説明

距離測定装置

【課題】対象物からの信号と、対象物以外から反射された信号を識別して距離測定できる距離測定装置。
【解決手段】図1aは第1送受信機10、図1bは第2送受信機20の構成を示す。第1送受信機10は、平衡変調器106により生成した周波数の異なる2つの信号を送信する。第2送受信機20は、その2つの信号から非線形デバイス122により3次相互変調波を生成し、送信する。第1送受信機10はその3次相互変調波を受信し、位相差を検出する。この位相差により、第1送受信機10から第2送受信機20までの距離を測定できる。第1送受信機10が送信する信号の周波数と受信する信号(3次相互変調波)の周波数が異なるため、第2送受信機20以外からの反射波と区別でき、混信を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの送受信機からなる距離測定装置、及びそれを構成する送受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送受信機から電波を送信して対象物からの反射波を受信し、反射波と送信波との比較により送受信機から対象物までの距離を測定する技術として、位相差を比較する方法、FM−CW方式によるものなどが知られている。
【0003】
特許文献1には、送受信機と対象物との間にPLLを形成し、ロックされた位相での周波数から距離を測定する技術が示されている。
【0004】
一方、ICタグの識別にダイオードにより生成した相互変調波を用いる技術が、特許文献2に示されている。ICタグには電源を内蔵するアクティブ型と電源を内蔵しないパッシブ型があるが、従来、パッシブ型のICタグからの反射波と、そのICタグ以外からの反射波が識別できないため、周囲からの反射が少ない環境でパッシブ型のICタグを使用する必要があった。
【0005】
そこで、特許文献2ではこの問題を次のようにして解決している。リーダは、2つの信号生成器を用いて周波数の異なる2つの信号を生成し、ICタグに送信する。その2つの信号を受信したICタグは、ダイオードにより相互変調波を生成して放射する。リーダは、ICタグからの反射波として送信波(周波数の異なる2つの信号)とは異なる周波数である相互変調波を受信するため、ICタグ以外からの反射と区別できる。
【特許文献1】特開2004−198306
【特許文献2】特表2005−530369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、送信波と受信波の周波数が同じであるため、対象物以外からの反射波と識別がつかず、送信波が直接受信される可能性もあり、問題である。また、対象物が電波を反射しづらい物であった場合や、送受信機と対象物の間に障害物がある場合などには、距離の測定が困難である。
【0007】
また、特許文献2はICタグの識別などを目的とするものであり、リーダとICタグとの距離の測定を目的とするものではない。
【0008】
そこで本発明の目的は、対象物からの信号と、対象物以外からの信号を識別して距離測定できる方法、および距離測定装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、第1送受信機と第2送受信機とで構成され、第1送受信機と第2送受信機との距離を測定する距離測定装置において、第1送受信機は、低域の送信データ信号を生成するデータ信号発生装置と、送信データ信号から高周波信号を生成し、その高周波信号を送信する第1送信装置と、第2送受信機からの返信信号を受信し、低域の受信データ信号に変換する第1受信装置と、第1受信装置により得られた受信データ信号と送信データ信号とに基づいて、第1送受信機と第2送受信機との第1距離を求める距離演算装置と、を有し、第2送受信機は、第1送信装置から送信された高周波信号を受信する第2受信装置と、第2受信装置の出力する高周波信号を、入出力に関する非線形特性により、異なる周波数に変換して返信信号を送出する第1非線形デバイスと、を有することを特徴とする距離測定装置である。
【0010】
ここで、「低域」とは、高周波信号に対して低域であることをいい、送信データ信号の周波数と受信データの周波数は異なっていてもよい。また、送信データ信号から高周波信号を生成することは、送信データ信号の逓倍周波数の高周波信号を得る周波数変換や、送信データ信号により搬送波を変調して高周波信号を得ることを意味する。
【0011】
高周波信号は、1つの信号であってもよいが、互いに周波数の異なる2以上の信号であってもよい。1つの信号である場合は、返信信号は高調波を意味し、互いに周波数の異なる2以上の信号である場合は、返信信号は高調波だけでなく相互変調波も含む。
【0012】
2つの信号を用いる場合には、その2つの信号の周波数差は小さいことが望ましい。2つの信号と相互変調波を同一帯域内とすることができ、無線規格を満足させやすくなる。また、第1、2送受信機の送信装置または受信装置として、同一のアンテナを使用可能となる。また、サーキュレータを用いて送信装置と受信装置を共有させることもできる。
