説明

超音波診断装置

【課題】血管壁及び血流の運動情報を用いた診断の精度を保証すること。
【解決手段】実施形態の超音波診断装置は、送受信部11、組織運動情報取得部14a、血流運動情報取得部14b及び制御部17を備える。送受信部11は、各走査線の超音波送受信を一回とし、複数の走査線で形成される走査範囲の連続走査を超音波プローブ1に実行させて、1フレーム分の反射波信号を連続生成する。組織運動情報取得部14aは、隣接フレーム間の同一場所の反射波信号に対して自己相関演算を行なうことで組織の速度を組織運動情報として取得する。血流運動情報取得部14bは、組織運動情報を取得するために用いた連続するフレームごとの反射波信号において、同一場所の反射波信号に対してIIR型フィルタ処理を行なうことで血流のパワー値を血流運動情報として取得する。制御部17は、組織運動情報及び血流運動情報を表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管内(特に頸動脈内)の血流速度などの「血流の運動情報」と、血管壁の変位やひずみなどの「血管壁の運動情報」とを同時に計測することは、動脈硬化を診断するうえで重要であることが知られており、かかる計測には、超音波診断装置が用いられている。例えば、動脈硬化の診断では、血管のBモード画像から計測した血管の直径と、血圧計により計測された血圧とから血管の硬さに関する指標を算出することが行なわれている。
【0003】
また、動脈硬化の診断では、血流の運動情報をカラードプラ法により計測し、血管壁の運動情報を組織ドプラ法(TDI:Tissue Doppler Imaging)により計測することも行なわれている。ここで、カラードプラ法を用いて血管内の血流速度を計測するには、血管に対して斜めに超音波ビームを入射させる必要がある。これは、カラードプラ法で得られる速度が平均速度であり、超音波ビームが血管に対して垂直だと、平均速度が「0」になってしまって血流速度が測定できないからである。このため、カラードプラ用の超音波ビームは、血管に対して10度から20度程度の角度を持つように送信される。
【0004】
一方、血管壁の運動情報を計測するには、血管壁が血管の走行方向に対して垂直な方向に変位するため、血管に対して垂直に超音波ビームを当てた方が良い。このため、TDI用の超音波ビームは、血管に対して90度の角度を持つように送信される。このように、動脈硬化の診断では、カラードプラ用の超音波ビームとTDI用の超音波ビームとを別々に送信することで、血流の運動情報及び血管壁の運動情報を計測し、血管の硬さに関する指標が算出される。例えば、動脈硬化の診断では、血流の運動情報及び血管壁の運動情報を計測するために、カラードプラ用のスキャンとTDI用のスキャンとを3500fps(frame per second)の超高速のフレームレートでスキャンすることが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−41382号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hideyuki Hasegawa, Hiroshi Kanai, "Simultaneous Imaging of Artery-Wall Strain and Blood Flow by High Frame Rate Acquisition of RF Signals", IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol.55, No.12, December 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した従来の技術は、血流の運動情報及び血管壁の運動情報を計測するために、それぞれ別の超音波スキャンを行う必要があり、血流の運動情報の計測と血管壁の運動情報の計測とを同時に行なうことが出来なかった。すなわち、上記した従来の技術では、計測ずれを極力小さくするために、超高速のフレームレートでスキャンを行なっているが、各運動情報の計測元となるデータは、同時刻に収集されたデータではない。このため、従来のスキャン方法で取得される血管壁運動情報と血流運動情報とを用いた診断の精度は、必ずしも保証されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の超音波診断装置は、送受信部と、組織運動情報取得部と、血流運動情報取得部と、表示制御部とを備える。送受信部は、各走査線における超音波送受信を一回としたうえで、複数の走査線で形成される走査範囲の連続走査を超音波プローブに実行させることで、1フレーム分の反射波信号を連続して生成する。組織運動情報取得部は、前記送受信部により生成された連続するフレームごとの反射波信号の中で、隣接するフレーム間の同一場所の反射波信号に対して自己相関演算を行なうことで算出される組織の速度を組織運動情報として取得する。血流運動情報取得部は、前記組織運動情報取得部が前記組織運動情報を取得するために用いた連続するフレームごとの反射波信号において、同一場所の反射波信号に対して無限インパルス応答型フィルタ処理を行なうことで推定される血流のパワー値を血流運動情報として取得する。表示制御部は、前記組織運動情報取得部により取得された前記組織運動情報及び前記血流運動情報取得部により取得された前記血流運動情報を所定の表示部に表示するように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を説明するための図である。
【図2】図2は、組織運動情報及び血流運動情報を取得するために行なわれていた従来のスキャン方法を説明するための図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係るスキャン方法を説明するための図(1)である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係るスキャン方法を説明するための図(2)である。
【図5】図5は、Bモード処理部及び画像生成部の処理を説明するための図である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係る組織運動情報取得部を説明するための図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係る血流運動情報取得部を説明するための図(1)である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係る血流運動情報取得部を説明するための図(2)である。
【図9】図9は、第1の実施形態に係る組織運動情報及び血流運動情報の表示形態の具体例を説明するための図である。
【図10】図10は、第1の実施形態に係る制御部が実行するスローモーション表示を説明するための図である。
【図11】図11は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【図12】図12は、第2の実施形態に係る組織運動情報取得部を説明するための図である。
【図13】図13は、第2の実施形態に係る組織運動情報の表示形態の具体例を説明するための図であるである。
【図14】図14は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【図15】図15は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成を説明するための図である。
【図16】図16は、速度算出部を説明するための図である。
【図17】図17は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
【0012】
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層及び音響レンズと、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材となどを有する。超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
【0013】
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁などの表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移(ドプラ偏移)を受ける。
【0014】
ここで、本実施形態は、超音波プローブ1による超音波の走査形態が、リニア走査である場合であっても、セクタ走査である場合であっても適用可能である。以下では、本実施形態に係る超音波プローブ1によりリニア走査が行なわれる場合について説明する。
