説明

車両の操舵装置

【課題】操舵のために運転者にかかる負担を軽減することのできる車両の操舵装置を提供する。
【解決手段】この操舵装置1には、右後輪15の回転速度および左後輪16の回転速度を変速比に応じた大きさに変更する無段変速装置50が設けられている。また操作装置60には、この無段変速装置50内のねじ機構を動作させて変速比を変更するドラム61が設けられている。また、右後輪15および左後輪16が直進するときの変速比を直進変速比とし、右後輪15および左後輪16が旋回するときの変速比を旋回変速比とし、変速比が直進変速比のときの無段変速装置50の動作状態を直進動作状態とし、変速比が旋回変速比のときの無段変速装置50の動作状態を旋回動作状態として、無段変速装置50の動作状態を旋回動作状態から直進動作状態に復帰させる復帰装置70が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、右駆動輪の回転速度および左駆動輪の回転速度を変速比に応じた大きさに変更する変速装置が設けられた車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、右後輪および左後輪の回転を制御する三輪自転車が開示されている。この三輪自転車は、1つの前輪および2つの後輪と、右後輪と左後輪との間に設けられたベベルギヤとを備えている。そして、このベベルギヤにより右後輪の回転速度と左後輪の回転速度とが互いに異なるものに変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭56−146692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の三輪自転車は、前輪に直結されたハンドルを手で操作することにより操舵角を変更するものであるため、例えば、上肢不自由者のようにハンドルを操作することが困難な者においては同自転車の操舵にかかる負担が大きい。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵のために運転者にかかる負担を軽減することのできる車両の操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための手段を以下に示す。
(1)請求項1に記載の発明は、右駆動輪の回転速度および左駆動輪の回転速度を変速比に応じた大きさに変更する変速装置が設けられていること、この変速装置内の機構を動作させて前記変速比を変更する変更部材が設けられていること、ならびに、車両が直進するときの前記変速比を直進変速比とし、車両が旋回するときの前記変速比を旋回変速比とし、前記変速比が前記直進変速比のときの前記変速装置の動作状態を直進動作状態とし、前記変速比が前記旋回変速比のときの前記変速装置の動作状態を旋回動作状態として、前記変速装置の動作状態を前記旋回動作状態から前記直進動作状態に復帰させる復帰装置が設けられていることを要旨としている。
【0007】
この発明によれば、変速装置の変速比の変更により右駆動輪の回転速度と左駆動輪の回転速度とが互いに異なるものに変更されたときには、転舵輪の舵角が変更される。このため、転舵輪に連結されたハンドルの操作により同転舵輪の舵角を変更する構成が用いられる場合と比較して、操舵のために運転者にかかる負担を小さくすることができる。また、変速装置の動作状態を旋回動作状態から直進動作状態に復帰させる復帰装置が設けられているため、直進時の走行安定性が向上する。
【0008】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の操舵装置において、当該操舵装置には、前記変更部材を駆動する操作装置が設けられていること、この操作装置には、運転者により操作される操作部材と、この操作部材に入力された力により前記変更部材を駆動する接続部材とが設けられていること、ならびに、前記変速比が前記旋回変速比から前記直進変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を復帰変速動作として、前記変更部材を同復帰変速動作させる力が前記復帰装置から前記接続部材に付与されることを要旨としている。
【0009】
この発明によれば、変更部材を復帰変速動作方向に動作させる力が復帰装置から接続部材に付与されることにより、変速装置の動作状態が旋回動作状態から直進動作状態に復帰する。また、復帰装置から接続部材に付与される力が運転者による操作部材の操作に対する反力として作用する。このため、操作部材の操作に対する反力が生じない場合と比較して、運転者が操作部材を操作するときの操作性が向上する。
【0010】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両の操舵装置において、前記復帰装置には、前記接続部材に対して移動する相対移動部材と、前記接続部材に連動する連動部材と、この連動部材の移動方向において前記相対移動部材に対して前記連動部材とは反対側に設けられた弾性部材とが設けられていること、前記変更部材と前記操作部材との間においては前記連動部材および前記相対移動部材および前記弾性部材の順にこれらの構成要素が設けられていること、前記変速比が前記直進変速比から前記旋回変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を旋回変速動作とし、前記連動部材が前記相対移動部材に接近する方向を接近方向とし、前記連動部材が前記相対移動部材から離間する方向を離間方向として、前記操作部材の操作により前記接続部材が前記接近方向に移動するとき、前記変更部材が前記旋回変速動作すること、ならびに、前記操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記弾性部材の復元力により前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されることを要旨としている。
【0011】
この発明によれば、運転者が操作装置の操作部材を操作することにより接続部材が接近方向に移動するとき、接続部材、連動部材および相対移動部材が一体となり接近方向に移動するとともに弾性部材が相対移動部材との接触により変形する。そして、運転者が操作部材に加える力を緩めたことにともない弾性部材の復元力が操作部材に加えられる力を上回るときには、相対移動部材が弾性部材の復元力により離間方向に移動する。このとき、相対移動部材と連動部材とが互いに接触していることにより、弾性部材の復元力すなわち、変更部材を復帰変速動作させる力が相対移動部材および連動部材を介して接続部材に付与される。このため、変速装置の動作状態が旋回動作状態から直進動作状態に復帰する。
【0012】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車両の操舵装置において、前記操作装置として、右手用操作装置および左手用操作装置が設けられていること、前記右手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとき、前記左手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、前記左手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとき、前記右手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、前記右手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記右手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること、ならびに、前記左手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記左手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されることを要旨としている。
