説明

車両の車体前部構造

【課題】車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする。
【解決手段】車両の車体前部構造が、車体2の幅方向に延び、各端部がサスペンションタワー10側と結合されるフロントカウル7と、フロントカウル7の後上方域に配置されて車体2の幅方向かつ前下方に延び、後側が車室19とされるフロントウィンドガラス15とを備える。フロントカウル7が、フロントカウル7の下部を構成するロアカウル9の後上端縁部から前方に突出して、上面でウィンドガラス15の前下端縁部を支持するアッパカウル8を有する。アッパカウル8の突出端縁部の左右各端縁部分からそれぞれ一旦下方に延出した後、前方に延出する左右一対のフランジ状突出片28L,28Rを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウィンドガラスの前下端縁部を支持するフロントカウルを備えた車両の車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の車体前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の車体前部は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、このフロントカウルの後上方域に配置されて車体の幅方向かつ前下方に延び、その後側が車室とされるフロントウィンドガラスとを備えている。また、上記フロントカウルは、このフロントカウルの下部を構成するロアカウルの後上端縁部から前方に突出して、その上面で上記ウィンドガラスの前下端縁部を支持するアッパカウルを有している。
【0003】
上記車両が走行するとき、通常、上記フロントカウルの長手方向の左右各端部に対し、走行面側から車輪、サスペンション、および上記サスペンションタワーを介しそれぞれ衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウルにはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられる上記フロントカウルは、その全長にわたり全体として円弧凸状の屈曲を前後や上下にそれぞれ交互に繰り返すよう振動しがちとなる。また、この際、上記フロントカウルに支持された上記ウィンドガラスも上記フロントカウルの振動に連動して振動しがちとなる。
【0004】
ここで、上記したフロントカウルの振動は、このフロントカウルの両端部を節として単一の腹を発生させる一次振動モードであって、その振幅は大きいものである。このため、上記フロントカウルの一次振動モードの振動に連動して振動する上記ウィンドガラスの振幅も大きくなる。すると、このウィンドガラスの振動により、音圧の大きい振動騒音であるこもり音が、上記ウィンドガラスの後側の車室に生じがちとなり、これは車室の乗員にとって好ましくない。
【0005】
そこで、上記従来の技術では、フロントカウルを長手方向に三等分した2ヵ所の各部位に補強部材を設けて、上記各部位が剛性の大きい中空閉断面構造となるよう補強している。これによれば、上記フロントカウルは、このフロントカウルの各両端部と上記2ヵ所の各部位とを4つの節として3つの腹を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる。
【0006】
そして、上記したフロントカウルの三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウルの一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このようにして、このフロントカウルに連動して振動する上記ウィンドガラスの振幅が小さく抑制され、このウィンドガラスの振動により車室に生じるこもり音の音圧が低減されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−206004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記した従来の技術では、車室に生じるこもり音の音圧を低減させようとして、上記フロントカウルの各部位を補強する補強部材を設けている。しかし、このような補強部材を単に設けると、車体前部の部品点数が増加して構成が複雑になると共に、車両の軽量化という一般的要求に反し、車体前部の質量が増加するという不都合が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、車体2の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー10側と結合されるフロントカウル7と、このフロントカウル7の後上方域に配置されて車体2の幅方向かつ前下方に延び、その後側が車室19とされるフロントウィンドガラス15とを備え、上記フロントカウル7が、このフロントカウル7の下部を構成するロアカウル9の後上端縁部から前方に突出して、その上面で上記ウィンドガラス15の前下端縁部を支持するアッパカウル8を有した車両の車体前部構造において、