【0015】
また、本実施形態は、複数の圧電振動子が一列で配置された1次元超音波プローブである超音波プローブ1により、被検体Pを2次元でスキャンする場合であっても、1次元超音波プローブの複数の圧電振動子を機械的に揺動する超音波プローブ1や複数の圧電振動子が格子状に2次元で配置された2次元超音波プローブである超音波プローブ1により、被検体Pを3次元でスキャンする場合であっても、適用可能である。
【0016】
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボールなどを有し、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
【0017】
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像などを表示したりする。
【0018】
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体10は、図1に示すように、送受信部11と、フレームバッファ12と、Bモード処理部13と、ドプラ処理部14と、画像処理部15と、画像メモリ16と、制御部17と、内部記憶部18とを有する。
【0019】
送受信部11は、トリガ発生回路、送信遅延回路およびパルサ回路などを有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルサ回路は、所定の繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。なお、PRFは、レート周波数とも呼ばれる。また、送信遅延回路は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの送信遅延時間を、パルサ回路が発生する各レートパルスに対し与える。また、トリガ発生回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える送信遅延時間を変化させることで、圧電振動子面からの送信方向を任意に調整する。
【0020】
なお、送受信部11は、後述する制御部17の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧などを瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、または、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
【0021】
また、送受信部11は、アンプ回路、A/D変換器、受信遅延回路、加算器、直交検波回路などを有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行なって反射波データを生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行なう。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。そして、直交検波回路は、加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、直交検波回路は、I信号及びQ信号(以下、I/Q信号と記載する)を反射波データとして後段のフレームバッファ12に格納する。
【0022】
ここで、第1の実施形態に係る送受信部11は、1回の超音波ビームの送信により得られる各圧電振動子の反射波信号から複数の受信フォーカスの反射波データを生成することができる。すなわち、第1の実施形態に係る送受信部11は、並列同時受信処理を行なうことが可能な回路である。
【0023】
なお、第1の実施形態に係る送受信部11が超音波プローブ1を用いて実行する超音波の走査方法については、後に詳述する。
【0024】
フレームバッファ12は、送受信部11が生成した反射波データ(I/Q信号)を一時的に記憶するバッファである。具体的には、フレームバッファ12は、数フレーム分のI/Q信号を記憶する。例えば、フレームバッファ12は、FIFO(First-In/First-Out)メモリであり、所定フレーム分のI/Q信号を記憶し、新たに1フレーム分のI/Q信号が送受信部11にて生成された場合、生成時間が最も古い1フレーム分のI/Q信号を破棄して、新たに生成された1フレーム分のI/Q信号を記憶する。
【0025】
なお、1フレーム分のI/Q信号とは、1枚の超音波画像を生成するための反射波データのことであり、送受信部11は、複数の走査線(スキャンライン)で形成される走査範囲にて超音波送受信を超音波プローブ1に行なわせることで、1フレーム分のI/Q信号を生成する。
【0026】
Bモード処理部13は、フレームバッファ12から送受信部11が生成した反射波データ(I/Q信号)を読み出し、読み出した反射波データに対して、対数増幅、包絡線検波処理、対数圧縮などを行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
【0027】
ドプラ処理部14は、フレームバッファ12から送受信部11が生成した反射波データ(I/Q信号)を読み出し、読み出した反射波データを周波数解析することで、走査範囲内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理部14は、移動体の運動情報として、平均速度、分散値、パワー値などを多点に渡り抽出したドプラデータを生成する。
【0028】
より具体的には、ドプラ処理部14は、組織ドプラ法及びカラードプラ法を実行可能な処理部であり、図1に示すように、組織運動情報取得部14aと、血流運動情報取得部14bとを有する。組織運動情報取得部14aは、走査範囲内にある組織の運動情報(組織運動情報)を取得して、組織の動態を示す組織ドプラ画像を生成するための組織ドプラデータを生成する処理部である。また、血流運動情報取得部14bは、走査範囲内にある血流の運動情報(血流運動情報)を取得して、血流の動態を示すカラードプラ画像を生成するためのカラードプラドプラデータを生成する処理部である。
【0029】
なお、第1の実施形態に係る組織運動情報取得部14aの組織運動情報の取得処理及び第1の実施形態に係る血流運動情報取得部14bの血流運動情報の取得処理については、後に詳述する。
【0030】
画像処理部15は、Bモード処理部13及びドプラ処理部14が生成したデータを用いて表示用の超音波画像を生成したり、生成した超音波画像に対して画像処理を行なったりする処理部である。図1に示す画像処理部15は、画像生成部15a及び画像合成部15bを有する。画像生成部15aは、Bモード処理部13及びドプラ処理部14が生成したデータから超音波画像を生成する。すなわち、画像生成部15aは、Bモード処理部13が生成したBモードデータから反射波の強度を輝度にて表したBモード画像を生成する。
【0031】
また、画像生成部15aは、ドプラ処理部14が生成したドプラデータから移動体情報(血流運動情報や組織運動情報)を表す平均速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらの組み合わせ画像としてのドプラ画像を生成する。具体的には、画像生成部15aは、組織運動情報から生成された組織ドプラデータを用いて組織ドプラ画像を生成し、血流運動情報から生成されたカラードプラデータからカラードプラ画像を生成する。
【0032】
ここで、画像生成部15aは、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビなどに代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用画像としての超音波画像を生成する。具体的には、画像生成部15aは、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用画像としての超音波画像を生成する。また、画像生成部15aは、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)などを行なう。
【0033】
なお、第1の実施形態に係る画像生成部15aが生成する組織ドプラ画像及びカラードプラ画像については、後に詳述する。
【0034】
画像合成部15bは、画像生成部15aが生成した各種超音波画像に、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマークなどを合成した合成画像を生成する。また、画像合成部15bは、画像生成部15aが生成した各種超音波画像を重畳した合成画像を生成したり、画像生成部15aが生成した各種超音波画像を並列表示するための画像を生成したりする。
