説明

車両のドライブステアアクスル装置

【課題】本発明は、簡単、かつコンパクトなギヤ系で、車両の上下方向から加わる大きな荷重でも噛み合い状態を所期に保ちながら、大操舵角性能の確保、さらには良好な車輪への動力伝達が行える車両のドライブステアアクスル装置を提供する。
【解決手段】本発明は、キングピン21の軸心周りに回転自在な中継ギヤ37を有し、キングピンの軸線を挟む車体側アクスルシャフト19および車輪側アクスルシャフト32の端部に中継ギヤと共通に噛み合う入・出力ギヤ40,41を有し、車輪側アクスルシャフトの旋回にならい、出力ギヤの中継ギヤに対する噛み合い位置をキングピン中心に可変させ、回転動力を車輪へ出力可能としたステア機構36と、入・出力ギヤと車体側アクスルシャフトおよび車輪側アクスルシャフトの端部との間に設けたユニバーサルジョイント46,47と有した構成を採用した。同構成により、ユニバーサルジョイントで、入・出力側のギヤ交差角の差異を吸収させ、入・出力ギヤと中継ギヤとを同じ交差角で噛み合せる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大舵角での操舵が可能なギヤ式のステア機構を用いた車両のドライブステアアクスル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪駆動車や四輪駆動車(いずれも車両)では、前輪の操舵を許容しながら、エンジンからの動力を前輪へ伝えている。このため、同車両では、一般に、デファレンシャルギヤ(差動機構)から車幅方向両側へ延びて前輪に至るアクスルシャフトの途中に等速ジョイントを介装して、等速ジョイントのジョイント部を中心として、前輪をキングピンの軸線の周りに旋回(回動)可能としたドライブステアアクスル装置が用いられている。
【0003】
ところで、小回りの要求が高い車両(例えばトラックなど)では、できるだけ大きな切れ角で前輪の操舵が行える性能が求められている。
ところが、等速ジョイントは、外輪内にボールや内輪を移動可能に収める構造のため、構造上、最大でも50度前後位の操舵角までしか得られず、それ以上の大きな操舵角の確保は難しい。
【0004】
そこで、こうした車両では、特許文献1に開示されているようなギヤ式のステア機構を用いて、大きな操舵角を確保することが検討されている。特許文献1のステア機構には、車体の車幅方向側部に配置されるキングピンを回転自在とし、同キングピンの両端部(上・下端部)にそれぞれ専用の中継ギヤを設け、車体の車幅方向中央のデファレンシャルギヤからキングピンへ延びる車体側のアクスルシャフトの端部に、一方の中継ギヤと噛み合う入力ギヤを設け、同キングピンの軸線を挟んだ車体側アクスルシャフトとは反対側の車輪側のアクスルシャフトの端部に、他方の中継ギヤと噛み合う出力ギヤを設けた構造が用いられている。
【0005】
つまり、車体側のアクスルシャフトに伝わる動力回転を、入力ギヤ、一方の中継ギヤ、キングピン、他方の中継ギヤ、出力ギヤを経て、車輪側のアクスルシャフト端の前輪へ伝える構造である。
【0006】
こうしたステア機構だと、出力ギヤの噛み合い位置が、キングピンの軸線を中心とした車輪側のアクスルシャフトの旋回変位にならい、キングピンを中心に変わるだけなので、等速ジョイントのような構造上の制約を受けずにすみ、前輪は、大きな切れ角(操舵角)で操舵することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−264874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、引用文献1の構造だと、複雑で、大形となりやすいうえ、車体の上下方向から加わる大きな荷重に対処できない難点がある。
すなわち、通常、車体側アクスルシャフトは、デファレンシャルギヤから延びる部材であるため、通常、水平に配置されるが、車輪側アクスルシャフトは、通常、操舵性の確保のためキャンバ角(車両前方から見て上開き)を付けて支持されている。
【0009】