上記アッパカウル8の突出端縁部の左右各端縁部分からそれぞれ一旦下方に延出した後、前方に延出する左右一対のフランジ状突出片28L,28Rを設けたことを特徴とする車両の車体前部構造である。
【0011】
請求項2の発明は、車両1の走行により車体2が振動するとき、上記左右フランジ状突出片28L,28Rにおけるそれぞれ車体2の幅方向での各内側端部28aの振幅が各外側端部28bの振幅よりも大きくなるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部構造である。
【0012】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0013】
本発明による効果は、次の如くである。
【0014】
請求項1の発明は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、このフロントカウルの後上方域に配置されて車体の幅方向かつ前下方に延び、その後側が車室とされるフロントウィンドガラスとを備え、上記フロントカウルが、このフロントカウルの下部を構成するロアカウルの後上端縁部から前方に突出して、その上面で上記ウィンドガラスの前下端縁部を支持するアッパカウルを有した車両の車体前部構造において、
上記アッパカウルの突出端縁部の左右各端縁部分からそれぞれ一旦下方に延出した後、前方に延出する左右一対のフランジ状突出片を設けている。
【0015】
ここで、上記車両が走行するとき、通常、フロントカウルの長手方向の左右各端部に対し、上記サスペンションタワー側からそれぞれ衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウルにはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられる上記フロントカウルは、その全長にわたり全体として円弧凸状の屈曲を前後や上下にそれぞれ交互に繰り返すよう振動し、つまり、一次振動モードの振動をしがちとなる。そして、このフロントカウルのアッパカウルに支持された上記ウィンドガラスは、上記アッパカウルの一次振動モードの振動に連動して振動し、これにより、音圧の大きいこもり音が車室に生じがちとなって好ましくない。
【0016】
しかし、上記発明によれば、上記ウィンドガラスを支持するアッパカウルは、ロアカウルの後上端縁部から前方に突出したものであるため、車両の走行時の衝撃力により、上下に振動しがちとなる。そして、上記各フランジ状突出片は、上記したアッパカウルの突出端縁部から一旦下方に延出した後、前方に延出していて、上記アッパカウルに片持ち支持されたものであるため、上記各フランジ状突出片の延出端側は、上記したアッパカウルの上下の振動に連動してそれぞれ上下に振動しがちとなる。しかも、上記したように、各フランジ状突出片は上記アッパカウルの突出端縁部から一旦下方に延出したものであるため、上記フロントカウルの前後の振動に連動して、上記各フランジ状突出片はその基部(上端部)を中心にして前後に振動しがちとなり、これに伴い、これら各フランジ状突出片の延出端側の上下の振動が助長されがちとなる。
【0017】
そして、上記した各フランジ状突出片の上下の振動は、車体の正面視で、それぞれこれら各フランジ状突出片の車体の幅方向でのほぼ中央部を節として、その左右各端部が互いに逆方向に向かうものであり、このような上記各フランジ状突出片の振動に上記アッパカウルが連動しようとする。また、この場合、上記アッパカウルは、その長手方向の各端部が前記サスペンションタワー側と結合されているため、上記アッパカウルは、その各端部をそれぞれ他の節として振動しようとする。この結果、上記アッパカウルは、上記各フランジ状突出片の車体2の幅方向でのほぼ中央部と、アッパカウルの長手方向の各端部とを4つの節として3つの腹を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる。
【0018】
そして、上記したフロントカウルのアッパカウルの三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウルの一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このため、このフロントカウルのアッパカウルに支持されたウィンドガラスが上記アッパカウルに連動して三次振動モードにより振動するとしても、その振幅は小さく抑制される。よって、このウィンドガラスの振動により車室に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0019】
