説明

車両のフロントフェンダ構造

【課題】上から下に向かう荷重に対する衝撃の緩和に優れたフロントフェンダ構造を提供する。
【解決手段】フロントフェンダ11にはフェンダプロテクタ20が連結して固定されている。フェンダプロテクタ20は、上板21と、上板21に略直角に繋がる側板30とを備えており、側板30は、主側板22と副側板301とを備えている。側板30を構成する第1垂下部24及び傾斜部25にはスリット27が上下方向に延びるように形成されている。第1垂下部24は、スリット27によって、エプロン15側の第1垂下部24Aと、サスペンションタワー16側の第1垂下部24Bとに区分けされ、傾斜部25は、スリット27によって、エプロン15側の傾斜部25Aと、サスペンションタワー16側の傾斜部25Bとに区分けされる。スリット27は、側板30を主側板22と副側板301とに区分けしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフェンダを支持するエプロン及びサスペンションタワーが備えられており、フェンダプロテクタが前記フロントフェンダに連結されている車両のフロントフェンダ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部上面に、衝突物により上から下に向かう荷重が加わった場合に、車両側の変形量を大きくすることで、衝突物に加わる衝撃を緩和する技術が知られている。例えば、フロントフェンダの場合、フロントフェンダとエプロン又はサスペンションタワーとの間に隙間を設けることで、フロントフェンダ上面又はエンジンフード上面に荷重が加わった場合に、変形しやすい構造が採用されている。なお、エンジンルーム内の騒音や熱風がフロントフェンダとエプロンとの間や、フロントフェンダとサスペンションタワーとの間から洩れないようにするため、あるいはエンジンルーム内の見栄えを良くするため、エプロン及びサスペンションタワーとフロントフェンダとの間に、樹脂等比較的剛性の低い材料を用いたフェンダプロテクタ(スタイリングカバー)が配設されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示のスタイリングカバーは、フロントフェンダとフードリッジ(エプロン)とにネジ止めされている。
【特許文献1】特開2005−254947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フロントフェンダ上面あるいはエンジンフード上面に上から下に向かう荷重が加わった場合、スタイリングカバーを変形させつつフロントフェンダが変形し、荷重による衝撃を緩和することが望まれる。
【0004】
ところで、特許文献1に開示のスタイリングカバーの横断面形状は、コ字形状あるいはL字形状をしている。このような横断面形状のスタイリングカバーは、一見すると変形しやすく見える。しかし、前後方向の一部のみに上下方向の荷重が作用し、部分的に変形しようとした場合の形状剛性は高く、前記した荷重による衝撃の緩和には不利に作用することがある。
【0005】
本発明は、上から下に向かう荷重に対する衝撃の緩和に優れたフロントフェンダ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フロントフェンダを支持するエプロン及びサスペンションタワーが備えられており、フェンダプロテクタが前記フロントフェンダに連結されている車両のフロントフェンダ構造を対象とし、請求項1の発明は、前記フェンダプロテクタは、前記フロントフェンダに連結される上板と、前記上板に連結された側板とを備え、前記側板は、スリットを有し、前記スリットは、前記側板の下端縁に到達していることを特徴とする。
【0007】
フェンダプロテクタを変形させるような大きな荷重が上から下へ向けてフェンダプロテクタに加わると、フェンダプロテクタがスリットを拡開するように折り曲げ変形し、前記荷重による衝撃が緩和される。
【0008】
好適な例では、前記スリットは、前記側板の上端縁に達している。
側板の下端縁から側板の上端縁に至るスリットは、スリットを拡開するようにフェンダプロテクタを屈曲変形させる上で好適である。
【0009】
好適な例では、前記側板は、前記スリットによって主側板と副側板とに区分けされており、前記主側板は、前記エプロン上方にあり、前記副側板は、前記サスペンションタワー上方にある。
【0010】
フェンダプロテクタを変形させるような大きな荷重が上から下へ向けてフェンダプロテクタに加わると、副側板がサスペンションタワーの上面に当接し、フェンダプロテクタがスリットを拡開するように屈曲変形する。
【0011】
好適な例では、前記側板は、前記スリットによって主側板と副側板とに区分けされており、前記副側板は、前記サスペンションタワーの上方にあり、前記副側板は、前記主側板の剛性よりも弱い剛性を有する補助側板を備えている。
【0012】
フェンダプロテクタを変形させるような大きな荷重が上から下へ向けてフェンダプロテクタに加わると、副側板がサスペンションタワーの上面に当接して補助側板が変形する。補助側板の剛性が主側板の剛性よりも弱くしてあるため、衝撃緩和が一層効果的に行われる。
【0013】
好適な例では、前記上板は、前記スリットに連なる溝を有している。
フェンダプロテクタを変形させるような大きな荷重が上から下へ向けてフェンダプロテクタに加わると、フェンダプロテクタが溝を起点にして屈曲変形する。
【0014】
好適な例では、前記スリットは、前記側板に接着されたテープによって被覆されている。