【0013】
この発明によれば、運転者が右手用操作装置または左手用操作装置の操作部材を操作することにより右手用操作装置または左手用操作装置の接続部材が接近方向に移動するとき、接続部材、連動部材および相対移動部材が一体となり接近方向に移動するとともに弾性部材が相対移動部材との接触により変形する。そして、運転者が操作部材に加える力を緩めたことにともない弾性部材の復元力が操作部材に加えられる力を上回るときには、相対移動部材が弾性部材の復元力により離間方向に移動する。このとき、相対移動部材と連動部材とが互いに接触していることにより、弾性部材の復元力すなわち、変更部材を復帰変速動作させる力が相対移動部材および連動部材を介して接続部材に付与される。このため、変速装置の動作状態が旋回動作状態から直進動作状態に復帰する。
【0014】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の車両の操舵装置において、前記操作装置として、右手用操作装置および左手用操作装置が設けられていること、前記復帰装置には、前記接続部材に対して移動する相対移動部材と、前記接続部材に連動する連動部材と、この連動部材の移動方向において前記相対移動部材に対して前記連動部材とは反対側に設けられた弾性部材とが設けられていること、前記変更部材と前記操作部材との間においては前記弾性部材および前記相対移動部材および前記連動部材の順にこれらの構成要素が設けられていること、前記変速比が前記直進変速比から前記旋回変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を旋回変速動作とし、前記連動部材が前記相対移動部材に接近する方向を接近方向とし、前記連動部材が前記相対移動部材から離間する方向を離間方向として、前記右手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとき、前記左手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、前記左手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとき、前記右手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、前記右手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記左手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること、ならびに、前記左手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記右手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されることを要旨としている。
【0015】
この発明によれば、運転者が右手用操作装置または左手用操作装置の操作部材を操作することにより右手用操作装置または左手用操作装置の接続部材が接近方向に移動するとき、接続部材、連動部材および相対移動部材が一体となり接近方向に移動するとともに弾性部材が相対移動部材との接触により変形する。そして、運転者が操作部材に加える力を緩めたことにともない弾性部材の復元力が操作部材に加えられる力を上回るときには、右手用操作装置および左手用操作装置の他方において相対移動部材が弾性部材の復元力により離間方向に移動する。このとき、相対移動部材と連動部材とが互いに接触していることにより、弾性部材の復元力すなわち、変更部材を復帰変速動作させる力が相対移動部材および連動部材を介して接続部材に付与される。このため、変速装置の動作状態が旋回動作状態から直進動作状態に復帰する。
【0016】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の車両の操舵装置において、前記弾性部材においての前記連動部材側の端部である第1端部が前記相対移動部材に取り付けられていること、前記復帰装置には、前記接近方向および前記離間方向において相対的な移動が可能な第1ハウジングおよび第2ハウジングが設けられていること、ならびに、前記弾性部材においての前記連動部材側とは反対側の端部である第2端部が前記第2ハウジングに取り付けられていることを要旨としている。
【0017】
この発明によれば、第2ハウジングを第1ハウジングに対して接近方向または離間方向に移動させることにより、連動部材が相対移動部材に押し付けられていない状態においての弾性部材の長さ、すなわち弾性部材の予圧の大きさを変更することができる。弾性部材の予圧の大きさが変更されたときには、運転者による操作部材の操作に対する反力の大きさが変更されるため、運転者が操作部材に加える力に対する操作部材の動作量も変更される。
【0018】
そして上記発明では、右手用操作装置および左手用操作装置において独立して上記弾性部材の長さを変更することができるため、例えば、当該操舵装置を搭載した車両において右旋回時の速度が左旋回時の速度よりも大きくなる場合には、右手用操作装置の弾性部材の予圧を左手用操作装置の弾性部材の予圧よりも大きくすることにより、旋回速度の差を小さくすることができる。
【0019】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項2〜6のいずれか一項に記載の車両の操舵装置において、前記操作部材には、前記接続部材に連結された操舵レバーと前記右駆動輪および前記左駆動輪を制動するための制動レバーとが設けられていることを要旨としている。
【0020】
この発明では、操作部材に操舵レバーおよび制動レバーが設けられているため、すなわち一方の手に対応した操作部材に操舵および制動のためのレバーが設けられているため、これらの操作を片手で行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、操舵のために運転者にかかる負担を軽減することのできる車両の操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の車両の操舵装置の第1実施形態について、その全体構成を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の車両の操舵装置について、無段変速機およびその周辺の断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態の車両の操舵装置について、操舵レバーが操作されていない状態かつ各ハウジングが基準の位置関係にある状態においての操作装置および復帰装置の断面構造を示す断面図。
【図4】同実施形態の車両の操舵装置について、操舵レバーが操作された状態かつ各ハウジングが基準の位置関係にある状態においての操作装置および復帰装置の断面構造を示す断面図。
【図5】同実施形態の車両の操舵装置について、操舵レバーが操作されていない状態かつインナハウジングに対してアウタハウジングが移動した状態においての操作装置および復帰装置の断面構造を示す断面図。
