説明

距離測定装置

【課題】手ぶれに起因する測定値のばらつきを少なくすることができる距離測定装置を提供する。
【解決手段】同じ対象物に対して8回連続して角度センサ31で筐体の重力方向の傾き角度を測定した後、対象物までの直線距離を測距部50で測定する。8回連続して角度を測定したときの最大値と最小値との差Aを求め、差Aに応じて角度分解能を調整し、水平距離演算、高さ演算等を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の距離測定装置として特開2005−189140号公報に記載されたものが知られている。
【0003】
この距離測定装置では、パルス状のレーザ光を対象物に向けて繰り返し出射し、それぞれの出射に対応する反射光が所定の条件(強度閾値)を満足するとき、距離(又は経過時間)に応じて度数カウントが行われる。そして、繰り返される全てのレーザ光の出射についてカウントされた度数が積算され、距離に応じた度数分布表(ヒストグラム)が作成される。この度数分布表におけるカウント度数の合計数が最も大きくなる距離が対象物までの距離と判定される。
【特許文献1】特開2005−189140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の距離測定装置は持ち運びに便利なように小型・軽量であるため、手ぶれが生じ易く、対象物までの距離を精度良く測定できないことがある。例えば、対象物までの直線距離が400mの場合、手ぶれによって距離測定装置の角度が2度変動すると、対象物の高さの測定値は約14m変動する。
【0005】
手ぶれの影響を軽減する方法として測定回数を増やして平均化処理する方法が知られているが、ぶれ方向が偏っていると測定毎に測定値がばらつくことがあった(測定時間の増大)。
【0006】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は手ぶれに起因する測定値のばらつきを少なくすることができる距離測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、対象物までの水平距離及び前記対象物の高さを測定する距離測定装置において、対象物までの直線距離を演算する距離演算手段と、装置筐体の重力方向の傾き角度を演算する角度演算手段と、少なくとも2回以上の測定による前記角度演算手段の複数の演算結果に基づいて前記角度演算手段の角度分解能を調整する調整手段とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、対象物までの水平距離及び前記対象物の高さを測定する距離測定装置において、対象物までの直線距離を演算する距離演算手段と、装置筐体の重力方向の傾き角度を演算する角度演算手段と、少なくとも2回以上の測定による前記距離演算手段の複数の演算結果に基づいて前記角度演算手段の角度分解能を調整する調整手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の距離測定装置において、前記調整手段を動作させるか否かを決定する操作部を備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の距離測定装置において、前記角度演算手段で演算された傾き角度のばらつきが所定値より大きいとき、その傾き角度が所定値より大きいことを測定者に警告する警告手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、手ぶれに起因する測定値のばらつきを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1はこの発明の一実施形態に係る距離測定装置の斜視図である。
【0014】
距離測定装置1は筐体(装置筐体)2と発光側レンズ3aと受光側レンズ4aとファインダ2aと操作ボタン5,6とを備えている。筐体2内には後述する測角部30や測距部50等が収納されている。
【0015】
筐体2の上面には電源をオン・オフする電源ボタン5及び測定モードを切り替えるモード設定ボタン6等が設けられている。
【0016】
また、筐体2のファインダ2aは筐体2の背面に設けられている。
【0017】
測定者は片方の手(例えば右手)で距離測定装置1を保持し、ファインダ2aを介して対象物Tg(図2参照)を見て対象物Tgまでの距離測定作業を行う。
