説明

車両のパーキングシステム

【課題】パーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度に昇温している状態でロック要求を受けたときに、モータ32を非駆動にしながら前記ロック要求に応じて車両を固定可能にし、パーキングロック機構20のアンロック要求を受けたときに、モータ32を非駆動にしながら前記アンロック要求に応じて車両を移動可能状態にする。
【解決手段】モータ32が保護必要な温度に昇温している状態において、パーキングロック機構20のロック要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を固定状態にする(パーキング動作保障処理)。パーキング動作保障中にパーキングロック機構20のアンロック要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりに車両固定状態にしているパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を移動可能な状態にする(パーキング解除動作保障処理)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパーキングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、停車状態を保つために、パーキングブレーキを備えている。このパーキングブレーキは、車輪に設けられたディスクブレーキパッドあるいはドラムブレーキシューを制動方向に作動させるための制動力発生部を備えており、運転者がパーキングレバーやパーキングペダルを操作することにより前記制動力発生部が作動される。
【0003】
このパーキングブレーキには、前記制動力発生部を機械的に作動させる機械式パーキングブレーキの他に、前記制動力発生部をモータで作動させる電子制御式パーキングブレーキ(EPB)がある。
【0004】
また、自動変速機を備えた車両では、自動変速機の出力軸などを回転不可能にロックしたり、回転可能にアンロックしたりするためのパーキングロック機構を備えている。
【0005】
このパーキングロック機構は、近年ではバイワイヤ方式とすることが考えられている。この種のパーキングロック機構は、シフトレンジを切り替えるためのシフトレバーでパーキングレンジが選択操作されるか、あるいはパーキングスイッチがオン操作されると、モータによりパーキングロックポールが回転されて、その爪が自動変速機の出力軸に固定されたパーキングギヤに係合されることになり、これで前記出力軸が回転不可能にロックされる。
【0006】
一方、パーキングレンジからシフトレバーで非パーキングレンジが選択されるか、あるいはパーキングレンジの状態からパーキングスイッチが再度オン操作されると、モータによりパーキングロックポールが前記と反対方向に回転されて、その爪がパーキングギヤから離隔されることになり、これで前記出力軸が回転可能にアンロックされる。
【0007】
一般的に、運転者が車両を駐車するときには、シフトレバーをパーキングレンジに操作してパーキングロック機構をロックする一方で、パーキングレバーやパーキングペダルを操作してパーキングブレーキを作動させて車輪を回転不可能な状態にする。
【0008】
ところで、例えば特許文献1には、前記パーキングブレーキと、自動変速機のパーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジの4ポジションを切り替えるシフトバイワイヤシステムとを備える構成が開示されている。
【0009】
前記シフトバイワイヤシステムは、運転者のシフトレバー操作に応じてスイッチあるいはセンサから出力される信号に基づいて要求レンジを認識し、この認識結果に応じてモータによりディテント機構を作動させることによって、自動変速機の油圧制御回路のマニュアルバルブのスプールやパーキングロック機構のパーキングロッドを押し引きして、要求レンジを成立させる。
【0010】
具体的に、シフトレバーでパーキングレンジが選択された場合には、ディテント機構でパーキングロック機構を作動させて、自動変速機の出力軸を回転不可能にする。一方、非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)が選択された場合には、ディテント機構でパーキングロック機構を作動させて、自動変速機の出力軸を回転自在にするとともに、前記ディテント機構で前記マニュアルバルブのスプールを軸方向に変位させて、要求のレンジを成立させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−336717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1に係る従来例では、シフトバイワイヤシステムの異常発生を検出したときに、フェールセーフ制御を実行することが記載されているが、次のような点で改良の余地がある。
【0013】
まず、前記異常の形態としては、例えば段落0028〜0032に示されているように、回転角センサやレンジセンサの故障により実レンジと指令レンジとが不一致になる現象や、電気通信異常が発生する現象などが挙げられている。
【0014】
また、前記異常に対するフェールセーフ制御の形態としては、例えば段落0034〜0036に示されているように、例えばエンジン回転数がアイドル回転数未満かつ車速が停車速度未満である運転状況(1)だと、自動変速機をニュートラルレンジに固定するとともにパーキングブレーキを作動させるように対処し、また、例えばエンジン回転数がアイドル回転数以上、または車速が徐行速度以上である運転状況(2)だと、エンジントルクを低減させるとともに、ブレーキペダルにより作動する主ブレーキ装置を作動させるように対処している。
【0015】
つまり、特許文献1に係る従来例では、車両固定装置(例えばパーキングブレーキあるいはパーキングロック機構)が短時間に繰り返し作動されることによって、当該車両固定装置に備えるモータが過剰昇温する可能性が高くなることを見出していない。そのため、当然ながら、前記モータを保護するということを発想する必要がない。
【0016】
ところで、例えば特開2006−193147号公報に示す先行技術文献1には、ブレーキペダルからの信号に基づきモータで押圧子を押圧してロータとステータとを摩擦させて制動力を得るブレーキシステムにおいて、ブレーキペダルを押していても航空機が静止しているときにはロック部材でロータとステータとを摩擦させる状態を保持してモータへの給電を停止することにより、モータの過熱を防止することが記載されている。
【0017】
また、例えば実用新案登録第2578333号公報に示す先行技術文献2には、ドラムブレーキを用いたパーキングブレーキにおいて、車速が一定車速以上でかつブレーキ温度が一定温度以上であるときに、パーキングブレーキの解除忘れが発生していると判断し、警報動作を行うことが記載されている。
【0018】
これら先行技術文献1,2は、1種類の車両固定装置を備えているだけで、2種類の車両固定装置を備える構成にはなっていないから、当然ながら、前記2種類の車両固定装置に備えるモータが頻繁に駆動されることによって過剰昇温する可能性が高くなるといったことが発生することがない。このことから、前記先行技術文献1,2は、従来例としてではなく、単に参考例として提示している。