【図6】本発明の車両の操舵装置の第2実施形態について、操舵レバーが操作された状態かつ各ハウジングが基準の位置関係にある状態においての操作装置および復帰装置の断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、本発明の車両の操舵装置を三輪自転車の操舵装置として具体化した場合の一例を示している。なお、以下の説明に記載において、「前」、「後」、「左」および「右」の各方向は、三輪自転車の運転者を基準としている。
【0024】
図1に示されるように、三輪自転車1には、各構成部材が取り付けられる本体としてのボディ10と、駆動輪としての右後輪15および左後輪16と、従動輪としての1つの前輪14と、前輪14の舵角を変更する操舵装置2とが設けられている。またこの他に、運転者が右後輪15および左後輪16に動力を入力するための駆動装置20と、駆動装置20から右後輪15および左後輪16に動力を伝達する動力伝達装置30と、駆動装置20の回転を変速する無段変速装置50と、運転者が無段変速装置50の変速比を変更するための操作装置60とが設けられている。なお、操舵装置2は無段変速装置50および操作装置60により構成されている。
【0025】
ボディ10には、1つの前輪14が取り付けられるメインフレーム11と、右後輪15および左後輪16が取り付けられるサポートフレーム12と、運転者が操作するための各レバーが取付けられるステム13とが設けられている。
【0026】
前輪14は、メインフレーム11に固定された前車軸14Aにより回転可能に支持されている。右後輪15は、サポートフレーム12に固定された右後車軸15Aにより回転可能に支持されている。左後輪16は、サポートフレーム12に固定された左後車軸16Aにより回転可能に支持されている。
【0027】
駆動装置20には、運転者が足で漕ぐための右足用および左足用のペダル21と、各ペダル21の回転を動力伝達装置30に伝達する駆動軸22と、駆動軸22を回転可能に支持する第1軸受23とが設けられている。第1軸受23は、メインフレーム11に固定されている。
【0028】
無段変速装置50には、駆動装置20の回転が入力される入力軸52と、入力軸52と一体的に回転する入力ディスク51と、左後輪16に変速後の回転を伝達する出力軸54と、出力軸54と一体的に回転する出力ディスク53とが設けられている。またこの他に、入力ディスク51と出力ディスク53との間に設けられて入力ディスク51から出力ディスク53に回転を伝達する2つのボール55と、入力ディスク51、出力ディスク53および各ボール55を収容するケーシング56とが設けられている。
【0029】
動力伝達装置30には、駆動軸22に固定された駆動スプロケット31と、入力軸52に固定された入力スプロケット32と、出力軸54に固定された出力スプロケット33とが設けられている。また、メインフレーム11をまたいでボディ10の右側から左側に回転を伝達する伝達軸41と、伝達軸41を回転可能に支持する第2軸受42と、伝達軸41の右側の端部に固定された右中間スプロケット34と、伝達軸41の左側の端部に固定された左中間スプロケット35とが設けられている。また、右後車軸15Aに固定された右後輪スプロケット36と、左後車軸16Aに固定された左後輪スプロケット37とが設けられている。
【0030】
動力伝達装置30においては、スプロケット間で動力を伝達するためのチェーンとして次のものが設けられている。すなわち、駆動スプロケット31と入力スプロケット32と右後輪スプロケット36とに巻き掛けられた入力チェーン43と、出力スプロケット33と右中間スプロケット34とに巻き掛けられた右出力チェーン44と、左中間スプロケット35と左後輪スプロケット37とに巻き掛けられた左出力チェーン45とが設けられている。
【0031】
図2を参照して、無段変速装置50の詳細な構成について説明する。
無段変速装置50においては、入力ディスク51の入力支持面51Aと出力ディスク53の出力支持面53Aとにより各ボール55が支持されている。各ボール55が回転するとき、入力支持面51Aに形成された湾曲面としての入力伝達面51B、および出力支持面53Aに形成された湾曲面としての出力伝達面53Bのそれぞれに対してボール55が摺動する。
【0032】
無段変速装置50の内部には、入力ディスク51および出力ディスク53に対する回転軸55Aの傾きを変更するためのねじ機構が設けられている(図示略)。また入力軸52には、図1の操舵レバー63に入力された力によりねじ機構を動作させるためのドラム61が設けられている。ドラム61と操舵レバー63とは、ワイヤ65により互いに接続されている。なお、ドラム61は「変更部材」に相当する。
【0033】
無段変速装置50の変速態様について説明する。
ボール55の回転軸55Aの傾きが変更されたとき、入力伝達面51Bに対してボール55が接触する部分と回転軸55Aとの距離(以下、「第1作用半径R1」)、および出力伝達面53Bに対してボール55が接触する部分と回転軸55Aとの距離(以下、「第2作用半径R2」)が変更される。すなわち、無段変速装置50の変速比が変更される。
【0034】
図2(a)に示されるように、ボール55の回転軸55Aが傾斜しているとき、すなわち入力軸52および出力軸54の軸方向において入力軸52側から出力軸54側に向かうにつれて径方向において外側から内側に向けて回転軸55Aが傾斜しているとき、第2作用半径R2が第1作用半径R1よりも大きくなる。これにより、出力軸54の回転速度が入力軸52の回転速度よりも大きくなるため、すなわち左後輪16の回転速度が右後輪15の回転速度よりも大きくなるため、三輪自転車1が右進する。
【0035】
図2(b)に示されるように、ボール55の回転軸55Aが傾斜しているとき、すなわち入力軸52および出力軸54の軸方向において入力軸52側から出力軸54側に向かうにつれて径方向において内側から外側に向けて回転軸55Aが傾斜しているとき、第1作用半径R1が第2作用半径R2よりも大きくなる。これにより、出力軸54の回転速度が入力軸52の回転速度よりも小さくなるため、すなわち左後輪16の回転速度が右後輪15の回転速度よりも小さくなるため、三輪自転車1が左進する。
【0036】
ボール55の回転軸55Aが入力軸52および出力軸54に対して傾斜していないとき、すなわち回転軸55Aが入力軸52および出力軸54の中心線と平行となるとき、第1作用半径R1と第2作用半径R2とが互いに同じ大きさとなる。このため、無段変速装置50の変速比が「1:1」に設定される。
【0037】
なお以下では、第2作用半径R2が第1作用半径R1よりも大きいときの変速比、および第1作用半径R1が第2作用半径R2よりも大きいときの変速比はそれぞれ「旋回変速比」に相当する。また、第1作用半径R1と第2作用半径R2とが互い同じ大きさのときの変速比は「直進変速比」に相当する。また、変速比が直進変速比のときの無段変速装置50の動作状態を「直進動作状態」とする。また、変速比が旋回変速比のときの無段変速装置50の動作状態を「旋回動作状態」とする。また、無段変速装置50の変速比が旋回変速比から直進変速比に向けて変化するドラム61の動作を「復帰変速動作」とする。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比から旋回変速比に向けて変化するドラム61の動作を「旋回変速動作」とする。
【0038】
図1を参照して、三輪自転車1においての動力の伝達態様について説明する。
