説明

超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法

【課題】 融点が低く、透明性と機械的強度のバランスに優れた超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記の成分(A)および成分(B)を接触させることにより得られる重合用触媒の存在下に、エチレンおよびα−オレフィンを共重合させて得られる超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法であって、該共重合体が下記の要件(ア)および要件(イ)を満たす超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
(A)チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子およびエステル化合物を含有し、BET法による比表面積が80m2/g以下である固体触媒成分
(B)有機アルミニウム化合物
(ア)極限粘度[η]が5〜30dl/g
(イ)示差走査熱量測定による融点が110〜130℃

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、強度、耐摩耗性、耐衝撃性、自己潤滑性、耐溶剤性、電気絶縁性等に優れる反面、比較的高い密度を有する高結晶性の重合体であるため、融点が高く、透明性が低かった。この点を改良したものとして、例えば、特許文献1には、エチレンと炭素原子数が3〜6のα−オレフィンを共重合することにより、透明性と耐衝撃性に優れた超高分子量エチレン系共重合体が記載されている。
上記特許文献1に記載の超高分子量エチレン系重合体の製造方法としては、例えば、高活性チタン触媒成分、有機アルミニウム化合物および有機ケイ素化合物触媒成分から形成される触媒成分が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特公平5−86803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の触媒成分を用いた製造方法では、更に融点の低い超高分子量ポリエチレン系重合体を得るために、共重合体中のα−オレフィンの含有量を増加させると、α−オレフィンの含有量の多い低分子量成分の副生量が著しく増加するために、機械的強度を低下させるという問題があった。
かかる現状において、本発明の解決しようとする課題、即ち本発明の目的は、融点が低く、透明性と機械的強度のバランスに優れた超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、下記の成分(A)および成分(B)を接触させることにより得られる重合用触媒の存在下に、エチレンおよびα−オレフィンを共重合させて得られる超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法であって、該共重合体が下記の要件(ア)および要件(イ)を満たす超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法を提供するものである。
(A)チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子およびエステル化合物を含有し、BET法による比表面積が80m2/g以下である固体触媒成分
(B)有機アルミニウム化合物
(ア)極限粘度[η]が5〜30dl/g
(イ)示差走査熱量測定による融点が110〜130℃
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、融点が低く、透明性と機械的強度のバランスに優れた超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明によって製造される超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体とは、エチレンおよびα−オレフィンを共重合させることによって得られる共重合体である。α−オレフィンとして好ましくは炭素原子数3以上のα−オレフィンであり、かかるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等の直鎖状モノオレフィン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の分岐鎖状モノオレフィン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0008】
本発明によって製造される超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度は5〜30dl/gである。好ましくは6〜25dl/gであり、より好ましくは7〜20dl/gである。該極限粘度が5dl/gを下回ると、十分な機械的強度が得られない場合があり、また、30dl/gを上回ると、加工性が低下する場合がある。
【0009】
本発明によって製造される超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の、示差走査型熱量測定による融点(以下、DSC融点と称する。)は110〜130℃である。好ましくは112〜129℃であり、更に好ましくは114℃〜128℃である。DSC融点は、該共重合体中のα−オレフィンの含有量が多いほど低くなる傾向にある。
【0010】
本発明によって製造される超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の、冷キシレン可溶部(以下、CXSと称する。)の含有量は、該共重合体の機械的強度の観点から、好ましくは4重量%以下であり、より好ましくは0.1〜3.4重量%であり、更に好ましくは0.2〜2.8重量%である。本発明においてCXSとは、α−オレフィンの含有量の多い低分子量成分であり、該共重合体中のα−オレフィンの含有量が多いほど増加する傾向にある。本発明の重合用触媒を用いることによって、該共重合体中のα−オレフィンの含有量が同一であれば、より少ないCXS含有量の該共重合体を製造することができる。
【0011】
本発明において使用される成分(A)は、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子およびエステル化合物を含有する固体触媒成分である。
【0012】
該固体触媒成分(A)のBET法による比表面積は80m2/g以下であり、好ましくは0.05〜50m2/gであり、より好ましくは0.1〜30m2/gである。
該比表面積は、該固体触媒成分(A)に十分な量のエステル化合物を含有させることによって小さくすることが可能であり、本発明に好適な固体触媒成分とすることができる。
【0013】
該固体触媒成分(A)中のエステル化合物の含有量は、乾燥された該固体触媒成分の全体を100重量%とするとき、好ましくは15〜50重量%である。より好ましくは20〜40重量%であり、更に好ましくは22〜35重量%である。
【0014】
該固体触媒成分(A)中のエステル化合物としては、モノまたは多価カルボン酸エステルが挙げられ、例えば、飽和脂肪族カルボン酸エステル、不飽和脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルを挙げることができる。具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジn−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニル等を挙げることができる。なかでも重合活性の観点から、好ましくはフタル酸ジアルキルであり、より好ましくは、それぞれのエステル結合に結合した二つのアルキル基の炭素原子数の合計が9以上のフタル酸ジアルキルである。
上記エステル化合物は主として、後述するように、該固体触媒成分(A)の調整過程において、エステル化合物もしくは反応系中でエステル化合物を生成しうる化合物に由来する化合物である。
【0015】
該固体触媒成分中(A)のチタン原子の含量は、乾燥された該固体触媒成分(A)を100重量%とするとき、好ましくは0.6〜1.6重量%であり、より好ましくは0.8〜1.4重量%である。
【0016】
該固体触媒成分(A)の製造方法としては、例えば、特公昭46−34092号公報、特公昭47−41676号公報、特公昭55−23561号公報、特公昭57−24361号公報、特公昭52−39431号公報、特公昭52−36786号公報、特公平1−28049号公報、特公平3−43283号公報、特開平4−80044号公報、特開昭55−52309号公報、特開昭58−21405号公報、特開昭61−181807号公報、特開昭63−142008号公報、特開平5−339319号公報、特開昭54−148093号公報、特開平4−227604号公報、特開平6−2933号公報、特開昭64−6006号公報、特開平6−179720号公報、特公平7−116252号公報、特開平8−134124号公報、特開平9−31119号公報、特開平11−228628号公報、特開平11−80234号公報および特開平11−322833号公報に記載された固体触媒成分の調製過程において、エステル化合物もしくは反応系中でエステル化合物を生成しうる化合物を共存させることによって得られる。
【0017】
例えば、以下(1)〜(5)いずれかの調製方法が挙げられる。
(1)ハロゲン化マグネシウム化合物、チタン化合物およびエステル化合物を接触させる方法。