【0035】
なお、第1の実施形態に係る画像合成部15bが生成する合成画像については、後に詳述する。
【0036】
画像メモリ16は、画像生成部15aが生成した超音波画像や、画像合成部15bが生成した合成画像を記憶するメモリである。また、画像メモリ16は、Bモード処理部13やドプラ処理部14が生成したデータ(生データ)を記憶することも可能である。
【0037】
内部記憶部18は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見など)や、診断プロトコルや各種ボディーマークなどの各種データを記憶する。また、内部記憶部18は、必要に応じて、画像メモリ16が記憶する画像の保管などにも使用される。また、内部記憶部18が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部の周辺装置へ転送することができる。
【0038】
制御部17は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部17は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部18から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部13、ドプラ処理部14、画像処理部15の処理を制御する。また、制御部17は、画像メモリ16が記憶する超音波画像及び合成画像や、操作者が各種処理を指定するためのGUIなどをモニタ2にて表示するように制御する。
【0039】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、血管、例えば、頚動脈を含む走査範囲にて超音波スキャンを行なうことで、組織運動情報及び血流運動情報を取得する。そして、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、動脈硬化を診断する医師に対して組織運動情報及び血流運動情報を提示する。具体的には、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、組織運動情報及び血流運動情報に基づいて生成した各種画像を表示する。なお、本実施形態にて取得される組織運動情報は、血管壁の運動情報である。
【0040】
すなわち、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、血流運動情報をカラードプラ法により取得し、組織(血管壁)運動情報を組織ドプラ法により取得する。ここで、従来の超音波診断装置は、組織(血管壁)運動情報を取得するための超音波スキャンと、血流運動情報を取得するための超音波スキャンとを別々に行なっていた。図2は、組織運動情報及び血流運動情報を取得するために行なわれていた従来のスキャン方法を説明するための図である。
【0041】
血管壁運動情報を取得するには、血管壁が血管の走行方向に対して垂直な方向に変位するため、血管に対して垂直に超音波ビームを当てた方が良い。このため、組織ドプラ法において超音波プローブ1から送信される超音波ビームは、図2の(A)に示すように、血管に対して90度の角度を持つように送信される。
【0042】
一方、血流運動情報を取得するには、血管に対して斜めに超音波ビームを入射させる必要がある。これは、カラードプラ法で得られる速度が平均速度であり、超音波ビームが血管に対して垂直だと、平均速度が「0」になってしまって血流速度が測定できないからである。このため、従来では、カラードプラ用において超音波プローブ1から送信される超音波ビームは、図2の(B)に示すように、例えば、70度や110度といったように斜めに送信される。図2の(C)では、超音波プローブ1に対して近い位置にある血管壁を上部血管壁と示し、超音波プローブ1に対して遠い位置にある血管壁を下部血管壁と示している。
【0043】
すなわち、従来のスキャン方法では、図2の(C)に示すように、上部血管壁及び下部血管壁の動態と、上部血管壁と下部血管壁との間を流れる血液(血流)の動態とを観察するために、血管壁観察用スキャンAと血流観察用スキャンBとを個別に行なう必要があった。このため、血管壁運動情報と血流運動情報とは、異なる時期に行なわれたスキャンにより生成された反射波データから取得されることとなる。
【0044】
また、血管壁運動情報と血流運動情報との観測ずれを極力小さくするために、例えば、血管壁観察用スキャンAと血流観察用スキャンBとをそれぞれ、3500fps(frame per second)の超高速のフレームレートでスキャンしたとしても、血管壁運動情報と血流運動情報との取得元となる反射波データは、それぞれ異なる。このため、従来のスキャン方法で取得される血管壁運動情報と血流運動情報とを用いた診断の精度は、同時刻で取得されたデータに基づくものでないため、必ずしも保証されるものではない。
【0045】
そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、同時刻で生成された同一の反射波データを用いて、血流の運動情報及び血管壁の運動情報を取得する。図3及び図4は、第1の実施形態に係るスキャン方法を説明するための図である。
【0046】
第1の実施形態に係る超音波プローブ1は、図3の(A)に示すように、通常のBモードスキャンや、従来行なわれていた血管壁観察用スキャンAと同様に、血管に対して垂直に超音波ビームを送信する。すなわち、第1の実施形態に係る超音波プローブ1は、図3の(B)に示すように、上部血管壁と下部血管壁とに対して垂直に超音波ビームを送信するスキャンCにより、Bモードスキャン及び組織ドプラ用スキャンとともにカラードプラ用スキャンも行なう。
【0047】
このため、第1の実施形態に係る送受信部11は、各走査線における超音波送受信を一回としたうえで、複数の走査線で形成される走査範囲の連続走査を超音波プローブ1に実行させることで、1フレーム分の反射波信号(反射波データ)を連続して生成する。
【0048】
すなわち、第1の実施形態に係る送受信部11は、図4に示すように、リニア走査を行なう超音波プローブ1の各圧電振動子における超音波送受信を一回とすることで、1フレーム分の反射波データ(I/Q信号)を時系列に沿って連続して生成する。
【0049】
なお、複数の走査線における超音波送受信の順番は、制御部17の制御に基づく送受信部11の処理により、任意の順番に変更可能である。また、組織ドプラ用スキャン及びカラードプラ用スキャンの走査範囲は、Bモードスキャンの走査範囲より狭い場合であっても良い。
【0050】
ここで、送受信部11により実行される超音波走査のフレームレートは、例えば、1000fps以上であることが望ましいが、この理由については、後に説明する。
【0051】
図5は、Bモード処理部及び画像生成部の処理を説明するための図である。Bモード処理部13は、送受信部11により生成された連続するフレームごとの反射波信号(反射波データ)からBモードデータを生成する。すなわち、Bモード処理部13は、フレームバッファ12から1フレーム分のI/Q信号を読み出し、図5の(A)に示すように、対数増幅、包絡線検波、対数圧縮を順次行なってBモードデータを生成する。そして、画像生成部15aは、順次生成されるBモードデータからBモード画像を順次生成する。例えば、画像生成部15aは、図5の(B)に示すように、第「n−2」フレームのBモード画像、第「n−1」フレームのBモード画像、第「n」フレームのBモード画像を順次生成する。
【0052】
そして、図1に示す組織運動情報取得部14aは、送受信部11により生成された連続するフレームごとの反射波信号の中で、隣接するフレーム間の同一場所の反射波信号に対して自己相関演算を行なうことで算出される組織(血管壁)の速度を組織運動情報として取得する。図6は、第1の実施形態に係る組織運動情報取得部を説明するための図である。
【0053】
例えば、組織運動情報取得部14aは、フレームバッファ12から第「n」フレームのI/Q信号及び第「n−1」フレームのI/Q信号を読み出す。そして、組織運動情報取得部14aは、図6に示すように、同一地点での第「n」フレームと第「n−1」フレームとの間での自己相関演算を行なうことで、第「n」フレームにおける組織(血管壁)の速度を算出する。
【0054】
以下、組織運動情報取得部14aが行なう自己相関演算について数式を用いて説明する。第「n−1」フレーム内の速度算出対象となる点のI/Q信号を「IQ(n−1)」とし、第「n」フレームの同一場所のI/Q信号を「IQ(n)」とすると、自己相関「ac」は、以下の式(1)に示すように、「IQ(n−1)」の複素共役と「IQ(n)」との積として算出される。