そのため、引用文献1は、こうしたアクスルシャフトの角度の違いを許容するため、キングピンの上下に、異なる専用の二種類のギヤ組を用いている。具体的には、キングピンと出力側となるキャンバ角の付いた車輪側アクスルシャフトとの間は、キャンバ角や同アクスルシャフトの角度を考慮した角度で組み合う専用の中継ギヤと出力ギヤとを用いて噛みあわせ、キングピンと入力側となる車体側アクスルシャフトとの間は、車体側アクスルシャフトを考慮した角度で組み合う専用の中継ギヤと入力ギヤとを用いて噛みあわせている。
【0010】
ところが、同機構は、異なる専用の二組のギヤを要するため、構造上、ギヤ系が複雑となりやすい。しかも、大形になりやすい。そのうえ、車両の上下方向から加わる荷重により、アクスルケースおよび各アクスルシャフトが変形すると、その影響でキングピンと各アクスルシャフトとの交差角が変化し、中継ギヤと入・出力ギヤとの噛み合いが変化してしまう。このため、歯当り不良をきたし、ギヤが早期に破損したり、大きな騒音を引き起こしたりする問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、簡単、かつコンパクトなギヤ系で、車両の上下方向から加わる大きな荷重でも噛み合い状態を所期に保ちながら、大操舵角性能の確保、さらには良好な車輪への動力伝達が行える車両のドライブステアアクスル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、車体の車幅方向中央側に配置された差動機構から車幅方向側部のキングピンへ向かい延び、差動機構からの動力回転を出力する車体側アクスルシャフトと、キングピンの軸線を挟んだ車体側アクスルシャフトと反対側の車体の車幅方向側部に配置され、車輪と接続した、キングピンの軸線を中心に旋回可能な車輪側アクスルシャフトと、キングピンの軸線上にキングピンの軸心周りに回転自在な中継ギヤを有し、キングピンの軸線を挟んだ車体側アクスルシャフトおよび車輪側アクスルシャフトの端部に中継ギヤと共通に噛み合う入・出力ギヤを有し、車輪側アクスルシャフトの旋回変位にならい、出力ギヤの中継ギヤに対する噛み合い位置をキングピンを中心に可変させ、差動機構からの回転動力を車輪へ出力可能としたステア機構と、入・出力ギヤと車体側アクスルシャフトおよび車輪側アクスルシャフトの端部との間にそれぞれ設けられたユニバーサルジョイントとを具備してドライブステアアクスル装置を構成した。
【0013】
同構成によると、ユニバーサルジョイントは、入・出力側のギヤ交差角の差異を吸収するから、入・出力ギヤは中継ギヤに対して共通に噛み合う、つまり同じ交差角で噛み合せられる。これにより、一種類の噛み合わせのギヤ系だけで、車体側アクスルシャフトから車輪側アクスルシャフトへ動力回転が伝達される。むろん、出力ギヤの噛み合い位置は、車輪側アクスルシャフトの旋回変位にならいキングピンを中心に可変するから、等速ジョイントのような制約は受けず、大操舵角を確保しながら動力伝達が行える。そのうえ、ユニバーサルジョイントは、車両の上下方向から加わる荷重で引き起こされる交差角の変化も吸収するから、常に中継ギヤと入・出力ギヤとの噛み合いは所期に保たれ、上下方向から加わる荷重を要因としたギヤ系の破損、さらには騒音の発生も抑えられる。
【0014】
請求項2の発明は、上記目的に加え、簡単な構造ですむよう、中継ギヤは、キングピンの外周面に回転自在に設けられる歯車で構成し、入・出力ギヤは、同歯車に同一の交差角度でそれぞれ噛み合う歯車で構成するものとした。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ユニバーサルジョイントにより、入・出力側のギヤ交差角の差異が吸収されるから、入・出力ギヤは中継ギヤと同じ交差角で噛み合せることができ、一種類の噛み合わせのギヤ系だけで、車体側アクスルシャフトから車輪側アクスルシャフトへ動力回転を伝達することができる。むろん、出力ギヤの噛み合い位置は、車輪側アクスルシャフトの旋回変位にならいキングピンを中心に可変するから、等速ジョイントのような制約は受けずに、大操舵角を確保しながら動力伝達ができる。そのうえ、ユニバーサルジョイントにより、車両の上下方向から加わる荷重で引き起こされる交差角の変化が吸収できる。
