説明

車両の衝撃吸収構造

【課題】インフレータの大型化等による構造の複雑化を防止すると共に、歩行者が車体パネルに衝突した際の衝撃を緩和することが可能な車両の衝撃吸収構造の提供。
【解決手段】車両1の衝撃吸収構造3は、車体パネル6と、インフレータ7と、制御手段9,10とを備えている。車体パネル6は、車両ボディ4側の被干渉部16,18に対向し且つ閉空間30を区画する膨張部8を有する。インフレータ7は、点火信号を受信することにより閉空間30へ流入するガスを発生する。制御手段9,10は、車両1の衝突を検出して、インフレータ7に対し点火信号を出力する。膨張部8は、インフレータ7から閉空間30へのガスの流入により展開して該膨張部8を被干渉部16,18へ向かって膨張変形させる余肉部31を有し、該余肉部31の展開による膨張変形時に、被干渉部16,18と干渉して車体パネル6を該被干渉部16,18から離れる方向へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両が歩行者に衝突した際に、歩行者に対する衝突力を緩和する車両の衝撃吸収構造が知られている。この車両の衝撃吸収構造として例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3の車両の衝撃吸収構造がある。
【0003】
上述した特許文献1の車両の衝撃吸収構造によれば、走行中の車両が歩行者に衝突すると、フロントフードとエンジンルーム内のエンジン等の内部機構部品との離間距離が拡大し、これに伴ない、フロントフードの曲げ変形可能な範囲が増大する。このため、歩行者がフロントフードに衝突した際に生じる衝撃力は、フロントフードの曲げ変形によって吸収され、歩行者に与える衝撃を低減することができる。
【0004】
一方、特許文献2の車両の衝撃吸収構造によれば、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、エアバックがフロントフードの上面全体を覆うため、エアバックのクッション作用により歩行者に与える衝撃を低減することができる。
【0005】
また、特許文献3の車両の衝撃吸収構造によれば、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、フロントフードの上面が膨出形状に塑性変形するため、歩行者がフロントフードに衝突した際の衝撃力がフロントフードの塑性変形抵抗により吸収され、歩行者に対する衝撃力を緩和することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−258774号公報
【特許文献2】特開平7−108902号公報
【特許文献3】特開平10−217903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の車両の衝撃吸収構造では、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、モーターやばね等の跳ね上げ手段がフロントフードの前端を回転中心としてフロントフードの後端を車両ボディから離間させる。
【0008】
ここで、一般的に、走行中の車両の前方側が歩行者に衝突すると、車両のフロントバンパ等の前端部が歩行者の下半身と接触した後、歩行者の頭部若しくは上半身がフロントフードの上面に衝突する。このため、フロントフードとの衝突により歩行者に与える衝撃力を瞬時若しくは極めて短時間のうちに低減することが好ましい。しかしながら、フロントフードを駆動させる駆動源がモーターやばね等では、その駆動に所定の時間を要するため、衝突の初期段階において、フロントフードの曲げ変形により衝撃力を十分に吸収できない可能性が生じる。さらに、フロントフードの後端が車両ボディから離間した状態で、車両が歩行者以外の物体、例えば、固定壁等に衝突した場合、車両ボディとフロントフードとを係着するヒンジやロック部材等の係着部材が破損や変形を起こす可能性があり、場合によっては、フロントフードが車両の車室内へ侵入する恐れがある。
【0009】
一方、特許文献2の車両の衝撃吸収構造では、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、大容量のエアバックがフロントフードの上面全体に展開される。