三輪自転車1においては、運転者によるペダル21の踏み込み動作により生じる動力が駆動スプロケット31、入力チェーン43、および入力スプロケット32を介して入力軸52に伝達される。また、ペダル21からの動力が入力チェーン43、右後輪スプロケット36、および右後車軸15Aを介して右後輪15に伝達される。
【0039】
入力軸52に伝達された動力は、入力ディスク51および出力ディスク53を介して出力軸54に伝達された後、出力スプロケット33、右出力チェーン44、および右中間スプロケット34を介して伝達軸41に伝達される。伝達軸41の動力は、左中間スプロケット35、左出力チェーン45、左後輪スプロケット37および左後車軸16Aを介して左後輪16に伝達される。
【0040】
このように、ペダル21に入力された動力が各スプロケットおよび各チェーンにより構成される動力伝達経路を介して右後輪15および左後輪16に伝達されることにより、三輪自転車1に推力が発生し、これにともない前輪14が回転して三輪自転車1が前進または後進する。
【0041】
三輪自転車1の旋回動作について説明する。
運転者は、三輪自転車1を右進させるとき、右手用の操舵レバー63の操作量を増大させる。このとき、ワイヤ65の移動量に応じてボール55の回転軸55Aが入力軸52および出力軸54に対して傾き、第2作用半径R2が第1作用半径R1よりも大きくなる。これにより、左後輪16の回転速度が右後輪15の回転速度よりも大きくなるため、この回転速度差により三輪自転車1が右進する。
【0042】
運転者は、三輪自転車1を左進させるとき、左手用の操舵レバー63の操作量を増大させる。このとき、ワイヤ65の移動量に応じてボール55の回転軸55Aが入力軸52および出力軸54に対して傾き、第1作用半径R1が第2作用半径R2よりも大きくなる。これにより、右後輪15の回転速度が左後輪16の回転速度よりも大きくなるため、この回転速度差により三輪自転車1が左進する。
【0043】
運転者は、三輪自転車1を右進または左進から直進に戻すとき、操舵レバー63を右進または左進の操作状態から直進の操作状態に戻す。このとき、ワイヤ65が引き戻されてボール55の回転軸55Aが入力軸52および出力軸54に対して平行となり、第1作用半径R1と第2作用半径R2とが同じ大きさとなる。これにより、右後輪15の回転速度と左後輪16の回転速度との差がなくなるため、三輪自転車1が直進する。
【0044】
図3を参照して、操作装置60の詳細な構成について説明する。
三輪自転車1には、操作装置60として右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lが設けられている。各操作装置60R,60Lには、三輪自転車1の左右方向の中心線を基準として左右対称に構成となる点を除いては共通の構成が採用されているため、以下の説明では共通の符号を用いて各操作装置60R,60Lの構成を説明する。また、「操作装置60」と記載されている部分については、右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lの双方を示すものとする。
【0045】
操作装置60には、無段変速装置50の内部に設けられたねじ機構を駆動するドラム61と、運転者が変速比を変更するために操作するハンドル62とが設けられている。またこの他に、ハンドル62の動作をドラム61に伝達するワイヤ65と、ワイヤ65の移動をガイドするワイヤステイ66と、ワイヤ65を保護するワイヤチューブ67と、無段変速装置50の動作状態を旋回動作状態から直進動作状態に復帰させる復帰装置70とが設けられている。
【0046】
ハンドル62には、無段変速装置50の変速比の変更により前輪14の舵角を操作するための操舵レバー63と、右後輪15および左後輪16に制動力を付与するための制動レバー64とが上下方向に並べて設けられている。操舵レバー63の操作量が「0」のときには、ワイヤ65が同レバー63にグリップされていない。一方、操舵レバー63の操作量が「0」よりも大きいときには、ワイヤ65が同レバー63にグリップされるため、操舵レバー63の操作量の増加に連動してワイヤ65が移動する。
【0047】
右手用操作装置60Rのワイヤ65と左手用操作装置60Lのワイヤ65とは、互いに接続されている。このため、右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lの一方の操舵レバー63が操作されたとき、これに連動して各操作装置60R,60Lの双方においてワイヤ65が移動する。なお、ハンドル62は「操作部材」に相当する。また、ワイヤ65は「接続部材」に相当する。
【0048】
復帰装置70には、内部に空間が形成されたインナハウジング71と、インナハウジング71の外周に取り付けられたアウタハウジング72とが設けられている。またこの他に、ワイヤ65に固定されたクリップ73と、インナハウジング71内において同ハウジング71に対して移動することが可能なシリンダ74と、シリンダ74により圧縮されるスプリング75と、インナハウジング71の開口部においてシリンダ74の移動を制限するストッパ76とが設けられている。スプリング75は、クリップ73の移動方向においてシリンダ74に対してクリップ73とは反対側に設けられている。
【0049】
ドラム61と操舵レバー63との間においては、クリップ73およびシリンダ74およびスプリング75の順にこれらの構成要素が設けられている。シリンダ74およびスプリング75は、インナハウジング71内に設けられている。クリップ73は、操舵レバー63の操作が行われていないときには、インナハウジング71内に設けられている。
【0050】
シリンダ74には、潤滑油を保持するための油溜まり74Aが形成されている。この油溜まり74Aは、シリンダ74の外周面においてインナハウジング71の内周面側に開口した2つの環状の溝により形成されている。
【0051】
スプリング75においては、クリップ73側の端部である第1端部75Aがシリンダ74に取り付けられている。また、クリップ73側とは反対側の端部である第2端部75Bがアウタハウジング72に取り付けられている。
【0052】
なお、インナハウジング71は「第1ハウジング」に相当する。またアウタハウジング72は「第2ハウジング」に相当する。またクリップ73は「連動部材」に相当する。また、シリンダ74は「相対移動部材」に相当する。また、スプリング75は「弾性部材」に相当する。また以下では、クリップ73がシリンダ74に接近する方向を「接近方向」とする。また、クリップ73がシリンダ74から離間する方向を「離間方向」とする。
【0053】
インナハウジング71の外周面には雄ねじ71Aが形成されている。アウタハウジング72の内周面には雌ねじ72Aが形成されている。インナハウジング71およびアウタハウジング72においては、雄ねじ71Aおよび雌ねじ72Aが互いに噛み合わされている。このため、アウタハウジング72をインナハウジング71に対して回転させることにより、軸方向においてのインナハウジング71に対するアウタハウジング72の位置(以下、「ハウジング相対位置」)を変更することができる。すなわち、インナハウジング71およびアウタハウジング72は、接近方向および離間方向において相対的な移動が可能な状態で組み合わせられている。
【0054】
図3および図4を参照して、操作装置60および復帰装置70の動作について説明する。なお図4は、右手用操作装置60Rの操舵レバー63が操作された状態においての操作装置60の断面構造を示している。
【0055】