【0019】
このような事情に鑑み、本発明は、第1、第2の車両固定装置を備える車両のパーキングシステムにおいて、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態で第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、当該第1車両固定装置のモータを非駆動にしながら前記パーキング要求に応じて車両を固定可能にするとともに、その状態において第1車両固定装置のパーキング解除要求を受けたときに、前記第1車両固定装置のモータを非駆動にしながら前記パーキング解除要求に応じて車両を移動可能状態にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る車両のパーキングシステムは、車両を固定する状態または車両を移動可能な状態にするための第1、第2車両固定装置と、パーキング要求またはパーキング解除要求に応答して前記両装置にそれぞれ装備される駆動源としての各モータを制御する制御装置とを含み、前記制御装置は、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、第1車両固定装置のモータの代わりに第2車両固定装置のモータを駆動して車両固定状態にするパーキング動作保障処理を行う他、パーキング動作保障中において前記第1車両固定装置のパーキング解除要求を受けたときに、第1車両固定装置のモータの代わりに前記車両固定状態にしている第2車両固定装置のモータを駆動して車両移動可能状態にさせるパーキング解除動作保障処理を行う、ことを特徴としている。
【0021】
この構成では、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求やパーキング解除要求があっても、第1車両固定装置のモータを駆動させないように保護しているから、当該モータの温度を降下させることが可能になって、当該モータの熱劣化を防止できるようになるなど、耐久性向上に貢献できるようになる。しかも、パーキング解除状態(Pレンジ以外)で前記パーキング要求やパーキング解除要求を満たすように前記第1車両固定装置の代わりに第2車両固定装置を作動させるので、車両を固定する状態や移動可能な状態にすることが可能になり、運転者に不満を抱かせることが無くなる。
【0022】
好ましくは、前記制御装置は、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、第1車両固定装置がパーキング解除状態であることを条件として、前記パーキング動作保障処理を行う。
【0023】
これはつまり、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、仮に第1車両固定装置がパーキング状態になっていると、前記要求を実行する必要がないので、前記パーキング動作保障処理を行わないことを意味している。
【0024】
そして、この構成によれば、パーキング動作保障処理を行った後で、パーキング解除要求を受けてパーキング解除動作保障処理を行った場合には車両を動かすことが可能な状態になる。
【0025】
好ましくは、前記パーキング動作保障処理の実行に伴い、運転者にパーキング動作保障中であることを報知するための報知処理を行う。
【0026】
この構成では、運転者に対し、パーキング動作保障処理を実行していて要求に応じたパーキング処理が実行できていないことを認識させることが可能になる。
【0027】
好ましくは、前記モータの昇温判定は、当該モータの1回の作動による温度上昇分ΔTupに当該モータの作動回数Nupを乗算することにより、温度上昇分Tupを求める処理と、当該モータにおける非作動時の所定時間当たりの温度降下分ΔTdwnに当該モータの非作動時間tを乗算することにより、温度降下分Tdwnを求める処理と、前記温度上昇分Tupから前記温度降下分Tdwnを減算することにより、当該モータの温度上昇量ΔTを求める処理と、この温度上昇量ΔTが前記モータの動作保障温度に基づいて適宜に設定される温度上昇限界値以上である場合に前記保護必要な温度に昇温していると推定する処理とを行う形態とされる。
【0028】
この構成では、モータの昇温判定を、モータの使用状況に応じて推定するようにしている。そのため、温度センサを用いる必要がなくなり、コスト上昇を抑制するうえで有利になる。
【0029】
好ましくは、前記第1車両固定装置は、車両の変速機構の出力軸を回転不可能とする車両固定状態または前記出力軸を回転可能とする車両移動可能状態に切り替えるためのパーキングロック機構とされ、前記第2車両固定装置は、車輪が取り付けられる車軸を回転不可能とする車両固定状態または前記車軸を回転可能とする車両移動可能状態にするためのパーキングブレーキとされる。
【0030】
この構成では、第1、第2車両固定装置の具体例を挙げているから、実施形態を明確にすることが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る車両のパーキングシステムは、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求やパーキング解除要求があっても、第1車両固定装置のモータを駆動させないように保護しているから、当該モータの温度を降下させることが可能になって、当該モータの熱劣化を防止できるようになるなど、耐久性向上に貢献できるようになる。しかも、前記パーキング要求やパーキング解除要求を満たすように前記第1車両固定装置の代わりに第2車両固定装置でもって車両を固定する状態や移動可能な状態にしているから、運転者に不満を抱かせることが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る車両のパーキングシステムの一実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1のパーキングロック機構の概略構成を示す斜視図であり、アンロック状態を示している。
【図3】図1のパーキングロック機構の概略構成を示す側面図であり、アンロック状態を示している。
【図4】図1のパーキングブレーキの概略構成を示す断面図である。
【図5】図1のパーキングロック機構の操作入力系(パーキングスイッチ、シフトレバーなど)の外観を示す斜視図である。
【図6】図1に示すP−ECUによる制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】図1に示すP−ECUによるモータの温度推定処理を説明するためのグラフであり、時間経過に伴うモータの温度変化を示している。
【図8】本発明に係る車両のパーキングシステムの他実施形態で、P−ECUによる制御動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図1から図7に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、前輪駆動車、つまりフロントエンジン・フロントドライブ(FF)形式のハイブリッド車両を例示している。本発明の適用対象となるハイブリッド車両は、前輪駆動車に限らず、他の駆動方式の車両例えば後輪駆動車、四輪駆動車などとすることも可能である。