【0010】
ここで、エンジンルーム等の空間に大容量のエアバックをコンパクトに収納するためには、エアバックを極力小さく折り畳む必要がある。かかる場合に、エアバックを瞬時且つ均一に展開させることが困難となり、衝突の初期段階において、十分な衝撃吸収効果が得られない可能性が生じる。かかる不都合は、大型且つ高性能のインフレータを設けることにより回避することができるが、このような、インフレータの高性能化及び大型化は、コストの増大及びインフレータの構造上の複雑化を招来し、更には、エンジンルーム等の空間におけるエンジン等の内部機構部品の配置に制約が生じてしまう。
【0011】
また、特許文献3の車両の衝撃吸収構造では、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、インフレータからのガスを受けて鉄板等で成形されたフロントフードの表面側が上方へ向かって膨出する。このため、フロントフードの表面側を塑性変形させるための高圧で且つ大量のガスが必要となり、上述した特許文献2の車両の衝撃吸収構造と同様に、インフレータの高性能化及びの大型化を招き、コストの増大、インフレータの構造上の複雑化、及び、収納スペースの確保等の弊害が生じる。
【0012】
そこで、本発明は、インフレータの大型化等による構造の複雑化を防止すると共に、歩行者が車体パネルに衝突した際の衝撃を緩和することが可能な車両の衝撃吸収構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明に係る車両の衝撃吸収構造は、車体パネルと、インフレータと、制御手段とを備えている。車体パネルは、車両本体側の被干渉部に対向し且つ閉空間を区画する膨張部を有する。インフレータは、点火信号を受信することにより閉空間へ流入するガスを発生する。制御手段は、車両の衝突を検出して、インフレータに対し点火信号を出力する。膨張部は、インフレータから閉空間へのガスの流入により展開して該膨張部を被干渉部へ向かって膨張変形させる余肉部を有し、該余肉部の展開による膨張変形時に、被干渉部と干渉して車体パネルを該被干渉部から離れる方向へ移動させる。
【0014】
上記構成では、走行中の車両が歩行者に衝突すると、インフレータが発生するガス圧により、車体パネルに形成された膨張部の余肉部が展開する。余肉部を含めた膨張部は、余肉部の展開により膨張変形して車両本体側の被干渉部と干渉し、車体パネルを被干渉部から離れる方向へ移動させる。すなわち、走行中の車両が歩行者に衝突したときに、車体パネルと該車体パネルの裏面側(車両本体側)に配置される内部機構部品との離間距離が拡大するため、衝撃荷重が車体パネルに入力された場合、車体パネルを、内部機構部品と干渉させずに衝撃荷重の入力部分を中心として大きく曲げ変形させることができる。従って、車体パネルの曲げ変形により衝撃力が十分に吸収され、車体パネルから歩行者に対して付与される衝撃力を確実に低減することができる。
【0015】
また、車体パネルは、インフレータからのガスの供給を受けて膨張部の余肉部が展開することにより被干渉部から離れる方向へ移動する。すなわち、インフレータからのガスの供給を受ける部分は、膨張部に区画された閉空間に限定されており、また、ガスの流入によって展開する部位は、膨張部の余肉部であるため、比較的少量のガスで車体パネルを被干渉部から離れる方向へ移動させることができる。従って、車体パネルを瞬時若しくは極めて短時間のうちに移動させることが可能なため、衝突の初期段階から歩行者に与える衝撃を低減することができる。また、インフレータは、膨張部の余肉部を展開させるガス、即ち、比較的少量のガスを発生すれば足りるため、インフレータの小型化を図ることが可能となり、インフレータの配置位置の制約を緩和することができると共に、車体パネルの裏面側においてスペースの有効活用を図ることができる。
【0016】
さらに、膨張部の余肉部は、車体パネルを利用して一体的に形成することが可能であるため、部品点数の削減及び製造工程の短縮化を確実に図ることができる。
【0017】
また、車体パネルに、インフレータからのガスを閉空間へ流入させるガス流通路を区画するガスチャンネル部を形成してもよい。
【0018】
