説明

車両の車体前部構造

【課題】ポール状の障害物が車両前方からサイドフレームに対して車幅方向外方にずれた位置で衝突しても、その衝突エネルギを効果的に吸収することが出来る車両の車体前部構造を提供する。
【解決手段】本発明の車体前部構造1は、左右一対のサイドフレーム4と、クラッシュボックス6と、クラッシュボックスの前端にその左右両端部8a、8bが接続されたバンパービーム8と、サスクロスメンバ18を有するサスペンションメンバ14と、サスペンションアーム24と、フロントタイヤ26と、バンパービームの左右両端部からそれぞれ車幅方向外方に向けて延び且つ少なくともその一部が正面視でフロントタイヤとオーバーラップするようにフロントタイヤの車体前方側で延びるバンパービーム延設部30と、バンパービーム延設部とサスペンションメンバとを連結して、バンパービーム延設部を車体後方側から支持する支持部材32、34と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前部構造に係わり、特に、衝撃吸収機能を有するサイドフレームを備えた車両の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前方衝突時、衝突した障害物の衝突エネルギを主にサイドフレームで吸収するようにした車体前部構造が知られている。
【0003】
特許文献1には、車両前方からバンパレインフォース及びサイドフレームに衝突荷重が入力されたとき、その衝突初期において、前輪を後方移動させてサイドシルに干渉させることにより、衝突荷重を車体骨格部材に分散させるようにした車体前部構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−182643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の構造では、電柱や標識などのポール状の障害物が、サイドフレームに対して車幅方向外方にずれた位置で前方から衝突し、ポール状の障害物がサイドフレームとフロントタイヤとの間に侵入するような衝突形態の場合、衝突荷重がサイドフレームに有効に伝達されず、衝撃エネルギがサイドフレームで有効に吸収されない、という問題があった。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ポール状の障害物が車両前方からサイドフレームに対して車幅方向外方にずれた位置で衝突しても、その衝突エネルギを効果的に吸収することが出来る車両の車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両のダッシュパネルの車体前方側に設けられた左右一対のサイドフレームと、サイドフレームの前端にそれぞれ接続されたクラッシュボックスと、クラッシュボックスの前端にその左右両端部が接続されクラッシュボックスを互いに連結するように車幅方向に延びるバンパービームと、ダッシュパネルの車体前方側に設けられ、車幅方向に延びるサスクロスメンバを有するサスペンションメンバと、サスクロスメンバに支持されたサスペンションアームと、サイドフレームの車幅方向外方に配置され、サスペンションアームに連結されたフロントタイヤと、を有する車両の車体前部構造であって、さらに、バンパービームの左右両端部からそれぞれ車幅方向外方に向けて延び且つ少なくともその一部が正面視でフロントタイヤとオーバーラップするようにフロントタイヤの車体前方側で延びるバンパービーム延設部と、バンパービーム延設部とサスペンションメンバとを連結して、バンパービーム延設部を車体後方側から支持する支持部材と、を有することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、バンパービームの左右両端部からそれぞれ車幅方向外方に向けて延び且つ少なくともその一部が正面視でフロントタイヤとオーバーラップするようにフロントタイヤの車体前方側で延びるバンパービーム延設部を有しているので、ポール状の障害物が、ポール状の障害物がバンパービームから車幅方向外方に外れた位置で前方から車体に衝突する場合、その障害物をバンパービーム延設部に衝突させ、その衝突荷重によりバンパービーム延設部を効果的に後方のフロントタイヤと係合させることが出来る。このとき、バンパービーム及びバンパービーム延設部は、第1に、そのようなバンパービーム延設部とフロントタイヤとの係合点と、第2に、障害物が衝突した側と反対側のサイドフレーム及びクラッシュボックスにより車体後方側から支持されるバンパービームの端部とで、両持ちはりとして支持される。このような支持により、バンパービーム延設部に加わった入力荷重をバンパービームに有効に伝達させると共に、その衝突点に近い側のサイドフレームに有効に伝達させることが出来る。従って、ポール状の障害物がバンパービームから車幅方向外方に外れた位置で車体に衝突しても、サイドフレームを効果的に変形させて、衝撃エネルギを有効に吸収することが出来る。
