説明

車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法

【課題】 他車両への載せ換えが容易であると共に、簡易な構造のエコドライブ車載機器を用い、車種や走行条件の相違に応じて、省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価する。
【解決手段】 少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析し、運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離毎に生成し、エンジン燃費マップと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、理想的な省燃費運転モデルと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出し、評価対象燃費と理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法に関するものであり、詳しくは、どのような種類の車両であっても、定量的な評価及び比較が可能な省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設業界は言うに及ばず広く一般社会において、二酸化炭素(CO2)の排出量削減は、重要な環境対策として位置付けられており、特に車両から排出されるCO2を削減するための省燃費運転教育の必要性が重要課題となっている。省燃費運転教育では、その効果を効率的かつ継続的に維持することが難しいため、省燃費運転の実施状況や燃費向上効果を把握して評価するためのエコドライブ管理システム(EMS)の研究及び開発が、運輸業の貨物車を中心に盛んに行われており、燃費向上やCO2削減という経済面や環境面のみならず、事故件数の減少という安全面でも高い改善効果が確認されている。
【0003】
従来、このような省燃費運転を評価するための方法が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1に記載された運転支援装置は、予め燃費率マップを作成する必要をなくすことにより、コストダウンを図ると共に、車両を選ばずに搭載可能な装置を提供することを目的とした技術である。この運転支援装置は、走行状態検出手段により、車両の走行状態を検出し、燃費検出手段により、車両の燃費情報を検出する。そして、学習手段により、検出された走行状態情報を入力とし、検出された燃費情報を出力とする学習を行い、推論手段により、学習手段が行った学習結果を用いて、入力された走行状態情報に対する燃費情報を推論する。さらに、入力手段により、推論手段に走行状態情報を入力し、支援手段により、燃費検出手段で検出された現燃費情報と、推論手段で推論された燃費情報との比較に基づいて、省燃費運転の支援を行うようになっている。
【0004】
また、特許文献2に記載された車両運転状態評価システムは、正確な燃費の演算を目的とした技術である。この車両運転状態評価システムは、評価ユニットのメモリに、エンジンの回転速度と負荷と燃費率の関係を規定した燃費率マップが格納されている。そして、評価ユニットにより、エンジンの初期燃費率に対する現在の燃費率の変化を求め、燃費率の変化に基づき燃費率マップを補正し、エンジンの回転速度と負荷に基づき補正後の燃費率マップを参照することでエンジンの燃費率を演算し、演算された燃費率に基づきエンジンの燃料消費量を演算するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−46149号公報
【特許文献2】特開2004−60548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の省燃費運転を評価・支援する装置は、車両の運行データを取得するための計測機器の設置に手間がかかるため、基本的に他車両へ載せ換えることができなかった。また、車両毎に取得可能な独自の情報のみを考慮して省燃費運転の評価を行うため、車両が異なる場合や、渋滞等の走行条件が異なる場合には、定量的な評価や比較が出来ないという問題もあった。さらに、車載装置が大型化したり、構造が複雑であったりするため、製造コストが上昇するという問題もあった。
【0007】
特に、建設施工現場では、同一の車両を長期間に渡って使用する運輸業等とは異なり、工事の進捗や作業状況に応じて走行条件が日々変化し、これに伴いトラックや重機等も日々入れ替わることが多い。このため、建設施工現場で省燃費運転による効果を一元管理するためには、車両の種類を選ばず簡易に載せ替えが可能な車載機器の開発が求められると共に、省燃費運転の実施状況を走行条件や車種の違いに拘わらず定量的に評価する手法が必要である。
【0008】
なお、既存のエコドライブ車載機器には簡易に載せ替え可能な機器も存在するが、これらの機器はGPSシステムにより取得した位置情報等を利用して車両速度のみを測定する簡易なものであるため、車両速度に関する項目について省燃費運転を評価することができるだけである。また、仮に同じ速度で走行した場合であっても、燃費はギア位置や積荷状態の影響を受けるため、車両速度のみの測定では、燃費やCO2排出量を定量的に評価することは困難である。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、他車両への載せ換えが容易であると共に、簡易な構造のエコドライブ車載機器を用いて、車種や走行条件の相違に応じて、省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価することが可能な車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る車両の省燃費運転評価装置は、省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価することが可能な装置であって、運転状況・積荷状況分析手段と、理想的省燃費運転モデル生成手段と、燃費シミュレーション手段と、省燃費運転達成率算出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
運転状況・積荷状況分析手段は、少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析するための手段である。理想的省燃費運転モデル生成手段は、運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離毎に生成するための手段である。燃費シミュレーション手段は、エンジン燃費マップと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、理想的な省燃費運転モデルと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出するための手段である。省燃費運転達成率算出手段は、評価対象燃費と理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出するための手段である。
【0012】
また、上述した構成に加えて、理想的省燃費運転モデル生成手段は、以下の手法により最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度を設定することが可能である。エンジン動力を駆動輪に伝達するためのトランスミッションを構成する各ギアにおける最低常用速度に達した時点をシフトアップ・タイミングとして、最適なシフトアップ方法を設定する。設定された最適なシフトアップ・タイミングでシフトアップを実施した際のエンジンの軸トルクに基づいて、各ギアにおける加速度の上限値を求めることにより、最適な加速方法を設定する。減速時に惰性運転を多用させるための最適な減速方法を設定する。設定された最適なシフトアップ・タイミングにおけるシフトアップ直後の車両速度を最適な経済速度として設定する。
【0013】
また、上述した構成に加えて、分析された運転状況及び積荷状況と、理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、省燃費運転の具体的評価を行う省燃費運転評価手段を備えることが可能である。
【0014】
この場合、省燃費運転評価手段は、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目について評価を行うことが可能である。