上記構成では、インフレータで発生したガスは、車体パネルに形成されたガスチャンネル部を介して膨張部に供給される。このため、歩行者との衝突により車体パネルが破損や変形等した場合であっても、その影響がガス流通路を区画するガスチャンネル部に直接及ぶことがない。従って、ガスチャンネル部によりインフレータから膨張部へのガスの流通が確保されるため、走行中の車両が歩行者に衝突した際に、車体パネルを被干渉部から離れる方向へ確実に移動させることができる。
【0019】
なお、車体パネルに複数の膨張部を形成した場合、ガスチャンネル部を分岐して各膨張部に接続することにより、インフレータで発生したガスをガスチャンネル部を介して各膨張部に供給することも可能である。
【0020】
また、車体パネルを、膨張部を介して車両本体側に係着してもよい。
【0021】
上記構成では、膨張部は、車体パネルのうち車両本体側との係着部分に形成される。このため、係着部分に膨張部が形成されていない場合とされている場合とを対比した場合に、前者では、膨張部の余肉部が展開すると、車体パネルと車両本体側とを係着するヒンジ等の係着部材に過度な負荷が加わり、係着部材が破損や変形を起こす可能性がある。このため、車体パネルと車両本体側との係着状態が維持されずに解除されて、例えば二次衝突が生じた場合などに、車体パネルが他の部材や乗員などに向かって容易に移動する可能性が生じる。なお、このような不都合は、衝突時に係着部材自体によって車体パネルを移動させる構造を採用する車両においても、係着部材の形状形態の変更により車体パネルと車両本体側との係着状態が解除されるため、同様に生じ得る。これに対し、後者では、膨張部の膨張変形により、係着部材とは無関係に車体パネルが移動するため、係着部材に過度な負荷が加わることがなく、車体パネルの移動前の係着状態は、車体パネルの移動後においても同様に維持される。すなわち、車体パネルと車両本体側との係着状態が良好に維持されるため、二次衝突した場合であっても、車体パネルがその衝突荷重の作用する方向へ移動することがない。従って、歩行者との衝突の際、車体パネルと車両本体側との係着状態を維持しつつ、車体パネルを被干渉部から離れる方向へ良好に移動させることができる。
【0022】
また、膨張部を、車体パネルを全体的に移動させることが可能な位置に少なくとも2つ形成してもよい。
【0023】
上記構成では、走行中の車両が歩行者に衝突すると、複数の膨張部の膨張変形により車体パネル全体が被干渉部から離れる方向へ移動する。すなわち、車体パネルと、車両本体側の内部機構部品との離間距離が広範囲にわたって拡大し、これに伴なって、車体パネルの曲げ変形可能な範囲も増大する。従って、歩行者が車体パネルに衝突した際、車体パネルの広い範囲において、衝撃力が曲げ変形により吸収されるため、車体パネルから歩行者に対して付与される衝撃力をさらに確実に低減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、構造の複雑化を防止することができると共に、歩行者が車体パネルに衝突した際の衝撃を確実に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る第1の実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造の要部拡大断面図、図2は図1のフロントフードが上方へ移動した状態を示す要部拡大断面図、図3はロック機構の正面図、図4は膨張部の一例を示す要部拡大断面図、図5は膨張部の他の例を示す要部拡大断面図、図6はフロントフードを上方へ移動させるための構造を具備しない車両における衝撃力とフロントフードの移動距離との関係を表すグラフ、図7は本発明に係る膨張部を備えた車両における衝撃力とフロントフードの移動距離との関係を表すグラフである。なお、図中FRは車両前方を、図中UPは車両上方を、図6及び図7中Fは衝撃力を、図6及び図7中Sはフロントフードの移動距離を、図6中S1及び図7中S2はフロントフードの裏面側とエンジンルーム内の内部機構部品とが接触するフロントフードの移動距離をそれぞれ示している。また、以下の説明における左右方向は、車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る車両1は、フロントにエンジン2が搭載された乗用自動車であり、衝撃吸収構造3を備えている。衝撃吸収構造3は、車両ボディ(車両本体)4によって区画されたエンジンルーム5を上下方向に開閉するフロントフード(車体パネル)6と、ガスを発生するインフレータ7と、歩行者及び自転車等(以下、歩行者等と称す)との衝突を検出する衝突検出センサ(制御手段)9と、衝突検出センサ9が歩行者等との衝突を検出したときにインフレータ7に対してガスを発生させる点火信号を出力するコントローラ(制御手段)10とを備えている。