【0035】
−ハイブリッドシステムの概要−
この実施形態でのハイブリッド車両は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン1、第1および第2の第1モータジェネレータ2,3、リダクション機構4、動力分割機構5、インバータ6、HVバッテリ7、コンバータ8、補機バッテリ9などを備えている。
【0036】
これらの基本構成は公知の構成と同じとされるので、本発明と直接的に関与していない部分については簡単に説明する。
【0037】
エンジン1は、ENG−ECU(Electronic Control Unit)100によって制御される。ENG−ECU100は、アクセル開度に基づいて、スロットル開度(吸気量)、燃料噴射量、点火時期などを制御することにより、エンジン1の動作を制御する。
【0038】
第1、第2モータジェネレータ2,3は、三相交流によってロータが回転することにより動力を発生する交流同期電動機であって、電動機として機能する他、発電機としても機能する。
【0039】
第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3は、HV−ECU200によって駆動制御される。このHV−ECU200は、インバータ6を制御することにより第1、第2モータジェネレータ2,3を回生動作または力行(アシスト)動作させる。回生電力はHVバッテリ7にインバータ6を介して充電される。
【0040】
なお、リダクション機構4に連結される第1モータジェネレータ2は、主として電動機として動作するため、単に「モータ」と呼ばれることがある。また、動力分割機構5に連結される第2モータジェネレータ3は、概ね発電機として動作することが多いため、単に「ジェネレータ」と呼ばれることがある。第2モータジェネレータ3は、エンジン1の始動時にクランキングを行うスタータモータとしても機能する。
【0041】
リダクション機構4は、例えば公知の遊星歯車機構で構成されており、エンジン1や第1、第2モータジェネレータ2,3で発生した動力をデファレンシャル10および車軸12を介して駆動輪(この実施形態では前輪)11に前進駆動力や後進駆動力として伝達したり、駆動輪11の回転力をエンジン1や第1、第2モータジェネレータ2,3に伝達したりする。
【0042】
動力分割機構5は、例えば公知の遊星歯車機構で構成されており、エンジン1で発生する動力を第1モータジェネレータ2の回転軸(駆動輪11に連結)と第2モータジェネレータ3の回転軸とに分配する。参考までに、動力分割機構5の各構成要素のうち、リングギヤが第1モータジェネレータ2の回転軸に結合され、サンギヤが第2モータジェネレータ3の回転軸に結合され、キャリアがエンジン1の出力軸に結合される。この動力分割機構5は、第1モータジェネレータ2の回転数を制御することにより、無段変速機としても機能する。
【0043】
インバータ6は、HVバッテリ7の直流電流と第1モータジェネレータ2や第2モータジェネレータ3の3相交流電流との変換を行う電力交換装置である。HVバッテリ7は、第1、第2モータジェネレータ2,3を駆動するための電力を蓄電する。コンバータ8は、インバータ6の直流側に接続され、高電圧の直流を低電圧(例えば12V)に降圧して補機バッテリ9の充電を行うDC−DCコンバータである。インバータ6およびコンバータ8は、HV−ECU200によって駆動制御される。HV−ECU200は、駆動輪11の回転速度を検出する車輪速センサ13の出力に基づいて車速を認識する。補機バッテリ9は、図示していないが、照明、オーディオ機器、エアコン用コンプレッサ、ならびに各ECU100〜500などに電力を供給する。
【0044】
そして、このハイブリッドシステムでは、要求トルク、目標エンジン出力、目標モータトルクなどに基づいて、エンジン1および第1モータジェネレータ2のいずれか一方もしくは双方を動力源として駆動輪11を駆動する制御を行う。例えば、発進時や低速走行時のようにエンジン効率が低くなる領域では、エンジン1を停止させて第1モータジェネレータ2のみの動力で駆動輪11を駆動する。また、通常走行時には、エンジン1を作動させてそのエンジン1の動力で駆動輪11を駆動する。さらに、全開加速等の高負荷時には、エンジン1の動力に加えて、HVバッテリ7から第1モータジェネレータ2に電力を供給して第1モータジェネレータ2による動力を補助動力として追加する。
【0045】
−パーキングロック機構20の説明−
パーキングロック機構20は、バイワイヤ方式であり、リダクション機構4の出力軸4a(例えばカウンタードライブギアなど)を回転可能にアンロックするパーキング解除状態や、回転不可能にロックするパーキング状態にする。
【0046】
このパーキングロック機構20は、図1から図3に示すように、操作入力部(パーキングスイッチ21と、シフトレバー22およびレンジポジションセンサ23とを含む)、パーキングギヤ24、パーキングロックポール25、パーキングロッド26、パーキングアクチュエータ30、P−ECU300などを備えている。
【0047】
パーキングスイッチ21およびシフトレバー22は、例えば図5に示すように、運転席近傍に設置される。パーキングスイッチ21は、プッシュスイッチなどとされ、運転者による手動操作の度にパーキングレンジの要求信号をP−ECU300に入力する。パーキングレンジを要求すると、パーキングスイッチ21に設置される表示灯21aに表示して運転者に報知する。シフトレバー22は、図5に示すように、操作起点となるホームポジションからニュートラルレンジポジション(N)、リバースレンジポジション(R)、ドライブレンジポジション(D)、エンジンブレーキポジション(B)へと変位操作可能になっており、操作後にホームポジションに自動的に戻る。このシフトレバー22が運転者により操作されると、その操作位置に応じたレンジポジションをレンジポジションセンサ23が検出し、ニュートラルレンジの要求信号、リバースレンジの要求信号、ドライブレンジの要求信号、エンジンブレーキの要求信号などをP−ECU300に入力する。P−ECU300はシフトレバー22で要求されたレンジをメーターパネル内に設置される表示部14に表示して運転者に報知する。
【0048】
パーキングギヤ24は、リダクション機構4の出力軸4aの外周に一体形成または固定されている。パーキングロックポール25は、パーキングギヤ24の歯間に係合または離隔するロック爪25aが設けられている。パーキングロッド26には、パーキングロックポール25を傾動させるためのテーパコーン形状のカム27が設けられている。
【0049】
パーキングアクチュエータ30は、ディテントプレート31、モータ32、減速機構33、ディテントスプリング34などを備えている。
【0050】
