説明

車両のブレーキ装置

【課題】ブレーキ管路に設けられた複数の圧力センサのゼロ点補正の精度を高めることができる車両のブレーキ装置を提供する。
【解決手段】マスタシリンダ2とブレーキキャリパ4とを連結する主配管30と、第1分岐管20端部の液損シミュレータ6と、第1分岐管20上の第1電磁弁SOL1と、第2分岐管40の端部の液圧モジュレータ9と、第2分岐管40上の第2電磁弁SOL2と、主配管30上の第3電磁弁SOL3と、マスタシリンダ2〜SOL3間の第1圧力センサP1と、SOL1〜液損シミュレータ6間の第2圧力センサP2と、SOL2〜液圧モジュレータ9間の第3圧力センサP3と、P1〜P3の出力値を検知するECU50とを備える。P2の分解能をP1,P3より高くし、ECU50は、SOL1を開状態にした際のP2の出力値が所定値より小さいと、各圧力センサの出力値をゼロ点として記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置に係り、特に、ブレーキ管路に設けられた複数の圧力センサのゼロ点補正の精度を高めることができる車両のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車等の車両に適用される液圧式のブレーキ装置において、乗員がブレーキ操作を行うことによって液圧を発生させる入力側と、車輪を制動するブレーキキャリパに液圧を供給する出力側とが、電磁弁によって連通・遮断可能に構成されたものが知られている。
【0003】
特許文献1には、ブレーキレバーの操作に連動して液圧を発生するマスタシリンダと、液圧が供給されることで制動力を発生させるブレーキキャリパとが、常開型の電磁弁を備えたブレーキ通路で接続されており、この電磁弁よりブレーキキャリパ側に、アクチュエータで液圧を発生する液圧モジュレータを接続したブレーキ装置が開示されている。このブレーキ装置では、ブレーキの操作力を圧力センサで検知すると、常開型の電磁弁を閉じると共に、圧力センサの出力値に基づいて液圧モジュレータを駆動制御してブレーキキャリパに制動力を発生させるように構成されている。
【0004】
このようなブレーキ装置を適切に制御するためには、液圧経路の圧力を検出する複数のセンサが必要となり、特許文献1に開示された構成においては、2つの入力側圧力センサと、1つの出力側圧力センサとが設けられている。
【特許文献1】特開2006−193136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、複数の圧力センサの出力値に基づいてブレーキ装置を駆動制御する構成においては、特に、乗員によるブレーキ操作力を検知する入力側の圧力センサの分解能が高いことが好ましい。また、分解能の高い圧力センサを備えた場合には、この圧力センサのゼロ点に他の圧力センサのゼロ点を合わせる補正を行うことで、ブレーキ制御の精度をより高めることが可能となる。
【0006】
しかしながら、圧力センサは、分解能を高めると耐圧能力が下がる傾向があるので、過度な液圧が生じる可能性のある場所に分解能の高い圧力センサを配置することは避けたいという課題が生じる。特許文献1に記載された構成では、この課題に対処できる配置や、適切なゼロ点補正処理の手順等に関しては、あまり考慮されていなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、ブレーキ管路に設けられた複数の圧力センサのゼロ点補正の精度を高めることができる車両のブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、ブレーキ操作力に応じた液圧を発生するマスタシリンダと、主配管を介して前記マスタシリンダと連結されるブレーキキャリパと、前記主配管から分岐した第1分岐管の端部に接続された液損シミュレータと、前記第1分岐管の途中に配設されて前記マスタシリンダと前記液損シミュレータとを断接する常閉式の第1電磁弁と、前記第1分岐管より前記ブレーキキャリパ側において前記主配管から分岐した第2分岐管の端部に接続されると共に、アクチュエータの駆動力で発生する液圧を前記ブレーキキャリパへ供給する液圧モジュレータと、前記第2分岐管の途中に配設されて前記液圧モジュレータと前記ブレーキキャリパとを断接する常閉式の第2電磁弁と、前記主配管の途中に配設されて前記マスタシリンダと前記ブレーキキャリパとを断接する常開式の第3電磁弁とを有する車両のブレーキ装置において、前記マスタシリンダと第3電磁弁との間で前記主配管に配設される第1圧力センサと、前記第1電磁弁と前記液損シミュレータとの間で前記第1分岐管に配設される第2圧力センサと、前記第2電磁弁と前記液圧モジュレータとの間で前記第2分岐管に配設される第3圧力センサと、前記第1、第2、第3圧力センサの出力値を検知する制御手段とを具備し、前記第2圧力センサの分解能を前記第1および第3圧力センサの分解能より高く設定し、前記制御手段は、前記第1電磁弁に通電して開状態にすると共に前記第2圧力センサの出力値を検知し、該出力値が所定値より小さい場合に、前記第1、第2、第3圧力センサの各出力値を各圧力センサのゼロ点として記憶することで、ゼロ点補正を実行するように構成されている点に第1の特徴がある。
