説明

車両のペダル装置

【課題】中空パイプ材からなるペダルアームの貫通穴に第1リンク部材の軸部材を差し込んで連結する場合でもガタが生じにくい車両のペダル装置を提供する。
【解決手段】中空パイプ材からなるペダルアーム2の上端部をダッシュパネルに回転可能に支持し、第1リンク部材18をマスタシリンダのプッシュロッドに連結し、その第1リンク部材18に設けられた軸部材20をペダルアーム2の貫通穴4に差し込むことによって当該第1リンク部材18をペダルアーム2に回転可能に取付け、その軸部材20の外周に波形座金29を被せ、その軸部材20のペダルアーム2への差し込み先端部に止め輪21を取付け、止め輪21とペダルアーム2との間又は軸部材20に形成された段差部20aとペダルアーム2との間に波形座金29を介在させ、波形座金29の弾性力でペダルアーム2と第1リンク部材18とのガタを吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキペダルなどの車両のペダル装置に関し、特に車両の前方からの荷重によってダッシュパネルが車両後方に移動しようとしたときにペダルアームの車両後方への移動を抑制するペダル後退抑制機構に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
このようなペダル後退抑制機構を備えたペダル装置としては、例えば本出願人が先に提案した下記特許文献1に記載されるものがある。このペダル装置は、ブレーキペダルが取付けられたペダルアームに第1リンク部材の下端部を回転自在に取付け、その第1リンク部材の中間部をマスタシリンダのプッシュロッドに連結すると共に、第1リンク部材の上端部に第2リンク部材の下端部を回転自在に連結し、その第2リンク部材の上端部はペダルアームの回転軸であるペダル軸部材に車両前方から引っ掛けている。そして、ペダルアームをダッシュパネルに取付けるためのペダルブラケットには、前記第2リンク部材とステアリングコラムとの間に介在するトリガを設けている。このペダル装置によれば、車両前方からの荷重によってダッシュパネルが車両後方に移動しようとすると、ステアリングコラムに接触したトリガが第2リンク部材を相対的に車両前方側に押し、それに伴って第2リンク部材の上端部がペダル軸部材から外れて第1リンク部材の回転が可能となり、マスタシリンダのプッシュロッドとペダルアームとの相対位置の変化を許容し、プッシュロッドに押されて後方へ移動するペダルアームの動きが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4006676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1に記載される車両のペダル装置では、ペダルアームが鋼板などの板材で構成されているが、最近では、強度向上及び軽量化のために、ペダルアームを中空パイプ材で構成する要求が高まっている。
しかしながら、ペダルアームを中空パイプ材で構成してリンク部材を軸支持する場合、例えば前記特許文献1に開示されている第1リンク部材の軸部材を、中空パイプ材からなるペダルアームに形成した貫通穴に差し込んで両者を回動可能に連結する場合、貫通穴の軸方向の寸法精度の確保が難しく、軸部材が貫通穴内でガタつくので異音が生じやすい。特に車両に適応されるペダルにおいては、車両の走行振動や運転者の操作によって発生する音は、車両の商品性を著しく低下させることになる。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、中空パイプ材からなるペダルアームに形成された貫通穴に第1リンク部材の軸部材を差し込んで連結する場合でも第1リンク部材のガタつきが生じにくい車両のペダル装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、発明の実施態様は、上端部がダッシュパネルに回転可能に支持された中空パイプ材からなるペダルアームと、前記ペダルアームに回転可能に取付けられてマスタシリンダのプッシュロッドに連結される第1リンク部材と、前記第1リンク部材に設けられて前記ペダルアームの貫通穴に差し込まれる軸部材と、前記軸部材のペダルアームへの差し込み先端部に取付けられた止め輪と、前記軸部材の外周に被せられて前記止め輪とペダルアームとの間又は軸部材に形成された段差部とペダルアームとの間に介在された波形座金とを備えた車両のペダル装置である。