(2)ハロゲン化マグネシウム化合物のアルコール溶液をチタン化合物と接触させることで得られた固体成分とエステル化合物を接触させる方法。
(3)ハロゲン化マグネシウム化合物とチタン化合物の溶液を析出剤と接触させることで得られた固体成分と、ハロゲン化化合物およびエステル化合物を接触させる方法。
(4)ジアルコキシマグネシウム化合物、ハロゲン化チタン化合物およびエステル化合物を接触させる方法。
(5)マグネシウム原子、チタン原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分、ハロゲン化化合物およびエステル化合物を接触させる方法。
なかでも(5)が本発明において好適であり、マグネシウム原子、チタン原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(a)、ハロゲン化化合物(b)およびフタル酸誘導体(c)を接触させる方法が好ましい。以下、更に詳細に説明する。
【0018】
(a)固体成分
本発明において使用する固体成分(a)は、Si−O結合を有する有機ケイ素化合物(i)の存在下に、下記一般式[I]で表されるチタン化合物(ii)を、有機マグネシウム化合物(iii)で還元して得られる固体成分である。このとき任意成分としてエステル化合物(iv)を共存させると、重合活性が更に向上する場合がある。

(上記一般式[I]において、aは1〜20の数を表し、R2は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。X2はそれぞれ、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20の炭化水素オキシ基を表し、全てのX2は同じであっても異なっていてもよい。)
【0019】
Si−O結合を有する有機ケイ素化合物(i)としては、下記の一般式で表される化合物が挙げられる。
Si(OR10t114-t
12(R132SiO)uSiR143、または、
(R152SiO)v
上記一般式において、R10は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、R11、R12、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜20の炭化水素基または水素原子を表す。tは0<t≦4を満足する整数を表し、uは1〜1000の整数を表し、vは2〜1000の整数を表す。
【0020】
かかる有機ケイ素化合物(i)としては、例えば、テトラメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、テトライソプロポキシシラン、ジイソプロポキシ−ジイソプロピルシラン、テトラプロポキシシラン、ジプロポキシジプロピルシラン、テトラブトキシシラン、ジブトキシジブチルシラン、ジシクロペントキシジエチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、シクロヘキシロキシトリメチルシラン、フェノキシトリメチルシラン、テトラフェノキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、ヘキサメチルジシロヘキサン、ヘキサエチルジシロヘキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、オクタエチルトリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルヒドロポリシロキサン、フェニルヒドロポリシロキサン等が挙げられる。
【0021】
これらの有機ケイ素化合物(i)のうち、好ましくは一般式Si(OR10t114-tで表わされるアルコキシシラン化合物であり、その場合、tとして好ましくは1≦t≦4を満足する数であり、特に好ましくはt=4のテトラアルコキシシランであり、最も好ましくはテトラエトキシシランである。
【0022】
チタン化合物(ii)は下記一般式[I]で表されるチタン化合物である。

(上記一般式[I]において、aは1〜20の数を表し、R2は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。X2はそれぞれ、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20の炭化水素オキシ基を表し、全てのX2は同じであっても異なっていてもよい。)
【0023】
2は炭素原子数1〜20の炭化水素基である。R2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基、クレジル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、プロペニル基等のアリル基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらの炭化水素基のうち、好ましくは炭素原子数2〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基である。更に好ましくは炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基である。
【0024】
2はそれぞれ、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20の炭化水素オキシ基である。X2におけるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。特に好ましくは塩素原子である。X2における炭素原子数1〜20の炭化水素オキシ基は、R2と同様に炭素原子数1〜20の炭化水素基を有する炭化水素オキシ基である。X2として特に好ましくは、炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基を有するアルコキシ基である。
【0025】
上記一般式[I]で表されるチタン化合物(ii)におけるaは1〜20の数であり、好ましくは1≦a≦5を満足する数である。
【0026】
かかるチタン化合物(ii)としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトラiso−プロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラiso−ブトキシチタン、n−ブトキシチタントリクロライド、ジn−ブトキシチタンジクロライド、トリn−ブトキシチタンクロライド、ジn−テトライソプロピルポリチタネート(a=2〜10の範囲の混合物)、テトラn−ブチルポリチタネート(a=2〜10の範囲の混合物)、テトラn−ヘキシルポリチタネート(a=2〜10の範囲の混合物)、テトラn−オクチルポリチタネート(a=2〜10の範囲の混合物)が挙げられる。また、テトラアルコキシチタンに少量の水を反応して得られるテトラアルコキシチタンの縮合物を挙げることもできる。
【0027】
チタン化合物(ii)として好ましくは、上記一般式[I]で表されるチタン化合物におけるaが1、2または4であるチタン化合物である。
特に好ましくは、テトラn−ブトキシチタン、テトラn−ブチルチタニウムダイマーまたはテトラn−ブチルチタニウムテトラマーである。
なお、チタン化合物(ii)は単独で用いてもよいし、複数種を混合した状態で用いることも可能である。
【0028】
有機マグネシウム化合物(iii)は、マグネシウム−炭素の結合を有する任意の型の有機マグネシウム化合物である。特に一般式R16MgX5(式中、Mgはマグネシウム原子を表し、R16は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、X5はハロゲン原子を表わす。)で表わされるグリニャール化合物、または一般式R1718Mg(式中、Mgはマグネシウム原子を表し、R17およびR18はそれぞれ炭素原子数1〜20の炭化水素基を表わす。)で表されるジハイドロカルビルマグネシウムが好適に使用される。ここでR17およびR18は同じであっても異なっていてもよい。 R16〜R18としてはそれぞれ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソアミル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、フェニル基、ベンジル基等の炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基が挙げられる。特にR16MgX5で表されるグリニャール化合物をエーテル溶液で使用することが重合活性、立体規則性の点から好ましい。
【0029】
上記の有機マグネシウム化合物(iii)は、炭化水素溶媒に可溶化するために他の有機金属化合物との錯体として使用することもできる。有機金属化合物の具体例としては、リチウム、ベリリウム、アルミニウムまたは亜鉛の化合物が挙げられる。
【0030】
任意成分であるエステル化合物(iv)としては、モノまたは多価カルボン酸エステルが挙げられ、それらの例として飽和脂肪族カルボン酸エステル、不飽和脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルを挙げることができる。具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジn−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニル等を挙げることができる。
【0031】