【0013】
距離演算装置は、位相差を検出する装置、または、周波数差を検出する装置である。位相差を検出する場合には、データ信号として矩形波を用いるとよい。また、データ信号がFM−CW信号であれば、周波数差を検出することで距離を測定できる。
【0014】
非線形デバイスは、たとえば、ダイオードやトランジスタを用いることができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、第1送受信機は、高周波信号を入力して、返信信号と等価な等価返信信号を出力する、第2送受信機が有する第1非線形デバイスと同一特性の第2非線形デバイスを有し、第1受信装置に、等価返信信号を入力して、低域の等価受信データ信号を出力させ、距離演算装置は、送信データ信号と等価受信データ信号に基づいて得られる補正値を求め、第1距離から補正値を減算した値を、第1送受信機と第2送受信機との正規の距離とすることを特徴とする距離測定装置である。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、第1送信装置は、高周波信号を生成するための電圧制御発振器を有し、距離演算装置は、第1送受信機と第2送受信機との間でPLLを形成して電圧制御発振器を安定発振させた時の送信データ信号の位相と受信データ信号の位相に基づいて、第1距離を演算する装置であることを特徴とする距離測定装置である。
【0017】
第1送受信機と第2送受信機との間でPLLを形成するとは、送信データ信号またはその分周信号や逓倍信号が、あるいは、受信データ信号またはその分周信号や逓倍信号が、ある基準信号と位相同期していることを意味する。
【0018】
第4の発明は、第2の発明において、第1送信装置は、高周波信号を生成するための電圧制御発振器を有し、距離演算装置は、第1送受信機と第2非線形デバイスとの間でPLLを形成して電圧制御発振器を安定発振させた時の送信データ信号の位相と、受信データ信号との位相に基づき補正値を演算し、第1送受信機と前記第2送受信機との間でPLLを形成して電圧制御発振器を安定発振させた時の送信データ信号の位相と、受信データ信号の位相に基づいて、第1距離を演算する手段であることを特徴とする距離測定装置である。
【0019】
第1送受信機と第2非線形デバイスとの間でPLLを形成するとは、送信データ信号、またはその分周信号や逓倍信号と、等価受信データ信号、またはそのその分周信号や逓倍信号とが、位相同期していることを意味する。
【0020】
第5の発明は、第1の発明または第3の発明において、第1送信装置は、送信データ信号により搬送波を変調して高周波信号を生成する変調装置を有し、第1受信装置は、返信信号を復調して受信データ信号を得る復調装置を有することを特徴とする距離測定装置である。
【0021】
第6の発明は、第2の発明または第4の発明において、第1送信装置は、送信データ信号により搬送波を変調して高周波信号を生成する変調装置を有し、第1受信装置は、返信信号及び等価返信信号を復調して、受信データ信号及び等価受信データ信号を、それぞれ、得る復調装置を有することを特徴とする距離測定装置である。
【0022】
変調方式は、ASK変調、FSK変調、PSK変調、周波数変調が望ましい。
【0023】
第7の発明は、第1の発明において、データ信号発生装置は、周波数が三角波で変化する送信データ信号を生成する装置であり、第1送信装置は、送信データ信号により、搬送波を周波数変調して得られるFM−CW信号を高周波信号とする変調装置を有し、第1受信装置は、返信信号を周波数復調して受信データ信号を得る復調装置を有し、距離演算装置は、送信データ信号と、受信データ信号との周波数差により、第1距離を演算する装置であることを特徴とする距離測定装置である。
【0024】
第8の発明は、第2の発明において、データ信号発生装置は、周波数が三角波で変化する送信データ信号を生成する装置であり、第1送信装置は、送信データ信号により、搬送波を周波数変調して得られるFM−CW信号を高周波信号とする変調装置を有し、第1受信装置は、返信信号及び等価返信信号を周波数復調して受信データ信号及び等価受信データ信号を得る復調装置を有し、距離演算装置は、送信データ信号と、受信データ信号との周波数差により、第1距離を演算し、前記送信データ信号と、前記等価受信データ信号との周波数差により前記補正値を演算する手段であることを特徴とする距離測定装置である。
【0025】
第9の発明は、第1の発明から第8の発明において、変調装置は、送信データ信号により搬送波を平衡変調して得られる周波数の異なる2つの高周波信号を出力する平衡変調器であり、返信信号は、その2つの高周波信号の相互変調波であることを特徴とする距離測定装置である。
【0026】
平衡変調器を用いることで、位相が同期していて周波数の異なる2つの信号を容易に生成でき、その2つの信号を用いて非線型デバイスにより相互変調波を生成できる。
【0027】