さらに、本発明においては、バンパービーム延設部とサスペンションメンバとを連結して、バンパービーム延設部を車体後方側から支持する支持部材を有するので、バンパービーム延設部の過剰な変形を抑制し、上述した第1の支持点(バンパービーム延設部とフロントタイヤとの係合点)がより確実に得られるようにして、バンパービーム延設部に加わった衝突荷重を、バンパービーム、クラッシュカン及びサイドフレームにより確実に伝達させることが出来る。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、バンパービーム延設部は車幅方向の外方端部を有し、その外方端部が、平面視で、フロントタイヤの幅に対応するフロントタイヤの車体前方空間に位置する。
このように構成された本発明においては、バンパービーム延設部の車幅方向の外方端部が、平面視で、フロントタイヤの幅に対応するフロントタイヤの車体前方空間に位置するので、より確実にバンパービーム延設部とフロントタイヤとを係合させることが出来る。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、バンパービーム延設部は、フロントタイヤとオーバーラップするフロントタイヤの車体前方側において、フロントタイヤの中心に位置するハブとほぼ同じ高さで延びる部分を有する。
このように構成された本発明においては、バンパービーム延設部が、フロントタイヤとオーバーラップするフロントタイヤの車体前方側において、フロントタイヤの中心に位置するハブとほぼ同じ高さで延びる部分を有するので、衝突時にバンパービーム延設部とフロントタイヤのホイールとを係合させて、上述したバンパービーム延設部とフロントタイヤとの係合部である第1の支持点をより確実に作用させることが出来る。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、バンパービーム延設部は、複数のフレーム部材で構成された枠状体であり、バンパービーム延設部の枠状体は、複数のフレーム部材の間に補助灯を配設可能に構成されている。
このように構成された本発明においては、バンパービーム延設部は、複数のフレーム部材の間に補助灯を配設可能な枠状体であるので、バンパービーム延設部を設けたことにより車両のフロント部のレイアウト性が大きく阻害されることを防止しつつ、上述したようなサイドフレームでの衝突エネルギの吸収を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポール状の障害物が車両前方からサイドフレームに対して車幅方向外方にずれた位置で衝突しても、その衝突エネルギを効果的に吸収することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を斜め前方且つ上方から見た斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両上方側から見た平面図である。
【図5】本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造における車体前方からの荷重入力時の変形状態をシミュレーションした結果の一例を示す車両上方側から見た平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図である。
【図8】本発明の第3実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図である。
【図9】本発明の第3実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、添付図面により、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を説明する。
先ず、図1乃至図4により、本発明の第1実施形態が適用された車両の車体前部構造を説明する。図1は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を斜め前方且つ上方から見た斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図であり、図3は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図であり、図4は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を車両上方側から見た平面図である。