【0007】
また、別の実施態様は、前記軸部材を第1リンク部材の中間部に設け、当該第1リンク部材の下端部をマスタシリンダのプッシュロッドに連結し、前記ダッシュパネルに取付けられてペダルアームとの間に介在するペダルブラケットと、前記ペダルブラケットに前記ペダルアームの上端部を回転自在に取付けるペダル軸と、下端部が前記第1リンク部材の上端部に回転可能に連結され且つ上端部が前記ペダル軸に車両前方から脱着可能な第2リンク部材と、前記ペダルブラケットに取付けられて前記第2リンク部材とコラムブラケットとの間に介在するトリガ部材とを備え、前記軸部材と前記ペダル軸とを結ぶ直線よりも前記第1リンク部材と第2リンク部材との連結点が車両後方に配置された車両のペダル装置である。
【発明の効果】
【0008】
而して、発明の実施態様では、中空パイプ材からなるペダルアームの上端部をダッシュパネルに回転可能に支持する。また、第1リンク部材に設けられた軸部材をペダルアームの貫通穴に差し込むことによって当該第1リンク部材をペダルアームに回転可能に取付け、その第1リンク部材をマスタシリンダのプッシュロッドに連結する。そして、軸部材の外周に波形座金を被せ、第1リンク部材の軸部材のペダルアームへの差し込み先端部に止め輪を取付ける。波形座金は、止め輪とペダルアームとの間又は軸部材に形成された段差部とペダルアームとの間に介在させる。従って、波形座金の弾性力でペダルアームと第1リンク部材とのガタが吸収される。
【0009】
また、第1リンク部材の中間部に設けた軸部材でペダルアームと第1リンク部材とを回転自在に連結し、第1リンク部材の下端部をマスタシリンダのプッシュロッドに連結する。また、第2リンク部材の下端部を第1リンク部材の上端部に回転可能に連結すると共に第2リンク部材の上端部をペダル軸に車両前方から引っ掛ける。その際、軸部材とペダル軸とを結ぶ直線よりも第1リンク部材と第2リンク部材との連結点を車両後方に配置する。また、第2リンク部材とコラムブラケットとの間に介在するトリガ部材をペダルブラケットに取付ける。従って、車両前方からの荷重によってダッシュパネルが車両後方に移動しようとしたときに、コラムブラケットに接触したトリガ部材が第2リンク部材を相対的に車両前方に押し、それに伴って第2リンク部材がペダル軸から外れ、第1リンク部材と共にペダルアームが相対的に車両前方に押されてペダルアームの車両後方への移動を抑制防止する。その際、ペダルアームと第1リンク部材とのガタが波形座金で吸収されているため、確実にペダルアームの車両後方への移動を抑制防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の車両のペダル装置の一実施形態を示すブレーキペダル装置の分解斜視図である。
【図2】図1のブレーキペダル装置の通常時の状態を示す側面図である。
【図3】図1のブレーキペダル装置の通常時の状態を示す正面図である。
【図4】図1のブレーキペダル装置の通常時の状態を示す平面図である。
【図5】図1のブレーキペダル装置のトリガの斜視図である。
【図6】図1のブレーキペダル装置の車両前方からの荷重が加わったときの状態を示す側面図である。
【図7】図1のブレーキペダル装置のリンク連結構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の車両のペダル装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は、本実施形態のブレーキペダル装置の詳細説明図である。このブレーキペダル装置1は、既存の車両と同様に、エンジンルームS1と車室S2を区画するダッシュパネル7の車室S2側下方に設けられる。また、ブレーキペダル装置1の車両後方には、ステアリングシャフト28を回転可能に内装するステアリングコラム27が配置されており、その下端部がステアリングサポートメンバに取付けられたコラムブラケット23に取付けられている。なお、ステアリングシャフト28の下端部には、図示しないユニバーサルジョイントが取付けられ、ステアリングシャフト28はこのユニバーサルジョイント及び中間シャフトを介してステアリングギヤに連結され、ステアリングシャフト28の上端部には図示しないステアリングホイールが取付けられる。