第10の発明は、第1の発明から第8の発明において、返信信号は、2次高調波であることを特徴とする距離測定装置である。
【0028】
高調波を用いる場合は、2次高調波であるほうが高周波信号との周波数差が小さく望ましい。
【0029】
第11の発明は、第9の発明において、返信信号は、3次相互変調波であることを特徴とする距離測定装置である。
【0030】
相互変調波を用いる場合は、3次相互変調波であるほうが高周波信号との周波数差が小さく望ましい。
【0031】
第12の発明は、第1の発明から第11の発明において、第2送受信機は、自己のID情報に基づき、送信と非送信を切り替えることで受信した高周波信号をASK変調して前記返信信号として送信する送信切替装置を有し、第1送受信機は、ASK変調された返信信号を復調して第2送受信機のID情報を得ることで、第2送受信機を識別する識別装置を有することを特徴とする距離測定装置である。
【0032】
第13の発明は、第1の発明から第12の発明において、第1送受信機はICタグリーダであり、第2送受信機はICタグであることを特徴とする距離測定装置である。
【0033】
第14の発明は、第1の発明から第13の発明において距離測定装置に使用される第1送受信機である。
【0034】
第15の発明は、第1の発明から第13の発明において距離測定装置に使用される第2送受信機である。
【発明の効果】
【0035】
第1の発明によると、第2送受信機が第1非線形デバイスを有するために、第1送受信機が送信する高周波信号の周波数と、受信する返信信号の周波数が異なる。そのため、第2送受信機以外からの反射波(高周波信号と同じ周波数)と第2送受信機からの返信信号は区別することができ、混信を防止できるので、距離測定の精度を向上できる。また、第1、第2送受信機の2つを用いて距離を測定するので、対象物が電波を反射しづらい場合に距離測定が困難となる問題は生じない。また、非線形デバイスを用いて周波数を変換しているので、第2送受信機の構成がきわめて簡単となる。
【0036】
また、第2の発明によると、第1送受信機及び第2送受信機の内部回路による遅延誤差の補正された距離を求めることができ、精度をより向上できる。また、第3の発明のように、PLLを形成することで信号の周波数制御が容易となり、位相差の検出精度が向上する。また、第4の発明のように、第2の発明と第3の発明を組み合わせて、第1送受信機及び第2送受信機の内部回路による遅延誤差の補正をし、かつ、位相差の検出精度を向上させることができる。
【0037】
第5、6の発明のように、送信データ信号により搬送波を変調してから送信すると、第1送受信機と第2送受信機間の通信環境が悪くても、距離の測定が容易となる。また、これを第2送受信機の識別に利用することもできる。つまり、ID情報を送信データ信号として、これにより、たとえばASK変調して送信し、第2送信機はID情報を復調する。そして、自己のID情報と照合し、一致する場合は、第1非線形デバイスにより生成した返信信号を送信し、一致しない場合は、送信しない。第1送受信機は、その返信信号の受信の有無により第2送受信機の識別ができる。この識別と距離測定の双方を用いると、複数の第2送受信機のうち、特定の第2送受信機に対してのみ、距離を測定できる。
【0038】
また、第7、8の発明のように、本発明はFM−CW方式による距離測定にも適用できる。本発明により、DCノイズと区別できることから、従来のFM−CW方式による距離測定よりも近距離を測定できる。
【0039】
高調波を用いる場合は、第10の発明のように2次高調波を用いるのが望ましい。また、第9の発明のように、相互変調波を用いるとより望ましく、第11の発明のように、3次相互変調波であるとさらに望ましい。高周波信号と送信信号の周波数差が小さくなるため、同一帯域内とすることができ、無線規格を満たすようにすることが容易となるからである。また、送信装置、受信装置として用いるアンテナに同一のものを使用できる。
【0040】
また、第12の発明によると、距離の測定と第2送受信機の識別を同時に行うことができる。
【0041】
また、第13の発明のように、本発明は、第1送受信機をICタグリーダ、第2送受信機をICタグとして、ICタグシステムに適用できる。特に、ICタグがパッシブ型であっても、ICタグリーダからICタグまでの距離を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照にしながら説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
図1は、実施例1の距離測定装置の構成を示すブロック図である。図1aは、第1送受信機10の構成を示しており、図1bは、第2送受信機20の構成を示している。
【0044】
図1aに示された第1送受信機10は、水晶発振器101、位相比較器102、118、ループフィルタ103、119、VCO(電圧制御発振器)104、1/A分周器105、平衡変調器106、増幅器107、114、フィルタ108、112、スイッチ109、113、送信アンテナ110、非線形デバイス111、受信アンテナ115、1/B分周器116、1/C分周器117、信号処理装置1で構成されている。ここで、非線形デバイス111は、少なくとも3次歪を有するものとする。