【0014】
先ず、図1乃至図4に示すように、符号1は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造を示す。この車体前部構造1は、ダッシュパネル2の車体前方側で車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム4と、これらのフロントサイドフレーム4の前端にそれぞれ接続されたクラッシュボックス6と、これらのクラッシュボックス6に接続されたバンパービーム8とを備えている。バンパービーム8は、左右のクラッシュボックス6を互いに連結するように車幅方向に延び、その両端部8a、8bが、各々のクラッシュボックス6の前端に接続されている。フロントサイドフレーム4の後端は、各々、車室のフロアの下方側に取り付けられた車体前後方向に延びるフロアサイドフレーム10の前端に接続され、ダッシュパネル2の下側の部分には、車幅方向の補強部材であるNo.1クロスメンバ(図示せず)が取り付けられている。フロントサイドフレーム4には、サスタワー12が設けられている。
【0015】
ここで、フロントサイドフレーム4は、伝達される衝突荷重に対して所定の衝突エネルギ吸収特性が得られるようにその全体的な剛性が調整されている。その前後方向の中間部には、衝突荷重の伝達時にフロントサイドフレーム4の変形の起点となる折れ起点部4aが形成されている。また、クラッシュボックス6は、衝突初期の衝突荷重或いは比較的低い衝突荷重を主に吸収するようにその剛性が調整されている。即ち、本実施形態では、後述するバンパービーム延長部材30への障害物の衝突初期に、バンパービーム延長部材30の内方端部30a及びバンパービーム8の端部8a(8b)を介してクラッシュボックス6に伝達される比較的小さい荷重により、クラッシュボックス6が車体前後方向に座屈或いはつぶれ変形するようにしている。
【0016】
次に、車体前部構造1は、ダッシュパネル2の車体前方側に設けられたサスペンションメンバ(サブフレーム)14を備える。サスペンションメンバ14は、ダッシュパネル2の車体前方側で車体前後方向に延びる左右一対の前後方向メンバ16と、これらの前後方向メンバ16と一体に形成され、車幅方向に延びるサスクロスメンバ18と、このサスクロスメンバ18の車体前方側で車幅方向に延び、左右の前後方向メンバ16を連結するフロントクロスメンバ20とを有している。なお、サスクロスメンバ18は、前後方向メンバ16と別体で形成され、溶接やボルト締め等により、前後方向メンバ16に取り付けられるようになっていても良い。
【0017】
図2に示すように、前後方向メンバ16の後端部は、ダッシュパネル2の下側の部分に接続され、前後方向メンバ16の前端部は、車体上下方向に延びる連結部材22を介してフロントサイドフレーム4の前端部に接続されている。また、図3及び図4に示すように、サスペンションメンバ14は、サスタワー12の下方の位置で、サスクロスメンバ18から立設した連結部材23を介してフロントサイドフレーム4に接続されている。
【0018】
次に、図3に示すように、サスクロスメンバ18には、サスペンションアーム24の内方端部が揺動自在に接続されている。サスペンションアーム24の外方端部は、フロントサイドフレーム4の車幅方向外方に配置されたフロントタイヤ26のホイールキャリア(図示せず)に連結されている。ホイールキャリアは、フロントタイヤ26のホイール27内に配置され、ハブ28(図2参照)を支持するように形成されている。
【0019】
次に、図1乃至図4に示すように、本実施形態による車体前部構造1は、バンパービーム8の左右両側にそれぞれ設けられたバンパービーム延長部材(バンパービーム延設部)30を備えている。これらのバンパービーム延長部材30は、各々、その車幅方向の内方端部30aがバンパービーム8の両端部8a、8bに接続され、それらの左右両端部8a、8bから車幅方向外方に向けて延びている。本実施形態では、バンパービーム延長部材30は、バンパービーム8と別体で形成され、その車幅方向の内方端部30aが、バンパービーム8の左右両端部8a、8bにスポット溶接等により取り付けられている。なお、このような取り付けは、ボルト締め等の機械的締結であってもよい。また、バンパービーム延長部材30は、バンパービーム8と一体で成型されているようなものでも良い。
【0020】
図1乃至図3に示すように、バンパービーム延長部材30は、その高さ方向の寸法がほぼバンパービーム8の高さ寸法と同一に形成され、バンパービーム8と同様に、車体前方側の面が障害物を受ける面として形成されている。