ディテントプレート31には、マニュアルシャフト35が一体回転可能に取り付けられているとともに、パーキングロッド26が固定されている。マニュアルシャフト35の軸方向一端側は、モータ32の出力軸あるいは減速機構33の回転軸に同軸かつ一体回転可能に例えばスプライン結合されている。これにより、モータ32でディテントプレート31を回転させると、パーキングロッド26が押し引きされるようになる。ディテントプレート31の外形は、例えば扇形に形成されており、その所定領域には、2個の谷31a,31bが形成されている。ディテントスプリング34の自由端側に回転自在に取り付けられているローラ36は、ディテントプレート31の2個の谷31a,31bのいずれかに係合されることで、ディテントプレート31が回転停止したときにディテントプレート31をほぼ不動に保持する。
【0051】
モータ32は、例えばスイッチドリラクタンスモータ(SRモータ)等の同期モータとされている。このモータ32には、そのロータの回転角を検出するためのエンコーダ37が設けられている。このエンコーダ37は、例えば磁気式のロータリエンコーダとされており、モータ32のロータの回転に同期してパルス信号をP−ECU300に出力する。P−ECU300は、モータ32への通電を開始してから、エンコーダ37からの出力カウント値(検出回転角)が、目標回転角範囲(目標カウント値)に入るまでモータ32をフィードバック制御する。P−ECU300は、マニュアルシャフト35の回転角を検出するニュートラルスタートスイッチ38からの出力に基づいて実レンジを認識する。
【0052】
このパーキングロック機構20の動作を説明する。
【0053】
まず、パーキングロック機構20の非作動状態つまりアンロック状態において、運転者によりパーキングスイッチ21が押圧操作されると、このパーキングスイッチ21からパーキングレンジ要求信号が出力される。このパーキングレンジ要求信号がP−ECU300に入力されると、P−ECU300は、パーキングレンジ要求信号に応答して、モータ32を駆動してディテントプレート31を所定角度回転させることによりパーキングロッド26をパーキングロックポール25に接近する方向に押す。これにより、カム27の大径側がパーキングロックポール25を押し上げてロック爪25aをパーキングギヤ24に係合させる。これにより、パーキングギヤ24およびリダクション機構4の出力軸4aが回転不可能にロックされて、車両が固定状態(パーキングレンジ)になる。
【0054】
一方、運転者によりシフトレバー22が非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)に切り替え操作されると、レンジポジションセンサ23から非パーキングレンジ要求信号(リバースレンジ要求信号、ニュートラルレンジ要求信号、ドライブレンジ要求信号)が出力される。この非パーキングレンジ要求信号がP−ECU300に入力されると、P−ECU300は、この非パーキングレンジ要求信号に応答して、モータ32を駆動してディテントプレート31を前記と逆向きに所定角度回転させることによりパーキングロッド26をパーキングロックポール25から離す方向に引く。これにより、カム27の小径部分がパーキングロックポール25を下げてロック爪25aをパーキングギヤ24から抜き出す。これにより、パーキングギヤ24およびリダクション機構4の出力軸4aが回転可能にアンロックされて、車両が移動可能な状態(非パーキングレンジ)になる。
【0055】
なお、非パーキングレンジのうち、リバースレンジおよびドライブレンジが要求されると、公知のように、動力分割機構5やリダクション機構6を制御することにより、エンジン1や第1、第2モータジェネレータ2,3から発生する動力を前進駆動力や後進駆動力として駆動輪11に伝達させる。
【0056】
−ブレーキシステム40の説明−
この実施形態でのブレーキシステム40は、電子制御式の油圧ブレーキシステム(ECB)と呼ばれるものであり、ブレーキ操作部としてのブレーキペダル41、マスターシリンダ42、ブレーキペダル41の操作量を検出するためのストロークシミュレータ43、駆動輪11に制動力を付与するための制動力発生部としてのディスクロータ44およびブレーキキャリパ45、ブレーキパッド47を作動させるためのブレーキアクチュエータ46、ECB−ECU400などを備えている。
【0057】
ディスクロータ44は、駆動輪11(および図示していない従動輪)が取り付けられる車軸12に固定される。前記制動力発生部は、ディスクブレーキ構造とされているが、ドラムブレーキ構造とすることも可能である。
【0058】
ブレーキキャリパ45は、例えば図4に示すように、キャリパケース451内にブレーキパッド47が組み込まれているとともに、キャリパケース451のシリンダ452内にピストン453が組み込まれた構成である。
【0059】
ブレーキアクチュエータ46は、公知であるので詳細に図示していないが、油圧源(ポンプモータ、アキュームレータなど)、ブレーキ油圧調圧用のリニアソレノイドバルブ、システム制御停止時の油圧バックアップ用の切り替えソレノイドバルブなどを備えており、ブレーキキャリパ45の油圧室454にライン油圧および制御油圧を供給するようになっている。
【0060】
このブレーキシステム40の動作を説明する。ECB−ECU400は、運転者によるブレーキペダル41の踏み込み操作量をストロークシミュレータ43から入力される電気信号に基づいて認識し、この認識結果や車速情報などを総合的に判断してブレーキアクチュエータ46を制御することによりブレーキキャリパ45のブレーキパッド47を作動させる。
【0061】
例えば油圧室454に供給される制御油圧でピストン453をスライドさせることによりブレーキパッド47をディスクロータ44に圧接させると、制動力を発生することになる一方、ブレーキパッド47をディスクロータ44から離隔させると、制動力が消失することになる。なお、ECB−ECU400は、前記した通常ブレーキ制御の他に、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御などを行う。
【0062】
−パーキングブレーキ50の説明−
パーキングブレーキ50は、前記したブレーキシステム40のブレーキキャリパ45による制動力を利用した電子制御式パーキングブレーキ(EPB)と呼ばれるものであり、パーキングブレーキスイッチ51、パーキングブレーキアクチュエータ52、EPB−ECU500などを備えている。
【0063】
パーキングブレーキアクチュエータ52は、図4に示すように、スリーブナット53、アジャスティングボルト54、減速機構55、モータ56などを備えている。スリーブナット53、アジャスティングボルト54は、送りねじを構成しており、ブレーキキャリパ45のキャリパケース451内に組み込まれている。そして、モータ56を駆動することにより正回転動力あるいは逆回転動力を発生させると、減速機構55を介してアジャスティングボルト54が軸方向一方または他方へ旋回スライドされるようになる。これにより、アジャスティングボルト54がピストン453を押圧すると、ブレーキパッド47がディスクロータ44に圧接させられることになるので、制動力が発生し、車両が固定される状態になる。一方、アジャスティングボルト54がピストン453から離隔すると、ブレーキパッド47がディスクロータ44から離隔させられることになるので、制動力が消失し、車両が移動可能な状態になる。
【0064】
