説明

車両の歩行者保護対応車体構造

【課題】 歩行者への頭部傷害値(HIC値)を可及的且つ効果的に低減することができる車両の歩行者保護対応車体構造を提供する。
【解決手段】 ウインドシールドガラス1の下部とエンジンフード2の後部との間を閉塞するように配設されたデッキガーニッシュ3と、フロントデッキ11から車体前方に向けて延出されたフロントデッキエクステンション9とを備え、前記デッキガーニッシュ3はデッキガーニッシュロア5とデッキガーニッシュアッパ4との2部材で形成され、デッキガーニッシュロア5の下部はフロントデッキエクステンション9の前部と結合されると共に、デッキガーニッシュロア5の上部はデッキガーニッシュアッパ4の前部と樹脂クリップ7を介して結合された結合部を有し、該結合部は上方からの所定値以上の荷重によりデッキガーニッシュロア5の上部に形成されて樹脂クリップ7が貫通する鍵穴状の切欠き14を介して離脱可能に構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両の歩行者保護対応車体構造に係り、一層詳細には交通事故等で歩行者の頭部がデッキガーニッシュ廻りに衝突した際の頭部傷害値(HIC値)を可及的に低減することができるようにした車両の歩行者保護対応車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等車両のデッキガーニッシュは、実用上の剛性感を持たせるために車体に対してしっかりと取り付けられ、尚且つ単品剛性もある程度しっかりとしている必要がある。しかし、そのために剛性を高くしすぎると、交通事故等で歩行者の頭部がデッキガーニッシュ廻りに衝突した際、頭部傷害値(HIC値)が大きくなってしまうという不具合がある。今後、この頭部傷害値(HIC値)は、諸外国で規制化される方向にある。
【0003】
例えば、図4に示すように、従来のデッキガーニッシュ100は、車両のウインドシールドガラス101の下部上面とエンジンフード102の後部下面との間を閉塞するように配設され車幅方向に延びている。そして、このデッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aとフロントデッキ103から車体前方に向けて延出された車幅方向に長いフロントデッキエクステンション104の前部合わせ面104aとは樹脂クリップ105で結合されると共に、デッキガーニッシュ100に対して斜め上前方からの所定値以上の力の作用時にはデッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aがフロントデッキエクステンション104の前部合わせ面104aから離脱可能に構成される。例えば樹脂クリップ105の軸部がデッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aに形成した図示しない切欠きから抜け出すなどするのである(特許文献1参照)。
【0004】
従って、万一の衝突による歩行者の頭部によってエンジンフード102の後部に所定値以上の衝撃力が加わった場合には、ウェザーストリップ106が配された支持部を経て伝達された衝撃力により、デッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aがフロントデッキエクステンション104の前部合わせ面104aから脱落することになり、歩行者への頭部傷害値(HIC値)を低減させられる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−46649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のデッキガーニッシュ100は、合成樹脂製の一体物で形成されると共に、デッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aとウェザーストリップ106が配された支持部との間に所定高さの縦壁100bが存在するため、歩行者の頭部によってエンジンフード102の後部に衝撃力が加わったとしても、デッキガーニッシュ100の前部合わせ面100aがフロントデッキエクステンション104の前部合わせ面104aから脱落するまでの支持剛性が比較的高いことから、歩行者への頭部傷害値(HIC値)を十分に低減させることができないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、歩行者への頭部傷害値(HIC値)を可及的且つ効果的に低減することができる車両の歩行者保護対応車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る車両の歩行者保護対応車体構造は、車両のウインドシールドガラス下部上面とエンジンフード後部下面との間を閉塞するように配設され車幅方向に延びたデッキガーニッシュと、フロントデッキから車体前方に向けて延出された車幅方向に長い皿状のエクステンション部材と、を備え、前記デッキガーニッシュは、デッキガーニッシュロアとデッキガーニッシュアッパとの2部材で形成され、前記デッキガーニッシュロアの下部は前記エクステンション部材の前部と結合されると共に、同デッキガーニッシュロアの上部は同デッキガーニッシュアッパの前部と締結部材を介して結合された結合部を有し、前記結合部は上方からの所定値以上の荷重により離脱手段を介して離脱可能に構成されたことを特徴とする。