【0016】
それ故、簡単、かつコンパクトなギヤ系で、車両の上下方向から加わる大きな荷重に対しても常に所期の噛み合い状態を保つことができ、大操舵角性能を確保、さらには良好な車輪への動力伝達が達成できる。特に、ユニバーサルジョイントは、車両の上下方向から加わる荷重には有効で、同荷重を要因とした歯当り不良が防げ、ギヤ系の破損、さらには騒音の発生を防ぐことができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、ドライブステアアクスル装置は、特に簡単な構造ですむ。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るドライブステアアクスル装置を装備した車両の側面図。
【図2】(a)はドライブステアアクスル装置の片側(車幅方向)の構造を示す平面図、(b)は(a)中の矢視A方向から見た正面図。
【図3】同ドライブステアアクスル装置の要部の構造を示す正断面図。
【図4】車両の上下方向から加わる荷重でアクスルケースが変形する状況を示す正面図。
【図5】同変形時において、ユニバーサルジョイントが交差角の変化を吸収する挙動を示す正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図1ないし図5に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は車両、例えば四輪駆動式のトラックを示し、図2および図3は同トラックに装備したドライブステアアクスル装置(車幅方向一方側)を示し、図4および図5は同ドライブステアアクスル装置に上下荷重が加わるときの挙動を示している。なお、図示はしないが車幅方向他方側のドライブステアアクスル装置も、一方側とほとんど同じ構造が用いてある。
【0020】
図1に示すトラックを説明すると、図中1は、前側にエンジンルーム2およびキャビン3を有し、後側に荷台4を有した車体、6は同車体1の前部の車幅方向両側に配置された前輪(本願の車輪に相当)、7は車体1の荷台下部の車幅方向両側に配置された後輪、9はエンジンルーム2内に収められた走行用エンジン(以下、単にエンジンという)、10aは同エンジン9の出力部に連結されたトランスミッション、10bは同トランスミッション10aの出力部に連結されたトランスファギヤボックスをそれぞれ示している。また11は、左右の前輪6間(車体1の車幅方向中央側)に設けられたフロントデファレンシャルギヤ(本願の差動装置に相当)、12は左右の後輪7間に設けられたリヤデファレンシャルを示している。
【0021】
エンジン9から出力された回転は、トランスミッション10a、トランスファギヤボックス10b、プロペラシャフト13およびフロントデファレンシャルギヤ11を介して、左右両側の前輪6へ伝達される。また同回転は、トランスファボックス10bから後方側へ分かれ、プロペラシャフト14およびリヤデファレンシャルギヤ12を介して、左右両側の後輪7へ伝達され、トラックの走行に供される(四輪駆動)。
【0022】
このうちフロントデファレンシャルギヤ11は、例えば図2(a),(b)に示されるように車幅方向のほぼ中央にデフギヤ部15を収めたギヤ収納部16をもち、両側に同ギヤ収納部16から左右の前輪6へ延びるアクスルチューブ部17をもつアクスルケース18を有している。各アクスルチューブ部17内には、デフギヤ部15から延びる車体側アクスルシャフト19がそれぞれ回転自在に挿通されている。
【0023】
また各アクスルチューブ部17の端部には、キングピン21を介して、ナックルスピンドル23が車幅方向に回動自在に支持されている。具体的には、図3にも示されるようにアクスルチューブ部17の端部の上下部には、所定のキングピン角で傾いたキングピン21を回転自在に貫通させ支持する支持部24が形成される。ナックルスピンドル23は、上下部にフロントデファレンシャル方向へ突き出る支持部25を有したナックル23aと、同ナックル23aから前輪方向へ延びるスピンドル23bとを有して構成される。そして、ナックルスピンドル23bは、各支持部25を、軸受け部26を介して、支持部24から突き出たキングピン21の端部に回動自在に嵌挿させることによって、アクスルチューブ部17端に回動自在につなげられている。