【0012】
ダッシュパネル7のステアリングコラム27の前方部位には、ペダル5が下端部に取付けられたペダルアーム2を回動可能に軸支し、ペダルアーム2をダッシュパネル7に取付けるためのペダルブラケット8が取付けられている。ペダルブラケット8は、車両幅方向両側に夫々側壁8A、8Bを有する断面ほぼコ字状の金属製板部材であり、両側壁8A、8Bの下方のダッシュパネル7側からダッシュパネル7に沿って屈曲し車両幅方向に広がるように延長されたフランジ8a、8bを有し、このフランジ8a、8bを図示しないボルトによってダッシュパネル7に取付けることによって、ブレーキペダル装置1がダッシュパネル7に取付けられている。なお、ペダルブラケット8の2つの側壁8A、8B間にあって前記フランジ8a、8bの部分のダッシュパネル7のエンジンルームS1側にはブレーキ装置の液圧を発生するマスタシリンダ9がブレーキブースタと共に取付けられている。図中の符号9aは、マスタシリンダ9のプッシュロッドである。
【0013】
ブレーキペダル装置1のペダルアーム2は、中空のパイプ材で構成され、上端部にはペダルアーム2の揺動軸となる円筒状のペダル軸3が車両幅方向に向けて貫通固定されている。また、ペダルアーム2の中間部には車両幅方向に向けて貫通孔4が設けられている。また、ペダルアーム2の下端部には運転者が足で操作するためのペダル5が取付けられている。ペダル5は、ペダルアーム2の下端部に固定された方形の金属プレート5aと、金属プレート5aの上面に接着されたゴム製のパッド5bで構成される。また、ペダルアーム2の中間部で、前記貫通穴4の上方右側には、図示しないブレーキランプスイッチを押圧操作するための金属製操作部材6が取付けられている。なお、前記貫通穴4の内周面には、後述するように、ブッシュ部4aがペダルアーム2と一体的に形成されている。また、ペダルブラケット8の右側の側壁8Bの中間部には、前記操作部材6に対向する部分にブラケット10が設けられており、このブラケット10に形成された取付穴10aには図示しない前記ブレーキランプスイッチが嵌め込まれて固定される。
【0014】
このペダルアーム2をペダルブラケット8に回転自在に取付けるために、当該ペダルブラケット8の側壁8A、8Bの車両幅方向に相対する部分にボルト貫通穴8c(図1には手前側の側壁8Aにのみ図示、奥側の側壁8Bの貫通穴はトリガ15で隠れている)が設けられている。そして、ペダルアーム2の上端部の円筒状のペダル軸3の内部に小径円筒状のカラー11を差し込み、そのカラー11の軸方向両端部の外周とペダル軸3の軸方向両端部の内周との隙間に、ペダル軸3の端面に当接するフランジ部を有する摩擦抵抗軽減用及び位置決め用のブッシュ12を差し込む。その状態で、ペダルブラケット8の2つの側壁8A、8B間にペダルアーム2を挿入し、ペダルアーム2の上端部のペダル軸3の軸方向両端部(詳細にはブッシュ12のフランジ部)及びカラー11の軸方向両端部を2つの側壁8A、8Bのボルト貫通穴8cにあてがい、カラー11の内径とボルト貫通穴8cの位置を合わせ、一方の側壁8Bの外側から前述した図示しないボルト貫通穴8c内にボルト13の軸部を差し込み、カラー11及び他方の側壁8Aのボルト貫通穴8cに貫通させた後、当該ボルト13の突出部分にナット14をねじ込み、カラー11を締め付ける。これにより、ペダルアーム2は車両幅方向の軸を中心に車両の前後方向に回転可能にペダルブラケット8に取付けられる。
【0015】
そして、第1リンク部材18を介して前記ペダルアーム2をマスタシリンダ9のプッシュロッド9aに連結する。この第1リンク部材18は、通常時、上端部が車両後方側、下端部が車両前方側になるように配置されたく字状の金属製板部材であり、本実施形態ではペダルアーム2の左側に配置されている。また、第1リンク部材18の中間部にはペダルアーム2に向けて、つまり右向き(車両右向き、図3参照)にほぼ円柱状の軸部材20が突出するように設けられている。軸部材20は第1リンク部材18側の大径部と先端側の小径部とがあり、中間部となる大径部と小径部との間に段差部20aが形成されている。また、小径部の先端部には小径部を取り巻くように円周溝20bが形成されている。この軸部材20をペダルアーム2の貫通孔4に差し込み、本実施形態では、その突出先端部に円環状の波形座金29を嵌め、円周溝20bにE型クリップなどの止め輪21を取付けて、軸部材20(第1リンク部材18)を回転可能にペダルアーム2に取付けている。なお、波形座金29の作用については後段に詳述する。