【0055】
【数1】

【0056】
そして、速度算出対象となる点の速度「v」は、「ac」の実部「Real(ac)」及び虚部「Image(ac)」とから、以下の式(2)により算出される。
【0057】
【数2】

【0058】
これにより、組織運動情報取得部14aは、速度算出対象となる点の2次元の速度ベクトルを取得する。組織運動情報取得部14aは、かかる処理を第「n」フレームのI/Q信号にて多点に渡り実行することで血管壁の速度を組織運動情報として取得し、第「n」フレームの組織ドプラデータを生成する。そして、画像生成部15aは、第「n」フレームの組織ドプラ画像を生成する。
【0059】
そして、血流運動情報取得部14bは、組織運動情報取得部14aが組織運動情報を取得するために用いた連続するフレームごとの反射波信号において、同一場所の反射波信号に対して無限インパルス応答型フィルタ(IIRフィルタ、IIR:Infinite Impulse Response)処理を行なうことで推定される血流のパワー値を血流運動情報として取得する。図7及び図8は、第1の実施形態に係る血流運動情報取得部を説明するための図である。
【0060】
図7に示すように、血流運動情報取得部14bは、ハイパスフィルタであるWallフィルタとして、IIR型フィルタの出力結果を用いてパワー値を取得する。本実施形態で用いられるWallフィルタは、以下の式(3)に示す2次のIIR型フィルタである。
【0061】
【数3】

【0062】
ここで、式(3)に示す「x(n)」は、最新の第「n」フレームのI/Q信号であり、「x(n−1)」は、第「n−1」フレームのI/Q信号であり、「x(n−2)」は、第「n−2」フレームのI/Q信号である。また、式(3)に示す「y(n)」は、第「n」フレームのI/Q信号に含まれる血流の動き成分であり、「y(n−1)」は、第「n−1」フレームのI/Q信号に含まれる血流の動き成分であり、「y(n−2)」は、第「n−2」フレームのI/Q信号に含まれる血流の動き成分である。また、式(3)に示す「b0」、「b1」、「b2」、「a1」及び「a2」それぞれは、「x(n)」、「x(n−1)」、「x(n−2)」、「y(n−1)」及び「y(n−2)」に対して掛け合わされる係数である。これらの係数により、動きの遅い信号が除去され、式(3)により、「n」フレームのI/Q信号において、血流運動の取得対象となる点の血流の動き成分が算出される。
【0063】
ここで、通常のカラードプラ法では、同一の走査線に対して複数回に渡って超音波送受信を行ない、同一走査線における複数のI/Q信号から血流の動き成分を取得していた。すなわち、通常のカラードプラ法では、パケットという有限のデータ列に対してIIRフィルタを掛けていた。しかし、本実施形態では、一本の走査線において超音波送受信を一回のみとしたうえで、無限に連続するフレームの反射波データに対してIIR型フィルタを掛ける。これにより、本実施形態では、理想的なフィルタ特性が得られる。
【0064】
第1の実施形態に係る送受信部11は、上述したように、血流に対して垂直となる走査線に沿って超音波ビームを送信させる。血流の動き成分は、超音波ビームと血流の動きとの角度のコサイン成分となるので、血流に対して超音波ビームが完全に直交していると、とらえられない。しかし、各走査線における超音波ビームは、超音波プローブ1の一つの圧電振動子から送信されるのではなく、実際には、送信指向性を与えるために、図8の(A)の左図に示すように、所定数の圧電振動子からなるチャンネルから送信された複数の超音波により形成される。すなわち、開口幅を有するチャンネルから送信される超音波ビームには、図8の(A)の左図に示すように、走査線に沿った超音波ビームの他に、開口幅のために斜めに入射する超音波ビームが存在する。
【0065】
このため、式(3)に示すIIR型フィルタの出力として得られる血流の動態に起因する周波数偏移の分布は、図8の(A)に示す右図に示すように、平均速度「0」の正規分布に近くなる。このため、IIR型フィルタの出力から算出される血流の平均速度は、略「0」となる。
【0066】
しかし、かかる分布の積分値(面積)は、図8の(B)に示すように、血流のパワー値となる。そこで、第1の実施形態に係る血流運動情報取得部14bは、血流速度の推定は行わずに、パワー値の推定を以下の式(4)により行なう。
【0067】
【数4】

【0068】
すなわち、第1の実施形態に係る血流運動情報取得部14bは、式(3)及び式(4)の処理を、第「n」フレームのI/Q信号にて多点に渡って実行することで、第「n」フレームにおける血流のパワー値を血流運動情報として取得し、第「n」フレームのカラードプラデータとしてパワーデータを生成する。そして、画像生成部15aは、第「n」フレームのカラードプラ画像としてパワー画像を生成する。
【0069】
このように、第1の実施形態では、同一の反射波データ群を用いて、組織の形態が描出されたBモード画像を生成するためのBモードデータを生成するとともに、組織(血管壁)運動情報としての組織速度情報と、「血流のパワー値」とを取得する。
【0070】
そして、図1に示す制御部17は、組織運動情報取得部14aにより取得された組織運動情報及び血流運動情報取得部14bにより取得された血流運動情報をモニタ2に表示するように制御する。
【0071】
制御部17により行なわれる組織運動情報及び血流運動情報の表示形態の一例について、図9を用いて説明する。図9は、第1の実施形態に係る組織運動情報及び血流運動情報の表示形態の具体例を説明するための図である。
【0072】
具体的には、制御部17の制御により画像合成部15bは、組織運動情報から生成された組織ドプラ画像と、血流運動情報から生成されたパワー画像とを合成した合成画像を生成する。まず、制御部17は、図9に示す第「n」フレームのBモード画像において所定の輝度値より大きい高輝度領域を抽出する。かかる高輝度領域は、上部血管壁及び下部血管壁に対応する領域となる。
【0073】
そして、制御部17は、画像合成部15bに対して、第「n」フレームのBモード画像の高輝度領域に対応する第「n」フレームの組織ドプラ画像の領域を抽出させる。また、制御部17は、画像合成部15bに対して、第「n」フレームのパワー画像において画素値(パワー値)が所定の閾値(TH)以上となる領域を抽出させる。そして、画像合成部15bは、制御部17の制御により、抽出した各領域を合成させることで第「n」フレームの合成画像を生成する。かかる合成画像は、図9に示すように、上部血管壁の組織ドプラ画像と、所定の閾値(TH)以上のパワー値を有するパワー画像と、下部血管壁の組織ドプラ画像とを合成した画像となる。図9に示す合成画像では、血管壁の速さ及び移動方向に応じて色相が異なるように描出されており、パワー値の大きさに応じてグレーの濃淡が異なるように描出されている。例えば、時系列に沿って順次表示される合成画像では、血管壁が上側に移動している場合は、血管壁の速さが赤を基調とした色相で、血管壁が下側に移動している場合は、血管壁の速さが青を基調とした色相で表示される。また、時系列に沿って順次表示される合成画像では、血流のパワー値の変動がグレーの濃淡によって変動する様相が描出される。
【0074】
そして、制御部17は、図9に示す第「n」フレームの合成画像と、第「n」フレームのBモード画像とモニタ2にて並列表示させる。
【0075】
ここで、上述したように、送受信部11により実行される超音波走査のフレームレートは、例えば、1000fps以上とされる。これは、血流速度に対してフレームレートが遅い場合には、順次生成されるパワー画像にて観察されるスペックルの動きに折り返しが発生するためである。このため、第1の実施形態に係る送受信部11は、血流のパワー値を画像化したパワー画像間のスペックルの動きが血液の動きと同一方向となるフレームレートで1フレーム分の超音波送受信が行なわれるように超音波プローブ1を制御する。かかるフレームレートを実現するために、制御部17の指示により、送受信部11は、上述した並列同時受信を行なう。
【0076】
しかし、一般的に超音波診断装置が有するモニタ2にて表示可能なフレームレートは、例えば、60fpsであり、1000fpsのフレームレートで生成されるBモード画像や合成画像を表示することが出来ない。そこで、本実施形態に係る制御部17は、組織運動情報及び血流運動情報それぞれから連続して生成された各画像の表示間隔を、フレームレートより大きくするように制御する。換言すれば、制御部17は、Bモード画像及び合成画像をスローモーションにて表示させる。時系列に沿って順次表示される合成画像を参照することで、医師などの操作者は、同一のデータから取得された組織運動情報及び血流運動情報を同時に観察することが出来る。