図1及び図4に示すように、バンパービーム延長部材30は、平面視で、車幅方向外方に向かうほど車体後方側に折れ曲がるように、全体的に湾曲した形状に形成されている。また、図3に示すように、バンパービーム延長部材30の車幅方向の外方端部30b及びその近傍部分が、フロントタイヤ26の車体前方側で延びると共に、正面視で、フロントタイヤ26とオーバーラップするように設けられている。
【0021】
より詳細には、図4に示すように、バンパービーム延長部材30は、平面視で、フロントタイヤ26及びホイール27の幅とオーバーラップする前方領域(前方空間、前方部分)Ahまで車幅方向外方に向けて延び、これにより、その外方端部30bが前方領域Ahに位置している。ここで、図4に示すように、前方領域Ahは、フロントタイヤ26及びホイール27の幅に対応するフロントタイヤ26の車体前方の空間の部分である。
また、図2に示すように、バンパービーム延長部材30の外方端部30bは、その上下方向において、ホイール27の径とオーバーラップする前方領域(前方空間、前方部分)Avに位置している。図2に示すように、前方領域Avは、フロントタイヤ26のホイール27の径に対応するフロントタイヤ26の車体前方の空間領域である。
【0022】
次に、図1乃至図4に示すように、本実施形態による車体前部構造1は、バンパービーム延長部材30を車体後方側から支持するための第1支持部材32及び第2支持部材34を備えている。
図2乃至図4に示すように、第1支持部材32の車幅方向の内方端部は、前後方向メンバ16に取り付けられている。図2に示すように、この取付点は、フロントクロスメンバ20の前後方向メンバ16への取付点と同位置である。図3及び図4に示すように、第1支持部材32は、この取付点から、正面視で斜め上方に向けて延び且つ平面視で車幅方向外方に向けて延び、その車幅方向の外方端部が、バンパービーム延長部材30の外方端部30bに、その車体後方側から取り付けられている。
【0023】
図2乃至図4に示すように、第2支持部材34の内方端部は、前後方向メンバ16と一体に構成されたサスクロスメンバ18に取り付けられている。図3及び図4に示すように、第2支持部材34は、このサスペンションメンバ14への取付点から正面視で斜め上方に向けて延び且つ平面視で斜め前方に向けて延び、その車幅方向の外方端部が、バンパービーム延長部材30の外方端部30bに、その車体後方側から取り付けられている。
なお、第1支持部材32及び第2支持部材34は、いずれか一方のみ設けるようにしても良い。
【0024】
次に、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造の作用効果を説明する。
本実施形態では、左右のバンパービーム延長部材30が、それぞれ、バンパービーム8の左右両端部8a、8bから車幅方向外方に向けて延び且つその一部分が正面視でフロントタイヤ26とオーバーラップするようにフロントタイヤ26の車体前方側で延びるので、ポール状の障害物がフロントサイドフレーム4とフロントタイヤ26との間に侵入するような位置(例えば、図5参照)で前方から衝突する場合、その障害物をバンパービーム延長部材30に衝突させ、その衝突荷重によりバンパービーム延長部材30を効果的に後方のフロントタイヤ26と係合させることが出来る。このとき、バンパービーム8及びバンパービーム延長部材30は、第1に、そのようなバンパービーム延長部材30とフロントタイヤ26との係合点(例えば、図5のB1点参照)と、第2に、障害物が衝突した側と反対側のフロントサイドフレーム4及びクラッシュボックス6により車体後方側から支持されるバンパービーム8の端部8b(8a)(例えば、図5のB2点参照)とで、両持ちはりとして支持される。このような支持により、バンパービーム延長部材30に加わった比較的大きな入力荷重をバンパービーム8に有効に伝達させると共に、その衝突点に近い側のラッシュボックス6及びフロントサイドフレーム4に有効に伝達させることが出来る。従って、ポール状の障害物がバンパービーム8から車幅方向外方に外れた位置で車体に衝突し、ポール状の障害物がフロントサイドフレーム4とフロントタイヤ26との間に侵入するような衝突形態であっても、フロントサイドフレーム4を効果的に変形させて、衝撃エネルギを有効に吸収することが出来る。
【0025】