【0027】
フロントフード6は、ヒンジ機構11により車両ボディ4に対して揺動自在に支持されると共に、エンジンルーム5を閉鎖した状態(閉位置)でロック機構12によりロックされる。フロントフード6は、フロントフード6の外面を形成するアウタパネル13と、アウタパネル13の内面に張設されるインナパネル14とを有する。
【0028】
ヒンジ機構11は、インナパネル14の左右の後端でボルトや溶接等によって固着されるフロントフード側ヒンジ部材15と、車両ボディ4の所定位置にボルト等によって締結固定される車両ボディ側ヒンジ部材(被干渉部)16とを有する。これらフロントフード側ヒンジ部材15と車両ボディ側ヒンジ部材16とには、それぞれ回転軸挿通用の孔(図示省略)が形成され、この回転軸挿通用の孔には、ピン17が挿通されている。これにより、フロントフード6は、車両ボディ4に対して揺動自在に支持されて、エンジンルーム5を上下方向に開閉する。
【0029】
図1〜図3に示すように、ロック機構12は、車両ボディ4側に設けられるロック部材(被干渉部)18と、インナパネル14の前端中央部でボルトや溶接等によって固着されるストライカ19とを有する。ロック部材18は、車両ボディ4の所定位置でボルト等によって締結固定される基盤20と、フロントフード6の閉止時にストライカ19に係合するラッチ21と、ラッチ21を回動させるためのラッチ用スプリング22と、フロントフード6の閉止時にラッチ21と係合するラチェット23と、ラチェット23を回動させるためのラチェット用スプリング24とを有する。基盤20には、凹溝25が形成され、ストライカ19はこの凹溝25に沿って上下方向に移動する。ラッチ21は、基盤20に固定されたピン26を中心に回動自在に支持され、その開放端側には、ストライカ19を挟持し、その状態を保持する係止溝27が形成されている。ラッチ用スプリング22は、その一端と他端とがそれぞれラッチ21の下端と基盤20とに係着されている。ラチェット23は、その一端が基盤20に固定されたピン28によって回動自在に支持されている。また、ラチェット23の中央部には、ラッチ21に係着しその状態を保持する係止部29が形成されている。ラチェット用スプリング24は、その一端と他端とがそれぞれラチェット23の下端と基盤20とに係着されている。
【0030】
このように構成されたロック機構12は、フロントフード6が閉方向に移動すると、ストライカ19が凹溝25に進入してラッチ21の凹溝25の底面に当接する。そして、ストライカ19の下方への移動に伴ってラッチ21が回動され、所定位置でラッチ21は、ラチェット23の係止部29によって保持される。これにより、ストライカ19がラッチ21の係止溝27により挟持され、フロントフード6は閉位置に保持される。一方、ロック機構12のロック状態の解除は、車室内に設けられた操作レバー(図示省略)及びフロントフード6のインナパネル14側に設けられたオープンレバー(図示省略)を操作することにより行われる。これにより、ラッチ21とラチェット23との係合状態が解除されて、ストライカ19がラッチ21の係止溝27から離脱可能な状態となると共に、フロントフード6が開位置に回動し得る状態となる。
【0031】
図1及び図2に示すように、アウタパネル13は、略板形状を有し、その前方部分は下方に向かって滑らかに湾曲する。インナパネル14は、アウタパネル13の外形形状と略同一の形状を有する。これらアウタパネル13及びインナパネル14の板厚は、共に張り剛性等の基本的性能を満足させる大きさに設定されている。また、アウタパネル13とインナパネル14とは、それぞれに形成されるフランジ(図示省略)を介して溶接等により接合され、これにより、アウタパネル13とインナパネル14との間には、閉空間30が形成される。