【0077】
図10は、第1の実施形態に係る制御部が実行するスローモーション表示を説明するための図である。例えば、図10に示すように、Bモード画像や合成画像が1984fpsで生成される場合、制御部17は、約30fpsとなるように、66倍のスローモーション表示を行なわせる。
【0078】
なお、制御部17によるスローモーション表示は、例えば、入力装置3が有するフリーズボタンを操作者が押下し、フリーズ後に画像メモリ16に格納されているBモード画像及び合成画像の一群を読み出すことで行なわれる。すなわち、制御部17によるスローモーション表示は、画像生成後の後処理として行なわれる。
【0079】
あるいは、制御部17によるスローモーション表示は、例えば、特開2001−178723号公報に開示されている方法を用いて、リアルタイムで行なわれる。具体的には、リアルタイムでスローモーション表示を行なう場合、制御部17は、超音波走査のフレームレートで生成される合成画像をモニタ2で表示可能なフレームレートでスローモーション表示させる。そして、制御部17は、所定時間が経過すると、当該所定時間が経過した時点の直近に生成された合成画像を表示させ、当該合成画像から順に新規の合成画像をスルーモーションにて順次表示させる。
【0080】
なお、制御部17は、上述した表示形態(Bモード画像と、Bモード画像の輝度値に基づく組織ドプラ画像及びパワー画像の合成画像との並列表示)の他に、様々な表示形態を行なうことが出来る。例えば、制御部17は、Bモード画像、組織ドプラ画像及びパワー画像を並列表示させたり、これら三種類の画像を合成した合成画像を表示させたりすることが出来る。また、制御部17は、組織ドプラ画像及びパワー画像の合成画像の単独表示や、組織ドプラ画像及びパワー画像の並列表示を行なうことも出来る。また、制御部17は、例えば、操作者がBモード画像上で血管壁内にて指定した関心領域内の血管壁の平均速度と、操作者がBモード画像上で血管内にて指定した関心領域内の血流の平均パワー値とを表示させることも出来る。
【0081】
次に、図11を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。図11は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、送受信部11により、例えば、1000fpsのフレームレートでの超音波送受信が開始された後の処理について説明する。
【0082】
図11に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、画像メモリ16に新規の1フレーム分のデータ(I/Q信号)が格納されたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、新規の1フレーム分のデータが格納されていない場合(ステップS101否定)、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、待機状態となる。
【0083】
一方、新規の1フレーム分のデータが格納された場合(ステップS101肯定)、Bモード処理部13は、Bモードデータを生成し、画像生成部15aは、Bモード画像を生成する(ステップS102)。そして、組織運動情報取得部14aは、新規の1フレーム分のデータに対して、式(1)及び式(2)の演算処理を行なうことで、組織(血管壁)の速度を取得し、画像生成部15aは、組織ドプラ画像を生成する(ステップS103)。すなわち、組織運動情報取得部14aは、自己相互演算処理により組織の速度を取得することで、組織ドプラデータを生成する。
【0084】
続いて、血流運動情報取得部14bは、新規の1フレーム分のデータに対して式(3)及び式(4)の演算処理を行なうことで、パワー値を取得し、画像生成部15aは、パワー画像を生成する(ステップS104)。すなわち、血流運動情報取得部14bは、新規の1フレーム分のデータに対して式(3)に示すIIR型フィルタ処理を行ない、更に、IIR型フィルタの出力に対して式(4)に示す演算処理を行なうことで、血流のパワー値を推定して、パワーデータを生成する。
【0085】
そして、画像合成部15bは、ステップS102で生成されたBモード画像の輝度値に基づいて、ステップS103で生成された組織ドプラ画像とステップS104で生成されたパワー画像との合成画像を生成する(ステップS105)。
【0086】
その後、制御部17は、スローモーション表示用に設定された所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS106)。ここで、所定の時間が経過していない場合(ステップS106否定)、制御部17は、所定の時間が経過するまで待機する。
【0087】
一方、所定の時間が経過した場合(ステップS106肯定)、制御部17の制御により、モニタ2は、ステップS102で生成されたBモード画像とステップS105で生成された合成画像とを並列表示し(ステップS107)、処理を終了する。そして、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、更に、新規の1フレーム分の反射波データが格納された場合、ステップS102以降の処理を行なう。なお、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理の順番は、図11に示す順番に限定されるものではなく、任意の順番にて実行することが出来る。また、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理は、並列処理によって実行される場合であっても良い。
【0088】
上述してきたように、第1の実施形態では、送受信部11は、各走査線における超音波送受信を一回としたうえで、複数の走査線で形成される走査範囲の連続走査を超音波プローブ1に実行させることで、1フレーム分の反射波信号を連続して生成する。組織運動情報取得部14aは、送受信部11により生成された連続するフレームごとの反射波信号の中で、隣接するフレーム間の同一場所の反射波信号に対して自己相関演算を行なうことで算出される組織の速度を組織運動情報として取得する。血流運動情報取得部14bは、組織運動情報取得部14aが組織運動情報を取得するために用いた連続するフレームごとの反射波信号において、同一場所の反射波信号に対して無限インパルス応答型フィルタ処理を行なうことで推定される血流のパワー値を血流運動情報として取得する。制御部17は、組織運動情報及び血流運動情報をモニタ2に表示するように制御する。
【0089】
すなわち、第1の実施形態では、同時刻の反射波信号(同一の反射波信号)から血流の運動情報及び血管壁の運動情報を取得するので、動脈硬化を診断する医師に対して提供される動脈硬化診断用のデータには、従来のように、取得時間差は発生しない。従って、第1の実施形態では血管壁及び血流の運動情報を用いた診断の精度を保証することが可能となる。
【0090】
また、第1の実施形態では、送受信部11は、血流のパワー値を画像化したパワー画像間のスペックルの動きが血液の動きと同一方向となるフレームレートで1フレーム分の超音波送受信が行なわれるように超音波プローブ1を制御する。
【0091】
すなわち、第1の実施形態では、血流運動情報として取得されたパワー値に折り返りが発生することを回避することが出来る。従って、第1の実施形態ではパワー画像を用いた診断の精度を保証することが可能となる。
【0092】
また、第1の実施形態では、制御部17は、組織運動情報及び血流運動情報それぞれから連続して生成された各画像の表示間隔を、フレームレートより大きくするように制御する。従って、第1の実施形態では、超音波診断装置に一般的に取り付けられるモニタ2のフレームレートに合わせて超高速フレームレートで生成される合成画像やBモード画像をスローモーションで表示することが出来る。また、第1の実施形態では、スローモーションで表示することで、合成画像やBモード画像の視認性を向上することが出来る。
【0093】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1の実施形態で取得された組織の速度を用いて、新たな組織運動情報を取得する場合について説明する。
【0094】
第2の実施形態に係る超音波診断装置は、図1を用いて説明した第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様の構成となるが、組織運動情報取得部14aの処理内容が第1の実施形態とは異なる。以下、図12を用いて、第2の実施形態に係る組織運動情報取得部14aについて説明する。図12は、第2の実施形態に係る組織運動情報取得部を説明するための図である。