【0016】
第1リンク部材18の下端部はピン24によってマスタシリンダ9のプッシュロッド9aに回転自在に連結されている。詳細には、軸部材20の位置に対して前方でやや下方となる第1リンク部材18の下端部にプッシュロッド9aが回転自在に連結されている。また、ペダル軸3の外周にはコイルばねからなる2つのスプリング25、26が配置されており、この2つのスプリング25、26はそれぞれのコイル部にペダル軸3が挿入されることで取付けられている。そのうちの一方のスプリング26のコイルの一方の端部はペダルブラケット8の左側の側壁8Aに車両後方から掛けられ、他方の端部は軸部材20の下方となる第1リンク部材18の下端部に車両前方から掛けられている。このスプリング26の付勢力により、ペダルアーム2には、第1リンク部材18を介して、常時、車両後方に回転する回転力が付与され、例えばペダル5を足で踏み込んでペダルアーム2が車両前方に回転した後、足を離すとペダルアーム2が車両後方に回転して復帰する。なお、他方のスプリング25については後段に詳述する。
【0017】
以上の構成でブレーキペダル装置1が構成されるが、本実施形態では、このブレーキペダル装置1にペダル後退抑制機構が設けられている。このペダル後退抑制機構は、車両前方からの荷重によってダッシュパネル7が車両後方に移動しようとするとき、ペダルアーム2及びペダル5の車両後方への移動を抑制するものであり、前述の第1リンク部材18及び後述する第2リンク部材19で構成されるリンク機構16と、ペダルブラケット8に取付けられたトリガ15とを備えて構成される。
【0018】
第2リンク部材19は第1リンク部材18とペダル軸3との間に配置された金属製板部材である。第2リンク部材19の下端部は第1リンク部材18の上端部(中間部に設けられた軸部材20の上方に位置する部分)にピン17で回転自在に連結されている。また、第2リンク部材19の上端部には図1、図6などに示すように車両後方からペダル軸3の外形形状に合致するほぼ半円形状の窪みが形成され、その窪みが鉤部19aとなり、通常時はこの鉤部19aがペダル軸3に車両前方から引っ掛けられている。この鉤部19aは、例えば車両後方から押せばペダル軸3から外れてしまう形状に構成されているので、第2リンク部材19の上端部はペダル軸3に対して脱着可能に構成されている。第2リンク部材19は、通常時にペダル軸3と係合して第1リンク部材18とペダル軸3とを連結し、第1リンク部材18の回転を阻止することで、第1リンク部材18を介する運転者の踏み操作によるペダルアーム2の動きのプッシュロッド9aへの伝達を可能とする部材として作用する。なお、この構成により、前記軸部材20、即ちペダルアーム2と第1リンク部材18との連結点とペダル軸3とを結ぶ直線よりも前記ピン17、即ち第1リンク部材18と第2リンク部材19との連結点が車両後方に位置し、第2リンク部材19は圧縮方向の力を受け止めることで第1リンク部材18の回転を阻止している。第1リンク部材18の回転(軸部材20の軸を回転中心とする図2で反時計回り方向の回転)は、軸部材20の下方となる第1リンク部材18の下端部に車両前方側から掛けられてこの係合部を車両の後方側に押圧しているスプリング26の付勢力と、運転者の踏み操作に対してその軸線が軸部材20よりも下方を通過するように第1リンク部材18に連結されたプッシュロッド9aからの受ける反力による。
【0019】
そして、前述したペダル軸3の外周にコイル部が配置されている他方のスプリング25の一方の端部はペダルアーム2に車両後方から掛けられ、他方の端部は第2リンク部材19に車両前方から掛けられており、第2リンク部材19はペダルアーム2に対し車両後方側に付勢されている。従って、第2リンク部材19には、第1リンク部材18との連結点、即ちピン17を回転中心として、常時、第2リンク部材19の上端部に形成された鉤部19aをペダル軸3に係合させる方向である車両後方側に回転させようとする回転力が付与され、通常時は第2リンク部材19の上端部の鉤部19aがペダル軸3に引っ掛かった状態に維持される。