また、上記した3つの腹を発生させる三次振動モードは、これら3つの腹のうち、左右各側部の腹が上下の一方向に向かうとき、中央部の腹は上記一方向とは逆の方向に向かうこととなる。
【0020】
このため、上記したようにウィンドガラスが三次振動モードで振動するとき、このウィンドガラスの左右各側部が撓む方向と、中央部が撓む方向とは互いに逆の方向になることから、上記各撓みに基づく車室の各容積変化量が互いに相殺されて、上記振動に基づく車室の容積変化量が左右バランスよく、かつ、小さく抑制される。よって、上記ウィンドガラスの振動により車室に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0021】
そして、上記したこもり音の音圧の低減は、上記フロントカウルのアッパカウルに、単に左右一対のフランジ状突出片を一体的に形成したことにより達成されることから、前記従来の技術でいうような別途の補強部材を設けないで足りる。よって、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減は、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【0022】
請求項2の発明は、車両の走行により車体が振動するとき、上記左右フランジ状突出片におけるそれぞれ車体の幅方向での各内側端部の振幅が各外側端部の振幅よりも大きくなるようにしており、次の効果が生じる。
【0023】
即ち、車両の走行時には、前記したように、上記フロントカウルにその長手方向の各端部に対しサスペンションタワー側から衝撃力が与えられ、上記フロントカウルは前後や上下に屈曲するよう振動しがちとなる。この場合、上記衝撃力に基づくエネルギーはフロントカウルの端部から中央部側に伝達されるが、この伝達が進むに従い上記エネルギーは漸減する。
【0024】
そして、上記のようにエネルギーが漸減すると、上記フロントカウルのアッパカウルの三次モードの振動において、3つの腹のうち、左右各側部の腹の振幅よりも、中央部の腹の振幅がかなり小さくなりがちである。この場合、上記アッパカウルに連動して三次振動モードで振動するウィンドガラスの左右各側部の撓みと中央部の撓みとに基づく車室の各容積変化量の互いの相殺が不十分となって、上記ウィンドガラスの振動により車室に生じるこもり音の音圧の低減が不十分になるおそれがある。
【0025】
そこで、前記したように、車両の走行により車体が振動するとき、上記左右フランジ状突出片におけるそれぞれ車体の幅方向での各内側端部の振幅が各外側端部の振幅よりも大きくなるようにしたのであり、このため、上記アッパカウルが三次振動モードの振動をするとき、上記フランジ状突出片の振動の付勢により、アッパカウルの左右各側部の腹の振幅に比べ、中央部の腹の振幅を十分に大きくさせることができる。
【0026】
よって、上記アッパカウルに連動してウィンドガラスが三次振動モードで振動するとき、このウィンドガラスの左右各側部の撓みと中央部の撓みとに基づく車室の各容積変化量の互いの相殺がより十分に行なわれることとなる。この結果、上記ウィンドガラスの振動により車室に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車体前部の部分正面図である。
【図2】車体前部の部分斜視図である。
【図3】車体前部の部分平面図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図3のV−V線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の車両の車体前部構造に関し、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0029】
即ち、車両の車体前部構造は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、このフロントカウルの後上方域に配置されて車体の幅方向かつ前下方に延び、その後側が車室とされるフロントウィンドガラスとを備えている。上記フロントカウルは、このフロントカウルの下部を構成するロアカウルの後上端縁部から前方に突出して、その上面で上記ウィンドガラスの前下端縁部を支持するアッパカウルを有している。上記アッパカウルの突出端縁部の左右各端縁部分からそれぞれ一旦下方に延出した後、前方に延出する左右一対のフランジ状突出片が設けられる。
【実施例】