【0015】
本発明に係る車両の省燃費運転評価方法は、省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価することが可能な車両の省燃費運転評価方法であって、以下の工程を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
すなわち、本発明に係る車両の省燃費運転評価方法は、少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析し、運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離毎に生成し、エンジン燃費マップと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、理想的な省燃費運転モデルと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出し、評価対象燃費と理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出する。
【0017】
また、上述した構成に加えて、分析された運転状況及び積荷状況と、理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目について評価を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法によれば、少なくとも車両速度とエンジン回転数の2つの運行データから、省燃費運転の評価を行うことができるため、簡易に載せ換え可能なエコドライブ車載機器への展開が可能である。
【0019】
また、車両の運転状況や積荷状況を詳細に把握することができ、車両の燃費やCO2排出量を精度良く評価することが可能である。
【0020】
また、省燃費運転の実施状況のみを定量的かつ統一的に評価するため、車種や走行条件が異なる車両同士(例えば、重ダンプトラックと10tダンプトラック)であっても、省燃費運転の実施状況を比較することが可能である。
【0021】
さらに、省燃費運転に関わる具体的な運転方法の項目(例えば、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目)に対して、定量的な評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の省燃費運転評価装置の機能ブロック図である。
【図2】省燃費運転の運行プロファイルを示す説明図。
【図3】推定したエンジン燃費マップを示す説明図。
【図4】車両速度と燃費の関係を示す説明図。
【図5】運行プロファイル作成事例を示す説明図。
【図6】重ダンプトラックにおける省燃費運転ポイントの評価例を示す説明図。
【図7】10tダンプトラックにおける省燃費運転ポイントの評価例を示す説明図。
【図8】省燃費運転ポイントの評価平均値と省燃費運転達成率との関係を示す説明図。
【図9】レーダーチャートによる省燃費運転達成率の評価例を示す説明図。
【図10】各評価点と燃費の推移を示す説明図。
【図11】プログラムによる処理フローを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法の実施形態を説明する。
【0024】
<車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法の概要>
本発明の実施形態に係る車両の省燃費運転評価装置及び省燃費運転評価方法は、例えば、建設施工現場のダンプトラック(重ダンプトラック、10tダンプトラック)を対象として、簡易に載せ換え可能なエコドライブ車載機器を想定し、比較的容易に計測可能であると思われる車両速度とエンジン回転数の2つの運行データから、燃費やCO2排出量を定量的に評価するための技術である。また、車種や走行条件の違いを「理想的な省燃費運転モデル」を用いて考察し、省燃費運転の実施状況のみを定量的かつ統一的に評価することが可能である。なお、エコドライブ車載器としては、例えば、現在普及している電話機能及びデータ通信機能を有するパーソナル携帯通信端末を用いることが可能である。
【0025】
<省燃費運転評価装置を構成する機能手段>
本実施形態の省燃費運転評価装置は、図1に示すように、運転状況・積荷状況分析手段10と、理想的省燃費運転モデル生成手段20と、燃費シミュレーション手段30と、省燃費運転達成率算出手段40とを備えている。さらに、省燃費運転評価手段50を備えることが可能である。各手段は、例えばパーソナル携帯通信端末の機能として実現することができ、パーソナル携帯通信端末を構成するCPU等のハードウェアが、ROM等に記憶されたプログラムに従って動作することにより実現されるものである。なお、プログラムとは、RAM等に記憶され、CPU等のハードウェアで実行されることにより、その機能を発揮するソフトウェアだけではなく、同等の機能を発揮することが可能な論理回路も含む概念である。
【0026】
運転状況・積荷状況分析手段10は、少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析するためのプログラムからなる。理想的省燃費運転モデル生成手段20は、運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離(ショートトリップ)毎に生成するためのプログラムからなる。燃費シミュレーション手段30は、エンジン燃費マップと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、理想的な省燃費運転モデルと分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出するためのプログラムからなる。省燃費運転達成率算出手段40は、評価対象燃費と理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出するためのプログラムからなる。
【0027】
ここで、理想的省燃費運転モデル生成手段20は、エンジン動力を駆動輪に伝達するためのトランスミッションを構成する各ギアにおける最低常用速度に達した時点をシフトアップ・タイミングとして、最適なシフトアップ方法を設定し、最適なシフトアップ・タイミングでシフトアップを実施した際のエンジンの軸トルクに基づいて、各ギアにおける加速度の上限値を求めることにより、最適な加速方法を設定し、減速時に惰性運転を多用させるための最適な減速方法を設定し、最適なシフトアップ・タイミングにおけるシフトアップ直後の車両速度を最適な経済速度として設定することが可能である。
【0028】
また、省燃費運転評価手段50は、分析された運転状況及び積荷状況と、理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、省燃費運転の具体的評価を行うためのプログラムからなる。
【0029】
ここで、省燃費運転評価手段50は、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目について評価を行うことが可能である。
【0030】
<車両の運転状況・積荷状況の分析>
ダンプトラックの燃費やCO2排出量は、走行時のギア位置や積荷状態の影響を受けるため、ダンプトラックの省燃費運転を評価するためには、運転状況や積荷状況を詳細に把握する必要がある。
【0031】
<走行・アイドリング・エンジン停止の判定>
ダンプトラックの運転状況・積荷状況を把握するためには、まず車両が走行しているのか、停車(アイドリング、もしくはエンジン停止)しているのかを判定する必要がある。この判定は、車両速度とエンジン回転数を用いれば簡易に行うことが可能である。車両速度がゼロでない場合が走行であり、車両速度がゼロの場合が停車である。また、停車中にエンジン回転数がゼロでない場合がアイドリング状態、エンジン回転数もゼロの場合がエンジン停止状態である。
【0032】
<走行時の加速・減速の判定>
車両の燃費は、走行時の加速・減速方法によっても変化するため、車両の加速状態の判定も重要である。走行時の加速・減速の判定は、車両の加速度から判定する。計測時刻tにおける加速度αは、計測時刻tにおける速度vtと、その前の計測時刻t−1における速度vt-1から、下記式(1)として求めることができる。
【0033】
【数1】

