説明

踏切障害物検知装置

【課題】 固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置において、踏切の監視領域を簡単且つ確実に特定できるようにすること。
【解決手段】 踏切障害物検知装置は、鉄道レール1の監視領域の境界を特定する位置に設置された立体マーカー3a,3b,3c,3dと、前記監視領域を撮影し画像データを出力する固体撮像素子を有する一対のテレビカメラ11,12と、前記画像データを処理して立体マーカー3a,3b,3c,3dを特定するマーカー検出部17と前記画像データを処理して前記監視領域内に存在する障害物を検出する障害物検出部18を備える検出部10とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切の一方側に設置された光送信器からの光線を受光するように他方側に設置された光受信器で受光する光電式の踏切障害物検知装置は、踏切遮断時に踏切内に入り込んだ乗用車、トラックなどの監視対象が前記光線を遮ったときに前記光受信器が検知信号を発生するものである。この従来の光電式の踏切障害物検知装置において、使用される光線は発光ダイオードやレーザーが発光する光線であり、前記光送信器も光受信器も構造が簡単であるという利点がある。
【0003】
しかしながら、光電式の踏切障害物検知装置は、前記光線を完全に遮ることができない監視対象、例えばサイズの小さな二輪車や歩行者などを検知できないという問題を有する。そこで、踏切内に入り込んだ監視対象をサイズが小さくても確実に検知できる踏切障害物検知装置、即ち、特開2004−42737号公報(特許文献1)や特開2005−64612号公報(特許文献2)に開示されているようなステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置が開発された。
【0004】
本発明者等が開発した特許文献1に記載の固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、監視領域を含む景色を撮像し、一対の画像データを出力するステレオカメラと、前記一対の画像データに基づいてステレオマッチングにより視差を算出するとともに、一フレーム相当の画像データに関する視差データと画像データにより規定される画像平面上の座標位置とが対応付けられた距離データを出力する画像処理部と、画像データにより規定される画像平面上において鉄道レールを特定する特定部と、特定された鉄道レールに基づいて監視領域内に写し出された対象物を監視すべきものと監視する必要のないものとに分類するための踏切領域を設定する設定部とから構成され、画面平面において鉄道レールを有効に認識することにより、監視領域内に踏切領域を自動的に設定できるようにしたものである。
【0005】
また、本発明者が開発した特許文献2に記載の固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、電子撮像装置の固体撮像素子を縦に並べることにより横方向の設置スペースを節約し、限られた鉄道線路上の空間に自由度高く設置でき、また、固体撮像素子のスミア発生方向と撮像対象の縦方向をずらすことにより、固体撮像素子に撮像される縦長の物体と電子撮像装置内の固体撮像素子に発生する電気的現象であるスミアとの判別を簡便に行うようにしたシステムである。
【0006】
固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、光電式の踏切障害物検知装置とは異なり、小さなサイズの監視対象も検知できるものである。しかしながら、ステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、固体撮像素子を有する電子撮像装置で撮像した画像を画像処理して監視対象を特定するものであるので、外的環境条件や監視対象と背景との関係によっては機能しないという問題がある。即ち、背景となる踏切の色と監視対象の色が同一又は類似していて、コントラストが低い場合には監視対象を特定できないという問題である。また、一つ一つの固体撮像素子に対して定格入光量を超えた分の電荷が周りの固体画像素子に溢れ出す電気的現象であるブルーミングが発生すると、監視対象を特定できないという問題である。
【0007】
ブルーミング対策を施した撮像装置や画像処理装置は、特開2005−91173号公報(特許文献3)や特開2005−123832号公報(特許文献4)などに開示されているが、いずれも複雑な構成になっている。
【特許文献1】特開2004−42737号公報
【特許文献2】特開2005−64612号公報
【特許文献3】特開2005−91173号公報
【特許文献4】特開2005−123832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする第1の課題は、固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置において、踏切の監視領域を簡単且つ確実に特定できるようにすることである。本発明が解決しようとする第2の課題は、監視対象と背景とのコントラストが低くても監視対象を確実に検知できる簡単な構成の踏切障害物検知装置を提供することである。本発明が解決しようとする第3の課題は、ステレオカメラがブルーミング状態でも監視対象を確実に検知できる簡単な構成の踏切障害物検知装置を提供することである。本発明が解決しようとする第4の課題は、簡単な構成の安全確認型踏切障害物検知装置を構築できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置において、踏切の監視領域に能動的な立体マーカーを設置した。即ち、上記課題を解決する踏切障害物検知装置は、踏切の監視領域の境界を特定する位置に設置された複数の立体マーカーと、前記監視領域を撮影し画像データを出力する固体撮像素子を有する一対のテレビカメラからなるステレオカメラと、前記画像データを処理して前記立体マーカーを特定するマーカー検出部と前記画像データを処理して前記監視領域内に存在する障害物を検出する障害物検出部を備える検出部とで踏切障害物検知装置を構成した。