これらのエステル化合物のうち、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステル、またはフタル酸エステル等の芳香族カルボン酸エステルが好ましく、特にフタル酸ジアルキルが好ましく用いられる。
【0032】
固体成分(a)は、有機ケイ素化合物(i)の存在下、あるいは有機ケイ素化合物(i)およびエステル化合物(iv)の存在下、チタン化合物(ii)を有機マグネシウム化合物(iii)で還元して得られる。具体的には、有機ケイ素化合物(i)、チタン化合物(ii)、必要に応じてエステル化合物(iv)の混合物中に、有機マグネシウム化合物(iii)を投入する方法が好ましい。
【0033】
チタン化合物(ii)、有機ケイ素化合物(i)およびエステル化合物(iv)は適当な溶媒に溶解もしくはスラリー状にして使用するのが好ましい。
かかる溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物が挙げられる。
【0034】
還元反応温度の温度範囲は、通常−50〜70℃であり、好ましくは−30〜50℃であり、特に好ましくは−25〜35℃である。
有機マグネシウム(iii)の投入時間は特に限定されないが、通常30分〜10時間程度である。有機マグネシウムの(iii)の投入に伴い還元反応が進行するが、投入後、更に20〜120℃の温度で後反応を行ってもよい。
【0035】
また還元反応の際に、無機酸化物、有機ポリマー等の多孔質担体を共存させ、固体成分を多孔質担体に含浸させることも可能である。用いられる多孔質担体としては、公知のものでよい。具体例としては、SiO2、Al23、MgO、TiO2、ZrO2等に代表される多孔質無機酸化物、あるいはポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−エチレングリコール−ジメタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の有機多孔質ポリマー等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは有機多孔質ポリマーが用いられ、なかでも特に好ましくは、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、またはアクリロニトリル−ジビニルベンゼン共重合体である。
【0036】
多孔質担体の細孔半径20nm〜200nmにおける細孔容量は、触媒成分を有効に固定化する観点から、好ましくは0.3cm3/g以上であり、より好ましくは0.4cm3/g以上であり、かつ該細孔半径の範囲における細孔容量が、細孔半径3.5nm〜7500nmにおける細孔容量の好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上である担体である。20nm〜200nmの細孔半径の範囲に十分存在するものでなければ触媒成分を有効に固定化することができない場合があり、好ましくない。
【0037】
有機ケイ素化合物(i)の使用量は、チタン化合物(ii)中の総チタン原子に対するケイ素原子の原子数の比で、通常Si/Ti=1〜500、好ましくは1.5〜300、特に好ましくは3〜100の範囲である。
更に、有機マグネシウム化合物(iii)の使用量は、チタン原子とケイ素原子の和とマグネシウム原子の原子数の比で通常(Ti+Si)/Mg=0.1〜10であり、好ましくは0.2〜5.0であり、特に好ましくは0.5〜2.0の範囲である。
また、固体触媒成分におけるMg/Tiのモル比の値は、通常1〜51であり、好ましくは2〜31であり、特に好ましくは4〜26の範囲となるようにチタン化合物(ii)、有機ケイ素化合物(i)、有機マグネシウム化合物(iii)の使用量を決定する。
また、任意成分のエステル化合物(iv)の使用量は、チタン化合物(ii)のチタン原子に対するエステル化合物のモル比で、通常、エステル化合物/Ti=0.05〜100であり、好ましくは0.1〜60であり、特に好ましくは0.2〜30の範囲である。
【0038】
還元反応で得られた固体成分は通常、固液分離し、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の不活性炭化水素溶媒で数回洗浄を行う。
このようにして得られた固体成分(a)は3価のチタン原子、マグネシウム原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有し、一般に非晶性もしくは極めて弱い結晶性を示す。重合活性および立体規則性の点から、特に非晶性の構造が好ましい。
【0039】
(b)ハロゲン化化合物
ハロゲン化化合物として好ましくは、固体成分(a)中の炭化水素オキシ基をハロゲン原子に置換し得る化合物である。より好ましくは、周期表第4族元素のハロゲン化合物、第13族元素のハロゲン化合物または第14族元素のハロゲン化合物であり、更に好ましくは、第4族元素のハロゲン化合物(b1)または第14族元素のハロゲン化合物(b2)である。
【0040】
第4族元素のハロゲン化合物(b1)として好ましくは、一般式M1(OR9b44-b(式中、M1は第4族の原子を表し、R9は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、X4はハロゲン原子を表し、bは0≦b<4を満足する数を表す。)で表されるハロゲン化合物である。M1としては、例えば、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子が挙げられ、なかでも好ましくはチタン原子である。R9としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基、クレジル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、プロペニル基等のアリル基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの中で好ましくは、炭素原子数2〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基である。特に好ましくは、炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基である。また、2種以上の異なるOR9基を有する第4族元素のハロゲン化合物を用いることも可能である。
【0041】
4で表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。この中で、特に好ましくは塩素原子である。
【0042】
一般式M1(OR9b44-bで表される第4族元素のハロゲン化合物のbは、0≦b<4を満足する数であり、好ましくは0≦b≦2を満足する数であり、特に好ましくは、b=0である。
【0043】
一般式M1(OR9b44-bで表されるハロゲン化合物としては、例えば、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等のテトラハロゲン化チタン、メトキシチタントリクロライド、エトキシチタントリクロライド、ブトキシチタントリクロライド、フェノキシチタントリクロライド、エトキシチタントリブロマイド等のトリハロゲン化アルコキシチタン、ジメトキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジクロライド、ジブトキシチタンジクロライド、ジフェノキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジブロマイド等のジハロゲン化ジアルコキシチタンが挙げられ、同様にそれぞれに対応したジルコニウム化合物、ハフニウム化合物を挙げることができる。最も好ましくは四塩化チタンである。
【0044】
周期表第13族元素のハロゲン化合物または第14族元素のハロゲン化合物(b2)として好ましくは、一般式M21m-c8c(式中、M2は第13族または第14族の原子を表し、R1は炭素原子数が1〜20の炭化水素基を表し、X8はハロゲン原子を表し、mはM2の原子価に相当する数を表す。cは0<c≦mを満足する数を表す。)で表される化合物である。
ここでいう第13族の原子としては、例えば、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子、タリウム原子が挙げられ、好ましくはホウ素原子またはアルミニウム原子であり、より好ましくはアルミニウム原子である。また、第14族の原子としては、例えば、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、錫原子、鉛原子が挙げられ、好ましくはケイ素原子、ゲルマニウム原子または錫原子であり、より好ましくはケイ素原子または錫原子である。
【0045】
mはM2の原子価に相当する数であり、例えばM2がケイ素原子のときm=4である。
cは0<c≦mを満足する数であり、M2がケイ素原子のときcは好ましくは3または4である。
8で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子である。
【0046】
1としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、クレジル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、プロペニル基等のアルケニル基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。好ましくはアルキル基またはアリール基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、フェニル基またはパラトリル基である。