【0030】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0031】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0032】
上記車体2は板金製で、この車体2は、前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ3,3と、これら左右サイドメンバ3,3を互いに結合させるクロスメンバ4と、上記各サイドメンバ3の長手方向の中途部からそれぞれ上方に延出するフロントピラー5と、これら各フロントピラー5の上下方向の中途部から前方に突出するエプロンメンバ6と、車体2の幅方向に延び、その長手方向の各端部が上記各フロントピラー5の上下方向の中途部とエプロンメンバ6の基部とに跨るようにスポット溶接により結合されるフロントカウル7とを備えている。
【0033】
上記フロントカウル7は、車体2の平面視で、全体として前方に向かって凸状の円弧形状となるよう形成されている。このフロントカウル7は、このフロントカウル7の上部を構成し、車体2の幅方向に延びると共に前後方向に延びるアッパカウル8と、上記フロントカウル7の下部を構成し、上記アッパカウル8の下方で車体2の幅方向に延び、車体2の側面断面視(図4,5)で、その長手方向の各部断面がU字形状をなすロアカウル9とを備えている。
【0034】
上記アッパカウル8は、全体として、車体2の幅方向かつ前上がり状に延びる基部パネル8aと、この基部パネル8aの前端縁部から前下方に一体的に突出し、その突出端縁が車体2の側面断面視(図4,5)で自由端とされる座面パネル8bと、上記基部パネル8aの後端縁部に一体的に形成される外向きフランジ8cとを備えている。
【0035】
上記ロアカウル9は、その底部を構成する底部パネル9aと、この底部パネル9aの前縁部から前上方に向かって一体的に延出する前部パネル9bと、上記底部パネル9aの後縁部から後上方に向かって一体的に延出する後部パネル9cと、上記前、後部パネル9b,9cの各延出端縁部にそれぞれ形成される前、後部外向きフランジ9d,9eとを備えている。そして、上記アッパカウル8の外向きフランジ8cと上記ロアカウル9の後部外向きフランジ9eとがスポット溶接S1により強固に結合されている。
【0036】
また、上記車体2は、その左右各側部において、それぞれ上記サイドメンバ3とエプロンメンバ6とに架設されて支持されると共に、上記ロアカウル9の各端部とスポット溶接S2により互いに結合されるサスペンションタワー10と、上記ロアカウル9の下方域で車体2の幅方向かつ上下方向に平坦状に延び、その上端縁部が上記ロアカウル9の底部パネル9aにスポット溶接S3により結合されるダッシュパネル11とを備えている。
【0037】
上記ダッシュパネル11は上記左右フロントピラー5,5間の全幅にわたり車体2の幅方向に延び、上記ダッシュパネル11の左右各側端縁部はそれぞれ上記フロントピラー5に結合されている。また、上記ダッシュパネル11の上端縁部の車体2の幅方向における各端部は、上記ロアカウル9の端部における底部パネル9aとサスペンションタワー10の上端面との間に挟まれて前記スポット溶接S2により互いに結合されている。また、上記ダッシュパネル11の下端縁部は、不図示のフロアパネルの前端縁部に結合されている。
【0038】
上記左右フロントピラー5,5の各上部側と上記ロアカウル9とで囲まれた空間がウィンド開口14とされる。このウィンド開口14は、その前方からウィンドガラス15で覆われている。このウィンドガラス15は、上記フロントカウル7の後上方域に配置されて車体2の幅方向かつ前下方に延びている。上記ウィンドガラス15の左右各側部の外縁部は上記各フロントピラー5の上部側の前面に接着されて支持され、上記ウィンドガラス15の前下端縁部は、上記フロントカウル7のアッパカウル8の座面パネル8bの上面に接着剤16により接着されて支持されている。
【0039】
上記車体2の後部側の内部であって、上記フロントカウル7、ダッシュパネル11、およびウィンドガラス15のそれぞれ後側が車室19とされている。この車室19の下面は前記フロアパネルにより全体的に形成され、上記車室19の下部前面は、面積の広い上記ダッシュパネル11により全体的に形成されている。また、上記車室19の上部前面は、面積の広い上記ウィンドガラス15により全体的に形成されている。一方、上記車体2の前部の内部であって、上記ダッシュパネル11の前側がエンジンルーム21とされている。このエンジンルーム21の上端開口を覆うフード22が設けられる。また、上記フロントカウル7の開口9dをその上方から覆うカウルルーバ23が設けられている。
【0040】