さらに、本実施形態では、支持部材32、34が、バンパービーム延長部材30とサスペンションメンバ24とを連結して、バンパービーム延長部材30を車体後方側から支持するように構成されているので、支持部材32、34によりバンパービーム延長部材30の剛性を高めることが出来、これにより、バンパービーム延長部材30をフロントタイヤ26に確実に係合させることが出来る。より詳細には、支持部材32、34によりバンパービーム延長部材30の剛性を高めることにより、衝突荷重によるバンパービーム延長部材30の過剰な変形が抑制されるので、障害物Pのフロントサイドフレーム4とフロントタイヤ26との間への侵入が防止され、且つ、バンパービーム延長部材30の一部がフロントタイヤ26の車体前方側の領域Ah、Avで延びるような位置関係を保ったまま、バンパービーム延長部材30を、クラッシュボックス6の変形に伴って後退させて、より確実にフロントタイヤ26に係合させることが出来る。
【0026】
また、支持部材32、34による、このようなバンパービーム延長部材30の剛性の確保により、バンパービーム延長部材30に加わった衝突荷重を、上述したように、バンパービーム8、クラッシュボックス6及びフロントサイドフレーム4に、より確実に伝達させることが出来る。
なお、本実施形態では、支持部材32、34を、フロントサイドフレーム4ではなく、サスペンションメンバ14に連結するようにしているので、支持部材32、34を連結することによりフロントサイドフレーム4の剛性を高めてしまうことを抑制し、これにより、フロントサイドフレーム4の通常の正面衝突時などの所望する荷重吸収特性がより確実に得られるようにしている。
【0027】
また、本実施形態においては、バンパービーム延長部材30が、上述したように、正面視で、その一部がフロントタイヤ26とオーバーラップするようにフロントタイヤ26の車体前方側で延びると共に、その外方端部30bが、平面視で、フロントタイヤ26の幅に対応するフロントタイヤ26の車体前方領域(Ah)に位置するように設けられるので、衝突時、バンパービーム延長部材30の外方端部30bがホイール27の凹部(いわゆるゴムタイヤと共に空洞を形成する部分)に入り込むようにしてホイール27と当接し易くなり(図5参照)、より確実にバンパービーム延長部材30とフロントタイヤ26とを係合させることが出来る。
【0028】
次に、図5により、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造の衝突時の変形状態の一例を説明する。図5は、本発明の第1実施形態による車両の車体前部構造における車体前方からの荷重入力時の変形状態をシミュレーションした結果の一例を示す車両上方側から見た平面図である。
先ず、ポール状の障害物Pが、図5に示すような、バンパービーム8から車幅方向外方に外れた位置、即ち、フロントサイドフレーム4とフロントタイヤ26との間の空間に対応する車体前方側の位置で前方から衝突した場合、障害物Pのバンパービーム延長部材30への衝突により、図5に示すように、バンパービーム延長部材30がフロントタイヤ26に係合する。図5に示す例では、このような係合は、主に、バンパービーム延長部材30の外方端部30bとホイール27との係合である。また、本実施形態による車体前部構造では、このような係合が、主に、衝突初期のクラッシュボックス6の変形に伴ってバンパービーム延長部材30が後退することにより生じるようにしている。図5に示すように、クラッシュボックス6は、その前後方向長さにわたり全体的に潰れている。
【0029】
バンパービーム延長部材30とフロントタイヤ26との係合により、バンパービーム8及びバンパービーム延長部材30は、上述した第1の支点B1及び第2の支点B2により支持される「両持ちはり」として作用し、その結果、上述したようにフロントサイドフレーム4に衝突荷重が有効に伝達され、図5に示すように、フロントサイドフレーム4は、その折れ起点部4aで大きく折れ曲がるように変形し、衝突エネルギを吸収する。
【0030】
また、図5に示すように、支持部材32、34により、衝突時に、バンパービーム延長部材30の過剰な変形が抑制され、図5に示すように、障害物Pがフロントサイドフレーム4とフロントタイヤ26との間に侵入することなく、バンパービーム延長部材30がフロントタイヤ26に当接して支持点B2が得られている。
【0031】
次に、図6及び図7により、本発明の第2実施形態が適用された車両の車体前部構造を説明する。図6は、本発明の第2実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図であり、図7は、本発明の第2実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図である。この第2実施形態による車両の車体前部構造の基本構造は、上述した第1実施形態による車両の車体前部構造と同様であるので、ここでは、主に、第1実施形態と異なる構成について説明する。図6及び図7では、上述した第1実施形態による車体前部構造と同一の構成については同一の符号を付す。