【0009】
また、前記制御手段は、前記第2圧力センサの出力値が前記所定値以上になると前記第1電磁弁を閉じる点に第2の特徴がある。
【0010】
また、前記ゼロ点補正は、前記車両の主電源のオン時に実行される点に第3の特徴がある。
【0011】
さらに、前記車両は自動二輪車であり、前記ブレーキ装置が、前記自動二輪車の前後輪に別個独立してそれぞれ設けられている点に第4の特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
第1の特徴によれば、常閉型の第1電磁弁に通電して開状態としない限り、マスタシリンダで発生された液圧が第2圧力センサに入力されないようにブレーキ装置を構成したので、第1電磁弁が閉じた状態であれば、マスタシリンダに過度の液圧が生じた場合でも、第2圧力センサを保護することが可能となる。これにより、分解能の高い第2圧力センサを用いることが可能となり、マスタシリンダに発生する液圧の検知精度を高めることができる。さらに、第2圧力センサの出力値を基準として第1および第3圧力センサのゼロ点補正を行うことで、ゼロ点補正の精度を高めることができる。
【0013】
第2の特徴によれば、制御手段は、第2圧力センサの出力値が所定値以上になると第1電磁弁を閉じるので、マスタシリンダに所定値以上の入力があった場合には、乗員によるブレーキ操作が行われているものと判断してゼロ点補正を中止することができる。
【0014】
第3の特徴によれば、ゼロ点補正は、車両の主電源のオン時に実行されるので、車両を使用する毎に、各圧力センサを最適な状態に更新することができる。
【0015】
第4の特徴によれば、車両は自動二輪車であり、ブレーキ装置が自動二輪車の前後輪に別個独立してそれぞれ設けられているので、分解能の高い圧力センサの出力値に基づいて複数の圧力センサのゼロ点補正を実行できるブレーキ装置を、自動二輪車の前後輪にそれぞれ備えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ装置の構成を示すブロック図である。自動二輪車に適用されるブレーキ装置は、相互に独立した前輪側のブレーキ回路1aおよび後輪側のブレーキ回路1bが、制御手段としてのECU50によってそれぞれ駆動される構成を有する。乗員によるブレーキ操作は、前輪側では不図示のハンドルバーに取り付けられるブレーキ操作部(ブレーキレバー)3を握ることで実行され、後輪側では不図示の足乗せステップに取り付けられるブレーキ操作部(ブレーキペダル)3を踏むことで実行される。ブレーキ操作部以外の構成は前後同様であるので、以下では、前輪側のみを説明し、後輪側は、前輪側と同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0017】
ブレーキ回路1a,1bは、作動液(ブレーキフルード)で伝達される圧力によってブレーキキャリパ4を作動させる液圧式(油圧式)の構成を有している。また、ブレーキ回路1a,1bには、ブレーキ操作部(ブレーキレバーまたはブレーキペダル)3を操作することでマスタシリンダ2に生じる液圧を直接ブレーキキャリパ4に供給するのではなく、マスタシリンダ2に生じる液圧を所定の圧力センサで検知して、この出力値に基づいて液圧モジュレータ9を駆動することでブレーキキャリパ4を作動させるようにした、いわゆる、ブレーキ・バイ・ワイヤ方式が適用されている。
【0018】
なお、本実施形態に係るブレーキ装置は、前後輪の一方側を操作することで他方側が自動的に作動する、いわゆる、前後連動式のブレーキ装置として作動させることができる。また、乗員の操作にかかわらず、制動力の作用を瞬間的かつ断続的に解除して車輪のロックを防止するABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能も有する。さらに、このブレーキ装置には、液圧モジュレータ9等に不具合が生じた場合に、マスタシリンダ2が生じる液圧を直接ブレーキキャリパ4に供給するように経路を切り換えて、通常のブレーキ操作を可能とするフェールセーフ機能が与えられている。