【0095】
第2の実施形態に係る組織運動情報取得部14aは、更に、組織の速度を時間方向に積分することで算出される組織の変位を組織運動情報として取得する。すなわち、組織運動情報取得部14aは、図12の(A)に示すように、処理対象となる組織ドプラデータと、当該フレームの直前に生成された組織ドプラデータとの間で、同一場所の組織(血管壁)の速度を、時間方向、すなわち、フレーム方向に積分する。これにより、組織運動情報取得部14aは、組織(血管壁)の変位を取得する。すなわち、組織運動情報取得部14aは、上部血管壁及び下部血管壁それぞれのフレーム間での変位(displacement)を算出する。
【0096】
また、第2の実施形態に係る組織運動情報取得部14aは、更に、組織の変位をフレーム内の空間方向に微分することで算出される組織のひずみを組織運動情報として取得する。すなわち、組織運動情報取得部14aは、図12の(B)に示すように、処理対象となるフレーム内の多点に渡って算出した組織(血管壁)の変位を空間方向(走査線方向)に微分する。これにより、組織運動情報取得部14aは、組織(血管壁)のひずみを取得する。すなわち、組織運動情報取得部14aは、上部血管壁及び下部血管壁それぞれのひずみ(strain)を算出する。
【0097】
そして、第2の実施形態に係る制御部17は、組織運動情報取得部14aにより取得された組織の変位をモニタ2に表示するように制御する。また、第2の実施形態に係る制御部17は、組織運動情報取得部14aにより取得された組織のひずみをモニタ2に表示するように制御する。
【0098】
なお、組織の変位及び組織のひずみの取得処理は、組織運動情報取得部14aによって実行される場合であっても、画像処理部15によって行なわれる場合であっても良い。また、第2の実施形態においては、組織運動情報取得部14aが組織の変位のみを取得する場合であっても良い。また、第2の実施形態においては、組織運動情報取得部14aが組織の変位及び組織のひずみを取得し、制御部17が組織の変位及び組織のひずみの双方、又は、組織の変位及び組織のひずみのいずれか一方を表示させる場合であっても良い。また、第2の実施形態においては、制御部17が組織の変位及び組織のひずみの少なくとも一つを組織の速度とともに表示させる場合であってもよい。かかる設定は、例えば、操作者により行なわれる。
【0099】
例えば、制御部17は、図13に示す表示形態にて、組織運動情報取得部14aによる追加処理結果を更に表示させる。図13は、第2の実施形態に係る組織運動情報の表示形態の具体例を説明するための図であるである。
【0100】
まず、制御部17は、操作者から局所的な組織運動情報を表示するための関心領域を受け付ける。例えば、操作者は、Bモード画像や第1の実施形態で説明した合成画像にて、上部血管壁及び下部血管壁それぞれに組織運動情報を表示するための関心領域を入力装置3のマウスを用いて設定する。これにより、制御部17は、図13の左図に示すように、上部血管壁及び下部血管壁それぞれに矩形の関心領域を設定する。
【0101】
また、操作者は、組織の速度、組織の変位及び組織のひずみの中から、どの組織運動情報を表示させるかを設定する。すなわち、操作者は、組織の速度、組織の変位及び組織のひずみの少なくとも一つを選択する。例えば、操作者は、設定した2つの関心領域内における組織の速度及び組織の変位を表示すると設定する。かかる設定が行なわれた場合、制御部17の制御により、組織運動情報取得部14aは、関心領域内で取得されている各点の組織の速度を平均した平均速度を算出する。また、制御部17の制御により、組織運動情報取得部14aは、関心領域内で取得されている各点の組織の変位を平均した平均変位を算出する。
【0102】
そして、制御部17の制御により、画像合成部15bは、図13の左図に示すように、合成画像の各関心領域内に、平均速度及び平均変位をベクトル表示するための矢印を合成し、モニタ2は、図13の左図に示す画像を表示する。図13の左図では、実線の矢印にて平均速度がベクトル表示され、点線の矢印にて平均変位がベクトル表示されている。
【0103】
また、局所的な組織運動情報の表示は、図13の左図に示すベクトル表示だけでなく、例えば、図13の右図に示すようにグラフ表示によって行なわれても良い。図13の左図に示す一例では、上部血管壁内で設定された関心領域内の平均速度が時間軸に沿ってプロットされたグラフと、下部血管壁内で設定された関心領域内の平均速度が時間軸に沿ってプロットされたグラフとが重畳表示されている。また、図13の左図に示す一例では、上部血管壁内で設定された関心領域内の平均変位が時間軸に沿ってプロットされたグラフと、下部血管壁内で設定された関心領域内の平均変位が時間軸に沿ってプロットされたグラフとが重畳表示されている。更に、図13の左図に示す一例では、上部血管壁内で設定された関心領域内の平均変位から下部血管壁内で設定された関心領域内の平均変位を差し引いた値が時間軸に沿ってプロットされたグラフが重畳表示されている。図13の左図に示すグラフは、組織運動情報取得部14a、又は、画像処理部15により生成される。
【0104】
なお、関心領域の大きさや、設定される関心領域の数は、操作者によって任意に設定可能である。また、各種組織運動情報の表示形態は、上述したように、ベクトル表示及びグラフ表示の双方が行なわれる場合であっても、ベクトル表示及びグラフ表示のいずれかが行なわれる場合であっても良い。また、各種組織運動情報の表示形態は、数値を表示することで行なわれる場合であっても良い。
【0105】
次に、図14を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。図14は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、図11と同様に、送受信部11により、例えば、1000fpsのフレームレートでの超音波送受信が開始された後の処理について説明する。また、以下では、組織の速度に基づく新たな組織運動情報として、組織の変位の取得要求が操作者から入力された場合について説明する。
【0106】
図14に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、画像メモリ16に新規の1フレーム分のデータ(I/Q信号)が格納されたか否かを判定する(ステップS201)。ここで、新規の1フレーム分のデータが格納されていない場合(ステップS201否定)、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、待機状態となる。
【0107】
一方、新規の1フレーム分のデータが格納された場合(ステップS201肯定)、Bモード処理部13は、Bモードデータを生成し、画像生成部15aは、Bモード画像を生成する(ステップS202)。そして、組織運動情報取得部14aは、新規の1フレーム分のデータに対して、式(1)及び式(2)の演算処理を行なうことで、組織(血管壁)の速度を取得し、画像生成部15aは、組織ドプラ画像を生成する(ステップS203)。
【0108】
続いて、血流運動情報取得部14bは、新規の1フレーム分のデータに対して式(3)及び式(4)の演算処理を行なうことで、パワー値を取得し、画像生成部15aは、パワー画像を生成する(ステップS204)。
【0109】
更に、組織運動情報取得部14aは、新たな組織運動情報として、組織の速度を時間方向に積分することで、組織の変位を取得する(ステップS205)。そして、画像合成部15bは、ステップS202で生成されたBモード画像の輝度値に基づいて、ステップS203で生成された組織ドプラ画像とステップS204で生成されたパワー画像との合成画像を生成する(ステップS206)。
【0110】
その後、制御部17は、スローモーション表示用に設定された所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS207)。ここで、所定の時間が経過していない場合(ステップS207否定)、制御部17は、所定の時間が経過するまで待機する。
【0111】
一方、所定の時間が経過した場合(ステップS207肯定)、制御部17の制御により、モニタ2は、ステップS202で生成されたBモード画像とステップS206で生成された合成画像とステップS205で取得した変位とを並列表示し(ステップS208)、処理を終了する。例えば、制御部17は、ステップS205で取得した変位(関心領域内の平均変位)をベクトル表示及びグラフ表示させる。そして、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、更に、新規の1フレーム分の反射波データが格納された場合、ステップS202以降の処理を行なう。なお、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理の順番は、図14に示す順番に限定されるものではなく、任意の順番にて実行することが出来る。また、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理は、並列処理によって実行される場合であっても良い。