【0024】
図2(a)に示されるようにナックルスピンドル23の支持部25(ここでは上側に配置されるもの)には、レバー部材27、ロッド部材28、シリンダ機構(図示しない)などが接続され、これら各機器などで構成されるステアリング機構29により、キャビン3内のステアリングホイール30を操作すると、ナックルスピンドル23がキングピン21を中心に旋回(車幅方向)する構造なっている。なお、反対側のナックルスピンドル(図示しない)へは、図示しないアーム部材を介して、操舵変位が伝わる。
【0025】
図3に示されるようにナックルスピンドル23のスピンドル23b内には、車輪側アクスルシャフト32が挿通されている。むろん、スピンドル23b内で、車輪側アクスルシャフト32は、回転自在に支持されている。またスピンドル23bの先端部には、ホイール支持部32bが支持されている。このホイール支持部32bに前輪6が支持され、ステアリング操作にしたがい、前輪6が、キングピン21の軸線を中心に旋回するようにしてある。
【0026】
キングピン21へ向かう車体側アクスルシャフト19端と、キングピン21へ向う車輪側アクスルシャフト32端との間には、ギヤ式のドライブステアアクスル装置35が設けられている。同装置35は、ギヤを用いて、車体側アクスルシャフト19(フロントデファレンシャルギヤ11から)の動力回転を車輪側アクスルシャフト32へ伝達すること、ステアリング操作にしたがい車輪側アクスルシャフト32を操舵方向に操舵させることを一つの機構で行う装置である。
【0027】
このドライブステアアクスル装置35には、前輪6に設定されているキャンバ角αに制約されず、一種類のギヤの噛み合い角度で、良好な動力伝達を確保しつつ大操舵角性能を確保する構造が採用されている。同装置35には、ギヤ式のステア機構36とユニバーサルジョイント46,47とを組み合わせた構造が用いられている。
【0028】
図3を参照してステア機構36を説明すると、37は、キングピン21の下側、具体的には支持部24間に存するキングピン部分の下部外周面に回転自在に設けられた中継ギヤ(一つ)である。そのため、中継ギヤ37とキングピン21の外周面との間には、軸受け部38が設けてある。中継ギヤ37は、中継用として好適なギヤ、例えばかさ歯車が用いられている。
【0029】
40は、キングピン21の軸線を挟んだ車体側アクスルシャフト19の先端に配置される入力ギヤ、41は、その反対側の車輪側アクスルシャフト32の基端に配置される出力ギヤである。入・出力ギヤ40,41(本願の入・出力ギヤに相当)は、いずれも中継ギヤ37(かさ歯車)と組み合う入・出力用のかさ歯車で構成されている。
【0030】
ステア機構36は、こうした入・出力ギヤ40,41を、キングピン21に回転自在に設けた中継ギヤ37に対し、同一の交差角度でそれぞれ噛み合わせて構成される。
すなわち、入力ギヤ40は、例えば固定部材43を用いて、アクスルチューブ部17の先端に、キングピン21の軸線と直交する向きで回転自在に支持され、中継ギヤ37の歯部と所定に噛み合わせてある。
【0031】
出力ギヤ41は、例えば保持枠45(保持部材)を用いて、アクスルシャフト端の前方に、キングピン21の軸線と直交する向きで配置させてある。保持枠45は、中継ギヤ37と上・下の支持部24との間のキングピン部分を回転自在に貫通する上下一対の横アーム部材45aと、同横アーム部材45aの張り出た端の間をつないだ縦アーム部材45bとからなる。横アーム部材45aは、キングピン21の軸線と直交する向きに配置され、縦アーム部材45bは、キングピン21の軸線と平行に配置される。出力ギヤ41は、このうちの縦アーム部材45bに、キングピン21の軸線と直交する向きで回転自在に支持され、入力ギヤ40と同じ交差角度で、中継ギヤ37の歯部に共通に噛み合わせている。
【0032】