【0032】
先ず、図6及び図7に示すように、第2実施形態のバンパービーム延長部材40は、第1実施形態と同様に、その一部がフロントタイヤ26の車体前方側で延び、図7に示すように、正面視で、フロントタイヤ26とオーバーラップするように設けられている。本実施形態では、図6に示すように、バンパービーム延長部材40の外方端部40b及びその近傍部分が、フロントタイヤ26の中心に位置するハブ28と同一の高さに位置するように、バンパービーム延長部材40が設けられている。より詳細には、バンパービーム延長部材40は、その内方端部40aから外方端部40bにかけて、バンパービーム8の高さ位置からハブ28と同一の高さ位置まで下がるように、正面視並びに側面視において、屈曲した形状に形成されている。
【0033】
次に、図6及び図7に示すように、この第2実施形態による車体前部構造1は、バンパービーム延長部材40を車体後方側から支持するための支持部材42を備えている。この支持部材42は、上述した第1実施形態の第1支持部材32に相当する。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態による車両の車体前部構造の作用効果を説明する。
この第2実施形態による車体前部構造の基本的な作用効果は、第1実施形態による車体前部構造の作用効果と同様であり、ここでは、第2実施形態が特に有する作用効果についてのみ説明する。
この第2実施形態では、バンパービーム延長部材40が、フロントタイヤ26とオーバーラップする領域において、フロントタイヤ26の中心に位置するハブ28とほぼ同じ高さで延びる部分(外方端部40b及びその近傍部分)を有するので、衝突によるバンパービーム延長部材40の後退時、バンパービーム延長部材40とフロントタイヤ26のホイール27とをより確実に係合させることが出来る。ここで、ホイール27はハブ28を介して車軸に連結され、そのハブ28はホイールキャリアで支持され、ホイールキャリアは、サスペンションアーム24を介してサスクロスメンバ18に連結されているので、バンパービーム延長部材40が受けた衝突荷重は、上述したバンパービーム延長部材40とフロントタイヤ26との係合部から、ホイール27、ハブ28、サスペンションアーム24等を介してサスクロスメンバ18に伝達されると共にサスクロスメンバ18により有効に受け止められ、その結果、上述した第1の支持点を有効に作用させることが出来る。
【0035】
次に、図8及び図9により、本発明の第3実施形態が適用された車両の車体前部構造を説明する。図8は、本発明の第3実施形態による車両の車体前部構造を車両側方から見た側面図であり、図9は、本発明の第3実施形態による車両の車体前部構造を車両前方側から見た正面図である。この第3実施形態による車両の車体前部構造の基本構造は、上述した第1実施形態による車両の車体前部構造と同様であるので、ここでは、主に、第1実施形態と異なる構成について説明する。図8及び図9では、上述した第1実施形態による車体前部構造と同一の構成については同一の符号を付す。
【0036】
先ず、図8及び図9に示すように、第3実施形態のバンパービーム延長部材50は、3本の断面矩形のロッド状部材で構成された枠状体であり、その内方端部50aでは、2本のロッド状部材の端部がそれぞれバンパービーム8の端部8a(8b)に接続されている。これらの2本のロッド状部材は、バンパービーム延長部材50の外方端部50bで、上下方向に延びるロッド状部材で互いに接続されている。なお、ロッド状部材は、中空のパイプ状部材など、枠状体を形成することができるフレーム部材として用いることが出来るものであれば良い。
【0037】
枠状体として構成されたバンパービーム延長部材50は、第1実施形態と同様に、その一部がフロントタイヤ26の車体前方側で延び、図9に示すように、正面視で、フロントタイヤ26とオーバーラップするように設けられている。この第3実施形態では、図8及び図9にように、3本のロッド状部材のうちの1本が、その内方端部50aから外方端部50bにかけて、バンパービーム8の高さ位置からハブ28と同一の高さ位置まで下がるように湾曲した形状に形成されている。これにより、第3実施形態によるバンパービーム延長部材50の外方端部50bは、バンパービーム8と同一高さの部分と、フロントタイヤ26の中心に位置するハブ28と同一の高さの部分とを有し、より確実に、衝突時にバンパービーム延長部材50がホイール27と係合するようにしている。
【0038】