【0032】
インナパネル14には、その表面側から車両方向内側へ向けて突出する略円筒状の膨張部8がフロントフード側ヒンジ部材15及びストライカ19の配置位置にそれぞれ形成され、この膨張部8の外面形状と内面形状とは略同一形状を有する。また、インナパネル14の表面側の所定位置には、閉空間30と連通し、インフレータ7から延びる耐圧ホース33と連結可能なガス流入口34が突出形成されており、インフレータ7から膨張部8へのガスの供給は、耐圧ホース33、ガス流入口34及び閉空間30を介して行われる。
【0033】
膨張部8は、その前端部の略中央部分で車両方向外側に向けて凹む余肉部31を有し、余肉部31は、インフレータ7からガスの供給を受けたときに展開して、膨張部8を車両方向内側へ向けて膨張変形させる。すなわち、膨張部8の前端部には、フロントフード側ヒンジ部材15及びストライカ19が配置されているため、インフレータ7から膨張部8へガスが供給されると、車両ボディ4とフロントフード6とを接続するヒンジ機構11及びロック機構12のそれぞれの上部を基点として、フロントフード6全体が上方へ押し上げられる。
【0034】
なお、インナパネル14には、展開可能な余肉部31を有する膨張部8が一体的に形成されているため、インナパネル14を容易に変形可能な薄肉な材料で成形することが望ましい。このような材料であれば、フロントフード6等の車体パネルに一般的に採用される鋼材又はアルミ材等、様々な材料を適用することが可能である。また、膨張部8は、略円筒状に形成する場合に限られず、例えば略箱状に形成することも可能である。さらに、余肉部31を膨張部8の前端部に設ける場合に限られず、例えば、図4に示すように、膨張部8の側方外周面の一部に設けてもよい。また、膨張部8をインナパネル14の表面側から突出させて形成する場合に限られず、図5に示すように、インナパネル14の表面側から突出させずに形成して、インフレータ7からガスの供給を受けたときに、膨張部8をインナパネル14の表面側から突出させることも可能である。
【0035】
インフレータ7は、コントローラ10から出力される点火信号を受けて着火し、ガス発生剤を燃焼させて所定量及び所定圧力のガスを発生させる。インフレータ7は、エンジンルーム5内の所定位置に配置され、耐圧ホース33を介してインナパネル14に形成されたガス流入口34と連結されている。なお、インフレータ7から膨張部8へのガスの供給は、耐圧ホース33を介して行わずにインナパネル14に形成されたガス流入口34とインフレータ7とを直接接続することにより行ってもよく、また、各膨張部8とインフレータ7とをそれぞれ耐圧ホースで連結することにより行ってもよい。さらに、インフレータ7は、エンジンルーム5内に配置する場合に限られず、車室内側の車体等に配置することも可能である。
【0036】
衝突検出センサ9は、例えば、衝突に伴う衝突減速(加速度)を検出する衝突検知センサ(Gセンサ)であり、フロントバンパ37内の所定位置に配置されている。また、衝突検出センサ9は、衝突を検出した際、コントローラ10に対して衝突検出信号を出力する。
【0037】
コントローラ10は、衝突検出センサ9から出力される衝突検出信号に基づき、インフレータ7に対してガスを発生させる点火信号を出力する。なお、コントローラ10は、衝突検出信号の入力のみに基づいて点火信号を出力する場合に限られず、例えば、車両1に、車速を検出してコントローラ10に車速信号を出力する車速センサを設け、この車速センサからの車速信号が所定の速度以上であって、且つ、衝突検出センサ9から衝突検出信号が入力されたときに、コントローラ10から点火信号を出力させることも可能である。
【0038】
次に、フロントフード6の移動について図1及び図2に基づいて説明する。走行中の車両1のフロントバンパ37が歩行者等に衝突すると、衝突検出センサ9は、衝突を検出し、衝突検出信号をコントローラ10に対して出力する。コントローラ10は、衝突検出センサ9の衝突検出信号の入力に基づき、インフレータ7に対して点火信号を出力する。インフレータ7は、コントローラ10からの点火信号を受けてガス発生剤に着火し、所定の容量及び圧力のガスを発生する。インフレータ7で発生したガスは、耐圧ホース33、ガス流入口34及び閉空間30を介して各膨張部8に供給される。各膨張部8にインフレータ7からガスが供給されると、ヒンジ機構11及びロック機構12の上方にそれぞれ設けられる膨張部8の余肉部31は、略同時に展開して膨張部8を膨張変形させる。これにより、フロントフード6全体が上方へ向けて押し上げられ、フロントフード6のインナパネル14の表面側とエンジンルーム5内に配置されたエンジン2等(以下、内部機構部品と称す)との離間距離が全体的に拡大する。