上記サイドメンバ3、クロスメンバ4、フロントピラー5、エプロンメンバ6、およびフロントカウル7は、それぞれ車体2の骨格部材をなして互いに強固に結合されている。また、上記各サスペンションタワー10には、緩衝器25を介して不図示の車輪がそれぞれ懸架され、これら車輪を介して車体2が走行面上に支持される。
【0041】
上記アッパカウル8の座面パネル8bの突出端縁(縁端縁)の左右各端縁部分から、それぞれ一旦下方に一体的に延出した後、前方に向かって一体的に延出する左右一対のフランジ状突出片28L,28Rが設けられている。これら各フランジ状突出片28L,28Rは、車体2の側面断面視(図5)で、それぞれL字形状をなし、上記座面パネル8bの突出端縁から下方に延出する縦向き片29と、この縦向き片29の下端縁から前方に延出する横向き片30とを備えている。上記左右フランジ状突出片28L,28Rは、車体2の幅方向で互いに離間する共に、車体2の幅方向で上記フロントカウル7の各端部から離れるよう位置し、かつ、車体2の幅方向の中心線34を左右から挟むよう位置している。
【0042】
上記横向き片30の延出端縁から上方に向かって一体的に延出する延出片32が設けられている。上記各フランジ状突出片28L,28Rの縦向き片29および横向き片30と、上記延出片32との組立体により、左右一対の樋33L,33Rが形成されている。これら左右樋33L,33Rのうち、左側の樋33Lの下方域で、上記ロアカウル9の後部パネル9cには外気導入口35が形成されている。この外気導入口35は、車体2外部の空気を上記ロアカウル9の内部を通し車室19前部の空調装置に導入させる。そして、上記左側の樋33Lは、車体2の外部の雨水が上記外気導入口35を通り車室19側に浸入することを防止する。また、上記右側の樋33Rの下方域には、ワイパモータ36が設けられている。そして、上記右側の樋33Rは、車体2の外部の雨水が上記ワイパモータ36に降り掛かることを防止する。
【0043】
上記左右フランジ状突出片28L,28Rにおけるそれぞれ車体2の幅方向での各内側端部28aの横向き片30の幅寸法W1は、各外側端部28bの横向き片30の幅寸法W2よりも大きくされている(図3においてW1>W2)。
【0044】
ここで、上記車両1が走行するとき、通常、フロントカウル7の長手方向の左右各端部に対し、走行面側から車輪、サスペンション、およびサスペンションタワー10を介して衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウル7にはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両1の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられる上記フロントカウル7は、その全長にわたり全体として円弧凸状の屈曲を前後や上下にそれぞれ交互に繰り返すよう振動し、つまり、一次振動モードの振動をしがちとなる。そして、このフロントカウル7のアッパカウル8に支持された上記ウィンドガラス15は、上記アッパカウル8の一次振動モードの振動に連動して振動し、これにより、音圧の大きいこもり音が車室19に生じがちとなって好ましくない。
【0045】
しかし、上記構成によれば、特に、図5で示すように、上記ウィンドガラス15を支持するアッパカウル8は、ロアカウル9の後上端縁部から前方に突出したものであるため、車両1の走行時の衝撃力により、上下に振動Aしがちとなる。そして、上記各フランジ状突出片28L,28Rは、上記したアッパカウル8の突出端縁部から一旦下方に延出した後、前方に延出していて、上記アッパカウル8に片持ち支持されたものであるため、上記各フランジ状突出片28L,28Rの延出端側は、上記したアッパカウル8の上下の振動Aに連動してそれぞれ上下に振動Bしがちとなる。しかも、上記したように、各フランジ状突出片28L,28Rは上記アッパカウル8の突出端縁部から一旦下方に延出したものであるため、上記フロントカウル7の前後の振動に連動して、上記各フランジ状突出片28L,28Rはその基部(上端部)を中心にして前後に振動しがちとなり、これに伴い、これら各フランジ状突出片28L,28Rの延出端側の上下の振動Bが助長されがちとなる。
【0046】
そして、上記した各フランジ状突出片28L,28Rの上下の振動Bは、車体2の正面視(図1)で、それぞれこれら各フランジ状突出片28L,28Rの車体2の幅方向でのほぼ中央部を節40として、左右各端部が互いに逆方向に向かうものであり、このような上記各フランジ状突出片28L,28Rの振動Bに上記アッパカウル8が連動しようとする。また、この場合、上記アッパカウル8は、その長手方向の各端部が前記サスペンションタワー10側と結合されているため、上記アッパカウル8は、その各端部をそれぞれ他の節41として振動しようとする。この結果、上記アッパカウル8は、上記各樋33L,33Rのほぼ中央部と、アッパカウル8の長手方向の各端部とを4つの節40,41として3つの腹43,44,45を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる(図1中一点鎖線)。