【0009】
また、前記締結部材は、前記結合部を上下に貫通する樹脂クリップであることを特徴とする。
【0010】
また、前記離脱手段として、前記デッキガーニッシュロアの上部に、前記締結部材の軸部が車両後方への強制抜出しが可能に、鍵穴状の切欠きが形成されることを特徴とする。
【0011】
また、前記離脱手段として、前記結合部を含むデッキガーニッシュロアの上部と同デッキガーニッシュアッパの前部との合わせ面が、車両前方から後方へ下向きに傾斜する傾斜面に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、デッキガーニッシュをロアとアッパとに2分割し、その結合部の締結強度を実用上、問題無い下限値レベルに設定することを可能としたので、実用上の剛性は保ちつつ、歩行者の頭部がデッキガーニッシュ廻りに衝突した際の頭部傷害値(HIC)の増大を抑えられる。
【0013】
また、前記締結部材は樹脂クリップであるので、汎用品の使用が可能である。
【0014】
また、前記離脱手段として、前記デッキガーニッシュロアの上部に、前記締結部材の軸部が車両後方への強制抜出しが可能に、鍵穴状の切欠きが形成されるので、デッキガーニッシュアッパをデッキガーニッシュロアから確実に離脱させることができると共に切欠きの加工が容易である。
【0015】
また、前記離脱手段として、前記結合部を含むデッキガーニッシュロアの上部と同デッキガーニッシュアッパの前部との合わせ面が、車両前方から後方へ下向きに傾斜する傾斜面に形成されるので、上方からの荷重入力に対し前記合わせ面間に分力を発生させて合わせ面を互いに滑らすことができ、デッキガーニッシュアッパをデッキガーニッシュロアからより確実に離脱させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両の歩行者保護対応車体構造を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す車両の歩行者保護対応車体構造の断面図、図2は同じくデッキガーニッシュの分解斜視図、図3は同じく離脱手段の説明図である。
【0018】
図1に示すように、車両のウインドシールドガラス1の下部上面とエンジンフード2の後部下面との間を閉塞するように合成樹脂製のデッキガーニッシュ3が配設され車幅方向に延びている。このデッキガーニッシュ3は、図2にも示すように、略ハット型断面のデッキガーニッシュアッパ4と略Z型断面のデッキガーニッシュロア5とに2分割される。
【0019】
そして、デッキガーニッシュアッパ4の後部はシーラ6を介してウインドシールドガラス1の下部上面に接合されると共に、デッキガーニッシュアッパ4の前部は合わせ面4aに形成されてデッキガーニッシュロア5の上部に形成された上部合わせ面5aと、締結部材である樹脂クリップ7により、デッキガーニッシュ3の全幅に亙って複数点で結合されている(結合部)。樹脂クリップ7は、デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4a上に敷設されるウェザーストリップ8の下面部から一体的に垂設されて、デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4a及びデッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aを上下に貫通している。
【0020】
デッキガーニッシュロア5の下部は下部合わせ面5bに形成されて板金製のフロントデッキエクステンション(エクステンション部材)9の前部に形成された合わせ面9aと樹脂クリップ10によりデッキガーニッシュ3の全幅に亙って複数点で結合されている。
【0021】
フロントデッキエクステンション9は、フロントデッキアウタ11aとフロントデッキインナ11bとで閉断面を形成してなるフロントデッキ11から連結部材12を介して車両前方に延出された車幅方向に長い皿状のものであり、その上部空間にはワイパーユニット13が配設される。
【0022】
そして、本実施例では、前記デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4aとデッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aとの結合部が、(前斜め)上方から所定値以上の荷重が入力されると後述する離脱手段を介して離脱可能に構成されている。
【0023】
即ち、前記離脱手段として、図3に示すように、デッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aに形成された樹脂クリップ7の貫通孔部が、当該樹脂クリップ7の軸部が車両後方への強制抜出しが可能に、鍵穴状の切欠き14に形成されるのである。
【0024】
また、前記離脱手段として、前記デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4aとデッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aとが、車両前方から後方へ下向きに傾斜する傾斜面に形成され、(前斜め)上方からの荷重入力Fに対し前記合わせ面4a,5a間に前記切欠き14に沿った分力F2を発生させて合わせ面4a,5aを互いに滑らすことができるようになっている。
【0025】