【0020】
図5にトリガ15の詳細を示す。トリガ15は、金属製板部材をプレス加工して形成される。このトリガ15は、垂直部15Aとこの垂直部15Aの上端に位置する水平部15BによってほぼT字状に形成されている。このうち、垂直部15Aは、コ字状に形成され、上端部と下端部が車両前方側に突出し、上下方向中間部は車両の後方側に配置される。そして、下端部の突出先端部を水平方向に折り曲げて接触部15aが形成されている。また、水平部15Bの車両幅方向両側は垂直上方に折り曲げられてフランジ部15bが設けられている。また、水平部15Bの垂直部15Aとの接続部には垂直部15Aの変位を容易にする切欠き15cが形成されている。
【0021】
トリガ15の垂直部15Aの上下方向中間部より下方の左側面には、L字状に折り曲げられた補強ブラケット22がスポット溶接によって取付けられている。この補強ブラケット22は、トリガ15の垂直部15Aに溶接されて垂直部15Aの下半部を補強する補強部22Bと、垂直部15Aの上下方向中間部で補強部22Bの上端縁から水平左方に屈曲延長されてその後端縁が垂直部15Aの中間部の後端縁とほぼ同位置とされた接触部22Aとからなる。
【0022】
このような補強ブラケット22が取付けられたトリガ15は、例えば図2、図3のようにペダルブラケット8に取付けられる。即ち、トリガ15をペダルブラケット8の2つの側壁8A、8Bの間に挿入し、トリガ15の水平部15Bに設けられた2つの垂直なフランジ部15bを夫々の側壁8A、8Bに溶接固定する。これにより、トリガ15の垂直部15Aの下方先端の接触部15aがペダル後退抑制機構の第2リンク部材19に所定の隙間を有して対向するように第2リンク部材19の車両後方に位置し、補強ブラケット22の接触部22Aがコラムブラケット23に所定の隙間を有して対向するようにコラムブラケット23の車両前方に位置する。
【0023】
以上の状態が通常時である。この通常時の状態では、第2リンク部材19の鉤部19aはペダル軸3に引っ掛かっているので、第1リンク部材18のペダルアーム2に対する相対回転が規制され、ペダル5を足で踏み込むとペダル軸3を中心にペダルアーム2が車両前方に回転し、ペダルアーム2との相対位置状態が変わらない第1リンク部材18がマスタシリンダ9のプッシュロッド9aを車両前方に押し、マスタシリンダ9内で発生した液圧でホイールシリンダが作動して制動力が発生する。また、前述したように、ペダル5から足を離すと、一方のスプリング26の弾性力、及びマスタシリンダやブレーキブースタによってペダル5はペダルアーム2と共に、車両後方に回転して復帰位置に戻る。
【0024】
この通常時の状態において、車両前方から荷重が加わってダッシュパネル7が車両後方に移動すると、それに伴ってダッシュパネル7に取付けられたブレーキペダル装置1も車両後方に移動される。図6には、車両前方から荷重が加わって車両後方に移動したときのブレーキペダル装置1の詳細を示す。ダッシュパネル7と共にブレーキペダル装置1が車両後方に移動されると、ペダルブラケット8も車両後方に移動される。すると、ペダルブラケット8に取付けられたトリガ15の垂直部15Aの中間部の後端縁、及び補強ブラケット22の接触部22Aがコラムブラケット23に接触し、トリガ15の後退が阻止されてブレーキペダル装置1に対してトリガ15が相対的に車両前方に移動する。このトリガ15の相対的な車両前方への移動に伴って、トリガ15の下方先端部に形成された接触部15aが第2リンク部材19にその車両後方側から接触し、スプリング25の付勢力に抗して当該第2リンク部材19が相対的に車両前方に押されて、上端部の鉤部19aがペダル軸3から外れる。この鉤部19aがペダル軸3から外れると第1リンク部材18の回転(軸部材20の軸を回転中心とする回転)が可能となり、スプリング26の付勢力とプッシュロッド9aから受ける力によって軸部材20の軸を中心に第1リンク部材18が図6において反時計回り方向に回転し、プッシュロッド9aとペダルアーム2の位置関係が変化する。この位置関係の変化に伴ってペダルアーム2が図6の時計回り方向、即ち車両前方側に回転し、ペダルアーム2及びペダル5の車両後方への移動が抑制される。このとき、通常時の状態で前記軸部材20、即ちペダルアーム2と第1リンク部材18との連結点とペダル軸3とを結ぶ直線よりも前記ピン17、即ち第1リンク部材18と第2リンク部材19との連結点が車両後方に位置して、第1リンク部材18の回転(図6において反時計回り方向の回転)を第2リンク部材19が圧縮方向の力として受け止めているため、トリガ15によって第2リンク部材19が車両前方に押されたとき、第2リンク部材19の係合(鉤部19aとペダル軸3の係合)を確実に解除することができ、ペダルアーム2及びペダル5の車両後方への移動が確実に抑制される。