【0047】
そして、上記したフロントカウル7のアッパカウル8の三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウル7の一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このため、このフロントカウル7のアッパカウル8に支持された上記ウィンドガラス15が上記アッパカウル8に連動して三次振動モードにより振動するとしても、その振幅は小さく抑制される。よって、このウィンドガラス15の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0048】
また、上記した3つの腹43〜45を発生させる三次振動モードは、これら3つの腹43〜45のうち、図1中一点鎖線で示すように、左右各側部の腹43,45が上下の一方向に向かうとき、中央部の腹44は上記一方向とは逆の他方向に向かうこととなる。
【0049】
このため、上記したようにウィンドガラス15が三次振動モードで振動するとき、このウィンドガラス15の左右各側部が撓む方向と、中央部が撓む方向とは互いに逆の方向になることから、上記各撓みに基づく車室19の各容積変化量が互いに相殺されて、上記振動に基づく車室19の容積変化量が左右バランスよく、かつ、小さく抑制される。よって、上記ウィンドガラス15の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0050】
そして、上記したこもり音の音圧の低減は、上記フロントカウル7のアッパカウル8に、単に左右一対のフランジ状突出片28L,28Rを一体的に形成したことにより達成されることから、前記従来の技術でいうような別途の補強部材を設けないで足りる。よって、車両1の走行中に車室19に生じるこもり音についての音圧の低減は、簡単な構成で、かつ、車体2前部の質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【0051】
前記したように、左右樋33L,33R(左右フランジ状突出片28L,28Rを含む)において、その横向き片30はW1>W2とされており、これにより、上記各樋33L,33Rは、それぞれ車体2の幅方向での各内側端部33aがわの質量が、各外側端部33bがわの質量よりも大きくされている。そして、これにより、上記したように、フロントカウル7のアッパカウル8が三次振動モードの振動をするとき、上記各樋33L,33Rにおけるそれぞれ各内側端部33aの振幅が、各外側端部33bの振幅よりも大きくなることとされている。
【0052】
ここで、車両1の走行時には、前記したように、上記フロントカウル7にその長手方向の各端部に対しサスペンションタワー10側から衝撃力が与えられ、上記フロントカウル7は前後や上下に屈曲するよう振動しがちとなる。この場合、上記衝撃力に基づくエネルギーはフロントカウル7の端部から中央部側に伝達されるが、この伝達が進むに従い上記エネルギーは漸減する。
【0053】
そして、上記のようにエネルギーが漸減すると、上記フロントカウル7のアッパカウル8の三次振動モードの振動において、3つの腹43〜45のうち、左右各側部の腹43,45の振幅L1,L2よりも、中央部の腹44の振幅L3がかなり小さくなりがちである。この場合、上記アッパカウル8に連動して三次振動モードで振動するウィンドガラス15の左右各側部の撓みと中央部の撓みとに基づく車室19の各容積変化量の互いの相殺が不十分となって、上記ウィンドガラス15の振動により車室19に生じるこもり音の音圧の低減が不十分になるおそれがある。
【0054】
そこで、前記したように、車両1の走行により車体2が振動するとき、上記左右フランジ状突出片28L,28Rにおけるそれぞれ車体2の幅方向での各内側端部28aの振幅が各外側端部28bの振幅よりも大きくなるようにしたのであり、このため、上記アッパカウル8が三次振動モードの振動をするとき、上記各樋33L,33Rの振動の付勢により、アッパカウル8の左右各側部の腹43,45の振幅L1,L2に比べ、中央部の腹44の振幅L3を十分に大きくさせることができる。
【0055】
よって、上記アッパカウル8に連動してウィンドガラス15が三次振動モードで振動するとき、このウィンドガラス15の左右各側部の撓みと中央部の撓みとに基づく車室19の各容積変化量の互いの相殺がより十分に行なわれることとなる。この結果、上記ウィンドガラス15の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0056】
