説明

車両の緊締フック構造

【課題】コストアップを抑制し、構造的に十分な強度の確保が可能な車両の緊締フック構造を提供すること。
【解決手段】車両の前後方向に沿って配設される左右一対のフロントフレーム1,1と、車体後部の左右両側に配置されるリヤサイドフレーム3,3と、フロントフレーム1,1の後端が接合される、車両の幅方向に配置されたリヤフロントクロスメンバ6とを備え、一端部がリヤサイドフレーム3に締結固定され、他端部がフロントフレーム1,1の後端が接合されたリヤフロントクロスメンバ6に締結固定されるトラスバー10に、補強部材とフック部とを兼ねるタイダウンプレート15を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶やトレーラ等による車両輸送時に使用される車両の緊締フック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体骨格の下部には、船舶やトレーラ等による輸送時にタイダウンロープ等を用いて車体を前後複数箇所で緊締するための緊締フック(タイダウンフックとも記載する)が設けられている。車体緊締時において、タイダウンフックには多大な荷重が加わる。このため、タイダウンフックは、構造的に高強度に設けられることが要求される。
【0003】
タイダウンフックは、固縛性を考慮してフロントサイドメンバの前端部やリヤサイドメンバの後端部等にそれぞれ配設されることが一般的である。しかし、タイダウンフックを端部に設定することにより荷重を分散させる経路が少なくなって、タイダウンフックに要求される要件を満たすことが困難になる場合がある。
【0004】
また、近年の車両においては、外観、いわゆるエクステリアを重視するために、バンパーフェイスの下端が下方に位置する傾向がある。このため、ダイタウンフックをフロントサイドメンバの前端部やリヤサイドメンバの後端部等に設けることが難しくなっている。これに対処するため、タイダウンフックを、床下の骨格部分、特に、フロントタイヤとリアタイヤとの間に設定されるようになっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、サイドシルの各後部にリヤフレームの前部が結合すると共に、サイドシルにクロスメンバが掛け渡されて結合され、タイダウンフックをサイドシルのサイドシルとリヤフレームの結合部においてサイドシルインナとリヤフレームに跨り配置し、タイダウンフックをサイドシルインナ及びリヤフレームにそれぞれボルト結合する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−345392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示された技術では、タイダウンフックは専用の機能を有する部材であり、剛性を確保するため比較的板厚の厚い板状部材等で強固に形成されていた。このため、質量の増加を伴うとともに、コストアップの要因になっていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、コストアップを抑制し、構造的に十分な強度の確保が可能な車両の緊締フック構造を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両の緊締フック構造は、車両の前後方向に沿って配設される左右一対のフロントフレームと、車体後部の左右両側に配置されるリヤサイドフレームと、前記フロントフレームの後端が接合される、車両の幅方向に配置されたリヤフロントクロスメンバとを備え、一端部が前記リヤサイドフレームに締結固定され、他端部が前記フロントフレームの後端が接合されたリヤフロントクロスメンバに締結固定される板状連結部材に、補強部材とフック部とを兼ねる固縛部材を設けている。
【0009】