【0034】
上記式(1)において、Δtは計測間隔時間であり、本実施形態ではデータを1秒間隔で計測しているため、上記式(1)式に示す加速度αの単位はkm/h/sとなる。この加速度αがゼロより大きい場合が加速であり、加速度αがゼロより小さい場合が減速である。なお、走行時に加速度αがゼロとなる場合は、一定速度での走行である。
【0035】
<走行時のギア位置の判定>
エンジンの回転は、変速機および終減速機により最適に減速されタイヤに伝達される。この時の車両速度とエンジン回転数の関係は、下記式(2)として表すことができる。
【0036】
【数2】

【0037】
上記式(2)において、vは車両速度、Nはエンジン回転数、imは変速機ギア比、ifは終減速機ギア比、rはタイヤの動的負荷半径である。終減速機ギア比ifおよびタイヤの動的負荷半径rは、各車両で一定であるため、走行時のギア位置(変速機ギア比im)は、測定した車両速度vとエンジン回転数Nを、上記式(2)に代入することにより求めることができる。
【0038】
<ダンプトラックの積荷状態の判定>
建設現場で使用するダンプトラックは積載重量が大きく、積荷状態が燃費や運転方法に大きな影響を及ぼすことから、積荷状態の判定は重要である。ダンプトラックの積荷状態は、例えば、空車・荷積み・実車・荷下しの4つの状態に大別することができる。
【0039】
ここで、先に求めた車両の走行、アイドリング、エンジン停止の判定結果から、各状態で分類してグループ化する。そして、ダンプトラックの荷下しが、荷台のダンプアップのために常にアイドリング状態にあり、この時のエンジン回転数が通応のアイドリングよりも高いことに着目する。ここでは、分類した各グループにおいて、アイドリング状態にあり、かつエンジン回転数が基準値を超える場合を荷下しとして判定する。
【0040】
荷積みについては、ダンプトラックの運搬距離を用いて、荷下しまでの走行距離を逆算し、車両が停止しているグループを荷積みと判定する。荷積みと荷下しが判定できれば、あとは荷積みから荷下しまでの間を実車と判定し、荷下しから荷積みまでの間を空車と判定すればよい。
【0041】
上述した判定結果と、実際にドライバーが作成した日報(荷積み、荷下し終了時刻等の記録)とを比較したところ、両者はほぼ一致しており、ダンプトラックの運転状況・積荷状況を精度良く分析可能であり、車両が異なるダンプトラックに対しても、本発明を適用可能であることが判明している。
【0042】
<燃料消費とCO2排出量の算定方法>
車両の燃料消費量は、エンジンが発揮する軸トルクとエンジン回転数によって決まる。軸トルクは、車両を前進させるためにエンジンが発揮する力であり、この時のエンジンの軸出力Pは、エンジン回転数N と軸トルクTを用いて、下記式(3)として表すことができる。
【0043】
【数3】

【0044】
一方、車両が速度vで走行するためにタイヤが行う正味の仕事率Peは、下記式(4)として表すことができる。
【0045】
【数4】

【0046】
上記式(4)において、gは重力加速度、Rは車両抵抗である。エンジンが発揮する軸出力Pは、変速機および終減速機を介してタイヤに伝わるため、エンジンの軸出力Pと正味の仕事率Peとの関係は、下記式(5)として表すことができる。
【0047】
【数5】

【0048】
上記式(5)において、ηmは変速機の伝達効率、ηfは終減速機の伝達効率である。上記式(3)及び上記式(4)を上記式(5)に代入し、さらに上記式(2)を用いることで、軸トルクT は車両抵抗Rの関数として、下記式(6)として表すことができる。
【0049】
【数6】

【0050】
ここで、車両抵抗Rとは、空気抵抗Ra、転がり抵抗Rr、勾配抵抗Rθ、加速抵抗Rcの和であり、下記式(7)として表すことができる。
【0051】
【数7】

【0052】
空気抵抗Raは、車両表面の空気摩擦による抵抗であり、車両速度vの二乗に比例するため、下記式(8)として表すことができる。
【0053】
【数8】

【0054】
上記式(8)において、Aは車両前面投影面積、μaは空気抵抗係数である。
【0055】
転がり抵抗Rrは、タイヤが転がる際に生じる抵抗であり、車両速度に関係なく車両重量のみに比例すると考えられ、下記式(9)として表すことができる。
【0056】
【数9】

【0057】
上記式(9)において、Mは車両重量、μrは転がり抵抗係数である。
【0058】
勾配抵抗Rθは、登坂の際に発生する抵抗であり、車両重量Mと路面の傾斜角θより、下記式(10)として表すことができる。
【0059】
【数10】

