説明

車両のフロントピラー構造

【課題】車両前方側からフロントピラーが衝突荷重を受けた場合に、衝突体への反力を緩和させる車両のフロントピラー構造を提供する。
【解決手段】車両上下方向に延設された中空形状のピラー本体19の内方にリンフォース21を配設した車両のフロントピラー構造において、前記リンフォース21は、車両前方に突出する凸部31と、該凸部31の左右両側に凸部31に連なって形成され、車両後方に向けて湾曲する右側湾曲部33および左側湾曲部35とを備え、これら湾曲部33,35の後端部と該後端部の後方側に配置されたピラー本体19の後端面47とを所定距離分だけ離間させている。これによって、前記ピラー本体19に前方から衝突荷重Pが入力されてリンフォース21の凸部31に伝達された場合に、湾曲部33,35が変形して後方移動するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントピラー構造に関し、更に詳しくは、内部にリンフォースを配設したフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体のピラー内部にリンフォースを配設することによって、ピラーの剛性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
この特許文献1に記載されたピラー構造では、アウタパネルとインナパネルとから中空形状のフロントピラーを構成し、該フロントピラーの内部にリンフォースを配置している。
【特許文献1】特開2003−205858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記背景技術に示された車両のフロントピラー構造では、フロントピラーを構成するアウタパネルの内面側にリンフォースを当接させた状態で配設しているため、車両前方側のアウタパネルの剛性が大きくなる。従って、衝突体が車両前方からフロントピラーに衝突してフロントピラーが衝突荷重が入力された場合に、衝突体が大きな反力を受けるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、車両前方側からフロントピラーが衝突荷重を受けた場合に、衝突体への反力を緩和させる車両のフロントピラー構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、車両上下方向に沿って中空形状のピラー本体を配設し、該ピラー本体の内方にリンフォースを配設した車両のフロントピラー構造において、前記リンフォースは、車両前方に向けて凸状に突き出た凸部と、該凸部の左右両側に一対に配設され、車両後方に向けて湾曲する湾曲部とを備え、該湾曲部の後端部と該後端部の後方側のピラー本体とを所定距離分だけ離間させたことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両のフロントピラー構造によれば、衝突体がフロントピラーに対して車両前方から衝突した場合に、この衝突体に対する反力を低く抑えることができる。
【0008】
詳細に説明すると、衝突体がフロントピラーに対して車両前方から衝突すると、ピラー本体の前面が変形しながら車両後方に移動してリンフォースの凸部を押す。該凸部の左右両側には、湾曲部が一対に設けられているため、湾曲部が変形をしながら凸部が後方移動する。従って、衝突体に対する反力は、急激に上昇することがなく、徐々に反力が大きくなるので、衝突体に過度な衝撃を与えずにすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1実施形態によるフロントピラーを備えた車体全体を示す斜視図、図2は図1のフロントピラーおよびセンターピラーを左側方から見た側面図である。
【0011】
車体1の前部には、エンジンルーム3が配設されており、該エンジンルーム3は、ダッシュパネル5を介して車室内部7と分離して設けられている。また、車体1の側部には、ボディサイドパネル9が配設されており、該ボディサイドパネル9の前端には、車両上下方向(具体的には、図2に示すように車両後方斜め上方)に沿って延びるフロントピラー11が配設され、前後方向中央部には、上下方向に沿って延びるセンターピラー13が配設されている。
【0012】
図3は、図2のA−Aによる拡大断面図である。
【0013】
本実施形態によるフロントピラー11は、車両前方側に配置されたアウター部材15および車両後方側に配置されたインナー部材17からなる中空形状のピラー本体19と、該ピラー本体19の内部に収容配置されたリンフォース21とを備えている。
【0014】
前記アウター部材15は、左右両端部に車幅方向に延びるフランジ23,25が形成され、前記インナー部材17にも、左右両端部に車幅方向に延びるフランジ27,29が形成されている。また、前記アウター部材15の断面形状は、左右両端のフランジ同士23,25を結ぶように車両前方に向けて凸状に形成されており、前記インナー部材17の断面形状は、左右両端のフランジ同士27,29を結ぶように車両後方に向けて凸状に形成されている。
【0015】
前記リンフォース21は、車幅方向中央側に配置されて車両前方に向けて突出する凸部31と、該凸部31の左右両側に凸部31に連なって形成された、左右一対の湾曲部33,35と、該湾曲部33,35の左右両端部を屈曲させて湾曲部33,35の脇に車幅方向に延びるフランジ部37,39とから一体に形成されている。
【0016】