次に、図8及び図9に示すように、第3実施形態による車体前部構造1は、バンパービーム延長部材50を車体後方側から支持するための支持部材52を備えている。この支持部材52は、第1実施形態の第1支持部材32に相当し、図8に示すように、その外方端部が、3本のロッド状部材のうちの1本に取り付けられている。
【0039】
この第3実施形態では、バンパービーム延長部材50の枠状体は、3本のロッド状部材の間の空間に補助灯(図示せず)を配設することが出来るように、それらの形状や各ロッド状部材間の間隔及びスペース等が設定されている。
なお、ロッド状部材の本数は3本に限らず、2本或いは4本以上でも良い。また、第3実施形態のように複数のロッド状部材が接続された枠状体ではなく、1本の連続したフレーム部材が折り曲げられて形成された枠状体を有するようにしても良い。
【0040】
次に、本発明の第3実施形態による車両の車体前部構造の作用効果を説明する。
この第3実施形態による車体前部構造の基本的な作用効果は、第1実施形態による車体前部構造の作用効果と同様であり、ここでは、この第3実施形態が特に有する作用効果についてのみ説明する。
この第3実施形態では、バンパービーム延長部材50は、3本のフレーム部材の間に補助灯を配設可能な枠状体であるので、バンパービーム延長部材50を設けても車両のフロント部のレイアウト性を大きく阻害することがなく、補助灯を配設することが出来る。
【符号の説明】
【0041】
Ah フロントタイヤの幅に対応するフロントタイヤの車体前方の空間部分
Av フロントタイヤのホイールの径に対応するフロントタイヤの車体前方の空間部分
1 車体前部構造
2 ダッシュパネル
4 フロントサイドフレーム(サイドフレーム)
6 クラッシュボックス/クラッシュカン
8 バンパービーム
8a、8b バンパービームの左右端部
14 サスペンションメンバ/サブフレーム
16 サスペンションメンバの前後方向メンバ
18 サスペンションメンバのサスクロスメンバ
24 サスペンションアーム
26 フロントタイヤ
27 ホイール
28 ハブ
30、40、50 バンパービーム延長部材(バンパービーム延設部)
30a、40a、50a バンパービーム延長部材の内方端部
30b、40b、50b バンパービーム延長部材の外方端部
32 バンパービーム延長部材の第1支持部材
34 バンパービーム延長部材の第2支持部材
42、52 バンパービーム延長部材の支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のダッシュパネルの車体前方側に設けられた左右一対のサイドフレームと、
上記サイドフレームの前端にそれぞれ接続されたクラッシュボックスと、
上記クラッシュボックスの前端にその左右両端部が接続され上記クラッシュボックスを互いに連結するように車幅方向に延びるバンパービームと、
上記ダッシュパネルの車体前方側に設けられ、車幅方向に延びるサスクロスメンバを有するサスペンションメンバと、
上記サスクロスメンバに支持されたサスペンションアームと、
上記サイドフレームの車幅方向外方に配置され、上記サスペンションアームに連結されたフロントタイヤと、を有する車両の車体前部構造であって、
さらに、上記バンパービームの左右両端部からそれぞれ車幅方向外方に向けて延び且つ少なくともその一部が正面視で上記フロントタイヤとオーバーラップするように上記フロントタイヤの車体前方側で延びるバンパービーム延設部と、
上記バンパービーム延設部と上記サスペンションメンバとを連結して、上記バンパービーム延設部を車体後方側から支持する支持部材と、を有することを特徴とする車両の車体前部構造。
【請求項2】
上記バンパービーム延設部は車幅方向の外方端部を有し、その外方端部が、平面視で、上記フロントタイヤの幅に対応する上記フロントタイヤの車体前方空間に位置する請求項1記載の車両の車体前部構造。
【請求項3】
上記バンパービーム延設部は、上記フロントタイヤとオーバーラップする上記フロントタイヤの車体前方側において、上記フロントタイヤの中心に位置するハブとほぼ同じ高さで延びる部分を有する請求項1又は請求項2に記載の車両の車体前部構造。
【請求項4】
上記バンパービーム延設部は、複数のフレーム部材で構成された枠状体であり、
上記バンパービーム延設部の枠状体は、上記複数のフレーム部材の間に補助灯を配設可能に構成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−228906(P2012−228906A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97145(P2011−97145)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】