【0060】
なお、路面の傾斜角θは車両速度とエンジン回転数のみでは判断できないため、勾配抵抗Rθを求めることは困難である。したがって、本実施形態における計算では、ダンプトラックの運搬経路が基本的に土取場と土捨場の往復であると考え、総合的に勾配抵抗Rθはゼロになると仮定して無視することとした。
【0061】
加速抵抗Rcは、加速を行う際に発生する抵抗であり、加速度と車両重量に比例した下記式(11)として表すことができる。
【0062】
【数11】

【0063】
上記式(11)において、gは重力加速度。ΔMは加速時の回転部分相当重量である。上記式(8)、上記式(9)、上記式(11)を、上記式(7)に代入すると、車両抵抗Rは、下記式(12)として表すことができる。
【0064】
【数12】

【0065】
車両の燃料消費量は、上記式(6)及び上記式(12)から計算した軸トルクと、測定したエンジン回転数から、エンジン燃費マップを用いて各時刻の瞬間燃料消費量を求め、得られた瞬間燃料消費量を積算することで算出する。なお、エンジン燃費マップとは、エンジン回転数と軸トルク、燃料消費量の関係を示したグラフ(図3参照)である。燃費については、算出した燃料消費量と走行距離の比から求めることができ、CO2排出量については、燃料消費量に原単位を掛けることで算出される。
【0066】
<理想的な省燃費運転モデル>
本実施形態において、車両の燃費は、車両の性能、走行条件(例えば、交通量や信号等の影響)、ドライバーの省燃費運転技術によって決定される。この点、従来のエコドライブ車載装置では、車両の性能が異なる場合や走行条件が異なる場合には、計測される燃費も異なるため、省燃費運転の実施状況のみを評価・比較することが困難であった。そこで、本実施形態では、車両の性能や走行条件を考慮した「理想的な省燃費運転モデル」を運行データ毎に作成し、これを用いた省燃費運転技術の評価を試みている。
【0067】
理想的な省燃費運転モデルとは、実際の運転状態・積荷状況に対して、同じ車両を用いて最も燃費の良い運転をした場合の走行モデルのことである。ここでは、最も燃費の良い運転方法を、波状運転等の複雑な走行パターンを取り除き、図2に示すように、加速、経済速度走行、減速という最も単純な運行プロファイルで走行した場合であると考え、この運行プロファイルを実際の運行データのショートトリップ(発進から停車に至るまでの1単位)毎に作成する。これにより、エンジン性能やギア比等の車両性能の違いは、運行プロファイル作成時の加速方法や減速方法、経済速度等で考慮され、交通渋滞や信号等の走行条件の違いは、各ショートトリップの移動距離として考慮されることになる。
【0068】
運行プロファイルを作成するためには、最も燃費の良いシフトアップ方法、加速方法、減速方法、経済速度等の運転条件が必要であり、これらの運転条件は、対象とする車両によって異なるものである。そこで、車両性能を考慮した運転条件を、以下のように設定した。
【0069】
<最適なシフトアップ方法の設定>
最も燃費の良いシフトアップ方法とは、増速に際して、出来る限り早めにシフトアップを行うことである。これは、ギア比が小さい高速ギアの方が、燃費が良いためである。しかし、あまりにも早い段階でシフトアップすると、エンジン回転数が小さくなりすぎてエンジンが停止してしまう。つまり、シフトアップ後のエンジン回転数には下限値が存在し、この下限値が燃費の良い最適なシフトアップであると考えられる。
【0070】
ここでは、エンジン回転数の下限値が各ギアの最低常用エンジン回転数Nminであるとし、下記式(13)を用いて求めることができる。
【0071】
【数13】

【0072】
上記式(13)において、Nmaxは最高出力エンジン回転数、Nidleはアイドリング時のエンジン回転数、xは各ギアにおける正規化エンジン回転数である。なお、正規化エンジン回転数xとして、下記表1に示す値を用いた。
【0073】
【表1】

【0074】
上記式(13)から求めた最低常用エンジン回転数Nminとギア比imを上記式(2)に代入すれば、各ギアにおける最低常用速度を求めることができ、この1つ下の低速ギアにおいて、この最低常用速度に達した時が最適なシフトアップ方法と設定することができる。
【0075】
下記表2に示した重ダンプトラックおよび10tダンプトラックについて、最適なシフトアップ方法を計算した結果を下記表3及び下記表4に示す。なお、表中に示したシフトアップ時のエンジン回転数は、シフトアップ時の車両速度から、再度上記式(2)を用いて求めた値である。また、本実施形態で測定している車両速度は1km/h間隔、エンジン回転数は50rpm間隔で出力されるため、表中に示した値はこの計測値の間隔に合わせて数値を切り上げている。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
<最適な加速方法の設定>
最も燃費の良い加速方法とは、急発進や急加速を避けることである。急発進や急加速を行うと、車両抵抗(加速抵抗)が大きくなるため、瞬間燃料消費量が増加するとともに、高いエンジン回転数でのシフトアップが必要となる。しかしながら、ゆっくりとした加速ほど燃費が良いというわけではない。ある一定距離を走行する場合、ゆっくりとした加速を長時間続けるより、出来るだけ短時間で加速し、車両抵抗の小さい一定速度走行に早く移行した方が燃費は良い。つまり、最も燃費の良い加速方法は、上述した最適なシフトアップ方法の条件下において、最も大きな加速度で加速することであると考えられる。
【0080】
そこで、各ギアにおける加速度の上限値を、最適なシフトアップを実施した際の軸トルクから求める。シフトアップ直後の軸トルクは、エンジンの最大トルクに対して、ある程度の余裕が必要であるため、加速時の軸トルク最大値Taは、最大トルクTmaxより、下記式(14)として求めることができる。
【0081】
【数14】