図3に示されるように、右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lの双方の操舵レバー63が操作されていないとき、スプリング75の長さが自然長となる。このとき、クリップ73がシリンダ74に接触しているが、ワイヤ65によるシリンダ74への押し付けは行われていない。また、ドラム61の回転位置が中立位置に保持されているため、無段変速装置50の変速比が直進変速比に保持される。
【0056】
図4に示されるように、左手用操作装置60Lの操舵レバー63が操作されたとき、すなわち操舵レバー63の操作量が「0」の状態から操作量が「0」よりも大きい状態に変更されたとき、同操作装置60Lのワイヤ65が接近方向に移動する。このとき、ワイヤ65の接近方向への移動にともないドラム61が回転する。すなわち、ドラム61が旋回変速動作する。このため、無段変速装置50の変速比が直進変速比から旋回変速比に変更される。
【0057】
上記操舵レバー63の操作が行われたとき、ワイヤ65とともにクリップ73が接近方向に移動する。また、クリップ73の接近方向への移動にともないシリンダ74にクリップ73が押し付けられるため、シリンダ74も接近方向に移動する。すなわち、ワイヤ65、クリップ73およびシリンダ74が一体となり接近方向に移動する。また、シリンダ74の移動にともないスプリング75が圧縮されるため、スプリング75の長さが自然長よりも短くなる。
【0058】
また、右手用操作装置60Rにおいては、左手用操作装置60Lによるワイヤ65の移動にともない同操作装置60Rのワイヤ65が離間方向に移動する。このとき、ワイヤ65とともにクリップ73が離間方向に移動する。なお、右手用操作装置60Rにおいてはワイヤ65が操舵レバー63にグリップされていないため、シリンダ74の位置およびスプリング75の長さは変更されない。
【0059】
上記操舵レバー63の操作後において、左手用操作装置60Lの操舵レバー63の操作量が一定となるように同レバー63に継続して力が加えられているとき、同操作装置60Lにおいてはシリンダ74によりスプリング75が縮められた状態が保持される。すなわち、無段変速装置50の動作状態が旋回動作状態に保持される。
【0060】
その後、左手用操作装置60Lの操舵レバー63に加えられる力が緩められたことにより、スプリング75のばね力がワイヤ65を接近方向に引く力を上回るとき、スプリング75のばね力により同操作装置60Lのシリンダ74が離間方向に移動する。このとき、クリップ73がシリンダ74に接触した状態にあるため、シリンダ74の移動にともないクリップ73も離間方向に移動する。そして、このクリップ73の移動にともなうワイヤ65の移動によりドラム61が中立位置に向けて回転する。すなわち、ドラム61が復帰旋回動作する。このため、無段変速装置50の変速比が旋回変速比から直進変速比に向けて変更される。
【0061】
上記ワイヤ65の移動にともないスプリング75が自然長の状態に復帰したとき、左手用操作装置60Lおよび右手用操作装置60Rのそれぞれにおいてクリップ73が初期の位置に復帰する。また、ドラム61の回転位置が中立位置に復帰する。また、無段変速装置50の動作状態が直進動作状態に復帰する。なお、右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が「0」の状態、操作量が「0」よりも大きい状態、および操作量が再び「0」となる場合にも上述した説明に準じた態様でワイヤ65、ドラム61および無段変速装置50等が動作する。
【0062】
以下に、各操作装置60L,60Rの動作のまとめを示す。
左手用操作装置60Lおよび右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が「0」のとき、ワイヤ65、クリップ73およびシリンダ74が初期の位置に保持される。また、ドラム61の回転位置が中立位置に保持される。また、無段変速装置50の動作状態が直進動作状態に保持される。
【0063】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63の操作量が増加するとき、同操作装置60Lのクリップ73およびシリンダ74が接近方向に移動する。また、右手用操作装置60Rにおいて同操作装置60Rのクリップ73が離間方向に移動する。また、同操作装置60Rのシリンダ74は移動しない。また、ドラム61が旋回変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が大きくなる方向に変化する。
【0064】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63が「0」よりも大きい操作量で保持されているとき、すなわち無段変速装置50が旋回動作状態にあるとき、左手用操作装置60Lのスプリング75のばね力により同操作装置60Lにおいてドラム61を復帰変速動作させる力がシリンダ74およびクリップ73を介してワイヤ65に付与される。
【0065】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63の操作量が減少するとき、同操作装置60Lのクリップ73およびシリンダ74が離間方向に移動する。また、右手用操作装置60Rにおいて同操作装置60Rのクリップ73が接近方向に移動する。また、同操作装置60Rのシリンダ74は移動しない。また、ドラム61が復帰変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が小さくなる方向に変化する。
【0066】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が増加するとき、同操作装置60Rのクリップ73およびシリンダ74が接近方向に移動する。また、左手用操作装置60Lにおいて同操作装置60Lのクリップ73が離間方向に移動する。また、同操作装置60Lのシリンダ74は移動しない。また、ドラム61が旋回変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が大きくなる方向に変化する。
【0067】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63が「0」よりも大きい操作量で保持されているとき、すなわち無段変速装置50が旋回動作状態にあるとき、右手用操作装置60Rのスプリング75のばね力により同操作装置60Rにおいてドラム61を復帰変速動作させる力がシリンダ74およびクリップ73を介してワイヤ65に付与される。
【0068】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が減少するとき、同操作装置60Rのクリップ73およびシリンダ74が離間方向に移動する。また、左手用操作装置60Lにおいて同操作装置60Lのクリップ73が接近方向に移動する。また、同操作装置60Lのシリンダ74は移動しない。また、ドラム61が復帰変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が小さくなる方向に変化する。
【0069】
図5を参照して、スプリング75の予圧の調整方法について説明する。
復帰装置70においては、ハウジング相対位置を変更することにより、クリップ73がシリンダ74に押し付けられていない状態においてのスプリング75の長さ(以下、「スプリング75の圧縮前長さ」)、すなわちスプリング75の予圧の大きさを変更することができる。
【0070】
スプリング75の予圧の大きさが変更されたときには、運転者による操舵レバー63の操作に対する反力の大きさが変更されるため、運転者が操舵レバー63に加える力に対する同レバー63の動作量も変更される。同動作量は、スプリング75の予圧が大きくなるにつれて小さくなる。