このパーキングブレーキ50の動作を説明する。EPB−ECU500は、パーキングブレーキスイッチ51から入力されるパーキングブレーキ要求に応答して、モータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44に圧接させることによりディスクロータ44を回転不可能にする。この状態がパーキングブレーキ状態である。
【0065】
一方、EPB−ECU500は、パーキングブレーキスイッチ51から入力されるパーキングブレーキ解除要求に応答して、モータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を前記と逆向きに旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44から離隔させることによりディスクロータ44を回転可能にする。この状態がパーキングブレーキ解除状態である。
【0066】
−制御系の説明−
ENG−ECU100、HV−ECU200、P−ECU300、ECB−ECU400、EPB−ECU500は、いずれも、主としてCPU、ROM、RAM等を有する公知の構成である。ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。この各ECU100〜500に接続しているセンサやスイッチは、本発明に直接的に関係するもののみにしている。
【0067】
なお、これらのECU100,200,300,400,500は、それぞれが通信可能に接続されており、制御内容に応じて情報を送受信して協調制御することが可能になっている。この実施形態では、P−ECU300およびEPB−ECU500が、本発明に係るブレーキシステムにおける制御装置に相当している。但し、これらのECU100,200,300,400,500を単一の統括的な制御装置として構成することが可能であり、その場合には、この単一の統括的な制御装置が本発明に係るブレーキシステムにおける制御装置に相当することになる。
【0068】
−本発明を適用した制御の説明−
この実施形態では、要するに、パーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度に昇温している状態において、パーキングロック機構20をロックするためのパーキングレンジ要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を固定状態にするパーキング動作保障処理を行う他、このパーキング動作保障中においてパーキングロック機構20をアンロックするための非パーキングレンジ要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりに前記車両固定状態にしているパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を移動可能な状態にするパーキング解除動作保障処理を行うようにしている。
【0069】
具体的に、図6を参照して、P−ECU300が実行する制御の一例について説明する。図6に示すフローチャートは、例えば図示していないイグニッションスイッチ(電源)がオンされてから所定時間(数msec)毎に繰り返し実行される。
【0070】
まず、ステップS1において、パーキングロック機構20のパーキングレンジが要求されているか否かを判定する。ここでは、パーキングスイッチ21がオン操作されることによりパーキングレンジの要求信号が入力されたかどうかを調べる。
【0071】
このステップS1で肯定判定した場合つまりパーキングレンジが要求されている場合には、ステップS2〜S7の処理に移行する。一方、ステップS1で否定判定した場合つまりパーキングレンジが要求されていない場合には、ステップS10〜S13の処理に移行する。
【0072】
先にステップS2〜S7の処理を説明する。ステップS2では、実レンジが非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)であるか否かを判定する。
【0073】
このステップS2で否定判定した場合つまりパーキングレンジである場合には、レンジ切り替えする必要がないので、このフローチャートを終了する。一方、前記ステップS2で肯定判定した場合つまり非パーキングレンジ(パーキング解除状態)である場合には、続くステップS3において、パーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度以上、言い換えるとモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上であるか否かを判定する。ここでは、モータ32の使用状況に基づいてモータ32の温度上昇量を推定し、この推定結果に基づいて前記判定を行うようにしている。
【0074】
前記温度推定方法の一例を説明する。モータ32の1回の作動による温度上昇分ΔTupにモータ32の作動回数Nupを乗算することにより、温度上昇分Tupを求める。モータ32における非作動時の所定時間当たりの温度降下分ΔTdwnにモータ32の非作動時間tを乗算することにより、温度降下分Tdwnを求める。温度上昇分Tupから温度降下分Tdwnを減算することにより、モータ32の温度上昇量ΔTを求める。この温度上昇量ΔTがモータ32の保護開始用の閾値Ntlmt以上である場合にモータ32が前記保護必要な状態であると判定する。この保護開始用の閾値Ntlmtは、モータ32の温度上昇限界値に設定される。
【0075】
そして、前記ステップS3で否定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上でない場合には、モータ32を保護する必要がないので、ステップS7に移行して、要求されたレンジに切り替える処理を行ってから、このフローチャートを終了する。
【0076】
しかし、前記ステップS3で肯定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上である場合には、モータ32を保護する必要があるので、ステップS4において、パーキングレンジ要求をリジェクトして、パーキングロック機構20のモータ32を駆動することなく、実レンジである非パーキングレンジを保持する。
【0077】
この後、ステップS5において、パーキングレンジ要求をリジェクトしたことを意味する報知処理を行う。この報知処理としては、例えば警告音を出力させること、警告灯を点灯させること、あるいは「パーキングレンジ要求をリジェクトしたので、車両を平坦路に止めてください」と要請する意味のメッセージを表示部14に表示させることなどが挙げられる。この報知処理は、車両を固定しているものの、運転者の要求どおりにパーキングレンジにできていないので、万一の車両移動を避けるための措置を運転者に行ってもらうために行う。
【0078】
引き続き、ステップS6において、パーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50を作動させることにより車両を固定するパーキング動作保障処理を行うとともに、このパーキング動作保障処理の実行フラグを「1」にセットしてから、このフローチャートを終了する。
【0079】