【0045】
水晶発振器101、位相比較器102、ループフィルタ103、VCO104、1/A分周器105が、本発明のデータ信号発生装置に相当する。VCO104、平衡変調器106、増幅器107、フィルタ108、送信アンテナ110が、本発明の第1送信装置に相当する。受信アンテナ115、1/C分周器117が、本発明の第1受信装置に相当する。1/B分周器116、位相比較器118、ループフィルタ119、信号処理装置1が、本発明の距離演算装置に相当する。非線形デバイス111、フィルタ112は、本発明の第2非線形デバイスに相当する。
【0046】
スイッチ109には、フィルタ108からの出力が入力され、送信アンテナ110、非線形デバイス111のいずれかに出力を切り替えることができる。また、スイッチ113は、受信アンテナ115、フィルタ112のいずれかに入力を切り替えることができ、1/C分周器117へ出力される。スイッチ109とスイッチ113は連動していて、スイッチ109の出力を送信アンテナ110とする場合は、スイッチ113の入力は受信アンテナ115、スイッチ109の出力を非線形デバイス111とする場合は、スイッチ113の入力はフィルタ112となる。
【0047】
スイッチ109が非線形デバイス111への出力、スイッチ113がフィルタ112方の入力となっている場合、位相比較器102、ループフィルタ103、VCO104、1/C分周器117により、非線形デバイス111を介してPLLが形成される。
【0048】
図1bに示された第2送受信機20は、受信アンテナ120、増幅器121、非線形デバイス122、フィルタ123、送信アンテナ124で構成されている。非線形デバイス122は、非線形デバイス111と同一特性のものを使用している。受信アンテナ120が、本発明の第2受信装置に相当し、非線形デバイス122、フィルタ123、送信アンテナ124が、本発明の第1非線形デバイスに相当する。
【0049】
水晶発振器101は、周波数fの信号を生成し、その信号をもとにVCO104は周波数f0 の信号(本発明の送信データ信号に相当)を生成する。PLLが形成されるため、f0 は、f0 =AC/(A−3)・fである。その信号は1/A分周器105により周波数Δf(Δf=f0 /A)の信号となり、もとの周波数f0 の信号を周波数Δfの信号により平衡変調器106で変調し、周波数f1 (f1 =f0 −Δf)、f2 (f2 =f0 +Δf)の2つの信号(本発明の高周波信号に相当)が生成される。スイッチ109が非線形デバイス111への出力となっている場合、周波数f1 、f2 の2つの信号は少なくとも三次歪を有する非線形デバイス111に入力され、周波数2f1 −f2 、2f2 −f1 、2f1 +f2 、2f2 +f1 の3次相互変調波などが出力される。フィルタ112とPLLによる周波数選択機能により、周波数2f1 −f2 の信号(本発明の等価返信信号に相当)のみ通過させ、1/C分周器117で周波数(2f1 −f2 )/C=(f0 −3Δf)/Cの信号(本発明の等価受信データ信号に相当)となり、位相比較器102へ入力される。したがって、この信号と水晶発振器101の生成する信号が位相同期するように、VCO104が生成する信号の周波数と位相が制御される。
【0050】
Δfは小さい方が望ましい。f1 とf2 の差が小さくなり、f1 、f2 とその3次相互変調波が同じ帯域内となり、送信アンテナ110、124、受信アンテナ115、120に同一のものを利用できる。その場合、サーキュレータを用いて送信アンテナ110と受信アンテナ115、受信アンテナ120と送信アンテナ124を共用することもできる。フィルタ112とPLLによる周波数選択機能により、周波数2f1 −f2 の信号のみ通過させているが、周波数2f2 −f1 の信号のみを通過させるようにしてもよい。5次以上の相互変調波を用いてもよいが、f1 、f2 と同じ帯域内に入るようにするのが難しくなるため望ましくない。
【0051】
このVCO104が出力する信号を1/B分周器116により周波数fとした信号と、水晶発振器101の出力する信号との位相差(φとする)を位相比較器118により検出し、ループフィルタ119を通して信号処理装置1には、位相差φが検出される。この位相差φが、第1送受信機10及び第2送受信機20の内部回路での信号の遅延に基づく誤差を反映し、距離の補正値となる。
【0052】
以上の各周波数、分周数を具体的な数値で示すと、f=10MHz、A=10、C=14の場合、f0 =200MHz、Δf=20MHz、f1 =180MHz、f2 =220MHz、2f1 −f2 =140MHz、B=20である。
【0053】
