説明

車両のサスペンション装置

【課題】簡易な構造でスタビライザとサスペンションアームとの結合剛性を向上できるとともに、突き合わせ部の剥離防止効果が得られ安定した捩り性能を確保できる車両のサスペンション装置を提供する。
【解決手段】突き合わせ部12fは、前記サスペンションアーム2の、車幅方向外側に配置され、前記外側の貫通穴を覆う大きさで、かつ前記スタビライザ4が挿通される挿通孔5aが形成された板材5を、前記突き合わせ部12fの、前記外側の貫通穴の近傍部分を跨ぐ様に配設し、前記スタビライザ4の端部4aを前記板材5の挿通孔5a周縁に溶接するとともに、前記板材5を前記サスペンションアーム2に溶接したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左,右のサスペンションアームと、該左,右のサスペンションアームを結合するスタビライザとを備えた車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置において、従来、例えば、特許文献1には、左,右のサスペンションアームに中間ビームを架け渡して固定するとともに、スタビライザを、前記中間ビームの内側に沿う様に配設し、該スタビライザの両端を、左,右のサスペンションアームに形成された内側,外側の貫通穴を貫通させて溶接する、いわゆる直付構造が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、スタビライザを中間ビームの内側に配設するとともに、該スタビライザの両端部を中間ビームの両端部に固定したサスペンション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−69713号公報
【特許文献2】特開平11−115430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1のサスペンションアームは、板材をパイプ状に成形して、対向する突き合わせ部を溶接してなる巻きパイプからなるものである。この種の巻きパイプでは製造工程の都合上、板材をパイプ状に成形する前に、前記貫通穴を形成しておく必要がある。そのため前記内側,外側の貫通穴が同一直線上に位置するように、その位置精度を確保するのは困難であり、前記貫通穴を大径にせざるを得ない。しかし前記貫通穴を大径にすると、スタビライザを前記貫通穴の周縁に溶接固定する際の溶接不良が起き易く、これにより前記スタビライザの安定した捩り性能を確保できないという問題がある。
【0006】
また、前記特許文献2の構造では、スタビライザの両端を中間ビーム内の端部に固定しているため、該スタビライザ長が短くなり安定した捩り性能を確保できないという問題がある。また、上述の巻きパイプでは、サスペンションアームの捩り荷重により突き合わせ部が剥離し易いという問題もある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、簡易な構造でスタビライザとサスペンションアームとの結合剛性を向上できるとともに、突き合わせ部の剥離防止効果が得られ、安定した捩り性能を確保できる車両のサスペンション装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、一端が車体に揺動可能に支持され、他端に車輪を回転可能に支持する左,右一対のサスペンションアームと、該左,右一対のサスペンションアームに架け渡す様に車幅方向に向けて配設されたスタビライザとを備え、前記サスペンションアームは、1枚の板材をその両側縁部が互いに対向するように筒状に成形するとともに、対向する突き合わせ部を溶接してなる巻きパイプからなり、前記スタビライザは、前記サスペンションアームに、車幅方向に貫通するように形成された内側,外側の貫通穴に貫通されて溶接固定されている車両のサスペンション装置において、前記突き合わせ部は、前記サスペンションアームの、車幅方向外側に配置され、前記外側の貫通穴を覆う大きさで、かつ前記スタビライザが挿通される挿通孔が形成された板材を、前記突き合わせ部の、前記外側の貫通穴の近傍部分を跨ぐ様に配設し、前記スタビライザの端部を前記板材の挿通孔周縁に溶接するとともに、前記板材を前記サスペンションアームに溶接したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、スタビライザの端部を、板材の挿通孔周縁に溶接し、該板材をサスペンションアームに溶接するようにしたので、サスペンションアームの内側,外側の貫通穴を比較的大径にすることができ、貫通穴の位置精度を高めることなく、スタビライザのサスペンションアームへの結合剛性を向上でき、また、前記サスペンションアームにスタビライザを直付けする従来構造と比べてスタビライザの位置決めに自由度がある。