テープは、騒音、熱風の洩れを抑制することに寄与する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフロントフェンダ構造は、上から下に向かう荷重に対する衝撃の緩和に優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1は、車両としての自動車10の前部を示す。自動車10の前輪101の周囲にはフロントフェンダ11が設けられている。12は、エンジンフードである。
【0017】
図2に示すように、板金製のフロントフェンダ11には継ぎ板13が結合して固定されており、継ぎ板13は、支持具14を介してエプロン15の支持板151上に連結されている。エプロン15は、サスペンションタワー16に連結されている。サスペンションタワー16内には図示しないサスペンションの上部が収容されている。
【0018】
図3(a)に示すように、フロントフェンダ11は、外板17と、車両幅方向内側、つまりエンジンルーム側にて外板17から垂下する垂下板18と、垂下板18に略水平に連なる内板19とを備えている。図2に示すように、上板21には、垂下板18に沿い、エンジンフード12に対するクッション32が配設されている。
【0019】
図3(a)に示すように、内板19にはフェンダプロテクタ20が連結して固定されている。フェンダプロテクタ20は、エンジンルーム内の左右側縁にて車両前後方向に延びるように配置されている。フェンダプロテクタ20は、フロントフェンダ11の内板19に接合してかしめピン33により締結される合成樹脂製の上板21と、上板21に略直角に繋がる側板30とを備えている。側板30は、上板21の内側側縁より垂下するように上板21と一体形成された第1垂下部24と、第1垂下部24に屈曲して連なるように一体形成された傾斜部25と、傾斜部25から垂下するように傾斜部25に一体形成された第2垂下部26と、傾斜部25に連結されたゴム製の補助側板23とを備えている。傾斜部25は、下方へ向かうにつれてフロントフェンダ11側へ近づいてゆく傾斜形状をしている。
【0020】
第2垂下部26は、エプロン15に対応して設けられており、図5(a),(b)に示すように、補助側板23は、傾斜部25に連結して固定されている。補助側板23は、第2垂下部26の代わりとして、サスペンションタワー16に対応して設けられている。補助側板23の下端縁231は、サスペンションタワー16の上面の直上にあり、第2垂下部26の下部は、エプロン15の内側面に沿うように垂れ下げられている。
【0021】
図4に示すように、第1垂下部24及び傾斜部25にはスリット27が上下方向に延びるように形成されている。第1垂下部24は、スリット27によって、車両前方向に位置するエプロン15側の第1垂下部24Aと、車両後方向にてサスペンションタワー16側の第1垂下部24Bとに区分けされ、傾斜部25は、スリット27によって、エプロン15側の傾斜部25Aと、サスペンションタワー16側の傾斜部25Bとに区分けされる。ゴム製の補助側板23は、傾斜部25Bに連結されている。スリット27は、第1垂下部24の上端縁241と、傾斜部25Bの下端縁251とに到達している。
【0022】
第2垂下部26の側縁と補助側板23の側縁との間にはスリット28がスリット27に連なるように設けられている。スリット27,28は、フェンダプロテクタ20の長手方向に対して垂直である。スリット27,28は、第1垂下部24と傾斜部25と補助側板23とに接着されたテープ31によって被覆されている。
【0023】
第1垂下部24A、傾斜部25A及び第2垂下部26は、上板21に略直角に繋がる主側板22を構成する。第1垂下部24B、傾斜部25B及びゴム製の補助側板23は、上板21に略直角に繋がる副側板301を構成する。主側板22及び副側板301は、上板21に略直角に繋がる側板30を構成する。第1垂下部24の上端縁241は、主側板22の上端縁であり、傾斜部25Bの下端縁251は、主側板22の下端縁の一部である。ゴム製の補助側板23の剛性は、合成樹脂製の主側板22の剛性よりも弱く、補助側板23は、主側板22よりも撓み変形し易い。
【0024】
図3(a)に示すように、上板21の上面には溝29が形成されている。図3(b)に示すように、フェンダプロテクタ20の長手方向に対して垂直である溝29は、スリット27の上端に連なっている。
【0025】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)図5(a)に示すように、フェンダプロテクタ20を変形させるような大きな荷重がエンジンフード12あるいはフロントフェンダ11に対して矢印Fで示すように上から下へと加えられた場合、フロントフェンダ11が撓み変形しながらフェンダプロテクタ20が鎖線で示すように下動する。荷重が作用する部位がサスペンションタワー16に近い場合には、フェンダプロテクタ20の該当部位が下動すると、補助側板23の下端縁231がサスペンションタワー16上に当接し、フェンダプロテクタ20が下動するに伴い、ゴム製の補助側板23が弾性変形する。フェンダプロテクタ20が更に下動すると、傾斜部25B及び第1垂下部24Bの下動がサスペンションタワー16の存在によって阻止される。すると、フェンダプロテクタ20は、溝29を起点としてスリット27,28を拡開するように折り曲げ変形する。つまり、第1垂下部24Bが第1垂下部24Aに対し自由な状態となり、第1垂下部24Bのみが大きく変形する。
【0026】
従って、上板21に対して略直角に繋がる側板30を備えたフェンダプロテクタ20においては、フェンダプロテクタ20全体の剛性によりフロントフェンダ11の変形が阻害されることも無く、荷重Fに対する衝撃を緩和する効果も高い。
【0027】