この構成によれば、固縛部材を設けた板状連結部材をリヤサイドフレーム、及びリヤフロントクロスメンバに締結固定することによって、車両にフック部が設けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コストアップを抑制し、構造的に十分な強度の確保が可能な車両の緊締フック構造を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図6は本発明の一実施形態に係り、図1は車体フレームの構成を説明する室外側から見た概略平面図、図2はトラスバー及びこのトラスバーに取り付けられるタイダウンプレートの構成を説明する図、図3はトラスバーをリヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定する状態を説明する図、図4はリヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定されたトラスバーを室外側から見たときの斜視図、図5はリヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定されたトラスバーを車両の外側から見たときの図、図6は車体フレームの他の構成例を説明する室外側から見た概略平面図である。なお、以下の説明では左右対称な部材については左右の部材に対して同一の符号を付して説明を簡素化する。
【0012】
図1に示すように車両の主骨格は、車両の前後方向に沿って配設される左右一対のフロントフレーム1,1と、各フロントフレーム1,1の外側に位置して、車体側部に沿って前後方向へ延在するサイドシル2,2と、サイドシル2,2の後端であって車体後部の左右両側に配置されるリヤサイドフレーム3,3とで主に構成されている。
【0013】
フロントフレーム1,1は、中途部に屈曲部1aを有する略への字状の屈曲形状に形成されており、前側部には車両の幅方向に対して配置された第1のトンネルクロスメンバ4が接合されている。また、フロントフレーム1,1の中間部分であって屈曲部1aに対応する位置には幅方向に配置された第2のトンネルクロスメンバ5が接合されている。さらに、フロントフレーム1,1の後端は、幅方向に配置された、リヤフロントクロスメンバ6に接合されている。本実施形態における屈曲部1aを有するフロントフレーム1,1は、第2のトンネルクロスメンバ5が接合される屈曲部近傍から前部側、及び後部側にいくにしたがって徐々に外側に拡開するように延在されている。そして、フロントフレーム1,1の屈曲部1aより後部側の延在方向はリヤサイドフレーム3に設けられる後述する傾斜部3a近傍に設定されている。なお、第2のトンネルクロスメンバ5と、フロントフレーム1の屈曲部1aから前部側と、フロントフレーム1の屈曲部1aから後部側とは略等分に分かれる三叉部として形成されている。
【0014】
リヤフロントクロスメンバ6のそれぞれの端部にはサイドシル2,2の後部が接合されている。また、サイドシル2,2の後部であって、リヤフロントクロスメンバ6のそれぞれの端部にはリヤサイドフレーム3,3の前部が接合されている。リヤサイドフレーム3,3の中間部にはリヤクロスメンバ7が接合されている。
【0015】
左右のリヤサイドフレーム3,3の後輪8,8が配設される部位よりもやや前方側には傾斜部3aが設けられている。傾斜部3aは、後輪8,8との干渉を回避するためにやや内方に湾曲されると共に上方へ延出されている。すなわち、リヤサイドフレーム3,3においては傾斜部3aを設けたことによって、後述する図3に示すようにリヤサイドフレームの前方側と中間部より後方側とでは高さ差が生じ、中間部より後方側が前方側に比べて高くなっている。
【0016】
リヤサイドフレーム3,3の傾斜部3a近傍には補剛部材と荷重伝達部材とを兼ねる板状連結部材であるトラスバー10の一端部が後述するボルトによって締結固定され、このトラスバー10の他端部は後述するボルトによってフロントフレーム1,1の後端が連結されたリヤフロントクロスメンバ6に締結固定されている。この締結状態において、トラスバー10はフロントフレーム1,1の延在方向に対して略同方向、言い換えれば直線的、に配置されている。このことによって、、フロントフレーム1,1とリヤサイドフレーム3,3とがトラスバー10によって連結されて1つの骨格を構成する。
【0017】
なお、左右のリヤサイドフレーム3,3とリヤフロントクロスメンバ6とリヤクロスメンバ7とで囲まれる二点鎖線で示す領域内は、燃料タンク21が配設される領域として確保されており、トラスバー10はこの燃料タンク21の下側に配置される。符号4a、5aはトンネル形状部、符号22はデファレンシャル装置、符号23は前輪、符号24aは第1シートクロスメンバ、符号24bは第2シートクロスメンバ、符号25はエンジン、符号26はトランスミッションである。トンネル形状部4a、5aにはプロペラシャフト27、排気パイプ(不図示)やプロペラシャフトセンタベアリング(不図示)等が配置される。第1、第2シートクロスメンバ24a、24bは室内側に設けられている。
【0018】