一方、スイッチ109が送信アンテナ110への出力となっている場合は、第1送受信機10と第2送受信機20との間で通信を行い、第2送受信機20を介してPLLが形成される。送信アンテナ110から送信された周波数f1 、f2 の2つの信号は、第2送受信機20の受信アンテナ120により受信され、非線形デバイス122へ入力される。非線形デバイス122により生成される相互変調波のうち、周波数2f1 −f2 の信号(本発明の返信信号に相当)のみ、フィルタ123とPLLによる周波数選択機能により通過させ、送信アンテナ124により送信する。この送信された周波数2f1 −f2 の信号は、第1送受信機10の受信アンテナ115により受信され、1/C分周器117で周波数(2f1 −f2 )/Cの信号(本発明の受信データ信号)となったのち、位相比較器102へ入力される。この場合も、第2送受信機20を介したPLLにより、1/C分周器117からの信号と水晶発振器101の生成する信号が位相同期するように、VCO104が生成する信号の周波数と位相が制御され、VCO104の出力する信号の周波数f0 は、f0 =AC/(A−3)・fとなる。
【0054】
また、同じように、このVCO104が出力する信号を1/B分周器116により周波数fとした信号と、水晶発振器101の出力する信号との位相差が信号処理装置1により検出される。
【0055】
このとき、信号処理装置1により検出される位相差をψとすると、位相差ψは、第1送受信機10と第2送受信機20との距離に対応した位相の遅れと、第1送受信機10および第2送受信機20の内部回路による位相の遅れを反映している。位相差φは、第1送受信機10と第2送受信機20との距離がゼロのときの位相の遅れ、つまり、第1送受信機10および第2送受信機20の内部回路での信号の遅延に基づく誤差を反映しているので、ψ−φとすることで、第1送受信機10および第2送受信機20の内部回路の位相の遅れによる誤差を補正でき、第1送受信機10と第2送受信機20との距離を精度よく求めることができる。
【0056】
この実施例1の距離測定において、第1送受信機10が送信する信号の周波数はf1 、f2 で、受信する信号の周波数は2f1 −f2 であり、周波数が異なるため、障害物等からの反射波と区別することができ、混信することはない。
【実施例2】
【0057】
図2は、実施例2の距離測定装置のうち、第1送受信機30の構成を示すブロック図である。実施例1の第1送受信機10の構成から1/A分周器105と平衡変調器106を省き、1/B分周器116に替えて1/E分周器200、1/C分周器117に替えて1/D分周器201とした構成である。また、第2送受信機は実施例1と同じ構成である。水晶発振器101、位相比較器102、ループフィルタ103、VCO104が、本発明のデータ信号発生装置に相当する。VCO104、増幅器107、フィルタ108、送信アンテナ110が、本発明の第1送信装置に相当する。受信アンテナ115、1/D分周器201が、本発明の第1受信装置に相当する。1/E分周器200、位相比較器118、ループフィルタ119、信号処理装置1が、本発明の距離演算装置に相当する。
【0058】
実施例1では周波数2f1 −f2 の3次相互変調波を利用したが、実施例2では2次高調波を利用する。非線形デバイス111、122には1つの信号が入力されるため、高調波が出力されるが、2次高調波のみをフィルタ112、123で通過させる。3次以上の高調波では、第1送受信機30が送信する信号の周波数との周波数差が大きく望ましくない。
【0059】
PLLを形成して位相差を検出し、その位相差から距離を求める点は実施例1と同様である。つまり、1/D分周器201からの信号と水晶発振器101の生成する信号が位相同期するように、VCO104が生成する信号の周波数と位相が制御される。このPLLが形成された状態でのVCO104が生成する信号を、1/E分周器200により水晶発振器101の生成する信号の周波数fと同じ周波数にし、水晶発振器101の出力する信号との位相差を信号処理装置1により検出する。この検出された位相差により、距離が求められる。また、第1送受信機30において送信される信号(周波数f0 )と、受信される2次高調波(周波数2f0 )との周波数の違いから混信しない点も実施例1と同様である。
【0060】
以上の各周波数、分周数を具体的な数値で示すと、f=10MHz、D=30の場合、f0 =150MHz、2次高調波の周波数は300MHz、E=15である。
【実施例3】
【0061】
図3は、実施例3の距離測定装置のうち、第1送受信機40の構成を示すブロック図である。第2送受信機の構成は実施例1と同じである。
【0062】