【0018】
図2は測定者より上方にある対象物について距離測定を行うときのことを説明するための図である。
【0019】
測定者はファインダ2aを覗きながら電源ボタン5を指で押して図示しないレチクル表示部を点灯させる。発光側レンズ3aを対象物Tgに向け、再度電源ボタン5を押して対象物Tgまでの直線距離と筐体2の角度(重力方向の傾き角度)とを測定する。計測された対象物Tgまでの直線距離と角度とから三角関数を用いて対象物Tgまでの水平距離と対象物Tgの高さとを演算する。演算結果はファインダ2aに表示される。なお、筐体2の側面に設けた液晶表示部(図示せず)に演算結果を表示するようにしてもよい。
【0020】
図3はこの発明の一実施形態に係る距離測定装置のブロック図である。
【0021】
距離測定装置1は測角部30と表示部40と測距部50と操作部7を備えている。
【0022】
測角部30は角度センサ31を有し、検出した角度に対応する信号を後述するMPU51へ送る。
【0023】
表示部40はファインダ2aを有し、MPU51からの信号に基づいてファインダ2aに距離表示を行う。
【0024】
測距部50は、MPU51と駆動回路52と半導体レーザ53と発光検出回路54と光検出器55と増幅器56と閾値設定回路57と2値化回路58とサンプリング回路59と発振器60とカウンタ回路61と積算値格納メモリ62と演算用テーブルメモリ63とを有する。
【0025】
半導体レーザ53は駆動回路52によって駆動され、パルス状のレーザ光を所定の回数だけ図示しない対象物Tgに向けて出射する。
【0026】
発光検出回路54はレーザ光の出射を検出し、検出結果をサンプリング回路59へ出力する。光検出器55は対象物Tgで反射された光を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する。
【0027】
増幅器56は光検出器55の出力を増幅する。
【0028】
閾値設定回路57はMPU51の出力に基づいてノイズ除去等のための閾値を設定する。
【0029】
2値化回路58は閾値設定回路57で設定された閾値に基づいて光検出器55の出力を2値化し、サンプリング回路59へ出力する。
【0030】
サンプリング回路59は発振器60で決められたサンプリング間隔でサンプリングを行う。反射光の強度が所定の閾値を超えるとき、距離(又は経過時間)に応じて度数カウントが行われ、繰り返し行われる全てのレーザ光の出射に対する度数が積算され、距離に応じたヒストグラムが作られ、積算値格納メモリ62に格納される。
【0031】
演算用テーブルメモリ63には、予め実験によって作成された、計測された角度のばらつきに対する角度分解能を決めた演算用テーブルが記憶されている。例えば、演算用テーブルには以下のように角度のばらつきに対する角度分解能が記憶されている。
角度のばらつき 角度分解能
2°以上 2°
1°以上2°未満 1°
0.5°以上1°未満 0.5°
0.5°未満 0.1°
【0032】
MPU51は対象物Tgまでの直線距離を演算する距離演算手段、筐体2の角度を演算する角度演算手段、角度演算手段の演算結果に基づいて角度演算手段の角度分解能を調整する調整手段として機能する。MPU51は演算用テーブルメモリ63を用いて角度分解能を調整する。なお、角度演算手段の演算結果に代えて距離演算手段の演算結果に基づいて角度分解能を調整するようにしてもよい。
【0033】
また、MPU51は角度センサ31で検出された角度が所定値より大きい場合、角度が所定値より大きいことを測定者に警告としてファインダ2aに表示させる。このとき、ファインダ2aが警告手段として機能する。なお、警告をファインダ2aに表示する代わりに図示しないスピーカを用いて音声その他の音響で警告してもよい。
【0034】
操作部7は調整手段を動作させるか否かを決定するボタン7aを有し、ボタン7aを操作して調整手段の動作をオン・オフする信号をMPU51へ送る。
【0035】
まず、距離測定装置1を手で持って使用した場合について説明する。なお、調整手段は動作状態にあるものとする。
【0036】
図4は距離測定装置の動作を説明するフローチャート、図5は距離測定装置を手で持って使用した場合の測定結果を示す表、図6は角度分解能を調整する前と後との測定結果を示す表である。なお、図4において、S1〜S5は処理の各ステップを示す。図5は距離測定装置から直線距離400mは離れた位置にある対象物も高さの測定値のばらつきを示す表である。また、図5の一回目、二回目、三回目及び四回目はそれぞれ図6のNo1、No2、No3及びNo4に対応する。