【0082】
上記式(14)において、mは最大トルクに対する余裕率であり、上記表1に示す値を用いた。また、この時の加速度αaは、上記(6)及び上記式(12)に軸トルクの最大値Taを代入することで、下記式(15)として表すことができる。
【0083】
【数15】

【0084】
実際のシフトアップでは、ある程度のギア保持時間が必要である。ここでは、発進ギア(1〜2速)の最低ギア保持時間を1.5秒間、その他(3速以上)の最低ギア保持時間を3秒間として最大加速度を求め、上記式(15)より求められる加速度αaと比較して小さい値を加速度の上限値とした。また、スムーズなシフトアップを実施するために、シフトアップした際の加速度はシフトアップ前の加速度以下である、という制約条件も別途考慮し、加速度の上限値を補正した。
【0085】
上記表3と上記表4に、上記表2に示したダンプトラックに対して、最適な加速度を計算した結果を示す。なお、車両重量が異なる空車と実車では、上記式(15)で求められる加速度の上限値も異なるため、空車と実車の両方に対して最適な加速度を求めている。また、加速度の出力は1km/h/sであるため、表中の加速度の値は小数点以下を切り下げている。
【0086】
<最適な減速方法の設定>
最も燃費の良い減速方法とは、出来るだけゆっくり減速することであり、惰性運転を多用することである。減速時は車両抵抗が小さいため、減速時の加速度αdはゼロに近いほど燃費は向上する。本実施形態で取得した加速度データは1km/h/s間隔であるため、上記表2に示したダンプトラックの減速時の加速度αdは、最小値である−1km/h/sとした。
【0087】
<経済速度の設定>
経済速度とは、一定速度で走行している際に、最も燃費の良い車両速度のことである。そこで、各車両速度に対する燃費を計算し、経済速度の設定を行った。各車両速度vに対する軸トルクTは、一定速度(加速抵抗がゼロ)での走行であるため、上記式(6)及び上記式(12)から、下記式(16)のように求めることができる。
【0088】
【数16】

【0089】
各車両速度vに対するエンジン回転数Nについては、各車両速度vに対応するギア比imから、上記式(2)を用いて計算され、軸トルクTと図3に示すエンジン燃費マップから、瞬間燃料消費量Fが求められる。一方、各車両速度vに対する瞬間移動距離Dは、下記式(17)により表されることから、燃費fは、瞬間燃料消費量Fと瞬間移動距離Dより、下記式(18)として求められる。
【0090】
【数17】

【0091】
【数18】

【0092】
図4は、表2に示した10tダンプトラックに対して、経済速度走行時の燃費を計算した例である。経済速度は、最も燃費の良い車両速度であるため、図4から各ギアに対する経済速度vmaxは、上記表4の様に求められる。なお、経済速度は空車と実車の違いに関わらず一定である。図4から明らかなように、各ギアにおける経済速度は、シフトアップ直後の車両速度となっていることがわかる。この傾向は、表3に示した重ダンプトラックの計算結果でも同様である。つまり、本実施形態の事例では、エンジン燃費マップを用いた複雑な計算を実施しなくても、シフトアップ時の車両速度から簡易的に経済速度を設定することも可能である。なお、簡易的に経済速度を設定する場合、1速ギアにおける経済速度は、最低常用エンジン回転数Nminを式(2)に代入して求めた車両速度であると考えてよい。
【0093】
<移動距離の設定>
運行プロファイルを作成する際、加速の上限(経済速度)を決定する基準となるのは、各ショートトリップの移動距離である。例えば、ショートトリップの移動距離が十分長い場合には、高速ギアまでシフトアップすることが可能であるが、ショートトリップの移動距離が短い場合には、加速距離が足りず、高速ギアまでシフトアップすることができなくなる。そこで、各ギア比に対する最低移動距離Dminを下記式(19)により求めた。
【0094】
【数19】

【0095】
上記式(19)において、Daは加速距離、Ddは減速距離(制動距離)であり、加速時および減速時の加速度αa,dを用いて、下記式(20)により移動距離Da,dを求めることができる。
【0096】
【数20】

【0097】
ショートトリップの移動距離が、上記式(19)で求めた各ギアの最低移動距離Dminより短い場合、このギアへのシフトアップは実施しないと考えると、各ギアと移動距離の関係が求められる。上記表3及び上記表4に、上記表2に示すダンプトラックに対して求めた各ギアと移動距離範囲の関係を示す。例えば、上記表4に示す10tダンプトラック(空車時)の結果を参照すると、6速ギアまでシフトアップするためには移動距離が462m以上必要であり、226m〜462mの移動距離範囲では5速ギア、81m〜226mの移動距離範囲では4速ギアまでしかシフトアップは実施しないことになる。図5に、10tダンプトラックにおける実際のショートトリップと、作成した運行プロファイルの事例を示す。
【0098】
<ダンプトラックの省燃費運転の評価>
上記表2に示した重ダンプトラック、10tダンプトラックに対して、理想的な省燃費運転モデルを作成し、エンジン回転数および軸トルク、エンジン燃費マップ(図3)を用いて、省燃費運転モデルの理想燃費を計算した。下記表5及び下記表6に、理想燃費の計算結果を示す。なお、理想的な省燃費運転モデルの作成に用いた運行プロファイルは、車両が走行している場合を対象としているため、停車中のアイドリングについては別途モデルを設定する必要がある。ここでは、アイドリングの継続時間が30秒以上の場合に、エンジンを停止するモデルとした。なお、アイドリングの継続時間は、車両や作業状況に合わせて任意に設定すればよい。
【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
理想燃費とは、省燃費運転を実施した際の燃費の上限値である。そこで、省燃費運転の達成率をAEとして、理想燃費fiと実走行燃費fの比率から、下記式(21)のように定義した。
【0102】
【数21】