【0019】
ブレーキキャリパ4は、液圧モジュレータ9から液圧が供給されると、摩擦体としてのブレーキパッド(不図示)をブレーキディスク5に押しつけて両者間に摩擦力を発生させるように構成されており、この摩擦力により、ブレーキディスク5と一体に回転する車輪に制動力が与えられて車体が減速されることとなる。ブレーキキャリパ4には、車輪の回転速度から自動二輪車の車速を検知する車速センサ16が設けられている。
【0020】
マスタシリンダ2とブレーキキャリパ4とは、常開型(NO型)の第3電磁弁SOL3が配設された主配管30によって接続されている。なお、以下の説明では、第3電磁弁SOL3の配設位置を境として、マスタシリンダ2側をブレーキ回路の入力側と呼び、他方のブレーキキャリパ4側をブレーキ回路の出力側と呼ぶこととする。
【0021】
第3電磁弁SOL3に対して入力側の主配管30には、第1分岐管20が接続されている。第1分岐管20には、常閉型(NC型)の第1電磁弁SOL1を介して液損シミュレータ6が接続されている。この液損シミュレータ6は、第3電磁弁SOL3がオン状態とされて主配管30が閉じられた際に、ブレーキ操作部3の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスタシリンダ2に作用させるものである。また、第1電磁弁SOL1は、乗員によるブレーキ操作時に第1分岐管20を開いて、マスタシリンダ2と液損シミュレータ6とを連通させるものである。
【0022】
液損シミュレータ6は、シリンダ8に摺動自在に収容された油圧ピストンの後方側に弾性部材としての樹脂スプリング7を配設したものであり、マスタシリンダ2による液圧が第1分岐管20から供給されると、樹脂スプリング7の弾発力によってマスタシリンダ2に液圧反力を発生させる装置である。これにより、ブレーキ操作部3に操作反力を生じさせて、ブレーキ操作力に応じた操作感を乗員に与えることが可能となる。なお、液損シミュレータ6に配設する弾性部材は、金属ばね等であってもよく、さらに、弾発力の異なる複数の弾性部材を組み合わせる等により、ブレーキ操作部3のストローク量と操作反力との関係を任意に調整することができる。
【0023】
第1分岐管20には、第1電磁弁SOL1を迂回するバイパス通路21が設けられており、このバイパス通路21には、液損シミュレータ6側からマスタシリンダ2方向への作動液の流れを許容する逆止弁22が設けられている。
【0024】
第3電磁弁SOL3に対して出力側の主配管30には、第2分岐管40が接続されている。第2分岐管40には、常閉型(NC型)の第2電磁弁SOL2を介して液圧モジュレータ9が接続されている。液圧モジュレータ9は、アクチュエータとしてのモータ14の駆動力でシリンダ10の内部の油圧ピストン12を押圧することによって、ブレーキキャリパ4に供給する液圧を発生させる装置である。
【0025】
液圧モジュレータ9のモータ14が、ECU50からの駆動指令で回転駆動されると、駆動ギヤ15およびこれに歯合される被動ギヤ13が回転駆動される。被動ギヤ13とピストン12との間には、回転運動を直線運動に変換する送りねじ機構が備えられている。この構成により、モータ14を所定のデューティ比で決定される電流値で所定方向に回転させることで、第2分岐路40に任意の液圧を発生させることができる。
【0026】
シリンダ10内には、ピストン12を初期位置に戻す方向の弾発力を与えるリターンスプリング11が配設されている。ピストン12は、モータ14を逆回転させることで初期位置に戻すことができるほか、モータ14を駆動しなくともリターンスプリング11の弾発力で初期位置に戻るように構成してもよい。
【0027】
第2分岐管40には、第2電磁弁SOL2を迂回するバイパス通路41が設けられており、このバイパス通路41には、液圧モジュレータ9側からブレーキキャリパ4方向への作動液の流れを許容する逆止弁42が設けられている。
【0028】
本実施形態に係るブレーキ装置には、計3つの油圧センサが設けられている。第3電磁弁SOL3を境とするブレーキ回路の入力側には、第1圧力センサP1および第2圧力センサP2が設けられている。一方、ブレーキ回路の出力側には、第3圧力センサP3が設けられている。第1圧力センサP1および第2圧力センサP2は、ブレーキ操作部3の操作量を検知し、また、出力側の第3圧力センサP3はモータ14をフィードバック制御するために必要なブレーキキャリパ4の液圧を検知するものである。
【0029】