【0010】
そして、前記マーカー検出部が立体マーカーを特定できないときには、前記検出部に異常信号を出力させると共に、前記障害物検出部の画像データ処理を停止させるようにした。
【0011】
前記立体マーカーは、光吸収色を有する立体マーカー、発光部を有する立体マーカー、反射部を有する立体マーカーである。そして、必要に応じて、これらの立体マーカーには融雪手段が備えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、踏切の監視領域を立体マーカーで規定したので、システムの異常を簡単確実に検出できる安全確認型の踏切障害物検知装置が構築できるようになった。また、光吸収色を有する立体マーカーを備えた本発明に係る踏切障害物検知装置は、ステレオカメラがブルーミング状態でも踏切内の監視対象を確実に検知できるようになった。更に、発光ダイオードを設置した立体マーカー或いは反射色を施した発光部を有する立体マーカーを備えた本発明に係る踏切障害物検知装置は、監視対象と背景とのコントラストが低くても監視対象を確実に検知できるようになった。更にまた、融雪装置が接地された立体マーカーを用いると、降雪時でも立体マーカーを確実に検出できる安全確認型の踏切障害物検知装置が構築できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施する最良の形態は、上記課題を解決する踏切障害物検知装置は、踏切の監視領域の境界を特定する位置に設置された複数の立体マーカーと、前記監視領域を撮影し画像データを出力する固体撮像素子を有する一対のテレビカメラからなるステレオカメラと、前記画像データを処理して前記立体マーカーを特定するマーカー検出部と前記画像データを処理して前記監視領域内に存在する障害物を検出する障害物検出部を備える検出部とで踏切障害物検知装置を構成した。そして、前記マーカー検出部が立体マーカーを特定できないときには、前記検出部に異常信号を出力させるようにした。
【実施例】
【0014】
本発明の一実施の例踏切障害物検知装置は、図1に示す如く、鉄道レール1の踏切の監視領域の境界を特定する位置に設置された立体マーカー3a,3b,3c,3d、前記監視領域を撮影し画像データを出力する固体撮像素子を有する一対のテレビカメラ11,12、前記画像データを処理して立体マーカー3a,3b,3c,3dを特定するマーカー検出部17と前記画像データを処理して前記監視領域内に存在する障害物を検出する障害物検出部18を備える検出部10、及び、監視部19で構成されたものである。そして、検出部10は、マーカー検出部17が立体マーカー3a,3b,3c,3dを特定できないときにはシステム障害信号を発生し、障害物検出部18が障害物を検出したときに踏切異常信号を監視部19に出力するものである。
【0015】
CCDやCMOSなどの固体撮像素子を備えた一対のテレビカメラ11,12はステレオカメラを構成している。一対のA/D変換器13,14は、これら一対のテレビカメラ11,12のそれぞれのアナログ画像をデジタル画像に変換する。画像補正部15は、A/D変換器13,14のデジタル画像の輝度の補正や画像の幾何学的な変換等の補正処理を行う。画像データ記憶部16は、画像補正部15で補正処理されたデジタル画像データを記憶する。
【0016】
検出部10は、機能的には、踏切画像の中に立体マーカーが存在するか否かを判定する立体マーカー検出部17と、踏切画像の立体マーカーで特定された監視領域の中に歩行者、自転車、自動車などの障害物が存在するか否かを判定する障害物検出部18とで構成されている。このような機能を有する検出部10は、図示しないが、演算制御を行うCPU、制御プログラムと画像処理プログラムなどの各種アプリケーションプログラムが記憶されたROM、各種データを記憶するRAM、各種入力や設定を行う入力手段、モニターなどで構成されている。
【0017】
監視部19は、スピーカーやサイレンなどの警報装置と、これらを駆動する警報装置駆動装置を含む。監視部19は、また、当該踏切に接近中の列車に踏切異常を列車や指令、駅などに伝達する踏切異常信号出力手段を備える。
【0018】
上述の如く構成された本発明の一実施例の踏切障害物検知装置において、検出部10は、図2のフローチャートに示す如き流れで、画像データを処理する。
【0019】
即ち、検出部10は画像データ記憶部16から1フレームの踏切画像データを取得する(101)。すると、マーカー検出部17は、取得した踏切画像内に立体マーカー3a,3b,3c,3dが存在するか否かを、パターンマッチング等を行って判定する(102)。前記パターンマッチングに用いられる参照画像は、立体マーカー3a,3b,3c,3dのそれぞれのカメラから見える立体形状の輪郭をパターン化したものである。これらの参照画像は、図示しない入力手段により、予め検出部10のデータ記憶部に記憶されている。
【0020】