【0010】
また、前記外側の貫通穴を覆う大きさの板材を、前記突き合わせ部を跨ぐように溶接したので、前記サスペンションアームの捩り荷重による前記突き合わせ部の剥離を防ぐことができ、前記スタビライザの安定した捩り性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係るリヤサスペンション装置の車両下方視の斜視図である。
【図2】前記リヤサスペンション装置の平面図である。
【図3】前記リヤサスペンション装置の分解斜視図である。
【図4】サスペンションアーム,中間ビーム,スタビライザ及び板材の取付け部を示す側面図(図2のIV部拡大側面図)である。
【図5】サスペンションアーム,中間ビーム,スタビライザ及び板材の取付け部を示す断面図(図2のV-V部拡大側面図)である。
【図6】サスペンションアームの製造過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する
【実施例1】
【0013】
図1ないし図6は、本発明の実施例1によるリヤサスペンション装置を説明するための図である。なお、本実施例で前,後,左,右とは、特記なき限り車両後方から前方を見た場合の前,後,左,右を意味する。
【0014】
図において、1はトレーリングアーム式のリヤサスペンション装置を示している。このリヤサスペンション装置1は、車両前後方向に延びる左,右のサスペンションアーム2,2と、車幅方向に延びる中間ビーム3と、車幅方向に延びるスタビライザ4と補強板(板材)5とを備えている。なお、前記左,右のサスペンションアーム2,2は左右対称であるので、本実施例1では、特記なき限り右のサスペンションアーム2について説明する。
【0015】
前記サスペンションアーム2は、板材を筒状に成形してなるいわゆる巻きパイプからなり、その長手方向略中央部には、前記スタビライザ4を取付けるための車幅方向に貫通する内側貫通穴2a,外側貫通穴2bが形成されている。
【0016】
前記サスペンションアーム2は、その前端部2cに車体(不図示)に軸支されるブッシュ6が固定されており、該ブッシュ6の軸線Xを中心に上下方向に揺動可能となっている。また、前記サスペンションアーム2の後端部2dには、車輪(不図示)を支持するためのフランジ2eが配設されている。さらにまた、前記サスペンションアーム2の後端部2dの内縁部2fには、サスペンションばね(不図示)を取付けるためのばね受け座2gと、ショックアブゾーバ(不図示)を取付けるためのショックアブゾーバ取付け座2hとが配設されている。
【0017】
ここで前記サスペンションアーム2は、図6に示すように、以下の工程で製造される。例えば、高張力鋼等から成る1枚の矩形状の鋼板(板材)12の左,右の側縁部12a,12bの略中央部の成形状態で対向する箇所に略半円形状の切欠き部12c,12dが形成され、また略中央部に略円形状の穴12eが形成される。そして前記鋼板12は、前記両側縁部12a,12bが対向するように成形され、対向する左,右の突き合わせ部12f,12fを当接させて溶接され、これにより、巻きパイプからなる前記サスペンションアーム2が形成される。このとき、対向する前記切欠き部12c,12dは、略円形状の外側の貫通穴2bを形成し、また前記穴12eは内側の貫通穴2aとなる。この結果、前記サスペンションアーム2の内側面,外側面には、前記スタビライザ4より大径の内側,外側の貫通穴2a,2bが車幅方向に貫通するように形成される。
【0018】
前記左,右のサスペンションアーム2,2は、左,右の突き合わせ部12f,12fがそれぞれ車幅方向外側に位置するよう配設され、前記中間ビーム3が該左,右のサスペンションアーム2,2に架け渡す様に配設され、溶接固定されている。この中間ビーム3の横断面形状は、車両側方視で、下方に開口した略V字形状を成しており、前,後の側壁3a,3bと、頂壁3cと、開口部3eとを有する。
【0019】
前記中間ビーム3の左,右の端部には、切欠き部3dが前記サスペンションアーム2の外周面2iに沿う様に形成されており、該切欠き部3dは前記外周面2iに当接させて溶接されている。
【0020】
前記スタビライザ4は、例えば、丸棒からなり、前記中間ビーム3の開口部3e内に配設され、前記貫通穴2a,2bを貫通している。前記スタビライザ4の端部4aは、前記補強板5を介して前記サスペンションアーム2に溶接固定されている。