なお、前記パーキング動作保障処理とは、パーキングブレーキ50のモータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44に圧接させることによりディスクロータ44を回転不可能な状態つまり車両を固定した状態にする。
【0080】
次に、前記ステップS10〜S13の処理を説明する。ステップS10では、パーキングロック機構20の非パーキングレンジが要求されているか否かを判定する。ここでは、シフトレバー22が操作されてレンジポジションセンサ23から非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)の要求信号が入力されたか否かを調べる。
【0081】
このステップS10で否定判定した場合つまり非パーキングレンジが要求されていない場合には、このフローチャートを終了する。一方、前記ステップS10で肯定判定した場合つまり非パーキングレンジが要求されている場合には、ステップS11に移行して、実レンジがパーキングレンジであるか否かを判定する。
【0082】
このステップS11で肯定判定した場合つまりパーキングレンジである場合には、前記したステップS7に移行して、要求されたレンジに切り替える処理を行ってから、このフローチャートを終了する。
【0083】
一方、前記ステップS11で否定判定した場合つまり非パーキングレンジ(パーキング解除状態)である場合には、ステップS12に移行する。
【0084】
このステップS12では、パーキング動作保障中か否かを判定する。ここでは、前記パーキング動作保障処理の実行フラグが「1」であるか否かを調べることにより判定する。
【0085】
このステップS12で否定判定した場合つまりパーキング動作保障中でない場合には、非パーキングレンジのときに非パーキングレンジ要求を受けたことになるので、このフローチャートを終了する。
【0086】
しかし、前記ステップS12で肯定判定した場合つまりパーキング動作保障中である場合には、ステップS13に移行する。このステップS13では、車両を移動可能な状態にするパーキング解除動作保障処理を行うとともに、パーキング動作保障処理の実行フラグを「0」にリセットしてから、このフローチャートを終了する。
【0087】
なお、前記パーキング解除動作保障処理とは、パーキングロック機構20の代わりに現在パーキング状態にしているパーキングブレーキ50のモータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を前記と逆向きに旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44から離隔させることによりディスクロータ44を回転可能なパーキング解除状態にする。
【0088】
ここで、図7を参照して、パーキングロック機構20のモータ32の温度が上昇する傾向や、このモータ32の保護に伴うモータ32の温度が降下する様子を説明する。
【0089】
つまり、パーキングロック機構20に対するパーキングレンジ要求と非パーキングレンジ要求とが連続的に入力されたとすると、要求の切り替え回数に応じて当該モータ32の温度が徐々に上昇することになる。
【0090】
このとき、モータ32を非駆動として保護しなければ、図7中の二点鎖線で示すようにモータ32の温度が上昇し続ける。しかしながら、この実施形態では、モータ32の温度上昇分がモータ保護開始用の閾値Ntlmt以上になると、パーキングロック機構20に対するパーキングレンジ要求あるいは非パーキングレンジ要求を受けても、当該要求をリジェクトすることによりモータ32を駆動させないように保護する。
【0091】
このような保護を開始してから所定時間が経過すると、モータ32の温度が降下することになる。これにより、モータ32の温度が保護解除用の閾値Ntrls以下になった状態で、パーキングロック機構20に対するパーキングレンジ要求あるいは非パーキングレンジ要求を受けると、当該要求を受け入れて、当該要求を成立させるための処理を実行する。しかし、前記要求がなければ、モータ32の温度がさらに降下することになる。
【0092】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、パーキングロック機構20が非パーキングレンジ(パーキング解除状態)になっている状態でかつパーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度に昇温している状態において、パーキングロック機構20をロックするためのパーキングレンジ要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を固定状態にするパーキング動作保障処理を行う他、このパーキング動作保障中においてパーキングロック機構20をアンロックするための非パーキングレンジ要求を受けたときに、パーキングロック機構20の代わりに前記車両固定状態にしているパーキングブレーキ50のモータ56を駆動して車両を移動可能な状態にするパーキング解除動作保障処理を行うようにしている。
【0093】
これにより、パーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度に昇温している場合に、パーキングロック機構20のパーキング要求やパーキング解除要求を受けてもパーキングロック機構20のモータ32を駆動させないように保護しているから、モータ32の温度を降下させることが可能になって、モータ32の熱劣化を防止できるようになるなど、耐久性向上に貢献できるようになる。しかも、パーキング解除状態(Pレンジ以外)で前記パーキング要求やパーキング解除要求を満たすようにパーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50を作動させるので、車両を固定する状態や移動可能な状態にすることが可能になり、運転者に不満を抱かせることが無くなる。
【0094】
この他、上記実施形態では、パーキングロック機構20のモータ32を保護してパーキングブレーキ50でパーキング動作保障処理の実行後において、モータ32の温度が十分に降下すると、パーキングロック機構20に対するパーキングレンジ要求あるいは非パーキングレンジ要求を受けたときに、当該要求どおりにパーキングロック機構20を作動させる処理に復帰できる(図6のステップS3からステップS7への流れ)。これにより、パーキングブレーキ50のモータ56を必要以上に駆動せずに済むようになるなど、このモータ56に極力負担をかけないようにすることが可能になる。
【0095】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0096】
(1)上記実施形態では、ハイブリッドシステムを搭載した車両を例に挙げているが、本発明は、例えば駆動源としてエンジンのみを備える車両やモータのみを備える車両に対しても適用可能である。
【0097】
(2)図8を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。この実施形態では、上記実施形態で提示した図6のステップS1−S6をS21−S26に、また、S7をS28に、S10−S13をS30−S33にそれぞれ変更しており、さらにステップS28の前に新たな処理としてステップS27を追加し、ステップS31で肯定判定したときに新たな処理としてステップS34〜S36を追加している。