【0037】
まず、同じ対象物Tgに対して例えば8回連続して角度センサ31で筐体2の角度を測定(測角)する(S1)。この角度の測定は例えば4回行われる。一回目の測定で取得した例えば8つの角度はそれぞれ21.6°、22.5°・・・24.5°であった(図5参照)。
【0038】
次に、対象物Tgまでの直線距離を測距部50で測定(測距)する(S2)。
【0039】
その後、8回連続して角度を測定したときの最大値と最小値との差A(MAX−MIN=A)を求める(S3)。
【0040】
次に、角度のばらつきである差Aに応じて演算用テーブルメモリ63を用いて角度分解能を調整する(S4)。1回目の差Aが2.9°(MAX24.5、MIN=21.6)であるので角度分解能を2°とし、2回目の差Aが1.2°(MAX22.8、MIN=21.6)であるので角度分解能を1°とし、3回目の差Aが1.9°(MAX23.4、MIN=21.5)であるので角度分解能を1°とし、4回目の差Aが0.9°(MAX22.4、MIN=21.5)であるので角度分解能を0.5°とする。角度分解能を変えて角度を測定した結果、1〜4回目の何れにおいても角度は22°となった(図6参照)。
【0041】
次に、水平距離演算、高さ演算等を行う(S5)。
【0042】
前記直線距離と前記角度とを用いて対象物Tgの高さを演算したとき、1〜4回目の何れにおいても高さは149.8mとなり、演算結果にばらつきがないことがわかる(図6参照)。
【0043】
これに対し、角度のばらつきに応じて角度分解能を変えないで測定結果を平均した場合を比較例として説明する。
【0044】
一回目、二回目、三回目及び四回目の測定結果を平均した。一回目、二回目、三回目及び四回目の平均された角度はそれぞれ23.3875°、22.25°、22.45°及び21.875°であった(図6参照)。
【0045】
上記各角度をそれぞれ四捨五入して23.4°、22.3°、22.5°及び21.9°とし、測距後、対象物Tgの高さを演算すると、対象物Tgの高さはそれぞれ1回目は158.9m、2回目は151.8m、3回目は153.1m、4回目は149.2mとなった。このことから、対象物Tgの高さが、角度のばらつきに応じて角度分解能を調整した場合に比べてばらつくことがわかる。
【0046】
次に、距離測定装置1を固定して使用した場合について説明する。なお、距離測定装置1の動作は上述の距離測定装置1を手で持って使用した場合の動作と同じである。
【0047】
図7は距離測定装置を固定して使用した場合の測定結果を示す表、図8は分解能を調整する前と後との測定結果を示す表である。
【0048】
まず、同じ対象物Tgに対して8回連続して角度センサ31で筐体2の角度を測定(測角)する(S1)。この角度の測定は例えば4回行われる。一回目の測定では8つの角度はそれぞれ21.8°、21.6°・・・21.7°であった(図7参照)。
【0049】
次に、対象物Tgまでの直線距離を測距部50で測定(測距)する(S2)。
【0050】
その後、8回連続して角度を測定したときの最大値と最小値との差A(MAX−MIN=A)を求める(S3)。
【0051】
次に、最大値と最小値との差A(角度のばらつき)に応じて演算用テーブルメモリ63を用いて角度分解能を調整する(S4)。1回目の差Aが0.2°(MAX21.8、MIN=21.6)であるので角度分解能を0.1°とし、2回目の差Aが0.3°(MAX21.8、MIN=21.5)であるので角度分解能を0.1°とし、3回目の差Aが0.3°(MAX21.8、MIN=21.5)であるので角度分解能を0.1°とし、4回目の差Aが0.1°(MAX21.7、MIN=21.6)であるので角度分解能を0.1°とする。角度分解能を変えて角度を測定した結果、1回目、2回目、3回目及び4回目に測定された角度はそれぞれ21.7°、21.6°、21.6°及び21.7°であった(図8参照)。
【0052】
次に、水平距離演算、高さ演算等を行う(S5)。
【0053】
前記直線距離と前記角度とを用いて対象物Tgの高さを演算したとき、1回目、2回目、3回目及び4回目の高さはそれぞれ147.9m、147.2m、147.2m及び147.9mとなり、演算結果にばらつきが少ないことがわかる(図8参照)。