第1送受信機10と第1送受信機40の違いは、まず、1/A分周器105、1/B分周器116に替えて、1/M分周器300、1/N分周器301が設けられ、新たに矩形波を得る波形整形器302、復調器303、搬送波再生器306が設けられていることである。したがって、平衡変調器106は、VCO104からの信号を、波形整形器302からの矩形波によってASK変調した信号を生成する。また、他の違いは、スイッチ109、113、非線形デバイス111、フィルタ112、送信アンテナ110、受信アンテナ115を省き、サーキュレータ304と、送信と受信を共用する送受信アンテナ305を設けていることである。1/M分周器300からの出力信号の周波数Δfは、fと等しくなるよう分周数Mが決定されていて、この1/M分周器300からの出力信号と、水晶発振器101の出力信号との位相差から距離を測定する。
【0063】
水晶発振器101、位相比較器102、ループフィルタ103、VCO104、1/M分周器300、波形整形器302が、本発明のデータ信号発生装置に相当する。VCO104、平衡変調器106、増幅器107、フィルタ108、送受信アンテナ305が、本発明の第1送信装置に相当する。送受信アンテナ305、復調器303、搬送波再生器306、1/N分周器301が、本発明の第1受信装置に相当する。位相比較器118、ループフィルタ119、信号処理装置1が、本発明の距離演算装置に相当する。
【0064】
第1送受信機40と第2送受信機との間でPLLすることは実施例1と同じである。つまり、1/N分周器301からの信号と、水晶発振器101の生成する信号が位相同期するように、VCO104が生成する信号の周波数と位相が制御される。このPLLが形成された状態でのVCO104が生成する信号を、1/M分周器300により水晶発振器101の生成する信号の周波数fと同じ周波数にし、水晶発振器101の出力する信号との位相差を信号処理装置1により検出する。この検出された位相差により、距離が求められる。また、第1送受信機が周波数f1 、f2 の2つの信号を送信し、周波数2f1 −f2 の信号を受信することも実施例1と同様である。実施例3では、ASK変調された信号が送受信アンテナ305により送受信されるため、第1送受信機40と第2送受信機間の通信環境が悪くても距離の測定が可能である。
【0065】
以上の実施例1〜3においては、受信データ信号を、水晶発振器101の出力する基準信号と位相同期するようにPLLを構成し、基準信号と送信データ信号との位相差を検出して距離を求めている。この構成では、フィルタ112では取り除くことができない返信信号の周波数に近い信号を、PLLによる周波数選択機能で返信信号のみを取り出すことができる。これを逆に、送信データ信号を、水晶発振器101の出力する基準信号と位相同期するようにPLLを構成し、基準信号と受信データ信号との位相差を検出して距離を求めるようにしてもよい。ただし、この場合は、返信信号の周波数に近い信号は取り除くことができない。
【実施例4】
【0066】
図4は、実施例4の距離測定装置のうち、第1送受信機50の構成を示すブロック図である。第2送受信機の構成は実施例1と同じである。
【0067】
第1送受信機50は、発振器400、周波数変調器401、平衡変調器402、408、411、増幅器403、407、サーキュレータ404、フィルタ405、409、送受信アンテナ406、1/3分周器410、1/F分周器412、信号処理装置1で構成されている。発振器400、1/F分周器412、周波数変調器401が、本発明のデータ信号発生装置に相当し、平衡変調器402、増幅器403、フィルタ405、送受信アンテナ406が、本発明の第1送信装置に相当する。また、フィルタ405、送受信アンテナ406、平衡変調器408、フィルタ405、409、1/3分周器410が、本発明の第1受信装置に相当する。また、平衡変調器411、信号処理装置1が、本発明の距離演算装置に相当する。
【0068】
周波数変調器401は、時間軸上の三角波を入力し、その三角波で1/F分周器412からの信号を周波数変調し、その三角波で周波数が変化する送信データ信号を生成する。周波数の変動幅がΔf、中心周波数は、発振器400からの搬送波の周波数f0 の1/Fである。以下、周波数Δf(t)とする。発振器400からの搬送波をこの送信データ信号により平衡変調器402で変調して基準周波数の異なる2つの信号(周波数f0 +Δf(t)とf0 −Δf(t)の信号)を生成し、送受信アンテナ406により第2送受信機20へ送信される。第2送受信機20は、非線形デバイスにより3次相互変調波を生成し、送信する。送受信アンテナ406が受信した、第1送受信機20からの3次相互変調波(周波数f0 +3Δf(t))を、発振器400からの信号により平衡変調器408で復調して周波数3Δf(t)の送信データ信号が復調される。この信号を1/3分周器410で周波数をΔf(t)に戻し、変調器401からの送信データ信号とにより平衡変調器411でビート信号が生成される。このビート信号を信号処理装置1で処理することで、第1送受信機50と第2送受信機20との距離が測定される。
【0069】
実施例において、第1送受信機をICタグリーダ、第2送受信機をICタグとすることで、本発明をICタグの距離測定に用いることができる。
【0070】