【0098】
具体的に、図8を参照して、P−ECU300が実行する制御の一例について説明する。図8に示すフローチャートは、例えば図示していないイグニッションスイッチ(電源)がオンされてから所定時間(数msec)毎に繰り返し実行される。
【0099】
まず、ステップS21において、パーキングロック機構20のパーキングレンジが要求されているか否かを判定する。ここでは、パーキングスイッチ21がオン操作されることによりパーキングレンジの要求信号が入力されたかどうかを調べる。
【0100】
このステップS21で肯定判定した場合つまりパーキングレンジが要求されている場合には、ステップS22〜S28の処理に移行する。一方、ステップS21で否定判定した場合つまりパーキングレンジが要求されていない場合には、ステップS30〜S36の処理に移行する。
【0101】
先にステップS22〜S28の処理を説明する。ステップS22では、実レンジが非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)であるか否かを判定する。
【0102】
このステップS22で否定判定した場合つまりパーキングレンジである場合には、レンジ切り替えする必要がないので、このフローチャートを終了する。一方、前記ステップS22で肯定判定した場合つまり非パーキングレンジ(パーキング解除状態)である場合には、続くステップS23において、パーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度以上、言い換えるとモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上であるか否かを判定する。ここでは、モータ32の使用状況に基づいてモータ32の温度上昇量を推定し、この推定結果に基づいて前記判定を行うようにしている。
【0103】
前記温度推定方法の一例を説明する。モータ32の1回の作動による温度上昇分ΔTupにモータ32の作動回数Nupを乗算することにより、温度上昇分Tupを求める。モータ32における非作動時の所定時間当たりの温度降下分ΔTdwnにモータ32の非作動時間tを乗算することにより、温度降下分Tdwnを求める。温度上昇分Tupから温度降下分Tdwnを減算することにより、モータ32の温度上昇量ΔTを求める。この温度上昇量ΔTがモータ32の保護開始用の閾値Ntlmt以上である場合にモータ32が前記保護必要な状態であると判定する。この保護開始用の閾値Ntlmtは、モータ32の温度上昇限界値に設定される。
【0104】
そして、前記ステップS23で肯定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上である場合には、モータ32を保護する必要があるので、ステップS24において、パーキングレンジ要求をリジェクトして、パーキングロック機構20のモータ32を駆動することなく、実レンジである非パーキングレンジを保持する。
【0105】
この後、ステップS25において、パーキングレンジ要求をリジェクトしたことを意味する報知処理を行う。この報知処理としては、例えば警告音を出力させること、警告灯を点灯させること、あるいは「パーキングレンジ要求をリジェクトしたので、車両を平坦路に止めてください」と要請する意味のメッセージを表示部14に表示させることなどが挙げられる。この報知処理は、車両を固定しているものの、運転者の要求どおりにパーキングレンジにできていないので、万一の車両移動を避けるための措置を運転者に行ってもらうために行う。引き続き、ステップS26において、パーキングロック機構20の代わりにパーキングブレーキ50を作動させることにより車両を固定するパーキング動作保障処理を行うとともに、このパーキング動作保障処理の実行フラグを「1」にセットしてから、このフローチャートを終了する。
【0106】
なお、前記パーキング動作保障処理とは、パーキングブレーキ50のモータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44に圧接させることによりディスクロータ44を回転不可能な状態つまり車両を固定した状態にする。
【0107】
一方、前記ステップS23で否定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上でない場合には、下記ステップS27に移行して、パーキングロック機構20のモータ32が保護不要な温度以下、言い換えるとモータ32の温度が保護解除用の閾値Ntrls以下であるか否かを判定する。この保護解除用の閾値Ntrlsは、前記保護開始用の閾値Ntlmtから適宜のマージンを減算した動作保障値として設定される。
【0108】
このステップS27で肯定判定した場合つまりモータ32の温度が保護解除用の閾値Ntrls以下である場合には、モータ32を保護する必要がないので、続くステップS28に移行して、要求されたレンジに切り替える処理を行ってから、このフローチャートを終了する。しかし、前記ステップS27で否定判定した場合つまりモータ32の温度が保護解除用の閾値Ntrls以下でない場合には、このフローチャートを終了する。
【0109】
次に、前記ステップS30〜S36の処理を説明する。ステップS30では、パーキングロック機構20の非パーキングレンジが要求されているか否かを判定する。ここでは、シフトレバー22が操作されてレンジポジションセンサ23から非パーキングレンジ(リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ)の要求信号が入力されたか否かを調べる。
【0110】
このステップS30で否定判定した場合つまり非パーキングレンジが要求されていない場合には、このフローチャートを終了する。一方、前記ステップS30で肯定判定した場合つまり非パーキングレンジが要求されている場合には、ステップS31に移行して、実レンジがパーキングレンジであるか否かを判定する。
【0111】
このステップS31で否定判定した場合つまり非パーキングレンジ(パーキング解除状態)である場合には、ステップS32,S33の処理に移行するが、前記ステップS31で肯定判定した場合つまりパーキングレンジである場合には、ステップS34〜S36の処理に移行する。
【0112】
先にステップS32では、パーキング動作保障中か否かを判定する。ここでは、前記パーキング動作保障処理の実行フラグが「1」であるか否かを調べることにより判定する。
【0113】
このステップS32で否定判定した場合つまりパーキング動作保障中でない場合には、非パーキングレンジのときに非パーキングレンジ要求を受けたことになるので、このフローチャートを終了する。一方、前記ステップS32で肯定判定した場合つまりパーキング動作保障中である場合には、ステップS33に移行する。このステップS33では、車両を移動可能な状態にするパーキング解除動作保障処理を行うとともに、パーキング動作保障処理の実行フラグを「0」にリセットしてから、このフローチャートを終了する。
【0114】