図2に示すようにトラスバー10は、端部がリヤフロントクロスメンバ6に固定される細長に構成された平板棒状部11と、端部がリヤサイドフレーム3の傾斜部3a近傍に固定される徐々に拡開するように構成された端部が幅広な平板拡開部12とを備えて構成されている。トラスバー10は、軽量、安価で且つ強度、剛性を持たせるため、長手方向に対して稜線をできるだけ多く設定した断面形状になっている。
【0019】
トラスバー10の中間部にはリヤサイドフレーム3,3の前方側と中間部より後方側とで生じる高さに対応する折曲部13が設けられている。トラスバー10の平板棒状部11の所定位置には締結用ボルト14が挿通配置される例えば1つの透孔11aが穿設され、トラスバー10の平板拡開部12の所定位置には締結用ボルト14が挿通配置される例えば2つの透孔12a,12aが穿設されている。また、トラスバー10に設けられている折曲部13の立ち上がり部近傍には後述するタイダウンプレート15を該トラスバー10に締結固定するためのタイダウン固定用ボルト16が挿通配置される透孔13aが設けられている。
【0020】
タイダウンプレート15は固縛部材であって、タイダウンロープ等が固縛されるフック部とトラスバー10の折曲部13近傍の剛性を補剛する補強部材とを兼ね、厚板の平板部材を所定形状に屈曲して構成されている。タイダウンプレート15に構成された屈曲面部15aには図示しないタイダウンロープ等が固縛されるフック部であるフック用透孔15bが穿設されている。また、タイダウンプレート15の一端部には締結用ボルト14が挿通配置される透孔15c,15cを穿設した第1取付部15dが設けられ、他端部にはタイダウン固定用ボルト16が挿通配置される透孔15eを穿設した第2取付部15fが設けられている。なお、符号17は締結用ナットであり締結用ボルト14と螺合される。また、符号18はタイダウン固定用ナットでありタイダウン固定用ボルト16と螺合される。
【0021】
図3及び図4を参照してトラスバー10のリヤサイドフレーム3,3、及びリヤフロントクロスメンバ6への締結固定について説明する。図3に示すようにリヤフロントクロスメンバ6、及びリヤサイドフレーム3,3の所定位置には締結用ボルト14が挿通配置される透孔6a,3bが穿設されている。
【0022】
トラスバー10をリヤサイドフレーム3,3、及びリヤフロントクロスメンバ6へ締結固定するに当たって、まず、タイダウンプレート15をトラスバー10に配置する。具体的には、タイダウン固定用ボルト16をタイダウンプレート15に設けられている透孔15e、及びトラスバー10の折曲部13近傍に設けられている透孔13aに挿通させてタイダウン固定ナット18に螺合する。このとき、タイダウンプレート15に設けられている透孔15c,15cの中心位置と、トラスバー10の平板拡開部12に設けられている透孔12a,12aの中心位置とを略一致させる。
【0023】
次に、タイダウンプレート15が配置されているトラスバー10を締結固定する。具体的には、平板棒状部11の端部に設けられている透孔11aをリヤフロントクロスメンバ6に設けられている透孔6aに対向配置させる一方、平板拡開部12に設けられている透孔12a,12aをリヤサイドフレーム3に設けられている透孔3b,3bに対向配置させる。その後、締結用ボルト14を透孔11a,6aに挿通させて締結用ナット17に螺合するとともに、締結用ボルト14を透孔15c,12a,3bに挿通させて締結用ナット17に螺合する。その螺合の際、平板棒状部11側のボルト締結、平板拡開部12側の2つのボルト締結の順、又は平板拡開部12側の一方ボルト締結、平板棒状部11側のボルト締結、平板拡開部12側の他方のボルト締結の順で締結作業を行う。
【0024】
このことによって、図3及び図4に示すようにタイダウンプレート15が取り付けられているトラスバー10がリヤサイドフレーム3、及びリヤフロントクロスメンバ6へ密着固定されて、矢印Aで示すトラスバー10の図心が矢印Bで示す図心に変化させて折曲部13を有するトラスバー10の剛性が増大される。また、トラスバー10は、3本の締結用ボルト14を使用した、いわゆる三点締めによって回転成分が抑止された状態で締結固定される。この締結固定状態においては、タイダウンプレート15がトラスバー10に対して一体的に共締めされる。また、この締結固定状態において、図5に示すようにトラスバー10に一体に締結固定されたタイダウンプレート15の屈曲面部15aに穿設されているフック用透孔15bが後輪8と前輪23との間である後輪8近傍に配置される。