さらに具体的には、第1圧力センサP1は、マスタシリンダ2と第3電磁弁SOL3との間の主配管30に設けられている。また、第2圧力センサP2は、液損シミュレータ6と第1電磁弁SOL1との間の第1分岐管20に設けられている。さらに、第3圧力センサP3は、液圧モジュレータ9と第2電磁弁SOL2との間の第2分岐管40に設けられている。本実施形態では、第2圧力センサP2に、第1圧力センサSOL1および第3圧力センサSOL3より分解能が高く検知精度の高いものが使用されている。
【0030】
第1〜第3圧力センサP1〜P3の出力信号は、それぞれ、ECU50に入力される。ECU50は、第1圧力センサP1、第2圧力センサP2、第3圧力センサP3および車速センサ16の出力信号に基づいて、第1電磁弁SOL1、第2電磁弁SOL2、第3電磁弁SOL3を開閉制御すると共に、モータ14を回転駆動することで自動二輪車の前後ブレーキを適切に駆動制御することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、ブレーキ操作力を検知する入力側の圧力センサを2つ設けることで、万一、どちらか一方に不具合が生じた場合でも、液圧モジュレータ9によるブレーキ制御を継続することができる。また、入力側の圧力センサを2つとすることにより、第3電磁弁SOL3が閉じられて入力側と出力側とが遮断されている間であっても、両センサの出力値を比較して両センサの故障診断を実行することが可能である。
【0032】
以下に、停車時および走行時におけるブレーキ回路の作動例を説明する。車両が停止している場合には、第3電磁弁SOL3が開状態、第1電磁弁SOL1が閉状態、第2電磁弁SOL2が閉状態となっている。すなわち、停車時には、第1〜第3電磁弁SOL1〜SOL3は非通電状態にある。この状態から車両が走行を始めると、車速センサ16によって前後輪の回転速度がECU50にそれぞれ入力される。そして、前後輪の回転速度のうち高い方の回転速度に基づいて車速が算出されて、この車速が所定値(例えば、5km/h)に達したことが検知されると、第3電磁弁SOL3に通電して閉状態に切り換えると共に、第1電磁弁SOL1を開状態に切り換えてスタンバイ状態となる。これにより、マスタシリンダ2と液損シミュレータ6とが連通することとなる。なお、スタンバイ状態では、第2電磁弁SOL2は閉状態(非通電状態)にある。このスタンバイ状態は、乗員によるブレーキ操作が行われるまで保持される。
【0033】
ECU50は、上記したスタンバイ状態において乗員がブレーキを操作すると、第2圧力センサP2の出力信号に基づいて、第2電磁弁SOL2に通電して液圧モジュレータ9とブレーキキャリパ4とを連通させると共に、モータ14を駆動してブレーキキャリパ4に所定の液圧を供給する。なお、液圧モジュレータ9によってブレーキキャリパ4に液圧を供給している間は、第3電磁弁SOL3が閉じられているので、液圧モジュレータ9の作動による液圧変動はブレーキ操作部3に伝達されない。このとき、ブレーキ操作部3には、液損シミュレータ6で擬似的に再現されたブレーキ操作感が発生することとなる。なお、ブレーキ操作時には、液圧モジュレータ9の液圧変動がブレーキ操作部3に伝達されないので、ABSの作動時に伴う操作反力も生じることがない。
【0034】
上記したように、本実施形態に係る車両のブレーキ装置によれば、車両が所定車速に達すると、第3電磁弁SOL3を閉じると共に第1電磁弁SOL1を開いたスタンバイ状態となるので、ブレーキ操作が行われていない走行中に、液圧モジュレータ9およびブレーキキャリパ4からマスタシリンダ2を予め切り離しておくことできる。これにより、ブレーキ操作時の操作ストロークを安定させることが可能となる。
【0035】
前記したように、第2圧力センサP2には、前記したスタンバイ状態に切り換わって第1電磁弁SOL1が開状態にならない限り、マスタシリンダ2で発生される液圧が伝達されることがない。換言すれば、車両の停車中にブレーキ操作部3に大きな操作力が与えられて、マスタシリンダ2に過度の液圧が生じた場合でも、この液圧が第2圧力センサP2に伝達されることがない。したがって、第2圧力センサP2の分解能を高めた場合でも、第2圧力センサP2を保護することができる。これにより、スタンバイ状態におけるブレーキ操作力の検知精度を高めることが可能となる。
【0036】
さらに、上記したような構成において、第1圧力センサP1および第3圧力センサP3より、第2圧力センサP2の検知精度を高めた場合には、この第2センサP2の出力値に基づいて各圧力センサのゼロ点補正を実行することで、さらにブレーキ駆動制御の精度を向上させることが可能である。以下、図2〜6を参照して、第1〜第3圧力センサP1〜P3のゼロ点補正処理の手順について説明する。