(2)スリット27は、主側板22の下端縁251から主側板22の上端縁に至るため、フェンダプロテクタ20は、溝29を起点としてスリット27,28を拡開するように折り曲げ変形させやすい。主側板22の下端縁251から主側板22の上端縁241に至るスリット27は、主側板22に形成されたスリット27を拡開するようにフェンダプロテクタ20を折り曲げ変形させる上で好適である。
【0028】
(3)スリット27,28を被覆するように主側板22と副側板301とに接着されたテープ31は、エンジンフード12下のエンジンルーム内の騒音、熱風の洩れを抑制することに寄与する。
【0029】
(4)スリット27に連なる溝29は、フェンダプロテクタ20を所定の箇所で折り曲げ変形させる上で好適である。
(5)サスペンションタワー16に近接した位置では、フェンダプロテクタ20が変形し、下動し始めると、ゴム製の補助側板23がサスペンションタワー16上面に当接して弾性変形する。そのため、合成樹脂製の第2垂下部26がサスペンションタワー16上面に当接している場合と比較し、フェンダプロテクタ20の下動初期に変形が阻害されることが無く、衝撃緩和が一層効果的に行われる。
【0030】
(6)フロントフェンダ11上において、荷重が作用する部位がエプロン15上方に位置する場合には、フェンダプロテクタ20が、溝29を起点としてスリット27,28を拡開するように折り曲げ変形することで、第1垂下部24Bの剛性が問題とならず、第1垂下部24A側のみが移動又は変形する。よって、同様に衝撃を緩和することができる。
【0031】
本発明では、以下のような実施形態も可能である。
○図6に示す第2の実施形態のように、補助側板23Aを主側板22と一体形成してもよい。
【0032】
○図7に示す第3の実施形態のように、第1の実施形態における溝29を無くしたり、補助側板23の下端縁231をサスペンションタワー16の上面に予め当接させておいてもよい。
【0033】
○図8に示す第4の実施形態のように、スリット27に連なる溝29Aを上板21の下面に設けてもよい。
○図9に示す第5の実施形態のように、横断面形状がL字形状のフェンダプロテクタ20Aに本発明を適用してもよい。つまり、主側板22Aは、平板形状に形成される。
【0034】
○自動車10の車幅方向に見て、スリット27が上下方向に対して傾いていてもよい。
○単一の溝29の代わりに、複数の溝を同一直線上に並べてもよい。
○溝29の代わりに、多数の貫通孔を同一直線上に並べてもよい。
【0035】
○自動車10の車幅方向に見て、補助側板23が主側板22に重なるようにしてもよい。
○副側板の全体をゴム製としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自動車の前部を示す斜視図。
【図2】フロントフェンダ及びフェンダプロテクタの断面図。
【図3】(a),(b)は、フロントフェンダ、フェンダプロテクタ、エプロン及びサスペンションタワーの斜視図。
【図4】図2のA−A線拡大断面図。
【図5】(a),(b)は、フロントフェンダ及びフェンダプロテクタの断面図。
【図6】第2の実施形態を示す断面図。
【図7】第3の実施形態を示す断面図。
【図8】第4の実施形態を示す断面図。
【図9】第5の実施形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0037】
10…車両としての自動車。11…フロントフェンダ。15…エプロン。20,20A…フェンダプロテクタ。21…上板。22…側板を構成する主側板。23…補助側板。301…側板を構成する副側板。241…上端縁。251…下端縁。29,29A…溝。30…側板。31…テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフェンダを支持するエプロン及びサスペンションタワーが備えられており、フェンダプロテクタが前記フロントフェンダに連結されている車両のフロントフェンダ構造において、
前記フェンダプロテクタは、前記フロントフェンダに連結される上板と、前記上板に連結された側板とを備え、前記側板は、スリットを有し、前記スリットは、前記側板の下端縁に到達している車両のフロントフェンダ構造。
【請求項2】
前記スリットは、前記側板の上端縁に達している請求項1に記載の車両のフロントフェンダ構造。
【請求項3】
前記側板は、前記スリットによって主側板と副側板とに区分けされており、前記主側板は、前記エプロン上方にあり、前記副側板は、前記サスペンションタワー上方にある請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の車両のフロントフェンダ構造。
【請求項4】
前記側板は、前記スリットによって主側板と副側板とに区分けされており、前記副側板は、前記サスペンションタワーの上方にあり、前記副側板は、前記主側板の剛性よりも弱い剛性を有する補助側板を備えている請求項3に記載の車両のフロントフェンダ構造。
【請求項5】
前記上板は、前記スリットに連なる溝を有している請求項4に記載の車両のフロントフェンダ構造。
【請求項6】
前記スリットは、前記側板に接着されたテープによって被覆されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両のフロントフェンダ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−73341(P2009−73341A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244212(P2007−244212)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】