【0071】
ハウジング相対位置は、インナハウジング71がアウタハウジング72に最大限に収容されている位置を「基準相対位置」とし、インナハウジング71がアウタハウジング72から最大限に突出している位置を「最大突出位置」としたとき、基準相対位置から最大突出位置までの間で変更することができる。
【0072】
ハウジング相対位置が基準相対位置のとき、スプリング75の圧縮前長さが最も短くなる。一方、ハウジング相対位置が最大突出位置のとき、スプリング75の圧縮前長さが最も長くなる。
【0073】
操作装置60においては、上記のとおりハウジング相対位置を変更することができるため、三輪自転車1の運転が行われていないときにハウジング相対位置を変更することにより、操舵レバー63の操作に対する反力の大きさを必要な大きさに調整しておくことが可能となる。
【0074】
(効果)
本実施形態の三輪自転車1によれば以下の効果が得られる。
(1)三輪自転車1の操舵装置2には、右後輪15および左後輪16の回転速度を変更する無段変速装置50と、無段変速装置50の変速比を変更するドラム61とが設けられている。
【0075】
この構成によれば、無段変速装置50の変速比の変更ことにより右後輪15の回転速度と左後輪16の回転速度とが互いに異なるものに変更されたときには、前輪14の舵角が変更される。このため、前輪14に連結されたハンドルの操作により同前輪14の舵角を変更する構成が用いられる場合と比較して、操舵のために運転者にかかる負担を小さくすることができる。また、上肢不自由者(例えば、手の力が弱い者、または腕を動かすことができない者)が三輪自転車1に搭乗したときには、上記で仮定した三輪自転車に搭乗したときと比較して、三輪自転車1の運転を容易に行うことができる。
【0076】
(2)三輪自転車1の操舵装置2には、無段変速装置50の動作状態を旋回動作状態から直進動作状態に復帰させる復帰装置70が設けられている。この構成によれば、操舵レバー63を操作する力が緩められたとき、または操舵レバー63を操作する力が取り除かれたとき、無段変速装置50の変速比が旋回変速比から直進変速比に向けて変化するため、車両直進時の走行安定性が向上する。
【0077】
(3)三輪自転車1の操舵装置2においては、ドラム61を復帰変速動作させる力が復帰装置70からワイヤ65に付与される。この構成によれば、復帰装置70からワイヤ65に付与される力が運転者による操舵レバー63の操作に対する反力として作用する。このため、操舵レバー63の操作に対する反力が生じない場合と比較して、運転者が同レバー63を操作するときの操作性が向上する。
【0078】
(4)三輪自転車1の操舵装置2においては、右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lにおいて独立してスプリング75の圧縮前長さを変更することができる。この構成によれば、例えば、操舵装置2を搭載した車両において右旋回時の速度が左旋回時の速度よりも大きくなる場合、右手用操作装置60Rのスプリング75の予圧を左手用操作装置60Lのスプリング75の予圧よりも大きくすることにより、旋回速度の差を小さくすることができる。
【0079】
(5)三輪自転車1の操舵装置2においては、右手用操作装置60Rの操舵レバー63および左手用操作装置60Lの操舵レバー63のそれぞれに対応して復帰装置70が設けられている。この構成によれば、例えばドラム61の回転軸に1つのばねを設けてドラム61の回転位置を復帰させる構成とは異なり、右手用操作装置60Rおよび左手用操作装置60Lのいずれの操舵レバー63の操作量が減少するときにもワイヤ65を適切に引き戻すことができる。
【0080】
(6)三輪自転車1の操舵装置2においては、ハンドル62に操舵レバー63および制動レバー64が設けられている。この構成によれば、右手および左手の一方でブレーキ操作および操舵操作を行うことができる。
【0081】
(7)三輪自転車1の操舵装置2においては、無段変速装置50の入力軸52と右後輪15とがスプロケットおよびチェーンによりリジットに連結されている。また、出力軸54と左後輪16とがスプロケットおよびチェーンによりリジットに連結されている。
【0082】
この構成によれば、前進方向または後進方向への動力が入力軸52から右後輪15に直接的に伝達される。また、前進方向または後進方向への動力が出力軸54から左後輪16に直接的に伝達される。このため、入力軸52と右後輪15との間および出力軸54と左後輪16との間の少なくとも一方にワンウェイクラッチが設けられる構成においての課題、すなわちワンウェイクラッチの空回りついて、これが生じることを抑制することができる。これにより、各後輪15,16のうちの回転速度が小さい方にトルクが作用し、各後輪15,16の回転速度差が大きくなるため、操舵性能の低下が抑制される。
【0083】
(第2実施形態)
図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の三輪自転車1は第1実施形態の三輪自転車1に対して次の変更が加えられたものに相当する。すなわち、第1実施形態の復帰装置70においては、ドラム61と操舵レバー63との間にクリップ73、シリンダ74およびスプリング75の順でこれら構成要素が設けられている。これに対して本実施形態の復帰装置80においては、ドラム61と操舵レバー63との間にスプリング75、シリンダ74およびクリップ73の順でこれら構成要素が設けられている。
【0084】
以下、第1実施形態からの上記変更点を中心に本実施形態の三輪自転車1の構成を説明する。なお、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付して、その説明の一部または全部を適宜省略する。
【0085】
復帰装置80には、ハンドル62に固定されたインナハウジング81と、インナハウジング81の外周に取り付けられたアウタハウジング82とが設けられている。またこの他に、ワイヤ65に固定されたクリップ83と、インナハウジング81内において同ハウジング81に対して移動することが可能なピストン84と、ピストン84により圧縮されるスプリング85と、インナハウジング81の開口部においてピストン84の移動を制限するストッパ86とが設けられている。スプリング85は、クリップ83の移動方向においてピストン84に対してクリップ83とは反対側に設けられている。
【0086】
ドラム61と操舵レバー63との間においては、スプリング85、ピストン84およびクリップ83の順にこれらの構成要素が設けられている。ピストン84およびスプリング85は、インナハウジング81内に設けられている。クリップ83は、操舵レバー63の操作が行われていないときには、インナハウジング81内に設けられている。
【0087】
ピストン84には、スプリング85においてのクリップ83側の端部である第1端部85Aが取り付けられている。またアウタハウジング82には、スプリング85においてのクリップ83側とは反対側の端部である第2端部85Bが取り付けられている。
【0088】
インナハウジング81には、第1実施形態の油溜まり74Aと同様の態様で油溜まり81Bが形成されている。また、インナハウジング81およびアウタハウジング82においては、第1実施形態と同様の態様で雄ねじ81Aおよび雌ねじ82Aが互いに噛み合わされている。アウタハウジング82は、操舵レバー63に固定されている。
【0089】
各操作装置60R,60Lの動作について説明する。