【0037】
図2〜図5は、本実施形態に係る圧力センサのゼロ点補正処理の手順を示す動作説明図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。また、図6は、本実施形態に係るゼロ点補正処理の手順を示すフローチャートである。このゼロ点補正処理は、自動二輪車の主電源をオンにした時に実行するように設定すると、車両を使用する毎に、各圧力センサが最適な状態に更新されることとなる。なお、このゼロ点補正処理は、ブレーキ操作が行われていない走行中等に実行してもよい。
【0038】
まず、ステップS1では、第1電磁弁SOL1をオンにして開状態とする(図2参照)。続くステップS2では、第2圧力センサP2の出力値が所定値より小さいか否かが判定される。この所定値は、例えば、ブレーキ操作が行われていない、すなわち、主配管30の液圧がゼロであっても出力される可能性のある最小値より少し大きい値に設定することができる。これにより、第2圧力センサP2の検知精度の高さを最大限に生かして、ブレーキの非操作状態の検知精度を高めることが可能となる。
【0039】
ステップS2で肯定判定されると、ステップS4に進んで、第2電磁弁SOL2をオンにして開状態とする。これにより、第1電磁弁SOL1および第2電磁弁SOL2が、共に通電された状態となる(図4参照)。一方、ステップS2で否定判定されると、ゼロ点補正処理の実行時にブレーキ操作が行われていたとして、ステップS3に進み、第1電磁弁SOL1の駆動を停止して一連の処理を終了する。これにより、ゼロ点補正処理が中止されると共に、第1電磁弁SOL1が開いている間に第2圧力センサP2に過大な液圧が供給されることが防止される。
【0040】
なお、図3に示すように、ブレーキ操作が中止されてブレーキ操作部(ブレーキレバー)3に加えられていた操作力が解除されると、作動液が逆止弁22を通ってマスタシリンダ2側へ戻り、第1分岐管20および主配管30の液圧もゼロに戻る。このとき、例えば、マスタシリンダ2と第3電磁弁SOL3との間に配設されている第1圧力センサP1の出力値を検知して、この出力値がブレーキの非操作状態を示す設定値以下になった場合には、再度、ステップS1からゼロ点補正処理を開始してもよい。
【0041】
フローチャートに戻って、ステップS5では、第1〜第3圧力センサP1〜P3の出力値を検知する。次に、ステップS6では、第2圧力センサP2の出力値が所定値より小さいか否かが判定される。このステップS6の判定は、ブレーキ操作の有無を再度判定するものであり、否定判定されると、ステップS9に進んで第1電磁弁SOL1および第2電磁弁SOL2をオフにしてゼロ点補正処理を中止し、一連の制御を終了することとなる。ステップS6で肯定判定されると、ステップS7に進む。
【0042】
ステップS7では、第1〜第3圧力センサP1〜P3の出力値が、それぞれ規定範囲内にあるか否かが判定される。この規定範囲は、例えば、各圧力センサの精度誤差が吸収される範囲に設定することができる。これにより、各圧力センサが正常に機能していることを判定できるほか、液圧がゼロであるはずのブレーキ回路に予定外の液圧が発生していないか等を検知することができる。
【0043】
そして、ステップS7で肯定判定されると、ステップS8に進み、第1〜第3圧力センサP1〜P3の各出力値を、それぞれの圧力センサのゼロ点としてRAMに記憶する。これにより、第2圧力センサP2の出力値を基準とした第1〜第3圧力センサP1〜P3のゼロ点補正処理が完了する。そして、ステップS9では、第1電磁弁SOL1および第2電磁弁SOL2をオフにして一連の制御を終了する。なお、ECU50に内装された一時記憶装置であるRAMには、車両の動力源をオフにしても車載電源から電力が供給されるので、次回のゼロ点補正処理が実行されるまで補正内容は保持される。
【0044】
上記したように、本発明に係る車両のブレーキ装置によれば、乗員のブレーキ操作に伴ってマスタシリンダに生じる液圧を所定の圧力センサで検出し、この検出値に基づいて液圧モジュレータを駆動してブレーキキャリパに液圧を供給するバイワイヤ式のブレーキ装置において、常閉型の所定の電磁弁を開かない限り、マスタシリンダで発生された液圧が所定の圧力センサに入力されないように構成したので、所定の電磁弁が閉じた状態であれば、マスタシリンダに過度の液圧が生じた場合でも所定の圧力センサを保護することが可能となる。これにより、所定の圧力センサの分解能を高めることが可能となり、マスタシリンダに発生する液圧の検知精度を高めることができる。また、検知精度の高い圧力センサの出力値を基準として他の圧力センサのゼロ点補正を行うことで、ゼロ点補正の精度を高めることができる。