【0021】
前記補強板5は、例えば、高張力鋼板からなり、前記外側の貫通穴2bを覆う大きさの矩形状を成している。前記補強板5の中央部には、前記スタビライザ4の外径より僅かに大きい内径の挿通孔5aが形成されている。
【0022】
ここで、前記サスペンションアーム2に、前記中間ビーム3及び前記スタビライザ4を溶接固定する場合の工程を説明する。
【0023】
まず、前記サスペンションアーム2の内側の貫通穴2aを車幅方向内側に、かつ突き合わせ部12fを外側に位置させ、前記中間ビーム3の切欠き部3dを前記サスペンションアーム2の外周面2iに当接させ、前記切欠き部3dを前記外周面2iに溶接する。
【0024】
次に、前記スタビライザ4を、前記サスペンションアーム2の車幅方向一側から外側の貫通穴2b,内側の貫通穴2aを貫通させて挿入し、他側のサスペンションアーム2の内側,外側の貫通穴2a,2bを通して突出させる。
【0025】
そして、前記スタビライザ4の前記サスペンションアーム2の外方に突出している端部4aに、前記補強板5の挿通孔5aを嵌装し、該補強板5と前記スタビライザ4の端部4aとを溶接固定し、さらに補強板5をサスペンションアーム2に溶接固定する。
【0026】
このとき、前記補強板5は、前記サスペンションアーム2の突き合わせ部12fの前記外側の貫通穴2b近傍部分を跨ぐように位置しており、従って補強板5は前記サスペンションアーム2に前記突き合わせ部12fを跨ぐように溶接固定されている。
【0027】
本実施例1によれば、スタビライザ4の端部4aを、補強板5の挿通孔5aに溶接し、該補強板5をサスペンションアーム2に溶接するようにしたので、前記サスペンションアーム2の内側の貫通穴2a及び外側の貫通穴2bを大径に形成でき、位置精度を高めることなく、スタビライザ4を容易に挿通できるとともに、前記スタビライザ4の前記サスペンションアーム2への結合剛性を向上でき、また、前記サスペンションアーム2に前記スタビライザ4を直付けする従来構造と比べ前記スタビライザ4の位置決めに自由度がある。
【0028】
また、前記外側の貫通穴2bを覆う大きさの前記補強板5を、突き合わせ部12fを跨ぐように溶接したので、前記サスペンションアーム2の捩り荷重による前記突き合わせ部12fの剥離を防ぐことができ、安定した捩り性能を確保できる。また、前記直付けに比べて溶接による熱応力を緩和できる。
【0029】
なお、前記実施例1では、サスペンションアーム2の外側の貫通穴2bの中心を突き合わせ部12fに一致させたが、補強板5を前記突き合わせ部12fを跨ぐように溶接すれば良く、前記外側の貫通穴2bの中心を前記突き合わせ部12fに必ずしも一致させなくても良く、突き合わせ部12fの近傍に形成しても構わない。
【符号の説明】
【0030】
1 サスペンション装置
2 サスペンションアーム
2a,2b 内側,外側の貫通穴
4 スタビライザ
4a 端部
5 補強板(板材)
5a 挿通孔
12 鋼板(板材)
12a,12b 側縁部
12f 突き合わせ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が車体に揺動可能に支持され、他端に車輪を回転可能に支持する左,右一対のサスペンションアームと、該左,右一対のサスペンションアームに架け渡す様に車幅方向に向けて配設されたスタビライザとを備え、
前記サスペンションアームは、1枚の板材をその両側縁部が互いに対向するように筒状に成形するとともに、対向する突き合わせ部を溶接してなる巻きパイプからなり、前記スタビライザは、前記サスペンションアームに、車幅方向に貫通するように形成された内側,外側の貫通穴に貫通されて溶接固定されている車両のサスペンション装置において、
前記突き合わせ部は、前記サスペンションアームの、車幅方向外側に配置され、
前記外側の貫通穴を覆う大きさで、かつ前記スタビライザが挿通される挿通孔が形成された板材を、前記突き合わせ部の、前記外側の貫通穴の近傍部分を跨ぐ様に配設し、
前記スタビライザの端部を前記板材の挿通孔周縁に溶接するとともに、前記板材を前記サスペンションアームに溶接したことを特徴とする車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−201330(P2011−201330A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67634(P2010−67634)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】