【0103】
重ダンプトラック、10tダンプトラックに対して求めた省燃費運転達成率を、上記表5及び上記表6に示す。省燃費運転達成率は、省燃費運転がどの程度実践されているかを定量的に示した値である。このため、日々の省燃費運転の推移を評価することが可能であるとともに、この達成率の具体的な数値目標を定めることで、より効率的な省燃費運転の教育・指導を実施することが可能である。
【0104】
さらに、省燃費運転達成率はドライバーの省燃費運転技術のみを評価した数値であるため、車種が異なる場合や走行条件が異なる場合でも、達成率を比較することが可能である。例えば、上記表5及び上記表6に示すダンプトラックの省燃費運転達成率は、重ダンプトラックで平均53.8%、10tダンプトラックで平均49.5%であり、重ダンプトラックのドライバーの方が、省燃費運転をより実践できていると言える。なお、上記表5に示した重ダンプトラックのドライバーには、既に省燃費運転教育を実施しているため、教育を実施していない10tダンプトラックのドライバーと比較して達成率が高いのは、当然の結果である。以上のように、省燃費運転達成率は、省燃費運転を定量的かつ統一的に評価する指標として、非常に有効であると言える。
【0105】
<省燃費運転教育のポイントと評価>
上述した省燃費運転達成率は、運行データ全体に対する評価点である。このため、省燃費運転の教育を実施する際には、燃費を向上させるための具体的な運転方法についての評価が必要である。ここでは、省燃費運転のポイントが、教育・指導を必要とする具体的な運転方法であると考え評価を行う。なお、省燃費運転のポイントとして、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行という6項目を対象として評価を行った。
【0106】
<省燃費運転教育ポイントの評価方法>
省燃費運転達成率は、車両の燃費を用いて評価を行っているため、上述した省燃費運転の各ポイントについても、車両の燃費を用いて評価することが望ましい。しかしながら、これら省燃費運転のポイントは互いに相関性がある(例えば、急発進・急加速を行うと、シフトアップするタイミングが遅くなるし、波状運転の頻度が多ければ、経済速度での走行頻度が減少する)ため、各項目の燃費を個別に評価することは困難である。そこで、省燃費運転の各ポイントに対して、以下のような簡易的な評価を行うこととした。
【0107】
<アイドリングの抑制>
理想的な省燃費運転モデルでは、任意に設定した継続時間(本実施形態の検討では30秒)を越えるアイドリングについて、エンジンを停止するモデルを用いている。そこで、実際の運行データにおける車両の停車時間に対して、理想的なアイドリングが実施された時間の比率を求めることにより、アイドリングの評価を行う。この場合、アイドリングの評価点Eaは、下記式(22)で定義される。
【0108】
【数22】

【0109】
上記式(22)において、tsは運行データにおける車両停止の累計時間、ti,idealは理想的なアイドリング抑制が実施された累計時間である。なお、長時間エンジンを停止する昼休憩等を含む場合、アイドリングの評価点Eaは過小評価されることから、停車時間が30分を超える場合には、エンジンは常に停止しなければならないと考え、車両停止の累計時間tsには含まないものとした。
【0110】
<急発進・急加速の防止>
急発進・急加速とは、先に求めた理想的な加速度を超えた加速走行である。そこで、急発進・急加速の評価点Ebを、走行時の加速頻度naと理想的な加速度以下の頻度na,idealの比率を用いて、下記式(23)のように定義する。
【0111】
【数23】

【0112】
なお、理想的な加速度はギア比や積荷状態(空車および実車)によって異なる。このため、空車・実車の各ギア比に対して、理想的な加速度以下の頻度na,idealを個別に評価して足し合わせることで、全体の評価点を求めることができる。
【0113】
<早めのシフトアップ>
早めのシフトアップに加えて、遅めのシフトダウンも省燃費運転のポイントとして挙げることができるが、この項目は後述する惰性運転に含まれるものと考え、ここでは早めのシフトアップのみを対象として評価を行う。早めのシフトアップとは、先に求めた理想的なエンジン回転数でシフトアップすることであり、この理想的なエンジン回転数を超えた加速が、燃費の悪化に繋がると考える。ここでは、走行時の加速頻度naに対して、理想的なエンジン回転数以下での加速頻度nN,idealの比率から、早めのシフトアップの評価点Ecを、下記式(24)のように定義する。
【0114】
【数24】

【0115】
なお、理想的なエンジン回転数はギア比によって異なるため、各ギアに対して加速頻度nN,idealを評価し足し合わせることで、全体の評価点を求める。また、シフトアップの評価であるため、最高速ギア(本実施形態の場合は6速ギア)の加速走行は除外する。
【0116】
<波状運転の防止>
波状運転とは、ショートトリップ内において、加速と減速を何度も繰り返すような運転である。このため波状運転では、加速する際の車両抵抗(加速抵抗)が燃費に影響を与えると考えられる。そこで、各ショートトリップの加速抵抗Rcの累計と、理想的な運行プロファイルの加速抵抗Rc,idealの累計から、加速抵抗比CRを、下記式(25)のように求めることができる。
【0117】
【数25】