【0047】
第13族元素のハロゲン化合物としては、例えば、トリクロロボラン、メチルジクロロボラン、エチルジクロロボラン、フェニルジクロロボラン、シクロヘキシルジクロロボラン、ジメチルクロロボラン、メチルエチルクロロボラン、トリクロロアルミニウム、メチルジクロロアルミニウム、エチルジクロロアルミニウム、フェニルジクロロアルミニウム、シクロヘキシルジクロロアルミニウム、ジメチルクロロアルミニウム、ジエチルクロロアルミニウム、メチルエチルクロロアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、ガリウムクロライド、ガリウムジクロライド、トリクロロガリウム、メチルジクロロガリウム、エチルジクロロガリウム、フェニルジクロロガリウム、シクロヘキシルジクロロガリウム、ジメチルクロロガリウム、メチルエチルクロロガリウム、インジウムクロライド、インジウムトリクロライド、メチルインジウムジクロライド、フェニルインジウムジクロライド、ジメチルインジウムクロライド、タリウムクロライド、タリウムトリクロライド、メチルタリウムジクロライド、フェニルタリウムジクロライド、ジメチルタリウムクロライド等が挙げられ、これら化合物名の「クロロ」を、「フルオロ」、「ブロモ」または「ヨード」に置き換えた化合物も挙げられる。
【0048】
第14族元素のハロゲン化合物(b2)としては、例えば、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、テトラクロロシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ノルマルプロピルトリクロロシラン、ノルマルブチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ベンジルトリクロロシラン、パラトリルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルエチルジクロロシラン、モノクロロシラン、トリメチルクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、テトラクロロゲルマン、トリクロロゲルマン、メチルトリクロロゲルマン、エチルトリクロロゲルマン、フェニルトリクロロゲルマン、ジクロロゲルマン、ジメチルジクロロゲルマン、ジエチルジクロロゲルマン、ジフェニルジクロロゲルマン、モノクロロゲルマン、トリメチルクロロゲルマン、トリエチルクロロゲルマン、トリノルマルブチルクロロゲルマン、テトラクロロ錫、メチルトリクロロ錫、ノルマルブチルトリクロロ錫、ジメチルジクロロ錫、ジノルマルブチルジクロロ錫、ジイソブチルジクロロ錫、ジフェニルジクロロ錫、ジビニルジクロロ錫、メチルトリクロロ錫、フェニルトリクロロ錫、ジクロロ鉛、メチルクロロ鉛、フェニルクロロ鉛等が挙げられ、これら化合物名の「クロロ」を、「フルオロ」、「ブロモ」または「ヨード」に置き換えた化合物も挙げられる。
【0049】
ハロゲン化化合物(b)として特に好ましくは、重合活性の観点から、四塩化チタン、メチルジクロロアルミニウム、エチルジクロロアルミニウム、テトラクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ノルマルプロピルトリクロロシランまたはテトラクロロ錫である。
ハロゲン化化合物(b)は、上記化合物の中から単独で用いてもよいし、複数種を同時にあるいは逐次的に用いてもよい。
【0050】
(c)フタル酸誘導体
フタル酸誘導体(c)としては、次の一般式で表される化合物が挙げられる。

(ただし、R24〜R27はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基、S6およびS7はそれぞれ独立にハロゲン原子であるか、または、水素原子、炭素原子、酸素原子およびハロゲン原子のうちの複数を任意に組み合わせて形成される置換基である。)
24〜R27として好ましくは、水素原子、または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、R24〜R27の任意の組み合わせは互いに結合して環構造を形成していてもよい。S6およびS7として好ましくは、それぞれ独立に塩素原子、水酸基、または炭素原子数1〜20のアルコキシ基である。
【0051】
フタル酸誘導体(c)として具体例には、フタル酸、フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジノルマルプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジノルマルブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ジノルマルヘプチル、フタル酸ジイソヘプチル、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジノルマルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジクロリド、3−メチルフタル酸ジエチル、4−メチルフタル酸ジエチル、3,4−ジメチルフタル酸ジエチル、3−メチルフタル酸ジノルマルブチル、4−メチルフタル酸ジノルマルブチル、3,4−ジメチルフタル酸ジノルマルブチル、3−メチルフタル酸ジイソブチル、4−メチルフタル酸ジイソブチル、3,4−ジメチルフタル酸ジイソブチル、3−メチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、4−メチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、3,4−ジメチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、3−メチルフタル酸ジクロリド、4−メチルフタル酸ジクロリド、3,4−ジメチルフタル酸ジクロリド、3−エチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、4−エチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、3,4−ジエチルフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)が挙げられ、中でもフタル酸ジエチル、フタル酸ジノルマルブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジイソヘプチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシルが好ましい。
本発明の固体触媒成分中に含有されるエステルがフタル酸ジアルキルの場合、それらはフタル酸誘導体に由来するものであり、上記一般式においてS6、S7がアルコキシ基となった化合物である。固体触媒成分の調製の際に、用いたフタル酸誘導体(c)のS6,S7はそのまま、あるいは他の置換基と交換しうる。
【0052】
固体触媒成分(A)の調製
本発明の固体触媒成分(A)は、Si−O結合を有する有機ケイ素化合物(i)の存在下に、一般式[I]で表されるチタン化合物(ii)を、有機マグネシウム化合物(iii)で還元して得られる固体成分(a)、ハロゲン化化合物(b)およびフタル酸誘導体(c)を互いに接触処理させて得られる。これらの接触処理は通常、全て窒素ガス、アルゴンガス等の不活性気体雰囲気下で行われる。
【0053】
固体触媒成分(A)を得る接触処理の具体的な方法としては、
・(a)に、(b)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理する方法
・(b)に、(a)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理する方法
・(c)に、(a)および(b)(投入順序任意)を投入し、接触処理する方法
・(a)に(b)を投入し、接触処理した後に、(c)を投入し、接触処理する方法
・(a)に(c)を投入し、接触処理した後に、(b)を投入し、接触処理する方法
・(a)に(c)を投入し、接触処理した後に、(b)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理する方法
・(a)に(c)を投入し、接触処理した後に、(b)および(c)の混合物を投入し、接触処理する方法
・(a)に、(b)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理した後に(b)を投入し、接触処理する方法
・(a)に、(b)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理した後に(b)および(c)の混合物を投入し、接触処理する方法
等が挙げられる。なかでも
・(a)に、(b2)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理した後に(b1)を投入し、接触処理する方法
・(a)に、(b2)および(c)(投入順序任意)を投入し、接触処理した後に(b1)および(c)の混合物を投入し、接触処理する方法
がより好ましい。また、その後更に(b1)との接触処理を複数回繰り返すことで重合活性が改良される場合がある。
【0054】
