、自動車などのワイヤハーネスに用いられる端子金具を構成しても良い。
【0064】
さらに、本発明では、図9に示すように、第2金属としての芯線7に更に第3金属30を重ねて、第1金属としての金属片2のめっき層6と第2金属としての芯線7とを超音波溶接で接合し、第2金属としての芯線7と第3金属30とを超音波溶接で接合しても良い。なお、図9において、前述した実施形態と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
前述した実施形態では、制御装置13に予め記憶されたパターンにしたがって、冷却機構12の冷却材吹き付け装置17と冷却材循環装置18とを動作させて、チップ14とアンビル15との間に挟まれた芯線7と金属片2とを冷却している。しかしながら、本発明では、熱電対などの温度検出手段などを用いて、チップ14とアンビル15との間に挟まれた芯線7と金属片2の温度を検出して、該検出した温度に基づいて、制御装置13が冷却材吹き付け装置17と冷却材循環装置18とを制御して、チップ14とアンビル15との間に挟まれた芯線7と金属片2とを冷却しても良い。要するに、冷却機構12は、種々のパターンで、超音波振動が付与された芯線7と金属片2などを冷却しても良い。さらに、冷却機構12が、周知のペルチェ素子などを用いても良い。
【0066】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態にかかる超音波溶接方法で組み立てられる導体モジュールを示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示された導体モジュールを組み立てる際に用いられる超音波溶接装置の構成を示す説明図である。
【図4】図3に示された超音波溶接装置が導体モジュールを組み立てる状態を示す説明図である。
【図5】図1に示された導体モジュールの接合箇所を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた結果を模式的に示す図である。
【図6】図1に示された導体モジュールの接合箇所を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた結果を示す図である。
【図7】本発明品の超音波溶接中の接合強度の変化と接合箇所の温度の変化を示す説明図である。
【図8】本発明品と比較例の超音波溶接中の接合強度の変化を示す説明図である。
【図9】図3に示された超音波溶接装置の他の使用方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 導体モジュール
2 金属片(第1金属)
5 母材
6 めっき層
7 芯線(第2金属)
10 超音波溶接装置
11 超音波溶接機(超音波振動付与手段)
12 冷却機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を接合する超音波溶接方法において、
前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して前記めっき層が溶融する超音波振動を付与して、前記母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とを接合することを特徴とする超音波溶接方法。
【請求項2】
前記めっき層は、錫又は錫合金を含み、
前記第2金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含んでいることを特徴とする請求項1記載の超音波溶接方法。
【請求項3】
母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を接合する超音波溶接装置において、
前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して、前記めっき層が溶融する超音波振動を付与する超音波振動付与手段と、
前記母材、めっき層及び第2金属を冷却する冷却機構と、を備え、
前記超音波振動付与手段が第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して超音波振動を付与して、前記冷却機構が母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とを接合することを特徴とする超音波溶接装置。
【請求項4】
母材の表面にめっき層が形成された第1金属と、該第1金属とは別体の第2金属と、を備え、前記めっき層と前記第2金属とが接合された導体ユニットにおいて、
前記第1金属のめっき層に前記第2金属を重ねて、第1金属と第2金属とを互いに近づける方向に加圧して前記めっき層が溶融する超音波振動を付与されて、前記母材、めっき層及び第2金属を冷却しながら、前記第2金属と前記めっき層とが接合されたことを特徴とする導体ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−159277(P2006−159277A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358464(P2004−358464)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】