【0039】
次に、フロントフード6に作用する衝撃力とフロントフード6の移動距離との関係について図6及び図7に基づいて説明する。
【0040】
図6に示すように、フロントフード6を上方へ移動させるための構造、例えば、フロントフード6のインナパネル14に膨張部8を具備しない車両では、フロントフード6に上方から歩行者等による衝撃荷重が作用すると、フロントフード6は、この作用部分を中心として曲げ変形し、これに伴なって下方への移動を開始する。衝突の初期段階において、フロントフード6の曲げ変形により、フロントフード6が下方へ移動されると共に、フロントフード6に作用した衝撃力Fが吸収される。その後、フロントフード6の下方への移動距離Sが移動距離S1に達して、フロントフード6のインナパネル14の表面側がエンジンルーム5内の内部機構部品と接触すると、フロントフード6の曲げ変形による下方への移動が著しく制限され、フロントフード6から歩行者等に対して付与される衝撃力Fは、急激に増大する。
【0041】
一方、図7に示すように、フロントフード6のインナパネル14に膨張部8を備えた車両1では、上述のように、衝突時に、フロントフード6のインナパネル14の表面側とエンジンルーム5内に配置された内部機構部品との離間距離が拡大される。このため、フロントフード6に上方から歩行者等による衝撃荷重が作用した場合に、フロントフード6を、内部機構部品との接触による制限を受けることなく、大きく曲げ変形させて下方へ移動させることができる。すなわち、フロントフード6が下方へ移動を開始してから移動距離S2に達するまでの間において、衝撃力Fは、フロントフード6の曲げ変形により有効に吸収される。その後、フロントフード6の下方への移動距離Sが移動距離S2に達すると、フロントフード6から歩行者等に対して付与される衝撃力Fは、曲げ変形により略吸収し尽くされて急激に減衰する。
【0042】
このように本実施形態によれば、走行中の車両1が歩行者等に衝突すると、インフレータ7が発生するガス圧により、フロントフード6のインナパネル14に形成された膨張部8の余肉部31が展開する。余肉部31を含めた膨張部8は、余肉部31の展開により膨張変形して車両ボディ4側に設けられる車両ボディ側ヒンジ部材16及びロック部材18と干渉し、フロントフード6を上方へ移動させる。すなわち、走行中の車両1が歩行者等に衝突したときに、フロントフード6とエンジンルーム5内に配設された内部機構部品との離間距離が拡大するため、衝撃荷重がフロントフード6の上方から入力された場合、フロントフード6を、内部機構部品と干渉させずに衝撃荷重の入力部分を中心として大きく曲げ変形させることができる。従って、フロントフード6の曲げ変形により衝撃力が十分に吸収され、フロントフード6から歩行者等に対して付与される衝撃力を確実に低減することができる。
【0043】
また、フロントフード6は、インフレータ7からのガスの供給を受けて膨張部8の余肉部31が展開することにより上方へ移動する。すなわち、インフレータ7からのガスの供給を受ける部分は、膨張部8に区画された閉空間30に限定されており、また、ガスの流入によって展開する部位は、膨張部8の余肉部31であるため、比較的少量のガスでフロントフード6を上方へ向けて移動させることができる。従って、車両1のフロントバンパ37が歩行者等と衝突した後、フロントフード6を瞬時若しくは極めて短時間のうちに上方へ移動させることが可能なため、歩行者等がフロントフード6に二次衝突した際の衝撃を低減することができる。また、インフレータ7は、膨張部8の余肉部31を展開させるガス、即ち、比較的少量のガスを発生すれば足りるため、インフレータ7の小型化を図ることが可能となり、エンジンルーム5内におけるインフレータ7の配置位置の制約を緩和することができると共に、エンジンルーム5内においてスペースの有効活用を図ることができる。