接触処理は、スラリー法やボールミル等による機械的粉砕手段等、各成分を接触させうる公知のいかなる方法によっても行なうことができるが、機械的粉砕を行なうと固体触媒成分に微粉が多量に発生し、粒度分布が広くなる場合があり、連続重合を安定的に実施する上で好ましくない。よって、溶媒の存在下で両者を接触させるのが好ましい。
また、接触処理後は、そのまま次の操作を行うことができるが、余剰物を除去するため、溶媒によって洗浄処理を行うのが好ましい。
【0055】
溶媒としては、処理対象成分に対して不活性であることが好ましく、具体例としてペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素、1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が使用できる。
接触処理における溶媒の使用量は、一段階の接触処理につき、固体成分(a)1gあたり通常0.1ml〜1000mlである。好ましくは1gあたり1ml〜100mlである。また、一回の洗浄操作における溶媒の使用量も同程度である。洗浄処理における洗浄操作の回数は、一段階の接触処理につき通常1〜5回である。
【0056】
接触処理および/または洗浄処理温度は、それぞれ通常−50〜150℃であるが、好ましくは0〜140℃であり、更に好ましくは60〜135℃である。
接触処理時間は特に限定されないが、好ましくは0.5〜8時間であり、更に好ましくは1〜6時間である。洗浄操作時間は特に限定されないが、好ましくは1〜120分であり、更に好ましくは2〜60分である。
【0057】
フタル酸誘導体(c)の使用量は、固体成分(a)1gに対し、通常0.01〜100ミリモルであり、好ましくは0.05〜50ミリモルであり、更に好ましくは0.1〜20ミリモルである。
フタル酸誘導体(c)の使用量が過度に多い場合には、粒子の崩壊によって固体触媒成分(A)の粒度分布が広くなることがある。
【0058】
特にフタル酸誘導体(c)の使用量としては、固体触媒成分(A)中におけるフタル酸エステルの含有量が適切となるように任意に調節することが可能である。固体成分(a)1gに対し、通常0.1〜100ミリモルであり、好ましくは0.3〜50ミリモルであり、更に好ましくは0.5〜20ミリモルである。また、固体成分(a)中のマグネシウム原子1モルあたりのフタル酸誘導体(c)の使用量は、通常0.01〜1.0モルであり、好ましくは0.03〜0.5モルである。
【0059】
ハロゲン化化合物(b)の使用量は、固体成分(a)1gに対し、通常0.5〜1000ミリモル、好ましくは1〜200ミリモル、更に好ましくは2〜100ミリモルである。
【0060】
なお、それぞれの化合物を複数の回数にわたって使用して接触処理をする場合には、以上に述べた各化合物の使用量はそれぞれ一回ごとかつ一種類の化合物ごとの使用量を表す。
【0061】
得られた固体触媒成分(A)は、不活性な溶媒と組合せてスラリー状で重合に使用してもよいし、乾燥して得られる流動性の粉末として重合に使用してもよい。乾燥方法としては、例えば、減圧条件下揮発成分を除去する方法、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性気体の流通下で揮発成分を除去する方法が挙げられる。乾燥時の温度として好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは50〜100℃である。乾燥時間として好ましくは0.01〜20時間であり、より好ましくは0.5〜10時間である。
【0062】
得られた固体触媒成分(A)の重量平均粒子径は、工業的な観点から好ましくは1〜100μmである。
【0063】
本発明の固体触媒成分(A)は、有機アルミニウム化合物(B)と接触させることにより重合用触媒が得られる。また、必要に応じて電子供与性化合物(C)を添加接触させることが可能である。
【0064】
(B)有機アルミニウム化合物
本発明のα−オレフィン重合用触媒を形成するために使用される有機アルミニウム化合物(B)は、少なくとも分子内に一個のアルミニウム−炭素結合を有するものである。代表的な有機アルミニウム化合物を一般式で下記に示す。
19wAlY3-w
2021Al−O−AlR2223
(上記一般式において、R19〜R23は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、Yはハロゲン原子、水素原子またはアルコキシ基を表し、wは2≦w≦3を満足する数を表す。)
かかる有機アルミニウム化合物(B)としては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムハライド、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物のようなトリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサン、テトラブチルジアルモキサン等のアルキルアルモキサンが挙げられる。
【0065】
これらの有機アルミニウム化合物のうち好ましくは、トリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドとの混合物、または、アルキルアルモキサンであり、特に好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドのと混合物またはテトラエチルジアルモキサンである。
【0066】
(C)電子供与性化合物
オレフィン重合用触媒を形成するために使用する電子供与性化合物(C)としては、例えば、酸素含有化合物、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄含有化合物が挙げられ、好ましくは酸素含有化合物または窒素含有化合物である。
酸素含有化合物としては、例えば、アルコキシケイ素類、エーテル類、エステル類、ケトン類等が挙げられ、好ましくはアルコキシケイ素類またはエーテル類である。
【0067】
アルコキシケイ素類としては、一般式R3rSi(OR44-r(式中、R3は炭素原子数1〜20の炭化水素基、水素原子またはヘテロ原子含有置換基を表し、R4は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、rは0≦r<4を満足する数を表す。R3およびR4が複数存在する場合、それぞれのR3およびR4は同じであっても異なっていてもよい。)で表されるアルコキシケイ素化合物が用いられる。R3が炭化水素基の場合、炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、等の分岐鎖状アルキル基、シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等が挙げられる。なかでもアルコキシケイ素化合物のケイ素原子と直接結合した炭素原子が2級、もしくは3級炭素であるR3を少なくとも1つ有することが好ましい。R3がヘテロ原子含有置換基の場合、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子が挙げられる。具体的にはジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチル−n−プロピルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ピロリル基、ピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジル基、パーヒドロインドリル基、パーヒドロイソインドリル基、パーヒドロキノリル基、パーヒドロイソキノリル基、パーヒドロカルバゾリル基、パーヒドロアクリジニル基、フリル基、ピラニル基、パーヒドロフリル基、チエニル基等が挙げられ、好ましくは、ヘテロ原子がアルコキシケイ素化合物のケイ素原子と直接化学結合できる置換基である。
【0068】
アルコキシケイ素類としては、例えば、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−ブチルジメトキシシラン、tert−アミルメチルジメトキシシラン、tert−アミルエチルジメトキシシラン、tert−アミル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−アミル−n−ブチルジメトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロブチルジメトキシシラン、シクロブチルイソプロピルジメトキシシラン、シクロブチルイソブチルジメトキシシラン、シクロブチル−tert−ブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、シクロペンチルイソブチルジメトキシシラン、シクロペンチル−tert−ブチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロヘキシルイソプロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルイソブチルジメトキシシラン、シクロヘキシル−tert−ブチルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルイソプロピルジメトキシシラン、フェニルイソブチルジメトキシシラン、フェニル−tert−ブチルジメトキシシラン、フェニルシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、tert−ブチルメチルジエトキシシラン、tert−ブチルエチルジエトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジエトキシシラン、tert−ブチル−n−ブチルジエトキシシラン、tert−アミルメチルジエトキシシラン、tert−アミルエチルジエトキシシラン、tert−アミル−n−プロピルジエトキシシラン、tert−アミル−n−ブチルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルエチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、(パーヒドロキノリノ)(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、(パーヒドロキノリノ)メチルジメトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)メチルジメトキシシラン、(パーヒドロキノリノ)エチルジメトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)エチルジメトキシシラン、(パーヒドロキノリノ)(n−プロピル)ジメトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)(n−プロピル)ジメトキシシラン、(パーヒドロキノリノ)(tert−ブチル)ジメトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)(tert−ブチル)ジメトキシシランが挙げられる。
【0069】
エーテル類としては、環状エーテル化合物が挙げられる。
環状エーテル化合物とは、環構造内に少なくとも一つの−C−O−C−結合を有する複素環式化合物である。
環状エーテル化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキシド、1,3−ジオキセパン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、フラン、2,5−ジメチルフラン、またはs−トリオキサンが挙げられる。好ましくは環構造内に少なくとも一つの−C−O−C−O−C−結合を有する環状エーテル化合物である。
【0070】
エステル類としては、モノまたは多価カルボン酸エステルが挙げられ、例えば、飽和脂肪族カルボン酸エステル、不飽和脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルを挙げることができる。具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジn−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニル等を挙げることができる。
【0071】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジヘキシルケトン、アセトフエノン、ジフエニルケトン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0072】
窒素含有化合物としては、例えば、2,6−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の2,6−置換ピペリジン類、2,5−置換ピペリジン類、N,N,N’,N’−テトラメチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン等の置換メチレンジアミン類、1,3−ジベンジルイミダゾリジン等の置換イミダゾリジン類等が挙げられる。好ましくは2,6−置換ピペリジン類である。
【0073】
電子供与性化合物(C)として特に好ましくは、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、2,6−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである。
【0074】
本発明によって得られる固体触媒成分を用いた触媒は、前記の固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を、また必要に応じて電子供与性化合物(C)を接触させて得られる重合用触媒である。ここでいう接触とは、触媒成分(A)および(B)(必要に応じて(C))が接触し、触媒が形成されるならどのような手段によってもよく、あらかじめ溶媒で希釈してもしくは希釈せずにそれぞれを混合して接触させる方法や、別々に重合槽に供給して重合槽の中で接触させる方法等を採用できる。
各触媒成分を重合槽に供給する方法としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で水分のない状態で供給することが好ましい。各触媒成分は、任意の二成分を予め接触させて供給してもよい。
【0075】
前記の触媒存在下にオレフィンの重合を行うことが可能であるが、このような重合(本重合)の実施前に以下に述べる予備重合を行ってもかまわない。
【0076】
予備重合は通常、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)の存在下、少量のオレフィンを供給して実施され、スラリー状態で行うのが好ましい。スラリー化するのに用いる溶媒としては、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の不活性炭化水素を挙げることができる。また、スラリー化するに際し、不活性炭化水素溶媒の一部または全部に変えて液状のオレフィンを用いることができる。
【0077】
予備重合時の有機アルミニウム化合物の使用量は、固体触媒成分中のチタン原子1モルあたり、通常0.5〜700モルのごとく広範囲に選ぶことができるが、好ましくは0.8〜500モルであり、特に好ましくは1〜200モルである。
【0078】
また、予備重合されるオレフィンの量は、固体触媒成分1gあたり通常0.01〜1000gであり、好ましくは0.05〜500gであり、特に好ましくは0.1〜200gである。
【0079】
予備重合を行う際のスラリー濃度としては、好ましくは1〜500g−固体触媒成分/L−溶媒であり、特に好ましくは3〜300g−固体触媒成分/L−溶媒である。予備重合温度としては、好ましくは−20〜100℃であり、特に好ましくは0〜80℃である。また、予備重合中の気相部でのオレフィンの分圧としては、好ましくは1kPa〜2MPaであり、特に好ましくは10kPa〜1MPaであるが、予備重合の圧力、温度において液状であるオレフィンについては、この限りではない。更に、予備重合時間は特に限定されないが、通常2分間から15時間である。
【0080】
予備重合を実施する際、固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、オレフィンを供給する方法としては、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)を接触させておいた後オレフィンを供給する方法、固体触媒成分(A)とオレフィンを接触させておいた後有機アルミニウム化合物(B)を供給する方法等のいずれの方法を用いてもよい。また、オレフィンの供給方法としては、重合槽内が所定の圧力になるように保持しながら順次オレフィンを供給する方法、あるいは所定のオレフィン量を最初にすべて供給する方法のいずれの方法を用いてもよい。また、得られる重合体の分子量を調節するために水素等の連鎖移動剤を添加することも可能である。
【0081】
更に、有機アルミニウム化合物(B)の存在下、固体触媒成分(A)を少量のオレフィンで予備重合するに際し、必要に応じて電子供与性化合物(C)を共存させてもよい。使用される電子供与性化合物は、上記の電子供与性化合物(C)の一部または、全部である。その使用量は、固体触媒成分(A)中に含まれるチタン原子1モルに対し、通常0.01〜400モル、好ましくは0.02〜200モル、特に好ましくは、0.03〜100モルであり、有機アルミニウム化合物(B)に対し、通常0.003〜5モル、好ましくは0.005〜3モル、特に好ましくは0.01〜2モルである。
【0082】
予備重合の際の電子供与性化合物(C)の供給方法は特に限定されず、有機アルミニウム化合物(A)と別々に供給してもよいし、予め接触させて供給してもよい。また、予備重合で使用されるオレフィンは、本重合で使用されるオレフィンと同じであっても異なっていてもよい。
【0083】
上記のように予備重合を行った後、あるいは、予備重合を行うことなく、前述の固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)からなる重合用触媒の存在下に、エチレン−α−オレフィン共重合を行うことができる。
【0084】
本重合時の有機アルミニウム化合物の使用量は通常、固体触媒成分(A)中のチタン原子1モルあたり、1〜1000モルのごとく広範囲に選ぶことができるが、特に好ましくは5〜600モルの範囲である。
【0085】
また、本重合時に電子供与性化合物(C)を使用する場合、固体触媒成分(A)中に含まれるチタン原子1モルに対し、通常0.1〜2000モルであり、好ましくは0.3〜1000モルであり、特に好ましくは0.5〜800モルであり、有機アルミニウム化合物に対し、通常0.001〜5モルであり、好ましくは0.005〜3モルであり、特に好ましくは0.01〜1モルである。
【0086】