左手用操作装置60Lおよび右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が「0」のとき、ワイヤ65、クリップ83およびピストン84が初期の位置に保持される。また、ドラム61の回転位置が中立位置に保持される。また、無段変速装置50の動作状態が直進動作状態に保持される。
【0090】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63の操作量が増加するとき、同操作装置60Lのクリップ73が離間方向に移動する。また、同操作装置60Lのシリンダ74は移動しない。また、右手用操作装置60Rにおいて同操作装置60Rのクリップ73およびシリンダ74が接近方向に移動する。また、ドラム61が旋回変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が大きくなる方向に変化する。
【0091】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63が「0」よりも大きい操作量で保持されているとき、すなわち無段変速装置50が旋回動作状態にあるとき、右手用操作装置60Rのスプリング85のばね力により同操作装置60Rにおいてドラム61を復帰変速動作させる力がピストン84およびクリップ83を介してワイヤ65に付与される。
【0092】
左手用操作装置60Lの操舵レバー63の操作量が減少するとき、同操作装置60Lのクリップ73が接近方向に移動する。また、同操作装置60Lのシリンダ74は移動しない。また、右手用操作装置60Rにおいて同操作装置60Rのクリップ73およびシリンダ74が離間方向に移動する。また、ドラム61が復帰変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が小さくなる方向に変化する。
【0093】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が増加するとき、同操作装置60Rのクリップ73が離間方向に移動する。また、同操作装置60Rのシリンダ74は移動しない。また、左手用操作装置60Lにおいて同操作装置60Lのクリップ73およびシリンダ74が接近方向に移動する。また、ドラム61が旋回変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が大きくなる方向に変化する。
【0094】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63が「0」よりも大きい操作量で保持されているとき、すなわち無段変速装置50が旋回動作状態にあるとき、左手用操作装置60Lのスプリング85のばね力により同操作装置60Lにおいてドラム61を復帰変速動作させる力がピストン84およびクリップ83を介してワイヤ65に付与される。
【0095】
右手用操作装置60Rの操舵レバー63の操作量が減少するとき、同操作装置60Rのクリップ73が接近方向に移動する。また、同操作装置60Rのシリンダ74は移動しない。また、左手用操作装置60Lにおいて同操作装置60Lのクリップ73およびシリンダ74が離間方向に移動する。また、ドラム61が復帰変速動作する。また、無段変速装置50の変速比が直進変速比との乖離が小さくなる方向に変化する。
【0096】
(効果)
本実施形態の三輪自転車1によれば、第1実施形態の(1)〜(7)の効果に準じた効果が得られる。
【0097】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0098】
・上記各実施形態では、動力伝達装置30としてスプロケットおよびチェーンにより動力を伝達するものを用いているが、スプロケットおよびチェーンに代えてプーリおよびベルトを用いることもできる。
【0099】
・上記各実施形態では、右後輪15の回転速度と左後輪16の回転速度とを無段変速装置50により互いに異ならせることにより前輪14の舵角を変更する構成を採用しているが、同舵角を変更するための構成は同実施形態に例示した内容に限られるものではない。例えば、右前輪および左前輪を備えるとともに、右前輪の回転速度と左前輪の回転速度とを無段変速装置により互いに異ならせることにより、右前輪および左前輪の舵角を変更することもできる。この場合、上記実施形態と同様に後輪として右後輪15および左後輪16を備える構成、および後輪を1つだけ備える構成の双方を採用することができる。
【0100】
・上記各実施形態では、無段変速装置50として2つのボール55を有するものを用いているが、1つまたは3つ以上のボール55を有する無段変速装置を用いることもできる。また、2つのボール55に代えて、ディスクを有する無段変速装置を用いることもできる。
【0101】
・上記各実施形態では、無段変速装置50としてハンドル62の操舵レバー63の操作により変速比が変更されるものを用いているが、変速比を変更するための構成を例えば次のように変更することもできる。すなわち、運転者の腰の角度に連動して無段変速装置50の変速比を変更することもできる。また、ペダル21の踏み込み量に連動して無段変速装置50の変速比を変更することもできる。
【0102】
・上記各実施形態では、運転者のペダル21の操作にともない入力される動力により駆動輪としての右後輪15および左後輪16を回転させているが、すなわち運転者のペダル21の操作により動力を得ているが、これに代えて、電動モータまたは内燃機関等により動力を得る車両として三輪自動車を構成することもできる。
【0103】
・上記各実施形態では、変速装置として無段変速装置50を用いているが、右後輪15の回転速度と左後輪16の回転速度とを互いに異なるものにすることが可能な変速装置であれば、無段変速装置50とは別の変速装置を用いることもできる。
【0104】
・上記各実施形態では、三輪自転車1に本発明を適用した構成を例示しているが、四輪自転車、四輪自動車および左右二輪の原動機に本発明を適用することもできる。この場合にも、上記各実施形態に準じた態様で本発明を実施することにより同実施形態の効果に準じた効果が得られる。
【符号の説明】
【0105】
1…三輪自転車、2…操舵装置、10…ボディ、11…メインフレーム、12…サポートフレーム、13…ステム、14…前輪、14A…前車軸、15…右後輪、15A…右後車軸、16…左後輪、16A…左後車軸、20…駆動装置、21…ペダル、22…駆動軸、23…第1軸受、30…動力伝達装置、31…駆動スプロケット、32…入力スプロケット、33…出力スプロケット、34…右中間スプロケット、35…左中間スプロケット、36…右後輪スプロケット、37…左後輪スプロケット、41…伝達軸、42…第2軸受、43…入力チェーン、44…右出力チェーン、45…左出力チェーン、50…無段変速装置、51…入力ディスク、51A…入力支持面、51B…入力伝達面、52…入力軸、53…出力ディスク、53A…出力支持面、53B…出力伝達面、54…出力軸、55…ボール、55A…回転軸、56…ケーシング、60…操作装置、60R…右手用操作装置、60L…左手用操作装置、61…ドラム(変更部材)、62…ハンドル(操作部材)、63…操舵レバー(操舵レバー)、64…制動レバー(制動レバー)、65…ワイヤ(接続部材)、66…ワイヤステイ、67…ワイヤチューブ、70…復帰装置(復帰装置)、71…インナハウジング(第1ハウジング)、71A…雄ねじ、72…アウタハウジング(第2ハウジング)、72A…雌ねじ、73…クリップ(連動部材)、74…シリンダ(相対移動部材)、74A…油溜まり、75…スプリング(弾性部材)、75A…第1端部(第1端部)、75B…第2端部(第2端部)、76…ストッパ、80…復帰装置(復帰装置)、81…インナハウジング(第1ハウジング)、81A…雄ねじ、82…アウタハウジング(第2ハウジング)、82A…雌ねじ、83…クリップ(連動部材)、84…ピストン(相対移動部材)、85…スプリング(弾性部材)、85A…第1端部(第1端部)、85B…第2端部(第2端部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右駆動輪の回転速度および左駆動輪の回転速度を変速比に応じた大きさに変更する変速装置が設けられていること、