なお、上記フロントカウル7のアッパカウル8が三次振動モードの振動をするとき、左右各側部の腹43,45の振幅L1,L2の合計値と、上記中央部の振幅L3の値とがほぼ同じとなるよう(振幅L1+振幅L2≒振幅L3)、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)の寸法、形状などの構成を設定してやれば、上記した車室19の各容積変化量の互いの相殺が、より確実に達成されて、上記ウィンドガラス15の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0057】
また、前記したように、各樋33L,33Rにおいて、その横向き片30はW1>W2とされている。このため、これら各樋33L,33Rの内側端部33aがわの横向き片30の面積が大きくされて、その排水性が向上させられている。
【0058】
なお、以上は図示の例によるが、上記左側の樋33L(フランジ状突出片28L)、右側の樋33R(フランジ状突出片28R)は、上記中心線34を中心として左右対称形としてもよい。
【0059】
また、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)における各内側端部33a(内側端部28a)の振幅が各外側端部33b(外側端部28b)の振幅よりも大きくさせる場合に、上記した横向き片30の幅寸法W1>幅寸法W2に加え、もしくは、これに代えて、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)の外側端部33b(外側端部28b)がわにビードを形成するなどして、その剛性が上記内側端部33a(内側端部28a)がわよりも大きくなるようにしてもよい。
【0060】
また、上記延出片32は設けなくてもよく、つまり、樋33L,33Rはなくてもよい。
【0061】
また、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)の車体2の幅方向の寸法を、それぞれ上記フロントカウル7の全長のほぼ1/4とし、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)の節40を、上記フロントカウル7の端部と車体2の中心線34とのほぼ中央部に位置させてもよい。このようにすれば、上記アッパカウル8が前記した三次振動モードの振動をするとき、上記各樋33L,33R(各フランジ状突出片28L,28R)の振動Bに付勢されて、左右各側部の腹43,45の振幅L1,L2に比べ、中央部の腹44の振幅L3が、より確実に十分に大きくさせられる。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 車体
3 サイドメンバ
5 フロントピラー
6 エプロンメンバ
7 フロントカウル
8 アッパカウル
8a 基部パネル
8b 座面パネル
8c 外向きフランジ
9 ロアカウル
9a 底部パネル
9b 前部パネル
9c 後部パネル
10 サスペンションタワー
11 ダッシュパネル
14 ウィンド開口
15 ウィンドガラス
19 車室
28L,28R フランジ状突出片
28a 内側端部
28b 外側端部
29 縦向き片
30 横向き片
32 延出片
33L,33R 樋
34 中心線
40,41 節
43〜45 腹
A,B 振動
L1〜L3 振幅
W1,W2 幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、このフロントカウルの後上方域に配置されて車体の幅方向かつ前下方に延び、その後側が車室とされるフロントウィンドガラスとを備え、上記フロントカウルが、このフロントカウルの下部を構成するロアカウルの後上端縁部から前方に突出して、その上面で上記ウィンドガラスの前下端縁部を支持するアッパカウルを有した車両の車体前部構造において、
上記アッパカウルの突出端縁部の左右各端縁部分からそれぞれ一旦下方に延出した後、前方に延出する左右一対のフランジ状突出片を設けたことを特徴とする車両の車体前部構造。
【請求項2】
車両の走行により車体が振動するとき、上記左右フランジ状突出片におけるそれぞれ車体の幅方向での各内側端部の振幅が各外側端部の振幅よりも大きくなるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91646(P2012−91646A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239769(P2010−239769)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】