本重合は、通常−30〜300℃までにわたって実施することができるが、好ましくは20〜180℃であり、より好ましくは40〜100℃である。重合圧力に関しては特に限定されないが、工業的かつ経済的であるという観点から、一般に、常圧〜10MPaであり、好ましくは200kPa〜5MPa程度の圧力が採用される。重合形式としては、バッチ式、連続式いずれでも可能である。重合条件の異なる複数の重合段階あるいは反応器を連続的に経ることで種々の分布(分子量分布、コモノマー組成分布等)を付与することも可能である。また、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の不活性炭化水素溶媒によるスラリー重合もしくは溶液重合、重合温度において液状のオレフィンを媒体としたバルク重合または気相重合も可能である。
【0087】
本重合時には重合体の分子量(極限粘度)を調節するために水素等の連鎖移動剤を添加することも可能である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって特に限定をうけるものではない。なお実施例中、重合用触媒および重合体の各種物性の評価方法は、次のとおりである。
【0089】
(1)固体触媒成分等の固体サンプルの組成分析
チタン原子含有量は、固体サンプル約20ミリグラムを0.5モル/Lの硫酸47mlで分解し、これに過剰となる3重量%過酸化水素水3mlを加え、得られた液状サンプルの410nmの特性吸収を日立製ダブルビーム分光光度計U−2001型を用いて測定し、別途作成しておいた検量線によって求めた。アルコキシ基含有量は、固体サンプル約2グラムを水100mlで分解後、得られた液状サンプル中のアルコキシ基に対応するアルコール量を、ガスクロマトグラフィー内部標準法を用いて求め、アルコキシ基含有量に換算した。フタル酸エステル化合物含有量は、固体サンプル約30ミリグラムをN,N−ジメチルアセトアミド100mlに溶解後、溶液中のフタル酸エステル化合物量をガスクロマトグラフィー内部標準法で求めた。
(2)BET比表面積
固体触媒成分の比表面積は、マイクロメリティクス社製フローソーブII 2300を用いて窒素吸脱着量によるBET法で求めた。
(3)極限粘度(以下[η]と略す。)
テトラリン溶媒に重合体を溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて135℃にて測定した。
(4)DSC融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DiamondDSC)を用い、測定パン中の試験片を150℃で5分間保持し、5℃/分で150℃から20℃に冷却、20℃で2分間保持し、5℃/分で20℃から150℃に昇温、この際得られる融解曲線のピークをDSC融点とした。
(5)冷キシレン可溶部(CXS)
5gの重合体を1000mlの沸騰キシレンに溶解させたのち、空冷し、25℃の恒温槽で20時間放置した後、同温にて析出した重合体を濾紙(アドバンテック社製No.50)を用いて濾別した。濾液中のキシレンを減圧留去、残存した重合体の重量百分率を求め、CXS(単位=重量%)とした。
(6)α−オレフィンの含有量
赤外線分光光度計(パーキンエルマー社製1600シリーズ)を用い、エチレンとα−オレフィンの特性吸収より検量線を用いて求め、炭素原子1000個あたりの短鎖分岐数(SCB)として表した。
(7)プレスシートの作成
得られた重合パウダーをルミラーフィルムT60(東レ製)、更に鋼製平板に挟んで190℃の熱プレス機にて5分間予熱し、重合体粒子が融着するのに十分な圧力で5分間プレス、次に25℃の冷却プレス機にて冷却した。得られたプレスシートを4等分して重ね、更に同様に熱プレスを行い、測定に供した。この際、鋼製スペーサーを用いることで所望の厚みのプレスシートに調整した。
(8)透明性
ヘイズ(曇価)、光線透過率をJIS K7105−1981に準拠した方法で測定した。1.5±0.15ミリメートルの厚みのプレスシートを作成し、直読ヘイズメーター(東洋精機製作所製)を用いて測定した。
(9)機械的強度
引張衝撃強度(テンサイルインパクト)をASTM D1822−89に準拠した方法で測定した。0.5±0.1ミリメートルの厚みのプレスシートからタイプSの試験片を作成し、ユニバーサルインパクトテスター(東洋精機製作所製)を用いて測定した。
また、引張破壊強さおよび引張破壊伸びをJIS K7113−1995に準拠した方法で測定した。2±0.4ミリメートルの厚みのプレスシートから2号型試験片を作成し、全自動引張試験機ATM−C(オリエンテック社製)を用いて200ミリメートル/分の引張速度で測定した。
(10)嵩密度
JIS K−6721(1966)に従って測定した。
【0090】
[実施例1]
(1)固体触媒成分前駆体の合成
窒素置換した撹拌機、邪魔板を備えた200L反応器に、ヘキサン80L、テトラエトキシシラン20.6kgおよびテトラブトキシチタン2.2kgを投入し、撹拌した。次に、前記攪拌混合物に、ブチルマグネシウムクロリドのジブチルエーテル溶液(濃度2.1モル/L)50Lを反応器の温度を5℃に保ちながら4時間かけて滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、更に20℃で1時間撹拌したあと濾過し、得られた固体をトルエン70Lでの洗浄を3回繰り返し、トルエン63Lを加え、スラリー化した。スラリーの一部を採取し、溶媒を除去、乾燥を行い、固体触媒成分前駆体を得た。
該固体触媒成分前駆体には、Tiが1.86重量%、OEt(エトキシ基)が36.1重量%、OBu(ブトキシ基)が3.0重量%含有されていた。
【0091】
(2)固体触媒成分の合成
撹拌機を備えた内容積210Lの反応器を窒素で置換した後、前記(1)において合成した固体触媒成分前駆体スラリーを該反応器に仕込み、テトラクロロシラン14.4kg、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)9.5kgを投入し、105℃で2時間攪拌した。次いで、固液分離し、得られた固体について95℃にてトルエン90Lでの洗浄を3回繰り返した後、トルエンを63L加えた。70℃に昇温後、TiCl4 13.0kgを投入し、105℃で2時間攪拌した。次いで、固液分離し、得られた固体について95℃にてトルエン90Lでの洗浄を6回繰り返した後、更に室温にてヘキサン90Lでの洗浄を2回繰り返し、洗浄後の固体を乾燥して、固体触媒成分15.2kgを得た。
該固体触媒成分には、Tiが0.93重量%、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)が26.8重量%含有されていた。BET法による比表面積は8.5m2/gであった。
【0092】
(3)エチレン−1−ブテンスラリー重合
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥した後これを真空にし、ブタン500gおよび1−ブテン250gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で1.0MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム5.7ミリモル、前記(2)で得られた固体触媒成分10.7mgをアルゴンによって圧入して重合を開始した。その後エチレンを連続して供給しつつ全圧を一定に保ちながら70℃で180分重合を行った。
重合反応終了後、未反応モノマーをパージし、パウダー性状の良好な重合体204gを得た。オートクレーブの内壁および撹拌機には、重合体はほとんど付着していなかった。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は19100g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.38g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。
【0093】
[実施例2]
(1)エチレン−1−ブテンスラリー重合
実施例1(2)で得られた固体触媒成分19.3mgを用い、重合温度を60℃とした以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、パウダー性状の良好な重合体121gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は6270g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.39g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。
【0094】
[実施例3]
(1)エチレン−1−ブテンスラリー重合
実施例1(2)で得られた固体触媒成分27.5mgを用い、固体触媒成分投入前に1,3−ジオキソラン0.57ミリモルを投入した以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、パウダー性状の良好な重合体275gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は10000g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.42g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。
【0095】
[比較例1]
(1)エチレン−1−ブテンスラリー重合