【0044】
さらに、膨張部8の余肉部31は、フロントフード6のインナパネル14を利用して一体的に形成されているため、部品点数の削減及び製造工程の短縮化を確実に図ることができる。
【0045】
膨張部8は、フロントフード6のインナパネル14のうちフロントフード側ヒンジ部材15及びストライカ19の配置位置に形成される。このため、フロントフード側ヒンジ部材15及びストライカ19の配置位置に膨張部8が形成されていない場合とされている場合とを対比した場合に、前者では、膨張部8の余肉部31が展開すると、フロントフード6と車両ボディ4とを係着するヒンジ機構11のフロントフード側ヒンジ部材15等やロック機構12のストライカ19等の係着部材に過度な負荷が加わり、係着部材が破損や変形を起こす可能性がある。このため、フロントフード6と車両ボディ4との係着状態が維持されずに解除されて、例えば、歩行者等との衝突後、更に壁面等の衝突物に車両1の前方から衝突した場合などに、フロントフード6がフロントガラスや乗員などに向かって容易に移動する可能性が生じる。これに対し、後者では、膨張部8の膨張変形により、係着部材とは無関係にフロントフード6が移動するため、係着部材に過度な負荷が加わることがなく、フロントフード6の移動前の係着状態は、フロントフード6の移動後においても同様に維持される。すなわち、フロントフード6と車両ボディ4との係着状態が良好に維持されるため、二次衝突した場合であっても、フロントフード6がその衝突荷重の作用する方向へ移動することがない。従って、歩行者等との衝突の際、フロントフード6と車両ボディ4との係着状態を維持しつつ、フロントフード6を上方へ良好に移動させることができる。
【0046】
また、走行中の車両1が歩行者等に衝突すると、複数の膨張部8の膨張変形により、フロントフード6全体が上方へ移動する。すなわち、フロントフード6と、エンジンルーム5内に配設される内部機構部品との間の離間距離が広範囲にわたって拡大し、これに伴なって、フロントフード6の曲げ変形可能な範囲も増大する。従って、歩行者等がフロントフード6に衝突した際、フロントフード6の広い範囲において、衝撃力が曲げ変形により吸収されるため、フロントフード6から歩行者等に対して付与される衝撃力をさらに確実に低減することができる。
【0047】
次に、本発明に係る第2の実施形態の車両の衝撃吸収構造について図8に基づいて説明する。図8はガスチャンネル部を備えた車両の衝撃吸収構造の要部拡大断面図である。また、図8に示す第2の実施形態は、上述した第1の実施形態のうちアウタパネルとインナパネルとの間に形成される閉空間にガスチャンネル部を設けた点が異なり、他の構成は第1の実施形態と同様な構成であるため、重複説明を省略する。
【0048】
図8に示すように、インナパネル14の裏面側には、ガスの流通路としてのガスチャンネル部32が設けられており、インナパネル14に形成されたガス流入口34と膨張部8の内面とがガスチャンネル部32によってそれぞれ覆われている。ガスチャンネル部32は、各膨張部8の内面を覆う位置に設けられガスを流出するガス流出口35と、ガス流入口34と各ガス流出口35とを分岐して連結し、ガス流入口34から流入したガスを各ガス流出口35を介して各膨張部8へ供給可能なガス管路36とを有する。また、ガスチャンネル部32は、インナパネル14の裏面側に当接した状態でその周囲を溶接等することによりインナパネル14に対して固着されている。ガスチャンネル部32をインナパネル14の裏面側に固着した状態で、膨張部8とガスチャンネル部32との間、及びインナパネル14とガスチャンネル部32との間には、閉空間30の一部を区画する閉断面が形成されている。
【0049】
このように本実施形態によれば、走行中の車両1が歩行者等に衝突したとき、インフレータ7で発生したガスは、耐圧ホース33、ガス流入口34、ガス管路36及びガス流出口35を介して各膨張部8に供給される。すなわち、インフレータ7から膨張部8へのガスの供給は、フロントフード6の閉空間30内に設けられたガスチャンネル部32を介して行われるため、歩行者等との衝突によりフロントフード6が破損や変形等した場合であっても、その影響がガス流通路を区画するガスチャンネル部32に直接及ぶことがない。従って、ガスチャンネル部32によってインフレータ7から膨張部8へのガスの流通が確保されるため、走行中の車両が歩行者等に衝突した際に、フロントフード6を上方へ向けて確実に移動させることができる。