【0112】
上述してきたように、第2の実施形態では、組織運動情報取得部14aは、更に、組織の速度を時間方向に積分することで算出される組織の変位を組織運動情報として取得する。制御部17は、組織の変位をモニタ2に表示するように制御する。
【0113】
従って、第2の実施形態では、血管壁にて繰り返される拡張収縮の度合いを明確に医師に提供することが出来る。
【0114】
また、第2の実施形態では、組織運動情報取得部14aは、更に、組織の変位をフレーム内の空間方向に微分することで算出される組織のひずみを組織運動情報として取得する。制御部17は、組織のひずみをモニタ2に表示するように制御する。
【0115】
従って、第2の実施形態では、血管壁の柔軟性の度合いを明確に医師に提供することが出来る。
【0116】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1の実施形態で取得された血流のパワー値を用いて血流速度を算出し、更に、血管の性状に関する指標を算出する場合について説明する。
【0117】
まず、第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図15は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成を説明するための図である。図15に示すように、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、図1を用いて説明した第1の実施形態に係る超音波診断装置と比較して、画像処理部15内に速度算出部15c及び指標算出部15dとを更に有する点が異なる。以下、これらを中心にして説明する。
【0118】
図15に示す速度算出部15cは、血流のパワー値を画像化したパワー画像において、連続するパワー画像間でスペックルを追跡することで、各追跡点の動きベクトルを算出し、当該算出した各追跡点の動きベクトルを血流の速度として算出する。
【0119】
ここで、例えば、1000fps以上の超高速フレームレートで第1の実施形態で説明したパワー画像を観察すると、スペックルの動きで、血液が移動する様相を把握することが出来る。すなわち、連続するパワー画像間で相互相関演算することで、スペックルの動きの2次元動きベクトルを算出することができる。図16は、速度算出部を説明するための図である。
【0120】
例えば、速度算出部15cは、合成画像におけるパワー画像の表示領域(Bモード画像の高輝度領域で挟まれる血管内領域)に、図16の(A)に示すように、複数の追跡点を設定する。なお、追跡点の間隔や数は、任意に設定可能である。
【0121】
そして、速度算出部15cは、処理対象となるパワー画像と、当該パワー画像の直前に生成されたパワー画像との間で、追跡点のトラッキングを行なうことで、各追跡点の2次元動きベクトルを算出する。そして、速度算出部15cは、算出した2次元動きベクトルを血液の2次元動きベクトル(血流の速度)として算出する。
【0122】
そして、第3の実施形態に係る制御部17は、速度算出部15cにより算出された血流の速度を血流運動情報として、モニタ2に表示するように制御する。例えば、第3の実施形態に係る制御部17は、画像合成部15bを制御することで、図16の(B)に示すように、合成画像の対象となるパワー画像上に、血液の2次元動きベクトルに対応する矢印を更に重畳させる。図16の(B)に示す各矢印の方向は、各追跡点で算出された2次元動きベクトルの方向を反映したものであり、図16の(B)に示す各矢印の長さは、各追跡点で算出された2次元動きベクトルのスカラー量を反映したものである。
【0123】
更に、制御部17は、画像合成部15bを制御することで、図16の(B)に示すように、各追跡点の動きベクトルのスカラー量のヒストグラムaを重畳させても良い。また、制御部17は、画像合成部15bを制御することで、図16の(B)に示すように、各追跡点の平均速度bを重畳させても良い。図16の(B)に示す一例では、平均速度bが「332mm/s」であることが示されている。
【0124】
そして、制御部17は、画像合成部15bを制御することで、図16の(B)に示す合成画像を、組織ドプラ画像と更に重畳させてモニタ2に表示させる。なお、速度算出部15cが算出した血流の速度は、図16の(B)に示すように、ベクトル表示、ヒストグラム表示及び数値表示により提示される場合であっても、各表示形態の中から選択された一つ又は複数の表示形態により表示される場合であっても良い。また、制御部17は、速度算出部15cにより算出された血流の速度を用いて、血流速度がカラー表示される通常のカラードプラ画像に相当する画像を画像生成部15aに生成させても良い。
【0125】
このように、第3の実施形態では、血管壁の速度、血管壁の変位、血管壁のひずみ、血流のパワー値とともに、血流の速度を、同一の反射波信号から取得することが出来る。これらの情報を元に、血管の性状を示す指標(パラメータ)を算出することが出来る。
【0126】
そこで、図15に示す指標算出部15dは、組織運動情報取得部14aにより取得された組織運動情報及び血流運動情報取得部14bにより取得された血流運動情報の少なくとも一つに基づいて、血管の性状に関する指標を算出する。例えば、指標算出部15dは、組織運動情報である「血管壁の速度」、血流運動情報であるパワー値から生成されたパワー画像に基づいて算出された「血流の速度」及び以下に示す式(5)を用いて指標を算出する。なお、以下に示す式(5)では、「V(x)」を血管に平行な方向の位置「x」における血流速度とし、「V(x+Δx)」を血管に平行な方向の位置「x+Δx」における血流速度としている。また、以下に示す式(5)では、「U」を位置「x」における血管壁の速度としている。
【0127】
【数5】

【0128】
式(5)の分子は、簡易ベルヌーイ式による圧較差であり、式(5)の分母は、血管径の変化である。指標算出部15dは、式(5)を用いた指標の算出処理を、例えば、1心拍間に渡って微小時間間隔で実行する。かかる処理により微小時間間隔で算出される複数の指標は、血管の硬さを示す値として用いることが出来る。
【0129】
そして、第3の実施形態に係る制御部17は、指標算出部15dにより算出された指標をモニタ2に表示するように制御する。
【0130】
なお、指標算出部15dの指標算出に用いられるデータは、血管壁の速度及び血流の速度に限定されるものではない。指標算出部15dの指標算出に用いられるデータは、血管壁の速度、血管壁の変位、血管壁のひずみ、血流のパワー値及び血流の速度の少なくとも一つのデータであっても良い。更に、指標算出部15dは、血管壁の速度、血管壁の変位、血管壁のひずみ、血流のパワー値及び血流の速度の少なくとも一つと、Bモード画像から計測した血管径とを用いて指標を算出しても良い。いずれの場合であっても、指標算出部15dは、同一時刻に生成された反射波データを同時に取得された各種データを用いて、血管の性状に関する指標を算出することが出来る。
【0131】
次に、図17を用いて、第3の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。図17は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、図11及び図14と同様に、送受信部11により、例えば、1000fpsのフレームレートでの超音波送受信が開始された後の処理について説明する。また、以下では、図14と同様に、組織の速度に基づく新たな組織運動情報として、組織の変位の取得要求が操作者から入力された場合について説明する。
【0132】
図17に示すように、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、画像メモリ16に新規の1フレーム分のデータ(I/Q信号)が格納されたか否かを判定する(ステップS301)。ここで、新規の1フレーム分のデータが格納されていない場合(ステップS301否定)、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、待機状態となる。
【0133】