ステップ102における判定結果がYesであれば、マーカー検出部17は、障害物検出部18にシステム正常信号を与える。ステップ102における判定結果がNoであれば、マーカー検出部17は、システム異常信号を発生し(104)、この信号を監視部19に与える。
【0021】
検出部10は、マーカー検出部17から障害物検出部18にシステム正常信号が与えられると、障害物が監視領域に存在するか否かの判定を行う(103)。即ち、障害物検出部18は、ステレオカメラによる踏切監視装置の画像データ処理部として機能し、画像データ記憶部16から取得した画像データからの視差、距離データなどの算出その他の処理を行って、立体マーカー3a,3b,3c,3dで規定される監視領域に障害物が存在するか否かを判定する。
【0022】
ステップ103の判定結果がYesであれば、障害物検出部18は障害物検出信号を発生し(105)、この信号を監視部19に与える。前記障害物検出信号は、監視対象領域である踏切に障害物が存在することを表すものである。障害物検出ステップ103における判定結果がNoであれば、検出部10の処理の流れはステップ101に戻り、上述のステップを順に繰り返す。
【0023】
ところで、立体マーカー3a,3b,3c,3dは、例えば直径10cm程度の金属製円柱又は一辺の長さが10cm程度の金属製角柱であって、地表から50cm程度突出した状態で踏切の監視領域2の四隅に植設されたものである。
【0024】
黒色などの光吸収色を施した立体マーカー3a,3b,3c,3dを用いると、テレオカメラがブルーミング状態でも監視対象を確実に検知できる簡単な構成の踏切障害物検知装置を提供することができる。
【0025】
発光ダイオードを設置した立体マーカー3a,3b,3c,3d、或いは反射色を施した発光部を有する立体マーカー3a,3b,3c,3dを用いると、監視対象と背景とのコントラストが低くても監視対象を確実に検知できる簡単な構成の踏切障害物検知装置を提供することが可能となる。
【0026】
更に、融雪装置が接地された立体マーカー3a,3b,3c,3dを用いると、降雪時でも立体マーカーを確実に検出できるというメリットがある。
【0027】
要するに、立体マーカー3a,3b,3c,3dは能動的マーカーとして機能するものである。このような能動的立体マーカーを備えたことにより、本発明に係る固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、踏切の監視領域の特定を簡単且つ確実に行えると共に、装置の構成が簡単になった。また、本発明に係る固体撮像素子を有するステレオカメラを用いた踏切障害物検知装置は、立体マーカーを検出できなければシステム障害と判定するので、安全確認型の踏切障害物検知装置として機能するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例の踏切障害物検知装置のブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施例の処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
1 鉄道レール
2 踏切の監視領域
3a,3b,3c,3d 立体マーカー
10 検出部
11,12 テレビカメラ
13,14 A/D変換器
15 画像補正部
16 画像データ記憶部
17 マーカー検出部
18 障害物検出部
19 監視部





































【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切の監視領域の境界を特定する位置に設置された複数の立体マーカーと、前記監視領域を撮影し画像データを出力する固体撮像素子を有する一対のカメラからなるステレオカメラと前記画像データを処理して前記立体マーカーを特定するマーカー検出部と前記画像データを処理して前記監視領域内に存在する障害物を検出する障害物検出部を備える検出部とで構成された踏切障害物検知装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記マーカー検出部が立体マーカーを特定できないときには、異常信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の踏切障害物検知装置。
【請求項3】
前記異常信号が発生したときには、前記障害物検出部は前記画像データの処理を停止することを特徴とする請求項1又は2に記載の踏切障害物検知装置。
【請求項4】
前記立体マーカーは、光吸収色を有する立体マーカーであることを特徴とする請求項1又は2の踏切障害物検知装置。
【請求項5】
前記立体マーカーは、発光部を有する立体マーカーであることを特徴とする請求項1又は2の踏切障害物検知装置。
【請求項6】
前記立体マーカーは、反射部を有する立体マーカーであることを特徴とする請求項1又は2の踏切障害物検知装置。
【請求項7】
前記立体マーカーは、融雪手段を備えた立体マーカーであることを特徴とする請求項1又は2の踏切障害物検知装置。
















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221961(P2008−221961A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61303(P2007−61303)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】