【0050】
なお、本発明に係る第1の実施形態及び第2の実施形態では、フロントフード6の所定位置に膨張部8を形成して、衝突時にフロントフード6を上方へ移動させたが、本発明に係る車両の衝撃吸収構造は、例えば、フロントバンパ、サイドドアパネル、ルーフパネル等のあらゆる乗用自動車の車体パネルに適用することが可能である。また、乗用自動車に限られず、あらゆる車両、例えば、図9に示すように、トラック38のフロントパネル39、フロントバンパ40、ドアパネル41、サイドガード42、バンボディ43の開閉扉44等の車体パネルや二輪車の風防等にも適用することも可能である。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1の実施形態に係る車両の衝撃吸収構造の要部拡大断面図である。
【図2】図1のフロントフードが上方へ移動した状態を示す要部拡大断面図である。
【図3】ロック機構の正面図である。
【図4】膨張部の一例を示す要部拡大断面図である。
【図5】膨張部の他の例を示す要部拡大断面図である。
【図6】フロントフードを上方へ移動させるための構造を具備しない車両における衝撃力とフロントフードの移動距離との関係を表すグラフである。
【図7】本発明に係る膨張部を備える車両における衝撃力とフロントフードの移動距離との関係を表すグラフである。
【図8】第2の実施形態に係る車両の衝撃吸収構造の要部拡大断面図である。
【図9】本発明に係る車両の衝撃吸収構造を採用したトラックの側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
3 衝撃吸収構造
4 車両ボディ(車両本体)
6 フロントフード(車体パネル)
7 インフレータ
8 膨張部
9 衝突検出センサ(制御手段)
10 コントローラ(制御手段)
16 車両ボディ側ヒンジ部材(被干渉部)
18 ロック部材(被干渉部)
30 閉空間
31 余肉部
32 ガスチャンネル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体側の被干渉部に対向し且つ閉空間を区画する膨張部が形成された車体パネルと、
点火信号を受信することにより前記閉空間へ流入するガスを発生するインフレータと、
車両の衝突を検出して、前記インフレータに対し点火信号を出力する制御手段と、を備え、
前記膨張部は、前記インフレータから前記閉空間へのガスの流入により展開して該膨張部を前記被干渉部へ向かって膨張変形させる余肉部を有し、該余肉部の展開による膨張変形時に、前記被干渉部と干渉して前記車体パネルを該被干渉部から離れる方向へ移動させる
ことを特徴とする車両の衝撃吸収構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の衝撃吸収構造であって、
前記車体パネルには、前記インフレータからのガスを前記閉空間へ流入させるガス流通路を区画するガスチャンネル部が形成されている
ことを特徴とする車両の衝撃吸収構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の衝撃吸収構造であって、
前記車体パネルは、前記膨張部を介して車両本体側に係着されている
ことを特徴とする車両の衝撃吸収構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の車両の衝撃吸収構造であって、
前記膨張部は、前記車体パネルのうち前記車体パネルを全体的に移動させることが可能な位置に少なくとも2つ形成されている
ことを特徴とする車両の衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−106235(P2007−106235A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298526(P2005−298526)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】