前記凸部31は、車両前方側に配置されて平面状に形成された平面部41と、該平面部41の左右両端から車両後方に向けて延設された側面部43,45とから構成されている。
【0017】
前記左右の湾曲部33,35のうち、車両右側に配置された右側湾曲部33は、断面形状が曲率半径r1に設定された断面円弧状に形成されており、右側湾曲部33の右端部は、車幅方向に沿って延びるフランジ部37,39に形成されている。また、車両左側に配置された左側湾曲部35は、断面形状が曲率半径r2に設定された断面円弧状に形成されており、左側湾曲部35の左端部は、車幅方向に沿って延びるフランジ部39に形成されている。これらの右側湾曲部33の後端部および左側湾曲部35の後端部は、インナー部材17の後端面47から所定距離分だけ離間して配置されている。
【0018】
ここで、曲率半径r1,r2は、リンフォース21のフランジ部37,39と凸部31の平面部41との前後方向距離H1,H2に基づいて決定される。具体的には、r1=(2H1/3π1/3またはr2=(2H2/3π1/3の関係式によって算出および決定される。
【0019】
図4は、図3のフロントピラーに車両前方から荷重が入力された場合におけるリンフォースの要部の変形状態を段階的に示す断面図である。
【0020】
図3に示すように、アウター部材15に対して車両後方に向かう衝突荷重Pが入力された場合に、アウター部材15が変形してリンフォース21の凸部31に当たり、該凸部31を車両後方に変形移動させる。
【0021】
このとき、図4に示すように、二点鎖線Xは変形前の通常状態を示し、破線Yは変形途中の状態を示し、実線Zは変形後の状態を示している。従って、凸部31および右側湾曲部33は、二点鎖線Xから破線Yを介して実線Zの状態に変形移動する。よって、変形前の湾曲部における位置P1(二点鎖線)は、変形途中の位置P2(破線)に移動し、変形後においては位置P3(実線)に移動する。
【0022】
また、断面円弧状に形成された右側湾曲部33の直径は、Lであるため、円弧の長さは、πL/2となる。従って、変形後におけるP3の位置は、フランジ部37からπL/2の距離分だけ車両後方に移動している。なお、図3に示すように、右側湾曲部33および左側湾曲部35の後端部と、インナー部材17の後端面47との距離は、ピラー本体19に衝突荷重Pが入力されてリンフォース21が変形移動する際に、その変形移動を妨げることがない距離に設定されている。
【0023】
図5は、本図のうち、(a)は本発明の第1実施形態によるリンフォースの湾曲部に荷重を加える場合を示し、(b)は比較例による直線状のリンフォースの端部に荷重を加える場合を示している。
【0024】
図5(a)は、断面円弧状の湾曲部を模式的に示したものであり、右端部が固定されている。図5(b)は、断面直線状の一般の梁を右端部を固定して配置したものであり、湾曲部と梁の長さは共にLで同一である。それぞれの湾曲部と梁に対して、下方に向けて同一たわみ量Uになるまで加えた荷重をPa,Pbとすると、Pa=0.56Pbとなり、梁に加える約半分の荷重で湾曲部を同一変形量分を撓ませることができることが判明した。
【0025】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0026】
(1)車両上下方向に延設された中空形状のピラー本体19の内方にリンフォース21を配設した車両のフロントピラー構造において、前記リンフォース21は、車両前方に突出する凸部31と、該凸部31の左右両側に凸部31に連なって形成され、車両後方に向けて湾曲する湾曲部33,35とを備え、該湾曲部33,35の後端部と該後端部の後方側に配置されたピラー本体19の後端面47とを所定距離分だけ離間させることによって、前記ピラー本体19に前方から衝突荷重Pが入力されてリンフォース21の凸部31に伝達された場合に、湾曲部33が変形して後方移動するように構成している。
【0027】
このため、衝突体がフロントピラー11に対して車両前方から衝突した場合に、この衝突体に対する反力を低く抑えることができる。以下、具体的に説明する。
【0028】
衝突体がフロントピラー11に対して車両前方から衝突すると、アウター部材15の前面が変形しながら車両後方に移動してリンフォース21の凸部31を押す。該凸部31の左右両側には、湾曲部33,35が一対に設けられているため、図4に示すように湾曲部33,35が塑性変形をしながら凸部31が後方移動する。従って、衝突体に対する反力は、急激に上昇することがなく、左右ともにバランス良く徐々に反力が大きくなるので、衝突体に過度な衝撃を与えずにすむ。
【0029】
(2)前記凸部31の車両前面側に平面状の平面部41を設けているため、リンフォース21の広い範囲で衝突荷重Pを確実に受け止めることができる。
【0030】
(3)前記湾曲部33,35を断面円弧状に形成すると共に湾曲部33,35の脇に車幅方向に延びるフランジ部37,39を設け、前記フランジ部37,39から前記凸部31の前端までの距離H1,H2に基づいて、前記湾曲部33,35の曲率半径r1,r2を設定している。具体的には、r1=(2H1/3π1/3またはr2=(2H2/3π1/3の関係式によって算出および決定される。従って、前記フランジ部37,39から前記凸部31の前端までの距離H1,H2が変化した場合でも、これらの距離H1,H2に基づいて、適切な曲率半径r1,r2を設定することができる。
【0031】
[第2の実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態と同一構造の部位には同一符号を付して説明を省略する。
【0032】