【0025】
このようなペダル後退抑制機構付きのブレーキペダル装置1におけるペダルアーム2の第1リンク部材18の支持部(軸部材20とペダルアーム2の取付け部位)において、本実施形態では、図7aに示すようにペダルアーム2と止め輪21との間に波形座金29が介在されている。波形座金29は、ウエーブワッシャなどとも呼ばれ、円環状の座金を軸直角方向(ここでいう軸とは波形座金29に挿入される軸状部材の軸線をさす)からみたとき、波状に湾曲した形状とされている。この波状の波形座金29は軸方向に圧縮するとその波形状が弾性変形可能であって、弾性変形した状態では復元力(弾性力)が発生する。本実施形態では、ペダルアーム2と止め輪21との間に介在させた波形座金29の弾性力で、両者のガタを吸収する。
【0026】
本実施形態のペダルアーム2は、中空のパイプ材を曲げなどの加工をして形成されている。中空のパイプ材を車両の左右方向から押圧変形させて、図7に示すように、断面を車両の前後方向に長軸を有する長円状にしている。このため、左右二面間の距離の精度を高くすることができない。そして、単純にこの左右二面に貫通孔を形成しただけでは、貫通孔部分(貫通孔の周縁部)の左右二面間の距離精度を高くできない。また、左右二面に設けた貫通孔の同軸度の精度も高くすることができない。このため、ペダルアーム2の左右二面に設けた貫通孔に軸部材を貫通状態と取付けるとき、寸法のバラつきと組付け性を考慮して軸方向の隙間が必要であり、左右二面間の距離を利用して軸部材の軸方向の位置を決めることができず、ガタ(軸方向の隙間や径方向の隙間)を有する構造となっていた。なお、貫通孔の軸方向の精度を向上させるためには、ペダルアーム2の上端部に取付けられたペダル軸3と同様に、円筒状の別部材を溶接固着する方法があるが、部品点数が増えると共に、生産性の悪化やコストの上昇が発生する。
【0027】
上記のようにペダルアーム2と第1リンク部材18との支持部にガタつきがある構造では、ペダル操作後のペダル5が原点位置に戻ったときやペダルアーム2の振動時に、異音が発生して商品性を著しく低下させることになる。
【0028】
中空パイプ材からなるペダルアーム2へのドリルによる貫通孔の穴明け加工の加工精度は高くなく、貫通孔の周縁の精度も高くない。本実施形態では、左右二面の貫通孔4の穴明け加工と同時に当該貫通孔4の周縁部にブッシュ部(ライニングともいう)4aを形成し、左右二面の貫通孔4の軸方向の寸法の精度を向上させている。この加工方法は、高速で回転する工具を大きな加圧力で被加工物に接触させて、加工箇所(貫通孔形成箇所)及びその周囲を摩擦熱で赤熱化させると共に被加工物に工具を押し込み、貫通孔を形成するものであって、工具を貫通孔形成用の軸部とこの軸部よりも拡径されたフランジ部を有する形状にし、貫通孔を形成するのと同時に、赤熱化して溶融している貫通孔の周縁に工具のフランジ部を押し当てつつ所望の位置で押し込み停止し、被加工物の貫通孔の周縁を工具の形状に倣わせて、貫通孔の周縁にパイプ材の表面から突出したブッシュ部(ライニング)を形成するものである。この加工の工具をペダルアーム2の両側に配置し、同時に左右二面の貫通孔4の穴明け加工を行う。貫通孔4の周縁に突出状態で形成されたブッシュ部4aの一方の端面から他方の端面までの距離が、前述した貫通孔4の軸方向の精度となる。このように穴明け加工と同時にブッシュ部4aを形成すると、生産性を犠牲にせずブッシュ部4aのペダルアーム2外側端面の位置精度は或る程度高くなるものの、板材に穴明け加工したもの(板厚自体が貫通孔の軸方向の寸法となる)に比べると、依然として加工精度は高くない。
【0029】