【0118】
この加速抵抗比CRが大きいほど波状運転が多い走行となり、1に近いほど波状運転を防止した理想的な走行となる。波状運転の評価点Edは、この加速抵抗比CRの頻度分布より、下記式(26)のように定義する。
【0119】
【数26】

【0120】
上記式(26)において、nSはショートトリップの頻度、nc,idealは理想的な加速抵抗比CRの頻度である。なお、本実施形態では加速抵抗比cRが2以下となる範囲から頻度nc,idealを求めた。
【0121】
<惰性運転の多用>
惰性運転とは、アクセルを踏み込まず惰性で走行する運転である。ここでは惰性運転を、アクセルを踏み込まない減速走行として捉える。惰性運転の評価点Eeは、走行時の減速頻度ndと、先に設定した減速時の加速度αdでの走行頻度nd,idealの比率により、下記式(27)のように定義する。
【0122】
【数27】

【0123】
<経済速度での走行>
経済速度とは、一定速度走行時(加速抵抗ゼロ)における最も燃費の良い車両速度である。そこで、経済速度の評価点Efを、一定速度での走行頻度nvと経済速度での走行頻度nv,idealを用いて、下記式(28)のように定義する。
【0124】
【数28】

【0125】
なお、一定速度を保持した運転は、実際にはかなり困難であると考えられるため、経済速度の判定値には、ある程度の許容範囲を持たせる必要がある。本実施形態の検討では、経済速度に対して±2km/hの範囲で頻度nv,idealを求めている。
【0126】
<ダンプトラックに対する具体的な評価>
上記表2に示したダンプトラックに対して、省燃費運転の具体的な評価を行った。図6図及び図7は、図4及び図5に示したダンプトラックの運行データに対して、省燃費運転ポイントの各項目を評価した例である。これらのヒストグラムにおいて、濃色の棒グラフが占める割合が、省燃費運転ポイントの各項目の評価点Ea〜Efとなる。これらの評価点が高いほど、省燃費運転が実践されていると判断される。
【0127】
省燃費運転ポイントの各評価点Ea〜Efは、運転の頻度から求めた簡易的な値であるため、これらの評価点が実際の燃費に反映されているか否かは、この評価点のみでは判断できない。そこで、省燃費運転ポイントの各評価点Ea〜Efに対する平均値Eavを求め、上記表5及び上記表6に示す省燃費運転達成率AEとの比較を行った。その結果を図8に示す。省燃費運転ポイントの各評価点は、ヒストグラムから求めた簡易的なものであるため、若干のバラツキが見られるものの、省燃費運転達成率AEと評価点平均値Eavの間には相関性が見られ、回帰直線が下記式(29)のように求められる。
【0128】
【数29】