そして、入力ギヤ40の基端部と車体側アクスルシャフト19の端部との間を、入力側のユニバーサルジョイント46で連結している。また出力ギヤ41の基端部と車輪側アクスルシャフト32の端部との間を、出力側のユニバーサルジョイント47で連結している。ここでは、ユニバーサルジョイント46,47には、例えば十字形のクロススパイダ48を用いた構造が用いられている。
【0033】
ユニバーサルジョイント46,47を組み合わせることによって、キャンバ角αがもたらす、中継ギヤ37と両アクスルシャフト19,32とがなす交差角の違いを吸収する構造にしている。これにより、入・出側のギヤ40,41共、中継ギヤ37に対して同じ噛み合い角度ですませ、一種類の噛み合い角度でありながら、車体側アクスルシャフト19から車輪側アクスルシャフト32への動力伝達を行いつつ、前輪6で大きな切れ角が得られるようにしている。
【0034】
すなわち、トラックの走行中、フロントデファレンシャルギヤ11から車体側アクスルシャフト19に出力されたエンジン9の回転は、入力側のユニバーサルジョイント46、入力ギヤ40を経て中継ギヤ37へ伝わる。この中継ギヤ37に伝わる回転が、出力ギヤ41、出力側のユニバーサルジョイント47、車輪側アクスルシャフト32、ホイール支持部32bを経て前輪6に伝わり、前輪6を回転させる。
【0035】
ここで、ステアリングホイール30を操作すると、同ステアリング操作が、ロッド部材28、レバー部材27を経て、左右のナックルスピンドル23へ伝わり、同ナックルスピンドル23を、車輪側アクスルシャフト32と共にキングピン21を中心に回動させる。この回動に伴い、入力ギヤ41は、キングピン21の軸線周りに変位(旋回)し、入力ギヤ41の中継ギヤ37に対する噛み合い位置が、キングピン21の軸線周りに変化する。これにより、前輪6は、動力の伝達を受けつつ、ステアリング操作で操舵される(図2)。
【0036】
このとき前輪6の切れ角は、中継ギヤ37のキングピン21周りの旋回方向の変位で確保されるから、前輪6は、等速ジョイントのような制約を受けることなく、図2(a)中の二点鎖線で示されるような50度を越え、90度付近に近づくような大きな操舵角(大切れ角)まで操舵が可能となる。
【0037】
ここで、単に中継ギヤ37に、入力ギヤ40、出力ギヤ41を噛みあわせると、「発明が解決しようとする課題」の項で述べているように車体側アクスルシャフト19は水平、車輪側アクスルシャフト32はキャンバ角αで傾いている。さらにはキングピン21も傾いているため、これらを満たすためには、入力側、出力側とで噛み合い角度が異なる二種類のギヤ組が必要となり、構造が複雑、大形になることが懸念されるが、本実施形態のように中継ギヤ37に対し、入力ギヤ40、出力ギヤ41を共通に噛み合わせ、ユニバーサルジョイント46,47の挙動で、図3に示されるように交差角θ1、θ2のずれS1、S2をユニバーサルジョイント46,47の挙動で吸収(許容)すると、そうしたことは改善される。
【0038】
すなわち、ユニバーサルジョイント46,47は、キャンバ角αが引き起こすアクスルシャフト19,32との交差角の差異を吸収するから、入・出力ギヤ40,41は中継ギヤ37に対して共通に噛み合せることができる。これで、入・出力ギヤ40,41は、同じ角度で中継ギヤ37に噛み合せられる。つまり、一種類の噛み合わせのギヤ系だけで、車体側アクスルシャフト19から車輪側アクスルシャフト32へ動力回転を伝達させることができる。しかも、出力ギヤ41の噛み合い位置が、車輪側アクスルシャフト32の旋回変位にならいキングピン21を中心に可変するだけなので、何らの制約を受けずに、大操舵角を確保しながら動力伝達が行える。
【0039】
したがって、簡単、かつコンパクトなギヤ系で構成されるドライブステアアクスル装置35で、大操舵角性能の確保、さらに良好に前輪6(車輪)へ動力伝達を行うことができる。
しかも、ユニバーサルジョイント46,47は、同装置35の簡素化、コンパクト化に貢献するだけでなく、トラックに変形を伴うような大きな荷重が加わるような場合にも有効である。
【0040】