一方、新規の1フレーム分のデータが格納された場合(ステップS301肯定)、Bモード処理部13は、Bモードデータを生成し、画像生成部15aは、Bモード画像を生成する(ステップS302)。そして、組織運動情報取得部14aは、新規の1フレーム分のデータに対して、式(1)及び式(2)の演算処理を行なうことで、組織(血管壁)の速度を取得し、画像生成部15aは、組織ドプラ画像を生成する(ステップS303)。
【0134】
続いて、血流運動情報取得部14bは、新規の1フレーム分のデータに対して式(3)及び式(4)の演算処理を行なうことで、パワー値を取得し、画像生成部15aは、パワー画像を生成する(ステップS304)。
【0135】
更に、組織運動情報取得部14aは、新たな組織運動情報として、組織の速度を時間方向に積分することで、組織の変位を取得する(ステップS305)。そして、速度算出部15cは、パワー画像間でスペックルトラッキングを行なうことで、血流速度ベクトルを算出する(ステップS306)。
【0136】
その後、画像合成部15bは、ステップS303で生成された組織ドプラ画像とステップ304で生成されたパワー画像と、ステップS306で算出された血流速度ベクトルとの合成画像を生成する(ステップS307)。更に、指標算出部15dは、例えば、血管壁の速度と、血流の速度と、式(5)とを用いて、血管の性状に関する指標を算出する(ステップS308)。
【0137】
その後、制御部17は、スローモーション表示用に設定された所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS309)。ここで、所定の時間が経過していない場合(ステップS309否定)、制御部17は、所定の時間が経過するまで待機する。
【0138】
一方、所定の時間が経過した場合(ステップS309肯定)、制御部17の制御により、モニタ2は、ステップS302で生成されたBモード画像とステップS307で生成された合成画像とステップS305で取得した変位とステップS308で算出した指標とを並列表示し(ステップS310)、処理を終了する。そして、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、更に、新規の1フレーム分の反射波データが格納された場合、ステップS202以降の処理を行なう。なお、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理の順番は、図17に示す順番に限定されるものではなく、任意の順番にて実行することが出来る。また、Bモード処理部13、組織運動情報取得部14a及び血流運動情報取得部14bによる処理は、並列処理によって実行される場合であっても良い。
【0139】
上述してきたように、第3の実施形態では、速度算出部15cは、血流のパワー値を画像化したパワー画像において、連続するパワー画像間でスペックルを追跡することで、各追跡点の動きベクトルを算出し、当該算出した各追跡点の動きベクトルを血流の速度として算出する。制御部17は、血流の速度を血流運動情報として、モニタ2に表示するように制御する。
【0140】
すなわち、第3の実施形態によれば、血流のパワー値とパワー画像内のスペックルパターンとを用いることで、従来では血管に対して垂直に超音波ビームを送信することでしか取得出来なかった血流の速度を取得することが出来る。また、第3の実施形態によれば、取得した血流の速度を画像として医師に提供することが出来る。従って、第3の実施形態では、血管壁及び血流の運動情報を用いた診断の精度を更に保証することが可能となる。
【0141】
また、第3の実施形態では、指標算出部15dは、組織運動情報及び血流運動情報の少なくとも一つに基づいて、血管の性状に関する指標を算出し、制御部17は、指標をモニタ2に表示するように制御する。従って、第3の実施形態では、同時刻の反射波信号(同一の反射波信号)から取得された運動情報を用いて、血管の硬さなどを示す指標を算出して、医師に提供することが出来る。従って、第3の実施形態では血管壁及び血流の運動情報を用いた医師の診断を容易にすることが可能となる。
【0142】
なお、第1〜第3の実施形態において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0143】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0144】
以上、説明したとおり、第1の実施形態〜第3の実施形態によれば、血管壁及び血流の運動情報を用いた診断の精度を保証することが可能となる。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0146】
1 超音波プローブ
2 モニタ
3 入力装置
10 装置本体
11 送受信部
12 フレームバッファ
13 Bモード処理部
14 ドプラ処理部
14a 組織運動情報取得部
14b 血流運動情報取得部
15 画像処理部
15a 画像生成部
15b 画像合成部
16 画像メモリ
17 制御部
18 内部記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各走査線における超音波送受信を一回としたうえで、複数の走査線で形成される走査範囲の連続走査を超音波プローブに実行させることで、1フレーム分の反射波信号を連続して生成する送受信部と、
前記送受信部により生成された連続するフレームごとの反射波信号の中で、隣接するフレーム間の同一場所の反射波信号に対して自己相関演算を行なうことで算出される組織の速度を組織運動情報として取得する組織運動情報取得部と、
前記組織運動情報取得部が前記組織運動情報を取得するために用いた連続するフレームごとの反射波信号において、同一場所の反射波信号に対して無限インパルス応答型フィルタ処理を行なうことで推定される血流のパワー値を血流運動情報として取得する血流運動情報取得部と、
前記組織運動情報取得部により取得された前記組織運動情報及び前記血流運動情報取得部により取得された前記血流運動情報を所定の表示部に表示するように制御する表示制御部と、
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記組織運動情報取得部は、更に、前記組織の速度を時間方向に積分することで算出される組織の変位を前記組織運動情報として取得し、
前記表示制御部は、前記組織運動情報取得部により取得された前記組織の変位を前記所定の表示部に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記組織運動情報取得部は、更に、前記組織の変位をフレーム内の空間方向に微分することで算出される組織のひずみを前記組織運動情報として取得し、
前記表示制御部は、前記組織運動情報取得部により取得された前記組織のひずみを前記所定の表示部に表示するように制御することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記血流のパワー値を画像化したパワー画像において、連続するパワー画像間でスペックルを追跡することで、各追跡点の動きベクトルを算出し、当該算出した各追跡点の動きベクトルを血流の速度として算出する速度算出部
を更に備え、
前記表示制御部は、前記速度算出部により算出された前記血流の速度を前記血流運動情報として、前記所定の表示部に表示するように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記送受信部は、前記血流のパワー値を画像化したパワー画像間のスペックルの動きが血液の動きと同一方向となるフレームレートで1フレーム分の超音波送受信が行なわれるように超音波プローブを制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記組織運動情報及び前記血流運動情報それぞれから連続して生成された各画像の表示間隔を、前記フレームレートより大きくするように制御することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記組織運動情報取得部により取得された前記組織運動情報及び前記血流運動情報取得部により取得された前記血流運動情報の少なくとも一つに基づいて、血管の性状に関する指標を算出する指標算出部を更に備え、
前記表示制御部は、前記指標算出部により算出された前記指標を前記所定の表示部に表示するように制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−110527(P2012−110527A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262806(P2010−262806)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】