【0054】
これに対し、角度のばらつきに応じて角度分解能を変えないで測定結果を平均した場合を比較例として説明する。
【0055】
一回目、二回目、三回目及び四回目の測定結果を平均した。一回目、二回目、三回目及び四回目の平均された角度はそれぞれ21.675°、21.6375°、21.6375°及び21.675°であった(図8参照)。
【0056】
上記各角度をそれぞれ四捨五入して21.7°、21.6°、21.6°及び21.7°とし、測距後、対象物Tgの高さを演算すると、対象物Tgの高さはそれぞれ1回目は147.9m、2回目は147.2m、3回目は147.2m、4回目は147.9mとなった。このことから、距離測定装置1を固定して使用した場合、角度のばらつきが小さくなり、角度分解能を0.1°とすることができ、距離測定装置1を手で持って使用した場合よりも正確に対象物Tgの高さを演算できることがわかる。
【0057】
この実施形態によれば、測定者の手ぶれに起因する角度のばらつきに応じて角度分解能を調整する(角度のばらつきが大きくなる程角度分解能を下げる)ようにしたので、手ぶれに起因する測定値のばらつきを少なくすることができる。また、それを新たな機構を追加することなくソフトウエア的な処理で実現するようにしたため、製造コストの上昇を抑えることができる。なお、平均化処理によって角度を求めることもできるが、この方法では平均化処理を行う分だけ平均処理を行わない上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1はこの発明の一実施形態に係る距離測定装置の斜視図である。
【図2】図2は測定者より上方にある対象物について距離測定を行うときのことを説明するための図である。
【図3】図3はこの発明の一実施形態に係る距離測定装置のブロック図である。
【図4】図4は距離測定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図5】図5は距離測定装置を手で持って使用した場合の測定結果を示す表である。
【図6】図6は角度分解能を調整する前と後との測定結果を示す表である。
【図7】図7は距離測定装置を固定して使用した場合の測定結果を示す表である。
【図8】図8は分解能を調整する前と後との測定結果を示す表である。
【符号の説明】
【0059】
1:距離測定装置、2:筐体(装置筐体)、7:操作部、40:表示部、51:MPU、Tg:対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物までの水平距離及び前記対象物の高さを測定する距離測定装置において、
対象物までの直線距離を演算する距離演算手段と、
装置筐体の重力方向の傾き角度を演算する角度演算手段と、
少なくとも2回以上の測定による前記角度演算手段の複数の演算結果に基づいて前記角度演算手段の角度分解能を調整する調整手段と
を備えていることを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
対象物までの水平距離及び前記対象物の高さを測定する距離測定装置において、
対象物までの直線距離を演算する距離演算手段と、
装置筐体の重力方向の傾き角度を演算する角度演算手段と、
少なくとも2回以上の測定による前記距離演算手段の複数の演算結果に基づいて前記角度演算手段の角度分解能を調整する調整手段と
を備えていることを特徴とする距離測定装置。
【請求項3】
前記調整手段を動作させるか否かを決定する操作部を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記角度演算手段で演算された傾き角度のばらつきが所定値より大きいとき、その傾き角度が所定値より大きいことを測定者に警告する警告手段を備えていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−85658(P2009−85658A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253045(P2007−253045)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(501439264)株式会社 ニコンビジョン (86)
【Fターム(参考)】