【0045】
なお、ブレーキ操作部、マスタシリンダ、液損シミュレータ、液圧モジュレータ、第1〜第3電磁弁、第1〜第3圧力センサの構成、各圧力センサの分解能の設定等は、上記した実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、液圧モジュレータは、揺動動作可能なアクチュエータによって油圧ピストンを押圧する構成であってもよい。また、本発明に係るブレーキ装置は、上記したような自動二輪車に限られず、3輪車や4輪車等の種々の車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ゼロ点補正処理の手順を示す動作説明図である(第1電磁弁オン)。
【図3】ゼロ点補正処理の手順を示す動作説明図である(ブレーキレバー操作解除)。
【図4】ゼロ点補正処理の手順を示す動作説明図である(第1,第2電磁弁オン)。
【図5】ゼロ点補正処理の手順を示す動作説明図である(第1,第2電磁弁オフ)。
【図6】ゼロ点補正処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
2…マスタシリンダ、3…ブレーキ操作部、4…ブレーキキャリパ、5…ブレーキディスク、6…液損シミュレータ、9…液圧モジュレータ、14…モータ(アクチュエータ)、16…車速センサ、20…第1分岐管、30…主配管、40…第2分岐管、50…ECU(制御手段)、P1…第1圧力センサ、P2…第2圧力センサ、P3…第3圧力センサ、SOL1…第1電磁弁、SOL2…第2電磁弁、SOL3…第3電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作力に応じた液圧を発生するマスタシリンダと、
主配管を介して前記マスタシリンダと連結されるブレーキキャリパと、
前記主配管から分岐した第1分岐管の端部に接続された液損シミュレータと、
前記第1分岐管の途中に配設されて前記マスタシリンダと前記液損シミュレータとを断接する常閉式の第1電磁弁と、
前記第1分岐管より前記ブレーキキャリパ側において前記主配管から分岐した第2分岐管の端部に接続されると共に、アクチュエータの駆動力で発生する液圧を前記ブレーキキャリパへ供給する液圧モジュレータと、
前記第2分岐管の途中に配設されて前記液圧モジュレータと前記ブレーキキャリパとを断接する常閉式の第2電磁弁と、
前記主配管の途中に配設されて前記マスタシリンダと前記ブレーキキャリパとを断接する常開式の第3電磁弁とを有する車両のブレーキ装置において、
前記マスタシリンダと第3電磁弁との間で前記主配管に配設される第1圧力センサと、
前記第1電磁弁と前記液損シミュレータとの間で前記第1分岐管に配設される第2圧力センサと、
前記第2電磁弁と前記液圧モジュレータとの間で前記第2分岐管に配設される第3圧力センサと、
前記第1、第2、第3圧力センサの出力値を検知する制御手段とを具備し、
前記第2圧力センサの分解能を前記第1および第3圧力センサの分解能より高く設定し、
前記制御手段は、前記第1電磁弁に通電して開状態にすると共に前記第2圧力センサの出力値を検知し、該出力値が所定値より小さい場合に、前記第1、第2、第3圧力センサの各出力値を各圧力センサのゼロ点として記憶することで、ゼロ点補正を実行するように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第2圧力センサの出力値が前記所定値以上になると前記第1電磁弁を閉じることを特徴とする請求項1に記載の車両のブレーキ装置。
【請求項3】
前記ゼロ点補正は、前記車両の主電源のオン時に実行されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のブレーキ装置。
【請求項4】
前記車両は自動二輪車であり、
前記ブレーキ装置が、前記自動二輪車の前後輪に別個独立してそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−202701(P2009−202701A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46024(P2008−46024)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】