図6は、本発明の第2実施形態によるリンフォースの湾曲部を示す拡大断面図である。
【0033】
本実施形態による右側湾曲部51においては、右端部を前後方向に沿って断面直線状に延びる縦壁部53に構成している。この縦壁部53をインナー部材17の内面55に当接させることによって、右側湾曲部51をインナー部材17の内面55に支持させている。なお、前記右側湾曲部51は、車両後方側に配置された断面円弧状の部位と縦壁部53とが一体形成されて構成される。
【0034】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0035】
前記ピラー本体19を、車両前方側のアウター部材15と車両後方側のインナー部材17とから構成し、湾曲部51の端部を前後方向に断面直線状に延びる縦壁部53に構成し、該縦壁部53を前記インナー部材17の内面55に当接させて支持している。
【0036】
このため、リンフォース21をインナー部材17に仮保持(セット)する際に、リンフォース21の位置決めを簡単かつ確実に行うことができる。
【0037】
[第3の実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態と同一構造の部位には同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
図7は、本発明の第3実施形態によるリンフォースの湾曲部を示す拡大断面図である。
【0039】
この湾曲部61は、全体が同一曲率でなく、車両左側端部の曲率半径R1と、車両右側端部の曲率半径R2と、中央側の曲率半径R3と、を別々の曲率半径の値に設定している。本実施形態では、R1<R2<R3の大きさに設定されている。
【0040】
このように、湾曲部61を異なる複数の曲率半径R1,R2,R3で形成することによって、凸部31を押して塑性変形させる荷重を適宜変更させることができるため、フロントピラー11の剛性を所望の剛性に適宜調整することができる。
【0041】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されることなく、本発明の技術思想に基づいて種々の変更及び変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態によるフロントピラーを備えた車体全体を示す斜視図である。
【図2】図1のフロントピラーおよびセンターピラーを左側方から見た側面図である。
【図3】図2のA−Aによる拡大断面図である。
【図4】図3のフロントピラーに車両前方から荷重が入力された場合におけるリンフォースの要部の変形状態を段階的に示す断面図である。
【図5】本図のうち、(a)は本発明の第1実施形態によるリンフォースの湾曲部に荷重を加える場合を示し、(b)は比較例による直線状のリンフォースの端部に荷重を加える場合を示している。
【図6】本発明の第2実施形態によるリンフォースの湾曲部を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態によるリンフォースの湾曲部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…車体
11…フロントピラー
15…アウター部材
17…インナー部材
19…ピラー本体
21…リンフォース
31…凸部
33…右側湾曲部(湾曲部)
35…左側湾曲部(湾曲部)
37,39…フランジ部
41…平面部
47…後端面
51…右側湾曲部
53…縦壁部
55…内面
61…湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延設された中空形状のピラー本体の内方にリンフォースを配設した車両のフロントピラー構造において、
前記リンフォースは、車両前方に突出する凸部と、該凸部の左右両側に凸部に連なって形成され、車両後方に向けて湾曲する湾曲部とを備え、該湾曲部の後端部と該後端部の後方側のピラー本体とを所定距離分だけ離間させることによって、
前記ピラー本体に前方から衝突荷重が入力されて、前記リンフォースの凸部に伝達された場合に、前記湾曲部が変形して前記凸部を後方移動するように構成したことを特徴とする車両のフロントピラー構造。
【請求項2】
前記凸部の車両前面側に平面状の平面部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両のフロントピラー構造。
【請求項3】
前記湾曲部を断面円弧状に形成すると共に、前記湾曲部の脇に車幅方向に延びるフランジ部を設け、
前記フランジ部から前記凸部の前端までの距離に基づいて、前記湾曲部の曲率半径を設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のフロントピラー構造。
【請求項4】
前記ピラー本体を、車両前方側のアウター部材と車両後方側のインナー部材とから構成し、前記湾曲部の端部を前後方向に断面直線状に延びる縦壁部に構成し、該縦壁部を前記インナー部材の内面に当接させて支持したことを特徴とする請求項3に記載の車両のフロントピラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−83440(P2010−83440A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257523(P2008−257523)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】