なお、前記パーキング解除動作保障処理とは、パーキングロック機構20の代わりに現在パーキング状態にしているパーキングブレーキ50のモータ56を駆動することによりアジャスティングボルト54を前記と逆向きに旋回スライドさせて、ブレーキパッド47をディスクロータ44から離隔させることによりディスクロータ44を回転可能なパーキング解除状態にする。
【0115】
次に、前記ステップS34〜S36の処理を説明する。ステップS34では、前記ステップS23と同様にパーキングロック機構20のモータ32が保護必要な温度以上、言い換えるとモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上であるか否かを判定する。
【0116】
このステップS34で否定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上でない場合には、モータ32を保護する必要がないので、前記したステップS27に移行する。
【0117】
一方、前記ステップS34で肯定判定した場合つまりモータ32の温度が保護開始用の閾値Ntlmt以上である場合には、モータ32を保護する必要があるので、続くステップS35において、非パーキングレンジ要求をリジェクトしてパーキングロック機構20のモータ32を駆動することなく、実レンジであるパーキングレンジを保持する。この後、ステップS36において、非パーキングレンジ要求をリジェクトしたことを意味する報知処理を行う。
【0118】
この報知処理としては、例えば警告音を出力させること、警告灯を点灯させること、「非パーキングレンジ要求をリジェクトしました」といったメッセージを表示部14に表示させることなどが挙げられる。この後、このフローチャートを終了する。
【0119】
(3)上記実施形態では、図6のフローチャートのステップS3や図8のフローチャートのステップS23で、モータ32の温度上昇の判定処理について、温度センサを用いずに、モータ32の使用状況から推定した温度上昇量を用いて行うようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばモータ32の温度を検出する温度センサを用いて、前記ステップS3,S23の判定処理を行うようにすることが可能である。
【0120】
(4)上記実施形態では、パーキングロック機構20のモータ32の過剰昇温を回避するように保護したうえで、パーキングブレーキ50でパーキング動作やパーキング解除動作を保障する形態を例に挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば上記実施形態とは反対に、パーキングブレーキ50のモータ56の過剰昇温を回避するように保護したうえで、パーキングロック機構20でパーキング動作やパーキング解除動作を保障する形態とすることも可能である。
【符号の説明】
【0121】
4a リダクション機構の出力軸
11 駆動輪
12 車軸
20 パーキングロック機構
21 パーキングスイッチ
22 シフトレバー
23 レンジポジションセンサ
24 パーキングギヤ
25 パーキングロックポール
26 パーキングロッド
30 パーキングアクチュエータ
31 ディテントプレート
32 パーキングロック機構のモータ
40 ブレーキシステム
41 ブレーキペダル
42 マスターシリンダ
43 ストロークシミュレータ
44 ディスクロータ
45 ブレーキキャリパ
46 ブレーキアクチュエータ
47 ブレーキパッド
50 パーキングブレーキ
51 パーキングスイッチ
52 パーキングブレーキアクチュエータ
56 パーキングブレーキのモータ
300 P−ECU
500 EPB−ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を固定する状態または車両を移動可能な状態にするための第1、第2車両固定装置と、パーキング要求またはパーキング解除要求に応答して前記両装置にそれぞれ装備される駆動源としての各モータを制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、第1車両固定装置のモータの代わりに第2車両固定装置のモータを駆動して車両固定状態にするパーキング動作保障処理を行う他、
パーキング動作保障中において前記第1車両固定装置のパーキング解除要求を受けたときに、第1車両固定装置のモータの代わりに前記車両固定状態にしている第2車両固定装置のモータを駆動して車両移動可能状態にさせるパーキング解除動作保障処理を行う、ことを特徴とする車両のパーキングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のパーキングシステムにおいて、
前記制御装置は、第1車両固定装置のモータが保護必要な温度に昇温している状態において、第1車両固定装置のパーキング要求を受けたときに、第1車両固定装置がパーキング解除状態であることを条件として、前記パーキング動作保障処理を行う、ことを特徴とする車両のパーキングシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両のパーキングシステムにおいて、
前記制御装置は、前記パーキング動作保障処理の実行に伴い、運転者にパーキング動作保障中であることを報知するための報知処理を行う、ことを特徴とする車両のパーキングシステム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の車両のパーキングシステムにおいて、
前記モータの昇温判定は、当該モータの1回の作動による温度上昇分ΔTupに当該モータの作動回数Nupを乗算することにより、温度上昇分Tupを求める処理と、
当該モータにおける非作動時の所定時間当たりの温度降下分ΔTdwnに当該モータの非作動時間tを乗算することにより、温度降下分Tdwnを求める処理と、
前記温度上昇分Tupから前記温度降下分Tdwnを減算することにより、当該モータの温度上昇量ΔTを求める処理と、
この温度上昇量ΔTが前記モータの動作保障温度に基づいて適宜に設定される温度上昇限界値以上である場合に前記保護必要な温度に昇温していると推定する処理とを行う形態とされる、ことを特徴とする車両のパーキングシステム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の車両のパーキングシステムにおいて、
前記第1車両固定装置は、車両の変速機構の出力軸を回転不可能とする車両固定状態または前記出力軸を回転可能とする車両移動可能状態に切り替えるためのパーキングロック機構とされ、
前記第2車両固定装置は、車輪が取り付けられる車軸を回転不可能とする車両固定状態または前記車軸を回転可能とする車両移動可能状態にするためのパーキングブレーキとされる、ことを特徴とする車両のパーキングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245935(P2011−245935A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119534(P2010−119534)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】