実施例において、第2送受信機のフィルタ123と送信アンテナ124の間にスイッチを設けてもよい。第2送受信機のID情報に基づき、フィルタ123から出力される信号を、このスイッチによりASK変調し、第1送受信機においてID情報を復調することで、距離の測定とともに第2送受信機の識別をすることが可能となる。また、実施例3において、VCO104からの信号をID情報を含む波形整形器302からの信号によって変調し、第2送受信機でID情報を復調して第2送受信機と比較し、ID情報が一致する場合は、スイッチをオン、一致しない場合はオフにして送信と非送信を切り換えることで、第2送受信機の識別をすることも可能である。
【0071】
また、実施例1、2において、内部回路による位相の遅れを補正せずに無視する場合には、スイッチ109、113、非線形デバイス111、フィルタ112は不要で、フィルタ108と送信アンテナ110、受信アンテナ115と1/C分周器117または1/D分周器200を直接接続する構成とする。実施例3、4において、内部回路による位相の遅れを補正したい場合は、実施例1、2のように、第1送受信機に非線形デバイスを設け、スイッチにより切り替えるようにすればよい。また、実施例3において、ASK変調に替えて、FSK変調、PSK変調、周波数変調としてもよい。
【0072】
また、実施例1〜3では、第1送受信機と第2送受信機の間でPLLを形成するように構成されているが、必ずしもPLLを形成する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、ICタグを用いた距離測定に適用できる。特に、パッシブ型のICタグを用いても距離測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1の距離測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施例2の距離測定装置のうち第1送受信機の構成を示すブロック図。
【図3】実施例3の距離測定装置のうち第1送受信機の構成を示すブロック図。
【図4】実施例4の距離測定装置のうち第1送受信機の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0075】
1:距離演算装置
10、30、40、50:第1送受信機
20:第2送受信機
101:水晶発振器
102、118:位相比較器
103、119:ループフィルタ
104:VCO
105、116、117、200、201、300、301、410、412:分周器
106、402、408、411:平衡変調器
108、112、123、405、409:フィルタ
109、113:スイッチ
110、124:送信アンテナ
111、122:非線形デバイス
115、120:受信アンテナ
302:波形整形器
303:復調器
304、404:サーキュレータ
305、406:送受信アンテナ
306:搬送波再生器
401:周波数変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1送受信機と第2送受信機とで構成され、第1送受信機と第2送受信機との距離を測定する距離測定装置において、
前記第1送受信機は、
低域の送信データ信号を生成するデータ信号発生装置と、
前記送信データ信号から高周波信号を生成し、その高周波信号を送信する第1送信装置と、
前記第2送受信機からの返信信号を受信し、低域の受信データ信号に変換する第1受信装置と、
前記第1受信装置により得られた前記受信データ信号と前記送信データ信号とに基づいて、前記第1送受信機と前記第2送受信機との第1距離を求める距離演算装置と、
を有し、
前記第2送受信機は、
前記第1送信装置から送信された前記高周波信号を受信する第2受信装置と、
前記第2受信装置の出力する前記高周波信号を、入出力に関する非線形特性により、異なる周波数に変換して前記返信信号を送出する第1非線形デバイスと、
を有する
ことを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記第1送受信機は、前記高周波信号を入力して、前記返信信号と等価な等価返信信号を出力する、前記第2送受信機が有する前記第1非線形デバイスと同一特性の第2非線形デバイスを有し、前記第1受信装置に、前記等価返信信号を入力して、低域の等価受信データ信号を出力させ、
前記距離演算装置は、前記送信データ信号と前記等価受信データ信号に基づいて得られる補正値を求め、前記第1距離から該補正値を減算した値を、第1送受信機と第2送受信機との正規の距離とする
ことを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記第1送信装置は、前記高周波信号を生成するための電圧制御発振器を有し、
前記距離演算装置は、
前記第1送受信機と前記第2送受信機との間でPLLを形成して前記電圧制御発振器を安定発振させた時の前記送信データ信号の位相と前記受信データ信号の位相に基づいて、前記第1距離を演算する装置であること、