【0025】
このように、折曲部13近傍の剛性を補剛する補強部材と、タイダウンロープ等が固縛されるフック部とを兼ねるタイダウンプレート15を取り付けたトラスバー10をリヤサイドフレーム3とリヤフロントクロスメンバ6とに締結固定することによって、タイダウンのための専用の部材を車両に取り付けることなく、タイダウンのためのフック部を車両に設けることができる。
【0026】
また、タイダウンプレート15の屈曲面部15aに穿設されているフック用透孔15bが後輪8と前輪23との間に配置されるとともに、タイダウンプレート15を取り付けたトラスバー10がリヤサイドフレーム3とリヤフロントクロスメンバ6とに締結固定されていることによって、タイダウンロープ等を用いて車体を緊締した状態においてタイダウンプレート15にかかる荷重を効果的に分散させることができる。
【0027】
さらに、タイダウンプレート15が一体的に締結固定されたトラスバー10を燃料タンク21の下側に配置させたことによって、脱輪時等において燃料タンク21を保護することができる。このことによって、燃料タンクの下端位置をトラスバー10に近づけることにより、燃料のタンクの容量の増加を図れる。
【0028】
なお、本実施形態においては、フロントフレーム1を屈曲部1aを有する屈曲形状としているがフロントフレーム1の構成はこれに限定されるものではなく、図6に示すように直線状のフロントフレーム1Aであってもよい。この構成においても、トラスバー10の端部をリヤサイドフレーム3とリヤフロントクロスメンバ6とに締結固定することによって、上述と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0029】
尚、本発明は、以上述べた実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】車体フレームの構成を説明する室外側から見た概略平面図
【図2】トラスバー及びこのトラスバーに取り付けられるタイダウンプレートの構成を説明する図
【図3】トラスバーをリヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定する状態を説明する図
【図4】リヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定されたトラスバーを室外側から見たときの斜視図
【図5】リヤフロントクロスメンバとリヤサイドフレームとに締結固定されたトラスバーを車両の外側から見たときの図
【図6】車体フレームの他の構成例を説明する室外側から見た概略平面図
【符号の説明】
【0031】
1…フロントフレーム 1a…屈曲部 2…サイドシル
3…リヤサイドフレーム 3a…傾斜部 5…第2のトンネルクロスメンバ
6…リヤフロントクロスメンバ 10…トラスバー 11…平板棒状部
12…平板拡開部 13…折曲部 15…タイダウンプレート
15a…屈曲面部 15b…フック用透孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に沿って配設される左右一対のフロントフレームと、車体後部の左右両側に配置されるリヤサイドフレームと、前記フロントフレームの後端が接合される、車両の幅方向に配置されたリヤフロントクロスメンバとを備え、
一端部が前記リヤサイドフレームに締結固定され、他端部が前記フロントフレームの後端が接合されたリヤフロントクロスメンバに締結固定される板状連結部材に、補強部材とフック部とを兼ねる固縛部材を設けたことを特徴とする車両の緊締フック構造。
【請求項2】
前記板状連結部材は、前記リヤサイドフレームに締結固定される一端部と前記リヤフロントクロスメンバに締結固定される他端部との中間部分に折曲部を有し、前記固縛部材は前記折曲部に締結固定されることを特徴とする請求項1に記載の車両の緊締フック構造。
【請求項3】
前記フック部は、前記固縛部材の屈曲面部に形成されるフック用透孔であることを特徴とする請求項1に記載の車両の緊締フック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−312350(P2006−312350A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135246(P2005−135246)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】