【0129】
このことから、各項目の評価点アップは、省燃費運転達成率の向上に繋がり、燃費の改善に反映されると考えられる。
【0130】
図9は、図6及び図7に示した各評価点を、レーダーチャートとしてまとめた図である。ここでは、省燃費運転達成率AEと区別するため、省燃費運転ポイントの各評価点Ea〜Efの数値を10点満点(小数点以下切り上げ)で表している。省燃費運転教育は、これらの図を参考に、重ダンプトラックの場合には波状運転の防止とアイドリングの抑制を、10tダンプの場合には経済速度での走行と波状運転の防止を中心に指導すればよい。
【0131】
なお、先にも述べたように、重ダンプトラックのドライバーには省燃費運転教育を実施しており、本実施形態ではアイドリングの抑制を中心に指導を行っている。この結果、図10に示すように、アイドリングの抑制の評価点が全体的に上昇しており、これに伴い燃費も向上していることが伺える。ちなみに、省燃費運転モデルは障害物のない平坦な直線での運転を仮定している。このため、計算される理想燃費は過大評価され、ダンプトラックの省燃費運転達成率は、上記表5及び上記表6に示すように40〜60%程度の低い値となっている。そこで、省燃費運転達成率を上記式(29)により補正した値を、省燃費運転の総合評価点とした。図9には、この省燃費運転の総合評価点を併記している。
【0132】
<本発明の適用>
上述した実施形態では、ダンプトラックを例にとって説明を行ったが、本発明はダンプトラックに限られず、乗用車、貨物車等、他の車両にも適用することができるのはもちろんである。
【0133】
上述した実施形態では、車両の燃費を算出するためには、ダンプトラックの運転状況や積荷状況を把握することが重要である。また、上述した実施形態では、簡易に載せ換え可能なエコドライブ車載機器(例えば、パーソナル携帯通信端末)を想定し、比較的容易に計測可能であると思われる車両速度とエンジン回転数の2つの運行データから、運転状況・積荷状況を分析する手法を検討した。
【0134】
積荷状況の分析結果は、実際の日報による積荷状況と一致しており、本発明の有効性が確認できた。また、運転状況・積荷状況の分析結果を用いて計算したダンプトラックの燃料消費量は、実際に測定した燃料消費量と高い精度で一致しており、ダンプトラックの燃費を直接計測しなくても、燃費やCO2排出量を定量的に評価することが可能であることが分かる。なお、本発明ではダンプトラックの積荷状況を精度良く分析できるため、この分析結果を車両の運行管理(日報作成等)や工事の出来高管理に活用することも十分可能である。
【0135】
また、上述した実施形態では、運行データ毎に「理想的な省燃費運転モデル」を作成し、これを用いた省燃費運転技術の評価を試みている。すなわち、理想的な省燃費運転モデルから、省燃費運転を実施した際の燃費の上限値である理想燃費を算出し、実際の燃費との比率から省燃費運転達成率を求めている。この省燃費運転達成率は、省燃費運転の実施状況のみを定量的かつ統一的に評価した指標であるため、省燃費運転教育を実施する際には、省燃費運転達成率の具体的な数値目標を定めることで効率的な指導が可能である。
【0136】
また、省燃費運転達成率は、車両の性能や走行条件が異なる場合でも比較可能であることから、すべてのダンプトラックを対象に省燃費運転技術を競うことが出来る表彰制度やエコポイント制度等を導入すれば、ドライバー全員の省燃費運転に対する意識向上を図ることも可能である。
【0137】
また、省燃費運転達成率は、運行データ全体に対する評価点である。このため、省燃費運転の教育を実施する際には、燃費を向上させるための具体的な運転方法についての評価が必要である。本実施形態では、実際の運転状況の頻度分布を求め、省燃費運転のポイント6項目に対して、簡易的な評価を行った。これらの評価結果は、省燃費運転達成率との間に相関性が見られることから、各項目の評価点アップを目指した具体的な運転方法の教育・指導を行うことで、燃費向上やCO2削減が達成できると考えられる。
【0138】
なお、実際に測定する車両速度とエンジン回転数の運行データは、膨大な情報量となる。この運行データをすべて手計算で処理することには限界があるため、本実施形態に係る車両の省燃費運転評価方法ではプログラム処理を行っている。図11に、本実施形態に係る車両の省燃費運転評価方法を実施するためのプログラムの処理フローを示す。
【0139】
本実施形態に係る車両の省燃費運転評価方法は、図11に示すように、車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて、各車両の運転状況及び積荷状況を分析する。そして、運転状況及び積荷状況の分析結果と、エンジン燃費マップとに基づいて、燃費シミュレーションを行い、実際の燃費及びCO2排出量を算出する。
【0140】
なお、車両諸元とは、例えば、車両幅、車両高さ、車両重量、タイヤサイズ、ギア比、エンジン性能等のことである。また、運転状況及び積荷状況の分析結果とは、走行・アイドリング・エンジン停止の区別、空車・実車・荷積み、荷下しの区別、加速度、ギア位置、エンジントルク等のことである。
【0141】
一方、運転状況及び積荷状況の分析結果と、理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、燃費シミュレーションを行い、理想的な燃費を算出する。また、運転状況及び積荷状況の分析結果と、理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、省燃費運転の具体的評価を行う。
【0142】
そして、算出された実際の燃費と理想的な燃費とを比較することにより、省燃費運転達成率を求めることができる。
【符号の説明】
【0143】
10 運転状況・積荷状況分析手段
20 理想的省燃費運転モデル生成手段
30 燃費シミュレーション手段
40 省燃費運転達成率算出手段
50 省燃費運転評価手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価することが可能な車両の省燃費運転評価装置であって、運転状況・積荷状況分析手段と、理想的省燃費運転モデル生成手段と、燃費シミュレーション手段と、省燃費運転達成率算出手段とを備え、
前記運転状況・積荷状況分析手段は、少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析し、
前記理想的省燃費運転モデル生成手段は、前記運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離毎に生成し、
前記燃費シミュレーション手段は、エンジン燃費マップと前記分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、前記理想的な省燃費運転モデルと前記分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出し、
前記省燃費運転達成率算出手段は、前記評価対象燃費と前記理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出する、
ことを特徴とする車両の省燃費運転評価装置。
【請求項2】
前記理想的省燃費運転モデル生成手段は、エンジン動力を駆動輪に伝達するためのトランスミッションを構成する各ギアにおける最低常用速度に達した時点をシフトアップ・タイミングとして、最適なシフトアップ方法を設定し、前記最適なシフトアップ・タイミングでシフトアップを実施した際のエンジンの軸トルクに基づいて、前記各ギアにおける加速度の上限値を求めることにより、最適な加速方法を設定し、減速時に惰性運転を多用させるための最適な減速方法を設定し、前記最適なシフトアップ・タイミングにおけるシフトアップ直後の車両速度を最適な経済速度として設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の省燃費運転評価装置。
【請求項3】
前記分析された運転状況及び積荷状況と、前記理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、省燃費運転の具体的評価を行う省燃費運転評価手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の省燃費運転評価装置。
【請求項4】
前記省燃費運転評価手段は、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目について評価を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両の省燃費運転評価装置。
【請求項5】
省燃費運転の実施状況を定量的かつ統一的に評価することが可能な車両の省燃費運転評価方法であって、
少なくとも車両速度及びエンジン回転数と、車両諸元とに基づいて運転状況及び積荷状況を分析し、
前記運転状況及び積荷状況の分析結果を用いて、最適なシフトアップ方法、最適な加速方法、最適な減速方法、最適な経済速度からなる理想的な省燃費運転モデルを、発進から停車に至るまでの1区間の移動距離毎に生成し、
エンジン燃費マップと前記分析された運転状況及び積荷状況に基づいて評価対象燃費を算出する共に、前記理想的な省燃費運転モデルと前記分析された運転状況及び積荷状況に基づいて理想燃費を算出し、
前記評価対象燃費と前記理想燃費とを比較して、省燃費運転達成率を算出する、
ことを特徴とする車両の省燃費運転評価方法。
【請求項6】
前記分析された運転状況及び積荷状況と、前記理想的な省燃費運転モデルとに基づいて、アイドリングの抑制、急発進・急加速の防止、適切なタイミングでのシフトアップ、波状運転の防止、惰性運転の多用、経済速度での走行の各項目について評価を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両の省燃費運転評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−57249(P2013−57249A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194477(P2011−194477)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】