を特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記第1送信装置は、前記高周波信号を生成するための電圧制御発振器を有し、
前記距離演算装置は、
前記第1送受信機と前記第2非線形デバイスとの間でPLLを形成して前記電圧制御発振器を安定発振させた時の前記送信データ信号の位相と、前記等価受信データ信号との位相に基づき前記補正値を演算し、
前記第1送受信機と前記第2送受信機との間でPLLを形成して前記電圧制御発振器を安定発振させた時の前記送信データ信号の位相と、前記受信データ信号の位相に基づいて、前記第1距離を演算する手段である
ことを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記第1送信装置は、前記送信データ信号により搬送波を変調して前記高周波信号を生成する変調装置を有し、
前記第1受信装置は、前記返信信号を復調して前記受信データ信号を得る復調装置を有することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記第1送信装置は、前記送信データ信号により搬送波を変調して前記高周波信号を生成する変調装置を有し、
前記第1受信装置は、前記返信信号及び前記等価返信信号を復調して、前記受信データ信号及び前記等価受信データ信号を、それぞれ、得る復調装置を有することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項7】
前記データ信号発生装置は、周波数が三角波で変化する前記送信データ信号を生成する装置であり、
前記第1送信装置は、前記送信データ信号により、前記搬送波を周波数変調して得られるFM−CW信号を前記高周波信号とする変調装置を有し、
前記第1受信装置は、前記返信信号を周波数復調して前記受信データ信号を得る復調装置を有し、
前記距離演算装置は、前記送信データ信号と、前記受信データ信号との周波数差により、前記第1距離を演算する装置であることを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項8】
前記データ信号発生装置は、周波数が三角波で変化する前記送信データ信号を生成する装置であり、
前記第1送信装置は、前記送信データ信号により、前記搬送波を周波数変調して得られるFM−CW信号を前記高周波信号とする変調装置を有し、
前記第1受信装置は、前記返信信号及び前記等価返信信号を周波数復調して前記受信データ信号及び前記等価受信データ信号を得る復調装置を有し、
前記距離演算装置は、前記送信データ信号と、前記受信データ信号との周波数差により、前記第1距離を演算し、前記送信データ信号と、前記等価受信データ信号との周波数差により前記補正値を演算する手段である
ことを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項9】
前記変調装置は、前記送信データ信号により前記搬送波を平衡変調して得られる周波数の異なる2つの前記高周波信号を出力する平衡変調器であり、
前記返信信号は、その2つの高周波信号の相互変調波であること、
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項10】
前記返信信号は、2次高調波であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項11】
前記返信信号は、3次相互変調波であることを特徴とする請求項9に記載の距離測定装置。
【請求項12】
前記第2送受信機は、自己のID情報に基づき、送信と非送信を切り替えることで受信した前記高周波信号をASK変調して前記返信信号として送信する送信切替装置を有し、
前記第1送受信機は、ASK変調された前記返信信号を復調して前記第2送受信機の前記ID情報を得ることで、前記第2送受信機を識別する識別装置を有すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項13】
前記第1送受信機はICタグリーダであり、前記第2送受信機はICタグであることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項14】
前記請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の距離測定装置に使用される第1送受信機。
【請求項15】
前記請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の距離測定装置に使用される第2送受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−122255(P2008−122255A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307114(P2006−307114)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】