このように本実施例では、合成樹脂製のデッキガーニッシュ3をデッキガーニッシュロア5とデッキガーニッシュアッパ4とに2分割し、デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4aとデッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aとの樹脂クリップ7による結合部の締結強度を実用上、問題無い下限値レベルに設定することを可能とした。
【0026】
歩行者の頭部が衝突した際の衝撃エネルギーは、先ずエンジンフード2の変形とデッキガーニッシュ3自体の変形に消費される。次にエネルギーはデッキガーニッシュ3全幅に渡って複数点設定した前記樹脂クリップ7による結合部の離脱に消費されることになる。
【0027】
この際、樹脂クリップ7による結合部の締結強度、位置、点数等を適正に設定すれば、比較的低い変形荷重値で部品間の離脱が進行し、限られたレイアウト内で効率良いエネルギー吸収が可能となり、実用上の剛性は保ちつつ、歩行者の頭部がデッキガーニッシュ廻りに衝突した際の頭部傷害値(HIC)の増大を抑えられる。
【0028】
また、本実施例では、締結部材に樹脂クリップ7を用いるので、汎用品を有効に使用できる。また、離脱手段として、デッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aに、樹脂クリップ7の軸部が車両後方への強制抜出しが可能に、鍵穴状の切欠き14が形成されるので、デッキガーニッシュアッパ4をデッキガーニッシュロア5から確実に離脱させることができると共に切欠き14の加工も容易である。また、離脱手段として、デッキガーニッシュアッパ4の合わせ面4aとデッキガーニッシュロア5の上部合わせ面5aとが、車両前方から後方へ下向きに傾斜する傾斜面に形成され、(前斜め)上方からの荷重入力Fに対し前記合わせ面4a,5a間に前記切欠き14に沿った分力F2を発生させて合わせ面4a,5aを互いに滑らすことができるようになっているので、デッキガーニッシュアッパ4をデッキガーニッシュロア5からより確実に離脱させることができる。
【0029】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることはいうまでもない。例えば、樹脂クリップ7をウェザーストリップ8と別体に形成しても良いし、締結部材として樹脂クリップ7の代わりにボルト・ナットやピン等を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例を示す車両の歩行者保護対応車体構造の断面図である。
【図2】同じくデッキガーニッシュの分解斜視図である。
【図3】同じく離脱手段の説明図である。
【図4】従来の車両の歩行者保護対応車体構造の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ウインドシールドガラス、2 エンジンフード、3 デッキガーニッシュ、4 デッキガーニッシュアッパ、4a 合わせ面、5 デッキガーニッシュロア、5a 上部合わせ面、5b 合わせ面、6 シーラ、7 樹脂クリップ、8 ウェザーストリップ、9 フロントデッキエクステンション、9a 合わせ面、10 樹脂クリップ、11 フロントデッキ、11a フロントデッキアウタ、11b フロントデッキインナ、12 連結部材、13 ワイパーユニット、14 切欠き。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のウインドシールドガラス下部上面とエンジンフード後部下面との間を閉塞するように配設され車幅方向に延びたデッキガーニッシュと、
フロントデッキから車体前方に向けて延出された車幅方向に長い皿状のエクステンション部材と、を備え、
前記デッキガーニッシュは、デッキガーニッシュロアとデッキガーニッシュアッパとの2部材で形成され、
前記デッキガーニッシュロアの下部は前記エクステンション部材の前部と結合されると共に、同デッキガーニッシュロアの上部は同デッキガーニッシュアッパの前部と締結部材を介して結合された結合部を有し、
前記結合部は、上方からの所定値以上の荷重により離脱手段を介して離脱可能に構成されたことを特徴とする車両の歩行者保護対応車体構造。
【請求項2】
前記締結部材は、前記結合部を上下に貫通する樹脂クリップであることを特徴とする請求項1記載の車両の歩行者保護対応車体構造。
【請求項3】
前記離脱手段として、前記デッキガーニッシュロアの上部に、前記締結部材の軸部が車両後方への強制抜出しが可能に、鍵穴状の切欠きが形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両の歩行者保護対応車体構造。
【請求項4】
前記離脱手段として、前記結合部を含むデッキガーニッシュロアの上部と同デッキガーニッシュアッパの前部との合わせ面が、車両前方から後方へ下向きに傾斜する傾斜面に形成されることを特徴とする請求項1,2又は3記載の車両の歩行者保護対応車体構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−111105(P2006−111105A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299681(P2004−299681)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】