すなわち、トラックの車体1に、上下の方向から荷重が加わると、例えば図4中の一点鎖線γ及び図5中の矢印δに示されるようにアクスルケース17、ナックルスピンドル23の全体や内部のアクスルシャフト19,32は、アクスルチューブ部17の車体支持部49から入力される荷重W1、前輪6で受ける反力W2により、弧状に変形を起こす。
【0041】
このときの上下方向から加わる荷重で引き起こされる交差角θ1、θ2の変化は、吸収されないと、中継ギヤ37と入・出力ギヤ40,41とは歯当り不良を引き起こすが、同変化は、ユニバーサルジョイント46,47の挙動により吸収される。このため、常に中継ギヤ37と入・出力ギヤ40,41は、所期の噛み合い状態に保たれる。これで、加わる上下荷重が引き起こす歯当り不良は未然に防げ、歯当り不良を要因としたギヤ系の破損、騒音の発生を抑えることができる。
【0042】
特にキングピン21の外周面に中継ギヤ37を回転自在に設け、入・出力ギヤ40,41を、中継ギヤ37に同一の交差角度でそれぞれ噛み合わせると、簡単な構造ですむ。しかも、一つの中継ギヤ37だと、キングピン21に加わる負担は小さくてすむ。
【0043】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば一実施形態では、十字形構造のユニバーサルジョイントを用いたが、これに限らず、他の構造のユニバーサルジョイントを用いてもよい。また一実施形態では、コ字形の保持枠を用いて出力ギヤを保持したが、他の保持部材を用いて出力ギヤを保持させてもよい。また、一つの中継ギヤでなく、2つの中継ギヤを用いた構造でもよく、中継ギヤ、入・出力ギヤは、かさ歯車でなく、フェースギヤを用いてもよい。むろん、本発明を四輪駆動のトラックに適用したが、これに限らず、他の四輪駆動の車両や二輪(前輪)駆動の車両などに本発明を適用しても構わない。
【符号の説明】
【0044】
1 車体
6 前輪(車輪)
11 フロントデファレンシャルギヤ(差動機構)
19 車体側アクスルシャフト
21 キングピン
32 車輪側アクスルシャフト
36 ステア機構
37 中継ギヤ
40 入力ギヤ
41 出力ギヤ
46,47 ユニバーサルジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向中央側に配置された差動機構から車幅方向側部のキングピンへ向かい延び、前記差動機構からの動力回転を出力する車体側アクスルシャフトと、
前記キングピンの軸線を挟んだ前記車体側アクスルシャフトと反対側の車体の車幅方向側部に配置され、車輪と接続した、前記キングピンの軸線を中心に旋回可能な車輪側アクスルシャフトと、
前記キングピンの軸線上に前記キングピンの軸心周りに回転自在な中継ギヤを有し、前記キングピンの軸線を挟んだ前記車体側アクスルシャフトおよび前記車輪側アクスルシャフトの端部に前記中継ギヤと共通に噛み合う入・出力ギヤを有し、前記車輪側アクスルシャフトの旋回変位にならい、出力ギヤの中継ギヤに対する噛み合い位置が前記キングピンを中心に可変し、前記差動機構からの回転動力を前記車輪へ出力可能としたステア機構と、
前記入・出力ギヤと、前記車体側アクスルシャフトおよび前記車輪側アクスルシャフトの端部との間にそれぞれ設けられたユニバーサルジョイントと
を具備したことを特徴とする車両のドライブステアアクスル装置。
【請求項2】
前記中継ギヤは、前記キングピンの外周面に回転自在に設けられる歯車で構成され、
前記入・出力ギヤは、前記かさ歯車に同一の交差角度でそれぞれ噛み合う歯車で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の車両のドライブステアアクスル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18422(P2013−18422A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154748(P2011−154748)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(597128026)ナジコスパイサー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】