ブタン500gおよび1−ブテン250gの代わりにブタン600gおよび1−ブテン150gを仕込み、70℃に昇温後、0.2MPaの分圧で水素を添加し、実施例1(2)で得られた固体触媒成分15.2mgを投入した以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、重合体160gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は10500g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.37g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。極限粘度[η]の高いものと比較してヘイズ、引張衝撃強度に劣った。
【0096】
[比較例2]
(1)固体触媒成分の合成
その合成スケールを1/960とし、最終成分を減圧乾燥した以外は特公平5−86803号公報実施例1の触媒合成法に従い、固体触媒成分を得た。
固体触媒成分中には、チタン原子が1.88重量%、フタル酸エステルが14.4重量%含まれていた。BET法による比表面積は330m2/gであった。
(2)エチレン−1−ブテンスラリー重合
前記(1)で得られた固体触媒成分4.1mgを用い、固体触媒成分投入前にジフェニルジメトキシシラン0.57ミリモルを投入し、重合時間を90分とした以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、重合体184gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は45000g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.43g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。BET比表面積の低い固体触媒成分を用いた場合と比較してヘイズ、引張破壊強さに劣った。
【0097】
[比較例3]
(1)固体生成物(a)の合成
撹拌機、邪魔板を備えた500mlのセパラブルフラスコを窒素で置換した後、ヘキサン270ml、テトラブトキシチタン8.10ml、およびテトラエトキシシラン79.9mlを投入し、均一溶液とした。次に、n−ブチルマグネシウムクロライドのジブチルエーテル溶液(濃度2.1ミリモル/ml)181.3mlを、フラスコ内の温度を20℃に保ちながら、約2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、20℃で更に1時間撹拌した。得られたスラリーを固液分離し、トルエン220mlで3回洗浄を繰り返した後、トルエン220mlを加えた。
この固体生成物スラリーの一部をサンプリングし、組成分析を行ったところ固体生成物中にはチタン原子が2.2重量%、エトキシ基が37.8重量%、ブトキシ基が4.1重量%含有されていた。
【0098】
(2)固体触媒成分の合成
撹拌機、滴下ロート、温度計を備えた100mlのフラスコを窒素で置換したのち、上記(1)で得られた固体生成物スラリーを49.8ml投入し、上澄み液23.3mlを抜き取り、スラリーの体積を26.5mlとした。スラリーを約40℃に保ち、そこへ四塩化チタン16.0ml、ジブチルエーテル0.8mlの混合物を投入し、更にフタル酸クロライド1.6mlとトルエン1.6mlの混合物を5分間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を115℃で3時間攪拌した。その後、同温度で固液分離し、115℃でトルエン40mlで3回洗浄を行った。
洗浄後、スラリーの体積が26.5mlとなるようにトルエンを加え、105℃とした。そこへジブチルエーテル0.8ml、フタル酸ジイソブチル0.45mlと、四塩化チタン16mlの混合物を投入し、105℃で1時間攪拌した。その後、同温度で固液分離し、105℃でトルエン40mlで2回洗浄を行った。
次に、スラリーの体積が26.5mlとなるようにトルエンを加え、105℃とした。そこへジブチルエーテル0.8ml、四塩化チタン16mlの混合物を投入し、105℃で1時間攪拌した。その後、同温度で固液分離し、105℃でトルエン40mlで2回洗浄を行った。
更に、スラリーの体積が26.5mlとなるようにトルエンを加え、105℃とした。そこへジブチルエーテル0.8ml、四塩化チタン16mlの混合物を投入し、105℃で1時間攪拌した。その後、同温度で固液分離し、105℃でトルエン40mlで3回、室温でヘキサン40mlで3回洗浄を行った。これを減圧乾燥して固体触媒成分7.05gを得た。
固体触媒成分中には、チタン原子が2.25重量%、フタル酸エステルが10.2重量%、エトキシ基が0.06重量%、ブトキシ基が0.14重量%含まれていた。BET法による比表面積は414m2/gであった。
【0099】
(3)エチレン−1−ブテンスラリー重合
前記(2)で得られた固体触媒成分4.3mgを用い、重合時間を60分とした以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、重合体208gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は48700g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.42g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。BET比表面積の低い固体触媒成分を用いた場合と比較してヘイズ、引張衝撃強度、引張破壊強さに劣った。
【0100】
[比較例4]
(1)エチレン−1−ブテンスラリー重合
オートクレーブを真空にし、水素を分圧で0.01MPa、ブタン500gおよび1−ブテン250gを仕込み、比較例3(2)で得られた固体触媒成分5.2mgを用い、重合時間を150分とした以外は実施例1(3)と同様に重合を実施し、重合体281gを得た。
触媒単位量あたりの重合体の生成量(重合活性)は54500g重合体/g固体触媒成分であり、重合パウダーの嵩密度は0.41g/mlであった。得られた重合体の諸物性値を表1に示した。BET比表面積の低い固体触媒成分を用いた場合と比較してヘイズ、引張破壊強さに劣った。
【0101】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)および成分(B)を接触させることにより得られる重合用触媒の存在下に、エチレンおよびα−オレフィンを共重合させて得られる超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法であって、該共重合体が下記の要件(ア)および要件(イ)を満たす超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
(A)チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子およびエステル化合物を含有し、BET法による比表面積が80m2/g以下である固体触媒成分
(B)有機アルミニウム化合物
(ア)極限粘度[η]が5〜30dl/g
(イ)示差走査熱量測定による融点が110〜130℃
【請求項2】
該共重合体中の冷キシレン可溶部(CXS)の含有量が4重量%(ただし、該共重合体全体を100重量%とする。)以下である請求項1に記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項3】
乾燥された該固体触媒成分(A)の全体を100重量%とするとき、エステル化合物の含有量が15〜50重量%である固体触媒成分(A)を用いる請求項1または2に記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記エステル化合物が、フタル酸ジアルキルである請求項1〜3のいずれかに記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記フタル酸ジアルキルが、それぞれのエステル結合に結合した二つのアルキル基の炭素原子数の合計が9以上のフタル酸ジアルキルである請求項4に記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項6】
乾燥された該固体触媒成分(A)の全体を100重量%とするとき、チタン原子の含有量が0.6〜1.6重量%である固体触媒成分(A)を用いる請求項1〜5のいずれかに記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項7】
該固体触媒成分(A)が、Si−O結合を有する有機ケイ素化合物(i)の存在下に、下記一般式[I]で表されるチタン化合物(ii)を、有機マグネシウム化合物(iii)で還元して得られる固体成分(a)、ハロゲン化化合物(b)およびフタル酸誘導体(c)の接触生成物である請求項1〜6のいずれかに記載の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法。

(上記一般式[I]において、aは1〜20の数を表し、R2は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。X2はそれぞれ、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20の炭化水素オキシ基を表し、全てのX2は同じであっても異なっていてもよい。)

【公開番号】特開2006−274160(P2006−274160A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98190(P2005−98190)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】