この変速装置内の機構を動作させて前記変速比を変更する変更部材が設けられていること、
ならびに、車両が直進するときの前記変速比を直進変速比とし、車両が旋回するときの前記変速比を旋回変速比とし、前記変速比が前記直進変速比のときの前記変速装置の動作状態を直進動作状態とし、前記変速比が前記旋回変速比のときの前記変速装置の動作状態を旋回動作状態として、前記変速装置の動作状態を前記旋回動作状態から前記直進動作状態に復帰させる復帰装置が設けられていること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の操舵装置において、
当該操舵装置には、前記変更部材を駆動する操作装置が設けられていること、
この操作装置には、運転者により操作される操作部材と、この操作部材に入力された力により前記変更部材を駆動する接続部材とが設けられていること、
ならびに、前記変速比が前記旋回変速比から前記直進変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を復帰変速動作として、前記変更部材を同復帰変速動作させる力が前記復帰装置から前記接続部材に付与されること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の操舵装置において、
前記復帰装置には、前記接続部材に対して移動する相対移動部材と、前記接続部材に連動する連動部材と、この連動部材の移動方向において前記相対移動部材に対して前記連動部材とは反対側に設けられた弾性部材とが設けられていること、
前記変更部材と前記操作部材との間においては前記連動部材および前記相対移動部材および前記弾性部材の順にこれらの構成要素が設けられていること、
前記変速比が前記直進変速比から前記旋回変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を旋回変速動作とし、前記連動部材が前記相対移動部材に接近する方向を接近方向とし、前記連動部材が前記相対移動部材から離間する方向を離間方向として、前記操作部材の操作により前記接続部材が前記接近方向に移動するとき、前記変更部材が前記旋回変速動作すること、
ならびに、前記操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記弾性部材の復元力により前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の操舵装置において、
前記操作装置として、右手用操作装置および左手用操作装置が設けられていること、
前記右手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとき、前記左手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、
前記左手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとき、前記右手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、
前記右手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記右手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること、
ならびに、前記左手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記左手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車両の操舵装置において、
前記操作装置として、右手用操作装置および左手用操作装置が設けられていること、
前記復帰装置には、前記接続部材に対して移動する相対移動部材と、前記接続部材に連動する連動部材と、この連動部材の移動方向において前記相対移動部材に対して前記連動部材とは反対側に設けられた弾性部材とが設けられていること、
前記変更部材と前記操作部材との間においては前記弾性部材および前記相対移動部材および前記連動部材の順にこれらの構成要素が設けられていること、
前記変速比が前記直進変速比から前記旋回変速比に向けて変化する前記変更部材の動作を旋回変速動作とし、前記連動部材が前記相対移動部材に接近する方向を接近方向とし、前記連動部材が前記相対移動部材から離間する方向を離間方向として、
前記右手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとき、前記左手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、
前記左手用操作装置の操作部材の操作により同操作装置の前記連動部材が前記離間方向に移動するとき、前記右手用操作装置において同操作装置の前記連動部材が前記接近方向に移動するとともに前記変更部材が前記旋回変速動作すること、
前記右手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記左手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること、
ならびに、前記左手用操作装置の操作部材の操作により前記変速装置が前記旋回動作状態にあるとき、前記右手用操作装置の弾性部材の復元力により同操作装置において前記変更部材を前記復帰変速動作させる力が同操作装置の前記相対移動部材および前記連動部材を介して前記接続部材に付与されること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車両の操舵装置において、
前記弾性部材においての前記連動部材側の端部である第1端部が前記相対移動部材に取り付けられていること、
前記復帰装置には、前記接近方向および前記離間方向において相対的な移動が可能な第1ハウジングおよび第2ハウジングが設けられていること、
ならびに、前記弾性部材においての前記連動部材側とは反対側の端部である第2端部が前記第2ハウジングに取り付けられていること
を特徴とする車両の操舵装置。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項に記載の車両の操舵装置において、
前記操作部材には、前記接続部材に連結された操舵レバーと、前記右駆動輪および前記左駆動輪を制動するための制動レバーとが設けられていること
を特徴とする車両の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144198(P2012−144198A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5350(P2011−5350)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】