このように加工精度の高くない貫通孔4に、そのまま軸部材20を差し込み、その差し込み先端部の円周溝20bに止め輪21を嵌め込んでも、止め輪21とペダルアーム2、或いは段差部20aとペダルアーム2との間に隙間ができて、ガタが生じる。つまり、ペダルアーム2の貫通孔4に第1リンク部材18の軸部材20の先端部に形成された小径部を挿入して、軸部材20の段差部20aと円周溝20bに嵌め込んだ止め輪21との間にペダルアーム2を挟むようにして、ペダルアーム2(貫通孔4)に第1リンク部材18の軸部材20が取付けられるが、段差部20aと止め輪21との間隔寸法と貫通孔4の軸方向の寸法に差が生じているために隙間ができて、ガタが生じる。本実施形態では、図7(a)に示すように、ペダルアーム2と止め輪21の間に波形座金29を介在させたことにより、両者の間のガタが許容されて生産性と組付け性が向上し、両者の間のガタ(段差部20aと止め輪21との間隔寸法と貫通孔4の軸方向の寸法の差)は波形座金29で調整されて吸収される。波形座金29の自由状態の軸方向の高さ(厚さ)は、段差部20aと止め輪21との間隔寸法と貫通孔4の軸方向の寸法の差よりも大きく、波形座金29を軸方向に弾性変形させたときの軸方向の高さ(厚さ)は、段差部20aと止め輪21との間隔寸法と貫通孔4の軸方向の寸法の差よりも小さい。また、このように波形座金29を止め輪21側に取付ける構成にすると、ペダルアーム2の手前の波形座金29を視認しやすく、組立時、波形座金29の組付け忘れを抑制防止できる。なお、波形座金29は、図7(b)に示すように、軸部材20の段差部20aとペダルアーム2との間に介在させてもよい。この場合も、段差部20aとペダルアーム2とのガタを吸収することができると共に、軸部材20の外周に先に被せた波形座金29が安定し、組付け性がよい。
【0030】
なお、前記実施形態では、本発明の車両のペダル装置をブレーキペダル装置に適用したものについてのみ詳述したが、本発明の車両のペダル装置はクラッチペダル装置にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1はブレーキペダル装置
2はペダルアーム
3はペダル軸
4は貫通孔
7はダッシュパネル
8はペダルブラケット
9はマスタシリンダ
15はトリガ
16はリンク機構
17はピン
18は第1リンク部材
19は第2リンク部材
20は軸部材
21は止め輪
23はコラムブラケット
24はピン
29は波形座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部がダッシュパネルに回転可能に支持された中空パイプ材からなるペダルアームと、前記ペダルアームに回転可能に取付けられてマスタシリンダのプッシュロッドに連結される第1リンク部材と、前記第1リンク部材に設けられて前記ペダルアームの貫通穴に差し込まれる軸部材と、前記軸部材のペダルアームへの差し込み先端部に取付けられた止め輪と、前記軸部材の外周に被せられて前記止め輪とペダルアームとの間又は軸部材に形成された段差部とペダルアームとの間に介在された波形座金とを備えた車両のペダル装置。
【請求項2】
前記軸部材を第1リンク部材の中間部に設け、当該第1リンク部材の下端部をマスタシリンダのプッシュロッドに連結し、前記ダッシュパネルに取付けられてペダルアームとの間に介在するペダルブラケットと、前記ペダルブラケットに前記ペダルアームの上端部を回転自在に取付けるペダル軸と、下端部が前記第1リンク部材の上端部に回転可能に連結され且つ上端部が前記ペダル軸に車両前方から脱着可能な第2リンク部材と、前記ペダルブラケットに取付けられて前記第2リンク部材とコラムブラケットとの間に介在するトリガ部材とを備え、前記軸部材と前記ペダル軸とを結ぶ直線よりも前記第1リンク部材と第2リンク部材との連結点が車両後方に配置されたことを請求項1に記載の車両のペダル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−3886(P2013−3886A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135040(P2011−135040)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】